この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
「ラクス・クライン」
「はい。わたくしラクス・クラインです。こちらは友達のハロ」
『ハロ元気。お前もな』
桃色の球体が飛び跳ねる。
「えっと、シーゲル・クラインと同じ名前だけど……」
「はい。父はシーゲル・クラインですわ」
桃色の頭髪に水色の瞳をした少女は、無邪気にそう言う。
自分がどういう立場なのかまるで理解していないようでもある。
そんな彼女の態度にマリュー・ラミアスは内心頭を抱えた。
マリューの側にはムウ・ラ・フラガとナタル・バジルールがいる。
どちらも彼女と似たような顔をして、困惑していた。
マリューはムウに視線を向けるも、彼は肩をすくめるだけだ。
「ところで、どうして脱出ポッドなんかに?」
「はい。実は――」
彼女は血のバレンタインの追悼慰霊団の代表であった。
ユニウスセブンの悲劇から一年になるということもあって、彼女たちはその調査に来たのである。
ところが、地球軍の艦艇の臨検にあい、そこで諍いが生まれてしまった。
結果、彼女は船が撃沈される前に、脱出ポッドに押し込められて放流されたのだという。
またしても自軍の非道な行いに、マリューらは俯いてしまう。
ナタルは予想以上に軍規が乱れていると、呆れたように言う、
「それで彼女はどうする? 艦長」
「どうって……」
ラクス・クラインはプラントの軍籍ではない。立場的にはただの一般人である。
だが、そうとも言い切れない。彼女の父親はプラント評議会の議長なのだ。
つまり敵国の長たる者の娘だった。
そんな娘を抱え込んでしまったことに、大きな息を吐くくらいしかできないマリュー。
現在のアークエンジェルの問題がひとつ増えてしまった。
オーブの避難民がいること、アークエンジェルの人員が足りてないこと、月の基地に行けるかどうか、そこに加えてラクスという問題が転がり込んだのである。
「とにかく、彼女は士官用の部屋で――」
「ええ、そうね」
ナタルの提案に頷くマリュー。立ち会っているムウは肩をすくめる。
「では、私が案内します」
「お願いねナタル」
「了解しました」
ナタルは護衛を二人呼び出すと、ラクスを連れて部屋を出ていく。
それを確認して、マリューは机に突っ伏すように崩れた。
ムウは倒れたのではと思い、慌てて背中に手を伸ばす。
「大丈夫か?」
「大丈夫です大尉。それとセクハラです」
ムウは慌てて手をどかして、振れた手を見つめる。
「え? そう?」
「でも――」
「そうだな。困ったな。どうしたもんか」
二人は溜息をついて、あれこれと話し合う。
「あのお姫様歌上手いよな」
トールがそう言うと近くにいたジェイクが頷く。
彼らは食堂で食事をしていた。
「こう、心に響くよな」
「そうそう」
横で話を聞いていたキラとサイ。
そこにジークフリート・リヒトシュタイナーが相席する。
「調子の方はどうだ?」
「覚えることが多いですが」
サイはブリッジでの仕事を少し愚痴る。
続いてジークフリートはキラを見た。
「あ、はい。大丈夫です」
「愚痴くらい言えるようになるといい」
「え?」
「後は遊ぶんだ」
「は、はぁ」
会話が終わってしまったことに、キラとサイは困惑する。
「えっと、リヒトシュタイナーさんのお仕事は?」
「精神科医のマネごとやらをやっている。毎日のように相談に訪れる者もいるな。私は内科医なんだがな」
臨時医官は真顔で「困ったものだ」と言う。
それからキラはミコトのことを聞いた。
彼女は雑用しつつも、ジークフリートのお手伝いなどをしている。
彼曰く、助かっているという話だ。彼女はすぐに不平不満は言うが、ちゃんと教えればその通りに作業をしてくれるので、頼りになるとも言う。
