ウマ娘インフィニティートライング-83世代-   作:ケイカイフトワーク

4 / 4
4話 最高のデビュー戦(1982年9/19阪神6Rデビュー戦)

ー翌朝ー

 

 練習用トラックの方向から掛け声が聞こえる。練習熱心なチームが朝早くから練習しているようだ。

 掛け声以外に聞こえるのは雀の鳴き声くらい、静かな早朝にカツラギエースと土出父はこれからエースが所属することになる土出父の息子のトレーナー部屋の前に来ていた。

 

「土出トレーナー、俺だ。居るか?」

 

 土出父が扉に手をかけガラリと開く。そこには服装や身長は大分違うが、若い頃の土出父のような人物が、この人が息子さんなのだろう。

 

「紹介しようエース、こいつが俺の息子の土出(はじめ)、まぁ、しがないトレーナーだ」

 

「ご挨拶だな親父」

 

「ふん、文句はG1ウマ娘でも出してから言いやがれ」

 

 多少言葉は粗っぽいかもしれないが仲は良さそうだ。一が幼い頃から師弟関係だったので何かと踏みいった話もできるからこそこの言葉使いなのかもしれない。

 

「一さん、私カツラギエースといいます。ウマ娘の『エース』に成るために今日からよろしくお願いします!」

 

「…ああ、宜しく」

 

  少しよそよそしい態度で一が挨拶する。

 

「なぁエース…って呼ばせてもらうぞ。今日は体力とかの基礎能力を詳しく知りたいからまずは外周を走ってきてくれ

 

 そう言うと一はコース順を書いた紙とタイマーをエースに手渡した。走ってタイムを図ってこいと言うことだろう。

受け取ったエースははい!と元気の良い返事をしてそのまま部屋を出ていったので部屋には一と土出父が残された。

 

「なぁ親父、ホントに勧誘するときウマ娘ためだけじゃなく息子のためでもあるって言ったのか?」

 

「言ったさ、お前が言えってしつこいからな。それでもついてきた」

 

「…物好きなウマ娘だ」

 

 一が少し呆れたようなしぐさをすると、土出父はガハハと大胆に笑った。

 

「エースが物好きなウマ娘なら、お前も物好きな奴と云う事になるな、土出トレーナー」

 

「俺とエースは似ているって言ってたことか」

 

 そう言うことだ、と土出父が言うとまたガハハと笑い出した。

 その後しばらく話した後、土出父はエースを頼むと言って帰っていった。

 

「お前はこれからエースのトレーナーだ。言いたいことは今のうちにいっておけよ」

 

 という一言もついでに。

 更にしばらくするとエースが息を切らしながら帰っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「改めて、チーム『プロメテウス』にようこそカツラギエース。」

 

「はい、これから宜しくお願いします」

 

 紙に書いたコースを走ってその他のメニューをこなしていると授業開始時刻まで三十分前という時間になった。

 エースはそろそろ教室にいこうとしていたが少しだけだからと言って一が引き留めた。

 

「…はっきり言わせてもらうと、俺は少し怖いんだ」

 

 土出父が去り際に言った言葉に背中を押され一は話し始めた。

 高校の頃からとはいえ父からの英才教育を受けてきた一だった。ぼんやりと、良い感じに戦えるのではと思っていた。しかし去年の成績は理想とは大きく離れていた、天狗になっていた鼻はへし折られていた。父からは「まだまだこれからだ」と言われたが漠然な希望は大きな不安になっていた。

 去年のシーズンが終わってからしばらくして、土出父から「お前に合ったウマ娘を見つけたかもしれない」と言われた。

 またとないチャンスだが…

 

「もしお前をスターウマ娘に出来なかったら俺は…トレーナーの才能が無いという事になる。……親父からお前が来ると聞いた昨日はあまり眠れなかった。すまんな、こんなトレーナーで」

 

 一は去年のショックからまだ立ち直れていないのだろう。

 

「…ねぇトレーナーさん、私は今の自分がクラスの中で一番速いなんて思っていませんよ」

 

 しばらくの沈黙の後、エースが口を開いた。

 

 エースも入学早々、同学年に怪物を見た。トレセンに入学すれば後はなんやかんやあって三年もすれば『エース』に成れるという甘い計画は消し飛び、『エース』に成るにはあの怪物たちと真っ向から戦わなければと思っている。

 

