この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
アークエンジェルにあるブリーフィングルーム。モニター前に立って話すのは、黒髪をオールバックにしたメガネをかけた男性。名はカオル・ウラベ。
彼の目の前には十数人の男女。皆、一様に席に座り、座席にひとつずつ備えられた端末に目を通していた。
その中には、キラ・ヤマトや、友人のトールたちの姿もある。
彼らは皆、青、あるいはピンクの地球軍の制服に身を包んでいた。
地球軍の非正規、あるいは少年兵を表す軍服である。
その証拠に彼らの襟、あるいは肩には階級を示すものがない。
トールはアクビを噛み殺すが、ミリアリアに脇腹を突かれる。
ミコトは話そっちのけで、キラに意味深に視線を送り、ソウマはつまらなそうに端末を操作していた。
キラやサイ、カズィ、そして臨時の医官のジークフリートは真剣に目をとおしている。
カオルが彼らに話しているのは、軍規についてだ。
ここにいる者は、オーブ、あるいは太平洋連邦の民間協力者たちである。
不幸にも彼らはヘリオポリスイレブンで、戦争に巻き込まれアークエンジェルに身を寄せていたのだが、今回アークエンジェルの人手不足を見かねて、手伝いを申し出たのだ。
そのため、地球軍の軍規について講義しなければならなくなった。
そこで問題になったのが、誰がそれを行うかだが、最初はナタルが申し出たのだが、ムウが待ったをかけたのだ。
彼女では軍人独特の棘がある。それを懸念してのことでもあった。
その他に、彼女は現在アークエンジェルの副長の立場にある。アークエンジェルの運用に関して、まだまだやらなければならないこともあるため、他の者にとなった。
同様の理由でマリュー・ラミアスも除外され、となればムウとなるのだが、今度はナタルが異議を申し立てたのだ。
そこで白羽の矢が立ったのがカオルだ。
これにはムウもナタルも、文句のない人選だった。
キラたちに威圧感を与えすぎない、かつ地球軍の軍規を正しく伝えることのできる人物。
そして、その大役を彼は見事全うする。
「――以上が、君たちに守っていただきたいことだ。最後にこれは、私個人の意見だが、君たちは軍人ではない。戦火に巻き込まれだけの民間人だ。我々を盾にしてでも、生き残ってくれ」
「なんで俺まで聞かなくちゃならんのさ」
「お前は軍規を守らなすぎるからだ」
「花柄のシャツは今に始まったことじゃないだろ?」
「ネックレスはどうしてつけてきた」
「気分」
「お前なぁ……」
その軍規の講習にはジェイクも参加していた。
彼は誰よりもげっそりとした様子で、座席にある机に突っ伏していた。
誰よりも態度が悪く、近くで監視していたネイサンも呆れ気味である。
彼は軍服も着崩しており、中に着用しているシャツも軍指定のものではなく、花柄のシャツを着用していた。
おまけに今回は金色のネックレスも着用している。
これは彼なりの、キラたちへの気遣いであるため、ネイサンは強くは言わなかった。
民間人に軍務に参加せることに、抵抗感のない人間は少ない。
そしてアークエンジェルにいる軍人の多くは、彼らに手伝わせることに罪悪感を抱いていた。
実際に臨時医官のジークフリートのところには、すでに何人かが、カウンセリングに来ている状況である。
だからこそ、ジェイクは少しでも明るくなるよう、彼らが接しやすいように花柄のシャツやネックレスなどで着飾り、ちゃんとしてない軍人を――個人的な趣味趣向を出しつつ――演じていた。
「話を先に進めてどうぞカオルっち」
「お前が仕切るな。お前が」
カオルは小さく溜め息を吐くと、眼鏡の位置を正す。
「それでは、ここから先だが、配属先ごとに下士官の者が作業をレクチャーする」
ブリーフィングルームには、ネイサン以外にも下士官たちはおり、それぞれがそれぞれの部署で手伝う面々の指導にあたることになっていた。
