クロスオーバー作品で、シャーマンファイトはありません。
この時点ではまだアンナは登場していません。
イメージOP「Soul salvation」
東京の椚ヶ丘市に位置する椚ヶ丘中学校(くぬぎがおかちゅうがっこう)。
中高一貫の名門進学校で中学の平均偏差値は66とハイレベル、部活動もあらゆる部が優秀な結果を残している、まさに文武両道というべき学校。しかしそれは本校舎の生徒だけ。
成績不振や素行不良な生徒が落とされる場所が、本校舎からおよそ1km離れた山奥の隔離校舎に配置された特別強化クラス3-E、通称「エンドのE組」。
「学業に専念させるため」部活動なども禁止、常に他の組より優先順位が低くさせられるその場ではある話題が上がった。
「渚、聞いたか?このクラスに新しいメンバーが増えるらしいぜ」
SHL前。
水色でセミロングの髪を両サイドで結んだ小柄な身体。ぱっと見ても女子と間違えそうな可愛らしさの男子――――潮田渚に、クラスの友人の1人の杉野友人が話しかけてくる。
「うん聞いた。烏間先生に聞いたんだけど男子ってことしか分からなかったよ」
「どんな人だろうね?顔写真とかなかったの?」
「ううん。でも、この時期に転校ってさ」
「だよねーこの時期にこのクラスに来るとなるとやっぱり”ここの担任”関連だろうね」
渚の左隣に座る緑色でロングの髪を両サイドで結んだ小柄な女子、茅野カエデとフランクな性格で飄々とした態度の赤髪の少年、赤羽業(カルマ)も話に入る。
「うーん。カルマ君はどう思う?」
「別に俺としては面白い奴だと嬉しいな。これからお隣さんだし」
そう言ってカルマはニタニタ笑いながら一番後ろの自分の左隣の空席を指す。
(カルマくん、玩具にする気マンマンだ)
「まぁ、普通にいい奴だったらつるみやすいんだけど、カルマみたいなのだったらどうしよう」
「それってどういう意味かなー杉野ー?」
「あ、あはは……」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴るとともにガララッ、と教室のドアを開けて担任の先生が入ってきた。
「おはようございます殺せんせー」
「おはようございます渚くん。皆さんもおはようございます」
現れた3年E組の担任ガウンを羽織り昔の大学帽を被った、手足ではなくうねうねと動く触手のようなものが生えている、全身黄色く顔はまん丸、いかにも地球の生物ではない異形のモノで、クラスでは”殺せんせー”と呼ばれている。
ことの始まりは数ヶ月前。月の7割が爆発して蒸発したことに始まる。このニュースは今でも取り上げられている。そして、日本の防衛省の一部を含めた各国の首脳はその犯人がいることが分かる。それがこの黄色い生物。何を思ったか渚達の担任をすると言い出し、このクラスにいた彼らは来年の三月までに秘密裏にこの生物の暗殺をするよう政府から依頼されたのだ。
ちなみに成功報酬は百億円。
それを聞いてやる気満々のクラスの皆はすきを窺って暗殺を試みてはみるものの悉く失敗している状況だ。
そんな標的である殺せんせーがペタンペタンと裸足で廊下を歩くような足音を鳴らしながら教壇に立つ。
「それでは、SHLを始めましょう。まず最初に皆さんも知っての通りこのクラスに新しいメンバーが加わります。皆さん仲良くともに学び、共に暗殺をしましょう」
殺せんせーの言葉に生徒達はソワソワする。
「今日から来る転校生、可愛い女の子かな〜」
「俺は可愛かったら放課後誘おうかな〜」
主に男子(前原と岡島)が。そんな中、E組のクラス委員でイケメンの磯貝悠馬が質問する。
「殺せんせー、この時期に来るということは殺し屋かなにかですか?」
「いえ、先ほど烏間先生から聞きましたが、どうやら違うようです」
その言葉に渚はほっ、と警戒心を解いた。
よく見ると全員警戒していたみたいで、安堵の表情を浮かべていた。
「さて、そろそろ烏間先生が説明を終える頃ですが…少し遅いですね」
「すまない、遅れた」
そこにの3-Eの体育(暗殺)担当教官兼殺せんせーの監視役のスーツ姿の男、烏間先生が教室に入ってくる。烏間先生が入ってきたと言うことは転校生が来たということだ。
「随分時間がかかりましたね。烏間先生にしては珍しい」
「いろいろと手続きが多くてな。…それでは、入ってくれ」
そして、あまり間を置かない内にガラッという音と共にドアが開き、男子用の制服を着た生徒が入ってきた。
その生徒は身長が160くらい、前髪を長めの二つ分けにしたセミショートの黒髪、たれ目のふわっとした柔らかい印象の表情をした中性的な顔立ち。
上半身の服装は、裸のうえにワイシャツ一枚で一つのボタンもかけず、袖をまくっている。そして首には三つの大きな黒い爪の首飾りをしていた。更に頭にはオレンジ色のヘッドホンをつけ、足に木製の便所サンダルを履いていた。
(なんかすごい格好してる)
(めちゃくちゃ強い雰囲気の人とかだと思ってたなぁ)
(ちょっと女の子みたいで可愛いかも~)
((なんだ男か))
前原と岡島はもう興味をなくしていた。
「彼の名前は麻倉葉君だ。家庭の事情で出雲から単身上京してきた。それでは麻倉君、自己紹介を頼む」
「はーい………あーオイラの名前は麻倉葉。趣味は音楽鑑賞とのんびりすること。あまり勉強とか得意な方じゃないが………まあそこは何とかなるってことでこれから一年間よろしくなー」
(((ユルい。ユルすぎる……!)))
