この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
アークエンジェルのブリーフィングルーム。壇上に立つのはマリュー・ラミアスとムウ・ラ・フラガ。右端にて端末を操作するナタル・バジルールの三人。
それを眺める十数名。その殆どがアークエンジェルの外装修復に出た面々だ。
話の切り出しはムウ・ラ・フラガだ。
補給が受けられるという話に、キラたちは湧く。
ソウマは小さく笑って口を開く
「これでトールのくそつまんないギャグを見なくて済むな」
「ギャグじゃねぇって」
「ギャグ?」
ミコトが小首を傾げる。
「トールったら食事にがっついてね」
ミリアリアはトールが喉をつまらせた話をする。
ひとりひとりの水の量が決まっているため、ミリアリアの水を分けたのだ。
トールとしては、死にかけたためふざけているわけではない。
「トールはもうちっと落ち着いて飯を食うべきだな」
「お前もだぞジェイク」
「俺はつまらせてないだろ」
「俺の分の水をとっておいてか?」
「だって飲んでなかったじゃん」
ネイサンは何かを言いかけたが、それを飲み込む。
「アイスあげたじゃん」
「お前のだけじゃねぇよ」
「チョコチップもサービスした」
「わかったわかった」
余談だが、水をあげたミリアリアを不憫に思ったジェイクはアイスを彼女にプレゼントした。それで彼女は喉を潤すことができたのだ。
そんな話をよそに、サイ・アーガイルは話の先を促す。
「補給を受けられるんですよね?」
彼らはどこかしこに、基地があるのだと考えた。そこで自分たちのお役目は終わりだとも考えたのである。
次の基地の名前はなんだろうか。ユーラシア連邦じゃなければいいと、口々に好き勝手言う。
しかし、言った当人のムウは渋い顔をしていた。
「で、フラガ大尉殿。次の基地は?」
ソウマが先を促す。
ムウは話の結論を先延ばしすることを口にする。
マリューは一度咳払いすると、アークエンジェルはデブリベルトに向かっていると言った。
キラとソウマはわずかに表情を変える。
「補給ってまさか……」
サイは顔色を変えた。
彼はその先を理解し口にする。
ムウはそんな彼を称賛しつつ、苦虫を噛み潰したような顔となった。
マリューとムウは、デブリベルトから補給物資を探そうと考えていたのだ。
戦闘で破壊された戦艦などが、多数滞留しているのである。
彼女らとしては、地球軍の戦艦を見つけて、そこから水や弾薬。その他使える物を諸々手に入れるつもりだ。
「つまり、俺達に船外作業しろってこと?」
「そういうこと。頼りにしてるぜ」
ソウマは嫌そうな顔を隠さずに口にし、ムウはそれを爽やかな笑顔で受け流す。
「それしかないのだ」
そう言ったのはナタル。彼女は端末を操作すると、マリューとムウの背景に映像を投写。
そこには武器弾薬。食糧の備蓄から水の残りまでを正確に表示していた。
数字で出されてしまうと、キラたちは何も言えなくなってしまう。
「やるしかないみたいだな」
「わかったよ。デブリあさりしてくればいいんだろ?」
「話が早くて助かる。みんなも頼むぞ」
マリュー、ムウ、ナタルがブリーフィングルームから出ていくと、カオル・ウラベが壇上に立った。
「心情的には私も諸君らと同じだ。できればデブリベルトをあさりたいとも思わないし、君たちにやらしたくもない」
それでも、明日を生きるために手段を選べないと彼は言う。
ネイサンは話の先を促す。
「で、ウラベ少尉。どうします?」
「班分けとかして?」
ジェイクの質問にカオルは頷く。
「そのつもりだ」
今回もストライクの運用データを取りたいため、出撃を行う。それもエールストライカーを装備しての運用だ。
キラはわずかに顔を俯かせたが、すぐに顔を上げてカオルを見据えた。
