この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
宇宙の闇、緑の船体がゆっくりと進み行く。
ローラシア級ガモフ。船体下部に設置されている楕円形の物体が開く。
そこにひとつの軌跡が接近。
ヘルメットのような頭部に、トサカの装飾。西洋甲冑のような外装に天使の翼を模したスラスター。
ザフト軍の主力モビルスーツのジンだ。
ひとつ目の巨人は自分より大きなサイズのコンテナを手にしていた。
ジンは艦に背を向けて、スラスターを小刻みに噴射。減速していく。
コンテナの相対速度をガモフと合わせる。ジンは頭部を振り返るように動かす。
ガモフのハッチと自分の位置を微調整すると、音もなく着艦。
それを待機室で眺めていた四人は、思い思いの反応を見せる。
ベテランパイロットの妙技だ。
クルーゼ隊に所属していても、こういう細かい所作ができる者は限られてくる。
「さすが準エースパイロットだな。なあラスティー」
「俺だってあれくらいできるっての!」
「ディアッカ、ラスティー。着艦ってのは、ああやるんだぞ」
イザークに窘められた二人は、面白くなさそうにする。
しかし、その表情も一瞬のことで、すぐに別のことに興味を抱く。
ニコルがそれを代弁した。
「あれが、通信で言っていた補給物資ですかね?」
イザークは「だろうな」と言うと、険しい顔付きになる。
面白くないといった表情だ。
ディアッカは腕を組み、口を開く。
「あのコンテナ大きさじゃあ、マシューまでは来れないか」
「来てくれれば心強いんだけどな」
ラスティーは手を振る。相手はジンのコックピットから降りたオロールだ。彼も気づいて手をあげて応じる。
「それよりもだ。あれをどこでどうやって、手に入れたかが問題だ」
たまたま漂着していたコンテナを拾ったという話だ。そんな都合のいい話があるわけがない。
だが、ディアッカとラスティーは、崩壊したコロニーから拾ったのではないかと、その先を考えない。
黙って話を聞いていたニコルは、どちらでもないといった様子だ。
「よう、お前ら。元気にしてたか?」
オロールが待機室に来るのと同時に、コンテナの中から武器や弾薬などが姿を見せる。
イザークは睨めつけるようにそれを眺めた。
中にはシールドなど、予備の武装、見たことのないオプションなどだ。
「それよりオロール! あれはなんだ!」
「さあな。漂着してたコンテナだ」
「そういう話じゃない!」
オロールはイザークの頭頂部に手をおいて、わしわしと撫でる。
「やめろ! 子供扱いするな!」
オロールは豪快に笑う。
「前線の兵士には考えなくていいこともあるんだ。あれがなんでどういうものか、わからないと戦えないのか? イザーク」
イザークは言葉に詰まる。
彼も大凡の予想は出来ていた。だからこそ面白くないのだ。
どこから出てきて、どうやって手に入れるかわかるからこそ、それを追求したくなってしまう。
「お前の気持ちもわかるよ。スッキリしないもんな。だが白黒はっきりさせない方がいいこともあるんだ」
「あれに俺達の武器や弾薬があるのか?」
ディアッカは話を進める。
「ああ、そうだ。結構消費したんだろ?」
イザークら四人は頷く。
ジンの武装を使って弾薬を節約したかったのはあったが、難攻不落の要塞だったため、ジンの武装より火力が求められたのである。
おかげでアルテミス宇宙要塞に、大打撃を与えることに成功した。
オロールも大まかな流れは聞いているので、それ以上は何も言わない。
「しかし、ストライクってやつ。なかなかやるもんだな」
「どうも、正規のパイロットのようには思えないんですよね」
ニコルの言葉に全員が驚く。
「なんで、そう思った?」
オロールは慎重に話を促す。
「そんな話。初耳だぞ」
イザークはニコルが報告しなかったことに噛み付く。
彼としては、感覚的な話になってしまうことから、不確かな情報だとして、その話は正式に報告していなかった。
アルテミス宇宙要塞での戦闘の際、ブリッツはストライクと接触したのである。
その時にニコルは接触回線越しに、パイロットの声を聞いたのだ。
それがあまりにも兵士として似つかわしくない発言だった。
だからニコルは、ストライクのパイロットは正規ではないのではないか、と考えたのである