チャンドラはトールたちの名を読み上げると、全員を連れて、ブリーフィングルームを後にする。
彼らは去り際にキラへと手を振った。
「じゃあなキラ」
「そっちも頑張れよ」
キラは手だけあげて応じる。
彼としては、友人たちが手伝うことに抵抗感があった。
自分が戦争に参加したことで、手伝わせたのではないかと感じるのだ。
「何もしないより、何かやることがある方がいいこともあるぜ」
「え?」
「顔に書いてある。僕のせいでってな」
「そんなこと……」
言葉は続かない。
ソウマの言う通りだから、キラは押し黙る。
「チャンドラさんってことは」
「ブリッジ要員だって」とキラ。
トールたちは、モルゲンレーテの工業カレッジに通っていた経歴を買われ、アークエンジェルのブリッジ要員となった。
ジークフリートとミコトはカオルに呼ばれる。
「じゃあキラ先輩。怪我したらいつでも、来てくださいね。サービスしちゃいます」
「あ、ありがとう」
「断っとけ。ロクなことしないぞ」
「うるさいですねソウマ先輩。べーだ」
「ミコトくん」
カオルに呼ばれたため、ミコトは舌を出した後、キラに満面の笑みを送って出ていく。
「リヒトシュタイナーさんと一緒ってことは」
「ああ、雑用しつつ医官のお手伝いだってよ」
ソウマ頭の後ろで手を組む。
そこから順々に呼ばれて部屋を出ていき、最終的にキラとソウマ。そして数人の男性だ。
残った下士官は、ネイサン、ジェイク、コジローだ。
「キラはパイロット兼、整備兵みたいなもんだからな」とネイサン
「そう、なんですか」
「まあ、自分の機体くらい自分で面倒見ておいた方が安心だろ」
ジェイクの言葉に、キラは内心動揺した。
ストライクが自分の機体だということへの抵抗感。戦争をさせられるという嫌悪感。
だが、すぐにトールたちや、避難民の人々の顔を思い出し、歯を食いしばる。
(僕が戦わなくちゃ……)
コジロー・マードックは白い歯を見せて、口を開く。
「よしじゃあ整備兵としての心得をだな――」
それぞれの話が終わって数時間後。格納庫にキラたちは集められていた。
キラたちパイロット以外は、ノーマルスーツを着用し、手には安全帯とベルト。
人員はキラ、ジェイク、ネイサン、メアリーのパイロットらと、トールらと、ソウマとミコト、そして十数人の整備兵たち。
これからキラたちは、船外作業を行う。つまり宇宙空間での作業だ。
ストライクの試験運用のついでに、アークエンジェルの損傷を確認したのである。
その修復作業を、キラたちが行うことになったのだ。
「安全ベルトをちゃんと確認しろ」
コジロー・マードックはいつにもまして、真剣な声が響く。
「自分のちょっとおかしいです」
「別のと交換しろ。スラスターがあるっつっても、宇宙に放り出されたらそれまでだぞ」
キラとトールは宇宙での作業が、どれほど死と隣り合わせか知っている。
だから、他の面々よりこの手の確認は念入りだ。
それを見ていたソウマとサイは、作業の危険性を理解し細かく確認。
「でもミストラルで、作業するんですよね?」
ミコトは危機感のなさ気な様子だ。
「人って宇宙空間から見たら、どれくらいの大きさよ?」
「あ、そっか」
「キラ、見てやってくれ」
キラは頷くとミコトの安全帯、ベルトを確認する。
「大丈夫ですね」
見れば、トールもミリアリアやカズィのベルトをチェックしていた。
「ミストラルって新兵いらいなんだけど」
「腕の見せ所だな」
「よくそんな気楽に言えるな。手も足も出ない棺桶なんて嫌だぜ」
ジェイクは文句を垂れるが。
「私は新兵の時の新鮮な気持ちを思い出せて、いいけど?」
メアリーが一言言うと彼の態度は一変。
「そうだよね俺もそう思う」
「こいつ……」
ネイサンは顔に手をあて、天を仰ぐ。
全員の準備が終えると、全員はそれぞれの機体に乗り込む。
アークエンジェルの左カタパルトより、ミストラルが数機出撃。
