また短めですがよろしくお願いします。
「1ターンキル」
それはデュエルにおいて1ターンで相手を倒すことを意味する。
一部を除き環境に入ったデッキならどのデッキでもすることができ、一つのミスで成立しなくなってしまう行為である。基本的に俺は「デュエル」とは楽しむものであると考えており、フリーなどで相手に許可を取らずこういった1キルデッキやガチデッキを使用するのは言語道断であると考えている。
だが、もし初対面の相手といきなりデュエルして先行一ターンでなお且つ相手に何もさせることなく倒してしまったらどうなってしまうだろう?
「ううっ。ぐすっ。」
「この鬼! 悪魔! うわぁぁぁんっっ!! 」
やっちまった。
今、俺の目の前にはガチ泣きしている幼女がいるこの場面を人に見られれば通報されるのは明らかであり非常にやばい状況である。人が来ないのは恐らく周りに広がっている闇のせいであると考え、その点だけは闇に感謝していた。
取り敢えず、目の前の状況を何とかしようと思い幼女に話しかけることにした。
「なぁ。流石に先行バーンで1キルしたことはすまないと思う。本当に悪かった。」
「何ならもう一回しようか? 今度は1ターンキルなんかしないからさ。」
「...本音は? 」
「ヴェーラーなど手札誘発を握ってない方が悪い。」
「本当にあんた最低ね! 」
あ、やべ。つい聞かれたから答えてしまった。
「大体あなた! レディに対してあの仕打ちは何なの!? 」
「女の子には優しくしなさいって親か先生に教わんなかったの! 」
「ちっ、うるせーな。反省してまーす。」
「っ~!!! どんだけ最悪なのよ! あんたそれでも人間なの! 信じらんない! 」
少女は声にならない叫びを上げ少年に対し激しく責め立てる。
「はぁ。もういいわあんたに挑んだ時点で私の運がなかったのね。」
やがて諦めたのか自嘲気味に溜息をつくと細い声で言った。
「で。この後どうなるんだ? これ勝ったのに全然元の場所に戻らないんだが? 」
「まさかとは思うんだが闇のゲームでまさかまだやることが残っているのか? 」
少年はそう少女に聞くと少女は最初言葉に詰まったが、やがて意を決したように答えた。
「言いたくなかったんだけどこの闇のゲームは勝者が敗者に対してペナルティを与えるものよ。」
それを聞いた少年は半ば予想していた通りの答えを聞き、やっぱりか。と呟いた。
いくらあっさり終わったとは言え腐っても闇のゲームだ。原作で描写されていたように問答無用で体が闇に飲まれたり、精神が闇に堕ちたりするものではないとはいえ何等かの影響を与えるものだと考えていた。
「流石に相手が直接死ぬようなことは出来ないとはいえこれでも精霊の端くれだから命令には強制力が発揮されるわ。」
「待て、お前精霊だったのか! 」
「今さら!? 分かっててデュエルしたんじゃないの! 」
「いや、ずっと厨二病の痛い子だと思ってた。」
少女は少年が自分の存在を認知していなかったことに落ち込み、あまつさえそんな相手に1ターンキルされたことに対し軽く鬱になったがすぐ持ち直し少年に言った。
「まぁいいわ私は敗者であなたは勝者。敗者は勝者にとやかく言うことなんて出来ないわ。」
「さぁ。闇のゲームの盟約に従い罰を言いなさい。私は甘んじて受けるわ。」
その問いに少年は少し考えると少女に対しとんでもないことを言った。
「よし、お前。俺のものになれ。」
瞬間空気が凍った。
「なっ、なにをいってんのよあんた!!! ふ、ふざけたこと言ってんじゃないふぁよ! 」
「動揺しすぎだろう。」
「誰のせいだと思ってんの! 」
「そ、それにだいたいなんであんたが私なんかを欲しがんのよ。意味が分からないわ! 」
「それについてはメリットは2つある。」
少年は少女の質問に対し、待ってました。とばかりに不敵な笑みをするとこのように答えた。
「まず1つ。仮とはいえ、精霊の力が手に入ることだ。」
『精霊』