「なんて言ってたんだよ」
「もう僕らを放っておいてくれ。です」
茶化して聞いたディアッカと対象的に、ニコルの顔は神妙な面持ちだった。
彼はその言葉が頭から離れなかったのである。
オロールは鼻で笑うと口を開いた。
「なるほど、確かに報告しなくて正解だ」
オロールは変に相手に情がうつってしまうから、報告は不要だと言う。
その上で確かにありえる話だと、肯定する。
ヘリオポリスイレブンへの攻撃で、正規パイロットは全滅して予備パイロットが乗っている可能性は十分あり得た。
「全員聞いちゃってるけど?」とラスティー。
「敵であることには変わらない」
オロールは更に続ける。
「同情なんてするなよ。相手も戦場に出ている以上、覚悟があるはずだ」
艦内放送が入り、イザークら四人とオロールは呼び出される。
「よく来てくれたオロール」
「艦長はミゲルにお熱だったようだが」
ガモフのブリッジ。宙域図を前にゼルマンとオロールは握手を交わす。
この場にはゼルマンも含めて六人が顔を突き合わせていた。
簡単に現状の確認も含めてのブリーフィングでもある。
「お前にも期待してるぜ。血気盛んなやつが多くて、俺の手に余るんだ」
オロールはイザークらを見て笑う。
先程の待機室でのやり取りを思い出したのだ。
と、同時に自分にもそんな時期があったと懐かしむ。
「確かに、そうでしたな」
「まあ面倒見てやってくれ」
ゼルマンのお願いに、オロールは敬礼をもって応じる。
「俺たちを子供扱いする! ちゃんと成人しているんだぞ!」
イザークは早速噛み付くが、それもどこか慣れたのか、ゼルマンも特に気にしていない。
「そういうところだよ。まあ、お前らは俺達の隊長になる逸材だ。今だけ俺たちに偉そうにさせてくれ」
イザークは「ふん」とそっぽを向いた。
ゼルマンはわざとらしく咳払いをして、全員の注意を引く。
全員が囲んでいる宙域図に、航路を映し出す。
「今回集まってもらったのは、現状確認とこれからの我が艦の方針についてだ」
現在ガモフは完全に足つき――アークエンジェル――をロストしていた。
新造艦をなんとしても撃沈したいのが、まずは見つけなければならない。
ゼルマンたちは、航路を指し示す。
そのどれもが、最終的には月を最終目的としている。
彼らがどこにいるかわからないが、どこに向かおうとしているのかはわかっていた。
他の哨戒艦からの情報も随時、ガモフに来るようになっている。
「俺が考える足つきの航路だ」
ゼルマンの予想図に、誰も異論はないのか、頷くだけだ。
彼は内心安堵して話を進める。つまるところ、どこに網をはるか。
待ち伏せして一気に仕留めるのが、彼の理想の作戦だ。
「月と地球の間で待ち構えるのは?」
ディアッカの提案。しかし、ゼルマンは頭を左右に振った。
「ガモフ一隻で地球軍の月面基地とやりあえってか? お前たちはスーパー兵器をもっているかもだが、ガモフが先にもたねぇよ」
足つきのゴールがわかるから、そこを待ち伏せするのは合理的に思えた。
しかし、それができない。ゼルマンの言った通り、月の地球軍とやり合う覚悟が必要になる。
月は地球の周りを回るため、ガモフもそれに合わせて動き続ければ、地球軍に感づかれてしまうのだ。
「デブリベルトの中に潜り込むのは?」
「操舵手泣かせだな。デブリの中を掻い潜りながらだぞ」
ラスティーの提案をイザークが即座に却下する。
「やっぱり無茶か」
「無茶だ。お前それでも赤服か!」
ラスティーはイザークに「落ち着いて落ち着いて」と手をふる。
「デブリベルトの表面っていうの? そこを航行するのは?」
デブリベルトのギリギリ外を周回するといったのはディアッカだ。
それならば地球軍に攻撃されても、デブリベルトの中に潜り込んでやり過ごすという案だ。
デブリベルトの中を最短距離で突っ切るなり、迂回するなりすれば地球軍も迂闊に攻撃してこれない。
「確かにそれなら、月基地を欺くことはできるかもしれないが、それもリスクがあるな」
ゼルマンは軍帽を脱いでうちわのように仰ぐ。
「やはり高速でデブリに突っ込む可能性があるか」
「それだな。艦長としては。船員を危険にさらすのはノーだ」
オロールの言葉に肯定したゼルマンは、艦長としての意見を口にする。
彼はガモフの船員の命を預かっている身だ。
