この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
アークエンジェルはアルテミス宇宙要塞から脱出後、ストラクを収容。
ハンガーが定位置に戻り、キラが降りると二人の男性が彼を出迎える。
ムウ・ラ・フラガとコジロー・マードックだ。
彼らは笑みを浮かべて、それぞれ称賛の声をかける。
しかし、彼は難しい顔をしてその場を後にしようとした。
キラ・ヤマトの脳裏にはガルシアたちの言葉が反響している。
裏切り者のコーディネイター。アスランと敵対している彼にとっては突き刺さる言葉であった。
それがそのまま表情に強く出ているのだ。
そんなことはつゆ知らず、二人がどうしたもんかと考えていると、喜びの声が突撃してくる。
「マジすごいよキラ。めっちゃ助かった!」
声の主はジェイクだ。
彼は勢いそのままにキラに包容して、よくやったと褒め称えた。
後ろからはメアリー、ネイサン、そしてカオルが続く。
「ありがとうキラ。助かったわ」
「お前に助けられたのは二度目だな」
「色々と思うことはあるだろうが、我々は君に助けられたことを感謝している」
キラはなんと言えばいいのかわからず。難しい顔のままになってしまう。
「あ、わかったお前。アルテミスのやつに変なこと言われて気にしてるんだろ?」
「そ、そんなんじゃありませんよ」
声と態度で認めているようなものだったが、ジェイクは追求しない。
「そっかそっか。だがな、これだけは覚えておけ。俺たちはお前に救われてんだ。それも二度もな。もちろんわかってる。俺たちは、ヘリオポリスのみんなのついでだ」
ジェイクは「それでも俺達は救われたんだ」と重ねて言うと、彼の背中を優しく押す。
ネイサンもその背を押し、メアリーとカオルはそれぞれ肩に優しく手を置くと、もう彼の行く手を邪魔しない。
キラは一度だけ振り返ると、視線の先にはサムズアップしたムウと、白い歯を見せるコジロー。
「あの……少し休みます」
キラがいなくなると、ムウたちは深い溜め息を吐く。
みんながみんな、どうしたものかとお互いに顔を見合わせてから小さく笑う。
ムウは皆が話せるように口火を切った。
「困ったもんだ。頼っちゃいけないのにな」
「私としては、彼には友達と一緒に、勉強だけをしていてほしい。戦争なんて関わってほしくないです」
「わかるよカオルっち。いい子すぎる」
ムウはなんとかしてやりたいとも言うが、アークエンジェルの状況はあまりよろしくないことも理解していた。
現在は補給物資がなく、またどこかに寄港するのも難しい状況である。
一番近く安全な場所が月基地という状況だ。
「食糧はジェイクが頑張ったおかげなんだが、水がなぁ」
「なんだよアイスとかあるだろ。水になるよ水に」
「アイスじゃパーツクリーナー使えないだろ」
ネイサンの指摘にジェイクが反論するが、マードックの言葉にあえなく撃沈。
アフリカ系の男性は大きく肩を落とす。自分の機体のメンテのことを考えてげんなりしたのだ。
それだけ水は必要なのである。
「そうね。水は飲む以外にも使用するものね」
メアリーの言う通り掃除、洗濯、シャワーなどにも使用したりする。
「月基地まではひとっ飛びではありますが……」
カオルは頭の中で宙域図を広げる。
アークエンジェルが全力で飛ばせば月基地まではあっという間だと考えた。
しかし、彼は言いながらもその案には賛成ではない。敵に見つかる可能性が高いからだ。
「そうだな。カオルっちの言う通りだ。いかに敵に見つからず、月の基地に向かうかだ」
「そうなると、水なんてあっという間になくなってしまいますね」
ムウとネイサンは腕を組んで唸る。二人に欠落している部分をコジロー・マードックは指摘する。
「水だけじゃねぇ。武器、弾薬、そして人手だ」
ヘリオポリスのオーブ軍との戦闘で、アークエンジェルは少ない弾薬をかなり消耗した。
そして、アルテミス宇宙要塞で、ゆっくりと休めると考えていたが、それは叶わなかった。
