この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
爆炎が吹き上げ、周囲の万物が吹き飛ぶ。人だったもの、車輌だったもの、建物だったもの、それらが砕け散り流星群のように降り注ぐ。
戦争は始まっていた。
コズミック・イラ七十年二月十一日。プラントはついに宣戦布告。
血のバレンタインの悲劇と呼ばれる惨劇から、一年が過ぎようとしていた。
数で圧倒的な優勢を誇っていた地球軍であったが、ザフト軍はそれを真っ向から立ち向かい、対等以上の状況に持ち込んでいたのである。
戦況は膠着状態となっていた。次なる一手を打つため、両軍は準備を進めていた。
女性のリポーターの背後では、いくつもの黒煙が立ち昇る。爆音が圧となってリポーターの背中を押す。
巨大な影が飛ぶ。巨人、あるいは天使。それが巨大な武器を手に、戦闘車両を破壊していく。
戦闘機が背後からミサイル攻撃をするが、それよりも早く反転した一つ目の天使は、手にした武器でミサイルを迎撃。爆発でその姿が消えるも、それは一瞬。ひとつ数える頃には、炎を突き破って跳躍。腰に下げた剣を鮮やかに引き抜くと、素早く振り抜いて戦闘機は真っ二つ。そして爆散。
そんな映像を眺めるアメジストの双眸。少年がどこか不安そうにそれを眺めていた。
『トリィ』
少年の眺めている端末の近くに緑色の鳥型ロボットが着地する。
彼の脳裏には月で別れた親友の顔。
親友も戦争が好きではないと知っているが、それでも不安だった。彼は「巻き込まれていないと良いけど」とつぶやく。
「戦争なんて早く終わればいいのに」
少年はそう言うと目の前の端末を操作していく。投影されていたモニターが二つに増え、ひとつには文字列が高速で記入されて行く。
ぶつぶつと独り言を呟きながら高速でタイピング。わずか数分で数万行のプログラムを組んでいく。
「おーい。キラー」
遠くから声が飛んでくる。
少年はモニターから顔をあげて、声のする方へと視線を向けた。
目線の先には二人の男女。仲睦まじく歩いてくる。
ひとりは少しくせっ毛の少年。ひとりは首まである髪が外にはねているのが特徴的な少女だ。
二人はキラと呼んだ少年の元まで来ると笑顔になった。
「トール。ミリアリア。どうしたの?」
「班長と教授がお前を探してたぜ」
「えっ?」
キラと呼ばれた少年は目を丸くして驚く。そしてこの後に続く言葉をトールは知っている。
だから彼はキラの次なる反応を知って、笑みを浮かべた。
「またぁ?」
「いいじゃんよ。デブリの方はアルバイト代出るんだし。教授の方は、将来有望なお前がいけない」
「ちょっとトール。もしかしてまた行くの?」
トールの隣にいたミリアリアは怪訝な顔となった。前者の方は彼女も初耳の話だったようだ。
「いいじゃんミリィ。デート代が稼げるんだぜ。行きたがってたテーマパークにも行ける」
彼ははるか上空の大地を指差す。そこには西洋風のお城などがある有名なテーマパーク。
真反対の大地にいるキラたちから見ても、色とりどりの施設が確認できるほど大きい。
少女は一瞬だけ顔を輝かせるも、すぐにそっけない表情となった。
「そんなのなくてもいいのに。ピクニックとかでも」
「いやいやいやいやいや。テーマパークとかの方がいいって! 食べ物用意しなくていいし楽できるじゃん」
トールはさらに軽い調子で「大丈夫大丈夫」と口にする。対してキラはげっそりとした様子だ。
「どうしたの? キラ」とミリアリアが首を傾げる。そして続けて「何かあった?」と聞く。
「両親にバレてね。あんまり良い顔してくれないんだよ」
トールは「あちゃー」と手で顔を覆う。
「そりゃあ、まあ戦争の道具だもんね」とミリアリア。
彼女は「わかる」と意味深にトールを見つめた。彼は慌てて身振り手振りで説明する。
