艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
全員まとめてしばいてやった。
駆逐イ級……ひーふーみーよー……14体。
そこらで拾った鉄筋と拳で殴り倒して倒してやった。
楽勝だった。ちょろいわ。でもチート能力なかったら絶対に勝てないよこれ……。
自衛隊はこれに対応できるだろうか。
戦車を持ち出してくれば割と楽勝な気がする。
だが、イ級が特別弱いだけかもしれないと思うと……。
「……まぁ、ええわ。はよ逃げな」
邪魔だったとはいえ、イ級なんかと戦っていたせいで無駄な時間を浪費する羽目になった。
私はイ級の居並んでいた道路を通り抜け、大通りを抜ける。
後はまっすぐ進めばいい。距離的に40キロ近くあるが、私なら30分で走破可能だ。
天ねーはどうしているだろうか。どこかの避難所に居るだろうか。
そう思いながら走り、駅前広場へと辿り着けば、そこには地獄が広がっていた。
駆逐イ級の姿はほとんどない。軽巡ホ級、重巡リ級だろうと思われる……人型に近い者たちが、そこにはいた。
そして、それは、それは……それは、人を、人間を、面白がるように、殺していた。
「やめろ……」
やめろ。おまえたち、なにをしてるか、なにをやってるのか、わかってるのか。
ホ級が、もうぐったりして動かない女性の手足を、嬉々として毟り取っている。
まるで子供が昆虫の手足を毟り取って遊ぶかのように、無邪気な悪意に満ち溢れていた。
リ級が人を殴り殺している。手にした艤装で、人を殴り殺している。
もう死んでいるそれを、嘲笑いながら、何度も何度も殴って、血と肉を飛び散らせて、喜んでいる。
「やめろや……」
やめてくれ。これ以上、私の日常を壊さないでくれ。もうたくさんだ。
なにがしたいんだよ、なにがしたくて、人を殺すんだよ。
人が、死んでるんだぞ。いっぱい死んだんだぞ。
なにが楽しいんだ、なにが嬉しいんだ、なんで人を殺すんだ。
ホ級が新しい人を獲物にしようと、怪我をして動けない人へと手を伸ばして。
そこが私の我慢の限界だった。
「やめろやぁぁぁぁ――――!」
飛び込んで、拳を握り締めて、私は渾身のジョルトブローをホ級へと打ち込んでいた。
返って来たのは、装甲を破壊した感触ではなく、私の拳が歪み、骨が軋む感触。そして、脳天を貫く激痛だった。
「あっ、ぐ! おどれはぁ!」
イ級なんかとは桁違いに装甲が厚い。具体的にどれくらい厚いかは分からないが、殴った感触は分厚い防火扉を殴ったそれに近かった。
少なくとも、厚さ数センチはあるだろう分厚い装甲に全身が覆われている。
ホ級が迫って来る。私に標的を変えて、私を殺す気でいる。
「バカたれが!」
伸びあがるような蹴り。いくら硬くても、陸上で立っていられる以上、重量はさほどではないハズだ。
ボクシングでは明白に反則技となる、蹴りあがるようなハイキック。それはホ級の頭部を蹴り上げ、その体を浮き上がらせるには十分なほどの威力があった。
股関節が悲鳴を上げ、足首が悲鳴を上げるのが分かった。蹴り上げられる重さでこそあるが、見た目よりも遥かに重い。
悲鳴を上げる脚に喝を入れ、地面を踏み締めると、ホ級を掴み、その頭部に当たるだろう部分を地面へと叩き付けた。
「死ねや!」
なにかが折れた感触があった。こいつら、骨があるのか? 骨があるなら、関節があるという、ことか?
