貴方の病んだ幻想入り   作:回忌

72 / 97
それは来る

弾けるような乾いた音

 

飛び散る血

 

辺りに撒き散らされた脳漿

 

それは一瞬にして灰に変わる

 

貴方は次の目標に狙いを定める

 

"「…」"

 

「や、やめてくれ…!」

 

その男…いや、"人間を止めた男"は慈悲を乞う

だが、貴方は冷徹に言う

 

「お前が妖怪の肉を食ったり、妖怪から術を受けて妖怪になったなら分かる」

 

それは仕方ない事だった

外から来た外来人が極限状態の中で妖怪の死体と知らずに食べる事はある

例として人里に半妖と化した外来人が居た

 

…人里に隠れ住んでいるらしい

 

「お前は禁術を使った、転生先を妖怪にするという禁術をな」

 

銃を仕舞い、刀を抜いて掲げる

月夜に刀が輝く

その独特な模様が歓喜するかの様に蠢く

 

貴方は刀を構えた

 

こいつに二刀も使う必要は無い

 

「お、俺は人は襲わねぇ!し、信じてくれ!」

 

頭を地面に擦り付け、懇願する

しかし、それは貴方にはまるで届いていなかった

 

 

 

 

 

貴方はきっちりと、そいつに伝えた

 

 

 

 

 

 

「運が悪かったと自分を恨むんだな、愚か者」

 

スパンと、首が飛ぶ

体は糸の無くなった操り人形の様に倒れた

 

 

 

「お疲れ様」

 

月明かりの下、霊夢が迎えてくれた

どうやら博麗神社からここまで来たようだ

 

「おいおい、飲み物くらい用意しておけよ」

 

「やだね、自分で入れなさい」

 

「…ちぇっ」

 

貴方は刀を一振し、血を飛ばす

刀は元の波紋をよく移すようになった

パチン、と鞘に戻す

 

「水の変わりにお酒を用意してあるわ」

 

「何処だ?」

 

「お家」

 

「帰るか」

 

貴方は顔に付いた血を袖で吹く

顔の血は取れたが、袖が真っ赤に染まった

 

「はぁ、洗濯物が増えるな」

 

「面倒ね」

 

「こういうのは女がやるべきだろう」

 

「知ってる?外の世界じゃそれ男女差別っていうのよ」

 

「…なんだか」

 

昔からのイメージが定着すると、自然とそう思うのだ

癖というのは抜けずらい

 

貴方はそう思いながら帰宅した

 

 

境内に着陸する

そして縁側の傍に靴を脱いで揃える

中に入ると自分の部屋に向かう

 

「着替え終わるまで、入るなよ」

 

「入らないわよ」

 

一応警告はした

貴方はするりと服を脱ぐ

血に濡れたそれを畳の汚さないように桶にぶち込む

洗濯は明日やればいいだろう

そう思い、箪笥から予備の服を出す

 

神主さんが着るような服

ここでは博麗カラーになっている

着るだけで厳かな雰囲気が出る、スグレモノだ

 

貴方はそれを着ろうとして気づく

 

…今から寝るんだった

 

貴方は寝看着を取り出して、すぐさま着る

神主の服はちゃんと畳み、置いておいた

 

障子を開けて、出る

 

「こっち」

 

キョロキョロとしていた貴方を霊夢が呼ぶ

縁側で月を見上げて座っていた

 

「失礼」

 

お酒が置かれたお盆を間に座る

霊夢が杯にお酒をつぎ込む

その酒を見て少し嬉しくなった

 

「良い酒じゃないか」

 

霊夢は褒められたのを嬉しそうに言う

 

「祝いよ、貴方の」

 

カラン、と杯を乾杯する

 

「乾杯、ね」

 

ゴクリと酒を飲む

旨みが喉を通り、少しの辛さが後から通る

しかし、まるでそれが無かったかの様にさっぱりしている

 

「どこのだ?」

 

「紫から」

 

ぶんどったのだろう

あの面倒な奴が簡単にこちらに渡す訳が無い

よく見ると、服に汚れやほつれがあった

 

「無理するなよ」

 

「大丈夫よ」

 

霊夢は笑う

この程度、大丈夫と言うが兄として心配だ

貴方はそう言おうとしてそれを飲み込んだ

 

「…月見酒でもするか」

 

「季節合ってるのかしら」

 

「知らんがな」

 

貴方は杯に酒を入れる

そして、その水面に月を写した

今日の月は運のいいことに満月だった

 

「それでは」

 

「頂きます」

 

クイッと杯を傾ける

それは先程よりほんの少しだけ美味しい気がした

 

「んん…」

 

「いい感じに酔ってきたわね」

 

「お前もな」

 

霊夢の頬は赤くなっていた

それは決して赤面している訳ではないと言うのを知っていた

 

「ねぇ」

 

不意に霊夢が顔を近づける

 

「何──っ」

 

「ん…」

 

顔を向けた瞬間口に感じる異常

その柔らかさは霊夢の唇以外に他ならない

 

「んく…んんん…」

 

「あ…っ…んんっ…」

 

 

「ぷはっ」

 

唇を離す

霊夢の顔は更に赤くなっていた

 

「破廉恥」

 

「体は正直ね」

 

貴方は不貞腐れた様子でお盆を持ち、立ち上がる

 

「さ、夜も深いから寝ろ」

 

「えー」

 

「そんな顔しない、寝るっ!」

 

スパンと障子を閉める

お盆は台所に持っていき、置いた

貴方は自分の部屋に戻って布団に入る

 

と、背中に温もりを感じた

 

「…霊夢」

 

「ん…?」

 

「離れてくれ」

 

霊夢は背中から離れない

 

「…そんなに添い寝したいか」

 

「うん!久しぶりにお兄ちゃんと寝たいの」

 

霊夢は酒のお陰で幼児退行していた

それはまるで駄々っ子の様に、だ

 

「…はぁ、今日だけだぞ」

 

「わーい!」

 

ギュッと霊夢が貴方を抱きしめる

貴方の首元に熱い息がかかる

スンスンと、臭いを嗅ぐ音が聞こえた

 

「獣か」

 

「お兄ちゃんがね」

 

「はっ…」

 

否定出来ないのが辛い

 

自分は獣だ

 

起きて、狩って、食べて、寝る

 

それを繰り返すだけの…

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

霊夢が耳元に声を掛ける

それは貴方にとって、とても嬉しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、貴方の味方だから」

 

 

 

 

 

 

そう、ここまでは良かった

 

彼女達が狂っていったのはここから…

 

いや?最初からか?

 

ともかく、貴方…お前が外の世界に行く原因が生まれたのはここからだった

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。