「土出さんの勧誘にすんなりと従ったのも早く、強くならないといけないからです。今はクラスのその他大勢でも必ず成長して『エース』になります。その思いでここに来ました。」

 

 改めてエースは土出トレーナーの方を見る。

 

「…お父さんのウマ娘を見る目は確かなんですよね?」

 

「ああ、それは間違いない。俺が一番近くで見ていた。」

 

「じゃあ信じてみませんか、一番速くもなく、一番上手くもない私たちが手を組めば、『エース』に成れる! 」

 

 まだ不安は消えてない。それでも、

 

「分かったエース、今日から共に頑張ろう。そしてまずはデビュー戦、俺たちの第一歩、必ず勝とう!」

 

 出会ったばかりの二人の距離は少し縮まった。

 そしてその日からエースの猛特訓が始まり、彼女のベッド側の壁には「デビュー戦 ゼッタイ勝つ!」と書かれた紙が貼られていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ー9月 寮部屋ー

 

「あ~疲れた~」

 

 倒れ込んだベッドの壁に「デビュー戦 ゼッタイ勝つ!」と書いてからもうすぐ半年が経とうとしている。あんなにドキドキしながら教室のドアも今は慣れて何てこともない。

 

 毎年日本ダービーが終わると私たちジュニア級のデビュー戦が始まる。すでに学園のあちこちから悲喜こもごものデビュー戦に関する話題が聞こえてくる。

 そんな中、当のエースたちは、

 

「良いかエース、ビックレースの出走が約束されているような前評判の高いウマ娘は6、7月の早い時期に出ることは少ない。そういうウマ娘はデビュー戦なんて勝って当たり前という見積もりのもとじっくりと仕上げてきた状態でデビュー戦に望むんだ」

 

 つまり…

 

「9月! 前評判の良いウマ娘が出てくるこの時期にお前をぶつける!」

 

 デビュー戦に勝つと言っても役者が揃うデビュー戦を勝つ、それでこそエースたちの力を示せるものだ。という算段のもと現在はデビュー戦に向けて最終調整を行っている。

 

「お疲れ様です、でも今から疲れていてはデビュー戦も勝てませんよ」

 

「コバンちゃん…うん、今日もしっかり寝ないとね」

 

 コバンは顔からベッドに突っ込んだエースが面白かったのか隣のベッドの上でクスクスと笑っている。エースはベッドから顔をあげ、コバンの方を向きながら、

 

「あ、そうだ。デビュー戦と言えば私のデビュー日決まったんだよ」

 

「そうですか! いつなのですか」

 

「えっとね…9月19日の阪神レース場! 当日見に来てね」

 

 デビュー戦まで残り2週間もない、エースの練習は更に気合いが入っていった。

 

「コバンちゃんが見に来る…負けられない理由がひとつ増えた、かな」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ー9月19日 阪神レース場ー

 

 ついにこの日がやって来た…1つ前のレースの歓声が聞こえるカツラギエースの控え室には土出トレーナーとエースがいる。

 

「7番人気…やることはやって来ました」

 

「あぁ、特にスパートのタイミング合わせにはホントに苦労してきた」

 

 模擬レースでもスターとするとすぐに前にいきたがる癖のあるエースを落ち着かせるのはこの半年間最大の課題だった。それも少しは落ち着いただろう。

 

「あはは…そろそろパドックの時間なので行ってきますね。私たちの半年間の成果、見せてきます!」

 

 そう言うとエースはパドックに向かう地下バ道を歩いていった。一もエースを見送って少しすると無言のまま観客席の方へ歩き始めた。

 

 観客席の方へいくと前の方の席がまだ空いていた。特になにも考えずにその席に座った。

 一がウマ娘のトゥインクルシリーズにはまったのはこうやって一番前で見たレースがきっかけだ、以来ビックレースがあればトレーニングもそっちのけにして観戦に行っているほどだ。

 そんな一だが、

 

「頼む、頼む…勝ってくれぇ……」

 

 これ程までに一人のウマ娘の勝利を願ったのは初めてだ。出会ったその日に弱音をはくようなトレーナーに付いてきてくれた、半年もだ。そんなエースに少しでも報われてほしい。

 

 しばらくして遂に開幕のファンファーレが鳴り響いた。ウマ娘たちが続々とゲートに入り…スタート! 一団は勢いよく飛び出し第1コーナーめがけて駆けていく。

 