「違う違う。違うよデブリをお片付けするだけだって。戦争に手は貸してません。誓います」
「本当かなぁ~?」
「これが結構いい収入なんだって」
「でもモビルスーツなんでしょ?」
「俺のはモビルアーマー」
「変わんないじゃない。どっちも兵器で危険よ」
そっぽを向いた彼女に、トールは急に弱々しくなる。
「頼むよミリィ。ミリアリア様ぁ。俺と一緒にテーマパーク行こうよぉん」
「そんな情けない声出したって駄目」
「これで最後にするからぁ。俺はミリィと一緒に行きたいんだって」
「でもカップルで行くとお別れするってお話だよ?」
「ミリィ~」
今にも泣き出しそうなトールに、ミリアリアは笑い出す。
「もう……これで最後だからね? キラの両親にも、心配かけているんだから」
「了解であります。ミリアリア軍曹殿」
「軍曹ってなによ~」
そんな二人の会話を笑顔で眺めていたキラ。
彼は先程までの戦争の映像を消そうと手をのばす。
だが、それは次の一言で止まってしまう。
「カオシュンの?」
「え? ああ……。そう、みたいだね」とキラはモニターから戦争の映像をアップする。
ミリアリアはオーブから近いことを指摘するが、トールは軽い調子で流す。自分たちのところは中立国だ。だから、戦争なんて関係ないと豪語。
そんな話をよそに、キラの表情に影が差す。視線の先にはトリィ。
もっと言えば、彼はトリィを作った友人を幻視する。
(アスランたちも、大丈夫だと良いんだけど……)
「ヘリオポリスイレブン。こちら、地球連合軍所属――」
軍服を来た男性が専門用語を並べていく。それを聞きながらひとりの男性が肩をすくめる。
目の前の国を内心バカにする。戦争に参加しないと言いながら、地球軍と協力していた。
そんな国に対して、彼はとてもポジティブに受け取れない。情勢が変われば裏切るかもしれないのだ。
彼は月面基地での攻防を思い出す。
脳裏に「お前は生き残ってくれ」という悲痛な仲間の声が過る。
嫌なことを思い出したと、そこで出会った男の声ごと頭の隅へと追いやった。
「呆れますな」
「そう言ってやるなムウ・ラ・フラガ大尉」
独り言のつもりだったが、聞いていた男性が応じる。
男のいるところは地球連合軍の艦艇の艦橋だ。
CICを担当している仲間たちが、忙しそうにあれこれと報告と連絡をしている。
「おかげでGの開発も済んだのだ。中立国様様というやつだ」
壮年期の男性は皮肉交じりに笑う。
「艦長。ヘリオポリスイレブンへの入港の許可が出ました」
ブリッジ要員の報告を受けて艦長は軍帽を脱いで被り直す。
「了解だ。ここまで来ればザフトも追いかけてこれまい」
「だと、良いのですが」
彼らは月面基地を出てから二隻の宇宙戦艦に追われていた。
交戦するかとも思ったのだが、付かず離れずぴったりと一定の距離を保っている。薄気味悪く感じていたが、その距離もようやく離れるのだ。
寒気を感じた男性は、敵艦の存在するであろう方向へと視線を向けた。
「だと――良いのですが」
ザフトに追われている間、彼は胸騒ぎを覚えていた。
「艦長! ジンです!」
「何?!」
艦橋内が緊張感で満たされる。と、同時に目前を数機の機体が飛翔する。
「バカモンよく見ろ! あれは羽なしだ!」
艦長は誤認した部下を叱りつけた。
ジンはジンでも、ザフト軍のジンではないのだ。
六機がデブリを回収したり、どこかへ押しやったりする。
「あれは、オーブのジンかい?」
「フラガ大尉も初見かね?」
「ええ、噂には聞いていましたが」
ジンというモビルスーツ。ザフト軍の主力兵器だ。数で勝る地球軍を圧倒した恐るべき兵器。
メビウス五機がかりで、ようやくジン一機と戦えるというカタログスペックだ。が、それは戦争初期の話だ。
