艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理   作:アズレン提督

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2021/10/12 タイトル修正


Knock Out

「あーもう! あーもう! ばかばかあほうどあほう! ばかたれー!」

 

 ネ級、それも強化型……エリートなんだかフラグシップなんだかは分からないが、通常のそれとは明らかに格の違うそれ。

 私の主砲弾の一撃にも耐え、回避すらしてくる強敵。それに守られたヲ級が艦載機発艦を終えてしまう。

 

 100を超え、200に届こうかと言う航空機が空を乱舞し、私を執拗に追い回す。

 戦艦棲姫の砲撃に翻弄され、北方水姫もまた私へと砲撃を行って来る。

 

「くそったれが!」

 

 発砲。ネ級を撃沈。続けざまに放った砲撃で残るネ級の撃沈にも成功する。

 

「次、三式弾!」

 

「さんしきだん、いそーげー!」

 

 航空機に対処しなければどうにもならない。

 雷撃や爆撃は回避可能だが、戦闘機の機銃が一番恐ろしい。

 

「ぐぅぅ!」

 

 戦艦棲姫の砲撃を躱し、躱し切れないものを投げつけた爆雷で迎撃。

 避ける余裕があるなら機銃弾で迎撃するが、今はそんな余裕すらない。

 これで爆雷も0である。残るは僅かな主砲弾と、あまりにも威力が頼りない機銃のみ。

 

「とりあえず、沈めやぁ!」

 

 機銃弾をヲ級へとたらふく食らわせてやると、穴だらけになったヲ級が波間へと没していく。

 これで残りは戦艦棲姫2隻と北方水姫のみ。

 

「シズメッ! オロカモノメ!」

 

「どやかましい!」

 

 煽って来る北方水姫に怒鳴り返しつつ、三式弾を発砲。

 空を舞う航空機を撃ち落とし、機銃も大回転で航空機へと対処を行う。

 1射1殺が出来ればよいが、そこまで都合がよくもいかないのが現実。

 機銃弾をばらまいて、ようやく1機撃墜するなんてのもザラなことだ。

 

「き、きじゅう、だんやくけつぼーう!」

 

「三式弾まだか!」

 

「そ、そうてんおわーりー!」

 

「ようやった!」

 

 三式弾を発砲。空から航空機を撃ち落とすが、まるで数が減ったように思えない。

 それに、戦艦棲姫と北方水姫をどうする? 残る魚雷は2発。1発で撃沈可能でも1発足りない。

 必死で考えながら対空戦闘を続け、猛威を奮う航空機への対処を終えると、そこには満身創痍の私が残る。

 

「主砲弾、残りなんぼや?」

 

「つうじょうだん6! さんしきだん4!」

 

「……そか。これはえらいきついわ……そんでもやらなな……!」

 

 之の字航行を続けて砲撃を躱しながら、私は考え出した方策に覚悟を決める。

 

「まずは、1隻もらうで!」

 

 航跡を変え、戦艦棲姫へと肉薄する。そして、すれ違いざまに1隻に魚雷を叩き込んでやる。

 躱そうとするが、生憎と私の魚雷は時速400キロの弾丸ストレート。躱そうとして躱せるものではない。

 魚雷5発分の破壊力を叩き込まれた戦艦棲姫が水底へと消えていくのを見届ける暇もなく、私は次の戦艦棲姫へと肉薄する。

 

「おどりゃぁぁあ!」

 

 そして、左ストレート。分厚い鉄板を殴ったような轟音。しびれる私の拳、のけぞる戦艦棲姫。

 続けざまに繰り出したのは、高速のニー。飛び膝蹴りを打ち込まれ、戦艦棲姫がさらにのけぞる。

 その腹を蹴り、上空へと飛び上がると、私は全力で踵落としを脳天へと叩き込んだ。

 

 海面へと叩き付けられる戦艦棲姫。だが、健在。殴った私の拳がしびれ、膝には痛み。

 腹立つほどに硬い。そして、私は左手の主砲を戦艦棲姫のどてっぱらへと押し付ける。

 

「うちの主砲ごと持っていき!」

 

