艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理   作:アズレン提督

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辛勝

「妖精さん! 残弾報告よろ!」

 

「つうじょうだん452! さんしきだん12! きじゅうだん5まん2300! ぎょらい8! ばくらい11です!」

 

「まだイケるな!」

 

 砲弾と機銃弾を積めるだけ積んでおくように頼んでおいたので、前回と違って弾薬には余裕がある。

 ただ、打ち切る前に砲身命数を使い切るので、後半ほど砲が破裂する危険があるとは言われていた。

 砲身強度は強化しているが、発射威力も強化しているのでトントンと言ったところだろうか?

 

「しかし、剣の方が、保たんな!」

 

 今まで100以上の深海棲艦を叩き切った剣がガタガタである。

 天ねーの方はなんともなさそうに見えるが、ガタは来ているだろう。

 

「てきかんばくせっきん! きゅうこうかです!」

 

 見張り妖精さんの報告に、私は海面を思いっきり蹴っ飛ばす。

 時速200キロを超える速度で射出される私。目標を失った敵艦爆が海面に爆弾を投下する。

 それにしてやったりと笑う暇もなく、目の前に居た駆逐古姫に剣を叩き込む。

 

「グッ……ナンデサ、ナンデアキラメナインダヨォ!」

 

「諦める理由が無いからやド阿呆!」

 

 駆逐古姫の艤装を叩き切り、そのまま首を刎ねようと叩き付けたところで、剣が折れ飛んだ。

 刀身の半ばから折れた剣の先端が飛んで行き、それを見た駆逐古姫がニヤリと笑う。

 

「セイッ!」

 

 私は左拳を駆逐古姫に叩き込む。恐ろしく硬いが、頬骨を砕いた感触があった。

 

「イタイ! ドウシテ……」

 

「剣一本折れたくらいで笑うやつがあるかい!」

 

 私は折れた剣を、駆逐古姫の目に叩き込んだ。

 そして、髪みたいな場所を掴み、力づくでねじ込んでいく。

 

「ギッ、ィャアアアアアァァァッ――――!」

 

「死、ねぇ……!」

 

 駆逐古姫は人間らしい右手で私の手を掴んで止めようとするが、生憎とそこは鉄製である。痛くも痒くもない。

 人間なら確実に死んでいる位置まで押し込むと、駆逐古姫の頭蓋だろうか。一層硬いものに当たり、剣が止まる。

 私はそこで剣を無理やり捻った。べきんっ、と音を立てて剣が根元から圧し折れた。

 柄だけになった剣を投げ捨て、海面でビクビクと痙攣する駆逐古姫を思いっ切り蹴り飛ばす。

 

「皐月ィ!」

 

「まっかせてぇ!」

 

 私の意図を理解した皐月が発砲。駆逐古姫の胴体が消し飛ぶと、そのまま海中へと沈んでいった。

 

「剣がのうなってもうたな、予備とかないん?」

 

「ごめんなさい! もってきてないですー!」

 

「ああ、ええて。うちも予備用意しといてなんて言うてへんかったし」

 

 とは言え、これで近接戦闘はまた殴る蹴るの暴行頼りである。

 そもそも近接戦闘をしてることがおかしいんだが、まぁ、今更だ。

 

「皐月! 弾はまだあるか!」

 

「大丈夫! ボクも目いっぱい積んでもらったんだ!」

 

「ならええな!」

 

 主砲を構え、当たるを幸いにそこら中に居る敵に発砲する。

 猛スピードで海上を疾走する皐月を捉えられる敵はなく、それは私も同様。

 戦闘してて気づいたんだ。私の速度なら、海上航行するより海上走った方が速いって。

 

 海面を蹴立て、猛スピードで走り回る私を捉えられる敵はいない。

 加えて、私は足で海面を蹴って推力を得る都合上、後方や横跳びも可能である。

 格段に自由の利く機動力を得たことで、至近距離でない限りは弾が当たる気がしない。

 もちろん使い過ぎると足にガタが来てしまうのだが、そのあたりは匙加減と言うやつだ。

 

「天龍!」

 

「なんだ!」

 

「石器時代の勇者乙!」

 

「なんで俺いきなり馬鹿にされたんだ!?」

 

 天ねーの残弾も確認しようと思ったけど、よく考えたら主砲口径違うから融通出来ない。

 そもそも、主砲も魚雷もロクに使っていないやつに問いかけることではなかった。なのでとりあえず煽っておいた。

 

