この作品はオリジナルモビルスーツ、オリジナルキャラクター、オリジナル設定など多数含みます。
「アスラン・ザラ。出頭いたしました」
アスランを確認したラウは入室を許可する。
執務室にて作業を進めていたが、彼の入室を確認すると手を止めた。
仮面の男はヘリオポリスイレブンの崩壊で、話が遅れたことを説明する。
「ミゲルの命令を無視した件だが」
アスランはすぐさま謝罪し、これに対しラウも「懲罰を科すつもりはない」と説明。
「だが、事情は聞いておきたい。避難民を助けに向かった。とかだろうか?」
ミゲルら三人は、数人だがオーブから逃げ遅れた避難民を救出していた。
アスランの母親が、血のバレンタインの悲劇で巻き込まれていることは、ラウも承知している。
だから、ミゲルらのように動いたのだろうかと、確認しようとしたのだ。
「しかし、そうだとしても、君らしからぬ点が多い。出撃を願い出たりと」
仮面の男は「いささか君らしからぬ」と、アスランに話の先を促す。
「報告が遅れて申し訳ありません。あまりの事態に、私も気が動転してしまい――」
だが、アスランから聞かされた理由は、ラウの予想外の内容だった。
「最後の機体。ストライク、と言うらしいのですが――」
最後の一機に乗っているのがコーディネイターであり、キラ・ヤマトだと彼は言う。
ラウ・ル・クルーゼは「ほう」と僅かに沈黙する。アスランは居心地の悪さを感じた。傍から聞けば訳のわからないことを行っているのは、彼も重々承知している。
しばしの沈黙の後、仮面の男はゆっくりと口を開く。
「まずひとつ。最後の機体がストライクという名前だと、どうしてわかった?」
「はい。イージスのデータに登録されておりました」
アスランはストライクと対峙した際、モニターに表示されたことを説明。
盲点だったと、ラウは笑う。
機体同士を対峙させれば、登録データから機体の名前がわかるのも、不思議ではない。
「その機体に乗っているのは、間違いなくキラ・ヤマト――という少年なのだな?」
「はい。間違いありません。確認をとりました」
「皮肉だな。戦争で再会などとは」
「はい……」
「アスランとしては、彼を地球軍から助け出したいだろう」
「はい!」
だが、ラウは「それは難しい」と言う。
「それは……」
「まず、君には悪いが私と一緒に本国に戻ってもらう」
ラウは現状のことを説明。他のヘリオポリスに足つきが逃げ込む可能性があることを指摘。
クルーゼ隊は、地球軍の新型機動兵器が手に入ったとはいえ、ヘリオポリスにある全兵力を相手にして勝てるほど、戦力的優位にはない。
そこでガモフを置いて、一度本国に報告がてら、編入予定のローラシア級戦艦、ツィーグラーを受領して、足つきを倒そうというのがラウの思惑だ。
「アスランには、奪取した地球軍の兵器の報告もしてもらいたい。非常に辛い状況にあることは承知しているが、彼については、こうも受け取れないか?」
ラウはひとつの推論を展開した。
彼はただ戦争に巻き込まれたのではないか、と。
アスランは工場で再会した時の服装を思い出す。彼は軍服でも作業用の制服でもなかった。
「確かに、彼の両親はナチュラルです」
「だろうな。だから中立国を選んだのだろう」
他のヘリオポリスに足つきが入港すれば、キラ・ヤマトは足つきから降りるのではないかと言う。
そうなれば相手の戦力はガタ落ちだ。ストライクを使える者がいなくなるのだから。
クルーゼ隊としては、嬉しい誤算だろう。
「確かに……ですが、なぜ?」
どうして、そんな風に都合よく考えられたのか。それがアスランにとっては疑問だった。
キラがどうして巻き込まれたのかと。もちろんラウの話は筋が通っているように聞こえるが、都合が良すぎるのだ。
ラウはなんてことないといった様子だ。
「格納庫にあった作業用のジンを見たか?」
アスランは頷く。
見慣れたジンと見た目が違う。そのため記憶に残りやすかった。
翼のない作業用のジン。自軍の兵器があのような形で見ると、少し複雑だともアスランは思う。
