――スパルタクスという男は蛮勇を振りかざし無謀な戦いに挑んでいく男だ。
常に笑顔を浮かべ、真っ直ぐに進み続ける不屈の男、周りに希望を振り撒き、弱者を守り、強者には剣となる男。私とは真逆の男。
だからこそ、私はあの男が嫌いなのだ。
―ああ、本当に嫌いだ。
―預言者リアリスの日記より―
「…てかさスパルタクス、アンタは何がしたいんだ?叛逆がどうとか言ってたけど…」
「おお!そういえば言っていなかったな。私は、圧政者共に鉄槌を降し。虐げられている弱者を救いたいのだ。そのためにまずこの檻から抜け出そうとしている。」
「あー、つまり脱走ってことでいいか?」
「うむ。その通りだ、同志リアリス。」
「その同士ってのはやめてくれ……ちなみに仲間とかいんのか?」
「無論、同志は幾人か集まっている。皆、腕の良い精鋭達だ。」
へぇ、仲間はいんのか。
じゃあ、とりあえずは大丈夫そうか?何人ぐらいの人数がいるのか聞いてみるか。
「何人くらいの仲間がいるんだ?」
「約200人の同志が私と共に叛逆を行う予定である。」
200人か…思っていたよりか大分多いな。そんだけ居れば常駐してる兵士よりか数も多いし何とかなるか…
「そういえば、作戦とかは決まってんのか?出来たら俺にも教えておいて欲しいんだが…」
「無論だ。だが、私が説明を行うより我が同志に直接聞いた方が良いだろう。」
同志?…まあ、これから一緒にやっていくんだろうし挨拶くらいはしておくべきか。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺がスパルタクスに連れて行かれた先には赤い髪の男と青い髪の女が居た。
2人はこちらの方を見ると口を開いてスパルタクスに声をかけた。
「お、やっと来たな。約束の時間はとっくの昔に過ぎちまってるぜ?」
「そんなには待ってないでしょ、ま、待ったのは事実だけどね。」
スパルタクスも彼らを見つけるとより一層顔の笑みを深くし、口を開く。
「ハハハ!少し野暮用があったのだ。だが、見たまえ!新たな同志が我々に協力してくれる事になった!」
赤い髪の男は俺の方を見ると一瞬驚いた表情になったが直ぐ顔に笑みを浮かべ話しかけてくる。
「初めましてだな、俺は、ここで剣闘士をやってるクリクススだ。この筋肉バカとは親友みてぇなもんさ。」
人懐っこい笑みを浮かべ、赤い髪の男ーークリクススは手をこちらに差し出してきた。
…握手をしようということだろうか?多分そうだな。
俺が握手を返そうとすると、青髪の女が俺に話しかけてきた。
「私はオエノマウス!そこにいるクリクススとは幼なじみね。あ、ちなみに私も剣闘士をしているわ!」
彼女はこちらにウインクをしながら勢いよく私の手を握ってきた。
「あ、えっと…俺は、リアリスだ…です…」
「あはは!いいのよ敬語なんて!これから共に戦う同士でしょう?なら、お互い遠慮は無しにしましょう!」
そういって彼女ーーオエノマウスは顔に笑みを浮べる。
「あ、その、分かった。そ、それじゃ!よ、よろしゅくたのみゅ!」
最悪だ…久々の女性との会話だったから緊張して思いっきり噛んでしまった…
は、恥ずかしい…
「ふふっ…私の事はノーマとでも呼んでちょうだい。オエノマウスだと長いでしょう?その代わり貴女の事、リアって呼んでもいいかしら?」
「えっと…うん、大丈夫だ。こちらこそよろしくノーマ!」
そんな風に俺たちが話しているとスパルタクスのヤツが俺に声をかけてきた。
「ハハハ!同志と絆を結ぶ事は実に良いことだが…リアリス、君は何か聞きたいことがあってこの場に同行したのではないかね?」
あ!忘れてた!
