この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
イン隊と合流したクルーゼ隊はガモフより、足つき――アークエンジェル――を取り逃がしたと通信を受け取る。
ラウ・ル・クルーゼはどうしたものかと考え込む。事故で手に入れた物資の中には、デュエルらの機体の予備武装や、消耗品などもあった。
補給を受けないままの追撃は、かえってガモフを危険に晒すのは明白だ。かといってそのまま、追撃しないままでいるのも、足つきを自由にしてしまう。
「どうしますか?」
当然の話しだが、選択肢としては二つだ。
ガモフとハイヤームを呼び戻して、本国に戻るか。ハイヤームだけを呼び戻してガモフだけで足つきを追撃させるかだ。
ラウは顎に手をやり考える素振りとなる。
「ヴェサリウスを差し向けたいがな」
「無視することになってしまいますね。評議会からの出頭命令を」
「熱烈なラブコールだからな。無視をするわけにもいかない」
「オーブは相当怒り心頭なようですね」
「問題は、誰が悪いかだが」
ラウはプラントの立場が悪くなることはないと考えていた。
先んじて足つきとの戦闘の映像は、ヘリオポリスに提出しているため、オーブの追求はトーンダウンすると見ている。
だからこそ、出頭命令を多少無視してもいいのではないかとも考える。
「ミゲルたちに物資をもたせて、援軍に行かせるというのは?」
「いい考えだな。問題はひとりしか送れないということだな」
「ゼルマンはミゲルがほしいと言っております」
ラウは「ゼルマンの気持ちはわかるがな」と口にする。
だがミゲルは造園としての候補から外れていた。彼の専用機を受領しに行かねばならない。
ヘリオポリスへの攻撃以前の戦闘で専用機は中破しており、修理に出していた。
彼の機体が特別なチームがカスタマイズしているため、その手順は他の専用機のモビルスーツ乗りより時間がかる。
「シグーを彼に受領させてやれればいいんだがな」
「そういえば隊長専用のシグーの話。あれはどうなりました?」
「そうだな。それもあった。やはりヴェサリウスはこのまま本国に戻るしかないか」
ラウはやれやれと言った様子となる。
「となると、オロールですかね?」
「そうなるな。あれで鋭い指摘してくれる。私から彼にお願いしよう。アデスはガモフに打電。ハイヤームにはイン隊長から打電させる」
「了解です」
『聞こえていたよ。ハイヤームと合流してから、戻るって形かな?』
「そうしよう。ハイヤームはアルテミスの傘を回収したと言うじゃないか」
黒髪の青年は不敵に笑う。
『優秀な部下たちだ』
「敵を知るということを、よく理解しているのだろう。優秀な隊長が羨ましいものだ」
二人は不敵に笑い合う。
『評議会への出頭、私も意見具申しようか?』
「どういう風の吹き回しだ?」
ジェンは真剣な表情になると、先の戦闘の映像と共に真意を口にする。
『正直、これが量産されたらと思うと恐怖でしかない。それを目の当たりにしたいち兵士として、評議会に伝えたいのだ。ここで選択を間違えると、戦火が広がってしまう』
「データも先んじて手に入れたのだろう? それくらいしてもらわんとな」
『ご期待に応えれるよう、努力しよう』
またしても二人して不敵に笑い合う。
そんな隊長を上司に持つ、アデスとイン隊の副隊長は、通信モニターごしに目を合わせると肩を竦め合う。
ラウらは作戦の方針を決めると、オロールを合流地点に向かわせて、本国へと帰還する。
ヴェサリウスは補給基地へと寄港する。ラウは艦の修理と補給を命じると、交代で休暇をとるように命じる。
「アスランも連れて行くのですか?」
「彼は冷静で客観的なものの見方ができるからな。ストライクとも戦闘をしている」