そのため艦船を危険に晒す真似だけは絶対に避けなければならない。
「だが、デブリ付近に陣取るは悪くないと思う」
オロールは顎に手をやり、考えを口にする。
「こちらは、攻撃の手札が豊富だ」
「こっちは選り取り見取りだからな」とゼルマン。
そこでイザークはとあることを口にする。
「哨戒艦の情報を待ってから陣取るのはどうだ?」
彼が言うには慌てて追いかけて、好位置につけなくなっては元も子もない。
ならば哨戒部隊の情報を精査した上で、動けば良いのではないかという案だ。
これにはゼルマンたちは納得する。
「確かに、逃した手前視野が狭くなっていた」
「意外と艦長も責任感が強いんだな」
「そりゃあ軍人ですからね」
イザークとゼルマンは口元を釣り上げ合う。
「では、まずは静観という形でしょうか?」
ニコルが当面の方針の確認。次いで、オロール、ゼルマンと順に考えを口にする。
「いや、なるべく月の公転を追いかけて起きたい」
「それだと色々と消耗していくな。短期決戦になっちまう。どっかで補給しておくべきだな」
ラスティーは拳を作って自分の手を叩く。
「じゃあ、北極点に陣取れば良いんじゃね?」
パトリック・ザラは執務室にて、ラウ・ル・クルーゼよりもたらされたデータを閲覧していた。
その側には黒服の軍人。彼は透明の板状のものを手に、そこからホログラム状に、羽なしのジンを投影。
彼の名はレイ・ユウキ。特務部隊の隊長である。
電子的な音が鳴る。呼び鈴にも似た音のそれは、人の来訪を知らせるものだ。
女性の声でラウ・ル・クルーゼがやってきたことを伝えると、パトリック・ザラは口元を僅かに釣り上げる。
彼は入室の許可を出す。程なくして扉が開くと、白服の軍服を纏った仮面の男が立っていた。
異様な出で立ちだが、ザフト軍では彼のように仮面やマスク、あるいは軍服を改造したり、正規のものではない服飾をまぜてつけている者はいる。
なので、ラウの仮面もファッションだと認識している者が大多数だ。
だが、レイ・ユウキは仮面に対しても、彼に対しても、そこまで好意的になれなかった。
そんな気持ちを気取られないように、彼は平静な態度をとる。
そして形式的な敬礼をして彼を出迎えた。
パトリックは口元を緩める。
「よく来てくれたクルーゼ。休暇のところすまないな」
「いえ、戦場は刻一刻と変化しておりますゆえ」
ラウの言葉に満足したように頷くパトリック。
「早速だが、ユウキ隊長」
「はい。今回のこのジンですが――」
「それなのですが、便宜的にオーブジンと、名付けるのはどうでしょう?」
パトリック・ザラは僅かに不満を滲ませたものの、すぐにそれをどこかにやる。
「量産されたジンは、ジンとするぞ?」
「わかっております。羽のない方の話です。見てくれは変わらないのでしょう?」
仮面の男はユウキを見やる。
彼には話の内容や結末がわかっているらしく、聞くまでないという様子。それでも「続きを頼むよ」と言う。
そこに薄気味悪さを感じても、顔色に一切見せないユウキ。
「はい。地球軍の新型モビルスーツ。あれの技術試験を目的として、改修。いえ、いちから開発したのだと思われます」
オーブジンの内部フレームに関して、ザフトの技術者たちも悔しそうにしていた。
ユウキ隊長は、今回のオーブジンを流用して、現行のジンの強化をしたいと言う。
その話の流れなのだが、確認していかなければならないことはたくさんある。
「ジンもシグーにもフレームは使われているはずだが?」とパトリック。
「和賀郡のはパワードスーツの延長線です。ですがオーブジンは、内部に地球軍の新型と似たフレームを利用しております。結果、従来のジンより整備性、拡張性もあがり、全体的に向上されています」
装甲がなくなったとしても、フレームさえ残れば可動できるのが、オーブジン。
対して現行のジンは、フレームと外装が一体となっている部分などもあり――その恩恵で剛性が高いのだが――装甲の損傷で動けなくなることもあった。
ある程度の頑強さを失うことになるが、総合性能では現行のジンより性能があがるとレイ・ユウキはいう。
「現存するジンを再利用する形で、改修できるのだな?」
「はい。今のままですと我軍は生産ラインを見直さねばならなくなっております」
地球軍の新型モビルスーツは、ザフト軍にとって大きな衝撃だった。
