艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理   作:アズレン提督

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本作に太平洋戦争の死者を侮辱する意図はありません
本作はフィクションです


残留組の話

 翌朝、黒潮と皐月が機上の人となり本土へと戻っていく。

 とは言え、輸送艦隊と共に出航。硫黄島にまた戻って来ることとなるが。

 

 一方、硫黄島に残った天龍と鳳翔。

 天龍は妖精たちと入念な調整を行っていた。

 

「すげぇよなぁ、これ」

 

 夜を徹しての突貫作業で幾つも作られた刀。

 そのうちの1つを天龍は手に取って眺めていた。

 

「げんだいのはがねでさくとうしたかたなです。くろうしました」

 

「CV-134というらしいです。さびやすいので、かんむすにはむかないかも……」

 

 妖精たちは基本的に知識が古い。

 妖精たちはかつて存在した、第二次大戦期の人間たちの魂が核となった存在だ。

 人間としての記憶があるわけではないが、知識と技術はたしかに継承されている。

 そのため、現代の鋼は詳しくないし、現代になって実用化された工作方法も知らない。

 それらを急ピッチで学習して活かそうとしているが、それが刀に表れていた。

 

「こっちはあおがみというたんそこうです。とてもよくきれますが、やっぱりさびます」

 

「たいせいこうとうのせんもんかもいますが、たいせいこうはあつかいがむずかしくて……」

 

「オーステナイト・フェライトけいという、にそうけいのステンレスがよいとおもうのですが、どうでしょう?」

 

「いや、鉄のこと言われても分かんねぇよ……切れ味はそこまでなくてもいいけど、やっぱ頑丈で錆び難いのが一番だな。手入れの仕方なんかわかんねーし」

 

 天龍は剣道をやっていたが、日本刀なんて触ったこともない。

 当然、取り扱い方も分かっていない。そこをクリアしてくれればなんでもいいとすら思っていた。

 

「やはり、天龍さんにはぐんとうですね。キチッとしたかたなはだめです」

 

「そうですね。ていれしなんしょなんてばかげたもんをかくつもりもないです」

 

「せんちでかたなのげんみつなていれなんかできるわけないのです。どろみずにつけて、そのままさやにいれてもさびないかたながさいきょうです」

 

 あーだこーだとどれがいい、これがいい、あれがいい、と妖精さんは激論を交わす。

 切れ味だけなら炭素鋼がいい。だが錆びる。手入れが難しくて扱い切れないだろうと。

 錆びないならステンレス鋼がいい。しかし加工が難しい。それでも炭素鋼よりずっとマシだ。

 ステンレス鋼だと刃紋が出ない、刃紋なんかどうでもいい切れ味と耐久性だと喧嘩まで始める始末。

 

「ちなみにこれがたいせいこうのかたなのしさくひんです」

 

「なんでこれ茶色いんだ?」

 

 やけに茶色い刀を手にした天龍。特にそれ以外に問題点があるようには見受けられないが、妙な色である。

 

「ステンレスはやきいれが……むずかしい……」

 

「やきいれミスると、なぜかちゃいろになります。まぁ、しさくですので、ほんばんはちゃんとしたのをよういします」

 

「でも、バネのようによくしなるので、めったにおれませんよ!」

 

「かんれいちたいせいもばつぐん! それはオーステナイトけいなので、マイナス196℃でも8わりのきょうどをほしょうします!」

 

「ちなみにこっちのフェライトけいですと、マイナス40℃で2わりのきょうどです。これはほっかいどうにもってっちゃだめです」

 

 あらゆる鋼にまつわる問題であるが、低温脆性と言う低温環境下での脆さが金属にある。

 炭素鋼はマイナス0℃以下の環境で使ってはならないと言われるほどである。

 対して、ステンレスは種類にもよるが、マイナス40℃の環境でも殆ど強度低下を起こさないものがある。

 

「へー……よく分かんねーけど、これなら北海道に持ってってもいいんだな?」

 

「はい! こんごもしさくをかさねますので、もっといいものをつくってみせますよ!」

 

「たんそこうのかたななんぞとはちがいます!」

 

「なんだときさま、たんそこうのかたなこそきれあじにてさいりょう!」

 

「そうだそうだ、たまはがねでうちきたえたかたなこそしこう!」

 

「それはちがう」

 

「なにいってんだこいつ」

 

