艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
C-1輸送機のとにもかくにもやかましい貨物室で座席に座って輸送。
厚木基地で降り、そこから自衛隊のトラックで横須賀へ。
本土に戻ったので出来ることなら買い物したかったのだが、ちょっと出来そうにない雰囲気。
横須賀も深海棲艦の襲撃があったのだろう、悲惨な被害状況だ。買い物は難しそう。
それに、こっちらへんは地元ではないので何処で買い物すればいいかなんて分かんないし。
何か必要なものがあれば自衛官の人が用意してくれるとは言われてるが、さすがにね。
私は気にならないんだが、皐月は気にするかもしれないし、ブラジャー買わされる自衛官も可哀想だろう。
いや、女性自衛官もいるから、その人たちが代わりに買ってきてくれるのかもしれない。それならセーフだろうか?
さておき、横須賀に到着し、基地に入ると妖精さんにお出迎えされる。
いやもう洒落にならないくらい妖精さんいる。
どれくらい居るかって言うと、私と皐月が埋め尽くされてひっくり返されるくらいいる。
リーダーさんは突然ぶっ倒れたように見える私たちにビックリしていた。
リーダーさんは妖精さん見えてないので、妖精さんに倒された私たちはそう見えているだろう。
そして、私たちの体の下に入り込んだ妖精さんが私たちを担ぎ上げる。
「おわっ!? な、なにすんねーん!」
「わぁぁ! な、なんだよー! なにするんだよー!」
リーダーさんの目には、突如として地面に倒れ込んだと思ったら浮き上がり、そのまま水平移動してるように見えるのだろうか……。
そんなことを思いつつ妖精さんに強制連行された先は、工廠。
背負っていた艤装を引っぺがされ、改修作業に入る! と宣言。
「あ、黒潮さんたちはかえっていいですよ」
「お、おう……」
艤装の改修に私たちは要らない模様。
……私たちごと持ってくる必要はあったのかな?
艤装の改修って何をするのか。
そう思って妖精さんに聞いたら、順当に近代化改修するらしい。
砲を連装高角砲にし、機銃も新しいものに交換するらしい。
……つまり改か?
よく考えたら改造なんてした記憶が無いので、私は無印黒潮だったことになる。皐月もそうなる。
って言うか、私たちの練度ってどうなってるんだろう。倒した敵の数考えると50とか行っててもおかしくないが。
改二になったらどうなるんだろう。髪の毛も伸びるのだろうか……? 皐月はどこからか刀が生えるのだろうか?
「なになに? ボクがどうかしたの?」
じっと見ていたら可愛らしくぴょんぴょこする皐月。
思わずあばらを押さえる私。
「な、なんちゅう威力や……頭がフットーするかと思ったわ……」
「なにが!?」
尊さが傷口に刺さった私。困惑する皐月。
リーダーさんが迎えに来てくれるまで、私はギガブレイクに耐えるクロコダインのような心持で耐えていた。
出航は明日の朝6時。つまり、明日の朝5時半には最低でも起きる必要がある。
もっと言うなら5時には起きて、身嗜みを整え、朝食を済ませる必要がある。
海自の朝は早いものだよ、なんてリーダーは言ってたが、大変だなぁ……。
で、それまで待機。
……やることがなにもないのだが? いつもならトレーニングでもするが……。
さすがにあばら折れた状態でトレーニングはしない。したくもない。
ので、皐月と一緒に基地のPXを物色してる。
PXとは言うが、見た目コンビニ……いやこれ普通にコンビニでは?
iTunesカード売ってるし、ホットスナックも普通に売ってるが?
頑丈そうなブーツとかカバンなんかが売ってるのが自衛隊らしさだろうか……。
「うちこれ好きなんよね。酢だこさん太郎。原料、鱈すり身でタコやないけど」
「そうなんだ。ボクはチョコが好き!」
そう言って麦チョコの袋を手に取る皐月。
私は酸っぱい系の駄菓子をカゴに放り込んでいく。
酸っぱいもの好きなのよ。天ねーには妊婦かよとからかわれるが、妊婦は酢だこさん太郎を食べたがるのだろうか……?