ユルい感じは抜けず、なんというか、抜けた空気を産み出されていた。
「な、なんか…かなり変わった転校生が来たね」
「う、うん」
茅野の呟きに渚は同意する。
周りを見渡すと他の生徒達も転校生のユルさに目を丸くしていた。
そして殺せんせーはというと……
「あ、あ、あ、あああああ………」
「あ、あれ?」
「殺せんせーどうしたんだろう?」
転校生を見ていた殺せんせーはどういうわけか黄色い顔を僅かに青させ、全身を恐怖でガタガタと小刻みに震わせていた。
「き、きききき君はまさか昨日の……!?」
「ん?」
「え?殺せんせー、彼のこと知ってるんですか?」
「し、知ってるも何も!先生、実は昨日とんでもないモノを見てしまったんですよ!」
茅野の質問に答えるように、殺せんせーは怯えながら昨日のことを説明する。
♢♦♢
それはイタリアでの買物を終え、マッハ20で数分後に日本に戻って来た時の事。
イタリアでは朝だったのに対し、日本は時差の関係で真夜中の時間帯で、人通りがない道を殺せんせーは歩いていた。
「やれやれ、カルマ君にジェラートを食べられるわカルマ君に財布を取られるわで災難でした。新しいジェラートを買った分、給料日までどう食いつないでいこうか」
そう言いながらぶつぶつとこの場にいないカルマに対し愚痴を呟く殺せんせー。
しばらくすると殺せんせーは公園を通りかかる。
すると公園には頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた少年がブランコに座っている後ろ姿が見えた。
(子供?こんな時間帯に?)
家出少年かと疑問に思っていると突然声が聞こえた。
「星が綺麗だな……」
「にゅっ?星………?」
思わず空を見上げる。
「おー、本当ですね!(………おっと)」
国家機密そのものである殺せんせーは一部のもの以外自身の存在を見られてはならない。すぐに我に返り、瞬時に黒のカツラを被り、つけ鼻をつけ、肌の色を変えて変装する。
「お前も星を見に来たんだろう?」
少年はブランコから立ち上がり、振り返る。
「今日はこんなに星がよく見えるんだ。せっかくだからこっちに来いよ!みんなで眺めようぜ!」
「それは嬉しいお誘いですが、子供はお家に帰る時間ですよ。それに君、文法間違ってませんか?二人じゃ、『みんな』とは言いませんよ」
そう言いながら殺せんせーはヌルフフフと笑い出す。
「いいや、『みんな』さ」
「にゅっ?」
少年は嬉しそうに親指で後ろを指す。
「この………公園の……」
「!!!!」
少年の言葉を合図に沢山の霊がその姿を現す。
「あ………あ………あ………」
「そう驚くなよ。こいつら皆オイラの友達なんだ。いつまで経っても成仏できないろくでなしばっかだけどな」
その光景に殺せんせーは言葉を失う。少年はそんな殺せんせーを尻目に霊たちと戯れ始める。
「にゅぎゃあああああああああああああああ!!!?出たああああああああ!」
ありえない物を目撃し、殺せんせーは大きな悲鳴をあげながらマッハ20でその場から逃げ出したのだった。
♢♦♢
「――――ということがあったんですよ!!!先生もう怖くて怖くて地球を三周してしまいました!」
「「「………」」」
「あ、あれ?皆さんどうしましたか?シンと静まって」
「殺せんせー何を言ってるんですか?」
「だから見たんですよ!昨日、公園で!!!転校生の彼が幽霊と一緒にいるのを!!」
殺せんせーの話を生徒達は信じられず呆れた表情で彼を見つめる。
「いくら先生みたいな超生物がいるからって、さすがに幽霊はねー」
「なんかの見間違いだろ」
「殺せんせー少し休んだほうがいいんじゃないのー」
「むしろ殺すチャンスじゃ……」
当然の反応だろう。普通に考えれば幽霊なんて誰も信じない。テレビ番組で紹介されている幽霊はほぼ見間違えか番組のやらせだし、写真に至ってはプラズマによる超常現象であることが多い。