むしろその逆。現在は余計に疲労が溜まってしまっている状況だ。
「本当に、何も足りてないのね。まだまだ坊主に頼ることになるな」
溜め息混じりにムウが言うと、マードックは何か思い出したように大きな声を出す。
「しまった! 坊主に起動プログラムのロック解除してもらうの忘れてたー」
慌てて飛び出そうとしたマードックを、ネイサンとジェイクは捕まえる。
「後だ後。俺達のメビウスのメンテが先だ」
ムウは「そうだな」と頷くと、メアリーに歩み寄り、小声で耳打ちする。
「悪いが、しばらくしたらうまいこと格納庫に引っ張ってきてくれ」
「私が、ですか?」
「男の子ってのは、女性に頼られるとやる気が出やすいんだ。それが魅力的な女性ほどね」
メアリーは一瞬だけ視線が鋭くして、何かを言おうとしたが、面々を見て納得する。
ジェイクとネイサンでは、気安く話しかけてしまう。カオルは仏頂面と言葉ベタで優しさが伝わりづらく、ムウやコジローでは上からいってしまう。
メアリーしか適任がいないのである。
「大尉はデリカシーがないのですね」
「おい待てよ。褒めてるつもりなんだぜ?」
「もう少し、女性とお付き合いをしたらどうですか?」
「手厳しい。ああ、待って。怒らないで! できれば上に――」
「理解しているつもりです」
メアリーは肩を怒らせると、格納庫を後にする。
ムウは助けを求めるように、カオルに視線を向けた。
彼は一度メガネを押し上げると、小さく頷く。
「私も何が悪かったのか、わかりかねます」
「カオルっちとは、美味い酒が飲めそうだ」
「すいません。アルコールアレルギーなので」
ムウは顔に手をやり、言葉にならない声を発した。
キラがレクリエーションルームに戻ると、トールたちが出迎えた。
彼らは一様に安心した様子で、キラに感謝の言葉を述べる。ミコトに至って抱きつき、女性の柔らかい部分を押し当てるが、ミリアリアが即引き剥がした。
端の方からサイとフレイが歩み出ると、彼女はバツが悪そうでキラに半身向ける形となった。
「本当に言うの?」
「ほら、早く。俺も一緒だったらするって言っただろ?」
なんとなくキラはその先が読めたので、心の準備をする。
「ごめんなさい」
「フレイが、その、悪かった。ごめんなキラ」
「いいんだ。あんな状況だったしね」
いかにも言わされて謝っています。という態度と声音だったが、キラはそれで良しとした。
これ以上、和を乱すのは嫌だったし、それを追求することでサイとの関係がこじれるのも、それはそれで問題だ。
フレイはそんな彼の心中を知ってか知らずか、すぐに離れていってしまう。
「あんなにコーディネイターを嫌ってるなんて知らなかった」とサイ。
ミリアリアは意味深な視線をサイに向けるが、すぐにそれを外した。
「おにいちゃんありがとう」
足元からの声に、キラたちは驚くと、幼い少女がひとり。手には折り紙で作られた鶴。
少女の母親が彼女を迎えつつも、キラに頭を下げて感謝を口にした。
程なくすると、二人はレクリエーションルームの外へ出ていく。
「あれ?」
キラはレクリエーションルームを見渡すと、人の数が少なくなっていた。
それに気づいたトールが説明する。オーブからの避難民は、下士官の部屋を割り振られたのだと言う。
行動範囲は限定的だが、レクリエーションルームだけに押し込められる。といった事態は減るそうだ。
『トリィ』
キラの肩に鳥型のロボットが降り立つ。
「キラ、助かったぜ。俺たちも行こうぜ」
ソウマ・カガが部屋へ行こうと促す。
避難民に部屋が割り振られたということは、当然キラにも下士官の部屋が割り当てられていた。
聞かされていない少年は、またしても驚く。
「俺達はソウマさんの班なんだ」とカズィが補足する。
「ソウマでいいって言ってんだろカズィ。キラもぼさっとすんな。寝るならベッドで寝ようぜ」
ソウマは「ったく、なんで俺が班長なんだよ」とぼやきながら、先導する。
トールはすでに打ち解けているのか「いいじゃんいいじゃん」とおだてていた。
キラとカズィは顔を見合わせて、小さく笑い合う。
