楽しんでいってね!
一週間が経った。
その間、生徒達はそれぞれ訓練を受けていた。かく言う琴葉もその一人である。
「フッ……!!」
「そらよっとぉぉ!!」
木々の間を縫うように走り抜け、その手に持った洋弓に矢を番え、射る。放たれた矢は標的を撃ち抜くかと思ったら、避けられてしまう。お返しに、琴葉に矢が放たれる。琴葉は身体を反らし、ギリギリで回避した。
矢は当たっても怪我をしないように、鏃の部分を綿で造った物だ。だが、やはり当たると痛い。
彼女の天職は弓兵。よって、それに対応した人から訓練を受けることとなる。それが、先程から琴葉が追跡している男だ。名を、アーロン・デグチェフ。王国の騎士団に所属しながらも、森の中で狩人をしている弓兵だ。
「はぁ……はぁ……」
「まだまだだな、嬢ちゃん」
深緑色の、フード付きマントを羽織ったアーロンが歩み寄る。琴葉は肩で息をしていた。
森の中を走り抜けながら矢を射ることで、″弓術″と″軽業″をフュージョンさせた戦闘を彼から教えられているのだ。だが、それは尋常では無いほどの身体への負荷と疲労を与えることとなった。
「ま、最初の頃よりは格段に良くなってるわけですし? 師匠としても誉れが高いってな」
軽薄な口調ではあるが、実力は本物だ。やれ、超遠方の敵の総大将を撃ち抜いただとか、やれ、森の中を行軍する軍隊の六割を罠で壊滅させたりだとか。様々な伝説がこの男にはついて回っている。人は彼を″弓と罠のスペシャリスト″と呼んでいる。
「いや……これだけ走って平然としているって……どんな体力ですか……」
「慣れだよ慣れ。嬢ちゃんもやってれば出来るって!」
「はい、水」と言ってアーロンは琴葉に水の入った瓢箪を渡す。彼女はそれを受け取り、一気に飲み干した。
「んじゃ、暫く休憩した後、罠系魔法の講義でも始めますか」
「はーい……」
彼女の苦難はまだまだ続く。
ドガァァン!!
「わひゃぁぁああ!!」
「オイオイ大丈夫ですかい? あー……これは。爆発までの時間が短すぎたことが原因だな」
罠系魔法の練習。琴葉は失敗を繰り返していた。
罠系魔法は幾つかの系統に分かれているが、その中でも代表的な″地雷魔法″をアーロンから教わっていた。″地雷魔法″は、相手が布設された魔法陣を踏み抜いた時に発動するものと、あらかじめ起爆時間を設定するものに分かれている。今回は、後者を習っていたが……ご覧の通り、起爆時間があまりにも短すぎたのだ。これでは、その場から離れるまでの時間すら無い。
「ここはこうして……」
「なるほど……」
罠系魔法の講義と練習。それを繰り返しながらその日は過ぎていった。
更に一週間が経った。
次第にアーロンに矢を当てられるようになっていった。体力と筋力、そして疾走又は跳躍しながらの射撃が上達したからであろう。この頃になると、罠系魔法の講義だけでなく、サバイバルの講義も受けるようになった。
休憩時間中、王都にぶらりと立ち寄った時、彼女の″鷹の瞳″はある場所を捉えた。
ハジメだ。小悪党四人組によって、リンチを受けていた。
(アイツら……!)
頭に血が上るのを感じた。そして、少しだけ彼らには恐怖を味わって貰う事にした。
琴葉は″軽業″により、壁を登って施設の屋上に立った。そして、洋弓を構える。″鷹の瞳″を発動させながら、矢を番えた。そして、
ビシュッ!!
矢を放った。
放たれた矢は、
「っ!?」
檜山の顔のすぐ横を通り抜けていった。威嚇射撃である。
状況を理解し、顔が青くなる檜山。それだけでなく、その取り巻きの三人も恐怖でおののく。後退りする檜山。だが、
ドスッ!!
その足のすぐ近くに矢が刺さった。
「う、うわああああ!!」
叫ぶ檜山。
それすら意識の外に置き去りにし、琴葉は再び矢を番える。彼らにこちらの居場所は割れていない。″気配遮断″を使っているからだ。
再び矢を射る。
ドスッ!