まずはストライクとミストラルが、目印となるデブリを見つけ、そこを中心に探すのだ。
宇宙は広大なため目印となるモノがなければ、簡単に遭難してしまう。それを避けるためだ。
もちろんアークエンジェルの座標は固定されるのだが、何が起きてもおかしくない。
実際、彼らは予期せぬデブリとの衝突を経験していた。それもあってか全員真剣に話を聞く。
「ストライクの班。リーヴ軍曹の班。ロード曹長の班だ」
「メアリーとフラガ大尉は?」
ジェイクは暗にメアリーと一緒が良いと言っていた。
「フラガ大尉とセーラー少尉はアークエンジェルで待機だ。私もミストラルで出る」
「ウラベ少尉は?」
「ストライクの班だ」
それから細かい話を詰めると、その場は解散となった。
ナスカ級戦艦ボッシュ。イン隊の旗艦である。そのすぐ後ろにはローラシア級の戦艦二隻。
三隻は宇宙の暗闇の中を慎重に、かつ大胆に進撃していた。
彼らは堂々と月面基地の観測エリアに踏み入って、L1宙域に向かっている。
「情報を共有しておいて良かったですな」と黒服の男。
「とはいえ、複雑な気分だ」
ジェン・インは肩をすくめて笑う。
「活躍された戦場ではありませんか」
「世界樹と周辺のコロニーを壊滅させたかったわけじゃない」
「宇宙開拓。それを願った始まりの場所、ですからね。複雑ですか」
「今でも破戒してよかったのか、疑問に思うよ」
イン隊の再出撃は、クルーゼ隊よりも十二時間ほど早かった。
ナスカ級一隻、ローラシア級二隻の編成でモビルスーツの数は十八機。
ジェンを始めエースパイロット、準エースパイロットが複数所属している。
プラント本土の防衛隊のひとつだ。
クルーゼほどではないが、彼も世界樹攻防戦で名を上げたエースである。
彼らは再び地球軍の打ち上げた兵器。またはそれに準ずるものを捜索に出発したのだった。
今度の目撃情報は、北極点の近くだと聞いている。
ジェンは念の為に、クルーゼ隊にも情報を共有してから出発。
その結果、ついに地球軍の尻尾を掴んだのだ。
地球軍の打ち上げを目撃したのはクルーゼ隊の分隊。
彼らでなければ、相手がどのような兵器を使っていたのかわからなかっただろう。
ガモフからの連絡によると、ミラージュコロイドという新兵器を使っているという話だ。
しかし、そこでひとつ疑問が浮かぶ。打ち上げたものはどこに向かったのか。
月基地に格納するにしても、普段とは違う動きになるはずだ。しかし、そんな情報はあがってこない。
だが、それもガモフからの情報で、どこにあるか判明。
L1宙域。そこはコーディネイターにとっても特別な場所だ。
そこに地球軍は何かを準備しているのである。
「ミラージュコロイドで潜伏している。ってことか」
ジェンの予想に、黒服の男が頷く
「Eジャマーといえど、ずっと展開できませんからな」
「ましてやL1宙域はデブリの海だ」
「海賊も多く、あまり近づきたがるザフト軍はいませんからね」
世界樹という宇宙ステーションが、L1宙域にあった。コズミック・イラ以前の世紀から作られた宇宙への架け橋。
人類が宇宙進出するためのステーションがあった。そこから人類は月に居住。そして宇宙にコロニーを作るようになったのだ。
戦争開始直前までは、宇宙進出のための施設であった。
プラントと地球が戦争となってから、そこは地球軍によって基地として運用されるようになったのである。
そこが基地として使われることは、ザフト軍にとって非常に脅威であった。
月と世界樹は、いわゆる出城と本拠の関係になる。ザフト軍が月へと攻撃しようとすれば、地球軍は立て籠もって、世界樹からの援軍を待つことも可能だ。逆もまた然り。
プラントから見れば、二正面作戦を常に強いられる状況だ。
よって、ザフト軍は多大な犠牲を出してでも、世界樹を破壊したのである。
