この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
アルテミス宇宙要塞の応接室でマリューらは軟禁されていた。
ムウは室内をさらっと見回し、異常はないか確認。
一見して不審物などは見当たらないが、盗聴器や監視カメラの類はあるかもしれない。
カオルとメアリーもその様子に気づいて、無言であちこち調べ回す。
この部屋は地球から来る高官や軍人を監視するために、監視カメラなどや盗聴器が仕込まれていた。
メアリーは次々とカメラを見つけては、自然な所作でモノを動かしたりカメラを動かすなどしていく。
「何を」
質問したナタルに、ムウは人差し指を口元で立てる。
その意味を理解したナタルは小さく頷いた。
カオルは盗聴器を見つけ、繋がっていたケーブルを抜く。
「どうもこういうところは不用心だね。俺たちが色々やってるってのに」
ムウがそう切り出したことで、室内の緊張は一気に解けていく。
「怪しい動きもしてみたが、外の兵士が飛び込んでこないし、こりゃあマジでお偉方を迎える部屋だな」
「盗聴器を無効化して、飛び込んでこないのはなんとも」とカオルはメガネの位置を正す。
「私たちの抵抗なんて、どうでもないって感じね」とメアリーは肩をすくめる。
言われてみてマリューはなるほどと、自分の座っているソファーを押して見る。座り心地は良く、どんな体型、座り方でも優しく包んでくれる触感だった。
「これからどうしますか?」
「帰したくないでしょうな。連中」
ナタルの真剣な様子に対して、ムウはどこかおちゃらけている。
そのことに彼女は不満を見せた。
だが、次の彼の言葉の声音はがらりと変わり、ナタルはすぐに彼への不満を取り下げることとなる。
「それよりも、ユーラシア連邦の連中がアルテミスの傘は無敵だって、思い込んでいるところが心配だ」
「そうでしょうか?」
「バジルール少尉は、兵器のカタログスペックだけを信じる派かい?」
「いえ、そういうことでは……」
「どんな兵器にも穴はあります」
とカオルが補足する。
フェイズシフト装甲とはいえ無敵ではない。実体兵器による物理的なダメージは、装甲にダメージは負いにくい程度だ。
だが、衝撃までは無効化出来ないし、装甲を支えるフレームの部分は普通の装甲だ。
衝撃でパイロットが死ぬこともあるし、装甲を支えるフレームの方から破損することもある。
事実、カオルとメアリーは前述の状況に遭遇している。
どんな兵器にも弱点があり、また使う側が人間ならなおさらだ。
「アルテミス宇宙要塞は辺境にあり、ここにいる兵士に練度の高さは感じられませんでした」
と、カオルは懐から小銃を取り出す。
彼はいつの間にかユーラシア連邦から銃を抜き取っていた。
ムウは口笛を吹く。
「やるね」
「警備の兵士は隙だらけですね」
「俺はウラベ少尉のことを勘違いしてた。規律とかうるさそうだとばかり」
「時と場合によりますよ大尉」
男連中二人はにやりと笑い合う。
カオルはさらにもう一丁銃を取り出し、それをムウに手渡す。
さすがにこれにはムウらは目を白黒させた。
「おいおい。まじかよ」
「本当にザルなんですよ」
「なおのこと、戦闘になれば――」
マリューが口を開いたことで、全員の視線が彼女に集まる。それに気圧されたのか、わずかに戸惑ったものの続ける。
「――このアルテミス宇宙要塞は、まずいのでは?」
「連中の狙いがわからないことには……」
ナタルは相手の目的がわからないと言う。
「アークエンジェルとストライクの破壊では?」とマリュー。
「それは最終目標だろう。今の作戦はわからんってこと」
彼らは先程ガルシアに見せられた映像を思い出す。
いつの間にかローラシア級の戦艦が二隻となり、アルテミス宇宙要塞の周囲をぐるぐると回っている状況だった。
数機のジンの出撃も確認されたが、それも攻撃をしようという様子ではない。
「待てよ。連中の目的はこの状況か?」