「そ、そんなことありませんよ!私だって嘘だと思ったけど、ちゃんと頬っぺたをつねって確認したんですから!」
「頬っぺたってどこだよ!?」
「わかりづらい顔しやがって!」
「転校生の麻倉君からもなにか言ってください!昨日公園で会いましたよね!?」
殺せんせーは僅かな希望を胸に真剣な表情で葉を見つめる。昨日の出来事がまやかしでないなら、彼は自分の事を知っているはず。生徒達も静かに葉の返答を待った。すると葉は静かに口を開く。
「幽霊なんているわけないだろ………ていうかお前誰?」
「にゅわっ!?」
葉の言葉を聞き、ガーンとショックのあまり膝(?)から崩れ落ちる殺せんせー。うなだれたまま、ピクリとも動かない。
「ゴホン……質問がいろいろあると思うが、休み時間にしてくれ。それじゃあ麻倉君は後ろの開いた席に座ってくれ」
「はーい」
烏間先生に指定された教室の一番後ろの席を確認してそこに座る。
「一時限目は訓練の時間だ。皆、すぐに体操服に着替えて外に集合してくれ」
「「「はーい!烏間先生!」」」
(先生は……先生は噓つきじゃありません!)
そして数分後。空気となっていた殺せんせーはなんとか立ち上がり、決心した。
(このまま引き下がってたまるもんですか。意地でも正体を暴いてやります!)
♢♦♢(渚side)
「「「いーちにーさんしー」」」
体育の時間、烏間先生の指示を聞きながら、みんな同時に数えながら対先生用のゴムナイフを振っている。
「八方向からナイフを正しく振れるように‼︎ どんな姿勢でもバランスを崩さない‼︎」
指導してる人は副担任である鳥間先生だ。といってもただの先生ではなく防衛省を務めている。僕たちに暗殺を依頼した人だ。
烏間先生が来る前は体育も殺せんせーが担当してたんだけど、身体能力が違いすぎて皆からは不評だった。そりゃ、いきなり反復横跳びで視覚分身やれって方が無理だよ。そのことを烏間先生が来るまで自覚していなかったらしく、皆から指摘されて体育から外された殺せんせーは砂場に追い払われた。
そして今殺せんせーは……
「じぃー」
木の陰から覗き込むように転校生の麻倉葉君のことをじっと見ていた。
殺せんせーはあのなりで器が小さい。きっとHRでのことを根に持ってるんだろう。気の毒に。というか殺せんせー幽霊が苦手なんだ。後で弱点メモに書いておこう。
小休止に入ったところで、僕は思い切って麻倉君に話しかけた。
「ねぇ麻倉君」
「…?えぇと……」
言葉に詰まっている?……あぁ、なるほど。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は潮田渚。渚でいいよ。そっちの方が呼ばれ慣れてるから」
「そうか。じゃあオイラのことも葉でいいぞ」
「わかった。よろしくね葉君」
「よろしくな、渚」
自己紹介の時と同じように葉君はゆるい感じで挨拶する。
ここまでゆるい人は初めて見たよ。
「お、渚はもう麻倉と親しい間柄になってんのか」
そこに、杉野がやってきた。
「俺は杉野友人。好きなように呼んでくれ」
「よろしくな、杉野」
「へぇ、渚君も杉野ももう仲良くなったんだ」
「あ、カルマ君」
次にやってきたのはカルマ君だった。
「意外だな、お前が来るなんてな」
「だってさ、さっきのおもしろかったしね~。あ、俺、赤羽カルマ。カルマでいいからね。仲良くしようよ」
さっきの…恐らく殺せんせーに精神的なダメージを与えたことだと思う。
「ところでさ葉君。ずっと気になってたんだけどここまで歩いて来たんだよね?そのサンダルじゃ登るの大変じゃなかった?」
言われて僕らもハッと気付いた。本校舎から隔離されたE組校舎は山奥にある。ここまで徒歩で来たとなるとかなり疲れるものだ。それもサンダルだと。
「んー…実家にいた頃爺ちゃんに修行で無茶苦茶ここより険しい所を登らされたからな、それに比べれば、まあ普通なんよ」
「ふ、普通なんだ」
「へー」
「一体どんな修行させられたんだ?」
というか修行って、葉君の実家どういう家なんだろう?
