艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
天ねーと町中に出る。天ねーとはよく一緒に遊ぶが、具体的にどう遊ぶということは無い。
男だった身としては色々と違和感があるのだが、具体的な目的もなく町中をぶらつく……と言うのは女子高生なら普通にやってるんだろうか?
町中をぶらついて、よさそうな店があったら入ってみて、これいいね、いいよね……とか話し合う。
ぶっちゃけ喋るのが主目的な行動の気がする。まぁ、それはそれで楽しいので構わないのだけど。
「そーいやよー」
「んー?」
歩き疲れたのでベンチに腰掛け、移動販売のクレープを齧っていたところ、天ねーがなにかを思い出したように言う。
「最近ニュースになってる、海を歩く怪人ってどう思うよ?」
「なんそれー? うち知らんわぁ」
「マジで? ニュースにもなってるし、ツイッターでもめっちゃ流れてんぞ?」
「うちテレビ見ぃひんし、ツイッターもしとらんからなー」
「マジで……?」
武道少女で男っぽいところがあるけど、それ以外は割と普通の女子高生なので天ねーはツイッターもやればテレビも見る。
それに対して私はテレビも見ないしツイッターもやらない。なんでかって言われたら、なんでだろうね……。
「まぁ、ともかく、そんな感じの謎の人物がいるんだよ。世界中で目撃されてるらしいぜ?」
「ほへー、そらけったいやなぁ。海の上歩くとかうちでもようやらんわ」
「いや、できねーよ」
できるんだなそれが。やらないけど。いや、走らないと沈むから歩くのは無理か。
ちなみに、走るのは空気抵抗とかフォームの都合とかもあって単純に5倍にはならなかったりする。
私のチート能力は応用範囲はかなり広いけど、限界自体はそれほど高くはないのだな。
実際、パンチスピードも実際には5倍どころじゃない速度を出すことは可能だ。
単純にその場でやるパンチだけでも全身の筋肉の強化で7~8倍の速度が出せるし、私自身が走れば相乗効果で更なる速度が出る。
しかしそれをやると私の手が木っ端微塵である。
10倍の速度で殴ったら威力は100倍なわけだが、私の拳に返る反作用も100倍なのだなぁ。
骨格強度も5倍にできるが、5倍に強化しても100倍の反作用相手では焼け石に水である。
応用範囲は無限大と思えるほどに広いが、限界点と言うものがあるのだ。仕方ないね。
「まぁ、うちが現代社会にびみょーに適応しとらんとかそう言うのはええんよ」
「そーか。まぁ、それはいいけどよ。あたしとしちゃ、本当に居るのか気になるんだよなー。いると思うか?」
「おるんちゃうー? 烈海王とか」
「烈海王はいねーよ」
「はー? 天ねーは夢がちょいと足らんのとちゃう?」
「列海王の非実在でそこまで言われなきゃいけねーのか……」
なんて話していると、ブゥーン、なんて耳障りな音がする。
なんやいな、と空を見上げれば、小さな飛行機が飛んでいる。
生物的な意匠のある飛行機で、サイズ的には手の平に乗っかる程度だろう。
「なんやろあれ」
「ラジコンか? ん、なんか落っこちたな」
天ねーの言う通り、小さな飛行機から何かが落っこちた。
ちょっと気になって、私は視力を強化してそれを見やる。
私の強化は基本的に数値が5倍になる。私の視力は両目ともに1.5くらいなので、強化すると7.5である。
飛行機が落としたものを見つけ、時間分解能と思考速度を5倍に強化すると、相乗効果で25倍の体感速度を得られる。
1秒が25秒に感じられる中、落ちていくものをよく見る。
「(なんやろあれ……爆弾……みたいな形しとるけど……ラジコン大会でもどっかでやっとるんかな……?)」
小指の先ほどの小ささとはいえ硬そうなものを落っことすとは危ないなぁ。そう思いながら強化を解除。
そして、私の見ていた小さな爆弾が地面へと落下し。それは爆発した。
「うわっ!」
「ひゃぁっ!?」
肌に感じる爆風。咄嗟に時間分解能と思考速度を再度強化し、私は自分に飛んでくる破片を手で弾く。
すぐ隣に座っていた天ねーに当たりそうなものも弾き飛ばす。
「天ねー!」
「あ、ああ。なんなんだ? ガス爆発かなにかか?」
「そう言うんとちゃう。って、いっぱい来とるがなー!?」
爆弾を落とした飛行機と同じものが、まるで雲霞の如く押し寄せてくるのが私の眼には見えた。