今現在は練度の高い兵士は減ってきており、現在は七機がかりで、ジンを落とせるかどうかであった。
「そんな戦力差なため、ジンを見ただけで敵だと思いこむ者もいた」
「天使もどきにしては羽がない」
地球軍ではジンを「トサカ野郎」とか「天使もどき」と呼ぶ者もいる。
「トサカもないっすね」
「しかし、なんでジンなんか?」
「大方、ジャンク屋だろう」艦長は忌々し気に名を出す。
戦争で廃棄されたジンをジャンク屋が拾い、作業用として再利用しているのが、いわゆる「羽なし」だ。
戦闘で使われることはなく、オーブはそのジンをジャンク屋から買い取ったのだろう。
コロニー周辺のデブリを、モビルアーマーと一緒に片付けていた。
「しかし、ジンの数が多いな」
「オーブのコロニー群を守るにはちと数が少ないがな」
艦橋にいたひとりが「宇宙人いるのかよ」と毒づく。
艦長は「馬鹿な真似はよせよ」と言うと、入港作業を急がせた。
そんな声をよそに、ムウ・ラ・フラガは動きのよいジンを見つける。
「ヘリオポリスイレブンには、察知されていないようです」
艦橋に響いた声は落ち着いていた。ただ事実を事実として報告する。そんな声音だ。
艦橋は地球軍のものよりも広く、そして白で統一されている。開放感とどこか高級感が漂う。
そんな艦橋に三色の軍服が、それぞれの定位置で作業をしていた。
多くの者は緑色の軍服だが、二人だけ違う色の者たちがいる。
それだけで、その二人が特別な存在だとわかるだろう。
「どうしますか隊長?」
黒い軍服の男が白い軍服の男に問いかけていた。
白い軍服の男は白い仮面をつけており、殊更異彩を放っている。
だが、その場にいる者はだれひとりとてそれを気にする者はいない。
「むろん、予定位通りだ」
「返答を待たないのですか? 評議会ですよ」
仮面の男は口角を少しあげた。
「スパイの話が本当なら、ここで手をこまねいている暇はない」
「ですが……」
仮面の男は薄い紙のような電子媒体を、ゆったりと投げる。
無重力の中、それは黒い軍服の男の目の前までやってきた。
電子媒体にはいくつかの写真が記録されており、そこには見たことのない兵器が映し出されていく。
「全部で五機だ」
「自分は反対です。オーブを敵に回すような真似は――」
「責任は私が持つ」
「隊長……」
「ここで手を打たねば、同胞がたくさん死んでしまう」
「わかりました」
「アデス急げよ」
アデスは短く「了解」と言うと視線を前に向けた。
彼の背後では扉の開く音、程なくして閉じる音が響く。
彼らの隊長は艦橋を後にしたのだ。
「あれは……ジンか?」とアデス。
彼らは望遠カメラで、ヘリオポリスイレブン周辺をモニターに映し出していた。
ブリッジ内では、反応に困った様子となる。
ジンはコロニー周辺のデブリを素早い手付き片付けていく。
「のようです。ナチュラルごときに使われるなど」と部下のひとりが顔を歪めた。
「いい動きだな」
「はい?」
アデスは「なんでもない」と話を切った。
かつてザフト軍だったその機体は、まるで踊るように自由に宇宙を飛んでいく。
そして瞬く間にデブリを片付け、程なくしてヘリオポリスイレブンへと消えていった。
(これ以上戦火を広げたくはない。だが、同胞を守るためだ。悪く思わないでくれよ中立国)
「とはいえだ。なるべく民間人に被害は出さないようにしないとなぁ……」
アデスは軍帽を脱いで頭を少しかいた。
「キラ、あの動きカオシュンの?」
「なんとなく、できるかなって」
「俺もMS動かせたらなぁ」
キラはトールと楽しそうに会話をしていた。
親に心配されていることは、彼自身も罪悪感はあるのだが、彼自身はMSを動かすことに万能感にも似た高揚感も得ていた。
ましてや、それで人助けができているのだとあれば肯定感を得てしまう。
