貴方の病んだ幻想入り 作:回忌
ここから全てが始まるのだ
…なあ、そろそろ返してくれないか
返せ、俺の体を
返してくれ、俺の存在を
その日も、普通に暮らしていた
"俺"はいつも通り縁側で景色を見つめていた
幻想郷の風景は美しい
外の世界は言葉に出来ないほど汚いらしい
俺個人としては、そんな所に行きたくはない
なんならこの生活を続けていれば行くことは無いだろう
外に妖怪が逃げる訳でも無し
畏れが少ない外の世界に行けば瞬く間に力を失う
それこそ術をかけでもしなければ力は保てない
なぜなら、我らは忘れられし存在だから
妖怪、神、その他もろもろ含めて忘れられた存在
ここはそいつらが集う、最後の楽園
ここのに住む者は全員この楽園を幻想郷と呼ぶ
だが…俺は思うのだ
外の世界という天国はある
侵略でもして畏れを増やせばいい
だが、それは出来ないようだった
…ここは、天国の外側
人知れず、俺は此処をこう呼ぶ
〇
今日も今日とて縁側に居た
天気は雨模様、雨が降り注ぐ
その雨の音を聞くのが、好きだった
俺の心を癒してくれる少ない存在
戦闘で廃れた心は永遠に癒えないが、無いよりかマシだ
「よぉ、元気か?」
「普通、いつも通りだ」
魔理沙が境内に着地する
いつものエプロン、トンガリ帽子、箒
毎日見る友人の姿だった
「何用だ」
「特に無いが」
「そうか」
そういうと魔理沙は縁側に上がって障子を開け、中に入っていった
「魔理沙?ちゃんと入る時は何か言いなさいよ」
「面倒だからやだね」
「…はぁ」
その溜息には同感だ
こいつには礼儀は無いのか
個人的スゴい=シツレイな奴である
俳句を詠め
…それはともかく
「今日もいい天気だ」
俺にとって雨はいい天気だ
戦闘で熱くなった体と心を冷やし、冷静にさせる
体の温度を奪われても、それが良いと思った
「…?」
音が、した
風を斬る、ひゅんと言う音が
「こんにちは!」
「射命丸か」
現れたのは射命丸文
雨のお陰で着ていたカッターシャツはずぶ濡れだ
「縁側に来いよ、雨宿りくらいはさせてやる」
「ありがたやー」
縁側に座った彼女にタオルを投げた
「おおっ、気がききますね」
「一応の礼儀だ」
そういうと、また俺は空を見つめる
相変わらず雨が降り注いでいた
「雨を見るのが好きなんですか?」
不意に文が聞いた
俺は頷く
「あぁ、役職柄雨は好きなんだ」
「そうですか…分からないですね」
「昔はかなり保守だと聞いたが」
「さぁ、いつの話だか…忘れちゃたわ」
ふっと文が笑う
彼女が覚えていないくらい昔の事だろう
もしくは、思い出したくないかの二択
「…そうだ、私の家に来ないかしら」
「なんでだ?」
「久しぶりに妖怪の山に来てみたくない?」
「まぁ…そうだな」
俺は少し思う
妖怪の山に仕事で来ることはあった
だがしかし、私的な用事で来た事はあまりない
「そうするか、エスコートを頼むよ」
「男がやるものですよ?」
「言っとけ」
俺は飛んでいく文に続いた
…後ろから見る視線に気づかずに
〇
「いやー!気持ちいいですね!空を飛ぶというのは」
「お前は何回も飛んでるだろ」
俺たちは雲の上を飛んでいた
地面は雲の合間から見えている
それよりも、空を飛ぶという気持ちよさが上回っていた
爽快感は誰おも魅了するものだ
俺はそう思う
「ねぇ」
不意に彼女が俺の名前を呼ぶ
「どうしたよ」
黒い羽根が生えた女の子と共に飛んでいる俺
でも俺には羽根が生えていない
俺は彼女の顔を見たが、後光でよく見えない。
俺はとても幸せだった、それはとてとてとも。
その彼女の顔は、濁った瞳に三日月の様笑みを浮かべ…
「ごめんなさい」
その言葉が聞こえた後、俺の意識は消えた
〇
「…」
霊夢は立ち上がる
「どうした?霊夢」
「ダメよ」
「んぇ?」
霊夢は大幣を持つ
「渡さない」
「お、おい…れい」
魔理沙は絶句した
彼女の瞳に光がない
その口はうわ言を吐き出す
「絶対に彼は渡さない」
「…あぁ」
全てを魔理沙は理解した
その瞬間、深い闇が魔理沙の心を覆う
彼を、奪おうとする者が居る
たったそれだけで、こんな気持ちになれるんだ
…怒り
これまで感じたことのない、深い怒り
「殺そう」
「殺すわ」
2人は飛び立つ
向かうところはただ1つ
…妖怪の山
〇
目が覚めると、俺は床に倒れていた
胸に感じる重み
絡み合う、誰かの体
その後ろに見える黒い翼
「…あ…や」
「ん…?おき…ましたか?」
自分でもびっくりするほどのかすれた声
同時に感じる恐怖
…どうして、こんな
「…お前」
「何故か?」
文はうっとりとした顔で言う
俺の顔を撫でながら、蕩ける声で
「私は貴方が好き、どんなものよりも、大好き」
ぎゅうと抱きしめる
きつい、痛い、痛い
「見た時から、強くて、かっこよくて…一目惚れでした」
首筋に熱い感覚が這う
粘液を感じる…舌と認識するまでに時間はかからなかった
「だから、独占したい、巫女から奪いたい」
「…」
俺は恐怖を覚えた
今日初めて、恐怖を覚えた
「離れろ!」
文を蹴飛ばし、乱れた服を直す
コルクの抜けた様な音と、文が壁にぶつかった音がする
「っ…!」
拳を構え、臨戦態勢に望む
刀は博麗神社に置いてきてしまった
「酷いですねぇ、こんな…こんな」
ゆらゆらと文が歩み寄る
「来るな」
「どうしてですかぁ?貴方も望んでいるでしょう?」
「来るなっ!」
叫ぶ
だが、恐怖には勝てなかった
その油断のお陰で俺は押し倒されていた
「あはっ!幻想郷最強の存在が!私に押し倒されて!」
「ぐ、ぐぐぅ…!」
「貴方は私の物…わ、た、し、の物!」
瞬間、銀の線が見える
「ちっ」
文が舌打ちをして離れる
俺は首を動かして、それを見た
あぁ、毎日見る姿だ
いや、違う
俺は知らない
そんな…そんな…
黒曜石の様な目をした霊夢は知らない…!