 密着状態、超至近距離での射撃。水による圧力の集中効果で装甲を突破する魚雷のように。

 起爆の威力を、私の砲で押し込めれば。私の砲が弾け飛び、同様に戦艦棲姫の胴体が爆散する。

 おっと、これはラッキーだ。左手がちゃんとついてる。怪我すらしてない。最悪指の1本くらい覚悟していたのだが。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 使い物にならなくなった主砲を投げ捨てる。残るは、1人。

 爆沈していく戦艦棲姫を避けつつ、私は北方水姫を一気に肉薄。

 

「シズメ! シズメェ!」

 

 副砲、機銃とやたらめったらに北方水姫がこちらへと打ち込んでくる。

 躱し切れない。副砲弾を機銃で撃墜するも、機銃弾は対処し切れない。

 ボロボロの右腕で眼だけは防御しながら肉薄。もう残るのは左拳だけ。

 

「死ねや!」

 

 弾幕を切り裂くように飛び込み、左ストレート。

 金属を殴ったような轟音、のけぞる北方水姫。

 

「ソノテイドデ!」

 

 体を引き戻し、北方水姫がこちらへと殴りかかって来る。インファイトで勝負するつもりか?

 この私に対して、インファイトを?

 

「どあほうが!」

 

 北方水姫のフックをダッキングで躱し、抉り込むようなブロー。

 人間なら脇腹を抉り飛ばす一撃。それにダメージを受けたような素振りを見せつつも、耐えて再度拳を振るう北方水姫。

 死ぬほど硬い。戦艦棲姫より硬いんじゃないのか。装甲値は大して変わらなかったはずなのに。

 

 隙を、隙を作らなければ。

 

 魚雷を投げ、当てる。この1テンポ遅れた一撃を達成するには隙を作る必要がある。

 不意打ち気味に当てられれば隙を作るまでもないが、この状況では隙を作らなければいけない。

 やたらめったらに機銃弾を打ちまくるだけでも迎撃されかねない。だから先ほどは投げられなかった。

 のけぞらせ、後ろに飛びのきながら投げ込む。これが最適。そうせざるをえない。

 

 相手の拳を躱し、肉薄。そして、アッパー。

 

「ツカマエタ!」

 

 その拳を、北方水姫は掴んでいた。こいつ、なんてクレバーな真似をしてくる。

 殴り損ねたのではない。殴ったのだ。その上で、こいつは私の左手を掴んできた。

 殴られることを前提に、殴られたインパクトの瞬間、私の拳が止まったところを掴みに来たのだ。

 人間ならできるわけのない選択肢。それが出来るだけの強靭さがこいつにはある。

 

「しゃあないな!」

 

 左など、ジャブを打つためのものでしかない。ストレートを放つのはいつも右。

 私の黄金の右。この右ストレートで仕留められない相手などいない。

 

「こいつで、千秋楽や!」

 

 砕けた拳を強化。神経は切れていない。ならば、握り込める。

 出血で真っ赤に染まった手袋に魚雷を握り締め、私は最強のストレートをどてっぱらへと叩き込んだ。

 魚雷の起爆する音。私の右半身を巻き込み、魚雷が爆発した。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 右腕が肘から吹き飛んだ。もう、拳はつくれない。

 どくどくと勢いよく流れる血。妖精さんが必死で止血をしてくれる。

 脇腹を根こそぎ吹き飛ばされ、波間に消え逝こうとする北方水姫。

 

「ウソダロ……コノ、ワタシガ……モウ、ツメタイトコロハ……イヤ……」

 

「うっさ」

 

 やかましいので蹴っ飛ばして無理やり沈めた。はよ死ねや。演出とかいらんから。

 無理やり沈めたところで、海の色が戻っていく。

 青く透き通った……いや、太平洋側だから冬とは言え普通にきったないな……どうも締まらない。

 

「……まぁ、ええわ。これで、終わりやろ?」

 

「さ、さくせんせいこう! きとう! きとうしましょう!」

 

「わかっとる。意識はしっかりしとるから、安心しぃや」

 

 右腕を吹っ飛ばしてしまったが、痛覚は鈍化させているし、止血もしてもらえた。

 血液の凝固作用を強化してやれば、腕を吹き飛ばされるほどの大怪我でもすぐに止血は終わる。

 出血量もそう大したものじゃないし、そもそも心肺機能と酸素運搬能力を5倍にすれば、常人より各段に失血に耐えられるのだ。

 

「さ、帰るでー」

 

「はーい」

 

 主機を回し、ちょっと走ればすぐそこには陸地がある。さぁ、帰ろう。

 艤装の主機に活を入れれば、ぼんっ、と言う小気味いい音を立てて……ぼん?