「おい坊主。またジンのOSいじったのか?」
呆れ半分の声が響く。
キラの肩がわずかにはねた。それを見たトールは「また戻すの忘れたの?」と笑う。
そこは作業用のジンが数機並んでいた。その内の一機にひとりの白髪の男が付き添っていた。
「まったく。いつも戻せって言ってるだろ」
デブリの撤去作業を終えたキラとトールは、その場を後にしようとしていたのか、その声に反応して振り返る。
「戻すの忘れてました」
老人は「忘れました、じゃねぇよ」と話を続ける。「お前のOSはマニュアル操作が多くて、後に乗る人が大変なんだよ」
「ごめんなさい」
男の元に二人は戻ってくるが、彼は「大丈夫だ」と言うとバックアップをとっていたOSをジンにインストールする。
「キラ、スラスターの使い方は随分上手くなったな。卒業後はどうだ? うちで正社員として働かないか?」
「あ、俺は?」とトール。
「お前さんは、もう少し操作が落ち着けば良いんだがな。前向きに検討しといてやる」
「いやったー。キラ、どうする?」
当のキラは驚きのあまり、話に置いていかれていた。
「良いんですか?」
「モルゲンレーテの社員だぜ」と喜ぶトール。
「違う違う。うちは厳密にはモルゲンレーテの下請けだ。まあ、うちからモルゲンレーテに行ったやつもいるけどな」
キラは大きな話に戸惑う。卒業はまだまだ先で、将来の自分についてまるっきり考えていなかったのだ。
そんな彼の様子を、見抜いている白髪の男は答えを急がない。
彼の肩を優しく叩く。
「ま、卒業後の話だ。今すぐに答えなくていい。興味あったらいつでも来てくれ」
「わ、わかりました」
二人の会話が終わると見るや、トールは口を開いた。
「俺はよろしくお願いしますね」
「そういうやつほど来ないんだよなぁ」
「俺は来ますよー。班長」
「へいへい。キラほど期待してないけどな」
「そんなぁ」
三人は誰からともなく笑う。そこに声が割り込む。
「おい班長。そんなことより俺のジンの整備を急いでくれ」
「俺のって……なんだいオリバー? 次の作業は明日だぞ? 急ぐ必要はないだろう?」
「それが仕事だろ」
「――やけに噛み付くじゃねぇか」
班長と呼ばれた男は、面白くなさそうに顔をしかめる。
「ガキの将来なんてどうでもいいから、早く整備してくれ。スラスター周りと右腕が不調だったんだよ」
「わかったわかった。だがな地球軍の船が入っているんだ。そっちの対応が先だ。さっさと報告に行ってこい」
オリバーは「わかった」と言うと、その場を渋々といった様子で離れていく。
「やっぱり地球軍の船だったんだあれ」とトール。
キラは彼と顔を見合わせる。お互いに不安を顔に浮かべていた。
二人は戦争という言葉を思い出していた。
ヘリオポリスのある宙域に、地球軍の重要な拠点はない。
「なんでまた」
「ああ、なんでもモルゲンレーテで地球軍の兵器を作っているらしい」
二人は驚きの声を上げた。班長は慌てて口を抑えるが、時既に遅し「他言無用だ」と二人に口封じする。
「なんでオーブなんかで……」
「今日はもう上がっていいぞ。バイト代は受付で受け取ってくれ」
そう言うと、班長は格納庫からどこかへと行ってしまう。
「あれ? オリバーさんのジンのメンテは?」とトールは背後にあるオリバーの機体を見上げる。
「そんなに不調そうには見えなかったからね。明日にでも見るんじゃない?」
「そっか。それもそうだよな。さて次は教授のところだな」
「思い出させないでくれよ」とげっそりと肩を落とすキラ。
「おっ。やっと来たか」
色付きメガネをかけた少年が、困ったような笑顔でキラたちを出迎えた。
「大変だったんだぜサイ」
「どうせアルバイトだろ?」
「まぁね。それよりさ、サイ」
「なんだいトール?」
「キラが聞きたい事があるって」