それは一斉に爆弾を落とし、私はなすすべがないままに、それがさく裂するのを見届けるほかなかった。
隣の天ねーを庇うように前に立って、飛んでくる瓦礫を片っ端から弾き飛ばす。
瓦礫を全て弾き飛ばし、私は無傷で爆発をやり過ごす。至近距離の爆発でなくてよかった。
そう、安堵のため息をついて、私はようやく目の前の光景を正しく認識する。
吹き上がる爆炎と散乱する瓦礫の中に、濃密な血の匂いと人の悲鳴と呻き声が、異様なまでに鮮明だった。
「う……痛っ……」
「天ねー!? どっか怪我したん!?」
「あ、ああ。眉んところ切っちまったみてぇだ……」
そう言う天ねーの額からとくとくと血が流れている。
私と天ねーでは身長が20センチ近く違う。そのせいで上の方の破片を見落としたか。
私が小さいというより、天ねーが大きいという方が正しい。天ねーは身長168センチくらいあるので。私は151。
傷はそれほど深くない。ボクシングやってる身なので、額の裂傷は見慣れた怪我だ。
私はポケットからハンカチを取り出し、それを天ねーの額に押し付ける。
「抑えとき! 額の血ぃはなかなか止まらんから離したらあかんよ!」
「ああ。すまねぇ。何が起きたんだ?」
「うちにも、分からん……なんや、これ。なんなんこれ……」
分からない。まるで何も分からない。何が起きているのか、どうしてこうなったのかも、なにもかも分からない。
子供の泣き声、女性の悲鳴、男性の呻き声、老人のか細い呼吸、炎の燃える音、何かが崩れる音。
私の目の前で、日常が音を立てて崩れ落ちていっている。
どうして? なぜ? この世界は、平和な、現代日本じゃなかったのか?
なにが起きて、どうしてこうなったのか? なにも、なにも分からない。
「うあっ!?」
天ねーの悲鳴。天を突くミラービルの中途に、何かが撃ち込まれたのが見えた。
それは内部で爆発すると、ミラービルのガラスを粉々に吹き飛ばし、ビルが崩落していく。
その何かは次々と飛来してくる。私の強化された視力は、それを正確に捉えていた。
円錐形の、椎の実型のなにか。それは、戦艦の砲弾のように見えた。
だが、小さい。小さすぎる。精々が手のひらに載ってしまうようなサイズ。
なのにそれは、見た目からは想像もつかないほどの凄まじい威力を発揮してさく裂する。
ビルが次々と崩れ落ちていく。あそこに、いったい何人の人がいる?
ぞっとした。
目の前で、何百、何千という命が、次々と奪われて行っている。
そのただなかに、私たちも居る。私と、天ねーは、その渦中にいる。
「天ねー! はよ逃げな!」
「あ、ああ!」
私と天ねーは走り出す。その背に絡みつくような、悲鳴と嗚咽、助けを求める声を引き剥がして。
爆発するなにか、飛散するなにか、悲鳴をあげるなにか、壊れていくなにか。
日常が壊れていく。
平和な町も、道行く人も、穏やかな空気も、なにもかもが、壊れていく。
戦いが突然、私たちの日常を壊していく。それは酷く理不尽で、吐き気がするほどに残酷だった。
なにもかもが身勝手に壊されていく。意味も分からないままに人が死んでいく。
「や、やべぇ! よく分かんねぇけどやべぇぞこれ!」
「分かっとるからもっと気張って走らんかい!」
「って言うかはえーよ! おまえ脚速過ぎねぇ!?」
「これでも天ねーに合わせとるわ!」
「こんなところでも才能の差が!」
チート能力を使うまでもなく私は天ねーより足が速い。
私はチート能力無しでも100メートル14秒切れる。
天ねーも速い方だが、私はそれ以上に速いだけだ。
そんなことを考えていたら、私たちの目の前を砲弾が横切って行った。
私は咄嗟に隣を走っていた天ねーを突き飛ばした。
そして、砲弾が建物に突っ込み、炸裂。
チート能力を全開にする。あらゆる身体能力を5倍に強化し、認識速度も極限まで強化。
超至近距離から飛来する瓦礫を手の平で弾く。痛い。めちゃめちゃ痛い。
皮膚強度も5倍に強化しているが、高速で飛来するコンクリートや鉄筋の含まれた瓦礫を手で弾くのは無理がある。
だがなんとかそれを弾き終え、私は最後に落下してきた巨大なコンクリートを避ける。
落下してくる瓦礫の位置を確認し、足元も確認し、私は自分に激突しないルートを確認し回避していく。
「(無、理ィ……!)」