わかった気でいる方が困るので、ミコトのすぐ顔に出るところは、機雷ではないと言う。
「君に向けてくれるような、笑顔を向けてくれればいいんだけどね」
そんな話をソウマにしたら「あれは猫被ってるだけ」だと言われたという。
「君の番だ。愚痴は?」
「えっと――」
彼は人に言っても言いような愚痴を考える。
しかし、すぐには出てこない。彼が愚痴を言いたい内容は、人に言えるようなものではなかった。
友達と殺し合いたくない。戦争をしたくない。そんなことは許されるような状況ではないのだ。
「癒やしとかがないのが――」
ジークフリートの瞳にキラは、内面を見透かされたのではないかと、居心地が悪くなる。
「私の癒やしだがな。最近は歌が癒やしだな」
「そんな話で持ちきりですよね」とサイが相槌を打つ。
キラが救い出した少女。ラクス・クラインは毎日のように歌っていた。
不思議とその歌に癒やされている者も多く、兵士たちの間では評判が良い。
特に極限状態に置かれている避難民には、救いとなっていた。
娯楽もない。やることもない。とあって、艦の作業を手伝う者も増えたくらいだった。
そんな中、ラクスの歌は避難民の心的負担を和らげている。
「俺なんかあの歌に聴き入って、その場から動けなくなったもんね」
「サボってただけだろ」
ジェイクの感想に、ネイサンは嗜める。
「すごいよな。遺伝子いじって、そんなことしちゃうなんて」
「そうだよな。キラもなんでも出来るし、やっぱコーディネイターって凄いよな」
サイの言葉にジェイクは同意し頷く。
キラは小さく驚きの声を出す。横を向くとサイは後ろにいるジェイクと顔を見合わせて。何やら話し込んでいた。
彼はなんでもなかったように、食事を続ける。
「サイ。こんなところにいた」
「どうしたフレイ」
「あの宇宙人の歌をやめさせてよ」
「はい?」
フレイは宇宙人の歌など聴きたくないと、サイに詰め寄る。
「どうしてさ?」
「気持ちが悪いの。敵なんだよ?」
「いい加減にしないかフレイ。彼女は――」
「敵よ敵! コーディネイターなんて言ってるけど宇宙人!」
「なんの騒ぎだ?」
そこに黒髪オールバック。メガネをかけた男。カオル・ウラベが顔を出す。
彼も休憩時間となったため、食事を摂りに来たのだ。
フレイはカオルへと向き直る。
「あのコーディネイター、宇宙人を殺してください」
「なぜだい?」
「敵なんですよ?」
カオルは一度大きな溜息をつく。
彼は努めてキラに視線がいかないようにする。
「彼女は敵国の民間人だ」
「でもコーディネイターなんでしょ! なら敵じゃない!」
「コーディネイターなら敵、か。君は知らないようだけど、太平洋連邦にもコーディネイターはいる。その逆もしかり」
「歌をずっと聞き続けろっていうの! 宇宙人の!」
「――歌を控えるように言っておこう」
話が一段落しかけたところ、幼い声が食堂に届く。
あまりにも朗らかで、場違いに思えるような陽気な声音。
あまりの急変化に全員が食堂の入り口を見入ってしまう。
そこに幼い少女に連れられて、ラクス・クラインが現れる。
「お姉ちゃん。こっちだよ」
「ここが食堂なんですわね」
ジェイクは「オーマイゴッド」とつぶやき、ネイサンは天を仰ぎなにやらつぶやくと十字を切る。
物々しい雰囲気を物ともせず、あるいは汲み取れないのか。彼女は何も気にせず食堂に入って、食事を注文しようとした。
「なんでこんなところにいるのよ」
「あら? わたくしラクス・クラインと申します」
ラクスは手を差し出す。それを見たフレイは目を見開き、すぐに嫌悪感を前面に押し出す。
「ふざけないでよ! 握手なんかするわけないでしょ! コーディネイターなんかと!」
フレイの激しい言葉に、キラは表情を暗くする。
