貴方の病んだ幻想入り 作:回忌
「はぁ、幽霊ってのは自由でいいよな」
「私は亡霊で縛られているけどね」
白玉楼にて貴方はため息をついた
それに反応して言葉を返したのは白玉楼の主、西行寺幽々子
私は彼女に招かれてここに居る
この春、どうやら桜が咲いたらしい
とても素晴らしいらしいので来てくれと手紙で伝えられた
達筆で恐れ入ったがほぼ無駄な言葉遊びで引きちぎりそうになった
どういう育ちをしたらあんな言葉遊びが…
そういえば幽々子はお嬢様だったな…
彼女が大食いなせいで忘れていた
「花より団子とは言うが、これを見せられちゃ反対になるな」
「そうよね、そう思ってくれてうれしいわ」
彼女は笑顔になった
その笑顔はまた私を変な気持ちにさせてくれる
霊夢とはまた違う、儚く優しい笑み
少しドキリとしたが私は咳をして誤魔化した
「わざわざ私を呼ぶくらい、お前には勿体ないものなのか?
私にはお前に桜というのはピッタリだと思うがな」
「ううん、違うわ」
彼女は首を振ってソレを否定した
また団子をお上品に食べながら彼女は言う
「私は前までそうだったわ、紫なんて呼ばなくてもこの桜で満足できた」
「だろうな」
彼女が桜好きなのは知っている
その儚さに魅入られたのかただ単に綺麗だからかなのか知らない
ただ、桜に思いやりがあるのは確実だった
私も桜は好きな花に入るがそこまででは無い
彼女は少し、動悸を感じる為に胸に手を置いた
「貴方と会った後から何か足りなくなるのよ」
「おつまみが足りんな」
「それもそうだけど…もっとこう…楽しめる人が欲しくなったの」
少し息が荒くなっているように感じた
どうやらその胸の高まりを抑えているらしい
確かに一人で桜を眺めるのはいつしか足りなくなるだろう
私はそれを埋めた誰かを察しながらため息をついて知らないふりをした
「だったら、妖夢を呼べばいいじゃないか」
「あの子は面白いけど、弄るのは飽きてきたの」
「従者だろ?酷い事いうぜ」
「従者だからこそ、よ」
彼女はカラカラと笑った
その度揺れる部分を見たくなるが、顔を見る
ただその顔もいつの間にかこちらに向けられて桜色の瞳は私を写していた
その視線も恥ずかしくて、視線を顔から外す
そうすると揺れる部分を見てしまう
それを振り切って上を見れば幽々子と目が合う
私は状況打破の為に紫をダシに使うことにした
彼女には悪いがまぁ、自業自得としておこう
「紫が居るじゃないか、彼女とは私より古い付き合いだろう」
「さっき紫なんてって言ったでしょうが」
「すまん」
キッと睨まれてしまった
反射的に貴方は謝ってしまった
後どこからかしくしくと嘘泣きらしい声が聞こえたような
なんか最近紫と幽々子の仲が悪い様に感じる
私としてはハッキリ言ってどうでもいい事なのだが
「分からない?」
その音色にドキリとした
わざとらしく、事実から目を背ける貴方に質問してくる
貴方は首を振って団子を取ろうとした、意識を逸らしたかった
しかし幽々子は、その腕を掴んだ
「本当に、分からない?」
貴方はそれに頷いた
「本当に?」
また頷いた
彼女の顔は少し揺らいだ
そして聞いてくる
「本当に?」
また、頷いた
そう答えれば答えるほど彼女の顔は揺らぐ
貴方は次の質問も、同じように答える――
「 本 当 に ? 」
息が止まった
答えようとして、しゃくりあげたような声になった
ゴホゴホと、喉に詰まった唾を除こうとする
「うふふ、ごめんなさいね」
幽々子は貴方の背中をゆっくりと叩く
優しく、貴方が呼吸出来るように。
そうして、何秒経ったのか
ともかく貴方がまた呼吸出来るようになった時だった
「ごめんなさい、さっきは驚かしちゃって」
幽々子はまた謝る
それに貴方は答えることが出来なかった
許せなかった訳じゃない、ただ言えなかったのだ
これに関しては貴方は悪くないと胸を張って言える
だって
その、後ろの反魂蝶の群れを見れば誰だって何も言えなくなる
幽々子の嬉しそうな顔も見れば、尚更
「私、あまり"そういうの"は好きじゃないの」
幽々子が立ち、こっちに歩いてくる
ゆっくりと、早くも遅くもない
ただ、ゆっくりとこちらに歩いてくる
いつの間にか貴方は部屋の中に誘われていた
「まどろっこしい言葉遊びは楽しい。
でもこれはまた話が違う」
幽々子は貴方の横を通り、貴方の後ろに立つ
どうのような顔をしているか…何も分からない
ただ、立っているということだけが分かっていた
だから、それがただたただ恐怖だった
「そうやって何もかも誤魔化す」
背中に幽々子がしだれかかってきた
キュッと、その細い腕で貴方をがっちりと挟む
背中に柔らかくて暖かい物が当たる
さっき程からの攻撃で顔が熱い
「貴方、私のことは友達って言ってたでしょ?」
確かに、"あの戦い"が終わった時にそう言った
それが何か今足を引っ張ることでもあるのか
幽々子は貴方の首筋を軽く舐める
ひんやりとした舌が首筋を這って…くすぐったい
「それに私はね…少し無理って…私言ったわ」
あっ、と口から言葉が盛れた
あの時は何も気にしていなかった
あの、あの最後の言葉
『…それは…少し、無理かも、ね』
「ダメよ」
動かそうとした足が動かなくなる
ゴロリ、と二人共々いつの間にか用意されていた布団の上に横倒しになる
幽々子に手足で絡められて、拘束されて――
「貴方を死に誘えない、そういう約束だったもの
貴方は勝者だもの、敗者は何も言えない」
けど、と彼女は付け足した
彼女に動かされて、ようやく幽々子の顔が見ることができた
執着
爛々に光る桜色の目を見て貴方は最初に思ったことだろう
あの巫女に渡したく無かったという意思がヒシヒシと感じられる
「今は」
「今だけは」
彼女はニッコリと、もう口が裂けそうなくらいに笑う
「貴方は、私の物、そう、今夜は自由にさせてもらうわ」
そう言って、スルスルと着ている服を脱がす幽々子"様"
なんだか頭がぼぅっとしている気がする
酷い感じだ、でも、それは幽々子様のせいだと分かった
そして、それを治すことが出来るのは幽々子様だけだとも分かった
貴方に抵抗という選択肢は残されて居らず、ただ事が終わるのに身を任せるだけだった
―――羨ましい
どこからが、そんな声が聞こえてきたのは気の所為だったか
もうそんなことも、どうでもいい事なのだが