当時は評議会でも、強硬派とはいえ破壊に対して懐疑的であった。
宇宙進出のための場所。自分たちコーディネイターという種が生まれ出るきっかけの場所である。
海賊が出るなんて言って近寄らないが、実際はコーディネイターにとっても神聖な場所を破戒した。
その事実を直視したくないのだ。
「新型の宇宙戦艦を打ち上げているのでしょうか?」
「か、基地だな」
「そんな?! そんなことになればまた!」
「だからこそ、確実に叩かなくてはならない」
オペレーターが口を開く。
「ガモフとのランデブーポイントです」
「ガモフは?」
「望遠モニターに映し出します」
そこにはローラシア級の戦艦の姿。
ジェンはわずかに胸を撫で下ろすと、プラントの方角に視線を向けた。
「後はヴェサリウスが来るのを待つだけだな。イヴァンとマックスはジンで周囲を警戒」
プラントのコロニー。それを見た人は砂時計にそっくりだと言わしめる外観をしている。
戦争が始まってからは、その周囲には戦艦の補給基地が多数配置されている。
外で任務を行う部隊の大半が、そこで修理や補給を受けるのだ。
そのひとつに青い船体の戦艦が一隻。出航間近なのか、人々の動きは激しい。
ナスカ級戦艦ヴェサリウス。出航時間が繰り上がったことで、兵士たちの動きは慌ただしい。
一機のシャトルがその補給基地へと到着。窓からはアスラン・ザラが顔を覗かせる。
彼は修復された母艦の様子を確認。そんな彼の視界の端に色が咲く。
オレンジ色のジンと、追加装甲を装備したジンアサルトが、まっすぐにヴェサリウスへと飛翔。
ちょうど戦艦に着艦しようとしていた。
(ミゲルとマシューのか。見たことない装備があったがあれは……)
一瞬のことだったが、彼は見逃さなかった。
オレンジ色のジンとジンアサルトの右腰部に、見慣れない火器が装備されていたのだ。
新装備が配備されたことで、より激化する戦場に行くのだと漠然と思うアスラン。
彼はシャトルを降りると、ヴェサリウスの搭乗口まで向かう。
緑服の兵士二人に出迎えられ、敬礼で応答する。程なく進んで見慣れた背中に緊張が走った。
クルーゼ隊の隊長、ラウ・ル・クルーゼと話すその人物。パトリック・ザラだ。
「クルーゼ。新装備の方だが――」
アスランは敬礼をして、二人の横を通り過ぎようとした。
しかし、パトリック・ザラに呼び止められてしまう。
搭乗口の壁を押し返して、二人の前まで戻る。
彼からはラクス・クラインが行方不明になったことを聞かれる。
そこで、アスランは予定が繰り上がったのは、彼女の件だと理解する。
だから、彼はラウに確認する。
彼は小さく笑いながら「冷たい男だな」と軽い口調で言う。
クルーゼ隊はそのラクス・クラインの捜索のために出航するのだ。
アスランは内心首を傾げた。彼女が乗っている船は民間船である。だからそのことを指摘したのだが、パトリック・ザラが口を開いた。
「公表はされていないが――」
民間船よりエマージェンシーが、ザフト軍に届いていた。
「何かあったんですか?」
「わからん。その後Eジャマーが展開されたようだ。意味はわかるな?」
アスランは小さく頷く。
「先んじてルンロー隊が、偵察型のジンを送っている」
彼らが話し込んでいる間にも、乗組員は続々とヴェサリウスに乗り込んでいく。
ラウは、ユニウスセブンの位置が地球に近いことを指摘。ガモフも足つきをロストしているため、嫌な位置にあると言う。
アスランは驚愕の声をもらす。
「定められた者同士なのだ。お前とラクス・クラインは。そのことをプラントの国民が知っている」
だから、アスランのいるクルーゼ隊を休暇にさせるわけにはいかないと、パトリックは捕捉する。
アスランは何かを言いかけるが、言葉にならない。
「アイドルなのだ。彼女は」
パトリックは二人に頼むぞと言ったところで、声が飛び込む。