彼はアデスに後の任せると、迎えに来たシャトルへとアスランと向かった。
アスランはシャトルに入ると、そこにいた人物に驚く、そのため少しだけ敬礼が遅れてしまう。
ラウはまるで驚いた様子もなく、その人物がいるのが当然のように接する。
「ご同道させていただきます。ザラ国防委員長閣下」
アスランの父、パトリック・ザラがその場にいたのである。
彼は手で敬礼をやめさせると、自分は存在しないものとしろと言う。
彼はアスランを見て、さらに念を押すように言い含める。
「わかりました父上。お久しぶりですね」
パトリック・ザラとラウ・ル・クルーゼは通路を挟んで隣の席に座る。アスランは彼らより一列後ろの席に腰を下ろす。
何を話すのだろうと身構えているアスラン。彼の父親は、ラウの報告を読んだと言う。
概ねラウの意見に賛成だと、パトリック・ザラは言う。
「だが、ひとつだけ修正させてもらった」
「パイロットのことですな」
パトリック・ザラは重々しく頷く。
アスランは驚き、僅かに身を乗り出す。
パイロットは彼がキラであると報告している。
「君も、友人を裏切り者として報告したくあるまい?」
「え? まあ……」
「問題はやつらが、野蛮なナチュラル共が、高性能なモビルスーツを作ったことだ」
残された一機がコーディネイターの手によって動かされている。
それは戦力を正しく評価できない可能性があった。
穏健派にそこを突かれ、時間を与えてしまうと、戦争の変化についていけなくなってしまう。
「やつらはナチュラルが動かしても、同等の性能を出せるモビルスーツを作ったということだ」
彼は「アスランにその意味がわかるな」と、反論を封じる。
アスランもまた、それは事実だろうとぼんやりと考えていた。
OSの問題さえ解決すれば、ナチュラルもモビルスーツを動かすことができる。
「戦争を早期に解決するためには、我々も本気にならねばならないのだ」
ナチュラルがモビルスーツを動かせることは、プラントにとって驚異だ。モビルスーツという圧倒的で、強力な兵器があるからこそ、数で優勢の地球軍と互角以上に渡り合えているのである。
それがひっくり返ってしまう事態なのだ。ことの重大性はアスランも理解している。
しかし、彼は父親の言葉に違和を覚えた。
「しかし、まさかあれほどのモビルスーツを作り上げるとは」
「オーブが絡んでおります」
仮面の男は記憶媒体を取り出すと、そっと無重力に浮かせる。少しだけそれを押してパトリック・ザラのほうへと慣性で流す。
「これは?」
「なんのことでしょうか閣下? そういえばヘリオポリスワンで不思議な事故がありまして」
パトリックは「ほう」と先を促しながら、それを手に取った。
「地球軍の新型。あれの補給品や武装などがヴェサリウスの進行方向に流れ着きまして、我々はそれをたまたま回収したのです。そういえば今もその中身の一部を事故でなくしてしまったかもしれません」
国防委員長は、手に持つ記憶媒体をコートの内ポケットへとしまう。
「そんなものは最初からなかったのではないか?」
「そうかもしれません」
仮面の男は小さく笑う。
「オーブで手に入れたジンですが」
「忌々しいが有用だ。ユウキ隊長から提案があってな。臨時査問委員会の後で相談したい」
「お時間を作りましょう」
シャトルが目的地につくとパトリック・ザラは早々に出ていく。
ラウはアスランを連れ立って、ジェンと待ち合わせる。彼らも数分後には到着する。
彼は副官も連れてきていた。
「本気だな」
「クルーゼ隊長ほどではないよ」
二人は不敵に笑う。
イン隊の副官の人は軍帽を脱ぐと、首元をかいた。
アスランはどうしたものかと、様子を伺う。
「では、行こうか」
クルーゼとインは、雑談を交えながら情報を交換していく。
ラウは先程の国防委員長との会話は伏せて、上の人間とのやり取りがあったことを臭わせる。
