「もう決めたの? アンタ」
リトルココンが尋ねると、ライスシャワーは小さな体をいっそう小さく縮こまらせて顔を伏せた。
目の前のテーブルの上には、閉じられたままのメニューが置かれている。
「ううん……ライスは、いいよ」
「なんで? 甘いもんが嫌い?」
「そうじゃない、けど」
「べつに目玉が飛び出るってほど高くもないよ。奢ってもらう立場で言うことじゃないかもだけどさ」
「うん……でも、今日はいいかなって」
リトルココンはメニューをテーブルに置いた。ライスシャワーの硬い笑顔を正面から見つめる。
「おなか、いっぱい?」
「え……と、ううん、そういうわけじゃない、けど」
「思ってたより高級そうな店で、ビビってる?」
「ん……それは、ちょっと」
ライスシャワーが、ちらちらと左右に視線を泳がせる。
開店直後の午前中からそれなりに混んでいる店内には女性客がほとんどだったが、リトルココンたちのような学生年代は少ない。さらにウマ娘となると、完全に自分たちだけのようだ。
洗練された店内とその客層にはリトルココンも多少の気後れを感じないではなかったが、ライスシャワーにそれを気取られるのもなんだか
「──堂々としてりゃいいの、こういうときは。ここはお店、アタシらは客。それだけのことでしょ」
「うん……すごいね、ココンさんは」
「とにかく、アンタも頼むもの決めてよ。おっきなパフェをアタシひとりでパクついてたら、なんだか気まずいじゃん」
「でも……」
「でも?」
「これは、お詫びだから。ライスが悪かったのに、そのライスが美味しいのを食べてたら、なんだか」
「まったく──まだ言ってんの、そんなこと」
リトルココンはなかば投げやり気味に、手もとの呼び出しボタンを押した。
すぐに、若くて背の高い女性店員がやって来た。ふたりを交互に見比べるようにして笑顔を向け、ご注文をお伺いいたします──と端末を取り出した。
「えっと、このパフェをお願いします──ふたつ」
ライスシャワーが驚いたような表情で視線を寄こしてきたが、リトルココンは気づかぬふりで通した。
端末を操作しながら、店員がトッピングを尋ねてくる。いろいろと細かく好みを調整できるようでもあったが、勝手がわからず、結局ふたつとも同じようにスタンダードで無難なものを頼むことにした。
注文を復唱し丁寧に頭を下げた店員が厨房のほうへ下がっていくと、不安そうな表情をしたライスシャワーがすぐに切り出した。
「あの、ココンさん」
「なに」
「ふたつ、食べるの?」
「バカ。オグリさんじゃあるまいし」
「じゃあ、なんで」
「──優勝祝い」
「え?」
「昨日のレースの、ご祝儀。アタシから、アンタに」
ライスシャワーが目を丸くする。えぇ……と情けない声を上げた。
「ライスには……いいよ、そんな──」
「アタシなんかから祝われるのがイヤだっていうなら、べつにいいよ。くっそムカつきながら、アタシがふたつとも食べる」
リトルココンがまっすぐに見据えながらそう言うと、ライスシャワーは今にも泣きだしそうな顔になった。
食べはじめるまではずっと緊張した面持ちだったのが、アイスをひと
顔を輝かせるようにしてパフェをつついているライスシャワーを盗み見ながら、リトルココンは苦笑する。
──意外と、単純なやつ。
妙におどおどしていて繊細そのものの態度であるくせに、食べものへの反応は外見どおりの幼さで、真っ正直だ。
ターフの上で敵として見ていたときには、はっきりいって何を考えているのかわからない、不気味なウマ娘だと思っていた。
ドリンクの一件があそこまでこじれてしまったのは、そうした先入観のせいでもあったのかもしれない──リトルココンは今さらながらそう思った。
ライスシャワーは目の前で、幸せそうにスプーンを使っている。
リトルココンはうつむき、ため息をついた。
「ココンさん……?」
顔を上げると、手を止めたライスシャワーが心配そうにこちらを見つめていた。
「なにか、あったの……? あんまりそれ、好きじゃない……?」
リトルココンは慌てて首を振った。単純なやつと思って油断していると、意外にもこちらの様子をよく見ている。
適当に、言い訳を探した。
「いや、そうじゃなくてさ──すっごい久しぶりにこういうの食べたから、なんていうか、感極まっちゃって」
幾分か、これは真実でもある。