ビーム兵装の小型化、ミラージュコロイド、そして物理攻撃を無効化する装甲。
共通フレームを利用することでの、整備性と機種転換の効率化が図られている。
モビルスーツの大量生産。そして投入しようとしているのが伺えた。
ザフトはそれに対抗するには、より強いモビルスーツが必要になったのだ。
つまるところ、新型のモビルスーツを開発するために、現行のモビルスーツのテコ入れが難しくなったのである。
「その外注先をオーブ。いえ、ヘリオポリスにしてはどうだろうか? という話ですな」
ラウの捕捉に、ユウキ隊長は首肯する。
だが、パトリック・ザラは難色を示す。
彼からすればオーブはプラントを裏切ったのだ。地球軍に与した国である。
「気持ち的には、この案は認めたくない。だが、それでは戦争に勝てない」
「そこで、事故でヘリオポリスの代表に会った。私の意見がほしいと」
パトリックは頷く。
「ヘリオポリスは、モビルスーツの開発技術がほしいのでしょう」
「それを与えれば、地球軍と共にプラントを攻撃してくるのではないか?」
「だからこそ、事故が起きたのではないでしょうか?」
パトリックは考え込んだ後「続けてくれ」と先を促す。
「恐らくですが、オーブとヘリオポリスは同じ考えではないと思います」
「連合のように一枚岩ではないと?」
仮面の男は頷く。
「彼らは恐らく、連合の新型モビルスーツ。あれを自分たちでも建造しているのでしょう」
「確かに、予備の武器、弾薬、消耗品などがヘリオポリスワンにあった――違ったな。事故であったな」
「搬入先を間違えたのかもしれませんし、ヘリオポリスワンでも作っていたのかもしれません」
「確かに、オーブと意志統一が出来ているのであれば、事故は起きないはずだ」
そこまで黙っていたレイ・ユウキが口を開く。
「信頼に足るとして、どのように議会に通しますか?」
パトリックは唸った。
いくら国防委員会の長たる彼であっても、これほどの案件を議会に通さず進めるのは難しい。今後の政治寿命を大きく短くしてしまう可能性がある。
対して仮面の男は不敵に笑う。
「閣下。事故は起きてしまうものです」
「――なるほど、ならばこの先も事故が起き続けるかもしれんな」
ヘリオポリスとしては、秘密裏にモビルスーツの技術を手に入れたい。
そして、パトリック・ザラとしても議会を通さずに軍備を強化したいというのがあった。
レイ・ユウキは、二人の会話に危険なものを感じたが、手にした地球軍のデータに目を落とす。
そこには自分たちが実現できなかったビーム兵装と、物理攻撃を無効化する装甲を持つモビルスーツ。
そんなものが量産されてしまえば、ユニウスセブンの悲劇が繰り返されてしまう。
彼は、二人には良識ある人間で、プラントを守るために考えているのだと振り払う。
「でしたら、私が事故で彼らと交渉をしましょうか?」
「そうだな。ユウキ隊長と――」
その瞬間、電子音もなく扉が開く。
「そこにひとつ追加してほしいのですが、国防委員長閣下」
ねっとりとした物言い。白衣を着た灰色の頭髪をボサボサにした男だ。
「お前に声はかけていないはずだが? オブリガード」
パトリック・ザラは執務室を見回し、盗聴器などがないか確認する。
まるで、それまでの話を聴いていたかのような口ぶりに警戒したのだ。
男はまるで悪びれる様子はない。むしろ笑みを浮かべる。
「おやおや、つれないですねぇ。私も仲間に入れてくださいよ。事故でヘリオポリスに行きたいのですよ」
「どこから話を聞いていた?」
「中立国から手に入れたジン。そして地球軍の新型モビルスーツ。そしてクルーゼ隊長の報告書にあった事故。それらをもとに予想をしました」
なんでもないようにオブリガードは言う。そして彼は意味深にクルーゼに視線を向けた。
「おお。エースオブエースのクルーゼ隊長殿。クルーゼ隊長専用のシグーですが、今度の出航までには間に合いそうです」
ラウ・ル・クルーゼは「それは楽しみだ」と笑う。
「そうそう。それとデュエルとスティンガーでしたかな? あれの限界性能を引き出せる案を思いつきまして、エザリア・ジュール様にお見せしたところ是非にと」
オブリガードは二機の強化案を設計図に起こし、すでに工場で建造中だと言う。
「弱いとは思わなかったが?」
ラウはデュエルもスティンガーも、ジン以上の戦闘力を有していると思っていた。