さらに彼女は何かを言葉を続けようとしたが、サイが制止する。
「ロード曹長。リーヴ軍曹」
カオルの指名に、二人はいつにも増して厳つい声を出す。その場を一瞬で支配する。
今度は別の物々しい雰囲気となった。軍隊の規律と厳格さが食堂を支配。
二人はカオル仰々しく敬礼して応じる。
「ラクス・クライン嬢を、お部屋にお連れしてもらいたい。場所はわかるな?」
「「了解であります」」
「ああ、それと。誰か彼女に食事を――」
その場にいた者たちは自然とキラへと視線を向けてしまう。
それを全身で感じ取ったキラは、静かに立ち上がる。
誰もが安堵し、胸を撫で下ろす。
「僕が」
「すまない。助かる」
「では、ラクス・クライン嬢」
「まだ、部屋を出たばかりですのに」
「っていうか、どうやって」
「はい。このピンクちゃんが」
『ハロ、元気。オマエモナ』
「おうおう。元気モリモリメカだ」
せっかくの自由を謳歌していたラクスだが、あえなくそれは終わってしまう。ネイサンは彼女をそっと手で誘導し、ジェイクはフレイとラクスの間に入るようにして立つ。
サイは何かを察すると立ち上がり、フレイの肩に優しく振れて話しかける。
キラはラクスの分の食事のトレーを手に取り、フレイの視線の死角から食堂を後にした。
彼らが出たのを確認して、カオルは小さく息を吐く。彼は自身の食事のトレーを取ろうと手を伸ばす。
「遺伝子であの能天気さを直せないものなのかね」
「歌を歌うためのリソースに割り振ったんだろ」
「案外コーディネイターって適当なんだな」
カオルはわざとらしく大きく咳払いをした。そして彼はジークフリートと机を挟んで対面に腰をおろした。
「医学的に違いは?」
ジークフリートは思案顔になった後口を開く。
「ないな」
「なら結構。キラ君のメンタル面でのサポートを頼む」
「彼は強敵だよ」
「それでも、だ」
宇宙空間に浮かぶ大陸。ユグドラシルツーと呼ばれる宇宙要塞。
上から見下ろせば、歪な形ではあるが円形である。いずれワイヤーを使って軌道エレベーターとしようとしていた。
未完成であるものの、要塞としての機能は十分である。
その要塞表面にてバスターとスティンガーが武器を構えた。
上空――というよりは彼らから見て上の座標――を地球軍の艦船が進軍していく。
彼らに気づかないのか、地球軍はそのまま素通りしてしまう。
現在要塞はミラージュコロイドで、姿を消している。
クルーゼ隊とイン隊の攻撃によって、その機能は大分損失したものの、ナスカ級、ローラシア級の戦艦内工廠と、ユグドラシルツーにある備品などで、ミラージュコロイドシステムが十全に近い形で機能するまでになっていた。
そのため、地球軍は彼らの存在に気づかなかったのだ。
『隊長、あれでいいんですか?』
『撃ち落としちゃった方がいいと思いますけど?』
ディアッカ・エルスマンとラスティー・マッケンジーはそれぞれ、敵の艦を撃沈しないのかと、自身の隊長に問う。
不意打ちをするのに絶好の機会だ。
しかし、彼らの隊長、ラウ・ル・クルーゼはその好機を手にしない。
「泳がせておけ。いつでもトレース出来るからな」
それよりも、と仮面の男は続ける。
「まずは、このユグドラシルツーを別の場所に移す必要がある」
「本国までの長旅か」
ラウの隣にはジェン・インがいた。
彼らがいるのはユグドラシルツーの司令室。地球軍の兵士たちのほとんどは牢にぶちこんでいるが、数人の主だったものだけが作業を手伝わされている。
二人は宙域図を見ながら、これからの予定を話し合っていた。
「長いな」
「なるべく、秘密裏に届けたいところだな」
ジェンもその案には賛成だった。
まず要塞は破壊されたと思い込ませたかったのだ。そうすることで、彼らの不意を打てると考えたのである。
