機動戦士ガンダムSEED~偽り~   作:量産型すき焼き

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注意書き
この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。


その機体の名はGUNDAM~後編~

 鉱山部工場地区、通路。そこは死の通路と化していた。大きな残骸や人だったモノが漂っているのだ。

 コロニーの遠心力による擬似的な重力はないため、それらはただ浮き上がるだけ。

 天井部――といっても無重力状態のため床かもしれない――に人の形をしたものが二つ、激突する。

 

 ひとつはその衝撃でうめき声をあげる。

 ショートカットの黒髪の女性はゆっくりと目を開く。

 ナタル・バジルールの視界に飛び込んできたのは味方の亡骸。驚きのあまり言葉失う。

 

(確か、艦長の命令でラミアス大尉に、Gの搬送を……)

 

 彼女は錯乱する記憶を整理していく。

 友軍の亡骸と共にゆっくりと天井から床へと降りていくにしたがって、おぼろげだった記憶が鮮明になる。

 そして床へと降り立つ頃に、彼女はぽつりとつぶやく。

 

「艦は? アークエンジェルはどうなった?」

 

 ナタルは工場地区にある司令部を目指す。

 

(恐らくザフトに攻撃されたのだろう。アークエンジェルを狙うなんて)

 

 道中仲間だった者たちが漂う光景を見て、氷のような冷たいモノを背筋這わされたような感覚に襲われる。

 それでも彼女は折れることなく前へと進む、否。彼女にとって今抱く感情は、軍務より優先されるべきものではないのだ。

 力強く床を蹴った。

 

 暗闇の中。たったひとりという状況でも、前へと進む。

 突如アメフトボールのようなものに激突する。

 ナタルは「なんだ?」と言いかけて、それと手にとって言葉に詰まった。

 

「……後は、引き継ぎます……」

 

 彼女はそれを優しく無重力に漂わせ、短く敬礼。再び歩み出した。

 それまで気丈に振る舞っていた心が、急激に弱っていくのを実感していた。

 脳裏に過るのは最悪の事態。

 

 程なくして司令部についた彼女は内心「やっぱり」とつぶやく。

 ノーマルスーツに、軍帽。人の体の一部と思しきモノ。なにかの破片。それらが無数に司令部に漂流していた。

 ナタルは今度こそ挫けそうになり、そこに漂うボロボロの地球軍の軍帽を手に取る。

 

「誰か、誰か生きている者はいないのか?」

 

 呼びかけに応じる者はない。暗闇と静寂だけが支配していた。

 彼女は今にも泣き出しそうになり、折れそうになる自分の心を叱咤するように叫ぶ。

 

「誰か! 誰か生きている者はないのか!」

 

 彼女の背後で大きな物音が肩を叩く。慌てて振り返り音のする方へと向くと、ひしゃげた扉がひとつ。

 よくよく目をこらせば、扉は大きく揺れて、一定間隔で音を出していた。

 それは二度、三度と続く。

 

(敵か?)

 

 構えるより前に、扉は甲高い音を立てて吹き飛ぶ。次の瞬間には暗闇の中に光が突き刺す。

 

「バジルール少尉? ご無事で!」

「ノ、ノイマンか?」

 

 

 

 

 

「この戦力差では」

 

 ムウ・ラ・フラガは言いながら、周囲の状況を冷静に分析する。

 彼の乗ってきた船と、僚機の二機はすでに宇宙の藻屑。ジンは二機撃退したが、手触りは他のジンの乗り手とは比べ物にならない強さ。

 現在も一機のジンが、彼の乗るメビウス・ゼロに接近しようとしていた。

 

(特殊部隊か。厄介だな。そして――)

 

 敵の目的はGである。ヘリオポリスイレブンからすでに五機、持ち出されている。

 ムウは、取り返したい気持ちはあるがそれができるだけの戦力はない。ただ指を咥えて見送ることしかできなかった。

 