しかし、オブリガードはそうではないと言う。
まだまだ機体の性能を引き上げることができると、嬉々として言う。
「ええ。火力と装甲面を強化。増える重量分を考慮して、スラスターを増設しました」
「話を逸らすな。フィル・オブリガード。お前の目的はなんだ?」
男はわざとらしく「そうでした」と両腕を広げる。
「今回の地球軍の技術を導入したエース機を作りたいのですよ。事故で、ヘリオポリスで、どうでしょう? ザラ議長のお眼鏡に適う機体にいたします」
「……私は国防委員長だぞ?」
「いずれ、議長閣下となるのでしょう?」
パトリック・ザラは鼻を鳴らすと「もうよい」と手で制す。
「ユウキ隊長。このバカと行ってくれ。ヘリオポリスに捨ててこい」
「――了解しました」
フィルは大きく口元を歪めて笑う。
「ご期待に添える機体を、必ず用意しますとも」
アスランは軍の寮内で生活をしていた。
自宅らしい自宅のない彼は、軍の施設で暮らしをしている。
父親の家に転がりことも考えたのだが、歓迎されていなかった。
成人しているのだから、独り暮らしをしたらどうだ。というのがパトリックの考えだ。
アスランもそれを感じて、軍の寮で生活している。
それで彼の生活は成り立ってしまうので、特に問題にはしていない。
彼はそうでも、シーゲル・クラインは心配しており、一度自分の家に来ないかと誘われたこともあった。
アスランとしても、その申し出は嬉しかったのだが断っている。
軍務についているため、戦争が終わったら考えますと返答していた。
その一室からは水の音。
浴室に人の影。
アスラン・ザラだ。
彼がシャワーを浴びていると、電子的な音が鳴り響く。
すぐに軍からの連絡事項だとわかった上で、その通信にすぐに出ない。
ゆっくりとバスローブを身に纏うと、コルク製のボードがあり、そこにはたくさんの写真が貼り付けてあった。
そのひとつに彼の友人の写真もある。肩を組んで手をあげている。幼い二人の少年。
アスランとキラの写真だ。
彼は僅かに顔を暗くして、軍からの連絡を受け取る。
通信の内容は出航時間の連絡であったが、隊長から聞いていた時間より二日近く早まっていた。
彼は復唱して、通信を切るとニュース番組を映した。
そこにはピンクの髪の少女が映し出され、行方不明とテロップが流れていた。
「ラクス?!」
ガモフの食堂では、イザークたちが食事をしていた。
地球軍の捕虜がまず驚くのは、その食事の内容だ。
出てくるものは、まるで一流ホテルに出てくるような食事の数々。
イザークは行儀のよくナイフとフォークを使い、ステーキに刃を通す。
ニコルとディアッカも同様の所作で、食事を口に運んでいく。
対してラスティーはステーキに悪戦苦闘していた。
「俺のだけ肉焼きすぎじゃね?」
「ラスティー。それだと女の子とデート行っても、笑われちゃうな」
ディアッカが茶化すと、イザークは大きく息を吐いた。
「ラスティー、お前はナイフの持ち方が悪いんだ。ダガーナイフを持つようにするな」
イザークは席を立つと、ラスティーの側まで行き、正しい持ち方を教える。
最初こそ抵抗感を示した彼だが、ナイフがスルスルと肉に入っていくのを見て、感動したのか。素直に聞くようになった。
ラスティーは、イザークに感謝する。
「どういう風の吹き回しよ?」
「ふん。一緒の部隊だからな。恥ずかしくないようにしてもらいたいだけだ」
ディアッカの言葉にイザークはなんでもないように言う。
「しっかし教えられるの恥ずかしいな」と照れるラスティー。
「俺とお前は同類だ」
ディアッカと同じだと言われ驚くラスティー。
「おいディアッカ」
「俺もイザークに教えてもらったんだ」
イザークはそっぽを向く。そしてたまたま様子を伺っていたオロールと視線が合う。
アカデミーでルームメイトだったため、そこで意気投合したのだが、潔癖なところがあり食事の作法で指導を受けたことがあった。
そんな過去を、彼は楽しそうに話す。
「へぇ。結構仲良いな。アスランには結構噛み付くのに」
オロールは意外だと言う。
「じゃれてるんですよ」
「おいディアッカ」
「確かにミゲルもそんな風に言ってたな」
「違う。気に入らないだけだ」
オロールは僅かに視線を鋭くする。軍隊であるがゆえ、その考え方は危険だと思ったのだ。