『各員。修復作業とは言え、気を引き締めて行うように』
『宇宙空間での作業とはいえ、手順さえ守れば大丈夫よ』
ナタルは厳しく、マリューは優しく面々に声をかける。
『キラ君。ストライクの発進を許可します。みんなのことをお願いね』
「了解しました」
右カタパルトよりストライクが出撃。
マニピュレータには、各種備品を把持していた。
キラは四肢を動かして姿勢制御を行い、船外作業の場所へとストライクを移動させる。
作業する箇所はアークエンジェルブリッジの根本の、後ろから左にかけてが、損傷していた。
アークエンジェルはラミネート装甲という、特殊な装甲で覆われているため、頑強ではある。
ビームなどの攻撃を受けた際、熱に変換して装甲全体へと拡散することで、艦のダメージをコントロールする装甲だ。
装甲の傷を減らせば減らすだけ、その能力を遺憾なく発揮です。
なので、こまめに修復することでその機能を維持することができる。
恐らく、ヘリオポリスイレブンのデブリ帯を抜けた時に出来た傷だ。
現場ではミストラルが甲板に降り、作業が開始されていた。
トールは慣れた手付きで、ミストラルにワイヤーを引っ掛けると、自分のノーマルスーツから安全ベルトを引っ掛ける。
彼は背中にあるスラスターをふかし、ワイヤーを伸ばしていく。
このワイヤー事態もトールの命綱となっている。彼は慎重にアークエンジェルの甲板に降り立つと、器具を設置。そこにミストラルから伸ばしたワイヤーを引っ掛けて、ちゃんと装着されたかどうか、引っ張って確認。
彼は背後を振り返って、ハンドサインでオーケーの合図を出す。
「よし。じゃあ俺らもやるか」
メアリーの操縦するミストラルから、ソウマが顔を出す。
『ワイヤーをミストラルに固定して』
「了解了解」
『一度で結構』
「へーい」
彼はトールの見様見真似でワイヤーをミストラルに固定。同じように自分の安全ベルトを引っ掛けて、宇宙空間へと飛び出す。
「マジかよ……」
出した声に反応はない。
彼は宇宙空間での作業に、おしっこを漏らしそうになる。
冷や汗が一気に吹き出し、息が乱れた。
「くそっ。宇宙がなんだ。こっちには命綱があるんだい」
改めて見直すとしっかり固定されている。
甲板に降り立つが物音がしないため、ソウマはちゃんと立てているのかどうかさえ、わからない。
動いていないようにも感じるし、アークエンジェルから離れているようにも感じる。
だが、そうじゃないとわかったのは、ワイヤーが真っ直ぐと伸びていたからだ。
ミストラルの証明のおかげで、真っ直ぐと伸びるワイヤーに安堵する。
彼の目の前でトールがジェスチャーした。
ソウマは慌てて器具を取り出す。ボタンを押すとマグネット化する器具だ。
これを装甲に押し当て、そこにワイヤーを固定する。そうすることで修復作業において、吹き飛ばされることはない。
ソウマが息を吐き出し、ミストラルに向かってハンドサインを送った。
それを見てミコトもミストラルから顔を出す。
『慌てないで、安全ベルトを固定すればもう大丈夫よ』
「は、はい。ありがとうございます」
ミコトは震える手で安全ベルトの金具を掴み、ワイヤーに引っかけようとした。
瞬間。大きな衝撃が襲う。何か大きな物体にぶつかったような衝撃。それは下から上へと突き上げるようなモノだった。
多くの作業員がふわりと宇宙空間へと浮き上がる。その中にはミコトも含まれ、あっという間にミストラルから離れ、宇宙空間へと浮き上がってしまう。
慌てて彼女は背中のスラスターを使うが一向に戻らない。衝撃が強すぎたためか人用のスラスターでは、全然戻れないのだ。
「嘘。嘘嘘」
ミコトは海で溺れる人のように手足を暴れさせるが、みるみるうちにアークエンジェルと離れてしまう。
絶望感が彼女の臓腑を冷たくする。涙が白い船体を大きく歪ませる。
言葉にならない声。しかし、それは宇宙空間ではまるで音として届かない。
「いやだ。やだよ。助け、助けて」