彼らの意識からユグドラシルツーの存在が消える。そのタイミングで利用するつもりだ。
「防戦が得意なジェン・イン。君ならこの要塞を上手く使いこなせるだろう」
「やってみせよう」
「ザラ国防委員長閣下には、私から直接報告しておくよ」
「閣下は、気に入りそうだな」
そんな話を聞きながら、アスランたちは司令室でオペレータの作業を手伝っていた。
イン隊のブリッジ要員がほとんどであるが、宇宙要塞のことを完璧に理解するまでは、彼らも補佐をしているのである。
アスランは素早いキータッチと、タッチパネルの操作で要塞のシステムを再構築していく。
「少人数で扱えるシステムを作れって、システム屋の仕事だろうに」
「口を動かさずに、手を動かすんだイザーク」
「うるさい。命令するな」
「自爆コードの解除は完了しました」
ニコルは自爆コードを解除すると、アスランのサポートに回る。
彼らの他にもシステムを再構築している面々はいるが、彼らの作業スピードにおいついていけない。
「さすがトップスリーだな~」
金髪碧眼の男がキー操作をしながら、呑気に言う。それを横で聞いていた灰色の頭髪の男は仏頂面となった。
「イヴァンは不服そうね」
「うるさいぞエリザベート」
金糸のような頭髪。アメジストを思わせる双眸の少女は妖艶に笑う。
「悔しかったら勝ってみなさいな」
「なんだと! お前は悔しくないのか!」
「貴方の個人的な気持ちに、私を巻き込まないで」
「なにおぅ!」
彼ら二人の横にいた赤髪の男が口を開く。
「うるせーぞイヴァン!」
「てめーもだミヒャエル!」
今度はイヴァンとミヒャエルが言い合う。
それを横目にスキンヘッドの少年と青髪の少年は呆れながら言う。
「あの人達、いつも元気だね」
「ほら大きな声出すと気合入るって言うじゃん。それじゃね?」
「ああ、なるほど」
「マックス! オーレリアン! お前ら!」
イザークは立ち上がり「作業に集中しろ」と怒鳴った。
そんな様子を冷静に眺めるアスランは、小さく息を吐く。
彼らなりのコミュニケーションのとり方だと理解している。それがアカデミーからずっと続いていた。
なので、今更何かを言うつもりはない。もちろん、作業の進捗が遅れることには内心文句はある。
そんな光景を見てしまうから、彼はどうしても思ってしまう。
ここにキラもいてくれればと。
彼は時折夢想してしまう。
ここにキラがいて、仲間たちがいて。きっと良いチームになれるだろう。
そんな確信が彼にはあった。
「どうして……」
「どうかしましたか? アスラン」
「なんでもない」
アスランの難しそうな顔にイヴァンは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「せっかく再会したんだ。辛気臭い顔するなよ」
「だったらもう少し早く作業を進めてくれ。予定より遅れている」
「手を動かしてるだろ!」
「その作業は俺が受け持つ。イヴァンはイザークの補佐だ」
イザークとイヴァンは素っ頓狂な声をあげる。
互いに不服なのか、手を動かしつつアスランに文句を並べていく。
そんな言葉を聞き流しつつ彼は、自分の分の担当を終わらせる。
「こっちは終わったぞ」
そんな彼らのやり取りを見ながら、ラウとジェンは話題が変わる。
「同期なのだから仲良くならんのか」
「君の同期は仲が良いのか?」
ジェンは首肯した後に、ラウを気遣う。
仮面の男はネビュラ勲章を授与するほどの男だ。アカデミーでの同期からの嫉妬は、想像に難くない。
むしろジェンの同期が異常だったのかとも思い直す。
「才能があるということは、必ずしも幸福ということではない。それに私は職業軍人だからな」と自嘲するラウ。
ジェンはラウを意外そうに見つめた。
彼はパトリック・ザラに気に入られていると、冗談っぽく言う。