ジェンは肩を竦めると、アスランへと視線を向けた。
「君も大変だな」
「いえ、そんなことは」
話をしていると、ニュースの声が彼らの耳朶を打つ。
彼らが注意を向けた理由は、評議会の議長であるシーゲル・クラインの名前が出たからである。
彼の娘、ラクス・クラインが追悼慰霊団代表を努めているというニュースだ。
そういえばとラウは切り出す。
ラクス・クラインがアスランの婚約者であったことを口にする。
シーゲル・クラインとパトリック・ザラは、こんにちのプラントを作り上げた代表的な面々の二人だ。
その二人の子供であるアスランらが結ばれれば、プラントにとって希望の光となる。
ラウはその未来をなんとしても守らねばならないと口にする。
アスランが頷こうとした時、ジェンが口を開く。
「ラクス嬢の親衛隊が発足されるとか? そうなればアスランが隊長かな?」
「おや、そんな話は初耳だな。今、隊を抜けられるのは困るな」
ラウは、ジェンに視線を向けて話を促す。
「なんでも、ラクス様の命を狙う者がいるらしい。内外でな」
その言葉にアスランは驚く。
「政治的なお仕事をしてもらう際に、エース級やエース候補のパイロットたちを親衛隊に護衛させようって話だ。クライン議長は、嫌がっているんだがな」
「穏健派としては、あまり軍部に借りを作りたくないのだろう」
ジェンは項垂れる。
「今は派閥争いしている場合かね?」
「彼らは前線で死ぬ兵士たちのことなど、数字でしかわからないからな」
その場が静まり返り、誰も何も言えなくなってしまう。
前線で兵士が何人死んだなんて報告は日常茶飯事だ。
彼らがひとりひとりに心を砕いている余裕はない。
「暗い話になりすぎたな」とジェン。
「そういえばアスラン。ラクス嬢のどこが好きなんだい?」
突然の質問。それもラウからのフランクな質問に、アスランは動揺した。
「それは俺も気になるな。キスしたんか? キスしたんか?」
「イン隊長、さすがに無粋ですよ」
ジェンは副官にたしなめられてしまう。
「今だけだぞ。こんな話できるの。お前は彼女いるのか?」
「いませんよ。隊長こそどうなんです?」
「私かい? 紹介してくれると嬉しいな」
ジェンはアスランへと視線を向けた。
「あ、そう、ですね。ラクスに聞いてみます」
「ラクス嬢からの紹介か。それは期待できる」
ジェンはやったなと豪快に笑う。
その時アスランは、彼の顔がわずかに曇ったのを見逃さなかった。
誰も彼もが戦争で心に傷を負っていたのだ。
オーブ連合首長国領ヘリオポリスイレブン崩壊の臨時査問委員会。
そこにアスランたちは出頭し、ラウは経過報告を求められた。
彼は座席より立つと、評議員たちがいる側まで歩み出る。
アスランとジェンとその副官は、座席に座ってそれを見守った。彼は作戦の遂行経緯を説明していく。
まず、オーブ連合首長国には、プラントからの諜報員がいた。予め彼らから新兵器が開発されているという情報が来たのである。
その情報を元に彼らはヘリオポリスに向かっていったところ、地球軍の艦艇が一隻と遭遇。
これにより情報の確度があがったため、追跡して実査に攻撃したという話だ。
ラウはとある情報を伏せて話をした。オリバーたちの裏切りだ。
不当に扱われていることに不満をもっていて、そこを諜報員がそそのかした経緯があった。
が、それはストライクのパイロット同様、削除した部分。
否、ラウが意図的に記載しなかった内容だ。
彼は戦闘映像を見せながら、話を続ける。
「確かに、新兵器を奪取する際に、不当にヘリオポリスに突入しました」
ミゲルのジンから見たストライクの戦闘映像。
それを見た評議員の面々は驚きを顕にする。コーディネイターにしか動かせないモビルスーツ。