<さぁ将来のダービーウマ娘たちが駆けていきますデビュー戦、3、4番手辺りにはカツラギエース>

 

 手持ちのラジオから実況の声が聞こえる。どうやら作戦通りいつでもスパートをかけられる先行策で走っているそうだ。

 デビュー戦は1200mから1600m辺りが多い。

(100m走とフルマラソン、走った後の疲労感が違うのは想像に難くない。結局のところ人もウマ娘も短い距離の方が楽なのだ。まだまだ本格化がすんでいないウマ娘には短距離の方が良い。)

短距離走は瞬発力勝負になるので最終直線で前にいる逃げ、先行が圧倒的に有利なのだ。

 

<隊列そのまま、最終コーナーへ向かって14人が上がってきました>

 

「よぉ、担当ウマ娘の晴れ舞台にしかめっ面してうつ向いているアホのトレーナーはここか」

 

「親父…」

 

 一の隣に土出父が座ってきた、彼の目はまっすぐとエースの方を見ている。

 

「ちゃんと顔上げて見ろ、エースが勝つことを信じて応援してやれ。それが今トレーナーができる唯一の事だ」

 

 短距離走は短く、レースはまもなく最終直線に差し掛かる。前のウマ娘の影に見え隠れしながらエースは懸命に走っている。

 

「エーースッ! 走れーー!」

 

 一は気が付くと立ち上がり前の柵にしがみついていた、うつ向きながら祈っていた思いを今は全力でエースにぶつけていた。

 

 その時、一にはエースが少し笑ったように見えた。

 そして次の瞬間…

 

<おおっと!直線に差し掛かった直後、外からものすごい勢いで上がってくるウマ娘がいるぞ!>

 

「来たっ!」

 

<カツラギエース、カツラギエースだ! カツラギエースがぐんぐん伸びる。2バ身、3バ身、これは強い!>

 

 エースの視界が一気に開けた。後ろからの足音は遠ざかっていき、前に遮るものはなにもない。しかしゴールはまだ先だ、足を緩めることはない。

 

「まだまだ!」

 

<カツラギエース、5バ身、6バ身、突き放す! これは圧勝ムード。とんでもないウマ娘がやって来たぞ!>

 

<ゴールッ! カツラギエース圧勝、結果的には8バ身の差をつけて悠々とゴールしました。期待の新星がまたひとつここに誕生しました>

 

 揺れる阪神レース場、7番人気のカツラギエースが圧勝劇を繰り広げたのだ。観客からは惜しみ無い拍手が送られていた。

 

「さぁて、ウマ娘が最高の結果で答えてくれたぜ。お前はどうするんだ? トレーナーさんよ」

 

 土出父はゴールした後に観客たちに笑顔で手を振るエースを見ながら言った。しかし彼の言葉は一には届いていなかった。

 

「す、すげぇ…」

 

 一は初めて見たレースを思い出していた。あの時の素晴らしい記憶は覚えているが、こんなレースは見たことがない。こんなにも夢を見せてくれるウマ娘は…

 

「エース!」

 

 この気持ちの赴くままにエースのもとに駆けていった。エースも気づいたのか振り返る

 

「トレーナーさん、どうですか私たちのコンビは、どうですか私の走りは」

 

「最高だ…最高だよ。なあエース、俺は決めたぞ今後何があってもお前を『エース』にする。俺は今日、夢を叶えてもらったんだ、今度はお前の夢を叶える。お前を『エース』に!」

 

 カツラギエースは待ってましたと言わんばかりに言葉を重ねる

 

「はい、トレーナーさん、これからお願いします」

 

 こうしてカツラギエースたちは『エース』になるために走り始めたのだ。

 

 

 

9/11 阪神6R デビュー戦

 

1着  カツラギエース 1:10:4

2着 クリヤーランサー  8

3着  アイノスピード 1.1/4

4着  ベニダーレン  2.1/4

5着  オートバッカス  1/2

 

 

 

 




こんにちは、ケイカイフトワークです。太枠とでも呼んでください。

先週まさかのタイトルホルダーが菊花賞勝利、これでダイナカール→エアグルーヴ→アドマイヤグルーヴ→ドゥラメンテ→タイトルホルダーと親子5代G1制覇となりましたね。
83世代の血が繋がることは本当にめでたいことです。次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。