『接触回線。よろしいですか?』
突如アナウンスが鳴り響く。
クルーゼは搭乗口横にある通信機を手に取る。
「こちらクルーゼ隊。クルーゼだ」
『緊急通信です。お忙しいところ申し訳ないです』
「何事か?」
『イン隊より、クルーゼ隊に救援要請です。地球軍の打ち上げている兵器をガモフが確認。クルーゼ隊の援軍を求む。とのことです』
ラウとパトリックは視線を交わす。
「そちらを優先してくれ。ラクス嬢の方は、ルンロー隊が先行している。だが――」
「承知しております。アスランが連れ帰って来ますよ」
ラウは口元を小さく釣り上げる。そして通信している相手に「了解。すぐに向かう」と言う。
ラウとアスランは敬礼する。パトリックはそれを見てから、踵を返す。
父親の背中が見えなくなったところで、アスランは口を開く。
「ルンロー隊が救助して、それで良いのでは?」
「わかってないなアスラン。ヒーローになれって言ってんだよ」
声はアスランの後方。ヴェサリウスの方からだ。
アスランとラウが振り返ると、そこにはミゲル・アイマン。
彼は敬礼しながら近づいて来ていた。
「もしくは、亡骸を抱いて涙を流すか、だな」
アスランとミゲルは驚き、言葉を失ってしまう。
どちらにせよアスランが動かなくては話が始まらないのだろうと、仮面の男は言う。
アスランも、自分の父親がそのように考えているんだろうな。と、薄々感じていた。
「とはいえだ。まずは地球軍の新兵器だな」
ヴェサリウスは程なくして出航。ローラシア級のツィーグラーを伴って、L1宙域へと目指す。
デブリベルトを目前にしてアークエンジェルは制動をかける。
アーノルド・ノイマンは、デブリの流れを見てサイドブースターを数度噴射。デブリベルトの周回速度に合わせて、アークエンジェルは宇宙を流れていく。
マリューはアーノルドと視線を交わすと頷く。座席にある通信機を手に取ると口を開く。
「ナタル。そちらの方はお願いね」
『了解しました』
アークエンジェルの左右のカタパルトハッチが開くと、エールストライクと、ミストラルが多数発進していく。
そして彼らは、目の前にある巨大な物体に吸い寄せられるように、近づいていった。
『随分でかいデブリだなネイサン』
『ああ、やけにバカでかい』
キラはそんな通信の会話を耳にしながら、どこかで見たと既視感を覚えた。
『とりあえず目の前に進むぞ。アークエンジェル。映像の方はどうか?』
『問題ないわ』
アークエンジェルの方にも映像が届いており、目の前の巨大な物体に彼らは突き進む。
『接触回線。キラ、俺の気のせいか? すっげー見覚えあるんだけど』
ソウマの声にキラは頷く。
「なんだか、プラントの――」
そして彼らは、その巨大な物体の全貌を望める位置に着く。
『大陸? 宇宙に?』
『なんだ。これ? コロニーか?』
『いや、これは違う』
「――ユニウスセブン……」
アークエンジェルで映像を見ていたマリューは立ち上がり、口元に手を当てた。
『あれってマジ話だったのかよ! じゃあなんだ? 地球軍は民間人殺したのかよ!』
『落ち着けジェイク。それをやったのはプラントの自爆って話だ。それにこれだって本当にユニウスセブンかどうかも――』
『何言ってんだよ。お前ら正気かよ。地球軍の人たちって自分たちのしたこと知らないのかよ――』
トールは堪らず口を挟む。
『――これは、お前たち地球軍がやったことだろ! 少なくともオーブじゃそういう話だ』
『プラントの肩を持つってのかよ! オーブは』
『――そうか……。やっぱり地球軍がやったのか』
『ネイサン? ガキの話を信じるってのか?』
『キラ、お前の知ってる話を教えてくれ』
キラは自分の知っているユニウスセブンの悲劇を、淡々と事実のみを話していく。
その話に関して、士官から誰ひとり否定は入らない。