「行こうキラ」
キラは頷き、その後ろでサイがフレイたちに声をかけていた。
「じゃあフレイ。ミリアリア、ミコトさん。フレイのこと頼む」
ミリアリアは頷いて、トールたちに手を振った。
「キラ先輩。いつでも来てくださいねぇ~」
「ミコト。ほら行くわよ」とミリアリアはミコトを引っ張っていく。
キラたちは会話なく、艦内を進んでいく。ソウマの手には端末がひとつ。そこに部屋の割り振りが記載されていた。
道中、地球軍の下士官たちとすれ違う。彼らはキラに気づくと「ありがとう」と敬礼して通り抜けていく。
ソウマはそれを見て口を開く。
「キラ、お前すごいよな」
「そうかな」
キラはまずい返答をしたと思ったが、すぐにソウマは笑った。
「そう言うよな。俺がすごいって思うところは、気持ちの部分な。コーディネイターがどうとかの話じゃないよ」
「気持ち?」
「だってそうだろ? たまたまモビルスーツを動かせるってだけで、戦争する義務なんてないしな」
誰かが困っている。それだけで立ち上がり、戦うことのできる彼にソウマはすごいと言ったのだ。
「でも、コーディネイターってだけで――」
カズィは言いかけた言葉をやめる。
「ごめん。なんでもない」
「言いたいことはわかるぜ。悪く捉えないでくれよキラ。カズィからしたら違うって思っちまうって話だ」
「そう。そうなんだキラ。悪く言うつもりはなくて、でもOSを書き換えたんだろ?」
「え? ああ……うん」と頷くキラ。
トールは「それがどうかしたん?」と、気にした様子はない。
彼からすれば、キラがOSを手癖で書き換えるのは、初めてではない。
デブリの撤去作業中に、書き換えては班長に怒られていたのを知っているので、トールとしては当たり前なのだ。
「それって……戦闘中に、だろ? この艦、そんなやつらと相手にしてて、勝てんのかよ」
「確かに、開始早々すでにボロ負け状態だもんな」
ソウマは皮肉げに笑う。
「まあ、だからこそ俺達からすれば、さっさとこの艦からおさらばしたいわけだけどね」
話が終わったと見るとサイは改めてキラに謝罪する。
キラも大丈夫だと、努めて笑みを浮かべた。
そんな二人の様子にトールは胸を撫で下ろす。
「まあ、擁護するわけじゃないが遅かれ早かれ、ああいう事態にはなった。そういう意味じゃ、あんたの婚約者が悪者になったのは良かったのかもしれない」
「それってどういう意味だよ」
サイは僅かに殺気立つが、ソウマはまず謝る。
「悪い。そういう意味じゃない。あんたの婚約者じゃなくとも、自分の身を大事にするやつは出てくるよ。俺もそうしただろうさ」
ソウマの言葉にキラは怒りも悲しみも感じない。ただの事実として受け入れていた。
いずれ誰かがキラを、突き出しただろうし、彼自身が名乗り出たかもしれない。
だが、これがフレイ以外だった場合、避難民同士の信頼関係が崩れてしまう。
「すでに悪目立ちしてるからね。まあ、お嬢様みたいだし、育ちの良さも感じる。だから、一番角が立たないって話な」
「確かに、同じヘリオポリスの人間で啀み合いたくないな」
「そうそう。一度不満とか爆発すると、後は一気に崩れるだろうさ。っと、俺達のベッドだな」
廊下沿いに部屋。といっても扉などはなく、通路と通路の間にスペースといった感じだ。
ベッドは全部で八つ備えらており、折りたたまれたカーテンが、申し訳程度のプライバシーに配慮していた。
それが向かい合わせで上下に四つずつ。
同じような構造が、長く続いており、キラたちはその中のひとつの区画を与えられていた。
もちろん隣にも、同じような構造の下士官の部屋がある。
キラは隣にいた地球軍の下士官の人に会釈する。
「助かったよキラ。俺はチャンドラってんだ。なんかあったら言ってくれ。坊主たちもな」
最後の方はアクビ混じりの言葉となる。
不眠不休でここまで働いていたため、彼の疲労はピークに達していた。
彼はジャッキー・トノムラも寝ていると言うと、続ける。
「これから寝るんで、しばらく静かにしててくれ」
