楽しんでいってね!
「死ね」
亀甲模様が施された漆黒の陰陽剣、干将が振り下ろされる。
「この……!!」
琴葉は二振りの短剣でエミヤのその一撃を受け止めた。だが、ピキリという音を立てて、その短剣にヒビが入ってしまう。
「ハァァ!!」
エミヤはもう片方の陰陽剣、波紋が施された純白の剣、莫耶を振り抜く。その一撃は琴葉の二振りの短剣にぶち当てられ、それらを容易く砕いた。『これはマズい』と感じた琴葉は自身の後方へと″転移″によって座標を移動させる。だが、それすらもエミヤにとってはお見通しなのだろう。エミヤは琴葉のすぐ後ろに転移。そのまま二振りの夫婦剣を振り下ろす。琴葉には、その光景が嫌にスローモーションのようにゆっくりと見えた。
(どうすればいい? この場を切り抜ける手段は!? 生きて帰る方法は!?)
頭の中は目まぐるしく思考する。
(コイツは何て言った? 『私は貴方、貴方は私』と言った。コイツは私。なら……コイツのこの力だって使えるハズだ!!)
剣が眼前に迫る。
(この力はどうやって使う? コイツはあの時何て言った? 確か……確か……)
全身の魔力回路を魔力が迸る。
「────
「なっ…………!?」
突き出された琴葉の右手から閃光が弾け、それはやがて収束し、一つの剣を形成する。
亀甲模様の漆黒の陰陽剣、干将。───それはエミヤが投影したものと形を同じくするものであった。
エミヤが振り下ろす二振りの夫婦剣を干将で受け止める。
「馬鹿な……!?」
「でやぁぁぁぁ!!」
更に、左手にも閃光が弾け、波紋が施された純白の陰陽剣、莫耶を投影する。それをエミヤへ向けて突き出した。『このままでは貫かれる』───エミヤはそう判断し、琴葉から離れるように後方へと転移する。
「で……できた……」
琴葉は己の両手に握られた干将・莫耶の二振りの陰陽剣をまじまじと見詰めた後、我に返りその夫婦剣を構え、エミヤを見据える。
「なるほど……失念していたわ。そう、貴方は私だものね。なら、使えてもおかしくないか」
乾いた笑みをエミヤは浮かべる。だが、それも殺意によって掻き消えた。
「―――
彼女の後方に六本の剣が投影される。
「言っておくわ。貴方のその『理想』───『正義の味方』は歪んでいる。それは貴方に破滅をもたらせる。引き返すなら、今よ。その『理想』を捨てるとしたら、今しかないわ。己の命が惜しくないなら、ね」
琴葉に対し、エミヤは親が幼子を言い聞かせ諭すように説く。
「そんなの……やってみないと判らないじゃない!!」
「諦める気は無い、か……。そう、なら……その『理想』を抱いて溺死しろ」
エミヤは干将を握る右手を突き出す。
「―――
その言葉と同時に、六本の剣が一斉に射出される。
琴葉は干将・莫耶を振り回して、それらを叩き落としていく。だが、その度にエミヤの記憶が彼女に流入し、エミヤが体験したのであろう凄惨な光景が彼女の心を苛んでいく。
「セヤァァァァ!!」
空中で回転し、その遠心力と落下速度を利用してエミヤは襲い掛かる。干将による斬撃を琴葉は莫耶で受け止める。そこへ、エミヤはすかさず莫耶による刺突を行う。上半身を狙ったその攻撃を琴葉は身体を限界まで反らせて回避。そのまま背中から地面へと倒れ込み、ブレイクダンスの要領で足払い。エミヤはそれを跳躍して回避する。外れたことを悟った琴葉は直ぐさま飛び起き、バックステップの後、夫婦剣を構える。
(次はどうする……? どうすればいい……!?)
琴葉は干将・莫耶を握り直す。その時、とあるヴィジョンが眼前に現れた。そのヴィジョンの中では、干将・莫耶を投擲する様子が映し出されていた。
(投げろってこと……?)