「妖精さん、魚雷!」

 

「はいー!」

 

 わっせわっせと5人がかりで魚雷を担いで艤装から出てくる妖精さんらから魚雷を受け取る。

 海面を蹴って跳躍。手近に居たタ級の頭を蹴って更に跳躍すると、レ級へと肉薄。

 すれ違いざまに魚雷を叩き込み、撃破確認もしないままに更に手近に居たレ級へと挑みかかる。

 

「シッ!」

 

 ジャブを2連撃。頬と顎を狙ったジャブに打たれるレ級だが、即座に尾のような艤装を向けてくる。

 私はそれを真っ向からがっぷり受け止めると、背筋力を総動員し、斜め後方へと投げ上げる。

 ぴしぴしと痛みを訴える背筋だが、無理をするだけの成果はある。

 

「皐月ィィィ!」

 

「分かってる!」

 

 皐月の主砲が空中のレ級を狙い撃ち、空中で爆散したレ級が海面へと散らばって沈んでいく。

 主力艦隊の方の増援は終了している。この調子なら問題なく撃滅可能だ。

 水雷戦隊の方は多少撃ち漏らしているが、この程度なら龍驤さんが対応してくれるだろう。

 駆逐艦や軽巡なら戦闘機の機銃掃射でも結構なダメージになる。遮二無二突っ込んでくるばかりの深海棲艦も撃沈を嫌がるくらいの行動はする。

 

「なんとか、なりそうやな!」

 

「うん! でも、そろそろ砲身がまずいかも!」

 

「うちも割とヤバい」

 

 皐月ほど撃っていないのに、砲撃のバラつきが拙いレベルになって来ている。

 まだ破裂するほどではないが、当たらないかもしれないというのはまずい。

 

「天龍! 剣のほう大丈夫か!」

 

「楽勝だ! あと1000だってやれらぁ!」

 

「冗談はええから、どれくらいいけそうなんか言えや!」

 

「あ? だからあと1000だって行けるって言ってんだろ!」

 

「マジで言うてんの? こいつ頭おかしいわ」

 

「なんでだよ!?」

 

 あれだけ叩き切ってなんともないってどういうこと。私以上に斬ってるんだぞ。

 もう天ねーの剣戟に関しては気にしないことにする。あいつは斬撃じゃなくて理不尽を放ってるんだと思おう。

 

「ともあれ、敵の数も減って来た! 砲身にダメージが行き過ぎん程度に……」

 

 撃つんや、と言おうとしたところで、海面が盛り上がった。

 また増援か。そこに砲を向けると、皐月も同様に砲を向ける。

 そして、海中から飛び出して来た敵へと砲撃を撃ち込み……。

 

「あかん!」

 

 機銃をフルオートで放つ。異常な発射レートに強化された機銃は一瞬でマガジンの弾を撃ち尽くす。

 そして、空中に信じられないほど巨大な火の華が咲いた。辛うじて敵の主砲弾の迎撃に成功したのだ。

 

「ボクの砲撃で倒せないなんて……」

 

「うちは外した」

 

 このボロ砲が、と引っ叩いたら妖精さんに大事に扱ってくださいと抗議された。ごめん。

 

「ナカナカ、ヤルジャナイカ……ヤクニタタヌ、イマイマシイ、ガラクタドモメ!」

 

 私と皐月の放った砲の爆炎が消えると、そこには黒いドレスを纏った女性が立っていた。

 裏地に赤をあしらったドレスは妖艶で、深いスリットの入ったドレスから覗く足は艶めかしい。

 

 だが、海の上に立つそれが尋常な存在であるはずもない。

 

 それは私たちの敵、深海棲艦。従えるのはその女性型深海棲艦よりも格段に巨大な艤装。

 人間の手そのものの形をしたそれは、しかし異常な巨大さを有し、私の胴体を丸ごと握りこめそうなほど。

 戦艦水鬼。それも、背負った砲は三連装。つまり、改。装甲300の鬼畜ステータスを誇る化け物だった。

 

「……黒潮、どうしたらいい?」

 

「田原俊彦を鉄アレイで殴り続けると死ぬ言う格言を知らんの?」

 

「えっ、知らない……」

 

「そか。つまり、死ぬまで撃つんや!」

 

