艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
お名前は一応伏せさせていただきますが、誤字報告をくださった方にも深く感謝しております
今後ともどうか本作をよろしくお願い致します
硫黄島になんとか戻ると、上陸地点……と言うか、砂浜のところで自衛官が待ってくれていた。
私たちと一緒に降下してきた人たちだ。制服と言うか服装が違うので分かる。
ボロボロの皐月に、肩を借りてなんとか航行している私の姿を見て焦ってる様子だ。
私たちはつんのめらないように、水上で軽く跳んで砂浜へと着地した。
「ああ、きっつぅ……」
着地と同時、しゃがみ込む。きつい。
「黒潮ちゃん、怪我はどこを?」
「ああ、塩田はん……あばらや、超痛い……」
「あばらか……抱き抱えるけど大丈夫?」
「好きにして……」
そう言うと、塩田さんにお姫様抱っこされてしまった。
きゃー、惚れちゃーう。って、そんなチョロい女と違うわ。
そして、私はそのまま硫黄島基地の医務室へと担ぎ込まれた。
痛み止めを処方されて飲み、あばらの骨折用のギプスを胴体に巻かれて処置完了。
あばら骨ってガッチリ固定できないから、処置ってそんなにかからないんだよね。
ボクシングのトレーニングで1回折った経験があるのでよく知ってる。その時はチートフル稼働で5日で治したけど。
そして、私は修羅場っているらしい近くのベッドを見る。
そこでは必死の救命処置を行う衛生兵たち。
為されるがままの顔色の悪い龍驤。えっ、龍驤!?
「えっ、ちょっ、龍驤さんどないしたんこれ!?」
「ああ、心肺蘇生処置……みたいだけど、かなり深刻みたいだ」
どすどす心臓マッサージをされる龍驤さん。
あそこまでやられると平たくなる通り越して胸へこみそうだな……。
「あんなにガスガス押してええの?」
「まぁ、肋骨が折れることはあるね」
「あるんだ……」
「でも心臓止まったままより肋骨折れた方がいいでしょ」
「言われてみればそうやね」
死ぬか骨折なら私も骨折選ぶ。当たり前の話だ。
「こう、ばりばりー、言うやつでバチンするんはダメなん?」
「あれは除細動の処置のためのものだから、アレ自体は心臓動かす道具じゃないんだよ」
「そうなん!?」
「そうだよ。強心薬とかで無理やり心臓を動かして、その状態を戻すためにやるのがDC……そのバチンってやつだね。それが出来ないからマッサージで心臓を動かしてるんだ」
「そうなんか……」
塩田さんにレクチャーされてしまった。そう言う仕組みだったんだ、あれ。
「龍驤ちゃんは鳳翔ちゃんに担ぎ込まれて来たらしいけど、詳しいことは知らなくて……なにがあったんだろう。外傷はなさそうだし……過労からくる心不全かな」
「ええ……過労死しかけてるんか……」
「と言うより既に過労死して、今なんとか蘇生しようとしてるところかな……肺は動いてるみたいだから、心不全さえなんとかすれば蘇生すると思うよ」
結局それからしばらくして龍驤は蘇生したらしい。
らしい、と言うのは、その時にはもう私は医務室から出ていたからだ。
ブリーフィングが出来る部屋を借りて、今後の作戦展開についての相談。
作戦は第一段階の序盤で止まったままなのだ。硫黄島に押し寄せる深海棲艦の撃滅には一応成功した……。
が、根拠地であろう場所にも襲撃をかけないと、増援や分遣艦隊の可能性が否定できない。
「事態は極めて深刻だ」
リーダーの自衛官が難しい顔でそう言う。
そう言えばこの人の名前知らないな。
名乗る素振り自体なかったのでいまいち聞けてない。
「空母龍驤が過労死で戦線離脱。幸い、靖国の先達たちが蹴り返してくれたらしくて蘇生したが、戦闘は無理だ。最低でも1週間は休ませないとダメとのことだ」
1週間でなんとかなるものなんだろうか。ならない気がする。
戦時下だから1週間の休息でなんとかしろやということだろうか。
史実でも過労死枠だったのに、艦娘になっても過労死枠とは……。
「そして、黒潮ちゃんが肋骨の骨折……率直に聞く、黒潮ちゃん。戦えるか?」
「いける」
私は一言、それだけを応えた。それ以外の言葉は何もないというように。
「そうか……せめて強めの痛み止めを出してもらうよう頼んでおこう」
「頼んます」
痛み止めとチート能力の併用でだいぶ痛みは楽になったが、まぁ、痛いもんは痛い。
もっと強い痛み止めを出してくれるというならありがたい限りである。
「それから、黒潮ちゃんと皐月ちゃんは中破したようだが……」