「アークエンジェルを撃沈できませんよ。それでは」
ナタルは言った後に、違和を感じる。
「そうか。内部分裂を狙って」
「それもあるだろう。こっちの援軍を都度叩くってこともできるぜ」
「古来より――」
カオルは戦史を思い出す。
籠城戦を行う場合、援軍があって初めて成立する。
しかし、援軍が辿り着かなかった場合。立て籠もった側は自壊するなり、投降するなりだ。
「この場合ですと、内紛ですかね」
メアリーの悪い予想に、マリューは静かに頷く。
「となると、なんとか艦に戻らないとな」
ムウはカオルから渡された銃を確認。
「今出ても、やられるだけですよ?」
「だから、みんなで知恵を出し合ってなんとかしようぜ」
ムウはウインクして笑顔を作った。
ローラシア級戦艦ガモフのブリッジでは、定時のミーティングを行っていた。
ゼルマンはやりたいと思わなかったのだが、イザークはどうしてもと言って聞かなかったため、それだけは認めた。
何もしないのも士気に関わると考えたため認めたのである。
ゼルマンとしては、イザークのやる気を間違った方向にいかないように、かつやる気が損なわれないように注意をしていた。
能力は高いのだが、自尊心が強く。それが悪い方向に転がらないようにと気を配る。
もう少し色々と経験すれば、良き隊長となり自分のような船乗りを上手く扱えるようになるだろうとも、確信している。
とはいえ、彼はミーティングの内容に、項垂れそうになっていた。
話の内容はまるで作戦に関係のない。
そして、その話の内容にゼルマンらはどこか安心もしていた。
「ニコルの姉ちゃんってさ。やっぱお前にそっくりなの?」
「よく言われますが」
「じゃあめっちゃカワイイんだろうな。紹介してよ」
「お、いいねぇ。その話俺にも一枚噛ませてくれよ」
「ラスティーとディアッカには、絶対に紹介しません!」
頑ななニコルの様子に話だけを聞いてイザークは目を瞬かせる。
「俺はラスティーと違って、お前にいい子を紹介してやるよ」
「ずるいぞディアッカ!」
「それも結構です!」
イザークもゼルマンと同じ気持ちなのか、片方の目元を痙攣させていた。
「お前たち、これからミーティングをだな」
「そういやイザークは許嫁とかいないの? アスランのラクス様みたいにさ」とディアッカ。
「今は、そんな話関係ないだろ。それにいない!」
ミーティングに話を戻そうとしたイザークだが、思わぬ援軍によってペースを乱されてしまう。
ゼルマンだ。彼は驚いた様子で「いないのか?」と口をついで出てしまう。
それもびっくりするぐらい目を点にしていた。
「アスランにはいるもんだから、ついいるもんだと……」
ゼルマンは言いかけた言葉を飲み込んだが、時既に遅しである。イザークは顔を真赤にして叫んだ。
「うるさい! 悪かったな! あいつにいて、俺にはいなくて!」
「ニコル姉ちゃん紹介してもらおうよ。お前のお袋さんも、エースパイロットなら認めてくれるって」
「待ってくださいディアッカ! 勝手に話を進めないでください!」
「イザークずるいぞ」
「ええい! 黙れ黙れ黙れ! うるさいぞ! 隊長にもこんな姿を見せるのか!」
話が大いに脱線した頃だ。艦内のオペレーターの表情が一変。険しい表情のまま叫んだ。
「ユーラシア連邦の秘匿通信確認」
ガモフの艦橋に緊張が走った。先程までの雰囲気は一気に消し飛んでしまう。
「なんと言ってる?」
「不明艦拿捕。新型のデータの収集を開始。太平洋連邦に政治的圧力を、とのことです」
「不明艦? 足つきを? 俺たちをだまくらかすってわけじゃないだろうな」
「ナチュラル共は嘘も下手くそだな」
ディアッカは笑いながら言う。
「さすがに考えなしだぞディアッカ。今が好機じゃないか?」
「俺としてはもう少し静観したいが――」
イザークの表情が険しくなる。
「――不明艦って言い方が気になる」
言いながらゼルマンはニコルを見る。
「どう思う?」
「わざわざ友軍の艦船を不明と、呼称するのはおかしいと思います」