「たまはがねとかはなしにもならん」

 

「きさまらおもてでろ!」

 

 そしてまた喧嘩が始まる。

 

「……あいつらはなんで喧嘩なんか始めてんだ?」

 

「とうこうようせいにもはばつがありまして。じつよういっぺんとう、たいせいこうのかたな、ステンレスとうがさいきょうというもの」

 

「ああ、これ作ったやつらだよな」

 

 天龍の艤装についている天龍似の妖精の解説に、天龍が手にした刀を持ち上げる。

 

「ですです。きれあじとたいりょうせいさんのりょうりつがかのうな、たんそこうのかたな、いわゆるぐんとうがさいきょうというもの」

 

「戦争で使うってなると、たくさんねぇと話になんねーしな」

 

「にほんこらいのさくとうほうほう、たまはがねをうちのばしてつくるにほんとうこそがさいきょうというもの」

 

「ああ、なんか聞いたことあるな。玉鋼っつー鉄で作んねぇと日本刀にならねえとか……」

 

「そうです。でも、たまはがねはあつかいにくいてつですので」

 

「そうなのか?」

 

「それはちがいます! たまはがねはうちのばすのにさいてきなてつです! うちのばしてつくるかたなにはむいています!」

 

「うちのばさなくてもすむげんだいのはがねのほうがらくでは?」

 

「なんならスプリングこうはけずってやいばをつけるだけでよゆうでぐんとうなのですが?」

 

「ベイナイトこうをたんぞうしようとしてだいなしにしたあほがなにかいっておりますね?」

 

「むきぃー! きさまらおもてでろ! わたしのつくったにほんとうのさびにしてくれる! ぐえっ」

 

「あー、かたなむりにもとうとしてまーたつぶされてますよ」

 

「なんかいやらかしたらがくしゅうするんでしょう」

 

 どうやら刀工妖精の中で玉鋼派は弾圧されているらしい。

 でも喧嘩する様子とかが可愛かったので、天龍はもうちょっと見ていたくなった。

 

「よく分かんねぇけど、俺は錆びない耐錆鋼の刀の方がいいな」

 

「おおー! おめがたかい!」

 

「やはりたいせいこうのかたなこそパーフェクト」

 

「がんばればはもんだってだせます。天龍さんにはかねながのだいさくにまけないものをごよういしますよ!」

 

「たのしみにしててくださいね!」

 

「むきー! りくじょうでつかうならたんそこうだっていいはず! ていれはわれわれがする!」

 

「それはそれでありなのでは。いまのところせんぞくしょくにんみたいなものですし」

 

「ということはやはりたまはがねのかたなだって!」

 

「まずたまはがねてにいれてからいえというはなしです」

 

「せいさんりょうへっててろくにてにはいらんものをあてにできないです」

 

「むきぃー! いまからたたらをつくる! ものどもつづけ!」

 

「さてつどこからとるのでしょう」

 

「しっぱいさくのかたなをいつぶすのでは」

 

「それたまはがねといえるのですか」

 

「さぁ、きょうみないです」

 

 努力の方向音痴を始める玉鋼派の妖精さん。

 そしてそれを華麗にスルーし出す軍刀派閥の妖精さん。

 ちなみに、耐錆鋼と炭素鋼で分かれているが、どちらも軍刀派閥ではあったりする。

 軍刀派閥と玉鋼派閥が対立しているのだ。

 

「ところで天龍さん」

 

「おう、なんだ?」

 

「黒潮さんのかたなをみていただきたいのですが」

 

「俺が? 見るのは構わねぇけど、あいつ向けの刀でなんか分かるかな……」

 

 と言いつつ、天龍は黒潮専用と言う触れ込みの刀を見ることにする。

 

 案内された先は、熱気に満ち満ちた部屋だ。

 まるでこの部屋だけが真夏のような熱気に満ちている。

 冬場であっても暖かく過ごし易い硫黄島の空気よりも遥かに熱に満ちている。

 

「あちぃな……」

 

「ごめんなさい、ねつしょりじょうなので。いまあがったばかりのいっぴんですよ」

 

 そう言って妖精が指し示したのは、巨大な刀だった。

 巨大とは言うが、長さ自体はそれほどでもなく、天龍の受け取った刀よりも短い。

 巨大なのは、刀そのものの分厚さと、横から見た場合の長さである。指3本分もあるだろうか。

 