「うん、妖精さんに確認済みだよ。ボクの艤装は今日中には、黒潮の艤装も明日の夜明け前には終わらせるって」
「そうか、それは朗報だな。最低限、戦力は整うわけだな……」
そう言って難しい顔をするリーダーさん。
「ひとまず、硫黄島近辺の深海棲艦勢力は一時的に減少しているとみられる。そのため、現在海上自衛隊の護衛艦での輸送作戦が進行中だ」
「それ、大丈夫なん?」
「分からない。が、なにをするにしても硫黄島基地には物資が足りていない。艦娘の運用拠点としての能力もだ。そのため、輸送作戦の本題は硫黄島の艦娘運用拠点化だ」
「なるほろ……」
「やらざるを得ない、と言うのが実情だが危険度は極めて高い。そのため、護衛作戦のために明日の夜明けと同時、修復完了した艤装を着用の後に出撃となる」
「横須賀まで海の上行くん?」
「いや、C-1がここに着陸してるから、そのC-1にまた乗って厚木に行く。厚木からは車で横須賀に行く」
「あはい」
艦これらしさはどこにいってしまったのか。
いや、それが早いのは分かるんだが……。
「あの、質問よろしいでしょうか?」
鳳翔さんが手を挙げて尋ねる。
「構わない、なんだろうか?」
「沖縄近辺に深海棲艦が居る……と言うのは分かりますが、その場合、硫黄島を拠点化する必要性はあるのでしょうか? 長崎からの出撃で構わないのではないでしょうか? 距離的にもそちらの方が……」
「それは正しい意見だ。深海棲艦の撃滅と言う観点からすれば、その方が効率がいい……が、知っての通り、硫黄島は日本の喉元に突き付けられたナイフに成り変わる危険性も秘めている」
「それはつまり……陸上型の深海棲艦の存在が示唆されている、と言うことでしょうか? 硫黄島を基地化される危険性がある、と」
「その通りだ。これを」
そう言ってリーダーさんが持っていた紙をホワイトボードに張りだす。
なにかと思って見ると、どうやら写真のようだ。
なんだろう、どっかの島の上空からの写真のようだが……随分と遠景でよく分からないが、かなり海抜が低い島のようだ。
周辺の海の色が違って見えるのは、浅瀬の部分が広いからだろう。サンゴ礁……かな?
「これは?」
「ミッドウェー島だ。ここを見て欲しい」
そう言ってリーダーさんが指差すのは比較的小ぶりな方の島。
一見するとなにやら三角形の図形が描かれているように見えるが、長い道路が3本あるだけだ。
それが重なって三角形を作っているように見える。縮尺不明だが、これかなり長いのでは?
「これは……なんでしょう? 滑走路の中心に……なにかありますが……」
鳳翔さんがじーっと睨んでから疑問気にそう言う。
たしかに、三角形の中心になにやら白いものがポツンとあるのだ。
なにかしらの建物だろう、とは思ったが、なにが疑問なのだろう?
「陸上型深海棲艦が建築した陸上拠点だと考えられる。少なくとも、人類が建築したものでは絶対に無い」
「陸上型深海棲艦……本当に、いるのですね」
鳳翔さんが驚いたような声を出す。泊地棲姫あたりだろうか?
縮尺不明なのでなんとも言い難いが、滑走路の長さはキロメートル単位だろう。
そうしてみると……この建物も相当なサイズだということがわかる。
「ミッドウェー島は元々軍事拠点として使われていた島だが、既に軍事拠点としては閉鎖されて久しく、観光目的としても使われなくなった島だ。今年からは完全無人化の予定とのことで、人間はほぼ居なかった」
「そう言えば、ミッドウェー島の方から深海棲艦が来とるー、言うてたけど、その根拠ってもしかしてこれなん?」
「そうだ。この写真自体は2週間前のもので、上層部はミッドウェーが根拠地である……と考えている」
「その心は」
「ここ以外に根拠地と言えるものが見つからない。仮に、太平洋を東側から西側に……つまり、アメリカのある方向から日本側に向かって来るなら北赤道海流に乗る形で、南洋諸島を経由するのが自然だ」
「そうですね……距離的には6000キロ近くありますから、経済的航路となると……ですが、南洋諸島で無人島、と言われると……」
「そうだ。無人島と言えるものは少なく、あっても有人島に近く、確認は容易だ。容易でない場所も衛星観測で概ね分かっている。つまり、現状で深海棲艦が拠点化していると思われる場所はミッドウェー島のみだ」
「ん? ちょい待ち。つまり、なんや。そのあたりの島は襲われてへんの?」
「ああ、一切襲われていないそうだ。深海棲艦の行動基準は全く不明だ」
まったく嬉しくない当たりを引いているのか。いや、貧乏くじと言うべきか?