蜂蜜とレモンのソースがかかったバニラアイスが口の中で溶けていった瞬間、リトルココンは思わず涙をこぼしそうになった。自分でも大げさだとはわかっていたが、こんなに甘くて美味しいものは生まれて初めてかもしれない──とすら思えたのだった。
ああ──とライスシャワーが納得したように頷く。
「<ファースト>って、食べるものにすごく厳しいんだよね。やっぱり、たいへん?」
「べつに、そんなでもない。そりゃ最初ぐらいはちょっとつらかったけど、アタシたちがレースに勝ちたくてやってることだから」
「今日は、大丈夫なの?」
「今日は特別。──ほら、大事なレースが終わったからさ」
うん、とライスシャワーが頷く。
昨日のレースのことを話題に上げることでどのような反応があるか、リトルココンは注意深くライスシャワーを観察していた。
どういうわけか、ここにきて表情にまったく変化が見られなかった。
勝ち誇ったような顔をするでもなく、逆に照れているわけでもない。じつに淡々としたものだ。
調子を狂わされ、リトルココンは継ぐべき言葉を見失ってしまった。
ふたりともしばらく無言で、パフェをつつきあった。
中層部分に詰められていた半透明のジュレをひと掬い口に運んで、リトルココンはもう少し深入りすることにした。
「──アンタさ、昨日のレース、タイムいくつだったっけ」
忘れようのない数字を、あえて尋ねる。タイム上でのライスシャワーとリトルココンは同着だ。
パフェを掘る手を止めたライスシャワーが、視線を中空に向け、記憶を探るようにして答える。
「えっと……3分4秒3」
「それって、アンタのベストタイム? 練習だともっといい数字、出せてたりした?」
「ううん、ベストだよ。練習だとライスは一度も、4秒台、出せなかったから」
答えて、ライスシャワーはアイスを口に運んだ。
胸の内でリトルココンは、安堵の息を吐く。
あのタイムがライスシャワーにとっての「そこそこの数字」などであったりしたら、当分は立ち直れなかったかもしれない。
理子の指導から一時的に離反してからというもの、リトルココンには長い間「3分6秒2」が最大の「敵」であった。
データ分析における「神」である理子が設定したその目標タイムは、じつに絶妙なバランスで創造された「悪魔」と言えた。
リトルココンがそれを突破するのには、文字どおり死ぬような思いでの努力を要求された。
そして多くの場合、目標タイムは一度破ってしまえばあとはコンスタントにそれを上回るタイムを出せるようになるものなのだが、「3分6秒2」は幾度もリトルココンの足を引っ張り、泥沼に引きずり込もうと付き纏ってきた。
レース当日の朝に計測した「3分4秒8」はそれまでで突出したリトルココンのベストタイムだったが、本番のレースで叩き出した数字は、それをさらにコンマ5秒も更新するものだった。
あれ以上の走りはもうできないかもしれない。
そう思えるほどの完全な上振れ、会心の走りだった。
──でも、負けた。
タイム上では同着。写真判定にまでもつれ込み、わずかに「ハナの差」で敗れたのだが、そのわずかな差が、リトルココンにとっては絶望的なまでの隔たりだった。
限界を超えた自分の最高到達点を、さらに上回ってくるウマ娘が同世代にいる。
気がつくと、スプーンの柄を握りしめていた。
一方のライスシャワーは淡々と、パフェを掘り進めている。
リトルココンは目を閉じて息を整えてから、目の前の相手を見据えて言った。
「つまりアンタは──本番で、アンタの限界を超えたわけだ」
ライスシャワーが顔を上げ、リトルココンを正面から見つめ返す。
こっくりと頷いた。
そのまま特に何か言葉を発しようとはしてこないので、リトルココンはわずかに焦れ、続けて尋ねた。
「なぜ」
「──なぜ?」
「なぜ……自分が勝てたと思う? こっちだってあのとき、自分の限界を超えてたんだ。あれだけの走りができれば、アタシは絶対に負けない──そう思えるほどの走りだった。終盤のスパートには誰もついてこられるはずなんてなかったのに、アンタは最後の直線でアタシを差した──」
言って、リトルココンは唇を噛みしめる。
負けた悔しさが、今になって胸にあふれてきた。
あのときは、理子のことで頭がいっぱいになって、肝心の勝敗がどこかに吹き飛んでしまっていた。
──バカだ。大バカだ、アタシは。
いちばん大事なレースで負けていながら、どうしてあのとき、悔しいと思わなかったのか。