そう思っていた時
「それでは、残り時間もあと少しだ。ここからはいつもの実施訓練を行う」
「実施訓練?」
「葉君は初めてだったね。この授業の最後に烏間先生を相手に数人でナイフを当てにいくんだ。まぁ、いまのところ一撃も当たらないけど」
「ふーん…やっぱ強いんだな」
葉君は眠たげな眼を細め、烏間先生を見据える。
クラスで一番足の速い木村正義君と明るい髪色で見た目爽やかそうな前原陽斗君が先生にナイフをさそうとする。
しかしそれを鳥間先生は余裕で捌いていた。しばらく二人の攻撃が続くが当たる気配がまるでなく、軽くいなされて尻もちをついたのがわかった。
「2人とも動きはいいが、まだまだ動きに無駄がありすぎる。それにお互いのコンビネーションもあまりできていない。即興であろうといつでもいい動きができるようにしていけ。とくに前原君は2撃目への入り方はいいが、まず初めの1撃目が完璧であれば、つぎの攻撃はさらに鋭くなる」
「「はい!」」
的確なアドバイスをして2人の手を引いて立ち上がらせる。
「やっぱ強いわこの人」
「かすりもしないどころか、あの場所からほとんど動いてないんだぜ」
木村君と前原君が感想をいいながら戻ると烏間先生は「次」と言って1人の人物を見て言う。
「次は麻倉君。1対1で俺と模擬戦だ」
その言葉にクラスの全員が驚いた。1人で勝てるわけがないのになぜ烏間先生は彼1人だけを選んだのか。
「君は来たばかりだが、動きを見れば何となくではあるが体を動かすのが得意なのは分かる。故に、実力を知っておきたい」
どうやら、烏間先生も葉君の実力が気になるようだ。
「転校生の腕前はどんなものか、確かめるとするか」
「けどあいつあんまり強そうに見えないけど一人で大丈夫なのか?」
「二人がかりでも駄目なのにな」
岡島君と三村君、木村君の会話が聞こえてきた。
かく言う僕も彼の実力は気にはなる。
指名された葉君は最初の方こそ面倒臭そうな雰囲気を醸し出していたが、仕方なさそうに静かに「うい」と答える。
「ナイフ持ったら人格変わったりしてね」
「不破さん、それは漫画の読みすぎじゃない?」
クラスの皆が色々推測しながら見守る中、葉君は対先生ナイフを構える。けど葉君は僕たちとは違い、背筋をまっすぐに伸ばして、両手で持ったナイフを身体の中心でゆっくりと構える。まるでナイフよりもリーチの長い刀を構えているようだ。烏間先生もそれを見て臨戦態勢に入る。
「ってあれ?」
「?どうした渚?」
「え、えっと……なんでもないよ」
今一瞬葉君の後ろに大柄の白髪の侍が視えた気がしたけど………気のせいか。
「制限時間は3分、時間内に一太刀いれられれば麻倉君の勝ち、出来なければ俺の勝ちだ」
「そっちは武器持たなくていいんか?」
「ああ、そのナイフなら人間に怪我はない。時間を測るのは・・・磯貝くん、お願いしてもいいだろうか?」
「あ、分かりました!!」
磯貝君が携帯でタイマーをセットし、始めの合図をする。
「では始めるとしよう。いつでも来い」
「そんじゃあ行くぞー」
烏間先生の言葉を合図に葉君が動いた。
「はぁっ!」
1歩目から大きく距離を詰め、振りかぶったナイフを空気を斬り裂くような素早い速度で斬り下ろす。
「……っ」
烏間先生は少し驚いただけで即座に体を横に傾けて躱し、葉君の腕を掴み横に投げた。
けど葉君は尻もちをつかずに両足で着地し、かがんだ姿勢から振り向きざまにナイフを横なぎに振るう。
それも烏間先生は後ろに大きく跳躍してかわした。
「うーん………やっぱこのナイフ使いにくいな。変にブルンブルン揺れるし、短いし」
「他のみんなも同じのを使ってるんだ。暫くはそれで我慢してくれ」
「…あいよ」
不服ながらも、葉君は三撃目、四撃目と続けざまに攻撃をし続けた。剣道のそれとは違いかなり実践的だ。
「す、すげえ……」
「俺たち相手でも動かず軽くいなしただけの烏間先生が………」
「動いたぞ!」