「あの機体。アルバイトで学生が使っていたという話だ」
「ほ、本当ですか?!」
「ああ、しかもOSは、独特で難解らしい。整備兵たちも手を焼いている。君なら、何か思い当たるんじゃないか?」
「――変わらないな」
優しい笑みを浮かべる彼に、ラウは同情を口にする。
「君も戦うなら、やりやすい方がいいだろう。私としても、確実にあの戦艦を撃沈させたいのでね。あの船にはぜひともヘリオポリスに入港してほしいくらいだ。その方がやりやすくなる」
「艦の身動きできなくさせる。ということですね」
「さすがだなアスラン。そうだ。地球軍は助けようと、援軍を寄こすだろう。そこを叩く」
ラウはあわよくば、一個艦隊は潰したいと考えていた。
地球軍も最新兵器を作って、他国の港から出港できませんでは済まない。あの手この手で足つきを助けようと動く。
実働データ。実際に完成した実物。それらが喉から手が出るほどほしいはずだ。
「足つきとストライクは地球軍にとっての、起死回生の一手だ。是が非でも助けようと動くだろう」
アスランは納得したように頷く。
僅かにラウは顔を俯かせて、手を組み口元を覆うようにする。
その奥では口の端が釣り上がった。
(まあ、私の勘ではそうならなさそうなのだがな)
その時だった。ヴェサリウス艦内にアラートが鳴り響く。
『緊急事態です隊長。至急ブリッジに』
アスランとラウは顔を見合わせる。
「いくぞアスラン」
敬礼して了解の意を伝えるアスラン。
「今、なんと?!」
アークエンジェルのブリッジに驚愕の声が響く。
声の主はマリュー。彼女は開いた口が塞がらないと言った様子だ。
すぐに正気に戻ると、彼女は再度言葉を紡ぐ。
『貴艦の入港は許可できないと言った』
「せめて、避難民の収容だけでもお願いいたします」
『救命艇を使って出してくれれば良いだろう?』
マリューは「それは」と言葉に詰まる。
相手は彼女たちを疑っていた。明らかな不信感を滲ませている。
確かに、アークエンジェルにも救命艇はあるにはあった。しかし、ザフト軍の襲撃により、その数は少なく、キラら避難民を収容してしまえば自分たちの分が、なくなってしまうのだ。
その事情を知らぬオーブからすれば、言葉に詰まった彼女から、いらぬ誤解を抱くには十分だった。
彼らは通信のモニター越しでもわかるくらい、敵意を滲ませる。
『そうやって我々のコロニーをすべて破壊するつもりなのだろう? ここは中立国だ。火種を抱えたのは我々だろう。しかし、だからといってだ。コロニーの崩壊を看過することはできない』
「ヘリオポリスイレブンについては――」
謝罪しようとした言葉は最後まで続かない。通信が途切れたのだ。
「ジャミング、戦闘レベルまで増大」
ブリッジにいた全員が驚きの声をあげる。
ムウはクルーゼ隊の仕業かと勘ぐったが、ジャミングの発生源が近い。
「いえ違います。ヘリオポリスの方面からです。それと、多数の熱源接近」とロメロが報告。
「熱紋パターン確認。メビウス、ミストラス多数。それとジンが、六機」
ジャッキーが情報を補足する。
「そんな?!」
「聞く耳持たずってか! せめて坊主たちを降ろせれば……」
キラたちのことを考えている余裕はない。それでも地球軍の面々は、民間人を戦闘に巻き込んでいる状況をなんとかしたかった。
「そんなことより、これからどうしますか?」とカオルの言葉で全員の思考が停止する。
彼らはオーブに行けなかった場合の方針について、全く思慮が及んでいなかった。
誰もが他のヘリオポリスに入れると思い込んでいたのだ。
だが現実は違った。ヘリオポリスイレブンの崩壊を知れば、拒絶するのも無理からぬ話。
「でも、いくらなんでも強引すぎる気が」
それにしては頑な過ぎる点に、マリュー・ラミアスは違和感を口にする。
「月に向かいますか?」とノイマンが艦長席を振り返る。
「ここから月までは、さすがに――」
「アルテミスに向かいましょう!」
混乱するブリッジの中で、ただひとり冷静だったナタルは、次の目的地を提案した。
「ヘリオポリスを迂回して、月基地に行くのは難しいです」