ゼルマンは頷く。次いでラスティーを見て、言葉を促す。
「太平洋連邦に政治的圧力って言ってるのもな。援軍出させるなってことだろ? そんな足の引っ張り合いなんてしてていいのかね?」
つまるところ、援軍が来たところ叩くという彼らの作戦が瓦解したのだ。
とはいえ、このまま静観していれば、足つきとアルテミスで内紛が起こるだろう。
彼らがいることで、効果はある。
「内紛終わった後じゃなくていいのか?」と試すように言うイザーク。
「それもありだが、イザークの言う通り、今が千載一遇ってやつだ」
「オーケー。ならプランBで行こう。ニコル、ラスティー。しくじるなよ」
イザークは鼻を鳴らして腕を組みながら言った。
「了解でありますジュール隊長」と敬礼するラスティー。
「茶化すな」
「イザークたちも後詰めの方、お願いしますね」
「してやるから、姉ちゃんを――」
「しませんから!」
ディアッカは小さく笑って、両手を上げた。
イザークは呆れたような顔になる。
ニコルとラスティーはブリッジを後にし、出ていくのを見て、ゼルマンはぽつりと言う。
「あいつの姉貴、結構美人なんだよな」
ブリッジにいたイザーク以外の男連中は湧いた。
アークエンジェルの艦内にガルシアは来ていた。彼が向かっている場所は、艦の司令室、ブリッジだ。
そこにつくと、艦長席に腰を下ろす。満足そうに笑うとシートの手触りを確認する。
すでに自分のものだと言わん様子だ。
だが、その表情はすぐに豹変する。
白い歯を食いしばるようにして、座席を殴った。
それを見ていた技術者たちは、肩を縮こませて様子を伺う。
「まさかコーディネイターを使っているとはな」
新型のモビルスーツとモビルアーマーに、ロックがかかっているため起動プログラムが動かない状況だった。
ナチュラルの、それもユーラシア連邦の技術者たちを使っても解析できなかったのだ。
だが、彼らには繋がりのある企業があり、そこの技術者にも協力を仰いだのである。
その技術者の中にはコーディネイターもおり、彼らが言うにはナチュラルでは、このような複雑なロックはかけられないと言う。
そう、つまり新型のモビルスーツにはコーディネイターが関わっており、その者が起動プログラムにロックをかけているのだという。
ガルシアも太平洋連邦がダブルスタンダードであることは理解していた。
しかし、実際にそれを目の当たりにすると、苛立ちを覚えるし、不愉快でもあったのだ。
彼は艦長席にある受話器をとると、艦内放送の操作する。
そして――。
『艦内にいる裏切り者のコーディネイター。すぐに出頭したまえ。またそれを匿う者よ。心から理解してほしい。そのような宇宙人を庇うのはよくない。コーディネイターは敵なのだ。その化け物を突き出したまえ。今ならまだ安全を約束しよう』
艦内放送を聞いたフレイはキラへと視線を向ける。
彼女だけではない。レクリエーションルームにいる全員が彼に視線を向けてしまう。
だが、それもほんの一瞬。多くの人はその視線を外して、素知らぬ顔をする。
「ねえサイ。あの子を差し出せば私達、ヘリオポリスに帰れるんじゃない?」
その一言は絶大だった。キラは目を見開き、その場で俯く。
「お前、なんてこと言うんだ」
トールは激昂し、フレイに食ってかかる。
「だって本当のことじゃない! それよりお前ってなによ!」
そんな騒ぎは外にいる男たちにあっという間に察知される。
「おい何事だ」
「静かにしろ」
銃口を向けられフレイは咄嗟にキラを指差す。
「あいつ! あいつよ! 裏切り者のコーディネイターは!」
「フレイ!」
サイは掴んで制止しようとするが、フレイはさらに続ける。
「だから、私とサイはヘリオポリスに帰してよ」
「んな都合のいい話あるわけないだろ」
「情報感謝な嬢ちゃん」
男たちはライフル銃をキラに向ける。彼はゆっくりと手をあげて立ち上がる。
銃を突きつけられたことより、好きだった女の子に言われた言葉に、キラの衝撃は少なくない。