「ふおおおおおおおお!!!!!!!」
「テンション上がってるねぇ、優月ちゃん」
「そりゃテンションもあがるよ、陽菜乃ちゃん!!バトル漫画みたいな戦いっぷり、こうやって現実で見れるんだからね!!!」
「あははー、そうだねぇー」
「へぇーすごいねえ、ボーっとしてる感じなのに動きに全く無駄がない」
葉君の動きにはほかのみんなも驚いていて、漫画大好き少女である不破優月さんは物凄い目をキラキラさせているし、傍から見ていたカルマ君もへぇ、と興味を示していた。
烏間先生は繰り出される葉君の連撃を紙一重でかわし続けている。けれど間合いを維持しているように見えて、わからないように烏間先生との距離はジリジリ詰めていた。
今度は烏間先生が攻撃に入る。
左腕で葉君めがけて途轍もない速さの裏拳が飛ぶ。葉君は上半身を仰け反り間一髪で躱し、烏間先生と距離を詰めようとした。けど拳の後にワンテンポ遅れて、今度は右の拳が弾丸の速度で迫る。
「ッ!何のこれしき!」
葉君は急ブレーキすることで速度を殺し、屈むことで弾丸の速度で飛んでくる拳を受け流した。そしてそのまま烏間先生の懐に入った。
「しまっ!?」
「阿弥陀流――――」
ナニカの技名を言いながら葉君がナイフで抜刀のポーズを取り、横なぎに振るう。それもさっき以上の速さで。
これなら烏間先生にナイフを当てられる。そう思っていたそのとき───
ピリリリリリリリリ
3分経過のアラームが鳴り、その瞬間に葉君の動きがピタッと止まる。
「惜しかったな。あと数秒あれば俺にあてれたかもな」
よく見ると葉君のナイフが烏間先生のシャツに寸止めのところまで届いていた。
「君の動きを視た限りナイフよりもリーチの長い日本刀を使うスタイルのようだ。君用の武器を作るよう上にかけ合おう。だが他の生徒たちと同様ナイフを扱う訓練を受けてもらう。第二の刃を持つ心構えを持たなければ到底奴を殺せん。クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。それら暗殺に必要な基礎の数々を体育の時間で俺から教えさせてもらう」
と、そこで切り良くチャイムの音が聞こえてきた。烏間先生も体育の終わりを告げ、授業前に脱ぎ捨てていた上着を拾うために立ち去っていく。
最後まで決着はつかなかったけど、この模擬戦を見ていた僕を含むE組の皆が唖然としていた。
「いや、すげーわ。俺、手に汗握った。あいつ何者?」
「…渚君さぁ、どう思う、あいつのこと?」
カルマ君の問いに僕は少し考え答える。
「まだ4月だから編入生がきてもまだおかしくはないけど、今この時期にくるのは自然とも言い難いし、なによりさっきの模擬戦を見たら普通とも言えない」
「んじゃ、暗殺者ってことか?」
「それにしては若すぎるような気もするけど…それに、暗殺者というよりどっちかというと侍っぽい」
「色んな意味で不自然だよねー」
すでに彼の周りには生徒の大半が囲んでいる。
「スゲーよお前!あの烏間先生とサシで戦えるなんてすごすぎだろ!」
「これで暗殺成功率も格段に上がっちゃうね!!」
「うんうん!!凄かったよ!!」
「えっ?いや、あの………」
「なにかやってたの? 剣道とか」
「え、えっと………」
「転校生君凄い!まるで漫画の戦闘シーンをリアルで見せられてるみたいだったよ!もしかて牙突もできたりする!?それとも零式!?それとも呼吸!?」
「スマン。なにいってるかさっぱりわからん」
皆は今の戦闘に興奮して盛り上がってる。それに対して闘った本人は質問攻めにあって少し困った顔をしていた。
♢♦♢
時間は経ち、放課後。生徒達が皆家への帰路を辿っているなか、
(ヌルフフフ、標的発見)
何故かサングラスをかけて、パンと牛乳を持っている殺せんせーが葉を遠くから監視していた。どこの張り込み刑事だよ。
(やはり正体を暴くとしたら尾行ですね。ピッタリ張り付いて絶対ぎゃふんと言わせてやります!)