それを理解した私が取った行動は、ホ級の首を掴み、それを全力で捩じりあげると言う蛮行だった。
たとえどれだけ硬かろうが、関節と言う制約は変わらない。
ごきぼきめきぃ、と骨が潰れ、関節液が弾ける嫌な感触。
手に伝わるおぞましいソレを感じながら、突然力を失ったホ級を蹴り転がす。
ホ級を殺し終え、私はリ級へと目線を映す。今までよく何もしなかったものだ。
「おまえ……」
目線を向けた私が見たものは、女性の死体の傍で泣く子供の姿と。
その子供の頭を掴む、リ級の姿だった。にやにやと、厭らしい笑みを浮かべて、見せつけるように子供の頭を掴んで、それを揺らした。
「なにを……なにを、するつもりや、おまえ。おまえ、やめ、やめろや」
やめろ。もう、殺さないでくれ。
もう嫌だ。人が死ぬところなんて、もう見たくない。
「やめろ、やめてくれ! やめろ! やめろって言うてるやろが!」
私は踏み込む。ホ級に通じなかった拳がリ級に通じるとはとても思えない。
ならば、狙うのはホ級と同じ。関節部の破壊、それ以外に有効打になるものはない。
相手は私の戦闘方法を見ただろう。まずは殴って来ると、そう考えているはずだ。
私が深海棲艦の能力を把握しているわけがないという、そう言う前提があるはずだ。
ホ級とリ級、どちらが強そうかと言えば、単純な外見で言えば何となくホ級の方が強そうですらある。
実際を言えば、リ級の方が艦種としてのクラスは上。具体的な性能は知らないが、重巡の方が装甲が厚くて砲が大きいハズだ。
ならば、打撃をフェイントとして、強襲からの必殺。それが最善のはずだ。
私はジョルトブローの姿勢を作り、リ級へと肉薄し、にやにやと笑うリ級にブローを放つ姿勢を見せ、そこから、地面を強く蹴り飛ばした。
ブローを放とうとしていた拳を開き、リ級の顎を掴み、飛び上がった私は左手をリ級の頭頂に添え、それを速度を加えて全力で捻り上げた。
ごきき、と骨が軋み、だが、決定的なところまで進まない。
リ級は棒立ちのまま、必殺であるはずだった首折りを耐え切った。
信じられない化け物だった。基礎的なスペックが、あまりにも違いすぎた。
「あっ」
リ級が私の右手を掴み、そして、無造作に私を放り投げた。
投げ飛ばされた私は、背中からビルの壁面に激突し、そのまま地面に落ちる。
「がはっ、げほっ……! ち、ちくしょう……! あっ」
リ級が私に見せびらかすように、子供の頭を再度掴み、そして。
「やめっ、やめろっ! やめろぉぉぉ――――!」
赤い血と、白い骨と、灰色の脳髄が、飛び散って。
私の脳は、現実を見据えることを拒否して、ただただ、煮え滾る怒りと憎悪が私の体を突き動かした。
全身を強化して、発揮できる最高の速度を絞り出して、それを全力で叩き付ける、無謀なブロー。
それはリ級の頬にクリーンヒットし、金属を叩く轟音。そして、私は自分の右拳が砕ける激痛に蹲る。
「あ、ぐぅ、うぅっ……! うちの、手がっ、手が! あ、あぅ、う、うぅ」
肉が裂け、折れた骨が飛び出した拳。パンチスピードは時速300キロを超えただろう。
人骨と言う、柔軟性と硬さを両立し、その双方を5倍に強化してもなお耐え切れない衝撃力。
もう2度と拳を握れないほどのダメージを受けた。正真正銘の捨て身のブローだった。
そして、それを受けてなお、平然と屹立しているリ級。
頬骨を砕いたような感触はあった。右手を犠牲にしてようやく、ダメージが通る。そんな理不尽。
リ級はダメージを入れられたことに怒りを感じたかのように、拳を振りかぶった。
ド素人丸出しのテレフォンパンチ。どこにくるかなど、手に取るかのように分かる。
ダッキング出来る距離はない。ウィービングで躱せるほど小さい打撃点ではない。
受け取めてダメージを減らすしかない。位置は分かっている。ダメージを最小限には、できる。
突き出される拳。両手を割り込ませ、自分から後ろに跳ぶ。
私の体がトラックに激突されたかのような勢いで吹き飛んだ。
左手は辛うじて無事。ダメージのあった右手をうまく動かせなかった。腕骨にまでダメージが入り、おそらく、折れた。
肋骨にも吐きそうなほどの激痛。辛うじて折れていないが、私がもうちょっと年嵩なら……成人していたら折れていただろう。
若者特有の柔軟性のある肋骨に助けられたが、曲がった肋骨で内蔵を傷つけた可能性もある。
チート能力で全身を強化してもこれだけのダメージ。普通なら即死だ。一撃でミンチ肉になっていただろう。
「あっ、く……」
動けない。体が言うことを聞いてくれない。
信じられないほど重い拳だ。体が真っ二つにならなかったのが驚きなくらいだ。
意識が遠のく。これは、めちゃめちゃまずい。
私のチート能力は肉体の強化である。
意識の喪失、と言うのは、チート能力で強化出来ない領分なのである。
脳機能を強化して意識を喪失し難い状態には出来ても、意識を喪失しかけた状態から繋ぎ止めることはできない。
と言うより、脳機能を強化していたのに意識を喪失しかけている今、どうしたところで繋ぎ止めることは不可能。
