貴方の病んだ幻想入り   作:回忌

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隻眼の白狼

湖を渡る

その木で出来た船はギギギと軋んだ音を時たま出す

行くところは一つ、妖怪の山だ

 

霧の湖を進む

 

波が湖を裂いて進んでいく

 

振り向くと、紅魔館が見えた

紅い建物はドンドンと霧に阻まれていく

窓から吸血鬼の姉妹がこちらを見ていた

その表情は見えなかった

 

…例え、見えていても関係無いのだけれど

 

貴方は合わないタバコを咥え、火をつける

苦い煙の味が貴方を現実へと戻していく

先程まで、夢だと思っていたものが本物になる

 

貴方はそれらを煙にして吐いた

 

「アンタも大変だね」

 

後ろから声がした

 

 煩い、この出オチ野郎が

 

「…止めておくれ」

 

赤い髪、大きな刃が捻れた鎌

見てわかる通り彼女は死神だった

 

…小野塚小町

 

 この依頼は誰から…まぁ大体察せるが

 

「聞かなくていいさ」

 

八雲の力が働いている事だろう

…驚きなのはそれを映姫が許可した事だが

小町は乾いた笑いを零す

 

「閻魔の心を動かすアンタは何なのかね…」

 

 俺が1番聞きたいね

 

貴方が思っている事だ

普通に生活しているのに、狂う

何もしなくても、狂う

狂う

 

 …どち道にしろ、か

 

「…さ、ついたよ」

 

ガコンと船が揺れる

横には桟橋があった

 

 ありがとよ

 

「いいってことよ、死んだ後に請求するから」

 

 …はは

 

貴方は乾いた笑いを零し、歩き始める

小町はずっと見つめていた

 

「…」

 

少し、面白く無さそうな顔で

 

 

川がすぐそばに流れている

貴方はそれに刀を浸す

こびりついていた血がトロトロと溶けだしていく

そして数秒後にはそれは綺麗な波紋を生み出していた

外の世界で刀を何度も見たことがあるが、このような波紋は見たことが無い

 

幾つもの層が重なって、常に炎の様に揺らぐ

 

人目で名刀と分かる代物

 

貴方は山を登る

川は途中で滝に繋がっている

サクサクと、葉っぱを踏みしめる音が響く

たらりと汗が落ちていった

 

「…せんさん」

 

 椛

 

森を抜け、広場に入った瞬間声を掛けられる

その声は幻想入りした時から助けられ、危害を加えた声だった

妖怪、天狗になのにも関わらず治らない右目

それを覆い隠す黒い眼帯

へその空いた少し巫女服に似た天狗装束

 

「…せんさん」

 

 …なんだ

 

椛が貴方に声を掛ける

 

「…貴方は、後悔していますか」

 

 …

 

何も言えなかった

自分が後悔しているなんて、考えたことも無かったからだ

そんな貴方に対して椛は目を瞑る

 

「それでは、質問を変えましょう」

 

少しだけ、威圧を加えて

 

「…貴方は、止まる気は…ないのですか」

 

 無い

 

貴方はキッパリと答えた

今ここで止まる訳にはいかないのだ

椛は説得を諦めたようだった

 

「…ごめんなさい」

 

彼女は誰かに謝った

 

「これだから約束は嫌いなんです」

 

場を静寂が支配する

小鳥が囀り、花が咲き誇っている

こんなに素晴らしい一日が、あるだろうか

 

「…こんな日には、戦闘が似合っていますね」

 

大剣を引き抜く

貴方も応え刀を抜く

両者の刃がぎらりと光る

 

貴方と、椛の目も同じだった

 

…負けられない目

 

実力は貴方にあっても、それを上回る心

今から貴方は己の恩を倒す

それがどれだけ心に響くだろうか

貴方はそれだけを考えていた

 

「…」

 

 …

 

己の気配がこの戦場に溶け込むようだった

悲しい雰囲気は身を引いて、殺気が辺りを満たす

 

「…シィッ!」

 

 っ!?

 

いつの間にか大剣の刃が貴方の目の前に迫る

何とか刀を胸と大剣の間に挟み込み、止める

ギギギと二振りの刀と大剣は火花を散らす

 

 …成長したな

 

貴方はポツリとそれをこぼした

白狼の彼女がここまで食いついて来るとは思わなかった

大剣は拳で弾けるくらいと思っていたのに

 

「修行ですよ、生まれがどうであろうが伝説に誰でなれる」

 

 お前はなれるか?

 

「貴方はどうでしょう?」

 

それに答えずに刀を振る

右から捻るように放ったそれは柄で弾かれる

それならばと左から刀を振るう

しかし、それも大剣によって軽くいなされてしまった

 

 なかなかやるじゃないか

 

「これくらい、序の口でしょう?」

 

そう言って上から叩きつける様に大剣を振り下ろす

貴方はそれを横に避ける

大剣は地面に突き刺さった

 

それを好機と見て刀を振る

椛は無理矢理地面を抉って大剣を振る

土が天然の煙幕を貼った

 

 …あがっ!?