「チョコやとうちはこれが好きやね、やっぱりトッポよ。最後までチョコたっぷりやし」
「おいしいよね! あ、これも好きー!」
言いながら笑顔でたけのこの里を手に取る皐月。
おっと、きのこたけのこ戦争勃発か?
まぁ、私もたけのこ派なので今のところ問題ないが。
どうでもいいが天ねーもたけのこ派である。
しかし、あんなことあった割に品揃え豊富だよな……。
あれだけのことが起きたら、棚も空欄が目立つとかありそうだが。
自衛隊の基地内だからだろうか?
「しかし、缶詰とかご飯のパックとかえっらい置いてあるな。インスタントのみそしるも」
通常のコンビニのレベルじゃない量が揃えてある。
海外派遣される自衛官が爆買いするのだろうか?
「買っとこ」
給料はまだだが、前借りも出来るとのことだし、私はなんやかんや結構お金を持ってたりする。
私の趣味は競馬。でかいレースを見るだけ派だが。天ねーのパパ、龍田川さんの趣味も競馬。
前世の最後あたりに嵌ってたソシャゲの影響で、でかいレースの着順くらいは覚えてる。
覚えてたというか、将来絶対に役立つからとメモを取っておいてたのだが。
で、朝日杯FSでロゴタイプの単勝馬券を代わりに買ってもらった。単勝34.5倍おいしいです。
お陰で懐は大変温かい。もちろん龍田川パパに1割の分け前は渡した。
「……今年のダービーどないなるんやろなぁ」
皐月賞もロゴタイプが勝つのは覚えてるが、東京優駿はキズナが勝つ。
そう、競馬ファンなら知ってる、高低差200メートルの坂の年だ。
着順も覚えてるぞ。キズナ、エピファネイア、アポロソニックだ。
つまり、3連単勝ち確である。5万円ぶっこむつもりだったのに……。
それを抜きにしても、普通に楽しみにしてたのになぁ……実況の方のバクシンオーは怪我なんかしてないだろうか……。
「だーびー?」
「競馬の話や。うち、お馬さん好きなんや。かわいいんよ?」
「そうなの?」
「そや」
地元に数は少ないが牧場もあったりするので、馬を見に行ったりとかもしてた。
可愛いよ。でかいけど。いや、ほんとにサラブレッドってでかい。びびる。
「可愛いし、頑張っとるし、応援したらな、って思わされるわ。可愛いしな」
「そうなんだ。ボクも今度見てみよ~。テレビでやってるんだよね?」
「そやよ~。まぁ、この状況やから、開催するかは分からんけど……ダービーはやってくれると、ええんやけどなぁ」
さすがにこんなことがあったので着順はズレそうだが、それはそれとして見るぞ。
「さて、とりあえずこんなもんでええかな。今回荷物いっぱい持てる言うからありがたいわ」
自分で運べるレベルなら、つまり手荷物レベルならどれだけ持ってきてもいいらしい。
空輸は重量的制約が厳しいけど、船だと割と緩いとかなんとか。
おっと、入れる鞄が足らんから、ありがたいことに売ってる鞄も買うか。
「あ、ボクもかばん買おうかな。って、迷彩柄ばっかりだね」
「なんでやろな。海自の人が多いはずなのに」
全国のPXで一律で仕入れてる品だったりするんだろうか?