月へ向かう場合、中立地帯を迂回して行かなければならない。その場合、ザフト艦二隻に待ち伏せされる可能性があった。
それよりかは、ヘリオポリスより近場にあるアルテミスに向かった方が速い。
この状況ではザフトも攻撃してはこないだろうと、彼女は付け加える。
「クルーゼは面白がっているだろうが、アルテミス? ユーラシア連邦のだろ?」
ムウは難色を示す。
「ですが、同じ地球軍です」
「その考えは――」
同じ地球軍とはいえ、アルテミスはユーラシア連邦の兵士たちで固められている。そもそもアルテミスはユーラシア連邦の所有物であったのだ。
その後、彼の国が地球軍へと参加したことで、地球軍の宇宙要塞となっているだけに過ぎない。
それを口にしようとしたムウの言葉は、声に遮られる。
「オーブ軍接近」
「さらにその後方、巨大な熱源二つ。ザフト艦と思われます」
彼は言いかけた言葉を飲み込む。
「この状況では、ザフト軍も介入できないと考えます」
「そうだな。今行ける場所は、それくらいだ。艦長」
マリューは頷いてから口を開く。
「アークエンジェル、急速反転。目的地をアルテミスとします。後ろのザフト艦の動きを警戒」
「宙域図を出してくれ」とムウ。彼はひと目見て舌打ちすると「クルーゼの奴、律儀に中立国の宙域を迂回してやがる」とぼやいた。
「マードック軍曹。機体の整備状況は?」
『良い知らせと悪い知らせがある』
「まずは良い方を聞かせてちょうだい」
『ゼロ式は後少し時間がかかるが、メビウスはいつでも発進できる』
「悪い方は?」
『ストライクの整備と補給が間に合ってない。こいつは俺の失態だ』
「責任問題は後にしましょう」
アークエンジェルは第一種戦闘配備を発令した。
アークエンジェルのレクリエーションルームでは、落ち着きを取り戻しつつあった。
ヘリオポリスに戻れると聞いたので、今回あった戦争について話し合っているのが大半だが、どこか和気藹々とした雰囲気である。
レクリエーションルーム前で警護している地球軍の兵士も、一部の大人と何やら話し込んでいる光景も見て取れる。
「――じゃない!」
「――違うだろ!」
そんな和やかな雰囲気は、時折静まり返ったりしていた。隣の部屋からはフレイとサイの言い合いの言葉が聞こえてくることもあったのだ。
「なんだか怖いな」
「フレイって、そういうところあったから」
「そうなの?」
「見た目はいいでしょ? それで言い寄る男子もいたんだけど」
過去にコーディネイターに告白されたことがあったそうな。
「え? そんな話聞いたことがない」
「いや、結構酷かったから……」
トールはげっそりとした様子で言った。
ミリアリアがやんわりとやめておけと言っていたのを、キラが思い出す。
そんなことをぼんやりと考えていると、目の前にボブカットの少女が飛び込む。
「先輩。私、先輩のこと、惚れちゃいました~」
「誰?」
「ミコトです。ミコト・ミーク。貴方の彼女です」
「え?」
「え? 彼女いるんですか? 今、いないって話していたので」
「いや、いないけど……」
「じゃあ私、彼女ですね」
キラは驚きの声をあげた。
いきなりそんな話をしても飲み込めなかった。
何を言っているんだ。そんな視線がミコトに集まるが、彼女は気にした様子はない。
「いやいや」
「なんだよ。ミコトちゃん可愛いじゃん。付き合っちゃえよ」
悪戯を思いついたような顔で煽るトール。
そんな彼の脇腹にミリアリアは肘鉄を見舞い嗜める。
「からかわないの」
「って~。だってさ~。キラはヒーローみたいにかっこよかったしさ」
ミリアリアは呆れたように「わかるけど」と言う。
「俺たちの救世主だよキラせんぱーい」
「そうですキラせんぱーい」とミコトも満面の笑みを浮かべ、キラの手を取り、下から覗き込むように懐に入り込む。
キラはどういう表情をしたもんかと、困ったように笑う。
そんな二人の間に、ひとりが割り込む。
キラとミコトが繋いだ手を手刀で断ち切る。
「うちの後輩が悪いな」
「げっ。ソウマ先輩もいたんですかぁ~」