 メビウス・ゼロは有線式攻撃兵装、ガンバレルを四基装備していた。ブースターも兼ね備えているそれは、一度展開すると加速力は落ちるが、敵を囲み込むように攻撃することができる。

 それを扱える者の数は限られており、ムウ・ラ・フラガのような特別な資質を持つものにしか扱えない。

 

「ここだ!」

 

 そのガンバレルをメビウス・ゼロは展開し、加速力を急激に落とす。

 それを予想していなかったジンは、宇宙ですれ違うように通り過ぎてしまう。

 四基のガンバレルが一機のジンを囲み込む。実弾の攻撃は命中するものの、ジンの装甲を打ち破ることは敵わない。

 

「やっぱ特殊部隊だろ! お前達!」

 

 ジンは被弾する寸前、装甲の厚い部分や、腕で被弾をするように動いていた。

 とはいえ、相手の機体にダメージは負わせている。どう攻めるか、その際の反撃も考慮しながら、ムウ・ラ・フラガは次なる行動に出た。

 四基のガンバレルが母機に戻り、MS以上の加速性能で相手の反撃を回避。

 

 彼が次の攻撃へと移ろうかという刹那。宇宙に色とりどりの光が瞬く。

 

「撤退信号? どうしてだ?」

 

 彼の疑問は直後の直感が答えてくれる。

 ムウ・ラ・フラガは舌打ちすると、メビウス・ゼロを暴れさせた。

 直後に機体の装甲をかする音。

 

「ラウ・ル・クルーゼか!」

「やはり私を感じるように、お前もまた私を感じるのだな。ムウ・ラ・フラガ」

 

 メビウス・ゼロはコロニー壁面付近にいる白い機体と会敵する。

 

「なんてこった! 新型のシグーじゃねぇか!」

 

 ムウ・ラ・フラガはコックピット内で「いつも新型に乗ってきやがって」と、自分にも新型兵器をよこせと叫ぶ。

 互いの兵器の砲口が火を吹く。相手に致命の弾丸を浴びせようとする。だが、どれも攻撃は寸前で躱していく両者。

 両機の戦いを見ていたミゲルは後に言う。まるで、相手の攻撃を先読みしたような撃ち合いだったと。お互いがお互い、どこに撃つのかわかっているようだったと記した。

 

 ラウ・ル・クルーゼはメビウス・ゼロを引きつけると、コロニー内部へと突入。それを追うしかないムウ・ラ・フラガは苦虫を噛み潰したような顔となる。

 

(不利だな)

 

 彼からすれば追いかけない。という選択肢はないのだ。

 中にはまだ最後の一機がある。それを奪われるわけにはいかなった。

 他にもメビウス・ゼロ単機で戦艦を落とすのは難しいというのもある。ましてや相手はクルーゼの部隊。彼が知りうる限り、最強の部隊だ。

 

(予備戦力もあるだろうし……建て直されるな)

 

 せっかくジンにダメージを与えたが、それもチャラとなってしまった。

 クルーゼの狙いは最後の一機と、損耗した自分の部隊の立て直しである。

 そしてコロニー内部に誘き出したムウ・ラ・フラガを倒すことだった。

 

(最悪だ)

 

 宇宙空間での戦闘であれば、ムウ・ラ・フラガは互角にやり合う自信はある。

 だがコロニー内部は違う。遮蔽物があり、戦闘空間が限定的になるヘリオポリスイレブン内部では、メビウス・ゼロのオールレンジ攻撃も、十全に活かせない。

 つまり詰みに近い状態であった。

 

(残っている機体も大して戦力にならんしな……)

 

 彼の脳裏にはシミュレーターで、MSを鈍臭く動かしていたひよっこたちの姿。

 ムウ・ラ・フラガは「やれやれ」と肩をすくめる。

 絶望的な状況でも彼は、ヘルメットの下で口元緩めた。

 

「いっちょ、不可能を可能にしてみますか」

 

 

 

 

 

 少し話は遡る。

 モルゲンレーテが改造したジンは、ストライクによって撃退された。

 一瞬だけ気を失ったキラ・ヤマトは、目を覚ますとすぐに機体を操作していく。

 