そう思いながら迷彩柄の鞄を購入。お菓子も山ほど買った。
それを手に割り当てられた部屋へと戻り、皐月とお菓子を広げながら駄弁る。
「ほえ~。皐月っちゃんモテるんやねぇ」
「そんなことないよぉ。黒潮の方がモテるじゃないか」
自然と恋バナの方に話が進んだが、皐月ったら3回も告られたことあるらしい。モテモテじゃーん。
私も告られた回数を教えた。聞いて驚け、11回だ。めっちゃモテモテ。
私、学校だと大人しくて優しい優等生だからなぁ。整っちゃいるけど、顔立ちも地味目で、なんかイケそう感があるのかも。
「ちなみに全部断ったん?」
「うん。そう言うのよく分かんないし、それに院のお兄ちゃんみたいに大人っぽい人がいいなって……」
「はぁ~! お兄ちゃん! お兄ちゃん! 捗る~!」
「なにが……?」
「うちも皐月っちゃんにお兄ちゃん言われたかったわ……」
「お姉ちゃんじゃなくて?」
「お兄ちゃんの方がポイント高いやん」
「ボクの言動って点数制だったの……」
男の子にだったらお姉ちゃんって呼ばれたいが、女の子だったらお兄ちゃんって呼ばれたいんだよ。
分かってくれ、尊さポイント審査委員よ。
「じゃあ……黒潮お兄ちゃん?」
「はぁー!? 金払うぞ! なんぼや! 30万まで出す!」
「なんで!?」
「はぁ、はぁ……あばらが軋むわ……クールダウンしよ……」
買ってきたスポドリをくぴくぴ飲んでクールダウンする。
どうでもいいが私はポカリ派である。
「ええと、黒潮も告白されたの断ったの?」
「条件付きで全部OKしたけど」
「えっ、そうなの? 条件って?」
「ボクシングでうちに勝てたら」
「……勝てた人いるの?」
「おらんね」
ヘビー級ボクサーだろうが私に勝てないのに、同年代の男子が勝てるわけないだろ。
なお、それで3人ほどうちのジムに入会したので、トレーナーにもっと告白されろ、と無茶振りされた。
「ちなみに、天龍も実は男子人気結構あるんよ。まぁ、あの乳やからね」
「そうなんだ。おっきいもんね……」
「うん……ほんまでかい……」
思わず自分の胸に手を当てる。ちっちゃい……。
「まぁ、告られたことはあんまないらしいけど……」
男っぽい言動だからなのかは不明だが、告られたこと自体は少ない……らしい。
自己申告なのでどこまで正確なのかは不明だが。
「鳳翔さんはどうやろな」
「鳳翔さん女子校なんだって」
「あ、そうなん?」
へー、女子校。いまどき少ないのに。
「男子校は猿の惑星らしいけど、女子校はどうなんやろな……制汗剤の臭い凄そう」
女子の着替えた後の更衣室とか制汗剤の臭いヤバかったりするからなぁ。
声を大にして言いたいんだけど、制汗剤って汗掻いた後じゃなく、汗掻く前に使うんだよ。
汗掻いた後に使うなら、デオドラントシートとかでちゃんと拭いてから使え! 体育終わってから使うな、あほ!
「龍驤さんとかはどうなんやろなー。って言うか、龍驤さんって歳幾つなんやろ?」
背は小さいけど、私より年上な気はするんだよね。
「高校生かな? 中学生かな?」
「高校生ちゃうかなぁ。って言うか、龍驤さんどこの人なんやろ?」
関西弁喋ってたけど、エセって感じじゃないイントネーションだったし。
関西の人だとは思うんだが、そうだとするとなんで沖縄近辺にいたのか謎だし。
「関西弁だから、関西の人なのかな?」
「そうなんやろうけど、なんで沖縄居たんかなぁ。学校サボって沖縄旅行やろか」
それとも修学旅行? 一部冬に沖縄に修学旅行行く学校ってあるし。
でも、冬休みが明けた直後に修学旅行に行くだろうか?
いや、大穴として、実はもっと歳行ってて自衛官だったりして……。
硫黄島にいたのは硫黄島に駐在してる自衛官だから、とか。
「硫黄島戻ったら聞いてみたいな。なんであないなところに居たんか」
「だねぇ。北海道の大淀さんはどうなんだろ?」
「ふつーに北海道在住やない? この時期にわざわざ北海道行く人は……おるんかな?」
この時期に北海道でやってるお祭りとかってなんかあったっけ。
さっぽろ雪まつり……はもうちょっと先だしな。
「北海道かぁ。ボク、近畿の方に住んでたから雪ってあんまり降らないんだ。どんな感じなのかなぁ」
「北海道の雪は本州の雪とはだいぶ性格ちゃうからなぁ……箒で掃き出してまえるで」
さらさらの雪だから、砂みたいに箒で掃き出せてしまうのだ。
本州の方だともっと水分量が多くてべっとりしてるので、スコップ必須である。
「大淀さんの北から目線を期待しとくかあ。豪雪地帯特有の積雪量の感覚バグが拝めるかもしれんで」
「感覚バグ?」
「積雪1メートルは序の口とかそう言う感じや」
「1メートル……お腹まで埋まっちゃうよ!?」
「うちのおとんがそう言うてた。東北出身やから感覚割とバグっとるからな」
公園の進入禁止のポールが雪に埋もれて見えなくなってからが本番とか言い出すからな。正気か?