「わかった!」

 

 脳筋戦法で押し切る。って言うかそれ以外にない。

 試行回数で押し切れと艦これ提督はみんな知ったはずだ。

 祈れ、祈りは力だ。ラスダンは祈祷力が一番重要だと知っているはずだ。

 幸い、皐月の砲撃でノーダメージと言うわけでもない。艤装に損傷は出ている。

 高速で航行しながら、あいつを撃ちまくるしかない。

 装甲100半ば程度なら一撃で仕留める皐月の主砲も、300超えは一撃とはいかないらしい。

 やっぱり重砲艦が要る……でも仮に大和が居たとして皐月のようにレ級を一撃で射殺できるだろうか……?

 

「ナキサケンデ、シズンデイケ!」

 

「お断りやド阿呆! 指名料高そうな分際で!」

 

 我ながら訳の分からん罵倒を飛ばし、主砲を撃ちまくる。

 機銃も打ち込んでみたが、装甲が厚過ぎてロクに効かない。

 

 相手の主砲弾の迎撃は困難だ。三連装砲と言うのが難しい。

 機銃で迎撃するにしても、3発の主砲弾を迎撃し切る前に弾が切れる。

 なんで20発弾倉なのか理解に苦しむ。ベルトリンク給弾にしといてくれ。

 迎撃出来て2発が限度だ。残る1発は躱さざるを得ない。そうすると接近が難しいどころの騒ぎじゃない。

 

 海面を蹴立てて高速移動するにしても、周辺にはまだまだ敵艦が健在。

 戦艦水鬼に注目しながら自由に動き回れるほどではない。

 天ねーが必死で切り伏せているが、それにしたって限界がある。

 

 神経を擦り減らしながら必死で主砲弾を躱し、こっちの主砲を撃ち込むが、効いている気がしない。

 

「くそっ、当たりもせんようになって来た!」

 

「ほうしんめいすうをとっくにこえてるんです! もうあたらないものとおもってください!」

 

「あーもう!」

 

 だからと言って撃たないわけにはいかず、汗だくで装弾してくれる妖精さんの報告と共に発砲。

 そして、ばんっ、と言うシンプルな音がして、私の手の中の主砲の砲身が破裂した。

 

「だらっしゃあ!」

 

 使えなくなった砲を海面へと叩き付ける。真っ赤に焼けた砲が海水に触れてぶしゅーっとか音を立て、妖精さんが慌てて飛び出して来た。あ、ごめん。

 魚雷を取り出してもらい、それを両手に持つ。海面を蹴立て、手近に居たハ級を蹴飛ばして轟沈させつつ、大きく円を描くように移動する。

 戦艦水鬼は一方の砲で私を追随し、もう一方の砲で皐月へと応戦の姿勢を見せる。面倒くさいことしてくれる。

 

 とは言え、旋回速度の足りない砲では私を捉え切ることはできない。

 

 必中距離と角度を得た私は、手にした魚雷を投げ放った。

 直後、右手に持った魚雷を持ち替え、再度投げ放つ。

 2発の魚雷が爆炎を咲かせるが、そのすぐ後に爆炎を突き破って砲撃が放たれる。

 私に当たるような場所ではなく、遥か遠方に着弾して大きな水柱を上げる。

 

「硬すぎるやろ……理不尽やな」

 

 残りの魚雷は5発。これを全部叩き込めば、倒せるだろうか。

 そう思いつつ、手近に居た駆逐古姫の頭を掴み、飛び上がりながら無理やり捻ると首の骨が折れた。

 戦ってて気づいたが、骨の硬さは装甲ではなく艦種依存らしい。なので駆逐なら姫級でも関節技で殺せる。

 

「肉弾戦は通じる気がしぃひんしな……」

 

 つくづく剣を喪ったのが痛い。あれなら艤装に損傷を与えるくらいは出来たはずだ。

 撃沈出来なくとも艤装を叩き壊して戦闘力を奪ってやれば、後は寄ってたかってボコるだけなのだ。

 

 重巡級くらいなら殴り殺せるが、戦艦級は無理。

 ならバイタルパート相当だろう強度の本体と違い、砲塔などに相当する艤装ならば、とも考えた。

 だが、それはそれで難しい。

 