そして当の本人は橋の手すりに手をつき、空を眺めていた。
(何してるんでしょう。待ち合わせでしょうか?)
【そして30分後】
葉に変化がない。
(異常なしですか)
【そして一時間後】
葉にまだ変化がない。
(全然動きませんね…)
【そして三時間後】
「い、いつまであそこでぼーとしてるつもりなんですか!?あ~~時間が勿体ない!!」
しびれを切らした殺せんせーが口を開く。超生物である彼は我慢の限界を迎えていた。
すると葉に異変が
「くぅ――――っ!!!!」
「っ!」
葉は腕を伸ばし、背伸びをする。そろそろ動くのかと息をのんでいたが………
「自然と一体になるって気持ちいいなー」
「にゅわんじゃそりゃああああああ!!!??!」
「んあ?」
「あっ」
葉の言葉に殺せんせーは思わず大声でツッコんでしまい、あっさり見つかってしまった。
「ははは…そりゃあ悪いことしたなー」
尾行していた理由を説明したが、葉は特に殺せんせーを咎めはしなかった。
「お、怒らないのですか?」
「なんでー?オイラが知らんぷりしたからついてきたんだろ?」
「で、ではやはり!?」
「いやーオイラ面倒臭がりだからさ、学校で秘密がバレて騒ぎになるわけにはいかんかったんよ」
「ひ、秘密?」
「オイラ、実は地球が滅びるのを止めるために来たシャーマンなんだ」
「シャ、シャ、シャ、シャーマン!?」
葉からの爆弾発言に殺せんせーは衝撃を隠せない。
シャーマンとは自らをトランス状態に導き、神、精霊、死者の霊などと直接交流する者。シャーマンはそれらの力を借りることで、病気の治癒や政治、死者の言葉をこの世に伝える口寄せなどを行う宗教的能力者。彼らは古代においては人間社会の中心であり、現代においてもなお世界中に存在している。
(そういう方たちが存在することは知っていましたが、まさか実際に会うことになるとは………)
「ちなみに烏間先生はオイラがシャーマンってこと知ってるぞ」
「にゅわんだって!?」
これまで国が勢力をあげて殺せんせーの暗殺を試みても悉く失敗に終わった。来年には地球が滅びる。もはやなりふり構ってられず、霊的な力を行使する者たちに頼ることにしたというところか。
(先生、ミサイルや戦闘機なんかの実体のあるものなら手入れできますが………………幽霊なんか相手したことがないのでどうすればいいかわかりません!!!)
殺せんせーはめちゃくちゃ怖がりである。
(と、とにかく対応策を練らなくては………)
なにげなくシャーマンである葉の能力について聞くことにする。
「そういえば麻倉君は体育の授業で烏間先生とかなり渡り合えてましたが、ひょっとしてあれもシャーマンの力ですか?」
「うーん…半分正解で半分不正解だな。オイラは何度も自分の身体に持霊を憑依させる修行をしてたからな。それで、剣術が体に染みついちまったみたいなんよ」
(な、成程……麻倉君は自身の肉体に霊をとりつかせ霊の動き、技をトレースする特性を持っているという事ですか。ボーっとしてるのは自身の心を空にすること。そして空にできるからこそ霊の力を身に纏う事ができるという事………ですが、過去の人間に先生を殺せる者はそうそういないと思いますよ)
頭の回転が速い殺せんせーはシャーマンの能力をそく理解するや否や、顔色を緑の縞々に変化させてニヤリと笑った。舐めている証拠であるが、転校初日の葉は知る由もないため面白がって笑った。
「ウェッヘッヘ、顔に変なの浮かんでるー面白いなー」
『ハハハ!なかなか面白い御仁でござるな葉殿!』
ん?