チャンドラは「それじゃあ」と言うとカーテンを閉め切り、静かな寝息を立て始めた。
外から中の様子を伺うと複数の寝息が聞こえてくる。
キラたちは静かに頷き合うと、物音を立てないようにそれぞれのベッドを決める。
「俺、上がいい」
トールは上段のベッドを自分の場所と主張。
サイは「いいのか」と、確認の意味も込めて視線をソウマに向けた。
彼は端末を操作すると、特に決められていないと言う。
「それじゃあ俺も上のベッドにしようかな」とソウマは上の空いているベッドに、少ない荷物を置いていく。
「キラも上にしようぜ」
「僕は下でいいよ」
キラはトールの下のベッドを選択。カズィはその向かい側に腰をおろし、サイはキラの隣のベッドを選択。
「なんだよ。俺とソウマだけかよ上」
「いや、なんか上怖いなって」とサイ。
カズィはサイに同意して、ベッドを撫でる。
「ちぇー」
「まあまあトール君。上は我々で使わせてもらおうじゃないか」
「そうですねソウマ殿」
サイは小さく笑いながら「なんだよそれ」とツッコむ。
そこでソウマは何かを思い出したように声を出す。
ベッドの近くにある端末で、名前を入れてくれと言う彼。
どこのベッドに誰がいるのか、管理しやすくするためのものだ。
キラたちはそれぞれ、端末から名前を入力する。
程なくして艦内全体図には、彼らの名前が表記された。
「キラ、戦闘はどうだった?」
「最初はゲームみたいだった」
キラの言葉に全員がぎょっとする。
彼はゲームのように待ち伏せをして、ブリッツに奇襲したという。
モビルスーツ同士で激突するまでは、ボタンを押して攻撃する瞬間はゲームめいて、戦争をしているという現実感がないという。
「でも、ブリッツとぶつかった時に、これは戦争なんだってなって、頭の中がぐちゃぐちゃになって」
「そっか……戦争してんだな……」
トールは頭の後ろで手を組んでベッドに体重を預けた。
「戦争なんて遠い世界の話だと思ってたのに」
トールの言葉で場が沈む。彼は慌てて起き上がると、何か話題を探す。
「そうだキラ。ミコトはどうなんだ? 結構言い寄ってくれてるけど?」
トールはわざといやらしく笑いながら言う。キラはその顔を見てげんなりとした顔となった。
「ええ~」
「キラ、あいつはやめておけ」
「おやおや、ソウマ君は彼女が好みなんですかぁ~」
「違う違う。マジで性格悪いんだよ。トールはあいつの見てくれに騙されてる」
そこから男子たちは、誰が可愛いだの好みだのと花を咲かせる。
ナタル・バジルールは、厳しそうで怖いけどそれがいいだの、マリュー・ラミアスは包容力がありそうだの、年頃の男子たちは好き勝手話す。
キラはこの手の話は、あまり気乗りしなかった。というのも、フレイに淡い恋心を持っているというのもあるが――。
「ま、俺のミリィには敵わないがな」
「またそれぇ~」とキラは笑いながら言う。
「メアリーさんとかどうなのよ? 結構歳が近いって聞いたぜ」
トールの言葉にキラ以外の男子が突然黙り込む。
「ちょっと良いかも」とサイ。
「おいおい、サイ君。婚約者のフレイは?」
ソウマは口の端を吊り上げる。
「年上っていいよね」
「カズィわかるじゃないか」と同意するトール。
話に夢中になっていたので、彼らは彼女の存在に気づかなかった。
大きな咳払いと共に、戸口――扉はない――の壁を叩く音。メアリー・セーラーは難しい顔で、そこに立っていた。
男子たちは一気に鳴りを潜める。
「キラ君。いいかしら?」
本音を言えば良くはない。だが、この空気では彼が出ていくしかない。
また戦争の手伝いをさせられるのだと、彼は気持ちが沈むものの、彼らのために立ち上がる。
彼は努めて平静に「はい」と言う。
「私のメビウス・ストライカーと、ストライクの起動プログラムなんだけど」
キラは大きな声を出した。
「――最後まで言わなくてもいいわね。作業服に着替えたら格納庫に」
「はい」
キラはトールたちに、格納庫に行ってくると告げると足早に行ってしまう。
メアリーは別の用事でもあるのか、キラとは別方向に歩き出した。