そのため他の職についている暇がないと説明した。
「忙しい者は本業を休業している者もいるからな」
言外に気にするなと言うジェン。
ラウも言うほど気にしていないのか、そうだなと頷くだけだ。
プラントでは軍人という職業以外に職を持つものがほとんどである。
ラウのように専業としているのは稀だ。
ジェンは彼の輝かしい戦果が、普通の職に就くことを許されないのだろうと、内心同情する。
おまけに現在の国防委員長のパトリック・ザラに、気に入られているという。
そんな彼が普通の職業に就職するというのが、難しいという話なのかもしれない。そうジェンは結論づけた。
実際、前線に出ている兵士たちの多くは本業を休んでいる。地上に降りている兵士たちは、絶賛開店休業状態だろう。
軍務に従事しているため、不当に解雇されることはない。が、そのまま帰らぬ人となることがあるため、経済界からはかなり重圧をかけられている。
「とにかく、私としてこの基地にいる間はいい思い出を作って欲しいものさ」
彼は意識して少し大きな声で言う。それはアスランたちの耳朶に、確実に届いている。
そこからどう受け取り、どう動くかは彼ら次第だ。いくらジェンが言ったところで、最後は彼らの問題だ。
そこまで話をしたところで、彼は本題に戻す。
「ところで、先の地球軍の艦隊はどうする?」
「ヴェサリウスで追尾しようと思う」
「おいおい。それは――」
ジェンは視線をアスランへと向ける。
彼の婚約者、ラクス・クラインが行方不明になっていることは、彼も知っている。
だが、それと地球軍の妙な動きを見過ごすこととはならない。
現在の戦況で、地球軍の艦艇が連合支配圏から外れて航行することは異常だ。
仮面の男は彼の艦艇は、足つきに関係があると踏んでいた。
L3宙域から見て月の基地に戻るには、地球を迂回して行かなければならない。
「彼女の命と、地球軍の不穏な動き。天秤にかけるまでもないだろう?」
「そうだが……」
ジェンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
ラウは意外だと口で表情を表す。すぐにそれは平静の口元になる。
しかし、それを見逃すほどジェン・インは鈍感ではない。
「そんな顔をするな。色々あって、どうしてもな、そういう方面には敏感でな」
「そういえば君は婚姻統制には、登録していなかったな」
「どうにも好きになれなくてね。私はいい。わかったヴェサリウスの出航を認めよう」
「早くも基地司令官気取りか?」
「君が司令官になってくれても良いのだよ?」
「悪かった。ガモフとツィーグラーは使ってくれ。本国までの移送。よろしく頼む」
仮面の男の申し出に、ジェンは肩をすくめて応じる。
そこで基地にいる捕虜のち旧軍の士官が、ザフトのオペレータをつつく。
「なんだ?」
「第八艦隊の暗号パルスが発信されてる」
「わかるのか?」
「わからない。第八艦隊は太平洋連邦の中でもさらに独自の暗号使ってるから、わかりにくいんだよ」
その会話を聞いていた仮面の男は、口元を釣り上げた。
「どうやら、天は我々に味方しているな」
「どういう――そうか。このタイミングで発信は」
「足つきに繋がるな」
ラウはアスランを呼びつける。すぐに出る準備をしろと命じると、ガモフのゼルマンに通信。内容はオロールをヴェサリウスに異動を命令。
「足つきへの水先案内を頼むとしようか」
不敵に笑うラウ。対してアスランの内心は複雑だ。
アルテミスの宇宙要塞でキラたちが降りられていないと、推測できた。
また、ニコルから奇妙なことがあったと話を聞いている。
ブリッツとストライクが接触した際の、敵パイロットが叫んでいた内容。
ニコルとしては、兵士らしからぬ言動に気味が悪かったという。