それは檜山の手のすぐ近くに刺さった。
見ての通り、琴葉は当てる気は無い。ワザと外しているのだ。
″鷹の瞳″で彼らの様子を確認していると、
「何やってるの!?」
その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。
「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」
「南雲くん!」
檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。
「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」
「いや、それは……」
「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」
「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」
三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。
「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」
苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。
「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」
何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。
「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」
「でも……」
(あとは、任せても問題無さそうね)
その様子を確認すると、琴葉はその場から姿を消した。
「この矢……琴葉がやったのかしら……」
雫は、その場に刺さった矢を見てそう呟いた。
「琴葉」
「なーに?」
アーロンが住まう山小屋の中、琴葉はアーロンに声を掛けられる。この二週間、琴葉はアーロンからのお達しで、この山小屋に居を移していた。なんでも、ここの方が森に近いし、罠系魔法やサバイバル術の講義がしやすい、とのことだ。
「これから大事なことを言う。よく聞け」
そう言って、アーロンはフードを外した。この二週間、アーロンは一度たりともフードを外さなかったのだ。「やっと素顔が見られる」と思った琴葉だが、その表情は凍り付く。
「え……白髪……?」
「ああ。見ての通りだ。これからその話しをする」
アーロンはイスに座る。
「魔物の肉って、喰えると思うか?」
「えっと……人が食べれば、たちまち身体が壊れるって話しだったと思うけど……」
「そう。普通はな。だが、ここに例外がいる」
アーロンは自身を指差した。
「三年前、俺は山の中で遭難してな。あの時はもうダメかと思った。だが、丁度目の前を魔物が横切ったんだ。それを、俺は殺した。そんで、たまたま見つけた洞窟の中にそいつを運び込んだんだ。そうしたら、その洞窟に蒼白く光る石があったのさ」
そう言って、アーロンは一度イスから立つ。そして、蒼白く光る石を入れた透明な瓶をテーブルに置いた。
「コイツを俺は掘り出した。売ったら金になると思ったんだ。だが、この石からは液体が流れていてな。後で調べてわかったんだが、″神水″っていうらしい。どんな傷や病も治すっつー優れモンだ。その時、俺は喉が渇いていた。だから、その″神水″を飲んだんだ。すると、驚いたよ。身体から疲れが取れていったんだ。あの時ほど生き返ったと思ったことはないね」
「……」
「そんで、問題はその次だ。俺はどうしようもなく腹が減っていた。だから、その魔物を喰ったんだ」
「え……喰った……?」
「ああ。喰った。マズかった。正直、この世の者とは思えないほどにマズかった。だが、空腹だったらな。なりふり構わず完食したよ。すると、どうだ。全身が罅割れるように痛んだんだ。大急ぎで″神水″を飲んだよ。一瞬、痛みが和らいだと思ったら、また痛み出した。どれくらい続いたかは判らねぇ。だが、気付いた時にはこうなってた」
アーロンは自身の容姿を指差す。
「髪は白く、そんでもって、筋力も増しているときた。更に、″魔力操作″なるものを身に着けちまったんだ。これじゃ、どっちが魔物が判らねぇよ……」
ハハハ、と乾いた笑みを浮かべるアーロン。
「でも……アーロンはアーロンでしょ? そこは、変わんないでしょ」
琴葉のその言葉に、一瞬驚いたように目を見開くアーロン。
「そう、言われたのは初めてだな……ハハ」
「大の大人が何泣いてんのよ……」
「わり……」
暫くの間、すすり泣くアーロン。泣き止むと、真面目な表情に戻り、話しを続ける。
「上の方からのお達しだ。明日、【オルクス大迷宮】にお前さんらは潜ることになる。勿論、命の危険だってある。あそこには致死性の罠がわんさかあるからな。最悪、更に下の階層に落とされる危険性もある。そこでだ」
アーロンは蒼白く光る石が入った瓶を琴葉に渡す。
「これを、お前にやる。瓶に液体が貯まってるだろ? もし、何らかのアクシデントが起きた時、すぐにこれを飲め。ある程度の傷なら治してくれる。最悪、魔物の肉を喰っても……大丈夫なハズだ。まあ、魔物肉はお勧めはしないがな。地獄の苦しみを味わうことになるからな」
琴葉はしばらくの逡巡の後、瓶をアーロンから受け取る。