突然の第三者の声に殺せんせーが固まる。
おかしい。
葉と自分以外誰もいなかったはずだ。
(ま、まさか………)
ギギギと首を後ろに向けると………
『お初にお見えにかかるでござる。拙者、葉殿の持霊兼ぼでぃーがーどを務めている阿弥陀丸と申す』
殺せんせーに負けないくらいの高身長に白い装束、赤い甲冑、腰に差した刀、白い長髪の侍の霊がいた。
(ぬわぁんか滅茶苦茶強そうな幽霊来たああああああああ!!?!)
思わずムンクの「叫び」のポーズを取りながら心の中で思いきり叫ぶ殺せんせー。
「あ、あの、麻倉君。こちらのお侍さんは阿弥陀丸というのですか?」
「ああ。阿弥陀丸はオイラの友達で、600年前千人斬りの伝説を残した侍の霊だ」
(どういう事これぇぇぇぇぇ!?よりにもよって鬼人と恐れられていた最強の侍を持霊に!?)
歴史の教科書にも載っている600年前の侍、阿弥陀丸。あまりに強く、あまりに人を斬り過ぎたために人々に恐れられて処刑された鬼人。日本の歴史上最強の部類に入る。
その霊を持霊とするシャーマン麻倉葉。この組み合わせはまさに最強というほかない。
(ハイ終わった。先生来年を待たず殺されそうです)
戦う前から諦めモードの殺せんせー。
「なんだよー。顔を縞々にしたり青くしたり、鼠色にしたり忙しいせんせーだなぁ」
「そりゃあ色々衝撃的な話を聞いたら忙しくなりますよ………まさか転校生に殺されるとは」
「は?オイラ殺す気ないぞ」
「そうですよね………そりゃあE組に転校するとしたら殺しに来るに決まって………え?」
すぐには理解出来なかったあまりに呆気ない即回答だったからだ。
「さっき言ったろ?オイラは地球が滅びるのを止めるために来たって」
「え、ええ………ですが、先生は来年の3月に地球を滅ぼす予定なんですよ?烏間先生から聞いてませんか?」
「ああ。けど殺す以外で止める方法がないわけじゃないだろ。それにオイラの爺ちゃんが言った。幽霊が視える奴に悪い奴はいないって」
「っ!」
「だから、殺せんせーは良い奴だ」
そう言って非常にうれしそうに笑う葉。
それは言い換えれば殺せんせーという超生物を危険な対象として認識していないということだった。
「………随分と私を買っていただけているのですねぇ。お会いしたばかりで得体の知れない存在だというのに」
『葉殿はこういう御仁でござる。拙者は友と交わした約束を守れなかった未練から600年地縛霊として隣町の墓場に居座り、ようやく約束を果たさせてくれた葉殿なら使えるべき主として、そして友として傍に居たいと思った故、一緒に行くことにしたでござる』
「そ、そうですか。そういった経緯が………」
「もちろん剣の腕がすごかったのもあったが、何より阿弥陀丸と一緒なら楽しそうだと思ったから持ち霊にしたいと思ったんよ」
「………」
葉と阿弥陀丸のやりとりを観察して殺せんせーは………
(彼は優しい子だ。来年地球を滅ぼすと宣言した私を殺すのではなく説得して考えを改めさせようとしている。しかし、私にそんなことをするほどの価値はありません。こうなったのは全て愚かだった私の自業自得なのですから。そして過程はどうあれ自分自身で選んだ道です)
「麻倉君。君が私をどう思おうと君の自由です。ですが、先生はE組の皆さんと三月までエンジョイしてから地球を爆破します。それが嫌なら先生を殺すしかありません」
「せいぜい殺せるといいですね~」と顔色を緑の縞々に変化させて挑発するように笑う。だが葉はそんな挑発をきにせずに笑顔を浮かべる。
「なんとかなるって。なんでもやってみなきゃはじまんねえだろ?」
「………まあ今はそれでいいでしょう。どっちにしろ君は既に私の生徒です。他の皆さんと一緒にちゃんと授業を受けてもらいますよ。授業中ボーっとしてたの先生知ってますからね」
「うぇー…バレてたか。ひょっとして朝知らんふりしたの根に持ってんのか?」
「………少し」
こうして麻倉葉の暗殺教室の日常が始まったのだった。
いかがでしたでしょうか?
なんとかなるが魂の在り方である麻倉葉ならこんな感じだと思いこのように書いてみました。
ヒロインどうしましょう………。