赤き弓兵、錬鉄の記憶   作:ハウンド・ドッグ

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ドーモ、ハウンド・ドッグです。

楽しんでいってね!


Ep.06 奈落

 落ちていく。ただ、ひたすらに落ちていく。奈落へと、落ちていく。

 少女は独り、落ちていく。

 途中、川へ落ち、流されていく。ウォータースライダーもかくやといった勢いで流されていく。

 そして、とある階層で打ち上げられた。

 

 どれくらい経っただろうか。琴葉の指がぴくりと動く。ゆっくりと、彼女の意識は浮上する。目蓋を開き、しばらくの間ぼんやりとするが、現在のこの状況を理解し、飛び起きる。

 

(ここは……!?)

 

 琴葉は辺りを見回す。そこは、薄暗い闇の中を緑光石が照らす空間であった。あの時、崩落した橋から落ちた後、ここまで流れ着いたらしい。服がびしょ濡れになっていることがそれを物語っていた。

 身体は冷え、思わず身震いをする。琴葉は火を起こすべく、半径一メートルほどの魔法陣を地面に描く。魔法適性を持たない(罠系魔法は例外とする)彼女は、火種の魔法を行使するだけでも複雑な式を書かねばならなかった。回収した魔石は落としてしまったので、ここには無い。

 魔法陣を書き終え、長ったらしい詠唱の後に、拳大の炎を起こすことに成功する。

 琴葉はそこで暖をとる。マントは脱いで起き、そこらに置いて乾かしておくことにした。

 

(……あの時、私は檜山が放った火球によって落とされた)

 

 状況を整理する為に、ここに来るまでのことを思い出していく。

 確かに、彼女は檜山が放った火球によって、ハジメと共に落とされた。"ハジメを殺そうとしたこと"に下手人への憤怒が燃え盛る。檜山が放った第一射。あれは確実にハジメを狙ったものだった。誤差では考えられない軌道だったのだ。そして、第二射。おそらく、あれはハジメを確実に殺す為のものだろう。彼を助けようとした琴葉はついでのようなものなのだろう。

 

(……私はあの時。南雲を助けられなかった)

 

 彼女は拳を握り締める。

 

(……何が『正義の味方』だ。クラスメイト一人の命も救い切れないなんて……)

 

 ぎりり、と歯を食い縛る。その瞳には、涙が。

 

(……でも、私はこうして生きている。なら、南雲もきっと……)

 

 1%にも満たない可能性。ほとんど関わりを持たないのだとしても、今はそれに懸けるしかなかった。

 

(今は、身体を休めることが先決。途中で倒れちゃったら元も子もないじゃない)

 

 服もあらかた乾いた。身体も暖まった。マントも乾いた。

 琴葉は立ち上がる。そして、腰のポーチをまさぐった。

 

(良かった……。壊れてない)

 

 青白く光る石、そしてそこから流れたのであろう液体の入った瓶を見て、琴葉は安堵した。

 瓶の蓋を開け、中の液体を呷る。すると、身体に活力が戻るのを感じた。

 琴葉は知らないが、実はその石は"神結晶"と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。基本的には直径三十センチから四十センチ位の大きさだ。だが、彼女が持っている神結晶の大きさは直径十センチほどだ。この場合、魔力が結晶化した際に、圧縮されてより高密度に魔力を宿している。結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 その液体を"神水"と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

(まずは拠点を作らなきゃね)

 

 琴葉は魔物が寄り付かない安全な場所を探すことにした。技能"気配遮断"を用いて足早に移動する。

 しばらくして、他の場所よりも薄暗い袋小路に辿り着いた。魔物もこの周辺にはいなかった。琴葉は罠系魔法の魔法陣を壁に出現させる。発破をかけて壁を吹き飛ばすつもりらしい。

 

(起爆……!!)

 

 爆発の範囲外まで離れ、魔法陣を起動させる。

 

 ドカァァン!! 