三人目の男がどこかへと通話をしていた。
「な、何よ! 話が違うじゃない!」
なおも食ってかかるフレイ。感情の爆発が抑えられないと、銃を持つ兵士に詰め寄る。
「やめろやめるんだ、フレイ。もういいから」
「うるさいガキだな」
アルテミス宇宙要塞所属の兵士は、心底面倒臭いと拳を作った。
それを見逃さないキラ。
兵士が拳を振るのと同時に動き出し、柔道の容量で投げ飛ばす。
「これでわかったろ! 僕はコーディネイターだ!」
そう叫んで自身に注意を向けさせる。
「こいつ!」
「そこまでだ君たち」
そこにはスキンヘッドの男がいやらしい笑みを浮かべていた。
「君だね。裏切り者のコーディネイターとは」
キラは顔を険しくする。
「私はこのアルテミス宇宙要塞の司令のジェラード・ガルシアだ。君の協力を感謝する。君の活躍次第では、そこにいる人達は助かるかもしれないぞ?」
キラは心底吐き気を覚えたが、背後にいる幼い子供たちに気づいて小さく首肯。
ガルシアはキラを連れて格納庫へと向かった。
残った兵士は一発空砲を発泡。
「次騒いだら、脳天にぶち込むからな」
投げ飛ばされた兵士は苛立ちを隠さず、声音に乗せて言った。
その威嚇は絶大で、全員が静まり返る。
ガルシアは道中、キラのような存在は貴重だと口にする。その言葉はキラの心に深く突き刺さるものだった。
キラの反応が芳しくないことにガルシアは気づいていたが、気にせず話を続ける。
彼の頭の中ではレクリエーションルームにいる人々を人質に、キラに未来永劫従わせようと計画を練っていた。
こんなにも好都合な状況。
「ひとつ聞くが、君があの新型を動かしたのかな?」
「はい。そうですが」
「ほう。それは優秀だ。あの新型のモビルアーマーとの連携は見事だったよ。君には才能があるな」
キラは答えたくないのもあったが、戦争を褒められていい気はしなかった。
「そう、ですか……」
ローラシア級二隻がアルテミス宇宙要塞から離れたのは約一時間前。
接近する様子もないことから、彼らは光波防御シールド、通称アルテミスの傘を閉じた。
今回は粘り強くなかったな。と、要塞内部ではあざ笑う。
どれだけいられるかなど賭けでもしていたのか、負けたものはこっぴどく罵り、勝ったものは彼らも人間だと笑う者すらいた。
ガモフはある程度の距離まで来るとカタパルトのハッチを展開。
ブリッツが出撃体勢となり発進。次いでスティンガーも発艦した。
待機室でそれを見ていたイザークとディアッカは、どこか余裕に満ちた表情だ。
不敵な笑みを浮かべて仲間の背中を見送る。
ふとディアッカが口を開く。
「賭けでもするか?」
「結果が決まっている賭けに、意味なんてあるのか?」
イザークの言葉にディアッカは口笛を吹く。
「結構、信頼してんじゃん」
「あいつらが臆病者なのは変わらんがな」
「はいはい。そういうことにしておきますか」
「なんだと!」
外では二機が収まる大きさのデブリを使い、アルテミス宇宙要塞に直撃しないコースにデブリを押し出す。
「ミラージュコロイド生成」
『消えてるぜニコル』
「こちらも消えているように見えます」
二機はデブリにとりついて、慣性航行を開始。
「ミラージュコロイドの減衰率から計算するに」
『一時間とちょっとか』
二機はケーブルでつないで通信しているため、敵に傍受されることはない。
二人は改めて作戦を確認。二機がミラージュコロイドを使って先行。時間が来たらガモフとハイヤームが転進して、戦力を展開してくれる手はずだ。
その際、要塞外部をイン隊が、内部に突入するのはクルーゼ隊で分担している。
「そういえば、ラスティーはどうして軍に?」
『え? そんな真面目な話しちゃう?』
「せっかくですから聞かせてくださいよ」
『血のバレンタインの悲劇。あれも理由であるんだけど』
ラスティーは恥ずかしそうにしながら、父親と母親の復縁のきっかけになったらと説明。
彼の両親は離婚していた。彼はどちらとも良好な関係ではあるが、息子としては元に戻って欲しいと願ってしまう。