それで全部避けれたら凄いんだけど、地面を埋め尽くすほどに降って来る瓦礫が避けれるわけもなく。
半ば瓦礫に飲まれながらも、私は必死で瓦礫を回避し、堆積する瓦礫から逃れようとする。
思考速度を強化することで25倍の速度で世界を認識できるが、反射神経と行動能力は5倍が限界。
5分の1の速度でしか動けない以上、対応できる限界と言うものがある。
全ての瓦礫が崩れ落ち、突き飛ばされた天ねーが立ち上がる。
「う、潮……潮! おい! ふざけんじゃねーよ!」
「ど、怒鳴っとらんで、助けてー……」
「えっ」
なんとか生き延びた。いや、チート能力のお蔭で辛うじてと言ったところだが。
瓦礫の落下地点から体半分ほど逃がすことには成功したんだけど、そこが限界だったのだ。
がんごん瓦礫にぶつかられつつも抜け出したが、右腕が瓦礫の中に取り残された。
「潮! 大丈夫か!?」
「大丈夫やないー……ぬ、抜けへんー……」
幸い、腕は無事である。痛みこそあるが、骨は折れていないし、出血もしていない。打撲だけだ。
が、腕の上に載っている瓦礫の量が……いくらチート能力を全開にしても持ち上げるのは無理だ。
両腕を使って、下から押し上げるならイケそうな重さだが、横向きの上に力も入れにくい体勢では無理だ。
ちなみに私はウェイトリフティング2トンくらいならいける。瓦礫はたぶん1トンくらいある。
「いま助けてやる! ちょっと待ってろ!」
「痛い痛い痛い! 引っ張らんで! 腕がもげてまう!」
ぐいぐい引っ張る天ねーだが、それは無理と言うものである。
いや、私が力づくで引っ張れば案外抜けるとは思う……のだが、それやったらたぶん腕がズタズタである。ていうか、最悪腕がもげる。
上の瓦礫を地道に退けるしかないと思われる。
「上のやつを退ければいいのか? 任せとけ!」
瓦礫を登って退けようとし始める天ねー。こういうところほんと頼りになる。
だが、そうしている間にも、どこからか飛来する砲弾が近隣のビルを破壊していく。
爆風が吹き荒れ、瓦礫が飛び散る。そして、上の天ねーが悲鳴を上げた。
「うぁあぁっ!?」
「天ねー!?」
転げ落ちてくる天ねー。服の上から、細かな瓦礫が天ねーに幾つも突き刺さっている。
幸い、致命傷どころか、軽い怪我と言っていい範囲のもの。だが、このままここに留まれば……。
「う……天ねー」
「あ、ああ、大丈夫だ。待ってろ、俺が絶対に助けてやるからな!」
「う、うちのことはええから、天ねー、はよ逃げ」
「は?」
「うちのことはええから、天ねーは逃げるんや」
「おまえ、なに言って」
またどこかで爆風。瓦礫が飛び散っている。ここらにまでは届かなかったが、砂ぼこりが吹き荒れる。
「こんくらい、うち1人でなんとかなるわ。腕引っこ抜いたら追いかけるから、天ねーは逃げや」
「ふざけんな! 1人でなんとかなるようなもんじゃねーだろ!」
「なんとかなるから、逃げろ言うてるんや! うちのことは、構わんでええ。ほんまにうち1人でなんとかなる」
そう、これは嘘ではない。本当に私1人でもなんとかなることはなる。
ただ、天ねーに助けてもらえればそれが何倍も速いというだけである。
「さっさと逃げるんや! うちはなんとかなる!」
「ならねーだろ! いくらおまえが強くても!」
「なる! はよ逃げんと、ぼてくりこかすで!」
「出来るもんならやってみろや!」
言いながら瓦礫に上っていく天ねー。
くそっ、これでは天ねーが本当に危険だ。
どうにかならないかと周囲を見渡すが、何もない。
人影すら見当たらない、いや、脇の通路から飛び出して来た。
これは、ラッキーだ。
「おまわりさーん! けが人や! ここにけが人がおるー!」
私は飛び出して来た人……制服姿の警察官に呼びかける。
その警察官も額に怪我をしている様子だが、足取りに不調はない。
「ここで何をしてるんだ!? 速く逃げないと……」
「潮が瓦礫に腕を飲まれてんだよ! 速く引っこ抜いてやらねーと!」
そこでようやく警察官は私が腕を瓦礫に飲まれていることに気付いたようだ。
そして、天ねーが退かそうとしている瓦礫の量を見て、悲壮な表情を見せる。
私の腕の上に積みあがっている瓦礫はそれほどの量ではない。大人1人でも30分あればなんとかなるだろう。
だが、この逼迫した状況で30分も浪費出来るか?