自分のせいで、<ファースト>が、みんなが負けてしまったのに──。
「──ライスが、ひとりじゃなかったから」
突然言われて、リトルココンは我に返った。
見ると、いつの間にかライスシャワーはパフェを食べ終えたようだった。両手は膝の上、ちんまりとした姿勢で椅子に収まっている。
テーブルに置いたスプーンを見つめるようにして、ライスシャワーが再び口を開いた。
「ライスがひとりだったら、あんなタイムにはならなかったと思う」
重ねて言われて、リトルココンは口の端で嗤う。
「なるほどね──仲間との絆ってヤツ?」
皮肉まじりに言った。
またその手の綺麗事か、という思いがある。
聞き飽きていた。
レースで勝ったウマ娘が、インタビューでさも得意げに口にする決まり文句のひとつだ。
「仲間のおかげで勝てた」という言葉と感謝がまったくの嘘だとはリトルココンも思わないが、それが決定的な勝因にはなりえない。
同時に出走するチームメイトがあれこれお膳立てしてくれたとしても、最後に脚を前に運ぶのは、当のウマ娘本人でしかありえないからだ。
走りの技術的な部分や、細かいレースの駆け引きを大真面目に語ったところで、大多数の素人を相手に商売しなくてはならないマスコミからはウケが悪く、下手をすれば「もう少しわかりやすい言葉で」と言い直しまで要求されることすらある。
だから皆、インタビューでは「仲間の絆」などという薄っぺらな、大半の浅い視聴者を喜ばせるための無難なフレーズをとりあえず口にするのだ。
ウマ娘同士の会話でそうした綺麗事を持ち出すのは、自分の作戦を隠しておくためか、単に救いがたいバカであるか、どちらかに違いないとリトルココンは思っていた。
前者であればそれを責める気はないが、いま目の前にいるウマ娘はおそらく後者のほうだ──だからリトルココンは意識せず、少なからぬ軽蔑の念のこもった視線をライスシャワーへと向けた。
穏やかな微笑を浮かべているライスシャワーは、ほとんど空になったパフェのグラスを見つめながら、ゆっくりと首を振った。
「ううん、そうじゃなくて──ココンさんがいたから、だよ」
「──え?」
リトルココンは眉をひそめたが、ライスシャワーは気がつく様子もなく続けて言う。
「ココンさんと走れたから、ライスも一緒に、すごいところまで行けたと思ってる。……本当に、すごかった。今でもまだ、あのレースが夢だったんじゃないかって、ちょっと、そう思うんだ」
ライスシャワーはグラスの縁に指で触れ、ため息をついた。過ぎ去った何かを懐かしんでいるかのように見えた。
「あのね、お──トレーナーさんがね、ライスに繰り返し、言ってたんだ。『リトルココンは本番で必ず限界を超えてくる』って。『だから、信じるんだ』って」
「……信じるって、何を」
「ココンさんを、だよ。『リトルココンはぜったいに本番ですごい走りをする』──何度も何度もそう言われてたから、ライスはそれについてけるようにって、ずっとそのための練習だけをしてたんだ」
リトルココンはその瞬間、昨日のレースの風景を脳裏に描いていた。
スタート直後からずっと、小さな違和感があった。
いつもなら中位より前方に位置取りしているはずのライスシャワーの姿が、そのときにかぎってどこにも見えなかった。
スタートで出遅れたか。あるいは脚に不調でも生じたのか。
自分をなかば無理やりに納得させて、すぐにその「雑念」を追い払ってしまっていた。
それが、とんでもないミスだったのだ。
「ずっと……アタシの背中に張りついてたのか」
リトルココンは独りごとのつもりで呟いたのだが、ライスシャワーはこっくりと頷いた。
「ココンさんについてく、ついてくんだって、ずっと、そのことだけ考えてた」
「信じられない……昨日のアタシなら、アンタどころかドリームに出てくるようなウマだって、ぜったいに千切れてたはずだった。そういう走りだったんだ、あれは」
「うん……ほんとに、走ってるあいだ何度も、もう離される、離されちゃう、って思ったよ。それまでやってきたどんな練習より、きつかった」
スプーンを握りしめたまま、リトルココンは頭を抱えた。
徹底マークといえば単純な策に聞こえがちだが、遂行しきるのは意外と難しい。マークの対象がどんな走りをするのか、レースが始まるまでに予想するのは困難だからだ。
対象に出遅れや不調があれば、ふたりで共倒れになりかねない。