彼女の視界の端に白い物体が現れる。
次の瞬間、アークエンジェルとの距離はみるみるうちに近づいていく。
視線を向ければ、そこにはストライク。コックピットが開かれ、そちらへと近づいていく。
『だ、大丈夫?』
「キラせんぱぁい。怖かったぁ」
彼女はストライクのマニピュレータの中にいた。
キラは彼女をコックピットへと引き入れると、キラに飛びつき泣き出す。
彼は「もう大丈夫だよ」と優しく声をかけてから、アークエンジェルと通信する。
「何してるんですか! こっちは危険な作業をしてるんですよ!」
『こちらだってそうだ! デブリベルト近くだぞ。観測、なにをやってるんだ!』
キラの声にナタルの怒声が応じた。
『この人数ですよ? 無茶言わないでください!』
『ごめんなさい。デブリにぶつかったみたい。そちらは?』
キラは状況を説明。目視では、他作業員は大丈夫そうだと言う。多くの者達は命綱のおかげで、戻れそうであった。
念の為、通信で点呼をとると、ミコト以外は無事だった。
ストライクが甲板に降り立つと、キラは慣れた様子で、メアリーのミストラルまでミコトを連れて行く。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ミコトは急いで安全ベルトをワイヤーに固定する。何度も引っ張って確認してから、作業に取り掛かった。
『ありがとうキラ。ヒヤッとしたわ』
「いえ、他の人は?」
『他はみんな運良くね。でもみんな、結構危なかったわ』
見ればまだワイヤーを固定出来てなかった班もあり、宇宙空間に放出さたのだが、命綱のおかげで戻ってきているところだった。
『悪いけど、彼らも助けてあげて。キラなら朝飯前よね』
「僕は万能ではないですよ」
『頼りにしてるって言ってるの』
「やってはみますよ」
キラはストライクで、作業員の帰艦も手助けする。
ふと彼はアークエンジェルの進行方向とは逆を見た。コックピットに映し出される映像には巨大な瓦礫。地球側を見れば青い星の周囲を輪が覆う。どれもゴミだ。その中のひとつが地球の引力を離れたのだ。
ストライクをアークエンジェルに着艦させると、キラも作業に取り掛かる。
『パテを練り込むんだよ。それを伸ばしてだな』
『プラモデルじゃないんだから』
『いいからやるの』
『へーい』
コジローの指示にぶーぶー言いつつも、ソウマは慣れた手付きで作業をしていく。
キラも見様見真似で作業を行う。パテを船体の傷に練り込み、特殊なライトで硬化させる。
『プラモデルみたいだな』
いつの間にかキラの近くにトールがやってきていた。
「そうだね。なんだか変な感じ」
『だよな。こんなんで直っちゃうだから』
ヘリオポリスイレブンの外壁の修理は、特別な資格がないと行えない。
もしかしたら、彼らの知っている人たちはこのような作業をしていたのかもしれなかった。
キラはパテを練り込んだ部分を指で押してみるが、凹む様子はない。
『結構貴重な経験だよな。オーブに帰れたら、モルゲンレーテに入社できるかな?』
「入社するの? 兵器開発?」
『しないのかよ。班長に声かけられてたんだぜ?』
キラは「そうだけど」と口ごもる。
『でも、まあモルゲンレーテに入れば給料もいいし、地球にも住めるかな』
「地球に?」
『そうそう。この先のこと考えるとスキルを持ってないと、地球にいけなさそうだしさ』
「そっか。確かに地球の方は、裕福な人が多いんだよね」
『高官とかお偉方とかね。宇宙開発なんて、体のいいこと言ってるけど、宇宙じゃ豪勢な暮らしなんて、夢のまた夢って感じだしな。キラはどうするんだ?』
「僕は……わからない」
『宇宙でデブリお片付けって、わけにもいかなそうだしな』
「そうだね……」
キラはヘリオポリスのある方角を見つめる。コロニーはすでに見えない。
『おい坊主共。手が止まってるぞ』
二人は慌てて作業に戻る。
「――話を戻しましょう」