「えっと、脱走する時の作戦について聞きたくてここまで来たんだけど…」
「お、作戦の事なら俺が話そ……うと思ったんだが、ここはノーマに任せるとするぜ!」
クリクススが話そうとしたみたいだが何故か顔の表情を硬くし、そのまま、オエノマウスに説明を任せた。
「……なら、私が説明しましょう。リア、今回の作戦はクリスが考えたものでね、決行は明日の夜。スパルタクスの剣闘試合が終わってからがスタートよ。まず、私たち……そうね、反乱組とでも言いましょうか。反乱組は広場で待機、スパルタクスが帰って来た瞬間に周囲にいる兵士を襲い武器を強奪、そのまま直ぐに武器庫まで直行するわ。武器庫で武器を手に入れたら此処を出てできるだけ馬を奪って近くにある山、ヴェスヴィオ山に逃げ込むわ。」
ふむふむ…広場で兵士から武器を奪い武器庫に行ってさらに武器を強奪、馬を奪って逃走ってのが今回の作戦みたいだな。
「なるほど…なら俺は何処で合流したらいいんだ?俺も広場にいた方がいいのか?」
「ええ…と言いたいのだけれどリア貴女はどんなことができるのかしら?それ次第で貴女に振り分ける仕事が変わるわ。」
俺のできることか…そうだなぁ…
「武器は弓ならちょっとは使える。一応、杖があれば魔術も使える。」
「あら、貴女、魔術師だったのね。噂は聞いていたけれど本物に会うのは初めてだわ。」
「そんな対したことねぇさ、神様の贈り物の特典みてぇなもんだ。ま、杖がねぇと使えない欠陥品だけどな。」
そう、俺は魔術が使える。初めて使える様になった時はかなり驚いた。
まぁ、今言ったみたいに杖がないと使えない上に使い勝手も悪い欠陥品だけどな。
「それに杖は今は持ってないんだ。この剣闘所に来る時に門番に取られちまってさ…」
「そうなのね…なら、しょうがないわ。ちなみに弓を使えるってことだけど弓の方は持ってるのかしら。」
「あ、ああ。そんな上等なもんじゃないけど店の下に隠してある。」
それを聞くとオエノマウスはにっこりと笑い俺に向かって口を開いた。
「それは好都合ね。なら、貴女はクリスと一緒に厨房の方に行って食料を奪って来てくれないかしら。」
クリスって言うとクリクススのことか。まあ、武装した人間もいないだろうし2人なら大丈夫かな。
クリクススは大分強そうだし。
そんな風に考えているとクリクススが驚いた表情で口を開いた。
「えっ!俺とか!?」
「あら、こんな可愛い娘なのに貴方は嫌なのかしら?」
「いや、俺は別に構わねぇが…」
「なら、けってーい!しっかりリアの事を守ってあげるのよ。」
「あー…はいはい。分かったよ…んじゃ、嬢ちゃんよろしく頼む。俺はちょっと野暮用があるから出てくわ。」
そう言ってクリクススは外に出ていった。
そんなに露骨に嫌がられるとちょっと悲しいのだが…
そんなことを考えていると隣にいたスパルタクスが口を開く。
「では、作戦も聞けたことだ。今日の所はここで終わるとしよう。明日の叛逆に向け十分に睡眠を取り力を蓄えるのだ。では!改めてよろしく頼む、同志リアリスよ!」
「あ、ああ。」
「ならば、私も戻るとしよう。圧政者の狗どもに鉄槌を降す日が楽しみだ。ハハハハハハ!」
そう言ってスパルタクスのやつも外に出てしまった。
俺が、出ていった後を見ていると、オエノマウスが俺に話しかけてきた。
「リア、少しいいかしら?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、話ってなんだ?」
本当になんだろう。特に何もしていないはずだけど…
「単刀直入に言うけれど、リア、貴女…男が嫌いでしょう?」
へっ…!?俺が男が嫌い?