それがジェイクとネイサンに、地球軍が嘘をついていたと雄弁に語っていた。
『じゃあ地球軍はなんの罪もない民間人を』
『よせジェイク』
『でもそうだろうがよ。あれはプラントの嘘だったんじゃないのかよッ!』
『そういうことなのだろう……』
地球とプラントの戦争の初期。地球軍は大量破壊兵器によって破壊したコロニーがあった。名はユニウスセブン。
プラントはその日をユニウスセブンの悲劇、血のバレンタインと呼んでいる。
だが地球軍に参加している国々では、その情報を制限されていた。
『ユニウスセブンなんかじゃないんじゃないのか?』
『んなわけないだろう。リーヴ軍曹。ユニウスセブンでしょ! どう見たって!』
そう言ったのはトールだ。
あくまで情報が制限されているのは、地球軍の参加国だけだ。それ以外の国ではニュースで取り上げているため、周知の事実であった。
当然ながら、中立の立場であるオーブもその情報は一般国民に公開している。
それを知っているキラたちにとっては、自分たちの眼下に広がる宇宙の大陸は、ユニウスセブンだとわかるのだ。
『マジかよ』
『知らないのかよ。自分たちがやったことだろ』
『時間がないのだ。今は議論をしている場合でも、口論している場合でもない。各自周囲を索敵せよ』
ナタルが場を制し、作業に取り掛かるように命じる。
ジェイクらは話を切り上げると、それぞれの班に別れて補給物資がないか探しに行く。
キラの班は、ユニウスセブンを担当することになった。
エールストライカーを装備したストライクは、スラスターを巧みに操り着陸。
キラたちは機体から降りると、ナタルから次の指示が飛ぶ。
『ストライクは立たせておくんだ』
『しゃがませたほうがいいんじゃないんですか?』
『我々が遭難するかもしれんだろ。目印にしておくんだ』
ナタルとトールのやり取りを聞きながら、キラは辺りを見渡す。
(農業プラントって話だけど……)
アスランの話を思い出したキラはぞっとする。この場で自分の知っている人が死んだのだ。
『キラ・ヤマト』
「は、はい!」
考え事していたキラは、カオルの呼び声が突然に聞こえた。慌てて振り返ると彼はすぐ近くまで来ていた。
『どうかしたのか?』
「い、いえ……僕は中央の方を見てきますね」
キラが指差す先には巨大な建物がいくつかあった。
カオルは頷くと気をつけろと言う。
『私はソウマたちと、あのローラシア級の戦艦を見てくる』
彼の指差す先には戦艦がひとつ。原型をほとんどとどめているため、なにか使えそうな物資があるのではないかと考えたのだ。
「はい。そちらも気をつけてください」
『そうだな。少し怖いからな』
「そ、そうなんですか?」
『ああ、どうしても宇宙空間に出ると、トイレが近くなってな』
内臓が浮くような感覚に慣れないというのだ。
『フラガ大尉に相談したら――慣れろ――と言われてしまったよ』
「それは……」
『君とケーニッヒは随分慣れているな』
キラは思い出したように笑顔を作った。
「トールはよく漏らしてましたよ」
『そうなのか。やはり慣れろってことか』
カオルは肩を落とすと、ミストラルに乗り込む。中にはソウマとミコトがキラに向かって手を降っていた。
彼はミストラルが飛び上がるのに巻き込まれないように、建物の影に隠れる。それを見てからソウマはミストラルを操縦。ローラシア級の戦艦へと取り付く。
キラは建物の壁を蹴って、目的の場所へとあっという間に移動する。
宇宙空間は重力という縛りがないため、無限に加速し続ける事ができた。
建物の近くになるとキラは四肢を動かして、体を反転。背中につけてある人用のスラスターを噴射。
それも一度ではなく、二度三度。そうすることで彼は速度を落として、建物の前に来る頃には歩くような速度となっていた。
建物の壁を蹴って中へと入っていく。