マリューがそう言うと、ブリッジにいた面々は宙域図に目を向けた。
アークエンジェルのブリッジでは、今後の方針を話し合っているところだ。
徐々に地球のデブリベルトに近づきつつあった。
宙域図には複数の航路が描かれており、その行く先はどれも月だ。
デブリベルトに突っ込むのはどうだろうかと、誰かが提案するがアーノルド・ノイマンがそれを否定した。
現在の速度のまま突っ込めば、アークエンジェルはバラバラになりデブリの仲間入りになってしまう。
「私としては、デブリに潜み月の公転に合わせたいと考えています」
「飛来するデブリはどうするんですか?」
「ストライクにどけさせればいいだろう」
ナタルとアーノルドの話し合いを聞きながら、マリューは難しい顔となる。
潜むのはいいとしても、アークエンジェルはそこまで長期戦はできない。
特に水が足りてないため、遅かれ早かれ艦の維持ができなくなってしまう。
「水、それと武器と弾薬だな。これがないと――」
ムウはウンウン唸った後、目を見開く。
「どうかしましたか? フラガ大尉」
「俺は不可能を可能にする男だってことだよカオルっち」
「は、はぁ……」
マリューは「つまり、どういうことです?」と先を促す。
「デブリに潜みつつ、補給物資を探すってことさ」
「本気ですか? フラガ大尉」
チャンドラは思ったことをそのまま口に出す。
ジャッキーも考えを口にする。
「そうそう運良く、艦に使える物資なんてありますかね?」
「じゃあ、どこかに寄港するか?」
「L1宙域になら、何かあるかもしれませんが……」
カオルは座席の端末を操作し、宙域図にL1宙域を表示。
戦争が始まって早々に、地球軍とザフトが戦った戦場だ。
月面基地から近い地球軍は物量で、対してザフトモビルスーツ部隊で激突した。
結果はL1宙域に崩壊で地球軍の敗退である。そこになら両軍の破壊された戦艦などがあると考えたのだ。
「そっちは遠くないかしら?」
「ザフトに見つかる可能性もあります」
現在のアークエンジェルとの位置関係は、地球を挟んだ位置にある。
「月基地しか寄港できる場所はないだろう。ってなると、そこまで隠れながら行くにしても、物資が足りない」
ムウの言葉に全員が納得して頷く。
「なんで、このままデブリベルトに行くことを提案するぜ艦長」
「そうね。それで行きましょう」
全員異論はないのか、頷き合う。
「早めに減速をかけておかないと、ですね」
「わかってると思うが、整備兵たちを収容後だからな」
「了解です。フラガ大尉」
アーノルドとムウは、宙域図をにらめっこしながら、減速位置を決める。
「先程のデブリの影響も確認したほうがよろしいのでは?」
「そうね。お願いするわナタル」とマリュー
ナタルは了解と言うと、通信機を使ってコジロー・マードックへと指示を出す。
彼らの作業も一段落ついたのか、ストライクを中心にして艦底を確認。大きな損傷があることがわかり、そちらも素早く修理を行う。
アークエンジェルの修理が終わると、キラたちを収容して、デブリベルト前で減速を開始。
北極圏を眼下に、一隻の宇宙戦艦が砲撃を行っていた。
ザフト軍所属、ローラシア級ガモフ。主砲からレールガンが一直線に光の軌跡を描き、地球軍のドレイク級戦艦に巨大な穴を穿つ。
いくつかの光が走ると、爆発が起こる。ビームがデブリ、あるいは敵機に着弾したのである。
デュエルがビームライフルを構えて発射。メビウスがそれをかろうじて躱して、ミサイルを放つ。
イザーク・ジュールは「なめるな!」と叫ぶと、頭部の武装が火を吹く。
バルカンガンのイーゲルシュテルンが、弾丸の雨がミサイルを襲い、爆発する。
彼はデュエルのスラスターを噴射して、爆炎を突き抜けた。
爆炎から機体が飛び出てくるとは、思っていなかったのだろう。メビウスの動きは直線的になってしまう。
その機体が真っ二つに溶断される。
二つに分かたれた機体が、デュエルの横をすり抜けて背後で爆発。