アスランを後ろから撃つのではないかと、危惧したのである。
コーディネイターは実力至上主義だ。クルーゼ隊に入れるだけで、羨望と嫉妬の眼差しを受ける。
事故だと称して攻撃されたことだってあった。
そのような考えを持たれては、部隊が内紛して崩壊しかねない。
だから、彼は慎重に探りを入れる。
「そうか? あいつは結構頼りになるが?」
ニコルとラスティーはオロールの言葉に頷く。
だが、イザークとディアッカは違う。
面白くなさそうにして、不機嫌さをにじませる。
「そうだ。あいつは頼りになるし、間違えない。だから気に入らないんだ」
「なんて言うの? 着飾るような回答っていうか」
「模範的な受け答えだけしかしないってのは、確かにあるな」
二人の言葉にオロールも頷く。だが、彼はそうではない一面も見ている。
「アスラン。あいつ、ヘリオポリスで出撃を願い出たんだぜ?」
オロールはヘリオポリスでの話を出した。
ミゲル、オロール、マシューの三人で足つきの戦闘データを収集する任務の際、アスランは出撃を願い出たのである。
今考えても、イージスが出撃する理由はない。
「隊長の命令じゃないのかよ」
「そうなんですか!」
「珍しいこともあるもんだ」
そんな話は初耳だと、三人は驚く。
彼らはクルーゼ隊長の命令で出たと考えていたのである。
イザークだけは黙って、話を促していた。
「しかもミゲルの命令も無視してさ、あいつコロニーに突入したんだよな」
四人は驚く。
「出撃前にどうしてだ? って改めて聞いたらよ」
アスランは今まで見せたことのない真剣な顔で「確かめたいことがあるんだ」と静かに言ったのだ。
ミゲルは平静を装っていたが、オロールとマシューはその異様な様子に気圧されたという。
もちろん言葉では、いくらでも追求できたのかもしれない。しかし、それを許さない雰囲気を彼は纏っていた。
「確かめたいって何が?」
「わからん。だが、後で隊長に理由は言ったみたいだ」
「それは?」
「さあな。隊長は納得した。それだけだ」
自分の腕だろうか、あるいは相手の機体の能力だろうか。
「あいつも人間だって、俺は思ったね」
イザークらが入隊した時、アスランだけは問題と思える部分がなかった。品行方正、清廉潔白。心配事がないから心配だと話したことがあった。
「え? 俺たちは?」
「ラスティー話がそれる」
イザークはラスティーをたしなめて、先を促す。
「まあ、だからあんまり決めつて接するなよ。俺たちは同じクルーゼ隊なんだ」
イザークは鼻を鳴らす。
「そんなことはわかっている。それでも気に入らないところは気に入らない」
「本質が見えないからだろうな」
イザークは驚く。
自身がアスランに抱いていた、言語化出来ない不快感。
それを言い当てられて言葉を失う。
「お前は潔癖だからな、本心に迫る部分が見えないと、信頼出来ないんだろうな」
オロールの話を聞いていたディアッカは「確かに」と頷く。
「ま、これはミゲルの評価なんだけどな」
「オロールのじゃないんだ」とラスティー。
「俺がそこまで人を見る目があると思うか? あいつほど視野が広く、洞察力があれば今頃クルーゼ隊の第二エースよ」
ニコルはナプキンで口を拭うと「そうですね」と口を開く。
「何を考えているのかわからないところ、時々ありますからねアスラン」
「ところでオロール」
「なんだ?」
「その紅茶いつになったら飲むんだ?」
オロールは困ったように笑う。
彼の机の上には紅茶のカップしかない。
話しながらカップを口に運ぶ様子もなかった。
「いや、猫舌で」
「ふーふーすればいいじゃん」とラスティー。
「カッコ悪いじゃん」
「えー、そっかなぁ?」
ディアッカとイザーク、そしてニコルは、これ見よがしに紅茶を口に運ぶ。
ラスティーはというと、口で息を吹きかけて少し冷ましてから口に運び「あっつ」と舌を出していた。
オロールは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「お前ら! くそっ。見てろよ」
その後、涙目になったオロールが口元を抑えて、食堂を出る姿を兵士たちは目撃していた。
~続く~
登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。
【追記】
20220624修正