 

 爆発音の後、ガラガラと音を立てて壁が崩れ落ちる。崩れた場所に再び魔法陣を出現させ、起爆。気が遠くなるようなこの作業を何度も繰り返し、奥まで続く穴を開けた。長さは八メートルほどだ。そこから更に、九十度曲がるようにして起爆。再びそれを繰り返し、今度は崩れた岩を積み上げ、入口となる場所を軽く塞いだ。即席&突貫工事の末に、拠点が今、完成した。

 

(ヤバ……。魔力使いすぎた)

 

 一瞬ふらつく琴葉。同時に眠気が彼女を襲った。彼女は知る由もないが、この作業を始めてから完成までに六時間がたっていた。魔力だけでなく、肉体労働により体力も大きく消費していた。どれだけチートレベルのステータスを持っていようと、所詮は十七歳の女子高生。疲労を溜めるには充分過ぎた。

 その場に倒れこむ琴葉。神水を飲もうにも、身体が重く、その気力も起きない。否、今飲めば確実に嚥下障害を起こしてしまう。

 

(少しくらい……休んでもいい、よね……?)

 

 彼女はまどろみに任せ、穴ぐらの中でゆっくりと意識を落とした。

 暗闇の中、寝息だけが静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦って、戦って、戦って。

 誰かの為に、『正義の味方』となって戦った。

 戦場で、赤い外套を纏った桃色掛かった銀髪の女は戦い続けた。

 見返りを求めず、『人助け』を当然のこととして行い、ただひたすらに戦い続けた。

 だが、その先に待っていたのは地獄だった。

 友を失い、救うと決めた人々を救えず、挙句の果てには救った人々から『悪魔』と罵倒され、謂れのない罪をも着せられた。

 彼女は、守ったはずの人々に裏切られ、処刑された。彼女は捕縛された当初から抵抗しなかったという。

『抑止力』と契約した彼女は、死後も『抑止の守護者』として戦い続けた。

 殺し続けた。

 望まぬ殺しをし続けた。

 元より破綻していた彼女の心はもはや、限界を迎えていた。

 大を救済すべく、小を切り捨て続けた。

 彼女の心は摩耗し、その瞳に光はなく、悲愴に満ちていた。

 かつて夢見た『理想』に裏切られ、絶望した彼女は一つの結論を導き出す。

 

 

 

 ────過去の自分を殺せば、この無限に続く責め苦から解放されると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹き抜ける。

 その感覚に違和感を覚えた琴葉は目を開く。

 

(ここは……一体……)

 

 彼女が立っていた場所は砂漠のど真ん中であった。周囲には無数の剣が、まるで墓標のように突き立っていた。また、空にはひび割れた無数の歯車が宙に浮き、回転していた。

 向こうに、一人の人間が立っていた。その場所へと向かおうとしたその時、背筋に悪寒が走る。琴葉は左に数センチずれる。次の瞬間、つい先程まで自身がいた場所を、高速で飛来した矢が貫いていった。

 

(……ッ!?)

 

 言いようのない恐怖に思わず脚が竦んでしまう。

 

「へぇ~……。今のを避けるんだ」

 

 矢を放ったであろう本人が、ゆっくりと歩み寄ってくる。その手には漆黒の洋弓が握られていた。声からして、女だろうか。

 

「アンタは誰なの!? ここはどこ!?」

 

 琴葉はフードを被った、赤い外套を纏った女に叫ぶ。すると、その女はしばらくの間考え込むと、突如として矢を番え、警告も無しに放った。琴葉は横っ飛びで躱す。

 

「危機察知能力の高さは昔から、か……。これは簡単には殺せないなぁ……」

 

 その女は物騒なことを宣いながら、カリカリと頭を掻く。

 

「まあ、いいわ。どうせ、貴方は死ぬんだし。教えてあげる」

 

 その女はそう言うと、おもむろにフードを掴み、はずした。

 

「わ、たし……?」

 

 露わになったその女の顔に、琴葉は愕然とする。彼女の顔が、自身と瓜二つであったからだ。

 

「そ。髪の色は違うケドね。私は貴方。そして……貴方は私でもあるわ」

 

「ワケが判らない!! 一体……何なのよ!?」

 

 理解が追いつかず、叫ぶ琴葉。その女は漆黒の洋弓をガラス片として霧散させながら、それをうるさそうに顔を顰めながら聞き、その後困ったように頭を掻いた。

 

「何って言われてもなぁ~……。この通り、としか言えないわね」

 

 砂漠の中、同じ顔の二人の視線が交錯する。

 