「ディアッカ! ラスティー! 何をやってる!」
イザークが叫ぶと大きな爆発が起こる。
ネルソン級の戦艦が真ん中で爆発し、船体を折っていた。
『グゥレイト! お待たせ』
『ブリッジぶち抜いたのはラスティー・マッケンジーだぞ。ディアッカ!』
『アシストどうもね』
「ふざけるな。まだ戦闘中だぞ」
デュエルのコックピットのモニターで爆発が、数度起こる。
羽のシルエット。西洋甲冑を思わせる機影。ザフト軍主力モビルスーツジンだ。
オロールは重突撃銃を単発で射撃して、メビウスを撃墜していく。
機体を急制動し、反転。そのまま重斬刀を抜刀してメビウスを斬り裂き破壊。
「さすがだなオロール」
『いや、そうでもない。新型のモビルスーツはいいな』
「まあな」
『ニコルはどうした?』
爆発が起こり、最後のドレイク級が撃沈する。
黒い機体が突如姿を現し、二機の前までやってきた。
「遅いぞニコル」
『お待たせしました。妙な動きをしたいので、手間がかかりました』
「妙……?」
イザークは眉根を寄せる。
デュエルの肩にジンが手を置く。
『接触回線だ。周囲を警戒しろ』
「やっている。ラスティー、そっちはどうだ?」
『熱を持ったデブリが多いんだよ』
戦闘終了後とあって、爆発などで熱を持った物体が多数存在していた。
ラスティーと同様、周囲を警戒しているディアッカも、センサーが役に立たないと言う。
『イザーク。この後、やってみせろ』
「バスターとスティンガーは、ガモフの直衛しつつ索敵。ブリッツは帰艦。俺とオロールは周囲を見て回る。ってところか?」
『まあ、及第点だな』
『では、帰艦します』
「待て、ニコル」
『はい?』
「妙な動きとはなんだ?」
『はい。艦列を崩して離れようとしたようでした。逃げる……とは違うような』
イザークは唸った。
彼らは北極圏にガモフを位置取り、足つきが来るのを待ち構えていた。
そんな中地球軍の艦艇が三隻、この宙域に現れたのだ。
「大方逃げ出そうとしたんだろうさ。俺たちが強襲したからな」
『確かに、イザークの言う通りかもしれませんね』
自分たちが急襲したことで、相手は陣形を維持できなかったのではないか。そう考えていたところ、デュエルのコックピットがアラートを発した。
「なんだ?」
『下だ! 何か大きな物体が打ち上がってるぞ!』
オロールの声に反応して、全員が地球を見下ろす。
青い表面に黒い点。それはみるみる大きくなっていく。
「ディアッカ! ラスティー!」
バスターとスティンガーは狙撃しようと、武器を構える。
二機は長射程を活かした攻撃を行うが、大気の壁がそれを阻む。
ガモフは船体をロールさせ、地球に向かってひっくり返る形となった。レールガンの砲口を向けるが、わずかに遅かった。
巨大な物体はガモフの射角を外れ、L1宙域へと飛翔。
デュエルは追うが、すぐにロストしてしまう。
「消えた?!」
『おいおいマジかよ。索敵に反応しないぞ。打ち上がったはず、だよな?』
ディアッカはスコープで、打ち上がった物体を探すが宇宙空間しか広がるだけだ。
『待ってください。これってもしかしてラスティー』
『元々は地球軍のだったしな』
「どういうことだ?」
『ミラージュコロイドか』
イザークの疑問に答えたのは、オロールだった。
そういえばと、ニコルが口を開く。
『イン隊の情報ってこれなのでは?』
『地球軍がなんかを打ち上げてるって話だったな』
ラスティーもセンサーや索敵をフルで使うが反応はない。
熱紋で探そうにも、先の戦闘の影響で熱を持った物体が多く、正常に判別できない。
『全機、帰投せよ。本国にエマージェンシーをかける』
ガモフの艦長、ゼルマンはいつもと声音が違った。気怠さを感じさせない重く低い。
『足つきの捜索は一旦中断だ』
~続く~
登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。