 なぜなら、深海棲艦本体は硬いが柔らかいという矛盾した性質を備えている。

 表面数ミリくらいは柔らかな感じなのだが、その奥に硬い装甲がある感じだ。

 その性質が私にとっては有利に働いているのだ。ある程度の柔らかさがあるので打撃が通り易く、反作用が緩い。

 だが、艤装に関しては普通に鋼鉄そのものである。殴ったら表面から奥まで硬い。

 

 いくら5倍強化するにしても、分厚い鉄の塊を突き破るほどのパワーは出せない。

 そして、その反作用に耐えることも出来ない。艤装を殴り壊そうとすれば、私の拳が先に壊れるだろう。

 

 放たれた砲弾を躱しつつ、戦艦水鬼の姿を見る。艤装に多少の損傷はあるが、致命的と言うほどではない。

 やはり、魚雷では威力が足りないのだろうか。私でなく皐月ならいけそうだが……。

 しかし、皐月は魚雷こそ残っているが、発射管は空だ。戦闘中に再装填できるものではないから仕方ない。

 

 そこで皐月を見やり、私は皐月の砲も破裂していることに気付いた。

 左手の砲が破裂し、右手の砲で応戦しているが、それは今見ている目の前で破裂した。

 完全に私たちは砲火力を失った。天龍は残っているが、私たちと違って戦艦水鬼相手には豆鉄砲だろう。

 

「どうする、どうするんやうち……あっ」

 

 突っ込んできた天ねーが戦艦水鬼の艤装の腕を斬り飛ばした。ええ……。

 だが、直後にもう一本の腕に殴り飛ばされ、天ねーが吹っ飛んでくる。

 咄嗟にそれを受け止める。

 

「天龍!」

 

「大丈夫だ! 自分で飛んだ!」

 

 たしかに制服に損傷は欠片もない。

 って言うか、よく見たら殴ったはずの手の親指以外が全て切り落とされている。

 殴られながらも叩き切ったということらしい。

 

「くそっ、しくった!」

 

「なにが! その調子で叩き切って欲しいんやけど!」

 

「気付かれちまったら警戒されるだろ! 剣が届く距離で撃たれたらさすがに捌けねぇ!」

 

 それもそうである。天ねーの反応速度は異常に速いが、相手が動く前に自分が動くという初期動作の差で速いのだ。

 その差を帳消しにするほどに近ければ、天ねーの動きが間に合わずに砲撃が直撃するだろう。

 近距離戦で異常に強いのに近距離戦の方が不利とか言うよく分からん性質だ。

 とは言え、戦艦水鬼を倒せるのが天ねーだけらしいのはたしか。

 

「……うちが囮になる! うまいこと斬って!」

 

「それにしたって無理が……」

 

「それ以外に手がないやろ! あれを硫黄島に行かせたらどうなる思うとんのや!」

 

「ぐっ……わかったよ! やってやらぁ!」

 

「うちは突っ込むで! うまくやってくれ!」

 

「ああ!」

 

 海面を蹴立て、一気に戦艦水鬼へと肉薄する。

 天ねーが最大の脅威と認識したのか、戦艦水鬼は天ねーから目を離す様子が無い。

 それを確認しながら、私は魚雷をアンダースローで投げ放つ。

 

 駆逐艦なのにサブマリン投法で放った魚雷は戦艦水鬼に直撃。

 しかし、爆炎を悠々と中から断ち割って戦艦水鬼が顔を出す。

 そして、私はその顔面に左拳を思いっきり叩き付けた。

 

「ナカナカ、ヤルジャナイカ……シズメェ!」

 

 振るわれる艤装の腕。それを受け止め、そのまましがみ付く。

 そして、艤装の砲を引っ掴み、それを無理やり捻じ曲げようとする。

 

「おんどりゃぁぁぁあぁあああ――!」

 

 肩が引っこ抜けそうなほどに力を振り絞って、砲身を1本ひん曲げてやった。

 

「オノレ!」

 

 さすがに発砲したら砲身が破裂すると分かっているから撃ってはこない。

 とは言え、ダメにした砲塔は1つだけ。他の砲塔はまだまだ健在。引き剥がされたら撃たれる。

 相手も分かっているのか、戦艦水鬼は艤装の腕を振るい、身をよじってなんとか私を引き剥がそうとする。

 そうはさせじと私は必死にしがみ付きながら拳を振るう。

 

「あっ!」

 