何のことだ?
売春婦なんてしてんだから嫌いなはずがないだろ。
「いや、そんなこと全然ないけど…」
そう答えるとオエノマウスは少し悲しそうにした後、口を開いた。
「嘘を……いえ、もしかしたら貴女自身が気づいていないのかもしれないわね。貴女、クリスと…男と話す時凄い顔だったわよ。まるで親の仇を見てるみたいだったわ。」
「っ…!俺がか…?」
俺が、そんな、顔を…?
…そんなはずは無い。あっていいはずがない。
だって俺は、売春婦なんだ。男が好きでなくちゃダメなんだ。
そうだ、
―頭に声が反響する。ああ、これはきっと
――本当にそうか?
――父を殺したのは
――母の心を壊したのは、母を買った
――俺を売春婦にしたのは
――俺を買って好き勝手犯すヤツらは
――今の俺の人生をめちゃくちゃにしたのは?
思考が黒く染る。怒りが溢れてくる。憎悪が身を焦がす。現状に反吐がでる。
何故、俺はこんなにも惨めなんだろう。
何故、俺は普通に生きていけないのだろう。
何故、俺は男に抱かれなきゃいけないのだろう。
何故、何故、何故、何故!!
――何故、こんな世界に生まれてしまったのだろう。
許せない、許せない、許せない!きっとこの世界のせいだ!
――軽い衝撃に思考が戻される。
目を開けると、目の前にいた
「………落ち着いた?」
そう優しく俺に語りかけてくる。
「ごめんね、嫌な気分にさせてしまったわね。」
「いや…大丈夫だ。」
俺がそう答えるとオエノマウスは俺の両肩に手を置き語りかけてくる。
「………これから私達はこの世界に叛逆するわ。奴隷を、民を救うために。世界の有り様を変えるために戦っていく。その際、前に立って戦うのはきっと男になると思う。分かるわね?」
「………」
「これから先、貴女は同士として共に戦っていくことになる。その時は、絶対に男と関わらなければいけなくなる。そんな貴女が男嫌いを自覚しないまま進んでいってしまうと、きっと取り返しのつかないことになるわ。…男を好きになれとは言わない。男に慣れろとも言わない。でもね男が嫌いだと自覚はしなければいけないわ。いい?」
……そうか、俺は…男が嫌いなんだ。
だから、必要以上にスパルタクスの事を妬んだんだ。
…言われて初めて気づいた。
俺は、嫌いなんだ。
自分勝手な我儘で人の人生をめちゃくちゃにする男が。
――でも、うん。
気づけて良かったのかもしれない。
何か、心の奥にあったモンが少し軽くなった気がする。そう思い俺は口を開く。
「……分かった!俺は、男が嫌いだ。大っ嫌いだ!…これで…いいか?」
「ええ!ええ!それでいいわ!それじゃ、明日一緒に組むクリスの事をよろしくね。とりあえず彼から色々学ぶといいわ。…そして少しずつ溶かしていきましょう。貴女の憎悪を、ね?」
オエノマウスがそう笑いかけてくる。
花のような笑顔だと俺は思った。
…それにしても、この人は本当に凄いな。ほんの少し喋っただけなのに俺の事を凄く理解している。
優しい人なんだろう。俺は何となくそう思った。
「それに、クリスはいい男よ?ちょっと、猪突猛進気味だけれど、熱血で自分の身よりも仲間を大切にするようなそんな人よ。それに何より…」
「何より…?」
「……これはクリスに言っちゃダメだからね?何より、私の好きな人だもの。」
オエノマウス…いや、ノーマは恥ずかしそうにそう言うと俺にウインクをして背を向けた。
「じゃ、私も寝るとしようかしら。これから、よろしくね!可愛い占い師ちゃん!クリスの事はとっちゃダメだからねー!」
そういうと彼女は外に出ていってしまった。
「…もう少し話したかったなぁ」
俺はそう一人呟く。
太字とか使って見ました!