「お前さん。さっきまで俺と話ししてただろ」
ミコトは「そうでしたっけ?」とベロを出して誤魔化す。
「こいつ猫撫で声で話すし、猫被りしてるし、それに性格悪いから」
ソウマは言外にやめておけと言う。
「先輩は皮肉屋さんですけど、優しいですからね」
「性格悪いところを否定しなさいよ」
「自分で言うのもなんですが悪いです。でも、キラ先輩にはお礼を言いたかったですし、付き合ってもいいくらいなのは本当ですよ?」
キラが何かを言おうと口を開く。その前に、悲鳴が割り込む。ミコトが体勢を崩したのだ。近くのソウマではなくキラに寄りかかる。
「な、なんですかぁ急に」
「おい。この艦、反転しなかったか?」
ソウマ・カガの言葉に、キラたちは頷く。
ミリアリアとトールは「どうしたんだろう?」と首をかしげる。
キラとソウマは、顔色を僅かに強張らせた。
「キラ。おたくも同じ考え?」
頷くキラを見て、ソウマはやれやれと肩をすくめる。
「航路を変えたようだが、大分長い間、動いてなかったか?」とジークフリートが会話に加わる。彼の後ろには困惑した大人たち。
「テンかナインに向かってるんだろ?」
二人の言葉に首肯するキラ。
「はい。そのはずですが――」
次の瞬間、アークエンジェルを衝撃が襲った。
レクリエーションルームに悲鳴が飛び交う。
次に艦内放送が入り「第一種戦闘配備」が発令される。
「なんだ? なんなんだ?」
「ひぃ! 父さん! 母さん!」
カズィは悲鳴をあげ、机の下に潜り込もうとして、頭部を机の角に殴打する。
「どうなってるんだよ」
「トール……」
トールはミリアリアの手を取り、あちこちを見回す。
爆音と衝撃が艦を襲う。
『第一種戦闘配備』
『キラ・ヤマトはストライクに搭乗して待機。メビウス・ストライカー。メビウス、ジェイク機。ネイサン機。発進スタンバイ』
キラは驚愕し、トールたちと顔を見合わせる。
「出撃って……」
「何と? ザフト?」
キラは一瞬だけ逡巡するが、部屋の中にいる面々を見てすぐに決心する。
先程トールに言われたヒーローと言われた言葉が、頭の中で反響した。
ここにいる人達の不安を取り除きたい。それができるのは自分だ。そんな想いからキラは口を開く。
「行ってきます」
「キ、キラ」
「大丈夫だよトール。行けば何かわかるかもしれないし」
キラ・ヤマトはレクリエーションルームから飛び出し、ストライクの元へと駆け出す。
ヴェサリウスのブリッジは状況の把握に迫られていた。
不測の事態に彼らも状況を把握しようと情報が飛び交う。
白服の男と赤服の少年は、モニターに映った光景に驚きの声をあげる。
「ほう、状況はどうだ?」
「オーブ軍が足つきを攻撃しています」
足つきの位置はすでに把握しており、宙域図に示されていた。
すでにアルテミスの方へと流れており、高速艦であるヴェサリウスでも追いつくのは難しい状況だと説明するアデス。
仮面の男は顎に手をやり、考える素振りとなった。
「現在は第二種戦闘配備です。アスランもイージスで待機を――」
「それはいい。アスランはここで待機だ」
「了解です」
懲罰の意味だろうか、それともストライクとの戦闘を避けるためだろうか、アスランは心中身構えた。
仮面の男もそれがわかっているのか、小さく笑う。
だが、ラウの次の指示でそのどちらでもないと理解する。
「ガモフに打電。ラスティーに出てもらえ」
「スティンガーにですか? 狙撃用の機体で足つきでも狙うので?」
ラウは「いや違う」と言う。
スティンガーは狙撃をメインとして戦う機体のため、索敵能力と、それに付随する観測能力も高かった。
それを説明すると、アデスは隊長の思惑を汲む。すぐにガモフに打電すると、ゼルマンにラスティーの出撃を命令。その目的はオーブ軍の動向の確認だ。
「それと、鹵獲したオーブジンでミゲルに出撃準備スタンバイさせろ」
「あ、あれを使うのですか?!」
キラ・ヤマト以外が乗ることの出来ない状況の機体。それに部隊のエースパイロットを乗せると言うのだから、驚かない方が無理だ。