「ようこそ……私の世界へ。まずは挨拶からね。私はエミヤ コトハ。『抑止の守護者』にして、貴方の『理想』が到達し得る成れの果て。要するに、私は未来の貴方よ、琴葉」

 

 上品に会釈をするエミヤ コトハ。その表情は微かな微笑みを浮かべていた。だが、琴葉にとってそれは、どこか貼り付けたような感覚がしていた。それが、己にも当てはまるとは知らぬまま。

 

「空想具現化の亜種。個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え、現実世界を心の在り方で塗りつぶす魔術の最奥。それが、ここ。『固有結界』よ。ここが……貴方の墓標になるの」

 

 エミヤ コトハ(これより先は表示を『エミヤ』とする)の顔から微笑みが消え、無機質で冷淡な表情へと豹変すると同時に、エミヤはその手を頭上に掲げた。

 すると、虚空に剣が現れた。その数は二十を超えている。

 

「それじゃあ……死んで」

 

 その言葉と同時に、手を振り下ろす。剣はそれを合図として、一斉に琴葉へと向け射出される。

 

「死んで、たまるもんですかぁぁ!!」

 

 脱兎の如く、琴葉は逃走。頭上から降ってくる剣の雨の射程から外へと出るべく、ひたすらに走る。先程まで琴葉がいた場所を、剣は容赦無く突き刺していく。

 

(武器は……短剣二本だけか。やってやるさ……!!)

 

 腰に差していた二振りの短剣を引き抜き、振り返る。目視できる剣の数は八。

 捌き切れるか? 否、捌き切ってみせる。

 迫り来る剣。何も受け止める必要は無い。ただ、軌道を逸らせれば、それでいい。

 

「せやぁぁぁぁ!!」

 

 頭部を貫かんと飛来する剣。

 ───左の短剣を打ち付け軌道を逸らす。

 腹部を貫かんと飛来する剣。

 ───右の短剣を進路上に割り込ませて軌道を逸らす。

 足元に飛来する三本の剣。

 ───フットワークを駆使して回避。

 左腕を斬り裂かんと飛来する剣。

 ───上体を反らせて回避。

 首筋を貫かんと飛来する剣。

 ───上体を戻す勢いを利用し、短剣を振り下ろして剣を叩き落とす。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 肩で息をする琴葉。頭を抑え、その場にうずくまってしまった。

 

(これは……記憶? 剣をぶつけた時に、頭の中に流れ込んで……)

 

 眼前に写るものは、屍。剣。血。臓腑。

 ありとあらゆる凄惨な光景が流れ込んでくる。

 

(アイツの記憶だって言うの……?)

 

 琴葉はエミヤを睨み付ける。

 

「意外と出来るみたいね。……ちょっと予想外かも」

 

 エミヤは一瞬、驚いたように目を見開くが、すぐに感情の一切を宿さない無機質な瞳へと戻った。

 

「やっぱり、簡単にはいかないみたいね。なら、白兵戦でいこっか」

 

 エミヤはその両手を前に突き出す。

 

「───投影開始(トレース・オン)

 

 詠唱終了と同時に、彼女の手には二振りの夫婦剣、干将・莫耶が握られていた。

 

「……覚悟なさい。私から生きて帰ろうだなんて、思わないことね」

 

 次の瞬間、琴葉の眼前にはエミヤが。

 

(……ッ!? 転移!?)

 

「死ね」

 

 表面に亀甲模様が施された漆黒の剣、干将が振り下ろされた。




感想、評価を頂けると嬉しいどす。

完結後、カルデア召喚編やる? やるとしたら琴葉はどのクラスで召喚する?

  • やれ。クラスはセイバークラスで。
  • やれ。クラスはランサークラスで。
  • やれ。クラスはアーチャークラスで。
  • やれ。クラスはライダークラスで。
  • やれ。クラスはアサシンクラスで。
  • やれ。クラスはキャスタークラスで。
  • やれ。クラスはバーサーカークラスで。
  • やれ。クラスはルーラーで。
  • やれ。クラスはアヴェンジャーで。
  • やれ。クラスはムーンキャンサーで。
  • やれ。クラスはアルターエゴで。
  • やれ。クラスはフォーリナーで。
  • やらなくていいんじゃない?
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