彼の母親も他の男性と再婚するつもりはないらしく、彼はもしかしたら父親との復縁を望んでいるのではないか。と考えたのである。
『それでまあ、俺が戦争で活躍してさ。元に戻れたらって子供としては願ってしまうんだわ。ユニウスセブンの人たちを出汁にするようで、悪いけどね』
ラスティーはニコルからも、志願した理由を聞き「真面目だな」と返した。
「なんでですか」
『お姉ちゃん関係ないのか?』
「姉は、関係ないです!」
その時のニコルの声音は真剣そのものだった。
「こう言ってはなんですが、姉の性格は過激で、ナチュラルを見下すんです」
『それがいけないってのか?』
「僕は嫌いです。ナチュラルだろうが、コーディネイターだろうが、僕は人だと思っています」
彼はできれば戦争なんてせずに終わらせたいとも言う。
『優しいんだな』
「よく言われるんですけどね。僕は臆病だからだと思っています」
『そうかね? 昔聞いた話だが、勇気ある人は逃げることのできる人だって聞いたぜ』
「それは初耳です。もっと聞かせてください」
『しょうがねぇなぁ』
それから二人はとりとめもない話を続けた。
緊張を忘れるためかどうかだったかは、本人たちにしかわからない。
話をしているうちに、アルテミス宇宙要塞の姿はくっきりと映っていた。
「デブリから離れますか?」
『待て、索敵しよう』
ラスティーはスティンガーのセンサーを最大限に活かす。
モニター内に、びっしりとアイコンが表示された。要塞表面には、装置が多数設置されている。
メインカメラはアルテミスの傘の発生装置を捉えていた。
『あれが傘か』
「なんですって?」
ラスティーはデータをブリッツとリンク。
「あれですか」
『ニコルは飛び込め、俺は狙撃する』
スティンガーはライフルを手に構える。
「わかりました」
『一番槍くれてやるんだ。お前の姉ちゃん紹介しろよ』
「いやです!」
『いっちまえニコル!』
二機はデブリが離れ、ブリッツはアルテミス宇宙要塞へ。スティンガーはその場で四肢を使い姿勢制御。そして狙撃体勢となる。
スティンガーの装備するスナイパーライフルは二連装の口径。上の銃口からは実弾。下の銃口からはビームが粒子の弾丸となって発射される。
ミラージュコロイドを使っている都合、スティンガーは実弾で装置を狙う。
「懸念事項は、実弾で破壊出来なかったらってところだな」
ラスティーはスコープを展開して、装置のむき出しのフレームの部分を狙う。
装甲の部分で実弾が弾かれた場合を想定してのことだ。
ターゲットマーカーに、照準が合う。モニターにある時刻がゼロに近づく。
「悪いな。これも戦争なんでね」
カウントがゼロとなると、スティンガーは攻撃を開始。
宇宙の暗闇の中を銃弾が真っ直ぐに飛翔し、発生装置のフレームがむき出しの部分を射抜き破壊。
ついでに電装系も破戒したのか、電流を放って爆発四散する。それが開戦の合図だ。
ブリッツとスティンガーはミラージュコロイドを解除し、ブリッツは加速して接近。スティンガーは位置を変更して、狙撃していく。
ユーラシア連邦の面々も、ただ攻撃されるだけではない。ビーム砲や、対空射撃を行うが、その制度は悪い。
練度の低さと士気の低さが露呈していた。
だからといって、二機の攻撃は止まない。アルテミスの傘は、その数を瞬く間に減らす。
さらに後方からはモビルスーツが発進していた。デュエルを戦闘に、バスター、そしてジンが六機続いた。
モビルスーツ部隊の突入を援護するように、ローラシア級二隻の火線が、アルテミス宇宙要塞の外壁を穿つ。
ザフト軍の攻撃の衝撃は、アルテミス宇宙要塞の応接室まで届く。
「これは?」
「ザフトの攻撃だ」
ムウとカオルは顔を見合わせると、大喧嘩を始めた。
大声で互いに罵り合うと、騒ぎを聞きつけた警備の兵士二人が室内へと飛び込む。
ムウとカオルは同時に動き出し、彼らのみぞおちに拳を沈めた。
「よし、武器を持っていくぞ」