キラは建物の中に入ってすぐに後悔する。彼は息を呑む。
彼の視界の先には、多くの亡骸が浮いていた。
キラは建物の天井の方へと移動し、眼下に原型をとどめたままの人の躯に臓腑が冷えていく。
空気が抜けた際、気圧の変化で吹き飛ばされた人々が大半だっただろう。
しかし後か不幸か。建物の中にも多く人が残ったのだろう。結果、建物中に残ってしまい、宇宙を一緒に漂ってしまったのである。
彼は頭を振って、暗闇の中を突き進む。コロニーの中心部には何かしらの、備品があると考えたのだ。
その道中、とある遺体を見つけてしまう。彼の顔はあっという間に歪む。
自身の両親のことを思い出し、二人の身が無事かどうか不安を抱く。
「戦争するのも……仕方がないってうのか」
キラは歯を食いしばり、最奥へと進む。
彼の睨んだ通り備品はあったものの、使えるかどうか不明なものばかりだ。
この場所に来てもらわなければならない。そう考えると彼は躊躇した。
まずジェイクのことを考えたのだ。彼はユニウスセブンの悲劇はプラントがでっち上げたものだと認識していた。
そんな彼に、この惨状を見せるべきか。トールたちも同様だ。
キラはヘルメットの一部を抑えて、通信を繋げる。
「ウラベ少尉。お話大丈夫ですか?」
『個人通信か? どうした?』
「はい。実は――」
キラはいくつか使えそうな物を見つけたこと。そして場所に遺体がたくさん残っていることを話す。
そして彼自身が抱いた懸念も、その時話した。
『こちらもたくさん使えそうな物を見つけたんだが』
「どうしましょう?」
『そちらは足りなかった場合、手を付けよう。必要な分だけあればいいのだから』
「ありがとうございます」
『いや。そんな辛いところに行かせてすまない。そろそろ時間だ。合流地点で会おう』
キラは了解と言うと、その場を後にする。
彼がストライクのところまで戻ってくると、ネイサンやジェイクのミストラルも合流していた。
それから、アークエンジェルに戻るとブリーフィングルームで、何があったか各自報告。
報告をまとめている間、キラたちは談笑していた。
「本当本当。びっくりしたぜ」
「親子の遺体があってね。本当に怖かった」
トールとミリアリアはナタルと一緒に行動して、見つけたものを話す。
「こっちも世界樹の中に入ったけど、似たようなの見たよ。気持ちの良いものじゃないな」
サイの言葉にカズィは顔を青くして頷いた。
「あ、もしかしてカズィ。漏らしたんだろ」
「ちびってないよ!」
「俺は少し漏らしたよ」とサイ。
その報告に全員呆気にとられる。
「変な目で見るなよ。だって仕方がないだろ。マジで怖かったんだ。自分たちもこうなるんじゃないかとか、こうなってたのかもって思うとさ」
ヘリオポリスイレブンの崩壊を目の当たりにしている彼らは、一歩間違えば自分たちもユニウスセブンの人たちと同じ運命を辿っていた。
サイはそう考えてしまい、恐怖したのだ。
そんな少年の後ろではジェイクが大仰に頷く。
「そっちはどうだったんだ? ローラシア級の」とネイサン
「ミコトがパニックになったし、俺も腰抜かしたし、大変だったよ」
戦闘でやられたローラシア級の戦艦。その内部に入ったソウマたちが見たものも、皆と同じく凄惨なものだった。
ミコトは顔を俯かせて「あれが戦争なんですね」とつぶやく。
ソウマは頷くと話を続ける。
「あんなところから物を盗まないと生きていけないのか」
「ま、まあちょっとした冒険できたってことで」
トールが面白おかしくしようとするが、ミリアリアに窘められてしまう。
「そうだ。キラは?」
「僕?」
彼は努めて平静を装い「なんにもなかったよ」と言う。
「そっか。じゃあユニウスセブンから水持ってこないとだな」
キラたちは顔を暗くする。
「その、ユニウスセブンからじゃないと駄目だな水は」