暗闇に満ちていく意識に抗うことも出来ず、私の意識は虚へと消えていった。
「ごめんなさい」
子供のような声。甲高くて、どこか舌が足らないような、そんな声。
涙の滲んだ、悔しさと悲しみの入り混じった悲痛な声だった。
「ごめんなさい」
すごく苦手だ。子供の泣きそうな声。
子供は笑っているのがいちばんいい。
涙をいっぱいに溜めている姿は悲しい。
なにより悲しいのは、それを堪えようとすること。
泣くことをみっともないって、そう言うのが嫌いだ。
悲しい時は、心の底から思いっ切り泣いたらいい。
泣いたっていいんだよって、そう言いたい。
ハッと、意識が現実に立ち返る。
ぼやける視界の中、私の鼻先にそれは立っている。
ぽろぽろと涙を零して、まるで懺悔するかのように私へとごめんなさいと言い続けるちいさなちいさなひと。
「……妖精さん?」
艦これの妖精さんそのものの姿をしたそれは、私が意識を取り戻したことに気付く。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
こぼれる涙。ほんとうに、子供の泣いている姿は苦手だ。
「どないしたん……? そんな、ぽろぽろ泣いたら、眼ぇ腫れてしまうよってに……」
「たすけにくるのがおそくて、ごめんなさい」
「ええんやで。一生懸命、がんばったんやろ?」
「それでも、ごめんなさい」
「ええんよ……妖精さん、もしかして、うちはあいつら……深海棲艦と戦える、艦娘になれるんかな」
「はい。あなたが、かんむすになってくれるなら。きっとたすけになります」
「なら……やろか。もう、誰かが泣くのは嫌や。そやから……」
「はい、やりましょう」
そっと、手を差し出して来た妖精さんに手を差し伸べて、砕けた拳と、妖精さんのちいさな手が重なった。
ぽわっと、暖かな熱が伝わって来る。なんとなくわかる。艦娘としての力というものが。
どこからか妖精さんがわらわらと現れて、私の背に艤装を取り付けていく。
艤装だけで、制服は無し。今までと同じ、スキニーなジーンズとブラウスのまま。
でも、妖精さんがそっと私の砕けた拳に白い手袋をつけてくれた。ありがとう。
「さぁ、第二ラウンドや。うちのこと舐め腐っとる連中に、わからせたるわ」
体は痛いままだ。背骨にまでダメージが入っている気がする。
歩くだけで内臓が引き攣るように痛み、呼吸すら苦しい。
折れた右腕と砕けた拳は、歩く都度に響くように痛みを訴えてくる。
それでもまだ左手がある。頼りなくても、地面を歩くことができる。
なら、まだ戦える。そうだろう?
艤装の出力を上げる。缶が唸りを上げ、排煙が吹き上がる。
わかる。艤装には私のチート能力が届く。この艤装も私の体の一部と言うことだろう。
艤装全体の強度を引き上げる。そして、主機の出力を引き上げる。
5万2000馬力の主機が、瞬時に26万馬力の化け物へと変貌する。
地面を踏み締め、コンクリートを踏み砕き、弾丸のように私の体は飛び出した。
風を引き裂き、瞬時に先ほどのリ級へと接敵する。
復帰してきた私の姿にリ級が驚くも、同じこととでも思ったのか、また拳を振り被る。
「ボケが」
その拳が放たれる前に、私の超高速のジャブがリ級の頭蓋を砕いていた。
時速300キロで繰り出した拳を直撃させても、私の左拳にはダメージのひとつも入っていない。
駆逐艦としての性質が私の体に備わった結果、私にも鋼鉄の如き強度が付与されているのだ。
それを5倍に引き上げれば、私の体が叩き出す猛スピードに十分耐えるだけの強度が得られる。
「……クソったれが」
広場に転がる無数の死体。深海棲艦が面白半分に殺した犠牲者たちの無惨な骸。
それを前にしたやるせなさ、自分自身の無力さを思い知らされる現実。
どうしてこうも、現実は残酷なのだろう? あまりにも冷たい風が私の頬を撫でているかのようだ。
「クソったれが! 次はどいつや! 纏めてぶっ殺したる!」
そのやるせなさを怒りに変えて、戦う力を得た私は次の敵を求める。
1匹でも多くの深海棲艦を殺せば、それだけ助かる人が増えるハズだ。
「黒潮さん! 8じのほうこう、てっきしゅうらい!」
「黒潮ってうちか!?」
そう言えば自分がどの艦なのか聞いていなかった。
まさか黒潮とは。黒川潮だからまさかとは思ってたけど。
私は8時の方向、つまりは左後方を見やる。
双眼鏡を持った妖精さんが指していただろう敵機を発見する。
「多いなぁ! どんなけおるんや!」
空を埋め尽くす、と言うほどではないにせよ、100機近いだろう深海棲艦の航空機が飛んでいる。
「妖精さん! 機銃! 機銃よろしゅう!」
「はいぃ! いっきあたりのわりあては1500です! きをつけて!」
「ぜんっぜん足らんがなぁ!」
私の搭載装備は50口径三年式12.7サンチ砲3基6門。
九六式25mm連装機銃2基4門。
61サンチ九二式4連装魚雷発射管四型2基8門。
九四式爆雷投射機1基、三型装填台1基。
以上だ!