「とりあえず、ミッドウェーみたいに硫黄島も基地化されてまう危険性がある、言うのはわかったわ。ここの防衛拠点化も必須やろう、言うことも」
「理解してもらえて助かる。さて、ここで一度、大まかな作戦概要を改めて確認しておこう」
リーダーさんがホワイトボードに作戦概要を書き出し始める。
1 硫黄島防衛並びに空母龍驤との合流
2 硫黄島近辺の深海棲艦撃滅
3 沖縄防衛並びに坊ノ岬近辺の深海棲艦撃滅
4 北海道防衛。軽巡大淀との合流
5 北海道回復
6 ミッドウェー攻略
「現状はこのようになっているが、何か質問は?」
「は~い」
「はい、黒潮ちゃん」
「なんで今まで伏せてた艦娘さんの名前公表されたんです?」
「俺も知らなかったんだ。北海道にいるのが大淀だというのは先ほど知った」
「あ、そうなんですか」
大淀か……大淀……いや、軽巡なのだが?
戦艦とまでは言わないが、重巡くらい出してくれよ。
でもあのスケベスカート現実で見たらどうなってるのかは気になる。
「現状、北海道の戦線は安定している。深海棲艦も陸上でならば我々常人にも十分な対処が可能だからな。開戦当初よりも深海棲艦の戦闘情報も出揃っている」
「大型の深海棲艦もいけるんです?」
「ああ。深海棲艦には特有の弱点があるらしい。人型をしてこそいるが、船であることに違いはない。北海道の大淀はそう言っている」
「んー?」
船であることに違いはない。つまり船と弱点は同じと言うことだろうか。
ええと……船の弱点って……なんだろう? 私、そこまで軍事に詳しいわけじゃないからな。
「下方からの爆破に弱いんだそうだ。水中爆発と地上の爆発ではワケが違うが、それでも下方からの爆破が一番効くらしい。戦車砲の直撃よりも効果的だそうだ」
「ほえ~……」
「そのため、主に市街地戦で埋設したIED(即席爆発装置)を用いて戦艦級の深海棲艦の撃破にも成功している」
「なんや、テロリストみたいな戦い方してますね……」
「ま、まぁ、IEDと言っても92式対戦車地雷を利用したものだから……92式単体だと深海棲艦相手にセンサーが作動しなくてな……」
でもそれ結局IEDなんですよね?
とは言わないでおいた。
「んー、でも、そか……下方向からの攻撃が効く、ゆうことは、うちらも魚雷をまっすぐ当てるんやなくて、深海棲艦のまたぐらに叩き付けるように使うた方が効くんかな?」
「別にそんなことしなくてもおまえが魚雷当てたら大概一撃で死んでるじゃねーか……」
「言われてみればそやね」
でも戦艦水鬼みたいな化け物級になるとそうはいかないからなぁ……。
そう言う、深海棲艦の弱点みたいな部分の情報は欲しい。
「なんか、うちらでも役立つ弱点情報とかないんかな?」
「うーん……龍驤からの報告では、深海棲艦の艤装開口部は明白な弱点だそうだ。そこに爆弾を放り込めば、本来一発で撃破不能な深海棲艦でも倒せるらしい」
「それが出来るのたぶん龍驤さんだけや」
「だろうなぁ……」
艤装開口部って、たしかに一部隙間とか、煙突っぽい穴はあるけども……。
あそこにピンポイントで爆撃とか普通できないから。龍驤さんがバグキャラなだけだから。
いや、でも、私は艦載機操ったことないしな……もしかしたら、空母艦娘からしたら意外と出来てしまうのだろうか?