それが地球軍によって動かされているのだ。その衝撃は計り知れない。
次の映像はコロニー内に突入してきた地球軍の新造艦。
これにはさすがの穏健派も、眉根を寄せた。戦艦をコロニー内に持ってくる理由がわからない。戦場がコロニー内部になってしまう。
コロニーが生活の要な彼らにとっては信じられないことだ。
「コロニーを戦場にすることに、なんの抵抗もないのか!」
ひとりの評議員は怒声を発した。
「足つきは、オーブのジンと戦闘になり、多数の火器を使い――」
コロニーのシャフトへの攻撃が命中する映像が映し出される。
評議会の面々は絶句した。
そしてヘリオポリスイレブンは崩壊したのだ。
「以上のことから、ヘリオポリスイレブンの破壊は、地球軍の方に非があります」
実際に映像だけで見れば、オーブと地球軍が内紛しただけにしか見えない。
怒りの声が噴出。穏健派からはアスハ代表を養護する声も出る。もちろん否定的な者もおり、意見がぶつかり合う。
パトリック・ザラは、そこで立ち上がり疑問を口にした。
「必要があったのかね? ナチュラルが作ったモノなど」
コロニーの破壊。そこまでの犠牲を払ってでも手に入れるべき兵器だったのかと聞いたのである。
ジェンは僅かに表情が変化した。それは遠くの席にいる面々には気づかれないものだ。
仮面の男は国防委員長の意を汲んで、地球軍のモビルスーツについての説明を、アスランとジェンからさせたいと申し出る。
シーゲル・クラインとパトリック・ザラは視線を交わし頷き合う。
「アスラン・ザラよりの報告を許可しよう」
アスランは起立すると、歩み出て敬礼。そして映像を交えて説明を始めた。
「私よりご報告させていただきます――」
まずは彼の乗機、イージス。
最大の特徴は他四機と違い変形機能を有している点だ。
奪取したモビルスーツの中では、最高の機動性能と火力を有している。
宇宙空間を高速で移動し、強襲するのが想定された運用のモビルスーツだ。
イン隊の撮影された映像。イージスによる地球軍への強襲する姿が映し出された。
また頭部の大型センサーに通信、分析機能が強化されている。
次はイザーク・ジュールの乗機、デュエルだ。
この機体は地球軍の新型モビルスーツの、母体となっている機体である。
対モビルスーツ戦を想定した機体で、汎用性のある機体だ。
ジンを仮想敵としたモビルスーツであり、他の機体の開発の元となっている機体だ。
拡張性はあるものの、他のモビルスーツと比べるといくらか見劣りする部分もある。
だが、備えている武装はどれも現存するザフトのモビルスーツを凌駕していた。
次にディアッカ・エルスマンの機体、バスター。
バスターは遠距離からの砲撃をメインとした機体だ。
特徴的な二種類の大型火器を装備しており、その火力は絶大だ。
またその二種の大型の火器を連結することで、威力を上げた砲撃ができる。
近接武器やシールドはないため、友軍を後方から支援するのが目的の機体だ。
各部にサブバッテリーなどが備えられているため、稼働時間は確保されている。
ラスティー・マッケンジーの機体はスティンガー。イザークの機体と酷似していた。
後述のブリッツに備えられている特殊兵装の実験的意味合いで開発された機体だ。
バスターと同じく、後方より狙撃支援する役割を担っている。
デュエルと同じく拡張性に優れており、装備している狙撃ライフルは実弾とビーム。状況に応じて切り替えることができる。
白兵戦で戦闘することも考慮されており、シールドとサーベルも装備していた。
先に紹介した三機で間に合っている部分があるため、試作機とはいえ存在が中途半端だ。
最後にニコル・アマルフィの機体のブリッツ。
本機は特殊戦を想定しており、最大の特徴は自機を消すことができる光学迷彩システム。ミラージュコロイド・ステルス