「……死ぬなよ。師より長く生きねぇと、許さねぇぜ」
「……判ってるわよ」
フッ、と笑うと、アーロンは琴葉の背中を叩く。突然のことに、目を白黒させる琴葉。
「よし! 湿っぽい話はこれで終わりだ! 特別だ! 今日は王国でメシ食ってこい! 門限も二時間延ばすぜ! 夜遊び行ってこいや!」
「は、はぁ……」
(このテンションには、ついていけないわね……)
心の中でそう毒突く琴葉であった。だが、どこかまんざらでもない表情をしていたのは確かだろう。
夕食はクラスメイトとの関わりを深める為に、王国で取ることとなっている。美味しい料理に舌鼓を打ちながら、琴葉は完食した。その後、門限までまだ時間があったので、広場で夜風に吹かれながら月を眺めていた。
「綺麗な月ね」
「ッ!?」
突如後ろから声を掛けられ、イスから飛び上がって距離を取る。その場には、召喚された時に彼女からずっと視線を外さなかった、修道服を着崩した銀髪のシスターがいた。
「そこまで警戒しなくてもいいわ。別に、取って喰おうってワケじゃないもの」
「……そう」
距離を取りながら、油断なく琴葉はシスターを睨み付ける。正直、この女は信頼できないのだ。
「……まあ、いいわ。アナタに聞きたいことがあるの」
「何よ……」
「率直な意見を聞かせてちょうだい。
───アナタはこの国を、この国の在り方をどう思う?」
「……」
「結界は張ってあるわ。何を言ったとしても、捕縛されることは無い」
確かに、言われてみれば周囲に人がいなくなっている。
(人払いの結界の類……?)
「そうね……。正直に言うと、歪んでいるわ」
ふふ、とシスターは笑った。
「そう。それが聞けて、安心したわ」
「安心って何よ……!」
「別に。こちらの話よ。アナタが気にする必要は無い。今は、ね……」
シスターは踵を返し、歩き出す。だが、すぐに立ち止まった。そして、こちらを振り返る。
「……喜びなさい。この世界で、アナタの望みはようやく叶う」
「……!?」
次の瞬間、シスターは───
───琴葉の
「っ!?」
「期待しているわ……
振り向いた時、既にシスターはいなかった。
「何なのよ……一体……」
琴葉は言いようのない恐怖に襲われ、身体から嫌な汗が噴き出る。
「帰ろ……」
足早に、彼女はその場を去った。
就寝前、琴葉は自身のステータスプレートを見た。
ステータスは軒並み上昇している。その中に一つ、見慣れない技能が追加されていた。
「″転移″……?」
長押しして、詳細を見る。
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技能:転移
自身を中心に、半径十メートルの範囲内を任意に座標移動できる技能。重量制限は、自身の体重を除いて五十キログラム。
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「これは、何……?」
ポケットの中に、折り畳まれた紙が入っていることに気付き、取り出してみる。広げると、そこには、
『プレゼントよ。旅立ちには、必要でしょう?』
「あのシスター……!!」
この奇妙な技能はあの胡散臭いシスターからの贈り物らしい。琴葉は度重なって起こった事態に頭を抱えてしまう。
(今日は厄日だわ……。もう寝よう……)
疲労からくる倦怠感と眠気に身を任せ、彼女は眠りに就いた。
『
感想、評価を頂けると嬉しいどす。
完結後、カルデア召喚編やる? やるとしたら琴葉はどのクラスで召喚する?
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やれ。クラスはセイバークラスで。
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やれ。クラスはランサークラスで。
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やれ。クラスはアーチャークラスで。
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やれ。クラスはライダークラスで。
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やれ。クラスはアサシンクラスで。
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やれ。クラスはキャスタークラスで。
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やれ。クラスはバーサーカークラスで。
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やれ。クラスはルーラーで。
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やれ。クラスはアヴェンジャーで。
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やれ。クラスはムーンキャンサーで。
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やれ。クラスはアルターエゴで。
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やれ。クラスはフォーリナーで。
-
やらなくていいんじゃない?