そこでソウマは大きな声を出す。
「どうしたん?」
「忘れ物したわ」
ソウマも急いで外へと出ていった。
メアリーの登場により、キラとソウマがいなくなり静まり返る。
トールがポツリと言う。
「キラにばっかやらせてるな……」
「じゃあフレイたちのところに行ってからだな」
三人は頷き合うと立ち上がる。
「で、なんでお前までいるんだ?」
格納庫には作業服を着たキラとソウマが来ていた。
彼はキラの後をつけて、更衣室に入ると作業服に勝手に着替えて、強引にここまで来たのだ。
途中何度かキラにも止められたが、彼の気持ちは変わらなかった。
「いいじゃんか。どうせ人手足りないんだろ?」
コジローは腕を組んでいたが、指摘されたことが事実なので、頭髪を乱雑にかきむしりながら「ああ」と言う。
「まずはキラのロボットの――」
「ストライク」
「そうそれ。それの整備から手伝うよ」
「素人に何ができるんだい」
「見様見真似でやるさ」
ソウマは気楽に言う。コジローとしては不満だったが、ストライクの整備なら自分も立ち会うので、危険な作業以外をやらせようと改める。
コジローは二人を連れて、ストライクのハンガーへと移動。
キラは起動プログラムのロックの解除。それに加えて、武器弾薬など補給から整備だ。
ソウマはそれのサポートだ。
ストライクの補給が必要なものを、端末で入力していく。
キラはコックピットで作業しながら、ソウマに聞く。
「でも、本当に良かったんですか?」
キラの言われたことを、ソウマは素早く端末に入力。
彼は「やることがあったほうが落ち着くからな」と、マードック軍曹の作業を眺めながら言う。
「キラは知らんだろうが、ジークフリートさんは、とっくに手伝っててな。今頃、医務室で、怪我した人たち見てるんじゃない?」
「え?」
アルテミス宇宙要塞から脱出してすぐに、ジークフリートは医者として、手伝えることをしようと名乗り出たのだ。
キラは、ヘリオポリスでも医療行為をしている彼を見ていた。
ソウマの話では、内科が専門だが出来ないこともないという口ぶりだったという。
「ちなみにトールたちも、手伝いの志願してると思うぜ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあお前ひとりに、戦争をおっ被せたくないからだよ」
キラは言葉を失う。
「ソウマさんも?」
「いやまあ……その、俺としては気楽で安全な場所にいたいんだけどさ。まあ、なんだ? このまま何もせずに死んだら後悔するからな」
だからできることから、やっていくんだとソウマは言う。
「後、操作系の確認だってさ。これ完成したばっかだよな?」
「できたばかりでも、操作系の確認は大事だって、班長――デブリの片付けのバイトしてたんだけどね」
キラは手短にバイトの話をした。
そこでも定期的に操作系の確認をして、誤作動が起きないように確認していたのだ。
随分と昔のことのような気がして、郷愁に似た感情を抱く。
「なるへそ」
キラは、操作系の確認に着手。
ボタンのレスポンスタイムや、正常に作動しているか諸々の確認。
ソウマはそれら見ながら、端末を操作してデータを送信していく。
作業を横目で見つつ、別のことをしていたマードック軍曹は口笛を吹く。
ソウマの手際が思った以上に良いのだ。
あれこれさせてみたいと思った彼はゆっくりと話しかける。
「手際が良いな」
「こう見えても、物覚えはいいのよ」
コジローは口元小さく歪める。
「現場で覚えるタイプか。嫌いじゃない。むしろ好きだ」
彼は「よし」と言うと、ソウマに自分の作業をつきっきりで観察させる。作業を覚えさせて、整備士としてモノにしようと考えを切り替えたのだ。
キラはストライクでの作業を終えると、次はメビウス・ストライカーの作業を指示される。
作業内容はストライクと同様のものだ。
キラがメビウス・ストライカーへと移動し、コックピット内に入るとキーボードを取り出す。