「そうだ。それと、ミゲルたちが持ち帰った足つきとストライクの戦闘映像を用意しろ」
「ストライク?」
「言ってなかったな。あの最後の機体。ストライクと言うそうだ」
アデスは軍帽を脱ぐと、額の部分に指を押し当てる。
「何か策でも?」
ラウは首肯する。
「今の状況。私の予想が正しければ、我々にとって有利に運べるぞ」
ラウは説明する。
「まず足つきに追いつくのは不可能だ」
オーブ軍と地球軍の戦闘に介入すれば、混戦に飛び込むこととなる。
その際の損失は、クルーゼ隊にとっても少ない損害となるだろうと言うラウ。
地球軍の新型を手に入れた手前、無傷で持ち帰りたい。兵士の損失も極力避ける。
「だが、地球軍の目的地はひとつだ」
「二つでは?」
「足つきが月基地に向かう可能性はゼロだ。良き指揮官であるならば、な」
足つきが月面基地に向かう場合、ヘリオポリスなどの中立宙域のコロニーを迂回して向かわねばならない。
その場合、クルーゼ隊としてはいくらでも策を講じられる上、イン隊の助力を得れば、確実な包囲網を構築が可能だ。
彼の部隊は、プラントへの帰路についているところである。彼らに先回りしてもらい、クルーゼ隊が追い込めば、足つきは包囲殲滅されて終わりだ。
「そうなるとアルテミスに逃げ込まれるのでは?」
「それが狙いだ」
アスランは「なるほど」と頷く。
「おや? では、この先の私の考えを述べてみたまえアスラン」
仮面の男は「間違ってもよい」とした上で、アスランに続きを促す。
彼は頷くと話の続きを引き受けた。
「今回の作戦。目標が二つあります」
ひとつは足つきがアルテミスに向かわせること。
「もうひとつの方は、達成可能であればであります」
「達成可能……つまり足つきとストライクの撃破だな」
頷くアデス。アスランは僅かに表情を曇らせたが、歯を食いしばって耐えると続きを話す。
「アルテミスに逃げ込んだ場合、我々は待ち構えればいいわけです。もちろん可能であればアルテミスへと攻撃を開始するのもいいでしょう」
「そうか、足つきの逃げ込む先が、ヘリオポリスからアルテミスに変わるだけか」
ラウは満足そうに「その通りだ」と言う。
プラントよりは遠くなるが、クルーゼ隊とイン隊が協力して包囲網を作れば、後は煮るなり焼くなりの権利は、自軍のものとなる。
地球軍は救援しようと、色々と策を講じるだろう。
「アスランは優しいので見落としているが、アデス。後、もうひとつの利点。わかるか?」
「アルテミス――確かユーラシア連邦の所有物でしたね。なるほど、確かに追い込めば後は煮るなり焼くなり、ですな」
アデスは軍帽を脱いで頭をかいた。
「隊長、それはどういうことでしょうか?」
「地球軍と言えど、一枚岩ではないということだアスラン。まあ、それはプラントも同じなのだが、自国のことはこの際、棚上げにしておこう」
「しかし――」
アデスは首を傾げる。
「そうなりますと、なぜミゲルに出撃を?」
「それはまた別の狙いがある」
それについてはアスランもよくわかっていなかった。
貴重な戦力を減らしたくないと言いながら、ミゲルに慣れない機体で出撃させる。自殺行為にも思える。
仮面の男は不敵に笑う。
「ミゲルにはスパイ、オリバーだったかな? それと接触してもらう」
そして、程なくしてクルーゼ隊は作戦を開始する。
キラが格納庫にやってくると、怒声を浴びせられる。
「コーディネイターだからって、パイロットスーツ着ないで来る奴がいるか!」
声の方へと顔を向けると、パイロットスーツを着用した男性二人。欧米系の男性とアフリカ系の男性二人が、キラに視線を向けていた。
「少尉、曹長。今、そんな時間ありませんよ」
マードック軍曹は二人をメビウスへと誘導する。
キラはどうしたもんかと右往左往したが、整備兵のひとりが手招きしたのを見て、ストライクへと向かった。
その背中を声が叩く。。
「次はパイロットスーツを着ろ。いいな」
少年は頷き、コックピットの中へと消えた。
「うるせぇなネイサン。あいつはガキで、地球軍じゃないんだぞ」