「急ぎましょう」
マリューはライフル銃を手に取ると、真っ先に飛び出す。その手慣れた動きにムウは肩を竦める。
「俺より強いかも」
「ふざけてないで、急ぎますよ大尉」
ナタル、メアリーと続く。男二人は顔を見合わせると、慌ててついていった。
道中軽い銃撃戦はあったものの、ザフト軍の攻撃が苛烈になったことで有耶無耶となってしまう。
五人はノーマルスーツを奪い、小型の揚陸艇に乗り込むとアークエンジェルへと飛び込んだ。
時を同じくして、アークエンジェルの艦内でも事態は動き出す。
アーノルド・ノイマンが食堂の警備らを突破し、彼を撃とうとした兵士たちは、チャンドラやジャッキーによって、押し倒され無力化されてしまう。
銃を奪われた彼らは、一目散に食堂から逃げ出してしまう。
「マードック軍曹は艦の状況確認を!」
「ノイマン曹長を追うぞ」とロメロがドスドスと走り出す。
「ちくしょう艦内で好き勝手しやがって!」
アーノルド・ノイマンを筆頭に、ブリッジ担当が飛び込むと、技術者の面々は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出す。
入れ違いに、チャンドラらも追いつく。
「どうする?」
「すぐに艦を動かせる状況にするんだ」
「艦長たちは?」
「信じるしかないだろ!」
ブリッジから揚陸艇が一隻姿を見せた。そこに乗っている人物が大きく手を振った。
そこには彼らのよく知る顔が並んでいる。
それに気づいたアーノルドは「艦長たちだ」と叫ぶ。
「右舷ハッチ開いてるぞ」
「ストライクだ」
「艦長たちも気づいたようだ」
右舷ハッチが開き、ソードストライカーを装備したストライクが発進。その開いているハッチに揚陸艇は飛び込む。
数分後にはマリューらが、ブリッジに駆け込んできた。
「状況は?」
ストライクが発進する数分前であり、ザフト軍の攻撃が始まる十数分前のことだ。
キラはストライクのコックピットで、ゆっくりとした手付きで起動プログラムのロックを解除していた。
銃口をつきつけられているせいにして、緊張を装い、ミスなども演じてみせる。
とはいえ、それに気づけるほど彼らは理解していない。すべて正規の手順を行っているように見えていた。
銃口をつきつけつつも、彼らは呑気にキラの作業を見守っていただけである。
武器を手にしており、人質があるという安心からかその先に思慮がいかないのであった。
そんな中、銃を突きつけられているにも関わらず、キラは気にもとめていなかった。先程のガルシアの言葉と、フレイの言葉が頭の中で反響していた。
裏切り者のコーディネイター。プラントを裏切った。そもそもキラはプラントに思い入れはない。
だが、その対象が友人だった場合は――。
(違う。違う僕は、僕は……)
脳裏には、モルゲンレーテの工場で再会したアスラン。そしてコロニーの崩壊の中で交わした言葉。
(僕は君の――)
衝撃がアークエンジェルを大きく揺さぶった。
ガルシアたちは混乱し、キラから注意がそれてしまう。
さらに振動が続くと完全に意識からキラのことが消えてしまった。
その隙をキラは見逃さない。銃を突きつけていた兵士を蹴っ飛ばすと、コックピットを閉じる。
文句を言われるが、キラもそんなこと言っている場合かと返した。
こうなってしまえばガルシアたちは、ストライクに手を出すことは出来ない。
彼らは慌てて兵士を集めて、アークエンジェルから急いで離れる。
キラは予め用意していた緊急用の起動プログラムを起動、ソードストライカーがバックパックに装着されたことで、一度きりの例外対応で機体が動く。
彼は出撃すると、接近していた揚陸艇に気づく。
モニターでズームすると、そこには見知った顔があった。
機体と入れ違いに、揚陸艇はアークエンジェルの中へと消えていく。
ストライクは対艦刀を抜刀。ユーラシア連邦の艦船を盾にするように、身を隠した。
(まだ外で戦闘中か? 中にいつ突入してくる?)