「えっ? うあっ」

 

 妖精さんの声。何事かと思ったと同時、浮遊感。宙に散らばる鈍色の小さな破片。それは指の形をしていた。

 負担をかけ過ぎた義手の指が弾け飛んだ。バランスの崩れた私は空中で艤装の腕に殴り飛ばされた。

 

 海面を水切りの石のように何度も跳ねる私。上下感覚までも喪いそうな中、左手で思いっ切り海面を叩いて無理やり回転を止める。

 内臓にまで貫通してきた強烈な衝撃に吐きそうになるが、囮にならなくては。

 

「次はボクが相手だぁぁぁ!」

 

 立ち上がった私が眼にしたのは、武器を持たぬままに戦艦水鬼へと挑みかかっていく皐月。

 私ほどの身体能力を持たない皐月は副砲で撃たれながらも肉薄すると、戦艦水鬼の頭へと飛びつく。

 ボロボロになった制服は皐月が中破以上の損傷を受けていることを意味する。

 

「はっ、うちもやったわ……」

 

 気付けば私の制服もボロボロだった。考えてみれば、衝撃は貫通したが、痛みは大したことなかった。

 これが制服の恩恵と言うわけか。しかし、制服はもうボロボロ。その恩恵はもうない。

 次に殴られれば、凄まじい痛みが私に直接叩き込まれる。嫌だな、怖い。

 しかし、どういうわけか私の脚はもう突っ込むために動き出しているのだな。

 

「ラウンド2や! レフェリーおらんからなんぼでも立ったるわぁ!」

 

 皐月を引き剥がす戦艦水鬼。その顔面に飛び膝蹴りをお見舞いしてやる。

 重要なことを忘れてはいけない。私は囮だ。その主目的は、天ねーをコイツの視界から外すこと。

 猛烈な衝撃と、膝に鈍い痛み。そして、戦艦水鬼本体が拳を握り、私に叩き付けた。

 

「がはっ!」

 

 腹に穴が空いたんじゃと思うほどの激痛。脂汗がぶわりと染み出すのが分かる。

 だが、戦艦水鬼の腕を咄嗟に掴んだ私は吹き飛ばされることなく留まっている。

 腕を掴んだまま、私は戦艦水鬼の胸を蹴り飛ばす。あんなに硬いくせに、乳房を蹴り潰すとぐにゃりと柔らかい感触がした。

 反吐が出る。人を殺すための化け物が人間の女と同じような柔らかさを備えているということが、耐え難いほどの嫌悪を感じさせる。

 

「死ぃ、ねぇぇ!」

 

 戦艦水鬼の胸につけた足を支点に、腕を引っ張りながら捩じり上げ、関節を無理やり逆方向に曲げてやろうとする。

 しかし、戦艦水鬼は信じられない膂力で私を持ち上げて抵抗してくる。人間1人を軽々と持ち上げるなんて。

 いくらチート能力でも体重は強化不能だ。体重を利用した関節技は常人と大差ない威力しか出せない。

 そこで復帰してきた皐月が戦艦水鬼の足に掴みかかり、転ばそうとするためか持ち上げようとする。

 

「お、もいぃぃ!」

 

 しかし、辛うじて持ち上がったのか、戦艦水鬼がぐらりとバランスを崩す。

 咄嗟に戦艦水鬼が艤装の手を突いて無理やりバランスを取った。

 

「イマイマシイ! シズメ! シズメェ!」

 

 もう一方の拳が私の体にめり込む。めきめきと嫌な音が体内で響く。

 凄まじく悪い位置を殴られた。ボディの横。パンチ力のある相手に殴られるとキツイ場所。

 肺にまで突き抜ける衝撃に息を吐き出すも、私は手の力は緩めなかった。

 

「あぐぅ……! は、離さん、でぇ……!」

 

 あばらが折れた。間違いなく。

 呼吸が苦しい。目の前がちかちかする。

 

「ハナセ!」

 

 戦艦水鬼が腕を振り回し、皐月のしがみ付く足も振り回した。

 皐月が吹き飛んで行く中、私は必死で食らい付く。

 そして、りぃんっ、とまるで鈴の鳴るような、そんな軽やかな音が鳴った。

 

「エ……」

 

 戦艦水鬼が困惑したような声を発する。

 そして、するりと、その頭が首からズレ、海面へと落ちた。

 

