貴方の病んだ幻想入り 作:回忌
いつまで人を死を見るのだろうか
この身はそれを何回も考えた
最初はとても悲しかった
愛していた人間が先に死ぬ
種族の違いをあれほど恨んだ事は無い
2回目も、悲しかった
何度も、それを見た
人間達に化け物と言われ、追われて、別の村に行って
受け入れてくれる場所を探して私は何度も彷徨う
そして、さまよっていても、人間の死は付き纏った
焚き木にあたっているときにボロボロの若い人間が現れた
そいつはかなり衰弱して、助けるのは無理だった
「あんたの膝元で、逝かせてくれ」
そいつは最後の頼みに、そういった
私はそれを承諾した
それで彼が幸せなら、それでいい
私は、そう思った
膝の上に男の頭が乗る
そいつは懐かしい目をした
「奇妙…だな、アンタ、何処かで…」
男は、気づいたようだった
私は最初から気づいていた
その男が、自分の教え子であったと言うことに
寺子屋で、生き残る術だけ、優秀だった教え子
それが目の前で息絶えようとしていた
「そうか、先生か…懐かしいな」
そいつは銀の…透明な線を目の端から流していた
男は謝る
「悪かった、俺だけ、勝手な事をして」
「…大丈夫さ、だから、口を閉じていてくれ
早く死んでしまうぞ」
彼は力なく笑う
「俺はもう駄目だ…肺をやられてなぁ…」
そういうと、ゴボッと血の塊を吐き出す
そして、腰からL字の何かを取り出した
「これは…」
「アンタがそれを知っているなら…分かるな」
ああ、分かるとも
この木に鉄の筒が嵌った武器
私を追いかけた物が持っていた奴らが持っていた銃
フリントロック式の、ピストル
「そいつは俺の…はは、いいや」
男は自ら地面に落ちる
膝から重みが無くなった
「あんたは…素晴らしい人間…いや、妖怪…」
透明な線は段々と太くなっていく
男の肩が震える、笑ったのだ
「膝で逝くより、いい死に方だぁ…」
幸せな死を迎えることに、感動しているのだ
「…逝かないでくれ」
私は銃を突きつけてそう言う
だが、冷酷にも、男は首を振った
「俺が妖怪なら逝かなかったかもな
先生と俺は違う、種族が決定的にな」
はは、と乾いた笑い声が耳に入る
「先生を愛してくれる男は1人でいい
俺はもうダメだが…ソイツは先生を幸せにしてくれる」
その瞳は何も映さなくなってきた
銃が震える、引き金に人差し指を掛ける
「死ぬ前に先生を見れるなんて…嗚呼、幸せだ」
引き金を引く
目の前に大きな煙が充満した
男の声は聞こえなくなった
それから、私は深く凍った
〇
それを解凍してくれたのは、彼だった
今、机で書類と睨めっこしている彼
本当は博麗の仕事をしている筈だが、今日は休みらしい
といっても、私の妻だ、人間は等の昔に止めている
「旦那、少し休んだらどうだ」
「これで最後だ、すぐ終わる」
彼は最後までやらないと気が済まないタイプだ
途中で投げ出すことはあまり無いと私は思う
「そういって前も五徹したじゃないか」
「その程度じゃ死なん」
彼の言う通りではあるのかもしれない
傷は全て一瞬で治る
半妖の私でも10分はかかるというのに
半妖の更に半分の力
それであっても、再生力は大妖怪のそれを超えた
ただ、精神的な物は治りにくい
彼はそれを押し潰しているだけだ
博麗の仕事の時もそうだったに違いない
私は彼の背中に覆い被さる形になる
そのままその靱やかな手で抱きつく
「お願いだからこれ以上無理をしないでくれ
私は君がこれ以上己を潰す姿を見たくないんだ」
「…そんな事を言われてもな」
彼は紙を机の上に置いた
そして面倒そうな感じで呟く
「先生…アンタは説教が好きみたいだ
あの路地裏でもそうじゃなかったか?」
そういうと、彼は立ち上がり台所へ向かった
台所…というより居間だろうか
既に日は暮れて外から月の光が入っていた
彼は囲炉裏に霊力で火を付ける
そして、そこにいつの間にか下準備の済んだ鮎の串を刺した
私は囲炉裏に手を広げる
「あの時は君が悪い
己の事を何も考えていなかった君が」
「…だからか?」
盃に酒を淹れる彼が尋ねる
私は少しはにかみながら聞く
「なんの事かな」
「こうやって、俺がアンタの婿になった事さ」
「―――はは」
やっぱり、分かっているか
彼は私の枯れた声が肯定と認識したようだ
怒りとも似つかない顔のまま、盃をあおった
「霊夢が職務に戻った
俺に少しは執着はあったが、そこまでじゃない
それこそ、今までの執着具合が嘘なくらいな
…俺はその後、アンタに求婚された
俺は何度も断ったが、あまりに執拗いから承諾した
霊夢が許す筈が無いと思ったが、彼女は何も言わなかった
仕事をしている時と同じように、「そう、おめでとう」だけだ
アイツがそんなに薄情な訳が無い
俺は直ぐに結論が出たよ
アンタが歴史を変えた
何故か分からないがアンタは俺が欲しかった
俺は全く理解出来ないがな、アンタには何かがあった
歴史を変える程に欲する何かが
なぁ…"先生"、アンタは俺の推理が間違っていると思うか
アンタが何と答えようと良い
俺は歴史を書き換えた事に何も文句は無い
俺はそんなものさ」
「…それだ」
私は掠れる位に呟く
そして、彼を押し倒した
「―――」
「私は!君がもっと自分の事を考えてほしいんだ!
分かるか?私の気持ちが!私の感情が!」
叫ぶ
これ程までに激情を顕にした事があるか?
「君があの路地裏で言った言葉に私は泣いた
そして君を殴ったんだ!分かってくれないからだ!
君が何をしたか私はよく知っている
だからこそ止めたかったんだ
それ以上、他人を救わなくていい
あれは全部他人事だ
お前は!自分を救ってくれと!私は思った!」
そこでは、私は四つん這いのようになる
己の頭…額を彼の胸板に落とす
「…だが、君は私を振った
また、酒でも飲んでやり直そうと言った」
顔を上げ、私は叫ぶ
「そうじゃない!"私"とやり直すんじゃない!
"自分"とやり直すんだ!
そう思ったけど…目が覚めると、全てが終わっていた」
彼は何も言わずに話を聞いてくれていた
何も文句や反論を言わずに素直に、静かに聞いていた
「…私は、もう嫌だったんだ
人が身勝手に破滅して、死ぬのが」
何時だったか、教え子を撃った事を思い出す
あの時の気持ちは忘れる事は出来なかった
手をどんなに洗っても、その鮮血は手から取れない
落ちない、いくら洗っても、どんなに拭いても…
「…なぁ、赦してくれ
こんな私を赦してくれ」
懇願する
彼に向けて、許しを乞う
彼は、上半身を起こす
「…もう、いいんだよ」
「…え」
彼は軽く私を抱きしめる
「既にアンタを…先生を許している」
「…あぁ…ありがとう…ありがとう…ありが…うううぅ」
嗚咽が口から溢れる
閉じ込めきれない悲しみと嬉しさが溢れる
わんわんと泣く私を、彼は更に強く抱きしめた
どうも、皆さん、私です
最近は小説の熱が抜け駆けていたので失踪気味でした
一匹狼の方も更新していますので、ご覧下さいませー
不定期更新が1番都合がいいな、うん