その後、北から目線について盛り上がり、私たちは1日を駄弁って過ごすのだった……。
翌朝、夜明け前に起き出すと身支度を整え、集合時間の10分前に集合場所へ。
リーダーさんは既に待機してた。いつもの服装の上に、迷彩柄のジャケット着てる。防寒着かな。
「早いね、2人とも。準備は大丈夫?」
「大丈夫やよ~。艤装もバッチリや」
背負ってる艤装をコンコン叩く。改になったらしい。違いは……よく分からん。
連装高角砲になったから対空が楽になったとのことだが。ただ、機銃が3連装になったのはいいかも。
「ボクもバッチリ!」
そして皐月は制服の形状がちょっと代わり、黒セーラーだったのが白セーラーと黒のカーディガンに。
妖精さんに渡された、武功抜群と揮毫がされた白鞘の刀も持ってて……。
皐月だけ改二やんけ!
私の改二は!? まさか改装設計図持ってこいというのか?
リアルだとどうやって手に入れるんですか……?
妖精さんが改装設計図を仕立て上げるまではお預けなのだろうか……。
「さて、2人には海上戦力の対処を任せることになるが……基本的に海上戦力はレーダーで発見できる」
「そうなん?」
「ああ。人間大なら余裕で探知可能だそうだ。発見すれば通報してくれるそうだから、それまで即応待機だ」
「航空戦力は海自さんが、いう話やったけど、海中は?」
「潜水艦のことかな? それも海自が対処する。潜水艦型の深海棲艦も確認されてるそうだが、全て海自が撃破してるよ」
「ほえ~……アスロックかな?」
「詳しいね。深海棲艦は装甲の分厚さから現代の艦載兵器では威力が不足してる場合が多いんだが、潜水艦は大戦期のものでも装甲は大したことがない。自衛隊の対潜兵器で対処可能だ」
「なるほどなぁ」
これはアスロック米倉も力を見せつけられるだろうな。
トマホーク菊池は深海棲艦相手にはあまり活躍できなさそうだな。
対空は出来るのだからシースパロー菊池として頑張っていただきたいものである。
そして、出撃へ。
出航する護衛艦と、私と皐月。
そして、出航から5分で私と皐月は護衛艦に戻された。
「艦長の三宅です。呼び戻してごめんね」
苦笑気味のこんごう艦長、三宅さん。
私と皐月も苦笑いである。
「あはは……えろうすんまへん……」
「えへへ……わざとじゃなかったんだけど……」
てへへ……。
「まさか、巡航速度があそこまで違うとは思わなかったよ……」
そう、呼び戻された理由はそこである。
駆逐艦黒潮は18ノットで5000カイリ。
駆逐艦皐月は14ノットで4000カイリ。
自衛隊はこれを基準にして考えていた。
皐月は巡航速度が遅いが、出そうと思えば37ノットの快足も出せる。
航続距離は短くなるが、ちょっと無理してもらって20ノットで航行してもらうつもりでいた。
どうせ補給は妖精さんが積み込んだ物資で可能なので。
が、しかし。
私は31ノット、皐月は38ノットの爆速で巡航していることが判明した。
硫黄島で皐月がめちゃめちゃ速いとは知った。が、私もメチャメチャ速いとは知らなかった。
妖精さんは、機関出力で定められた速度を出しているものとばかり思っていたので、正確な速度を認識してなかったのだ。
巡航速度、原速に出力を設定しました、つまり18ノットですね。
と妖精さんが言う時、実際は31ノットでブッ飛ばしてるわけだ。
最大出力でいったい何ノット出てるのかは謎である。測ってる暇もないし。
護衛艦をブッ千切ってしまっては意味が無い。
ゆっくり航行してもいいが、そこまで超高速航行が出来るなら海上で即応待機でいる意味もない。
自衛隊が探知したら、私たちが出撃して急行する。それでいいんじゃないかと。
実際、海上クソ寒いのでそっちの方がありがたい。なんで足出さなきゃなんないんだ。スカートの下にジャージ履いていいか?
そんな感じで初っ端から変なつまづきをしつつ、私たちは硫黄島へと進発するのだった。