「鳳翔さん、実は意外とイケちゃったりするん?」
「絶 対 無 理 で す」
「せやろな……」
あまりにも力強く断言されてしまった。そのくらい無理らしい。
「あ、いえ、爆撃は……ですよ。弓で直接射るなら……」
「そうなんかぁ……」
鳳翔さん、弓使う時は普通にバグキャラなんだぁ……。
「あれ。ってことは、もしかして、鳳翔さんが弓で深海棲艦倒してたんはそういう?」
「ええ、そうですよ」
しかし、それだけで済むような戦闘だったろうか。
開口部とか継ぎ目とか、そんなレベルではなかった気がするんだが。
たしかに言われてみると、小型艦が主体で、大きくて軽巡や重巡程度だった……ような気はするのだが。
それに、5倍強化しているとはいえぶん殴れば倒せる相手だ。
艦娘パワーで射れば、意外と倒せる……のかもしれない。
「あー、さて、話を戻すが……」
そこでリーダーさんがインターセプト。そう言えば作戦概要の話だった。
「北海道の戦況は安定している。単純に状況だけ見ると一進一退と言う状況のようだが、意図的な一進一退だ。押した分だけ引いている、と言うのが正しく、意図的な膠着状態だな」
「なんでまた?」
「攻勢に出て敵を殲滅し切るほどの準備が無いからだ」
「なるほろ」
「予算が、な……昨年度の防衛費がもっとあれば……」
遠い目をするリーダーさん。準備が無いって武器弾薬そのものが足りないってことね……。
そうだね、艦娘戦闘団以外にも臨時予算充てられたけど、お金あっても即座に武器も弾薬も手に入んないもんね……。
「ま、まぁ、それはいい。そう言った状況のため、北海道への支援は急務ではなく、沖縄に本腰を入れられる。現状、硫黄島防衛は続行の状態だ。空母龍驤との合流には成功」
合流した矢先にあの世に先行してしまったが、戻って来たのでノーカンだろうか。
「艦娘戦闘団は硫黄島の防衛を続行し、硫黄島基地の艦娘運用拠点化を終える。ここまでが作戦の第一段階だ。そして、ここまでの作戦なのだが、どうしても君たちを分割せざるを得ない」
「まぁ、硫黄島守りつつ輸送護衛は無理やろしね……そやけど、どう分けるん?」
「輸送護衛に関しては黒潮ちゃんと皐月ちゃんを予定している」
「人選の理由聞いてもええ?」
「船速」
「あっ、そっかぁ……」
艦娘戦闘団で一番足が速いのは疑いようもなく皐月であり、次点で私である。
天ねーが目いっぱい飛ばしてた時も、実は多少ながら余裕があった。もう1割くらいはスピードアップ可能だ。
鳳翔さんは割と常識的な速度しか出せないらしく、私たちより確実に足が遅い。
「エアカバーが無い件に関してはどないするん?」
「海自は虎の子のイージス艦を総動員するそうだ。イージス艦の防空能力ならば敵航空機に対処可能だ。君たちは水上艦型深海棲艦への対処に専念してもらう」
「え? イージス艦ならいけるん?」
「可能だそうだ」
「そうですね。イージス艦の能力なら十分可能でしょう。ファランクスで5インチ砲弾の迎撃に成功したという試験もありますし、5インチと言うと13センチ程度ですから、深海棲艦の艦載機よりも小さいくらいです」
鳳翔さんがそんなトリビアを紹介してくれた。なるほど、それならいけそうだ。
航空機と砲弾なら100%砲弾の方が速い。それなら楽勝だろう。
「だが、イージス艦は空の対処は出来ても水上の対処が不可能と言っていい。サイズが小さすぎて砲の俯角が足りない。そのため、そのあたりは君たちにかかっている」
「任せとき」
「うん! まっかせて!」
胸を張って頼っていいんだよ! みたいな仕草をする皐月。
はぁ~、可愛い~。艦娘戦闘団の可愛い最強格~。なお戦闘力も最強格の模様。
「天龍ちゃんと鳳翔さんは硫黄島防衛のために残ってもらう。戦闘になれば厳しい戦いにはなると思うが……」
「任せとけ。みんなが帰って来るまで、キッチリ守っておいてやるよ!」
「ふふ、お任せください」
ところで、鳳翔さんだけさん付けなのは突っ込むべきところだろうか?
「現状はこんなところだろう。疲れているだろうところをすまなかった。以降は翌0700まで自由にしてもらって構わない。ただ、戦闘詳報については夕食までには提出するように頼む。基地内からも出ないようにな」
「は~い」
そう言えばそんなものもあった。テンプレート化してあるので、起きたことを書けば大丈夫! とは事前に言われているが。
まぁ、後でみんなで顔を突き合わせて書いてみるとするか。
「それから、基地の厚意で風呂を準備してあるそうだ。基地隊員の使用時間までは自由に使って構わないそうだから、潮を落としてサッパリしてくるといい。それでは解散」
お風呂! それはいい!
私のみならず、みんな顔を輝かせている。
やっぱり海風に晒されると、髪がギシギシ言うからね。
これはもう早速入らねば。
「天龍、早速お風呂いこや!」
「おう。背中流しっこしよーな」
なんて、子供っぽいようなことを言う天ねー。
それが、もう自分1人では背を満足に洗えない私に対する気遣いだと分かる。
分かり難いこともあるけど、そう言う優しい人なのだ。
私たちはうきうき気分で浴場の場所を確認して向かうのだった。