「ちょっとみじかめですが、黒潮さんのりょりょくにあわせたかたなです。けさうちあがって、ついさっきねつしょりがおわりました」

 

「ふうん。刀ではあるんだな。って、重いな」

 

 持ち上げてみると、ずっしりと腕に来る重さがある。

 持てないというわけではないが、振り回すのはかなり困難が伴う。

 天龍の家にあった、素振り用の木刀よりも格段に重い。

 家にあった1.75キログラムの素振り用木刀の倍近いだろうか。

 

「4.2キロあります。かなりのごうけつでないとふりまわせません」

 

「ふうん……」

 

「とにかくがんじょうさをゆうせんして、ざいしつもねばりづよさをゆうせんしました。そのかんけいでステンレスはつかわなかったのですが」

 

「そうなのか」

 

「ただ、できあがってからわかったのですが」

 

「わかったのですが?」

 

「みためがぜんぜんうつくしくありません」

 

「どうでもよくねぇか……?」

 

 たしかに、やたらとデブに見える刀で外見的に惹かれるものはまるでないのだが。

 刃紋にこだわる妖精のようなことを言い出しているが、それは重要なのか。

 天龍にとってはそう思えてならないのだが、妖精さんは違うらしく、首を振る。

 

「もちろん、せっぱつまったじょうきょうならわたしたちもだきょうするのですが」

 

「するのですが?」

 

「そこまでせっぱつまってよういしなくてもいいので、ならもっとがいけんこだわろうかなって」

 

「ああー……」

 

 硫黄島から本土までは約1200キロ。一朝一夕で帰って来れる距離ではない。

 C-1輸送機で本土に戻り、車で横須賀に戻り、それから出航するとのことで、出航予定時間は翌朝の0600時となっているらしい。

 そこから早めに見積もっても20ノット毎時程度が限界だろうから、最低でも帰って来るまで丸2日は掛かる。

 そして基地に戻って、拠点化完了までここで過ごすことになるので、時間的猶予はそれなりにあるのだ。

 仮に間に合わなくても、以前の天龍剣を量産して誤魔化せるし。刀工妖精は職人気質なのだ。

 

「まぁ、なんだ、要するにだ、刀でこれじゃ見た目が美しくねぇってことだよな」

 

「はい。もっとながくすればいいのですが……しかし、かたなというのはしんちょうにあわせるものなので、これいじょうながくするとあつかいにくく……」

 

「じゃあよ、こういうのはどうだ?」

 

 言って、天龍が取り出したのはスマホ。現在の最新鋭のiPhone、iPhone5だ。

 それを操って見せたのは、天龍が愛好するゲームの主人公の画像だった。

 

「こいつの持ってる剣とかどうだ」

 

「ううーん? かたばのけんですね。なんでしょう、みたことないタイプのけんです。しりょうとしてせいようのけんなんかもみしっているのですが……とんでもなくぶあついサーベルでしょうか」

 

「え、いや、剣の種類は知らねぇけど。分厚くて見栄えがする剣にするなら、こういう感じじゃねえか?」

 

「なるほど、われわれにはなかったはっそうですね……スケッチとらせてもらっても?」

 

「いいぞ」

 

 どうせ電波が入らないので、持ってきた意味もロクにない代物である。

 しいて言えばカメラなら使えるが、機密事項もあるので撮影禁止とのことで撮影防止テープが貼られているのでカメラとしても使えない。

 

「うーん、ほんとうにぶあついけんですね。おもさでおしきるかんじですか」

 

「あいつ腕力は超一流だからな。それに、砲弾を弾き飛ばすこともあるから分厚さがあった方がいい」

 

「なるほど。これをさんこうにしてみましょう。ありがとうございます、天龍さん」

 

「なに、いいってことよ」

 

 これで悪魔も泣きだすような剣をリアルでお目にかかれるだろう。

 天龍は満足げに頷き、妹分を悪魔も泣きだす深海棲艦狩人に仕立て上げる算段を立て始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍驤はベッドの上で今は静かに憩っていた。

 あの世に召されかけたこともあったが、川の向こうにいる自衛官に威嚇射撃で追い払われた。

 いくらなんでも威嚇射撃はやり過ぎやろ! と怒鳴ったところで、ベッドの上に転がっていたのである。

 

「ふわぁ~……なんぼでも寝れる。目ぇ溶けてまうわ」

 

