ウマ娘インフィニティートライング-83世代- 作:ケイカイフトワーク
『ウマ娘』。彼女たちは、走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走るーー。それが、彼女たちの運命。
この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指してーー。
-府中 東京レース場-
<いったい日本のレベルはどれ程なのでございましょう。
その疑問に答えるべく今日ここに第一回ジャパンカップが開かれます! >
<世界各国から強豪たちが集っています、日本代表も負けてられませんね。>
実況解説の声に被さりパドックから出てきたウマ娘たちに歓声が降り注ぐ。10年前からURAが模索していた日本での国際競争がようやく実現しこれにウマ娘ファンたちは大いに歓喜している。会場のボルテージは最高潮である。
そんな中、身を屈めながらスマホを持ちなにやら電話をしている男がいた。
「聞こえるかこの大歓声!こっちは今なら銃を撃っても誰も気づかないだろうぜ。親父も来ればよかったのに」
「バカ言え…おい土出(つちで)トレーナー、お前本当に日本のウマ娘が勝てると思っているのか。」
電話口から低く威厳のある声が聞こえてくる。
一方若く、目立ったシワもない会場で父親と話しているこの男は、見た目からどうやら新人トレーナーなのだろう。
「トレーナー呼びは止めてくれよ。今日走る奴はいないんだ、オフの時くらい名前で良いだろ」
「ふん、トレーナーがレースを見に行くのは立派な仕事だ。お前こそトレセンに居るときくらい『親父』ではなく『土出さん』と呼べ」
「はいはい、分かりましたよ……でもよ親父、やっぱり俺は日本代表が勝つ確率が高いと思っているんだ」
この男も一年目とはいえトレーナーだ。確証も無しに言っている訳ではない。
①府中には最後に坂がある、この坂に慣れている日本勢とぶっつけ本番の海外勢では差が出ると考えている
②日本からは秋天を勝ったホウヨウボーイ、クラシック路線で善戦したモンテプリンスを始めスターウマ娘が名を連ねているが海外勢に芝で一流の欧州からの参戦はなく芝に脚光が当たらないアメリカ組が半分を占め、更に殆どがG1を勝っていないこと
乱暴にまとめると、日本のスターウマ娘連合がホームで海外の二流ウマ娘を迎え撃つのだ。負けるはずがない。
「…土出トレーナー、このレースちゃんと見ておけ。」
父親は特に反論することはなく通話はここで終わった。すでに奇数のウマ娘がゲートに入り始めており間もなくゲートから一斉にウマ娘たちが飛び出した。
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ジャパンカップ設立に沸く観客の中にも一抹の不安はあった。そしてバ群が第四コーナーを過ぎて直線勝負となった時、曖昧だった不安は確信に、そして絶望に変わった…
<海外勢が1、2、3、4着を独占! 日本勢は完全に敗れました…>
こだまする実況の声さえ土出トレーナー改め土出一(はじめ)には届いていない。目の前で起こった事が未だに信じられないのだ。
<…し、しかもこの2:25:3という勝ち時計は2400mのコースレコード、日本新記録であります>
これまで日本のウマ娘達が築き上げてきた記録は欧州のスターウマ娘などではなく祖国ではG1を1つ取るために悪戦苦闘しているウマ娘にあっさりと上書きされてしまった。
スタート前の熱気はどこへやら、愕然とする者、嘆き悲しむもの、今会場にいるもの全員が日本と世界のレベルの違いを痛感していた。
一もまた天を見上げながらハハ…と乾いた笑みを溢し、
「これは10年は掛かるな…」
と呟いた。今ならこの呟きも隣のものに聞こえるだろう。
1着 メアジードーツ 米 R2:25:3
2着 フロストキング 加 1
3着 ザベリワン 米 1.1/2
4着 ペティテート 米 アタマ
5着 ゴールドスペンサー 日 1/2
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「ふん、やっぱりな」