遊戯王の作品においてはほとんどのシリーズで重要な位置な要素の1つであり、作品中で超常現象の説明にもなったりする場合がある。とくにこの世界であろうと推測される遊戯王GXと言う作品は特に精霊という要素が強く終盤には精霊と言う存在は大きく占めていた。
この力が手に入ることにより目標に1歩近づくことになる。
「2つ目、自分の身を守るに至っては精霊が必要となってくる場合がある。そのためにもこの機会を俺は逃せない。」
もし、すぐに帰ることができずGXという作品が終了するまでこの世界に残ることになった場合精霊がいることによって他の者よりも有利になる。
例えば4部のダークネスが現れた時、精霊がいるといないとでは状況が変わってくる。
精霊がいることによってダークネス世界に堕ちない可能性も大きくなる。
「精霊の力が必要なんてあんた、どんなやばいことに手を出すきなのよ? 」
「いずれ、分かるさ...いずれな...」
「何それ? 意味分かんない。答えになってないし。」
「...ただ...まぁしいて言うなら俺は帰りたい。」
「自分がいるべきであった場所にただ帰りたいんだ。」
それは少年がこの世界に来てから初めて人に対し自分の願いを話した瞬間だった。
「この世界は本来俺のいるべき場所ではない。自分でも何言ってんだってのは理解できる。この気持ちは誰にも分からないだろうし、分かって欲しいとも思わない。でもな! そんなことでもこれは俺のたった一つの願いだ! この目的のため、そう帰るためなら何だってすると堂々と言えるだけの願いなんだ! 」
「だからもう今一度聞く。俺のものになってくれ《アトラの蟲惑魔》よ! お前が望むならどんな対価も可能な限り差し出そう。だから頼む! 」
俺の夢を手伝ってくれ!
彼は鬼気迫る表情で言い終えた後少女に対しゲームの対価を言う。それは人から見れば少年の願いは支離滅裂で何を言っているのか理解されないだろう? 現に目の前の少女も少年が何を言っているのか理解出来なかった。
だが、少年が目的のためなら何だってする覚悟を持ちそれを行う意志があることだけは理解出来た。
「そう言えば聞いてなかったんだけど貴方、名は何というの? 」
唐突に少女名前を聞かれ少年はそういえば言ってなかったなと戸惑いながらも『橘 湊斗』だと返す。
その答えに満足したのか大きくうなずくと少女は語り出した。
「正直、私にはあなたがどうしてそんなにも帰りたがっているのかも...」
「どうしてそんなことのために何でもする覚悟があるのかは分からないし興味もないわ。」
少女は少年の告白に対しばっさりと切る。
「...まぁ、でも私はそんな貴方がどういうことを成すのかには興味が出たわ。」
「光栄に思いなさい。人間。私が貴方の夢ねがいを叶える手助けをしてあげる。」
「闇のデュエルの盟約により従うわ。私《アトラの蟲惑魔》は人間『橘 湊斗』に対し協力をすると。さぁ私のご主人様、精々飽きられないようにしてね。」
少女。いや《アトラの蟲惑魔》は少年に対し尊大な態度で命令した。少年にしてみればここまで偉そうに協力を申し出られたのは初めてだったが不思議と嫌な気はしなかった。
「おいおい、何がご主人様だ? それを言うなら共犯者だろうに。俺はこんな幼女を奴隷にした覚えはないぞ。もしかしてMか? 」
少年は呆れたような表情をした後、少女に対しおどけるような口調でからかった。
「なっ!? アンタせっかく私がかっこよく決めたのに何台無しにしてんのよ! 」
「知らなえな! お前が勝手に言っただけだろう? 」
「もう、あったま来た!! 許さないわよ!! 」
「捕まえられるもんなら捕まえてみやがれ! 」
少女はきれて少年をぶん殴ろうとしたが少年はそれを避け、当たるわけにはいかないと逃亡した。
逃げようとした少年は不思議と晴れやかな表情になっており、笑みを殺しながら少女から逃げるのであった。
闇で覆われていた空間はいつの間にかなくなっており、空には雲一つなく満月が祝福するように地上を照らし、星はただキラキラと輝いているのであった。
さて、これで少年と少女の邂逅は終わり2人の関係は主従ではなく、目標を果たそうとする者とその協力者という奇妙な関係になったのであった。