貴方の病んだ幻想入り 作:回忌
いつまで、ここに居るのか
辺りにはおびただしい数の目玉
紫色の空間に貴方は漂っている
ここは、賢者のスキマの中
地面の感覚はあるようで無く、このように浮く事も出来る
貴方はここに入ってからこうやって漂っていた
最初は出口を求めて歩き回った
スキマを斬って、脱出したこともあった
だが、あの女は追ってくる
何処まで行こうと、世界の果てであろうと
だから、諦めた
貴方はこうして、漂う
幻想郷の危機や彼女の機嫌次第で出る事も出来る
彼女の言いなりになったら、幻想郷で自由になれるのだろう
でも、いつ自由になれるのだろうか
そう思いながら、目を閉じた
〇
こうなったのは、いつだったか
彼をスキマに閉じ込めたままにするのはいつからだったか
「―――ふふ」
目を閉じ、水死体の様に手足を下にする彼を見て私は笑う
何故か分からないが、嬉しい
彼が抵抗しなくなってきたのが、とても嬉しい
最初は大変だった
博麗霊夢を完全に沈静化した彼は境内で空を見上げていた
死んだ訳では無く、倒した彼はやる事が無くなったのだ
これから彼と霊夢はただの兄妹だ
そんな彼を私は攫った
マヨヒガに連れ込んで、拘束した
どういう原理か分からないけれど逃げ出したりもした
私は藍に頼んだり、自分から調教をした
だが、彼は簡単には屈しなかった
爪剥ぎ、四肢欠損、失明、骨折、被弾
彼を弄って、そう簡単には死ねないようになっている
さて、それをしたのはいつだったか?
だが、それはかなり小さなものだった筈だ…
小さな切り傷が再生するくらいの、小規模な物
だが、目や骨を放置して自然に再生する位にはしていない
それどころか、腕の切断面をくっつけて、注射で再生する
私はそこまで彼を化け物にした覚えは無い
何故…
だが、精神は普通の筈だ
だから、色仕掛けも使った
無駄だった
出さないで居られるなんて、先代はなんて化け物を作ったのだろうか
そして私は放置した
スキマの中に彼を閉じ込めて、そのまま
最初は逃げ出したりしたけれど、今は大人しい
出ても意味が無いと気づいたということだろう
「ふふ」
スキマを開き、中に入る
何の身動ぎもしなかった彼が動き、楽な姿勢になってこちらを見た
「アンタか、暇人だな、お前は」
「コレを待ち続ける貴方も、十分暇人…よ」
そう言って彼の傍に歩み寄る
彼は何も映さない瞳でこちらを見るばかりだった
「疲れたかしら?」
「十分、疲れたかもな」
「暇?」
「見て分からないか?」
彼は目に見えて疲れていた
余程体に堪えたらしい、震えている
「そろそろ、諦めてくれないかしら」
「無理だな、俺は絶対に諦めない、知っているだろう」
「ふふ、そういう貴方も私は好きよ」
「俺は、嫌いだ」
そういうと彼は首を私から背けた
ぎこちない動き、私はカラカラと嗤う
その言動が面白可笑しくて、笑いが止まらない
彼が睨むようにこちらを見た
指を私に指しながら、言う
「こんな事をして、楽しいのか」
「ええ、楽しいですわ」
「この…」
彼はイライラした様子で言うが、動かない
動くのは口だけだった
「あはっははははははははっはっっは!」
そろそろ飽きてきた、私はそう感じると腕を曲げ、蟷螂の様にする
そして、指を動かした
すると、彼が浮いた
両肘が勢いよく肩より上に上がった
正面から見れば頭部をそこにしたM字型だ
さながら、人形劇の操り人形
「ひふ、ふふふひ…」
おかしな笑いが止まらない
彼は睨むだけで何も言わない
「もう食料も尽きて気力だけで意識を保って…ひはは!
それでもなお!私に屈しようとしない!」
そう、彼は何も食べていない
それこそ半年も何も食べていない
最初こそジョークを言ったりしていたが、もう片言になっている
妖怪にとっての半年なんて、短すぎる
「それでこそ、私のモノ、ヒヒヒ…」
「―――」
もはや口も開かない
気力も限界を迎えてきているのだ
「ふふふ、このまま死ぬの?
私は死なせないわ!絶対!ふふふふふ」
そういうと、糸が切れたかのように彼が落ちる
見えない床に落ちて、うつ伏せのまま、動かない
私はその下に行く
すると彼は"仰向けになった"
「さぁ、時間よ」
私は紙を持つ
その白い紙には複雑な黒い模様が描かれている
「これが何か分かる?分かるわよねぇ?」
見たら分かる
正六角形の中心にある1文字
―――式―――
「これを付けたら貴方は自由
私の元で、永遠に働き続ける」
「まぁ、アナタに拒否権なんてないんですけどね!アハハ!」
そう言って、"彼女"は貴方の額に札を貼り付ける
フッと光るとそれは粒子になり、貴方の体に吸い込まれる
たった、それだけ
それだけで、貴方は紫の式となったのだ
「ようやく、あれほど望んでいたアナタを遂に…!」
紫の声が響く
その後に、彼女のものとは思えないような笑い声が響く
それはスキマに反響して四方八方から聞こえてきた
紫から、空腹を満たすかのように"力"が送られてくる
それは、霊力でも、妖力でも無い、ナニか
その空腹感が、貴方を眠りへと導いて行った