スティンガーよりも特殊戦を考慮されて、開発されている。
各部がミラージュコロイドのために最適化しているため、スティンガーよりもステルス性能も高く、稼働時間も長い。
特殊戦を想定しているため、固定火器などは装備されておらず、モビルスーツの単体火力はデュエル相当だ。
その反面、近接戦闘能力はずば抜けている。
そして最後に、敵に残った機体。ストライクだ。
他の五機にはない換装能力が最大の特徴である。
近接戦仕様のソードストライカー。砲戦仕様のランチャーストライカー。そして運動性を活かし汎用性の高い戦闘を行うエールストライカー。
どのような状況に対しても、装備を換装することによって対応することができる。
ストライカーパックには予備のバッテリーも備えられているため、稼働時間も前述の機体より長い。
特化して開発された五機に負けない戦闘能力を、装備によって有することができる機体だ。
さらにフェイズシフト装甲を装備したモビルアーマーとも合体する機能があった。
その火力はイージスやバスターを凌ぐ程だ。
ただアスランたちの見立てでは、稼働時間はそんなに長くないと見ていた。
どの機体にも共通していることだが、フェイズシフト装甲という物理攻撃を無効化する装甲と、戦艦の主砲か、それ以上の火器のビーム兵装を装備している点。
そして、現状それを撃破できるザフト軍のモビルスーツは少ないということだ。
その意味を評議員の面々は重く受け止めていた。
「続いて、実際にイージスの戦闘を目の当たりにした、ジェン・インが隊長からも、機体評価の報告をさせたいのですが」
これも認められ、彼はイージスの戦闘映像を元に、いかに驚異的な能力を有しているか説明する。
「この強襲能力は驚異的です。イージスという機体が量産された場合。機動力と、火力をもって我軍は駆逐されます」
淡々とした、だが本国の防戦に一翼を担う者の言葉は、効果は抜群だった。
「我軍のモビルスーツを馬鹿にするのか」
ひとりが食ってかかる。
「ですが、一機を撃破するのに、ジンが五機がかりで戦うしかない状況になります」
彼はイージスのデータをもらった際。シミュレーションしたのである。
その結果、互角以上に戦うには、ジンが五機で囲んで重突撃銃を撃ち続けなければならない。
その間にモビルアーマーたちがジンを取り囲み、各個撃破されてしまう。
「勝てませんよ」
ジェンの背後の映像では、地球軍の戦艦がイージスの攻撃で撃沈される映像。
「――っ!」
新型の説明を受けた評議会の反応は真っ二つにわかれた。
まだ試作段階だと、楽観視するものや。デュエルとスティンガーを例にあげて、量産段階に入っていると主張する者で意見が激しくぶつかり合う。
それだけ、新型モビルスーツの存在は衝撃的であったのだ。
「戦争などしたがる者はいない」
パトリック・ザラはそう切り出し立ち上がる
彼は平穏に暮らしたかった自分たちを、攻撃した地球軍を声高に糾弾する。
そして彼は血のバレンタイン、ユニウスセブンの悲劇を引き合いに出し、主張する。
「戦わねば守れないのだから、戦うのです」
穏健派は顔を俯かせ、強硬派は頷く。
戦況と世界情勢が一変しようとしていた。
シーゲル・クラインは、議会の様子を見て憂い顔となる。
議会が終わると、アスランは委員の人々が出るまで、出口で敬礼をして見送る。
「やあ、アスラン」
シーゲル・クラインに対して、アスランは堅苦しい挨拶で返した。
彼としては礼節を重んじたつもりだったのだが、シーゲルが求めていたのはそうではなかった。
彼は他人行儀な挨拶は抜きだと接する。
彼はアスランが戻ったことを喜びつつも、ここにいない自分の娘と、アスランが会えないことに憂慮する。
アスランとしては、謝罪することしか出来ず、またそれを求めていないシーゲルとしては、娘とあってほしいと、遠回しに言う。