意地の悪い笑みを浮かべるトール。彼が振り返ったその視線の先には半目したミリアリア。
「トール。そういうの良くないと思うな」
「いや、その、俺は手伝いたいなって……」
「それでキラ。聞きたいことって?」とサイが促す。
「い、いや。それより地球軍の戦艦が入港してたよ」とキラは話をはぐらかした。
サイ・アーガイルはわずかに顔を歪めた。近くにいた気弱そうな少年が心底嫌そうな顔する。
「中立国だよここ?」
「カズィもいたのか」とトール。
「影が薄くて悪ぅござんした」
「確かに、地球軍の船って聞いてびっくりしたな」
「無視かよ」とカズィは大きく項垂れる。
トールは「ごめんごめん」とカズィに謝罪する。
「キラ。さっきの話本当?」とサイはキラに耳打ちする。
「そうだけど?」
今度はサイが大きく項垂れる。
「フレイの親父さんが迎えに来たのかも」
トールはキラの背後から飛びついて、前のめりになる。
「どういうことですか? サイ・アーガイルくん!」とトールが話を促す。
「聞いてたのか。いや、フレイの親父さんが近々こっちに来るかもって」
キラは驚く。憧れだった少女と、そしてその婚約者の友人。どこか遠くへ行ってしまうような気持ちを抱く。
自分が入り込む余地などなかったのだ。そう言い聞かせる。なにせ彼女は――。
トールは考える素振りとなってから口を開く。
「太平洋連邦の事務次官だよな? フレイの親父さん」
サイは「そうだよ」と首肯する。
地球軍の官僚の娘だ。
コーディネイターである自分とは相容れない。それがわかっていても、彼は憧れずにはいられなかった。
キラたちの通うスクールのアイドル。サイ・アーガイルが婚約者だと知っていても、告白する男子は後を絶たない。
だが、どの男子も悉くが撃沈している。
キラもそれを目の当たりにしたのだが、自分も断れるだろうと思っていた。
何よりもミリアリアからは、やんわりと反対されていたのだ。
「戦争が激化しているからね。彼女を連れて帰るかも」
サイは「所詮は親同士が決めた婚約だし」とぼやく。
二人が相思相愛であることは、キラも知っている。
だから、連れて帰ってしまうかもしれない。という話に彼は少なからず同情した。
「ちょっとそれよりも」
今度はミリアリアがサイに耳打ちする。
「あの子。誰?」
キラ達は、そこで初めてもうひとり人がいることに気づく。帽子を深くかぶり、コートなどで顔を隠すようにしていた。
彼らがその人物をあからさまに怪しむ。だが、当の本人は部屋の壁際で、どこか堂々した様子でキラたちの様子を見ていた。
「教授のお客さん、らしいよ?」
「らしいって」
「なんだかおっかなくてさ」とサイ。
「そうなんだよね。あんな仏頂面でずーっといるんだ。みんなが来てくれてよかったよ」とカズィ。
再びキラはその人物に視線を向けて様子を伺う。
人物から放つ空気はどこか刺々しく、余裕がないように見受けられた。
話しかけようとすると、そっぽを向かれて拒絶されてしまう。
「それよりも教授に頼まれちゃってさ。キラ、お願いできる?」
サイの一言で彼は現実に引き戻される。
「えー! こっちはデブリ片付けてきたばっかなんだよ」
「はいはい。いつもの感じで頼むよ」
「それなに?」とトールがキラの持つ端末を眺めた。
「フレーム接地モジュールの――とにかく、プログラムの解析だよ」
「はいはい。お話は後で」
それからサイは全員に作業を指示出ししていく。そして彼は最後にこう締めくくった。
「誰かさんたちがバイトなんか行ってくれたおかげで、作業は現在進行系で遅延気味だ。急ぐよ」
キラとトールはげんなりとした声音で返事をする。
「平和だな」
凛とした声が響く。その声には厳しさが混じっていた。