だから普通はマークの対象が集団から遅れた場合に備え、それを捨てていく「Bプラン」も用意しておくことになる。
だが、ライスシャワーのトレーナーはそうしなかった。すればライスシャワーに迷いが生じ、リトルココンに千切られる恐れがあると考えたからに違いない。
──コイツは、コイツらは……アタシを信用してたんだ。アタシが本番で限界を超えて、最高の走りをしてくるって……。
顔を上げて、ライスシャワーを見る。いつの間にか、ライスシャワーはリトルココンを心配そうに覗き込んでいた。大きな眼を、二度三度と瞬かせてくる。
リトルココンは声を絞り出すようにして訊いた。
「……タイムは、いくつ」
「え?」
「練習の設定タイム。アンタたち、アタシがトータル何秒で回るって想定してた?」
「あ……えっと……3分6秒1、だったよ。最初は」
「最初は?」
「うん。本番に向けた練習の、最初。でも、練習のたびにどんどん目標タイムが上がってって……」
「最後には?」
「最後には、3分4秒9、だよ。……練習だと、ライスはついてくことができてなかった、けど」
リトルココンは一瞬呆れ、すぐに失笑してしまった。
──完全に、読まれてたってことか。
理子の設定した「3分6秒2」も、自分がレース当日の朝に叩き出した「3分4秒8」も、むこうの想定からすればきっちりコンマ1秒の誤差範囲におさまっていたことになる。
そういうトレーニングを重ねてきたライスシャワーであったから、ペースがさらに上がった本番においても、リトルココンの走りに対応することができたのだ。
しかし──。
「──もしアタシが、逆にアンタをマークする作戦で来てたら? お互いがお互いの背中を取り合ったりしたら、共倒れになってたはずだ」
リトルココンはさらに疑問をぶつけてみた。
ライスシャワーはそれまでのレースで「先行」策を採ることが多く、リトルココンの本来の脚質はどちらかといえば「差し」寄りだ。したがって、マークの順序からいえば当日とは逆であってもおかしくなかった。
以前のレースでは理子の指示で、有力
ライスシャワーは、神妙な表情で頷いて言う。
「うん。ライスはそういうの、あんまりよくわからなかったんだけど、同じチームのフクキタルさんが訊いてみたことがあったの。ココンさんたちが同じ作戦で来たらどうします、って。なんだかその日の占いで、『鏡に注意』って出たって言ってて──あ、フクキタルさんはね、占いがすっごく好きで──」
「──で?」
「あ、えっと……お──トレーナーさんは、『気にしなくていいよ』って。いま、ココンさんたちがそうすることはないからって。ライスたちには、意味がよくわからなかったんだけど……」
リトルココンは、ハッとした。
その会話がなされたとき、リトルココンたちは理子の管理から「独立」しようとしている時期だったはずだ。
リトルココンもビターグラッセも、理子のトレーニング方法の分析と模倣こそやってはいたのだが、対戦相手のスカウティングまでは頭も手も回っていなかった。
自分たちが限界を超えることさえできれば、そこについてこられる相手などいるはずがない──そういう自信の過剰さもあったのかもしれない。
──あの、トレーナーか。
リトルココンは、ライスシャワーのチームの担当トレーナーを思い浮かべる。
何か強い印象のある人物ではなかった。会話らしい会話も、ほとんどしたことがない。
しかしときおり、練習への行き帰り途中のリトルココンたちと視線を交わすことがあったのだけは、なんとなく記憶している。
──<ファースト>に実質的なトレーナーがいなくなったことまで、織り込み済みだったんだ。
いつもどおりに理子がチームを管理し指揮していたのなら、ライスシャワーによる徹底マークを事前に予想し、綿密な対策をリトルココンに授けてくれていたはずだ。
しかし<ファースト>は当時、理子の管理下でのチーム練習をボイコットしていた。
──自分たちの走りをどう向上させるかばかりで、戦術的な駆け引きを考えてる余裕なんて、アタシたちにはなかった。
そこまで、読まれていた。
相手のトレーナーは<ファースト>の特殊な事情をすべて読んだうえで、レース中盤から過去最高のペースで集団を抜け出していくリトルココンを追走するという無謀な作戦を立案し、それを想定したトレーニングでライスシャワーを鍛え上げた。
そして本番において、ライスシャワーはその作戦を完璧に貫徹してみせた。