「ソンナ……ワタシガ……」

 

「うるせぇよ」

 

 いつの間にか背後に居た天ねーが戦艦水鬼の頭部を踏みつけると、戦艦水鬼の頭部がそのまま沈んでいく。

 

「黒潮! 無事か!」

 

「げほっ、ごほっ、あんま、大丈夫や、ないな。あ、あばら、折れた」

 

「まじぃなそりゃ!」

 

「う、うちより、皐月……うちは、まだ動ける」

 

 そう言ったところで、皐月が戻って来た。

 

「ボクもまだ大丈夫! どこも怪我してないよ!」

 

「おお、太い子やな」

 

「太い!?」

 

「ああ、いや、強い子や言う意味や」

 

 どこの方言か知らないけど、たぶん京都弁ではない。

 

「ともかく、話しとる場合やないで! 敵はまだ残ってる!」

 

「あ、ああ!」

 

「ボクもなんとか頑張ってみる!」

 

「うちもまだ左手が握れる」

 

 言ってる間に艦爆が襲い掛かって来る。天ねーを蹴飛ばし、皐月を掴んで飛びのく。

 いってぇー! と盛大に文句を言う天ねーだが、爆撃の方が痛いから我慢しろ。

 

「はぁ、きっつぅ……!」

 

 折れたあばらが痛む。頭もガンガンする。むちゃしすぎた。

 だが、まだ戦える。ならば十分だ。

 

 主砲がなくても拳があるし、機銃だってある。

 機銃も理不尽な威力を発揮する私は駆逐艦や軽巡くらいなら余裕で倒せる。

 皐月はどうか分からないが、戦えるというなら戦えるのだろう。

 

 私は拳を握り締めると、また孤拳ただ一つをブチ極めに行った。

 いい加減、最後に頼るのが拳なのなんとかして欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、戦闘はそれほど長くかからなかった。

 旗艦だった戦艦水鬼を失ったからなのか、完全に統制を欠いた深海棲艦は大した抵抗も出来ずに撃沈。

 そうでなくとも逃げ帰っていく有様であり、1時間もせずに戦闘は終了した。

 時計をちらりと見やると、時刻は11時23分。5時間近く戦っていたことになる。

 

「ぎっづぅ゙……!」

 

 私は海面でしゃがみ込んでいた。あばらの骨折死ぬほど痛い。

 呼吸するたびにズッキンズッキン痛む。まじでちょうきつい。

 チート能力で痛み鈍化させてるのにマジ痛い。ヤバい。

 

「キツそうだな、黒潮……大丈夫か?」

 

「大丈夫やないけど……とりあえず、硫黄島いこや……うぅ、きつい……!」

 

「お、おう」

 

「皐月は、どない?」

 

「ボクは大丈夫。怪我もないよ」

 

 ボロボロの制服姿の皐月。

 

「あー……天龍」

 

「おう」

 

「皐月にブレザー貸したったら?」

 

「あー……そうだな」

 

 左胸がほぼ丸出しの皐月は大変セクシーなのだが、さすがにこれで硫黄島に戻るのは勇者が過ぎる。

 

「え? どうして天龍のブレザーを……うえぇぇえ!?」

 

 そこでようやく皐月が自分の制服がボロボロと言うことに気付いた。

 すると、慌てて手で胸を隠してしゃがみ込む。なにそれ、可愛い。

 

「も、もぉ~! なんなんだよぉー! み、見ないでぇ~!」

 

「あー、ほら、俺のブレザー着とけよ。でかいから大丈夫だろ」

 

「う、うん、ありがとぉ……」

 

 天ねーからブレザーを受け取り、いそいそと着こむ皐月。

 萌え袖ぶかぶかブレザーとか言う最強に可愛いものが爆誕してしまった。

 危ない、尊さが傷口に刺さって危うく轟沈するところだった。

 

「じゃあ、硫黄島いこか……」

 

「おう。黒潮、きついんだったらおんぶしてやろうか?」

 

「そのどでかいやつ仕舞ってから言えや」

 

「あっ、そうだった。艤装あるから無理だ」

 

「あ、じゃあ、黒潮、ボクが肩を貸すよ!」

 

「うぅ、すまんけど頼むわ……」

 

 皐月に肩を貸してもらい、私たちは硫黄島へとえっちらおっちら移動を始めた。

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