声を発したサングラスをかけたショートカットの女性が、目の前をゆく赤髪の少女たちの一団を見て、そうつぶやいたのだ。
女性の隣には男性が二人。男たちは思い思いの言葉を女性にした。
「同じ年頃の少年兵を見ましたよ」と青髪の男性。
「さっさと戦争なんて終わらせたいものだな」と女性はつぶやく。
女性の言う「終わらせる」は、敵に勝って終わらせるというものだ。
「なんとかしたいですね」と青髪の男性。
「そうだな」
三人は程なくして目的の場所へと辿り着く。そこはモルゲンレーテが用意した工場。秘匿された場所であり、一般の人では立ち入ることは出来ない。
そこでは地球軍の最新鋭艦が建造されていた。強襲機動特装艦アークエンジェル。
アークエンジェルは、ほぼ完成をしており、後は艦船の弾薬、搭載兵器の納入のみだ。
軍服に着替えた三人は工場の中を行く。
途中何度も敬礼し、道を譲る三人。それだけ彼らより上の階級の兵士たちが多かった。
そんな道中、開けた場所に出ると白い船体が彼らの視界に飛び込む。
「白いな。宇宙だと敵に見つかりやすくないか?」と女性。
「どういう意図があるんでしょうね?」と東洋系の男性が項垂れる。
「的になれってことでしょうか……」と青髪の男性。
士気が下がると思った青髪の男性は話題をあからさまに変えた。
「そういえば、バジルール少尉。新型のモビルアーマーも開発しているって聞きましたが」
「初耳だな。Gだけと聞いていた。ノイマン曹長はどこで?」
ノイマンの話に、女性は驚いた様子はない。
彼女はなんとなく、そういうのもあるのだろうなという気持ちもあった。
最新の技術で建造されるモビルスーツ。だが、地球軍のパイロットのほとんどはモビルアーマー乗りだ。
その最新技術で作ったモビルアーマーのひとつや二つ、あってもおかしくないと思っていた。
もともとモビルスーツの開発には、地球軍としても全面的に賛成というわけではなかった。
敵の作った兵器を真似る。というのが、屈辱的なのだ。彼女もそう思う部分はある。
(だが、そんなことを言っている場合ではない。相手の兵器の有用性を認めないでどうする)
「誰かは忘れましたが、クルーに聞きました。なんでもパイロットが若く可愛い女性だという噂で」
「私の前でそれを言うか?」
「少尉の耳に届けておかないと、いざという時、困るでしょう? そうトノムラ伍長とも話しておりまして」
隣にいたトノムラは大きく頷く。
「軍規が乱れている部隊もあると聞きます」
「負けが続いているからな。自棄を起こす者もいる、か」とバジルールは溜息をつく。
彼女は心の中のメモに、先程の話を固く記しておく。
「後は、副長の技術士官殿も若くて美人だと聞いています」
「おいおい。そういう話、後どれだけ出てくるんだ?」と呆れた様子のバジルール。
「私は見ましたよ。確か提督の肝いり娘だとか」
トノムラはモルゲンレーテの施設で見たと付け加える
「ご息女が軍に?」
「いえ、娘のように大事にしている人だそうです」とノイマンは補足する。
「そうか。今回のG計画は、提督が一番推進したものだったな」
程なくして彼らは工場のとある一室に到着。中にはアークエンジェルの艦長がいた。
どちらも地球連合軍では名のある軍人である。
三人は挨拶を済ませると、次の任務へと移った。程なくして入れ替わるように、六人の軍人がその部屋へと入る。
「あれは?」とトノムラ。
「Gのパイロットたちだ」とバジルール。
「トップガンってことですね」とノイマンは眩しいものでも見るように見つめた。
彼らは、艦長とトップガンの六人に、二度と会うことはなかった。
三人が艦長と挨拶を済ませて程なくして、工場は爆破されたのだ。
~続く~
評価や登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。