 燃え盛るモルゲンレーテの工場から、白き巨体が姿を見せる。

 その光景はコロニー内部にいた人々に強く焼き付いた。

 自国のモビルスーツだろうか? あるいはザフトのモビルスーツだろうか? 色々な言葉が交わされる。

 

 レンズ越しに映る瞳が、白い機体を映す。

 

「あれは……ストライク。凄い。あんな性能があったのか……」

 

 黒髪のオールバックの男性は、思ったことをそのまま口に出す。

 

「誰が動かしたんだ?」

 

 そこまで口にして男は思い出す。

 地球軍の正式パイロットが本日やってくるという話を聞いていた。

 

(そうか。彼らのうちひとりがなんとかストライクに辿り着いたのか)

 

 そこまで考えて男は違和感を覚える。

 すぐにそれについて、考えることをやめてストライクの元へと車を走らせた。

 ストライクは周囲を見渡して、何かを探す素振りとなる。

 

(アークエンジェルの元へ行かない? いや、安全な場所を探しているのか?)

 

 車内にある通信機を取り出す。

 

「こちらカオル・ウラベ。ストライク応答せよ」

 

 ノイズが応えた。

 ウラベは内心舌打ちしたが、すぐに続けた。

 

「こちらウラベ。ストライク。応答してくれ」

『―れですか? 僕は――』

 

 ノイズ混じりの中に声が、応答する。ウラベは口元を歪めつつ、聞き慣れない声に眉を寄せあげる。

 

(誰だ?)

 

「ストライク、パイロットは誰か?」

『僕はキラ・ヤマト。えっと、地球軍の方ですか?』

 

 ウラベは頭を抱えた。

 この極秘任務に関わっている人間の名前を、彼は覚えていた。

 キラ・ヤマトなる人物は記憶にない。そして、彼の最後の言葉。

 

(民間人か? 一体何が?)

 

 彼はすぐに問い詰めたい気持ちを抑えて、状況を把握するため会話を続けた。

 

「声は届いているんだな?」

『――イズ混じ――ですが』

「わかった。色々と聞きたいのが、ひとつ確認だ」

 

 距離が近づくに連れて、ジャマーの影響が薄れていく。

 

「君は民間人か?」

『はい』

 

 ウラベは眉間にシワが刻まれる。

 

(民間人がストライクを? いや、それもこの際どうでもいい。今は任務の遂行が可能かどうかが先だ)

 

「とにかく、どこか安全な場所にストライクを持ってきてくれ」

『――ラベ少――すか?』

 

 通信が割り込む。

 しかし、カオルはその声に聞き覚えがあった。

 すぐに美しく若い女性の顔が脳裏に浮かび上がる。

 

「ん? その声は……メアリー、メアリー・セーラー少尉か?」

『――い。――リー――です』

「ノイズが酷いな。こちらの声は届いているのか?」

『は――。大じょ――です』

「ストライクを目印に集合だ」

『――です』

 

 ウラベは本当に相手に届いているのか不安になった。

 

『あの、キ――トです。――球軍の方がコックピットにいまして……』

「なに? それを早く……いや、いい。その地球軍の人は?」

『気を失っているんです』

 

 ウラベは大凡の状況について予想がついた。

 

「これは困ったな」

 

 この時ウラベは、降伏することを選択肢に入れていた。

 

(捕虜をとる部隊だといいが……)

 

 ストライクが止まって程なくして、ウラベも到着。

 機体が屈むと同時に、フェイズシフト装甲への電力が足りなくなり、フェイズシフトダウンし、ディアクティブモードへと変わった。

 なんとなくウラベは周囲を見渡す。先程見た羽なしのジンの姿はなく、また羽のあるジンの姿もない。

 

 ほっと胸を撫で下ろす。

 

(今だと実弾も有効だからな)

 