イザークらは「腰抜けのナチュラルらしい」と笑い飛ばしていたが、そうではない。
ブリッツを退けたのは、間違いなくキラだ。
彼もまた苦しんでいる。そうアスランは確信していた。
そんな彼と戦う覚悟が、アスラン・ザラにはないのだ。
戦いたくない。誰かに殺されたくもない。
アスランは歯を食いしばり、軍務のためだと奮い立たせる。
ヴェサリウスは地球軍の艦艇が、自軍を探知できない距離なると出航。
ゆっくりと第八艦隊の先遣隊を追跡する。
士官室の扉が開くと、ラクス・クラインはそこへと案内されてしまう。
「ということで姫様。悪いですがここで大人しくしてください」
ネイサンの淡々とした物言いに、ラクスは悲しそうな顔を作る。
そんな彼女の様子を見たジェイクは思いついたことを口にした。
「後でレクリエーションルームにて歌おうぜ。思いっきり歌わせてやるからよ」
「おいジェイク」
フレイを刺激するのはまずいと考えたネイサン。
「いいじゃねぇかネイサン。その間、サイにフレイをどこか連れ出してもらおうさ」
「おい、それは――」
「なんだよ。文句あっか?」
「名案だな。俺もラクス嬢の歌はちゃんと聴きたい」
そんな二人の会話にラクスは「あら~」と笑う。
「では、お時間になりましたらよろしくお願いしますね」
「思いっきり歌ってくださいよ。地球軍にも、あんたの歌が好きな人は多いんだぜ」
「おい。そういう話は」
「いいじゃねぇか歌は自由だ。国境なんて関係ねぇ。お前も歌、好きだろ?」
ネイサンは鼻で息を吐くと、それ以上は何も言わなかった。
「じゃ、後でキラが来るからよ。そいつと仲良くしてくれや」
「噂をすればなんとやらだな」
話していると、キラが食事のトレーを持ってやってくる。
彼の左肩にはいつの間にかトリィが止まっていた。
視線が集まったことでキラは警戒する。
「どうかしました?」
「後は、コーディネイター同士頼むわ。俺らじゃ上手くニュアンス伝わんないし、同じもん同士しかわかんないこととかあるだろ?」
キラは僅かに表情を変化させる。その後、何事もなかったかのように「そうですね」と頷いてみせた。
二人はキラが入室するのを確認すると、食堂へと戻っていく。
「キラ、様」
「様? そんな……」
「コーディネイターなのですか?」
ラクスはキラの制服に肩章がないことに気づく。
「そうですね。その、だから出歩かないでください」
キラは自分の言ってることの意味が、不明なことに気づきつつも話を続けた。
「ここは地球軍の船で、コーディネイターのこと――よく思ってない人もいるので」
「でもキラ様は、大丈夫なのでしょう? 皆様いい人たちなのでは?」
キラは先程あった食堂の会話を思い出して、内心苦虫を噛み潰す。
いい人たち、いい友人たちだ。だからと言って、彼らはコーディネイターに対して無知である。
ただ地球軍にとって、ストライクを動かすためだけのパーツ。それで大事にされているのではないかと、考えてしまうキラ。
「わたくしも仲良くしたいのですのに、皆さんと」
「そうなれたらいいですよね」
「お優しいのですね。キラ様は」
ラクスの屈託のない笑みに、キラは赤面してしまう。
「あ、えっと。その僕もコーディネイターですし」
「貴方だからでしょう? お優しいのは」
キラは何か射抜かれたような気分になる。その瞬間だけ、彼女が別の何かに見えたのだ。
「これは第八艦隊の暗号パルスです」
そんな声にアークエンジェルのブリッジは沸き立つ。
誰も彼もが表情を明るくし、地球軍の兵士たちは抱き合い喜ぶ。
特にマリュー・ラミアスの喜びは、誰よりも強かった。
「閣下が、我々のために先遣隊を出してくれたんだわ」
アークエンジェルは、第八艦隊の先遣隊と合流するために進路を変更。
~続く~
次のお話も見ていただければ嬉しいです。