 寝溜めは出来ないってなんかで見た気ぃがするんやけどなぁ~、なんて呟きつつ、龍驤は医務室のベッドを転がる。

 疲弊した内臓類の疲労が抜けるまでは医務室で安静にしていろとのことだが、やることが無い。

 ちなみに、外の哨戒は自衛官がUH-60Jなどを用いて行っており、艦娘は基地内で待機である。

 

「ふわぁ~あ……おう、朝も早よから気張っとるな~」

 

 ふと窓の外を見やれば、訓練をする自衛官たちの姿。

 迷彩柄の野戦服ではなく、緑がかった茶褐色の服装だ。

 なぜかは知らないが、迷彩柄の野戦服を着た自衛官と、緑がかった茶褐色の服装をした自衛官が居るのだ。

 特に尋ねたことは無いが、部隊が違うとかそのあたりが理由だろう。ちなみに後者の方がめちゃめちゃ多い。

 

「そやけど、違う服の自衛官の人らが交じって訓練しとんの見たことないな」

 

 夜中に外で歩き回っていたりするのも大抵は茶褐色の自衛官だ。

 不思議だな~、と思いながら訓練風景を眺めていると、医務室のドアが開く音。

 

「失礼します。あら、龍驤さん。起きてらっしゃったんですね」

 

「鳳翔さん。なになに? うちのお見舞い? うちメロンがええな」

 

「あらまぁ、現金な人ですね。リンゴを持ってきたので剥いてあげますね」

 

「やりぃ。リンゴなんて久し振りや」

 

 メロンじゃないのは残念であるが、冬場なのでリンゴが美味しい季節だ。

 まぁ、硫黄島にいると気候が暖かなので、9月とか5月とかかと感じるのだが。

 

「ところで、なにを見てらしたんですか?」

 

 窓の外を見ていたのが気になったのか、鳳翔がそう尋ねる。

 

「ああ、自衛官の人らがなんや訓練しとるんよ。ヒマやから眺めとった」

 

「そうなんですか」

 

 ひょい、と鳳翔がそちらを覗き込む。

 そこには何もない広い草原が広がっていた。

 なにもない。自衛官も、いない。

 

「誰もいませんけど……」

 

「は? いやいや、おるやん」

 

 龍驤が覗き込むと、やはり茶褐色の制服を着た自衛官がいっぱいいる。

 手にはなにやら長い銃を持っていて、整列して歩き回っているではないか。

 

「ええ? 龍驤さん、冗談にしてもちょっと無理があるというか……あ、もしかして何かのギャグでしたか?」

 

「うちこんな分かり難いギャグ飛ばさんよ。ふつーにおるやん。茶褐色の軍服着とって、頭にまんまるいヘルメット被ってるやん」

 

「えっ」

 

「基地内やとあんま見かけん人らやけど、夜なんか宿舎にたまにおるで。水くれ言うから水やるとどっか行きよるけど。水飲ませて貰えんのかな。昔の体育会系みたいやな」

 

 なんて顎を撫でながら龍驤はひとくさり笑う。

 一方、鳳翔は顔面を蒼白にしている。

 

「あ、あの、龍驤さん。その、それは……そ、その自衛官の人は……き、基地にもいるのでしょうか?」

 

「普通におるけど? え? 見かけたことない?」

 

「な、ないですね……」

 

「ふ~ん。と言うか、外におらんかった?」

 

「えっ。い、居ませんでしたけど」

 

「あら? 栗林さ~ん?」

 

 そう、龍驤が呼びかけると、スッと音もなくドアを開けて自衛官が入って来た。

 龍驤の言う、茶褐色の制服を着た自衛官だ。そして、龍驤にサッと敬礼をする。

 

「どうされましたか、龍驤殿」

 

「いやな、鳳翔さんがあんたさんらみたいな人見かけたことがないて言うてるんやけど」

 

「そうでしたか。しかし、私は昨夜、航空母艦殿には失礼がないようにと鳳翔殿にご挨拶申し上げたのですが……」

 

「そうやったん? 鳳翔さん、栗林さんそう言うてはるけど」

 

 なんて、龍驤が鳳翔に顔を向けると、鳳翔は顔面蒼白である。

 だって、龍驤が声をかけると、誰もいないのにドアが開いて、そのまま閉まったのだ。

 それに飽き足らず、龍驤は誰もいないところに親し気に声をかけ始めるではないか。

 