 コックピットが開くと、ウラベは体中から力が抜けていくような気がした。

 民間人の少年だ。立ち振舞も軍人のそれではない。

 ウラベは頭を降ると、口を開いた。

 

「君がキラ・ヤマトか?」

「はい。あの、中に女性の方が?」

「女性? ストライクのマニピュレーターまで引っ張り出せるかい?」

 

 キラは「やってみます」と言うとコックピットの中へと戻る。が、いくら待っても動きはない。

 

「まだストライクは動かせるか?」

「はい」

「マニピュレーターで私をそこまで――」

 

 そこまで言いかけた男は、民間人に伝わらないと、言葉を止める。彼は「機体の手に私を乗せてくれ」と言い直そうとして、言葉が詰まった。

 目の前にストライクのマニピュレーターが来ていたのである。

 目の前の少年はモビルスーツのことを知っているのだ。

 

「お願いします」

「あ、ああ……」

「しっかり掴まってください」

「ああ、頼む」

 

 ウラベは機体の手に乗って、コックピットのある位置まで持ち上げてもらう。

 

(彼はモビルスーツのことを知っている)

 

 男がコックピット内に顔を入れると、見知った顔がそこにはあった。

 

「ラミアス大尉!?」

「お知り合いですか?」

「マリュー・ラミアス。彼女は私の上司だ。――よし、外へ出そう」

 

 二人で四苦八苦しながら、マリュー・ラミアスをコックピットの外に出し、マニピュレーターへとゆっくりと乗せる。

 

「よし。ゆっくりおろしてくれ」

 

 地上へと下ろすと、そこへ金髪碧眼の女性がやってくる。

 

「ウラベ少尉、ご無事で!」

「セーラー少尉も。メビウス・ストライカーに乗っていたのか?」

 

 ウラベは、メビウス・ストライカーという機体が戦闘していたところを見ていた。撃墜され、地面に落着したところも遠くで目撃している。

 だから彼女が乗り込んでいたものだと思っていたが、格好は私服だ。そして怪我も見受けられない。

 つまり乗っている人物は別だということだ。

 

「いえ……別の人が乗り込んだようで……」

 

 メアリーの手にはドッグタグ。

 それだけで何が起こったのか語っていた。

 勇敢な仲間がひとり戦死したのだ。

 

「そういうことか」

「機体を回収したいのですが、バッテリーが切れてしまいまして、ストライクに――」

 

 そこまで言って、彼女はキラ・ヤマトに気づく。

 彼はコックピットより降り立ち、彼女らの上官であるマリュー・ラミアスの様子を伺っていた。

 怪我の具合を見て、何かないかと探す。

 

「大尉は気絶してて――そういうこと」

「どういうことだ?」

「事態はより複雑で面倒事になった。ということです」

 

 メアリーは事の成り行きを察したようだが、カオルはそうではない。とはいえ最後の言葉には同意だ。

 二人が沈痛な表情になると「キラー」と呼ぶ声が飛び込む。

 彼らが視線を向けると、十数人の民間人の姿。その中でキラと呼ぶ少年、少女たちがいた。

 

「ストライクは最初、我々の知っている動きをしていました。ですが、途中から動きが変わりました」

「そういうことか。ここは中立国だったな」

 

 二人はキラを見て、程なくして友人らが彼に飛びつくのを見て、複雑な心境を抱いた。

 

「負けるにしても、判断材料を集めないとな」

「そうですね」とメアリー。

 

 キラの友人のひとり、色付きメガネの少年が、口を開いた。

 

「先程の、助かりました」

「無事だったのね? シェルターは?」

「どこも……ダメそうですね。今から他の区画も探しますが、戦闘で壊れたところとかあるみたいで」

 

 少年の視線の先には、ストライクを目指して逃げてきた民間人たち。

 ウラベとセーラは顔を見合わせてから、深い溜め息をついた。

 シェルターに入れなかった人間が戦闘やストライクを目指して集まってくる。

 

「色々と事情を聞かせてもらえないか?」

 