つまり、2期4門の連装機銃に用意されている機銃弾は僅か3000発である。
これっぽっちの弾でどないせぇっちゅーねん。
って言うか25mm機銃って、威力、照準、旋回速度と全部足りていない。
威力と旋回速度は私のチートで補えるが、照準はどうにもならない。照準装置そのものの性能が足りていないからだ。
「黒潮さん! しゅほう! しゅほうです!」
「主砲ってあーた、これ両用砲ちゃうやろ!?」
「でもさんしきだんがあります!」
「なんで三式弾積んでんの? あほちゃう?」
なぜ平射砲のコレ用に三式弾なんか積んでいるのか、コレガワカラナイ。
ちなみに艦これだと駆逐艦には搭載不可能だったが、駆逐艦用三式弾は実在したので私にも搭載されているらしい。
「イケるんかこれ!? あ、イケるわ」
最大仰角55度の平射砲であるC型12.7サンチ砲、チートで強化したところ最大仰角275度と言う訳の分からない状態に。後ろに打てる……。
わけはわからないが、左手で砲を構え、私は三式弾装填よしの声と共に発砲を行う。
豪速で飛翔する三式砲弾は遥か上空で炸裂し、私のチート能力で強化された子弾が飛散。
996個の子弾と言う数ばかりはチートで強化不能だが、1万5000度で25秒間燃焼するという脅威の破壊力を発揮する。
一瞬で航空機の防弾版を溶解させ、挙句に燃料に容易に引火させ、空中で無数の航空機が爆散する。
「イケるやん! 次! 次!」
「さんしきだんよーい! 黒潮さん、さんしきだんはのこり11こです!」
「足りるやろ!」
再度発砲。蚊トンボのように次々と航空機が落ちていく。
取りこぼしを初速4500メートル毎秒、時速1万6200キロと言うチート性能に強化した機銃弾で撃墜する。
「楽勝やんけ! イケるで! 次は深海棲艦をぼてくりこかしたる!」
「黒潮さん! しがいちにしんにゅうしたしんかいせーかんのたいしょはひとりではむりです!」
「ぐっ、それもそやな……」
1人ではまるで手が回らない。この広い市街地に進入した深海棲艦の数すら分からないのだ。
「しんかいせーかんはうみからきています! だから、おおもとをたたけば!」
「……これ以上深海棲艦が上陸するのは防げる、言うわけやな。わかった! 港にいこか!」
私は駆け出す。走るだけで体に痛みは走るが、痛覚を5分の1に弱体化させて耐える。
幹線道路を横断し、この都市の名を冠する港湾へと。直線距離で言えば10キロも無い。
私の脚で全力で走れば、10分足らずで辿り着ける。
そして、その港湾から続々と上陸してきているのだろう、無数の深海棲艦の影。
海すらまだ見えていないというのに、道路を埋め尽くすほどの凄まじい数の深海棲艦。
「邪魔やぁぁ!」
通常弾を再装填。そして、発砲。私の放った主砲弾が手近なリ級へと直撃、それを木っ端みじんに粉砕する。
爆風の余波でホ級が4隻ほど纏めて吹き飛ぶ。機銃が唸りを上げ、豪速の機銃弾がイ級を爆砕する。
「退けぇ!」
蹴り飛ばしたイ級が後続のホ級やロ級を薙ぎ倒し、追撃に打ち込んだ主砲弾で纏めて爆散。
魚雷発射管から引き抜いた魚雷を投げつけられたル級やヌ級が跡形もなく消し飛ぶ。
そこでようやく応戦が始まり、次々と砲弾が飛翔してくる。
それを機銃弾で迎撃しながら回避し、いちばん市街に被害を齎すであろう空母を狙い撃ちにする。
ヌ級を蹴り飛ばし、ヲ級の頭を殴って粉砕し、蹴り飛ばして一まとめにした連中を主砲や魚雷で纏めて爆砕する。
敵陣のど真ん中を潜り抜け、置き土産に爆雷を8発ほど纏めて投げつけ、わき目もふらずに海へと向かう。
「黒潮さんすごいです!」