「だからこそだろ。人は簡単に死ぬんだぞジェイク」
「そうだった――」
二人は神妙な表情になると、すぐに自分たちの機体へと向かう。
「――お前が融通の利かない男くらい、当たり前のことだった」
「それがわかってるんだったら、出撃前にアイス食おうとするな」
「俺はいつ死んでもいいようにだな」
「その話は帰ってから聞いてやる」
「お二人は賑やかなんですね」
メアリーが灰色の機体、メビウス・ストライカーへと向かいながら、二人に話しかける。
彼らは彼女の顔をまじまじと見入ってしまう。
二人は同時に咳払いをして、喉の調子を整える。
「帰ってきたら住所教えて」
「教えないほうがいいですよ。貴方の身のためだ」
「お! 騎士気取りか? 先に声をかけたのは俺だぞ」
「軍規が乱れる」
メアリーは口元を抑えて笑いながら、二人を置いて機体に乗り込んだ。
「お前のせいで話が途中だ」
「お前のせいで、俺達が最後だ。いいから早く乗るぞ」
二人が乗り込むと、ナタル・バジルールの怒声が響く。
キラもコックピットで待機していると、どういう状況なのか理解した。そして彼は絶句する。
「どういう……」
『そういうことだ。今、我々はオーブ軍に追われている。戦闘させるつもりはない。しかし、威嚇で出てもらうことになる』
キラは「無茶苦茶だ」と叫ぶ。
「一体、なんでオーブと?」
そこでことの成り行きを聞かされたキラ。今度こそ言葉を失う。
「ぼ、僕がコロニーに穴を開けたせいで……」
『違う。違うぞキラ・ヤマト。あれは……』
ナタルは動揺して言葉を探す。
彼女はキラが民間人であること、偶発的な事情が重なったことを説明する。
『だから、君のせいではない』
『割り込むぞ坊主。悪いがストライクの補給が間に合ってない。今回は威嚇で出てもらうために、ランチャーストライカーを装備してもらう』
キラは無意識に息を呑んだ。
『アグニを使えって話じゃない』
マードック軍曹はストライクが先の戦闘から終わって、整備と補給が終わってないと告げられる。
そのためバッテリーの残量は半分と少しだけと言う。長時間の戦闘は出来ないため、アークエンジェルから離れないようにと、説明を受ける。
「わ、わかりました」
『すまないな坊主。俺の責任だ』
キラはなんと言っていいかわからず、黙り込んでしまう。
「とにかく、やってみます。できるだけのことは、やってみます」
『頼んだ』
ナタルが咳払いをする。
『なるべく戦闘はさせないようにする。我々がオーブ軍を落としても、恨んでくれるなよ』
「僕らのことをオーブは?」
『信じてもらえなかった』
キラは目を丸くして「そんな」と言葉を探す。
脳裏にはレクリエーションルームにいたオーブの人たち。
オーブに帰れないかもしれない。そんな説明をできる気がしなかった。
『生き延びて、政治的な掛け合いでなんとかするしかない。だが、そうするためにも――』
「わかりました。今は生き延びることだけを考えます」
ナタルは『そうしてくれると助かる』と通信を終えた。
キラはここではない、どこか遠くを見据える。
そんな彼のコックピットに通信が入った。
『おい大丈夫か? コーディネイターの……なんつったっけ?』
「はい?」
『名前だよ名前。俺の名前はジェイク。ジェイク・リーヴだ』とアフリカ系の男が白い歯を見せて笑う。
「僕はキラ・ヤマトです」
『キラな。よし。ついでにいいこと教えてやる』
「は、はい」
『お前の今の顔。新兵共がよくやるやつだったぜ』
キラは首を傾げる。
『顔を青白くして思いつめた顔になってたぜ。それじゃあ帰ってこれない』
ジェイクは口をパクパクさせて、顔を小刻みに震わせた。
それでは駄目だと彼は言う。
キラは自分の顔を見て驚く。確かに普段より青白かった。
『おいジェイク。そろそろ出撃だぞ』
『あ、この眉間に山谷作ってるのがネイサン・ロードだ』
『いいかキラ。ジェイクみたいに、頭空っぽにするな。常に生き残ることだけを考えろ』
『待て待て。俺は生き残ってメアリーちゃんと、アイス食べることしか考えてないぞ』