もちろん婚約者として、アスランも彼女に会って話がしたいと思っている。
「君とラクスは入れ違いになりがちだな」
「いえ、そんな」
しかし、現実はそうではない。
「アスラン。七十二時間後に出航だ。詳しい話がしたい」
ラウとアスランは議長と国防委員長の二人に敬礼して辞する。
話し相手がいなくなったシーゲルの横に、パトリックはゆっくりと歩み寄る。
横目で見てからシーゲル・クラインは口を開く。
「戦火を広げるつもりか? 時間はそうないのだぞ?」
「だから許せないんです。邪魔する者たちが」
「パトリック……変わったな」
「私は変わってなどいないよシーゲル。戦わねば守れないのなら、戦うしかない」
それだけだと言い切り、パトリック・ザラは先に歩きだす。
「レノア……お前がいなくなって、彼は変わってしまった。せめて、君が生きていれば……」
アスランはラウと別れると、とある場所へと向かっていた。
手には大きな花束。そこはどこまでも牧歌的な景色が続いている場所。
等間隔で、四角い石材の物体が置いてあり、そこには名前が刻まれている。
コーディネイターたちの墓場だ。黄昏時も相まって、ヴァルハラと呼ぶ者もいるという。
墓石の下に亡骸のある者は少ない。特にアスランが歩いているところのほとんどが、亡骸がないのだ。
地球軍のエーテルミサイル。それによりユニウスセブンは一撃で破壊された。
その犠牲者は二十四万三千七百二十一名。一瞬にして失われた命にしては、膨大過ぎる数の犠牲者たち。
アスランはとある墓石の前で足を止め、腰を下ろした。
刻まれた名前はレノア・ザラ。彼の母親の名前だ。
アスランの父親は、犠牲者の数を一度たりとも間違えたことがない。なぜならば愛する妻を失ったからだ。
二十四万三千七百二十一名。そのうちのひとりは彼の母親である。
だからこそ、パトリック・ザラは忘れない。忘れようがないのだ。
アスランの頭の中では、査問委員会で主張する父親の言葉。
彼は花束を添えると、何も言わずに立ち上がり歩き出す。
しばらく歩いていると、純白のタキシードを着た男がひとりいた。
「え?」
異様な光景にアスランは見入ってしまう。そしてそれが見知った顔だったので驚く。
「イン隊長!」
「アスランか」
ジェンは居心地が悪いといった様子となる。
話しかけづらい雰囲気だ。
アスランは気を利かせて、その場を辞することにした。
「あ、それでは」
「待て待て。気を使うな。聞いてくれ」
彼は心の準備が出来てなかっただけだと、笑ってみせた。
「えと、お墓参りでしょうか?」
「ああ、そうだ。婚約していた人のな」
タキシードは、彼女と結婚する時に用意していたものだと言う。
彼はお墓参りに来る時は、この格好だと決めているのである。
査問委員会の前のやり取りを思い出し、アスランは神妙な顔になってしまう。
「それで……」
「おいおい。そんな顔をしないでくれ」
ジェンはそういう顔をされる方が困ると言う。
「君は……確か母親、だったね?」
「はい」
「何か声はかけたかい?」
「い、いえ」
「そうか……私も、何も言えないんだ」
彼は婚約者の墓の前で、何を話したらいいのかわからないと言う。
婚約者を守ると勇んで出撃し、結果守ることが出来なかった。
戦果をあげても、彼の愛した人はもうこの世にいない。そんな自分が何を話しかけられるだろうか。
「あ、でも、話せることできたな」
ジェンは笑う。
「彼はアスラン。とっても良いやつなんだ。彼の無事の祈ってあげてほしい」
「あの、隊長のは……」
彼は何も言わずに、頭を左右に振った。
「行こう。アスラン」
「そうですね」
彼らはその場を後にする。
~続く~
次のお話も見ていただければ嬉しいです。
【追記】
20220620修正