 キラたちは手早く説明。それを聞いたウラベは、あることを決断する。

 

「巻き込んでしまってすまない。だが、君たちは軍事機密を見てしまった。なので、我々の手伝いをしてもらう」

 

 キラはその言葉の意味を理解し、押し黙る。対してトールたちはそれに対して不平不満を漏らした。

 

「そ、そもそもキラだけじゃないか」とカズィ。

「軍事基地にいたんだろ?」

「カトウ教授がモルゲンレーテに研究室持ってるから」

「ごめんね。この人周りくどい言い方しかできないの」

 

 メアリーが口を挟んだ。

 

「おい」

「この人にやらされたーって言えば、いいのよ」

 

 キラとサイ以外は、頭に疑問符が浮かぶ。

 

「後でオーブに色々と言われても、罪に問われないようにするためってことよ。オーブもストライクの開発にも噛んでるから。色々と、ね」

「そこまで言う必要は――」

「カッコつけて憎まれ役を買って出てるってわけ」

 

 キラたちの視線がカオルに集まる。

 彼は誤魔化すように咳払いをした。

 

「悪いが手伝ってもらうからな」

 

 

 

 

 

 マリュー・ラミアスは懐かしい人物と会っていたような夢を見た気がした。

 

「ここは?」

「起きましたかラミアス大尉」

 

 金髪の碧眼の女性が覗き込む。

 

「セーラー少尉!? っ――」

 

 マリュー・ラミアスは肩をおさえる。激痛に咄嗟に反応。

 肩部が応急手当をされていることに気づく。

 次に体を打つような衝撃で、ストライクが動いていることに気づいた。

 

「誰があれを?」

「キラ君が動かしています」

「どうして?」

 

 ストライクはフェイズシフト装甲が落ちており、グレーの機体色となっていた。

 手には同じくグレー色のモビルアーマー。

 マリューは頭の中が混乱する。

 

「メビウス・ストライカー。貴方の機体じゃない」

 

 言ってから、マリュー・ラミアスは、セーラー少尉の服装が私服であることに気づく。

 彼女は本日非番であり、長い軍務の前の休暇を楽しんでいたのだ。

 色々な事が線で結びつき始める。

 

「はい。ですが、ごらんの有様です」

 

 機体の表面こそ無傷ではあるが、中身はそうではないらしい。

 

「貴方の指示で?」

「ウラベ少尉の指示です」

「ウラベ少尉が?」

 

 声が割り込む。

 

「メアリーさん。トラック見つけました」

 

 色付きメガネをかけた少年、サイ・アーガイルが、セーラー少尉へと駆け寄る。

 混乱の中にいるマリュー・ラミアスだけが、置いていかれた。

 

「了解。運べるかしら?」

「あ、じゃあ私が」

 

 話を横で聞いていたスーツ姿の男性が名乗り出る。

 彼は大型車の運転免許を持っていると説明。

 メアリーは「お願いできますか?」と言うと男は頷いた。

 

「案内できるかい?」と男性。

 

 サイは「任せてください」と言うと、スーツ姿の男性と共にモルゲンレーテの工場地区へと走っていった。

 

「どういう……状況?」

「私から説明します」

 

 マリューは声のするへと向く。そこには黒髪をオールバックにした、メガネをかけた男性が立っていた。

 

「ウラベ少尉。これは? ストライクは軍事機密よ」

「わかっています。それより、周囲をよく見てください」

 

 そこでマリューは、逃げ遅れた人々が多数いることに気づく。

 彼女は「これは」と言って、言葉を失う。

 誰もが剣呑とした様子で、マリューら三人を睨めつけていた。

 

「お偉いさんが起きたなら、さっさと終わらせてくれ!」

「ですので、皆さんに協力していただきたいのです」

 

 ウラベ少尉はマリューの耳元へと顔を寄せた。

 

「――あまり刺激しないでください。皆さん神経が尖っております」

 

 そこからカオルは現在までの流れを話す。

 淡々とした説明に彼女は絶句する。

 オーブジンが自爆後、マリュー・ラミアスはその余波で意識を失った。

 