職業柄今回の結末を見抜いていた土出父はレースが終わるとすぐにテレビに近づき、チャンネルをグリグリ回して特に見たいものがないことを確認してから電源を切った。
次いで携帯に目を向けたがいつまで経っても息子からの着信がない。おそらく放心状態なのだろう。心情は良く分かるのでこちらからは掛けず、しばらくしてからフラリと外に出た。
外はすっかり冬の様相で並木に覆い茂る葉もほとんど地面に落ちている。夏の頃の輝きはもうこの木にはないのだ。
この男、トレセンでもベテランよりのトレーナーではあるが最近はどうも指導に力が入らずそろそろ引退も考えている。息子もトレセンに入れたことだし、自分なりにURAに貢献したつもりでいる。
「結局、俺がこのトレーナー生活で手に入れたことといえばちょっとしたスカウトに対する直感位か。」
土出父はトレーナーとしては一流ではなかったかもしれないがトレセンでは有名人だった。彼はデビュー前のウマ娘の素質を見抜いて相性の良さそうなトレーナーに引き合わせる、要は仲介業者のようなことをして一定の評価を得ていたのだ。この直感が自分にも使えたら一番いいのだが…まあ現実はそう甘くはないということだ。
「あ、あの~すみません」
しばらくぼうっと歩いていたら後ろから呼び止められた。我に返り足元を見ると、なるほどウマ娘専用レーンにがっつりと入っている。先の見やすい道を歩いていたので後ろのウマ娘が気づいてくれたのだろう。
「すまないお嬢ちゃん、考え事をしてたんだ。走りの邪魔をして悪かった」
「えーと、それもあるんですけど…おじさん、ジャパンカップ見てましたか?」
聞けばこのウマ娘、スタート前の緊張に我慢できず走り出してしまい今に至るまで結果を知らないのだそうだ。とはいえ夕方のニュース番組まで待てずこうして聞いてきたらしい。
「そう…でしたか。やっぱり世界は遠いですね」
「でも5着には入ったんですよね。ならば望みはあります、日本代表もやはり捨てたものではないですね!」
言葉の上では強がっているが声のトーンは明らかに落ちている。やはりショックなのだろう。
しばらく沈黙が続いたが土出父が口を開く、
「ところでお嬢ちゃんはどこのチームなんだ。すまねぇが見たことがないんだ」
仲介業者のようなことをやっている男だ。選抜レースには皆勤賞の土出父だが彼女を見たことがない。もしかするとまだ…
「あ、トレーナーさんだったのですか。エヘヘ…私、来年入学するんです。来年って言ってもあと半年もないんですけど」
「ほぉ、じゃあ将来有望な蕾といったところだな」
「えぇ、えぇ! そしていつかはウマ娘の『エース』になります!」
その後、意気投合した二人はしばらく話し合った。ジャパンカップの詳細、スターウマ娘の今後の動向、果ては土出父や息子のトレーナーとしての日常など。
気が付けば日は傾き始め冬の空は赤く染まり始めている。
「そろそろ帰らないと、日本初の海外ウマ娘によるウイニングライブはちゃんと見ておきたいですから」
「ああそうだな、楽しかったよお嬢ちゃん。選抜レースの時は見に行くからな」
そういうと彼女は西日に向かって走っていく。その走りは力強く、何か惹かれるものを感じた。土出父は大きな声で彼女に呼びかける。
「お嬢ちゃん! 名前を聞いておきたい!」
声を聴いたウマ娘は振り返りそして土出父に負けない声量で、
「私、カツラギエースです!」
気が付くとカツラギエースははるか彼方に走っていった。彼女のいた場所に夕日が沈んでい行く、それは土出父にとってこれまでのウマ娘界の世界に終わりをつげ、新たな世代による新時代の到来を予感させるものだった。
こんにちは、ケイカイフトワークです。太枠とでも呼んでください。
今回初めて小説を世に出しましたのでいろいろ見難いところもあったでしょう、先に謝罪しておきます。
何かアドバイスがございましたらコメントに書いてくださると為になりますのでよろしくお願いします。
最後になりますが今後も不定期ながら続きは頑張って書きますので温かい目で見守っていてくださると幸いです。皆さんも良きウマ娘/競馬ライフを。