「あそこから水を?」
「喜んじゃいないさ。誰も」
ジェイクの驚きの声に、ムウも面白くなさそうに言う。
「でも生きなきゃなんないんだから、生きるためにあそこから持ってくるしかないだろう」
マリューも同じ思いなのか、ムウの言葉に首肯する。
「水はあそこにしか?」
「ないです。武器弾薬、修理部品などはローラシア級、それと世界樹跡地に多少あります」
ネイサンは努めて淡々と話す。彼もユニウスセブンから水を持ってくることに、内心反対だった。
「墓荒らし、か」
「とりあえずですが、見つけた分だけでも月まではいけそうです」
その報告にキラは胸を撫で下ろす。カオルはキラの見つけた物に関しては伏せたままにしていた。
ある程度持っていく物を決めてからは、動きが大掛かりとなる。
基本的に物資の回収はミストラルが行い、その間キラたち戦闘要員は周辺の警戒にあたることになったのだ。
エールストライクはユニウスセブンを眼下に、周囲を警戒する。
メビウス・ゼロ、メビウス・ストライカー、そしてメビウスの二機は周辺を飛行し、ザフトに対して警戒する。
その間、ミストラルが氷を削り出し、遺棄されている物資をアークエンジェルへと運んでいく。
キラはコックピット内のモニターに、最新の映像を投影。
ストライクが撮影した映像をリアルタイムに更新して、新しい情報をモニターに映し出した。
ふと白い物体が映り込む。
「民間船?」
キラはエールストライクを民間船まで進める。船体に振れて様子を伺う。
その船は、どう見ても何かの攻撃によって撃沈されたようだった。それも新しいものだ。
微細ながら船体の動力から発せられる熱がまだあり、それをストライクもセンサーでキャッチしていた。
「戦闘? でもなんで?」
ストライクの頭部は周囲を見渡す。
彼の視界に赤く明滅する光が飛び込む。
おむすびにも似た形の物体が、宙空を漂う。
「あれは……」
驚きの声が出てしまう。
脱出ポッドだ。人がひとり入れるようなポッド。
ストライクはそれに手を伸ばしキャッチする。
「接触回線です。聞こえますか?」
呼びかけた声に反応はない。
故障を疑ったキラは、それをモビルスーツに把持させたままユニウスセブンへと戻る。
ストライクをユニウスセブンの残骸の影に隠しながら、脱出ポッドの外見を再度確認。
穴が空いてたり、破損している様子はない。
赤いランプが点滅していることから、機能はしていることは示している。
キラは脱出ポッドを発見したことを報告しようと、コックピットの端末に手を伸ばす。
直後コックピットにアラート。
キラは慌ててモニターを見る。そこには黒いカラーリングの機体。ジンがいた。
ストライクに登録されているデータバンクは、強行偵察型のジンと表示。
偵察型のジンは先程キラがやったように、民間船の周囲を飛んでいた。
(もしかしてこれか?)
脱出ポッドを見て、キラは差し出すべきかどうか悩んだ。
だが、すぐにその考えを放棄。脱出ポッドが目的だと絞りきれなかった。アークエンジェルを追っている部隊とも考えたのだ。
敵の追手と考えてからは、スコープを引き出し、ビームライフルを構える。
ロックオンして、引き金にそっと指を添えた。
キラに撃つ気はない。ジンに早く行ってくれと心の中で何度も願う。
こんなところで戦闘したくなかった。こんなところで人殺しをしたくなかった。こんなところから早く離れたかった。
何よりストライクに銃口が向いた場合のことを考えて恐怖する。
ストライクの左マニピュレータには、脱出ポッドが把持されているのだ。
攻撃され、命中でもすれば脱出ポッドの中の人は死んでしまう。
「早く行ってくれ!」
願いが通じたのか、偵察型のジンはその場を後にするように反転した。
~続く~
次のお話も見ていただければ嬉しいです。