「私もセーラー少尉と同じく非番でして、難を逃れました」

「そう……それで?」

 

 彼は遠目でも目立ったストライクへと向かった。そこでメアリーと合流したのである。

 そう。ストライクは非常に目立った。逃げ遅れた人。シェルターが壊れて止む無く出てきた人たち。戦争に巻き込まれた人らもだ。

 そんな不運が起こった人達が、集まってきてしまったのである。

 

「まずは大尉を救護し、その後、次なる戦闘に備えて、キラ君に協力を要請しました」

「子供になんてことを……いえ、それ以上に機密が」

「わかっています。この責任は私が負う所存です。ですが――」

 

 その先は言わなくともマリューは理解した。だから手で制する。

 今自分たちが成すべきことを優先するしかない。それが彼らを救うことになるのだ。

 

「刺激しないでくださいよ大尉」とセーラー少尉。

「わかっているわ」とマリューは銃をしまう。

 

 そんな三人の願いとは裏腹に、怒鳴り声が飛び込んできた。

 何事だと見れば、そこには負傷した子供抱えた男性。

 彼はマリューらへと詰め寄る。

 

「お前たちが! お前たちが戦争持ち込んだのか!」

 

 その怒声に呼応するように、周囲の人々は声を上げ始めた。

 この場にいる誰もが暴力を行使する理由がほしかったのだ。

 ひとりが掴みかかろうとして、ウラベは咄嗟に投げ飛ばしてしまう。

 

「こいつ!」

 

 騒ぎに気づいたキラはコックピットから、顔を出し何事かと様子を伺う。

 

「やろうっていうのか!」

 

 急激に殺気立つ場に、ミリアリアは恐怖し、トールにすがりつくようにした。カズィはそんな二人の後ろに隠れる。

 キラは口を開き「待って――」と言いかけたところで、更に大きな声は飛び込む。

 

「待ちな!」

 

 そこには灰色の頭髪をした少年がひとり。

 キラらと同世代くらいの少年だ。彼は視線が集まると一瞬だけ動揺した後、口元を歪める。

 

「なんだ小僧。こいつらの味方をするのか?」

「待ちなって、俺もあんたらと同じ気持ちだよ」

「だったらなんで!」

「ひとつ訂正したくてさ」

 

 少年は猫背になって小さく笑う。

 

「戦争を持ち込んだの。うちらの国、オーブだろ?」

 

 彼の言葉に彼らの怒りは急激に萎んでいく。

 戦争の火種を持ち込んだのは、マリューたちではない。このヘリオポリスイレブンで、地球軍の新兵器を作ることを認めていたのは、自分たちの国だ。

 中立で戦争に参加しないと言っていた自国は、国民を裏切っていたのである。

 

「それでも、それでも納得できるかよ……俺の息子は」

「ま、まだ息がある。手当を」

 

 カオルは話の別の方向へと持っていくようにする。

 

「私が見ますよお父さん」と医者と名乗る男性が手を上げた。

 

 二人が声をかけると、男性は力なく頷いた。

 

「それにさ。冷静に考えなよ。ザフトの狙いはこれだろ」とストライクを指差す少年は「だったら、さっさとこの人達出ていってもらえばいいだけじゃない? さっさと出ていってもらうためにも手伝ってやろうじゃん」

 

 大人たちは「そうだな」と頷く。だがその声に不満の色が消えることはない。

 マリュー・ラミアスは自分の銃を確認しつつ内心「使えない」とつぶやく。

 使えば最後。これを口実に彼らは彼女らに暴力を奮ってしまう。とはいえ、ストライクを使っている少年たちには、一言以上に言いたいことがあった。

 

「ストライクに乗っている子を、こちらに」

「わかりました――」と頷いたウラベは、ストライクから降りようとしていたキラへと手を振った。次いでこちらに来るように動かし「キラ君!」と叫ぶ。

 