素早くキーボードを叩いて、メビウス・ストライカーの起動プログラムのロックを解除。操作系を確認していく。
そこまでやって、ふとメビウス・ストライカーはメアリーに操作系を確認してもらった方が良いのではないかと思案。
「キーボードあんのか」
「はい?」
見上げると、上には二人の男性。ジェイクとネイサンだ。
「お。キラか」
「よう。作業の方はどうだ?」
「今、操作系の確認を」
二人は納得した声を出す。
「我々も作業が終わったところだ」
「しっかし、見れば見るほどメビウスとあんまり変わんないな」
「そんなもんだろ。ゼロ式の方がより近いんじゃないか?」
二人の会話を聞きながら、内心そうなんだと流すキラ。
「お二人さん。どいてくれるかしら?」
キラの頭上より女性の声が降ってくる。見上げればメアリー。
「操作系の確認しているところなんですが」
「代わってちょうだい」
キラはコックピットから出る際、メアリーとすれ違う。
彼の鼻孔を香りがくすぐる。香水をつけたのか、ほんのりと落ち着く香りにどきりとする。
先程までのトールたちの会話を思い出し、変に意識してしまいそうになるのを振り払う。
「メアリーちゃん超いい香り。結婚して」
キラは心臓が跳ね上がる。
「はいはい。ジェイク軍曹がジンを五機落としたら考えるわ」
メアリーはコックピットシートに座り込み、操作系の確認を始めていく。
「マジかよ。頑張る」
「馬鹿な話をしてる暇はないぞジェイク」
「俺は真剣そのものだぜネイサン」
ネイサンは大きく息を吐く。
「余計にタチが悪い」
「嫉妬ですか? もう少しアピールしたほうがいいぜネイサン」
「勝手に言ってろ」
「拗ねるなよ。アイス食って機嫌直せって」
「なんだと」
「なんだよ」
二人が喧嘩しそうな雰囲気になったのを見て、キラはどうしたものかと様子を伺う。
ただの学生だった少年には刺激が強かった。
ひとつと数える間もなく、声が下から飛び出る。
「軍曹、暇ならメインスラスターの確認をお願いできるかしら? 曹長はメインウェポンの確認を願いしますね」
二人が口論を始めようとしたその瞬間。その機先を制するように、メアリーは指示を出す。
「了解少尉」とネイサンはすぐにメインウェポンの方へと動く。
「メアリーちゃんの頼みじゃしょうがねぇな」
二人がそれぞれの場所に行ったのを確認してからメアリーは、胸を大きく撫で下ろす。
「ごめんなさいね。彼らも気が立っているのよ」
「はい。それにしても、よく止められましたね」
メアリーはコックピットの中にいたのに、二人の喧嘩を未然に止めたのだ。
彼女からすれば、声の感じでわかったからだと言う。
だが、そこでふと思い止まる。
「でも、そうね。なんでか喧嘩する感じがしたのよね」
独り言のようにつぶやく。
「どうかしました?」
「子供の頃から、勘が鋭いって言われてたのを思い出したのよ。ギフトなんて言われたけど、気味悪がる人もいたわ」
キラはコックピットの中を覗き込むと、メアリーは深刻そうな顔をしていた。
彼はなんと言葉をかけようか、必死に考える。
ふとそこで、過去に言われた言葉を思い出した。
「ギフトって言葉は便利ですよね」
「あなたも――そうね。ギフトって言われた?」
「はい。コーディネイターってわかると、言われました。その度に両親もどこか、申し訳無さそうにしてて」
「そっか。ご両親がいるなら余計に大変でしょうね」
その言葉に羨望が含まれていたことを、キラは感じ取っていた。
「メアリーさんは?」
「いなかった。物心ついたら孤児院にいたわね」
「そうなんですか」
「一度、親はどんな人だったかって聞いてみたんだけど、孤児院の人たちもよくわからないって」
メアリーは孤児院の大人たちも、薄気味悪く感じていたのがはっきりとわかったという。
「でもわかるのよ。良いこととか悪いことが起きることが。なんでかしらね」
「じゃあアークエンジェルが無事に、月基地にいけるかどうかわかりますか?」
「私を占い師か何かかと勘違いして?」
キラはすかさず謝罪する。
メアリーもそこまで気を悪くしていない。
