貴方の病んだ幻想入り   作:回忌

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絶望、希望、"もしも"の世界線
離さない


貴方は倒れていた

木の根元に腰を深く座らせて

 

刀は手前に1本、在らぬ方向に1本だ

 

目は血が入って赤い

体には鎌鼬による無数の傷があった

腕は右が明後日の方向を向いている

 

「あはっ私の勝ちですね!」

 

胸の傷以外目立った外傷の無い文が嗤う

ゆっくりと彼女は近づいてきた

 

「あははっ!こんなにも!呆気なく!」

 

本当にその通りだった

1発目を与えて、油断して、このザマだ

 

情けなかった

 

死にたかった

 

そんな貴方の耳に、熱い吐息がかかる

 

「安心してください」

 

肩に手を置かれる

彼女の顔が貴方の顔と相対する

その瞳は、深く紅く、貴方しか移していなかった

 

「貴方はもう、私だけの物」

 

彼女の唇が、貴方の唇に近づく

 

「愛しています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュ、と音を立てて唇が塞がれる

 

数秒それが続いた後、唇が離れる

 

「私だけの、私だけの、貴方…くふっくふふふふ」

 

彼女の哄笑があたりに響く

貴方はもう、動けない

 

「あはっあははっーはははは!」

 

狂ったように嗤う

背中の翼が歓喜するように動いた

 

 

 

 

それから、あなたを見たものはいなかった

 

「兄さん」

 

博麗の巫女は、空に手を伸ばす

すると、直ぐに来てくれる

 

 …霊夢

 

「…兄さん」

 

そこには、鴉天狗が居た

もう役目を終えることの出来ない兄が

 

 …もう

 

「戻れないわ、私たちは」

 

霊夢は背を向ける

 

「…私達が普通に話すのは、これが最後よ」

 

 …

 

妖怪でありながら、妖怪を殺す者として、貴方は居る

その異例さから妖怪達から変な目で見られることがある

だが、確実に入っているのが畏敬の念

 

「こんな事になるなら」

 

巫女は心底残念そうに呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が殺せば良かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

彼女はそれっきり何も言わなくなった

貴方も居心地の悪さに帰ってしまう

 

「…ごめんなさい」

 

霊夢は膝をつく

からんと箒が倒れた

 

「ごめん…なさい…ごめん、なさいいいい…」

 

涙をポトポトを落としながら、許しを乞いていた

 

それは他の誰でもなく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄をこうしてしまった自分への後悔だった

 

 

 

 

 

 …ただいま

 

「おかえりなさいー、どうでしたか」

 

 駄目だったよ

 

貴方は目を逸らした

文はとんとんと肩を叩く

 

「まぁまぁ!気晴らしに酒でも飲みましょう!」

 

 …そうだな

 

あの日、貴方は妖怪に変えられた

妖力を一晩中流し込まれたのだ、成らない訳が無い

妖怪を殺す人間だった貴方が殺される側に行くとは、なんという皮肉だろうか

 

 …はぁ

 

溜息は尽きない

なぜなら、彼女とはもう合わないかもだからだ

己が知らないうちに死んでいるかもしれない

 

「どうしました?」

 

 …なんでもないさ

 

貴方は妻を安心させるように言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いい妻が居るもんだ、と思ってね

 

己が全く思っていないことを

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