 キラは頷くと素早く降りて、マリュー・ラミアスの元までやってくる。

 

「彼です」

「えっと……」

「名前をキラ君」

「はい。キラ・ヤマトです。ストライクのことと、機密の話はウラベさんから聞きました。無我夢中で……すいません」

「いえ……」

「他にも手伝っている子供たちを、ご紹介します」

 

 ウラベはそう言うと、トールたちを呼び集め名乗らせていく。すでに出ているサイ・アーガイルは彼が代理で説明し、その他にも協力者たちも紹介していく。

 

「今は?」

「アークエンジェルと、連絡を取ろうとしています。大尉が意識のない間も、キラ君にはアークエンジェルへ呼びかけていただきました」

 

 マリュー・ラミアスもそうしたであろうと頷いた。

 

「それでアークエンジェルは?」

「現在通信が繋がっているのか不明です。応答はありません」

「Eジャマーは?」

「まだ展開されているので、戦闘中かと思われます」

 

 彼女は一度溜め息を吐く。

 マリューたちはアークエンジェルにストライクや、残ったGの部品を運び込み、一刻も早くこのコロニーから出ようと考えていた。

 しかし、まだ戦闘中ということは事態は悲観的に捉えるしかない。

 

「ですが、あまり状況はよくありません。最初に狙われたのは、アークエンジェルのようです」

「そちらを陽動に、Gを」

「ええ。ストライク以外は――」

 

 それ以上ウラベは言うことが出来なかった。

 

「そうね。ストライク以外は奪われてしまったわね……それについての責任問題も、後で追求されるのかしら……」

 

 そこでマリューは頭を左右に振って、ネガティブな思考を振り払う。

 

「なんとしても、ストライクだけは第八艦隊に届けなくちゃ」

 

 ウラベとセーラーは頷く。

 

「なんかバカでかいトラック来たぜ」と誰かの声。

 

 マリューはウラベとセーラーに視線を向けた。

 

「ストライカーパックを、探させていました。充電済みですよね?」

「ええ、いつでも使えるはずよ」

 

 マリューはキラへと向き直る。

 

「外部バッテリーを持ってきたわ。それを装着してちょうだい」

「はい」と応じつつも、キラはよくわかっていない様子だ。

 

「セーラーさん。言われたとおり、二番のトラック持ってきました」

 

 サイ・アーガイルが報告していると、遠くから声が飛び込む。

 

「サイー!」

「フレイ?」

 

 キラは驚きのあまり「え?」と声をあげる。後ろではトールが口元を緩めるが、すぐにミリアリアに制された。

 

「酷いのよみんな。私を置いて逃げて。しかも避難シェルターが攻撃されて壊れてザフトの、宇宙人のせいだわ!」

 

 キラはわずかに俯き、視線をストライクへと向けた。

 

「わからない。ザフトが攻撃してきたのは確かだけど――」

 

 サイたちは、地球軍の攻撃で、民間人が吹き飛んでいるのを目撃している。

 だが、彼はそれを彼女に伝えることは出来ない。フレイの父親は地球軍の事務次官をしており、コーディネイターに対して強い敵愾心を持っている。

 そんな父親の元育った彼女も、コーディネイターに対しての差別意識は強い。地球軍の攻撃かもしれないと、伝えても帰って彼女の気持ちを逆撫でてしまう可能性があった。

 

「そうかもしれないけど――とにかく無事で良かった」

 

 サイはトールたちを呼び集め、トラックの横にある端末を操作し始める。

 

「とにかく、ここなら安全だから。キラ頼むよ」

「わかった」とキラはストライクのコックピットに乗り込む。

「モビルスーツ? ザフトの?」

 

 フレイは露骨に嫌悪感を示す。

 モビルスーツといえばザフト軍の兵器の代名詞。

 

「違うよ地球軍の」

「あの子。サイのところにいる子よね?」

「そうだよ。キラだ」

「どうしてモビルスーツ動かせるの?」

 

 不穏な空気を感じ取ったメアリーは咳払いをして、周囲の大人たちに目配せする。

 