むしろどこか機嫌が良さげであった。
「ま、ギフトはギフトよね。上手く付き合えるようにしていきましょう。お互いに」
「そうですね」
二人は小さく笑う。
「じゃあ、作業のお手伝い。お願いできるかしら?」
「わかりました」
メビウス・ストライカーの整備が終わる頃、コジロー・マードックが二人の元にやってくる。
「艦長からの命令だ。ストライクの宙区間での試験運用を行う」
「マリューさんから?」
「ああ」
キラは身構える。それを見てメアリーは小さく笑う。
「大丈夫よ。艦長から通信来ているのでしょう?」
メアリーは暗に直接話しを聞いたほうが良いと提案。
コジローも頷くと、キラを手招く。
格納庫の端に受話器があり、それを使ってソウマは何かやり取りしていた。
「あ。来た来た。代わるよ」
キラは受話器を受け取ると「キラです」と声をかける。
『キラ君、申し訳ないのだけど、宙区間でのエールストライカーのテストをしたいの』
マリュー・ラミアスとしては、少しでも多くストライクの運用データがほしいという。
宇宙空間でまだ運用していない装備があり、それがエールストライカー。
その試験も兼ねて、アークエンジェルの損傷状況を確認してほしいとも言った。
「わかりました」
キラが受話器を置くと、コジローは大きな声を出す。
「よーし! お前らストライク発進だ! ソウマ、俺の作業を見とけ」
「へいへい」
ジェイクとネイサンがキラを呼び寄せる。
「今度こそパイロットスーツ着ろよ」
ネイサンは隣の男へと向き直る。
「ジェイク軍曹」
「了解曹長」
ジェイクはウインクすると、キラを連れ立って更衣室へと向かう。
そこではパイロットスーツの着用手順と、最後に確認事項を教える。
キラは言われた通りパイロットスーツを着用した。
「どうだ?」
「少しぶかぶかですね」
「正規パイロットたちのだからな。どうしてもサイズ差が出ちゃうんだろうよ」
ジェイクは最後に似合ってると言うと、キラの両肩に手をおいて揉むようにする。
「戦争するわけじゃない。試し乗りだ。気楽にやってけ」
「ありがとうございます」
二人が格納庫に戻ると、ネイサンは「遅いぞ」と怒鳴る。
「いいじゃねぇか。試験運用だ」
「敵に見つかるかもしれないだろ」
「たぶんですけど見つかりませんよ」
メアリーは小さく頷く。キラは気休めだとわかっていても、彼女の言葉に安堵感を覚えた。
彼は格納庫の床を蹴る。慣性が働きふわりと浮くと、真っ直ぐにストライクへと向かう。
モビルスーツのハンガー前ではコジローとソウマが待ち構えていた。キラの手を受け取り、コックピットへと誘導。
「頼んだぞ坊主」
「気楽にやったれ。どうせ後は大人の仕事だ」
キラは「わかりました」と言うとコックピットを閉じる。
機体の起動プログラムが起動し、計器類が表示されていく。
モビルスーツハンガーが動き出し、機密ハッチが開く。
ストライクがカタパルトに固定されると、ハンガーは下がっていき、ビームライフルとシールド。そしてエールストライカーが姿を見せる。
各武装を装備し、ストライクは発進体勢となった。
発信前に通信が入る。
『今回は戦闘行為を禁止する。ストライクはエールストライカーの装備の試験運用しつつ、アークエンジェルの損傷具合を確認』
ナタルが復唱を命じる。
「ストライクは戦闘行為を禁止。エールストライカーの試験運用しつつ、アークエンジェルの状況を確認します」
『よし。ではキラ・ヤマト。頼んだぞ』
「了解。キラ・ヤマト、ストライク行きます」
ストライクはカタパルトから解き放たれると、宇宙空間へと飛翔。
エールストライカーの主翼が展開し、フェイズシフト装甲が展開され、機体が色づいた。
遠くに見える月を見て、キラは表情を引き締める。
(あそこまで行けば、オーブに帰れるよね。そしたらアスランとも、戦わなくて済む)
~続く~
登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。
20220918修正