「そうやろ! うちこうみえて強いんやで!」
褒め称える妖精さんに軽口を返す。
「ざんだーんほーこーく! しゅほうだん、つうじょうだん185! さんしきだん、21!」
「あれ、三式弾はのこり10ちゃうんか?」
「いっきあたり、12なのです」
「あ、なるほど」
総合数を報告してくれていたということらしい。
「きじゅーだん、やく2800! ばくらい8! ぎょらい12!」
「あかんな……!」
弾薬が足りない。目の前に再び現れた道路を埋め尽くすほどの膨大な数の深海棲艦を前に、私は舌打ちをした。
この調子で接敵を繰り返せば、砲弾類の残りは海に出る頃には3割を切ってしまうだろう。
「そやけど……無視してくわけには、いかんか!」
「……ごぶうんを!」
「任せとき!」
投げ放った魚雷がタ級の頭蓋を爆散させ、その背後に居たタ級に直撃して起爆。
威力を5倍に引き上げられた魚雷が半径数十メートルの敵を纏めて吹き飛ばし、私はそこに飛び込む。
イ級、ロ級と言った駆逐艦は機銃で、ホ級と言った軽巡は蹴り飛ばし、リ級やネ級と言った重巡は主砲で。
戦艦連中にも主砲は通用するが、纏まった数が居るので魚雷や爆雷で纏めて片付ける。
空母はヌ級だろうがヲ級だろうが装甲がロクに無いので機銃弾で撃破可能だ。
可能な限り弾薬を節約するため、ヌ級やヲ級も殴る蹴るで爆散させながら私は必死の進軍を続ける。
「邪魔やぁぁぁあ! 退け! 退け! 黒潮さまのお通りや!」
片っ端から深海棲艦を叩き壊し、敵を突破すれば、またも敵。
まるで無限とすら思えるほどの勢いで深海棲艦が湧きだしてくる。
無数の敵を薙ぎ倒し、ようやく海へと辿り着く。
「妖精さん、残りの弾数は……」
「ざんだーんほーこーく! つうじょうだん、32! さんしき、21! きじゅーだん、800! ばくらい2! ぎょらい3!」
「そか……まぁ、なんとかなるやろ!」
分からないが、私はそう言って自分を鼓舞する。
足りなければどうなるのか。恐ろしいが、やらねばなるまい。
赤く染まった海へと飛び込む。私の脚は水面をしっかりと捉える。
まるで、地震の時に歩いているかのような不確かな感触の海面。
だが、艦娘としての本能か、どうすればいいのかは、分かる。
「カッ飛ばすでぇ!」
主機が本来の役目である海上航行を行うために唸りを上げる。
強化しても、どうやら水面から浮き上がってしまうため、45ノット程度が限界らしい。
それでも本来のスピードを遥かに超越した速度で航行が可能である。
海の上の深海棲艦の姿はまばらである。
陸上では固まっていたが……いや、のろくさ歩いていたので、おそらくは陸上ではそこまで速く移動できないのだ。
海上では艦種ごとに速度に差があるのか、あるいは戦闘距離を確保するために開けた状態で航行しているのだ。
「妖精さん! 親玉どこにおるんかわかるか?」
「らしんばーん、まわせぇー!」
「まわせぇー!」
まわせの掛け声と共に、羅針盤が回される。羅針盤回したらあかんやろ……艦これやと回してるが。
「しんろかくてーい!」
羅針盤とやらが何処にあるかは不明だが、方角は妖精さんが指示をしてくれる。
全力で航行し、遭遇する深海棲艦を撃破しながら海域を進む。
「いったい敵はどこに……」
「てきかーんみゆー! さんじのほうこう!」
3時の方向、つまり右側へと目線を向ける。
そして、飛翔してきている砲弾を目にすると、私は無意識に機銃を向け、放った機銃弾でそれを迎撃していた。
空中に開く砲弾の炸裂炎。今までにない大口径砲の火は大きく、ビリビリと肌が震える震動が空気を伝わって来る。
「見とうない顔やわ……戦艦棲姫!」
