赤き弓兵、錬鉄の記憶   作:ハウンド・ドッグ

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ドーモ、ハウンド・ドッグです。

楽しんでいってね!


Ep.04 オルクス大迷宮

 一行は【オルクス大迷宮】の中に入っていく。

 入り口近くは露天などで賑わっていた。だが、迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光るラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 ラットマンは外見は鼠のようだが、二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。

 正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

(良い的……)

 

 飛び掛かった一体に琴葉は矢を放つ。寸分違わずラットマンの心臓に命中し、一撃で絶命させた。続いて、第二射を番える。

 琴葉のその行動に勇者光輝は不満そうだが、メルド団長が黙認している故か、ただ睨むだけに留まった。彼女自身、事前にメルド団長から許可を取り、射撃を任意で行えるようにしているのだ。

 間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。後方からは琴葉が放つ矢がラットマンを確実に仕留めていく。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は″聖剣″である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという″聖なる″というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 龍太郎は、空手部らしく天職が″拳士″であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 雫は、サムライガールらしく″剣士″の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 クラスメイト達が彼らの戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――″螺炎″」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。

 琴葉は騒ぐクラスメイト達から離れ、アーロンから教わった通りに、短剣をラットマンに突き刺して魔石を抉り出していた。

 頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

 

 

 そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 一行は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 この点、トラップ対策として″フェアスコープ″というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 従って、一行が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 続けて、琴葉は弓に矢を番える。後方援護という立場である以上、無為に倒す必要は無い。ただ、死角から魔物に襲われている生徒への援護射撃や、既に弱っている魔物に止めを刺す程度である。あとは、獲物の横取りとかである。

 小休止に入り、疲労や魔力の回復に一行は努めた。琴葉は矢筒に入れてある残りの矢の本数や矢に塗る毒の確認をしたり、弓の弦の張り直しをしていた。

 

 

 

 小休止を終え、一行は二十階層を探索する。

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法″威圧の咆哮″だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって、見事な砲丸投げのフォームで投げつけた。咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらルパンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

(まったく……)

 

 琴葉は弓を構え、ダイブ中のロックマウントの眉間に狙いを合わせる。そして、矢を放った。

 放たれた矢はロックマウントの眉間に命中し、その命を刈り取った。

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

 慌てて前に出たメルド団長の声に、香織達は「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。メルド団長は琴葉の方を向き、「ナイスフォロー」とでも言うように、サムズアップしていた。

 彼女らの様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――″天翔閃″!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。琴葉は彼のアホさ加減に呆れ、溜息を吐いていた。

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

(あれ……? 確か、アーロンが言ってたよね……)

 

 

 

『綺麗なバラほど棘があるってものよ。迷宮で宝石や宝箱があったら絶対触るなよ? 俺の経験上、殆どがトラップだから』

 

 

 

(……マズいな)

 

 檜山はメルド団長の言葉など聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

(ほぉぉらやっぱりぃぃ!!)

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが、間に合わなかった。

 部屋の中に光が満ち、琴葉達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 琴葉達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

(いった~……何なのよホント……)

 

 琴葉は立ち上がり、弓を構え周囲の警戒を行う。

 どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 一行が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。一行はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

(逃げるって……迷宮がこの程度で終わらせてくれるワケ無いよね)

 

 しかし、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が。

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 




感想、評価を頂けると嬉しいどす。

完結後、カルデア召喚編やる? やるとしたら琴葉はどのクラスで召喚する?

  • やれ。クラスはセイバークラスで。
  • やれ。クラスはランサークラスで。
  • やれ。クラスはアーチャークラスで。
  • やれ。クラスはライダークラスで。
  • やれ。クラスはアサシンクラスで。
  • やれ。クラスはキャスタークラスで。
  • やれ。クラスはバーサーカークラスで。
  • やれ。クラスはルーラーで。
  • やれ。クラスはアヴェンジャーで。
  • やれ。クラスはムーンキャンサーで。
  • やれ。クラスはアルターエゴで。
  • やれ。クラスはフォーリナーで。
  • やらなくていいんじゃない?
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