当日のリトルココンが、想定よりもはるかに速いペースでレースを進行させていたのにもかかわらず──。
リトルココンの背中だけを追って走るライスシャワーを見た瞬間、スタンドの理子はその作戦の意図するところを即座に察知したはずだ。
過去最高の走りをしながら、まったく互角の走りによって徹底的なマークを受け、最終直線での競り合いに持ち込まれたすえに、ゴール寸前で見事に「刺された」。
リトルココンが仕留められる一部始終を目撃し、その敗戦が自らの「不在」のせいだと、理子が激しく自責したことは間違いない。
──『すべては、私の責任でした』
昨日、悲痛さを必死に抑えながら理子が発したその言葉が、リトルココンの耳の奥で響く。
違う──と、学園で会議中の理子のところまで今すぐ走って行って、言ってあげたかった。
──あなたは何も悪くない。誰も、悪くなんかなかったんです。
──アタシが、アタシたちが、あなたの管理を離れて練習していたのは、それがアタシたち<ファースト>のみんなのために、必要なことだったからです。
──だからレースに負けたのがスカウティング不足のせいだったとしても、アタシたちがあなたに恨みごとを言える筋合いなんてない。でも、自分たちの行動を後悔したりもしない。
──あなたも含めた<ファースト>みんながもっと強くなるために、この敗戦があったんです。
──負けたのは悔しい。でも、だからこそ、アタシたちは強くなる。
──あなたと一緒に、もっと強くなりたいんです。
──みんな一緒に、強くなりましょう。
──強くなって、勝つんです。
──次は、必ず。
想念がとめどなく、リトルココンの頭の中で再生される。
「あの、ココンさん──」
不意に声をかけられて我に返り、リトルココンはライスシャワーを見た。
「その……パフェのアイス、溶けちゃってるけど──」
ライスシャワーが控えめに、リトルココンの手もとを指さしている。
指さされた先にある自分のグラスを見ると、残っていたアイスがほとんど原型を留めないぐらいに溶けていた。グラスの下層には様々なカットフルーツが詰められていて、溶けたアイスのクリームと混ざり合い、少しばかりグロテスクともいえるような様相を呈していた。
リトルココンは、小さく肩をすくめてみせた。
グラスの中にスプーンを突っ込み、クリームの中からフルーツをひと切れ、救出する。
クリームがスプーンから滴り、グラスの中へと落ちた。
不安そうな視線を向けてくるライスシャワーに、リトルココンは余裕の笑みを精一杯つくってみせた。
「これはね──わざと」
「わざと?」
リトルココンは頷き、クリームまみれのフルーツを口の中に放り込んだ。
見栄えは酷いが、べつに味まで悪いわけではない。
ただ、温くなって甘ったるすぎるというだけのことだ。
「……たまーにね、アタシはこうやって食べるの。溶けたアイスのクリームを、フルーツにちょっと絡めて」
「そう……なの? そういう食べ方があるんだ?」
「うん。次はライスもやってみなよ。見かけほどには悪くないから」
ライスシャワーは、軽く握った拳を口もとに当てるようにして、くすくすと笑いだした。リトルココンの眼から見ても、なんとも愛らしい笑顔だった。
「そうなんだ──てっきり、ライスがいろいろ話しかけてたせいで、ココンさん、パフェ食べるの、忘れちゃったのかと思った」
「話しかけてたのはライスからじゃないでしょ。だいたい、自分が食べてることを忘れるようなマヌケじゃないんだよ、アタシは」
「だよね」
「だよ」
ライスシャワーは、いとけなく笑いつづけている。
リトルココンもつられて笑ってしまった。
レースで競り負けた相手とこうして話しながら笑い合っていることそのものが、リトルココンにはどうにも不思議な感じだった。
──アタシは、この手の馴れ合いがいちばん嫌いだった。馴染もうと思ったことなんて、一度だってなかった……。
だが今は、ライスシャワーの無邪気な笑顔を眺めていることが妙に心地良い。
目の前にいるウマ娘は、もはや「敵」ではなかった。
あの唯一無二のレースを、最後の競り合いの瞬間を、共有し合うことのできた貴重な相手だ。
リトルココンはフルーツのもうひと切れをクリームの中から掬い上げ、じっと見つめた。
少しだけ笑んで、口の中でふと呟く。
「そうだね……こういうのも、悪くないかもね。たまには、さ」