琴葉はそのヴィジョンで見たように、両腕を交差させる。その手の干将・莫耶を握り締め、両腕を振り抜き、投擲する。すると、次のヴィジョンが眼前に映し出された。そのヴィジョンでは、先程行使した、自己のイメージからそれに沿ったオリジナルの鏡像を魔力によって複製する魔術、
「───
琴葉は再度、干将・莫耶をその手に投影する。
次にどうすれば良いか。この場を切り抜けるにはどうしたら良いか。琴葉にはそれらが何となくではあるが、判るようになってきた。これらの行動は、流入したエミヤの記憶によるものがほとんどであり、彼女はそれを模倣していた。
そもそも、エミヤ自身が行使する投影魔術は 『創造理念』・『基本骨子』・『構成材質』・『製作技術』・『憑依経験』・『蓄積年月』の六つから成り立っている。具体的に言うと、創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定。更に構成された材質を複製、製作に及ぶ技術を模倣する。そこに加えて、成長に至る経験に共感、蓄積された年月を再現することで、彼女は限りなく真に迫った偽物を投影している。そして、この『憑依経験』───つまり『成長に至る経験』を解析することで、戦闘におけるその武器の扱い方の知識を得ることが出来るのだ。
今回の場合、彼女はそれらの工程の全てを流入したエミヤの記憶を用いて行っている。故に、その戦闘もエミヤのものへと近付いていくこととなるのだ。
(″心眼″か……!! 全く……こうも私と似通ってくるだなんて……)
エミヤは軽く舌打ちをし、投擲され自身の方へと飛翔する、引き合う性質を持った夫婦剣を弾く。そこへ、つい先程投影した夫婦剣を琴葉は握り締め、エミヤへと迫る。
(でも……まだまだね)
琴葉は下段からクロスさせるように干将・莫耶を振るい、斬り上げる。エミヤはバックステップで回避。続けて琴葉は二振りの陰陽剣で刺突と斬撃を組み合わせた
(戦いながら成長している……。いや、この場合は私の記憶を憑依経験させているのね。しかも、無意識の領域で。骨が折れるわね……ホントに)
エミヤから見て、琴葉のその剣技はまだ未熟だ。『憑依経験』によるエミヤ自身の技術の模倣に、琴葉の身体が追いついていないことが大きな理由として挙げられる。しかし、次第に精細さを増していくその剣技に末恐ろしさを感じ取っていた。
「ハァァァ!!」
「ぐっ……!!」
琴葉の夫婦剣に自身の夫婦剣をぶち当て、上方へとそれらを弾く。無防備になった琴葉の胴体に、夫婦剣によるエミヤの
「ハァ……ハァ……」
乱れる呼吸を落ち着ける。斬り裂かれた皮膚からは失血死するレベルでは無いにせよ、血液が流出し続け、激痛と流血が琴葉の気力と体力を奪っていく。また、干将・莫耶の刀身にはヒビが入り、あと数撃もすれば砕けてしまいそうだ。
その時、全身を悪寒が走る。痛む身体を無理矢理に動かし、夫婦剣を頭上で構える。刹那、上空から剣の雨が降り注いだ。
ガギンッ!!
「フゥゥゥゥゥゥ………………」
降り注いだ剣は琴葉の皮膚を斬り裂くだけに留まった。あの一瞬で、琴葉は素早く干将・莫耶を振るい、自身への直撃コースとなる剣の軌道を、自身から外すことに成功していたのだ。その代償に、干将・莫耶は砕け、ガラス片のように割れ、消滅していった。彼女自身の皮膚からも止め処なく血液が流れ、赤い血溜まりを作っていた。
(驚いたな……。まさか、ここまで成長するだなんて。全てにおいて、急所や関節、重要血管系やリンパ系を外れるように軌道を逸らせている。……このままだと、いずれ私に追いつくわね)
現時点で、琴葉は満身創痍。逆にエミヤは無傷である。状況はエミヤに有利に動いていた。だが、エミヤは危機感を募らせる。『この成長速度だと、いずれ自身に追いついてしまう』と。これは彼女にとって由々しき事態であった。そもそも彼女の目的は、『正義の味方』を『理想』として追い求めていた過去の自分自身に、その『理想』を諦めさせること、もしくは存在を抹殺することであった。この状況は、彼女───エミヤにとって好ましいものではなかった。
「ねぇ。ここまでやって、まだ諦めないの?」
「アンタの指示は、受け……ない……!!」
全身を駆け巡るその激痛に表情を苦悶で歪めながらも立ち上がる琴葉。再び、夫婦剣、干将・莫耶を投影し直し、反抗的な目付きでエミヤを睨む。
「琴葉。貴方の『理想』はただ、『あの人』の受け売りよ。『生き残ってしまった自分は誰かの為に生き、その命を使うべき』───貴方は『呪い』にも等しい、その強迫観念、サバイバーズギルトに今なお囚わらわれている。その強迫観念がもたらす苦痛を和らげる為に、貴方は無償で『人助け』をし続けた。そして、それを成す為に、『正義の味方』は都合が良かっただけ。自身を使い潰すことで、今にも折れそうなその『心』を繋ぎ止めていた。結局は自己満足。これが貴方の本質」
一息つき、エミヤは再び口を開く。
「そうね……。貴方にその『理想』を諦めさせようとした私が間違っていたわ。ここで……ここで、貴方を終わらせる。無限に続くその『呪い』から、貴方を私が解き放つ」
エミヤはそう、決然と言い切った。その瞳は悲壮に満ち、その表情は『理想』への、『世界』への絶望に満ちていた。
(貴方を止めるには……私自身を終わらせるには、もう、こうするしか無いの)
『独り善がりでも構わない』
エミヤはそう独り言ち、琴葉へと斬り掛かった。
───これが、奪ってきた『命』に対して、私の出来る精一杯の『
感想、評価を頂けると嬉しいどす。
完結後、カルデア召喚編やる? やるとしたら琴葉はどのクラスで召喚する?
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やれ。クラスはセイバークラスで。
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やれ。クラスはランサークラスで。
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やれ。クラスはアーチャークラスで。
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やれ。クラスはライダークラスで。
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やれ。クラスはアサシンクラスで。
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やれ。クラスはキャスタークラスで。
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やれ。クラスはバーサーカークラスで。
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やれ。クラスはルーラーで。
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やれ。クラスはアヴェンジャーで。
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やれ。クラスはムーンキャンサーで。
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やれ。クラスはアルターエゴで。
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やれ。クラスはフォーリナーで。
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やらなくていいんじゃない?