『キラ』
「ノイマンさん?」
『アークエンジェルをロックしている固定具を壊してくれ』
「了解です」
キラはアークエンジェルを固定する、装置を対艦刀で切り裂いていく。アークエンジェルは自由となり、無重力の中を浮遊する。
再びストライクは、艦船の影に敵の突入を待ち構えた。
(ゲームだと、こういう時は待ち伏せする方が強い……はず。相手はこっちの位置がわからないはずだ)
キラは敵として突入した場合を考える。まず目につくのは地球軍の艦船。そして、発進しているモビルアーマーの数々だ。
攻撃してくるのだから、否が応でも注意はそちらに向く。その後、突破後に目につくのはアークエンジェルだろう。
ストライクは姿勢制御だけで、アガメムノン級の艦底に潜り込む。
ストライクからケーブルを艦船に伸ばすと、キラはキーボードを引っ張り出す。
彼は艦船をハッキングすると、艦に備えてあるカメラの映像をストライクに映した。
アルテミスの宇宙港は突破されておらず、内側には徐々にメビウスが集い始める。
キラは一部が赤熱し始めたことに気づく。最初は数箇所だったのが、加速度的にその数を増やし、ハッチが赤く歪んでいく。
突破されると誰もが思った時には、ハッチが爆ぜる。破片の一部がメビウス三機に襲いかかり爆発する。
(来た)
黒の機体と灰色と黄色の機体が突入。ビームの光弾がメビウスたちを襲っていく。
ストライクのコックピットにブリッツとスティンガーと表示される。
スティンガーはメビウスを至近距離で狙撃していき、突破口を開く。それを見逃さず飛び込むブリッツ。
黒い機体のツインアイがアークエンジェルの白い船体を捉えた。
加速し接近してきたそのタイミングで、ストライクは艦との接続を切ると、機体を急上昇。
ブリッツから見れば、突然ストライクが現れたように映った。
キラは気炎の雄叫びを上げてペダルを踏み込んだ。対艦刀を振り抜くが、寸前のところでブリッツも回避。
ニコルはエネルギー残量を考えてピアサーロックを発射。ストライクは超反応でそれをロケットアンカーで迎撃。
さらにブリッツはランサーダートを発射するが、ストライクは対艦刀で斬り払う。
勢いそのままにストライクはブリッツに肉薄し、対艦刀を力いっぱい何度も振り抜く。
ブリッツは巧みに躱してアンカーを使って宇宙要塞内壁に発射。機体を直角に動かし、ストライクの視界から外れる。
キラは咄嗟にレーダーを見た。背後に動く物体で相手の居場所を判断。
刹那、キラはペダルを踏んでスラスターを吹かして、機体をそのまま背後に加速。踏み込んできたブリッツと背中で激突。
金属と金属。フェイズシフト装甲とフェイズシフト装甲が激突して、火花が花開くように散った。互いのコックピット内に激しい激突音が響き、衝撃が襲う。
二人は激しく揺さぶられて、それまでの思考が吹き飛ぶ。
彼らの背後ではデュエルとバスターが突入。さらに苛烈な攻撃をしていき、モビルアーマーと戦艦を撃破していく。
外ではイン隊のジンがアルテミスの傘を破壊していく。そのうちの一基だけを残し、彼らはそれを持ち帰る。
対して中ではそんな余裕はなく、バスターの火線が走るたび、爆発が起こりデュエルは撃ち漏らした機体を破壊。
キラの画面にもデュエルとバスターを認識。彼は溜まっていた鬱憤を叫ぶ。
無我夢中に機体を操作。
ストライクはブリッツの右腕を左のマニピュレータで掴むと、柔術の容量で投げ飛ばす。
『キラ君。アークエンジェルに戻って』
マリューの声が飛び込む。
キラは機体を反転させるとアークエンジェルに飛び込む。そのまま甲板に着艦。
接触回線越しに、ナタルが「ストライク着艦」という声が響く。
『アークエンジェル発進。反対側の港口から離脱』
アークエンジェルは燃え盛るアルテミス宇宙要塞から、離脱する。
その背後を四機のモビルスーツが追撃。デュエル、バスター、ブリッツ、スティンガーが追いすがったが、彼らの背後では、撤退用の信号弾が打ち上がった。
彼らは口惜しさを滲ませて、ガモフへと撤退する。
~続く~
登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。
【追記】
20220619修正