『お前の頭は股間と直結しているのか?』
『してるよ』
『少尉! 曹長! 早く出撃しろ!』
ナタル・バジルールの怒声が全員の耳朶を貫いた。
『ネイサン機、ジェイク機、発進カタパルトへ』とカオルの声が響く。
メビウスの二機がカタパルトとへと運ばれる。程なくして機密ハッチが閉じられた。
ストライクのコックピット内に『メビウス、ネイサン・ロード出撃する』と響く。
衝撃がコックピットを揺らす。
『いいか。キラ。出撃は男の花道だ。元気よく行けよ』
『曹長早くしろ』
『へいへい』
『はいは一回でいい』
『ジェイク・リーヴ、メビウス出るぜ!』
程なくしてアークエンジェルを叩く衝撃の数が増え、あちこちから騒音が響く。
外の映像をストライクのモニターに映し出すキラ。
火線がメビウスを一機撃墜したところであった。
一瞬だけ彼は、臓腑のあたりが寒くなったが、赤いラインが入っていたことに気づく。
そんなモノは二機には、そんな塗装はなかった。
つまり撃墜したのはオーブのメビウス。
『続いてメビウス・ストライカー発進カタパルトへ』
カオルの声でアナウンスが入る。
『ゼロの準備は数分後に完了』
『メビウス・ストライカー、メアリー・セーラー出ます』
『悪いが状況が悪い。すぐに発進だ。撃墜しようと思うな。威嚇射撃だけでいい』
「わかりました」
『キラ。俺も出る。自分の身を守ることを考えるんだ。いいな!』
程なくしてストライクを固定しているハンガーが動き出す。
カタパルトへ移動すると機密ハッチが閉じられた。
キラはコックピット内で、ストライカーパック装着の操作を進める。
『装備はランチャーストライカーだ。さっきも言ったが、補給はすんでいない。無茶するなよ』
キラは短く「はい」と応じる。
『進路クリア。発進だストライク』
カオルの声に押されるように、キラはストライクを出撃させる。
オリバーは破損したジンを操縦して、ヘリオポリステンへと向かっていた。
彼の口からのでまかせにより、アークエンジェルはオーブ軍から攻撃されている。
彼はコックピット内で「ざまぁみろ」と叫ぶ。
そんな彼の目の前に羽のないジンが現れる。自分と同じ見てくれのジン。モルゲンレーテが色々と手を加えた実験機。
自分の乗っている機体を除いて、ザフトが持ち帰った一機しかないのだが、彼の頭にそれはすでになかった。
だから驚く。
「な、何?!」
驚き機体を操縦するが、両腕の損失している彼のジンでは、どうすることも出来ない。
羽なしのジンは、オリバーのジンを掴むと接触回線で通信する。
『お前だな。オリバーってのは』
「ザフトのか! 迎えに来てくれたのか! 俺をプラントに――」
『いや、このままオーブに潜り込んでくれないか?』
「な、なんで……」
『今回のオーブの一件。お前も噛んでるはずだ』
ミゲルはそれを隊長が高く評価していると説明。
「オーブの情報を流せば、俺をさらに高く評価するっていうことか?」
『――そうだ。それに、オーブでも英雄扱いされるんじゃないか?』
「確かに、俺は今回の一件でイレブンを守って戦った戦士として、取り扱われるはずだ」
そんな夢想を聞かされたミゲルは内心「んなわけなーだろ」と嫌悪の感情を抱きつつも、顔には出さなかった。
彼はラウから、こう言えば良いとされた言葉を並べて、オリバーをその気にさせる。
つまるところ、ミゲルの隊長はオリバーの心理を完璧に近い形で掴んでいた。
(こいつは確かに自軍に入れるには危険な奴だ)
ミゲルはこの場で排除した方が良いのではないかとも考えたが、任務を優先する。
『そういうことだオリバー。頼んだぞ』
「ネビュラ勲章っての、頼むぜ。なにせ俺はプラントを勝たせるために戦った英雄だからな」
『――ああ、本国に伝えておく』
~続く~
登録はお任せしますので、次のお話も見ていただければ嬉しいです。
色々とガンダムSEEDの関連商品出るので、皆さんも財布に余裕のある方は購入検討おなしゃす!ブルーレイボックスも出るので、見返してみてはいかがでしょうか?
次回も来週更新しまっ