「あ、あの、龍驤さん、だ、だれと、はなして……」

 

「え、誰て……栗林さん。ここやと結構な古株らしいで」

 

 鳳翔はしめやかに卒倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳳翔は目がいい。自分より目がいい人を見たことが無いくらい目がいい。

 具体的にどれくらい目がいいかと言うと、真昼間だろうと星座が見えるくらい目がいい。ちなみに視力5~6くらいあれば見える。

 動体視力も凄まじくいい。飛んでくるボールの縫い目だって余裕で見えるし、なんなら深海棲艦の砲弾の回転だって見切れる。

 ただ、それに反応できるだけの反射神経が無いので、仮に撃たれても避けられないが。

 とにかく視力に関することなら他の追随を許さないのが鳳翔だ。

 

 ただ、それを人に話すことは無い。幼かった頃、昼に星座が見えると言って嘘つきと言われたのが理由だった。

 もしそこに黒潮が居れば、普通に共感してもらえただろう。黒潮も視力を最大強化すれば昼間だろうが星座が見える。

 

 だが、そこに黒潮はいなかった。だから、今でも人に話すことは無い。

 

 その視力の良さは、鳳翔が意識すれば、もっと違う形での目の良さとなって現れる。

 視ようと思えば、本土にいる両親の姿だって視れる。物理的に視界が通らない場所であろうと。実を言えばミッドウェー島も見えている。

 視ようと思えば、ちょっとした未来だって視れる。鳳翔が深海棲艦と余裕を持って戦えたのは、襲来する日の朝にはそれを見ていたからだ。

 

 とにもかくにも特別な眼。それが鳳翔に備わった天性。

 

 極限まで集中して、敵を倒すことを意識すれば、何処を穿てば死に至るかも視える。

 人間なら心臓であるとか、肝臓であるとか、そう言う部分であり、未来視の限定的な使用法とも言える。

 どんなものだって必ず死ぬのだから、それを現在に引き寄せる方法だって視えるだろう。

 

 そして、視ようと思えば幽霊だって視れた。

 

 でも視ない。こわいから。ゆうれいこわい。ちょうこわい。

 靖国神社にいた幽霊は怖くなかった。鳳翔がミリオタになったのは靖国の英霊が理由だ。

 だが、それ以外のところにいる幽霊はめっちゃこわい。おしっこもれちゃう。

 

 硫黄島にいっぱい幽霊がいるだろうとは思っていた。

 だから頑張って視ないようにしていたのに、なぜそれを貫通して姿を見せてくるのか。

 

 靖国の英霊が怖くないのは祀られているからで、そうでない場所の幽霊は怖いのだ。

 見た目がヤバかったり、言動がヤバかったりと色々とあるが、とにかく怖い。

 硫黄島にいる幽霊はほとんどが戦争の戦死者である。絶対に怖いハズだ。靖国にいない以上は怖い、はずだ。

 

「はわっ!?」

 

 鳳翔が飛び起きる。場所は医務室。すぐ近くの椅子には龍驤が座っていて、リンゴをもしゃもしゃ食べていた。

 

「あ、起きた。おはようさん」

 

「え、あ、お、おはようございます」

 

「どしたん、突然倒れて。うちみたいに過労? ようないよ、ちゃんと休まな」

 

 などと過労死した龍驤がのたまう。

 理由があって休めなかったのではあるが、これほど説得力のない言葉も早々あるまい。

 

「栗林さんもそうやそうや言うてるし」

 

 鳳翔はダッシュで逃げた。

 おお、見よ、その健脚。

 

 腕を左右に振る女の子走りでも、適性値1432の齎す肉体強化の効能よ。

 100メートルを12秒フラットで走り抜ける健脚は鍛えた男子でも易々とは追い付けない。

 幽霊とても、その速度に追いすがるのは困難だ。

 

 ちなみにだが、硫黄島における戦死者は両軍併せ2万5000にも及ぶ。

 

 硫黄島の面積は21平方キロメートル。

 1平方キロあたりに約1200人の幽霊がいる。

 

 必死に走る鳳翔には何も見えていない。

 まさか自分が、あちこちにいる両軍の戦死者たちに

 

「なんか女の子が可愛い走り方してる。かわいい~」

 

 と思われてるなんて……。




今週は昼勤ですので更新時間は今日を除いて夜になる予定です
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