この警察官には、私を見捨てて天ねーだけを助けるという選択肢が浮かんだことだろう。
「おまわりさん、天ねーのこと、おねがいします。うちのことは構わんといて」
「しかし、君」
「無理やろ、実際。そやから、天ねーのこと、おねがいします」
「……わかった。本当に……本当に、すまない……!」
絞り出すような声で言う警察官。私はまだ諦めていないが、まぁ、諦めたように見えるわな。
しかし、天ねーは納得などできるわけもなく。瓦礫から飛び降りると、警察官に突っかかっていく。
「おい! ふざけんじゃねーよ! 潮のことを見捨てるつもりかよテメー!」
「俺だって……! 見捨てたいわけじゃない!」
「だったら手伝えよ! 3人で助かるんだよ!」
「あっ、天ねー! うち名案思いついた!」
「なにっ!? なんだ! 聞かせろ!」
そう言って天ねーが駆け寄って来る。
「オラァ!」
「おげっ」
そして私のストレートが天ねーに炸裂した。
「天ねーを気絶させれば丸く収まる、言う名案や。なんでも暴力で解決するのがいちばんやね。そーいうわけやから……お巡りさん、お願いします」
「……ああ。君、名前は?」
「黒川潮言いますー。ボクシングやっとって、こう見えてジュニアヘビーのチャンピオンにも勝ったことあるんよ」
「それはすごいね。ご両親には、ちゃんと、伝えるから……」
「んでな、おまわりさん。天ねーはうちの幼馴染なんよ。お隣さんやけどな、うちの姉やんなんよ。そやから、おまわりさん、おねがいします」
「ああ……」
おまわりさんが天ねーを背負って逃げていく。私はそれを見送り、どうにかする方策を考える。
一番楽なのは無理やり引っこ抜くことだ。だが、最低でも腕はずたぼろ、最悪もげる。
次に、左手で出来るだけ瓦礫を引っこ抜いていく。これはまぁ時間はかかるが確実に腕が抜ける。
最後に、更なるチート能力に覚醒して、これを一撃で吹っ飛ばして一瞬で、確実に腕を抜くという方法だ。
魅力的なのは最後だけど、いちばん非現実的である。チート能力の時点で非現実的ではあるが。
「……まぁ、地道にやるしかないか」
私は地道に瓦礫の除去を始めた。
えっちらおっちら瓦礫を引っこ抜き、10分ほど続けたところで緊急事態発生である。
今引っこ抜いた瓦礫がなにかの始点になっていたらしく、右腕にかかる荷重が突然増えて来た。
「痛い痛い痛い! あああああもぉう!!!」
私は無理やり右腕を引っこ抜いた。かなりの痛みが走り、涙目になりつつ引っこ抜いた右腕を見る。
あちこちらにでかい裂傷が走っていたが、冬場だったために長袖だったのが幸いし、そこまで酷い裂傷ではない。
これはもう最初から無理やり引っこ抜いていてもなんとかなったかもしれないな……。
まぁ、今更そんなこと考えても仕方ないだろう。私は軽く腕の血を拭った後、再度逃げるために走り出した。
私1人ならばチート能力を全開にして逃げられる。時速100キロを超える走りを使えば、あっという間に危険域から逃げられるだろう。
私は早速走り出し、瓦礫で閉塞されていた大通りを迂回し、また再度大通りに出て……その瞬間に、私は全力で飛びのいた。
直後、私が飛び出そうとした位置を砲弾が飛翔していき、ビルに命中。基部が吹き飛ばされたビルが崩れ落ちていく。
「あ、あぶっ、危なっ! あほんだら! 殺す気かおどれは!」
思わず罵り、私はそれをして来た相手を認識した。
それは黒光りしていて、大きく、眼が二つあって、大きな歯がいくつも並んでいる。
トラックくらいあるだろう巨躯のそれは、かぱりと口を開け、その中にあった砲が私を睨んでいた。
死の予感が私の感覚を鋭く、鋭く尖鋭化させた。
間延びしていく時間感覚。力の漲る四肢。鋭敏化していく五感。
私の眼が、砲の内部に微かな光が灯ったことを察知すると同時、私はボクシングの基本的な回避テクニックであるダッキングを行っていた。
前方へと踏み込みながら、上体を倒して敵の攻撃を回避する基本中の基本。
アマチュアボクシングでは上体を倒せば反則を取られるために使える技術ではない。