「子どもたちだけにさせる気? 我々を追い出したいなら、手伝ってちょうだい」

 

 大の大人たちも手伝い、トラックのコンテナが開く。

 それをコックピットから見ていたキラは、外部バッテリーがどれかわからなかった。

 彼はハッチを開けると、マリューへと質問する。

 

「どれがバッテリーなんですか? 武装ですよねこれ?」

「武装とバッテリーの一体型なの。武装ごと装着して」

 

 キラはコックピットの出入り口からトラックの荷台を見下ろす。

 それは一見して長大な砲に見える。とてもじゃないがバッテリーのようには見えない。

 キラはコックピットに戻ると、キーボードのコンソールを引っ張り出し、機体の情報を素早く閲覧していく。

 

「そっか。武装をつければ充電できるんだ。エール。ソード。ランチャー。あれは――ランチャー。ランチャーってことは砲撃?」

 

 

 

 

 

 ナタルたちはアークエンジェルの艦橋へと上がる。

 

「アークエンジェルは無事なのだな?」

「ええ。ですが、残っていたのは艦にいた数名です。それも下士官しかいません」

 

 ナタルは通信状況を確認するため、艦長席の端末を操作。

 

『――ライク。アーク――』

 

 繰り返し。ストライクの形式番号と、アークエンジェルを呼びかける通信が入っていた。

 

「――こちらは陽動か!」

「なんですって? ってことはザフトの狙いは?」

「Gだ! 外の状況はどうなっているんだ」

 

 ナタルはジャッキー・トノムラに応答するように指示を出す。すぐに応答したものの、ストライクには通じていない。

 

「アークエンジェルを動かす。埒が明かない」

「正気ですか?」

「なんとかするぞ」

「この陣容で、ですか?」

「どうやったらできるか考えるんだ」

 

 無理難題をふっかけているのは、彼女も理解している。彼女自身もまたどうやって、この難局を切り抜けられるのか、頭を捻っていた。

 しかし、アークエンジェルは最新鋭の戦艦だ。少人数でも動かせるように、大部分を機会化している。

 ナタルは的確な指揮をとり、アークエンジェルを起動させていく。

 

「メインエンジンはどうか?」

「動かせますが、起動までに時間がかかります」

 

 ノイマンの返答は「無理です」も含まれていた。

 それは重々承知している。

 彼女はしばらく考え込み、とあることを思い出す。

 

「電源はまだ繋がっているか?」

「待ってください――はい。まだモルゲンレーテと繋がっています」

「そちらからもらえ」

 

 彼女の機転のおかげで、アークエンジェルのメインエンジンは、思った以上に早く起動する。

 

「瓦礫ごと主砲で吹き飛ばしますか?」

「外はザフトがいるかもしれない。コロニー内部へと向かう」

「コロニーの中に、ですか?」

 

 アーノルド・ノイマンは否定的だ。

 

「ああ、そうだ」

「無茶です。それにオーブの許可だって――」

「それよりもGの回収だ」

「来てもらうとか」

「駄目だ。こちらから出向く。後で港から出ればいいだろう」

 

 ノイマンは不承不承といった様子で、アークエンジェルを操舵する。

 アークエンジェルは動き出すと、コロニー内部へと向かう。

 しかし、船の行き先もまた瓦礫などでふさがっている。

 

「ローエングリンを使う」

「威力がありますぎます!」

「出力を絞れば良いのだ」

 

 アークエンジェルはローエングリン砲を使い、コロニー内部へと突入した。

 ナタルらが目にしたのは、戦場だ。銃撃音と、爆音で機動する兵器たちの音がヘリオポリスイレブンに満たされていた。

 被弾して戦闘能力を失ったメビウス・ゼロと、ザフト軍新型のMSシグー。そしてコロニーの大地には、地球連合軍の最新兵器ストライクが、武器を展開していた。

 

「一体、どういう状況なんだ?!」

 

 

 

 

 

~続く~

 




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