 

「最初の一発は私ですね」

 

体の前に感じる痛み

見てみれば服が斜めから裂け、そこから血が出ている

左の刀を仕舞い、傷口を抑える

 

 やってくれるな

 

「油断大敵、ですよ」

 

 違いない

 

まるで痛みなど最初からなかったかのように刀を抜いて構える

それを見て、椛は少し冷や汗をかいた

 

「貴方は痛みを感じないのですか」

 

 痛みは感じる、それを如何に表現するかだよ、痛みは

 

椛は会話が噛み合わないと思った

だが、同時に負けるかもしれないと感じた

それであっても諦める訳にはいかない

彼が痛みを表現しないならするまで、斬ってやる

椛はそう心に決める

 

 っは!

 

「ぐっ」

 

大剣を盾にして二振りの同時攻撃を防ぐ

それは少し両者の腕を震わせる

しかし、若干貴方の方が長かったようだ

 

隙が生まれ、腹に鈍痛を覚える

 

肺から息が居場所を無くして飛び出る

恐らく峰で腹を殴ったのだろう

それを顔に出さず、歯を食いしばる

落としかけた刀を握り直して振りかぶる

舞う様に一、二、三と右、左と流れるように連撃する

それを椛は大剣を軽々と扱って防いでいく

まるで手足の様に火花を散らして防いでいる

貴方は少し、戦慄を覚えた…のかもしれない

 

 お前…椛か?

 

「白狼だからって舐め過ぎです」

 

椛は言葉を繋げる

 

「生まれがどうこうじゃありません、それからでこうなるんですよ」

 

 …面白い

 

貴方は獰猛な笑みを浮かべる

まだ、終わっていない

どちらかが倒れるまで、続ける

 

また大剣と刀が交差する

辺りの木が揺れ、切り傷が生まれる

小鳥達は既に居なくなり、かわりにカラスが居る

花は垂れて元気が無さそうだった

 

 

 

「はぁ、はぁ!」

 

 ぐっ…ぜぁっ!

 

両者とも殴り合っていた

二振りの刀は片方は地面に落ち、片方は岩に突き刺さっている

椛の使っている大剣は地面に横たわっていた

 

貴方の拳が下から椛の顎を狙う

彼女はそれを拳で相殺し、蹴りを入れる

避けきれずに横腹を蹴られる

 

 っ…

 

「まだ、まだぁ!」

 

双方完全に燃料切れの筈なのに、動いている

 

双方に負けられない理由がある

 

貴方はこれまで以上に追い詰められていた

 

足はふらふらとして、視界もぼやけている

 

それは椛も同じだった

 

彼女の足取りもふらふらとしていて、目の焦点は合っていない

 

消費に消費し、立つのがやっと、という所だ

 

カタツムリより少し早いスピードで二人は歩み寄る

そして思い切り拳を振りかぶって…

 

 っ!

 

「っ…」

 

両者の頬に拳がめり込む

先に倒れたのは貴方だった

そんな貴方に跨り、襟元を掴む

 

「や!はっ!いやっ!」

 

 ぐわっ!あばっ!いぎぇっ!

 

何度も、何度も殴りつける

この視界がどんどんと黒に塗られ変えていく

意識が朦朧としてくる

 

ここで、貴方…博麗せんの物語は終わる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…まだだ

 

貴方は最後の力を振り絞って椛を押し倒す

そして、椛がやったように馬乗りになって…

 

 はぁ!おらっ!うりゃぁ!

 

「いぐっ!?あがっ!?ああっ!?」

 

拳を何度も、何度も、何度も

そうやって何回殴ったのだろうか

椛と同じ位、殴って、殴って、殴って…

 

気付けば、椛にもたれかかっていた

2人とも荒い息をしたまま、動かない

 

 

そして…椛が口を開いた

 

 

 

 

「…私の、負け…です」

 

 …お疲れ様

 

貴方は口だけを動かして言う

もう、何も動かない

椛の豊かで柔らかな乳房は呼吸する度貴方の胸板に当たり、形を変える

それから双方とも、息が落ち着くまでその状態だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめんなさい」

 

 こちらのセリフさ

 

あれから貴方達は立ち上がり、向かい合っていた

双方の目には迷いは無かった

 

2人とも、目的が違ったから、こうなったのだ

 

貴方は背を向ける

 

 またな

 

最後の言葉として、それを送った

 

「またね」

 

椛は嬉しそうな声でそう言ったのだった




何故弾幕が無いかと言うとそれが彼女の誠意だからです

弾幕という戦法を使わず、純粋に戦う

それを認めて貴方はSOCOMを使わなかった…という設定

なお閑話戦闘の中で一番戦闘が長い

というかヘマしたらボスより長い


さぁ、風神を殴ってしまおう!
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