そこに居たのは、吸引力の変わらないただ1隻の戦艦、戦艦棲姫だった。
そして、それに随伴する空母ヲ級2隻に駆逐艦複数の姿。
こいつが海域のボスであれば、話は速い。私は主砲を向け、発砲する。
それは戦艦棲姫へと直撃すると、戦艦棲姫のそれを超える巨大な爆炎が花開く。
「やったか!」
「てきかんけんざい!」
「なんやとぉ!?」
フラグを立てたからとでも言うのか。爆炎が晴れ渡れば、そこには服が僅かに傷ついただけの戦艦棲姫の姿。
「なんでや!?」
「リきゅうにつうじてるだけすごいのですが、じゅうにせんちほうでせんかんはむりですー!」
「そうやったぁ!」
そう、私の砲は強化をしている。だが、12.7サンチ砲を5倍に強化しても63.5サンチ砲になるわけではない。
速度、威力、爆発力を5倍に強化して強大な破壊力を発揮しているが、12.7サンチ砲弾に備わる装甲貫徹能力では5倍に強化しても戦艦の装甲を突破不能なのだ。
駆逐艦用徹甲弾が無いのが悪い。
「おわっ!」
戦艦棲姫の放ってきた砲弾を回避。背後に着弾した砲弾が盛大に水飛沫を上げる。
直撃すれば即座に轟沈だろう。殴って倒せるか? 無理な気がする。ル級ならイケそうな気はするが。
ならば、魚雷でやるしかないだろう。だが、魚雷の残りは3発。確実にキメる必要がある。
「っと、させるかいな!」
艦載機発艦を始めようとしたヲ級に砲撃を叩き込み、1隻を撃破。
しかし、もう1隻が発艦をはじめ、空へと航空機が飛び立つ。
苛立ちまぎれに砲弾を叩き込んでもう1隻のヲ級も水底へと送り込む。
「三式弾!」
「そうてーんいそーげー!」
独特の発音をする妖精さんが慌ただしく装填を行う中、私は海上を航行して戦艦棲姫の砲撃を躱す。
レスポンスも5倍の私の主機であれば、急加速が可能である。この航行の軌跡を見切ることは難しいだろう。
海上を滑るように航行し、主砲、副砲の砲撃を躱し、直撃しそうなものを機銃弾で迎撃する。
易々とやっているように見えるが、機銃弾での迎撃はかなり神経をすり減らす。
そもそも、うまく起爆しているからいいものの、場合によっては起爆しない場合もある。
実際、今までそれで何度か迎撃に失敗しているのだ。幸い、全て回避出来ているが。
主砲で迎撃すれば確実に撃墜可能だが、弾を使い過ぎる。
空を舞う航空機が私を追い回す。全て戦闘機のようだが、戦闘機の機銃弾ですら私には致命傷になりかねない。
装甲強度を5倍にしても、軽巡以下の装甲なのだ。機銃弾に装甲を貫通されることは十分にありえる。
「そうてんおわり! いつでもいけます!」
「おらぁ!」
空へと三式弾を発砲。飛散する子弾が敵機を飲み込み、空中で戦闘機が爆散する。
運よく全て撃墜を完了すると、私は戦艦棲姫への肉薄を始める。
主砲弾を迎撃し、副砲を躱し、超至近距離へ。
「死ねやぁ!」
そのどてっぱらに、魚雷を叩き込んだ。
魚雷が起爆。5倍の破壊力を発揮した魚雷は戦艦棲姫の胴体を吹き飛ばし、真っ二つになった上半身が水中へと没していく。
残る下半身は少しの間だけ浮いていたが、すぐに波間へと消えていった。
「はぁ、ふぅ……これで終わりか?」
「いいえ! いまのはこのかいいきのぬしじゃありません-!」
「なんやて……」
「らしんばんまわせぇー!」
「まわせぇー!」
羅針盤が私の進むべき方向を示す。いまの戦艦棲姫で前哨戦でしかない。
嫌な予感がしてたまらない。
そして、私の接敵した艦隊は。
「駆逐艦1人にやらせる内容やないぞ……!」
戦艦棲姫2隻、空母ヲ級、重巡ネ級2隻。
そして……北方水姫。
最後の激戦が始まる。