だが、私はプロボクシングを志向してトレーニングをして来た。アマチュアボクシングはハナから想定外。
ゆえに、ダッキングやウィービングと言った防御技術を鍛えこまれて来た私の中には明白にその技術が根付いていた。
倒した上体の数十センチ上を、砲弾が飛翔していく。
通過していく砲弾の引き起こした音速の衝撃波が耳朶を打ち、耳鳴りと眩暈が引き起こされた。
歯を食いしばり、平衡感覚をも強化すると、私はさらに踏み込み、腕全般を強化し尽し、勢いのままにジョルトブローを放った。
時速200キロを超える超高速の右ストレート。人知を超越した速度のストレートは殺人的な破壊力を有する。
全体重を乗せたジョルトブローであることを踏まえれば、体重40キロ半ばの私であってもその衝撃力は6トンを軽々と超える。
分かりやすい例で言うと、車重1トンの車が時速40キロで衝突したのと同等の威力である。
それが、私の拳と言う小さな小さな面積に一点集中して打ち込まれたのである。
金属のひしゃげるような、凄まじい異音。
その巨大な化け物――――私の前世の娯楽、艦隊これくしょんに登場する駆逐イ級のような化け物の歯が丸ごと一本圧し折れた。
思ったよりも、脆い。私は駆逐イ級のような化け物の頭の上に飛び乗ると、その場で跳躍。
宙で体を回転させると、右足一本、踵を全力で振り下ろした。
金属の轟音と共に、駆逐イ級の頭……頭か? ともあれ、それに当たるだろう箇所の装甲がひしゃげる。
薄い。厚さ1センチあるかどうかというほどの厚さしかない。これなら、私なら素手で破れる。
私は駆逐イ級の上から飛びのき、近くに生えていた道路標識の根元にローキックを打ち込んで圧し折る。
それを手に駆逐イ級へと肉薄。イ級が再度砲弾を放ってくるが、今度は余裕を持って回避。耳朶を打つ衝撃もない。
道路標識の槍を手にイ級へと飛び乗り、私は先ほどひしゃげさせて亀裂を作った穴へと道路標識を叩き込んだ。
金属を押し広げ、捻じ曲げる凄まじい抵抗を感じながらも力づくで押し込むと、駆逐イ級が地を揺るがして崩れ落ちた。
「なんなんや、これ……!」
艦これの世界だったと言うのか? この世界が?
なら、これが、深海棲艦と人類のファーストコンタクトだというのか?
「最悪極まる、言うやつやな……たまらんでほんまに……」
ならば、この世界にまだ艦娘はいない……延いては、人類は深海棲艦に対する効果的な対処方法を有していないということで。
それはつまるところ、この酸鼻を極める状況を収束させる手立てはないということだった。
「ふざけなや……ほんまに……」
悪態を吐く。もう、それ以外にどうしようもなかったから。
この、最悪極まる状況から抜け出せないと、知ってしまったから。
座り込んでしまいたい気持ちに包まれ、もう走りたくない、歩けもしない気持ちになる。
これ、夢だったりしないかな。
朝起きたら、私はベッドに転がっていて、お気に入りのぬいぐるみに囲まれている。
その中からいちばんのお気に入り、天ねーにプレゼントしてもらったカバのぬいぐるみを抱っこして二度寝をするのだ。
それはきっと最高に気持ちいい。
足元に転がっていたイ級の歯を蹴り飛ばす。
空中に吹き飛んだそれは、飛来してきた砲弾と激突し、空中で爆発の華が開いた。
分かってるよ、現実だって。この最悪極まる現実が、夢なんかじゃないってことくらい。
私は砲弾を放ってきた者……道路を埋め尽くすかのように居並ぶイ級に対峙するように、ボックスを作る。
ボクシングの基本スタイル。その状態を作った私はイ級へと突進する。
もう、こいつらの対応は分かった。
飛翔してくる砲弾はダッキングで回避できる。至近距離でもウィービングで回避できる。
リーチこそ足りないが、拳が当たればダメージは通る。リーチも、そこらの瓦礫で補える。
拳で装甲を叩き割り、内部にまで貫通させられる長さの金属があれば倒すことができる。
それだけ分かれば、十分だ。
「かかってこいや! 纏めてしばいたるわ!」