 

「ぼん?」

 

「ぼん?」

 

 何の音? と私と妖精さんの眼が合い、そして私の艤装の煙突からもくもくと煙が。

 

「す、すいかんがはれつしましたぁ! しゅきがもえちゃうよぉ!」

 

「なんやて!?」

 

「しゅ、しゅきとめてー!」

 

「でもしゅきとめたらひょうりゅうしちゃうー!」

 

「ばくはつしたらしずんじゃうでしょー!」

 

「わーん! 黒潮さーん!」

 

「と、止めぇ! 爆発したらうちらここでお陀仏や! 主機がお釈迦に、うちが仏にとかなんもおもろないわ!」

 

 慌てて主機を止めるように指示を出すと、火を落としたらえらいことにー! とか喧々諤々の騒ぎを起こしながらも主機が停止。

 無事に主機が停止し、必死で水管の修理作業中です! と報告がされる。

 

「……なぁ、どれくらいで終わって帰れるんや?」

 

「えと、えと……はんにちくらい……」

 

「……そか」

 

 私は静かに海上で漂流した。

 妖精さんが出してくれたラムネを片手に、近くも遠い陸地を見やる。

 微妙に色づいて香ばしいラムネが激戦に疲れた体に沁みる。

 

「なんや、普通のラムネとちゃうよな、これ。うまいけど」

 

「かいぐんシロップなのですよ」

 

「なんそれ?」

 

「カラメルのさとうみずわり」

 

「それはえらい甘そうやな……」

 

 それに炭酸水をぶっこんだのがラムネなわけで。

 カラメルの砂糖水割りなんてもんが透明なわけもないと。

 琥珀色の綺麗なラムネで、ほのかな香ばしさがある。

 

「ちゅーか、駆逐艦やとラムネは作れへんのとちゃうかった?」

 

「しゅほにはおいてあります」

 

「ああ、まぁ、作れへんのと仕入れへんのとではちゃうか」

 

 作れないなら最初から積み込んでおけというわけで、作れないにせよモノはあるということらしい。

 

「……こうしきにはおいてないだけで、じつはつくれます」

 

「って、作れるんかーい」

 

「そもそも、ラムネせいぞうせつびなんて、もともとはただのしょうかきなのです。つくろうとおもえばくちくかんでもつくれました」

 

「そうなん? って、そーか。いまは薬剤消火器が主流やけど、昔は二酸化炭素消火器やなぁ」

 

 消火器には色々と種類がある。火災の種類によって使うものが違うのだ。

 戦闘艦だと……電気火災か、薬剤火災が大半だろうか?

 いずれにせよ、濡らしたら拙いものも多いので、たしかに現代でも二酸化炭素消火器を使う気がする。

 

「おおがたかんにはりっぱなしょうかせつびがあったのでたくさんつくれただけで、くちくかんでも100や200はつくれたのです」

 

 えっへん、と胸を張る妖精さん。なにやら和む仕草である。

 ラムネをくぴくぴ飲みながら、ラムネについて講釈する妖精さんの話を聞く。

 時々褒めてほしそうにするので、その都度その頭を指先で撫でてやる。

 やーん、などと言うが、わりと嬉しがってるみたいで気持ちよさそうに撫でられている。

 

「ふーん、ためになる話やったわ。ごっつぉさん」

 

 飲み干したラムネの瓶を妖精さんに渡すと、えっちらおっちらと艤装の中に運び込んでいく。

 わりと艤装の中が四次元空間な気がしてならない。考えてみれば、砲弾とか小さいけど明らかに艤装の中に入る量じゃないものなぁ。

 

 砲弾は定数と言うものがあり、大体100発前後あたりがそうであるらしい。

 実際にはその何倍も積み込むことが出来るけど、そんなに積み込んでも……と言う事情がある。

 魚雷に関しては常に積めるだけ積むのだそうで、これが16発であるらしい。

 4連装の魚雷発射管2基が搭載されているため、2掃射分と言うわけだ。

 砲弾はまだしも、魚雷とか絶対に入らないのに入ってるので、そう言うものなんだろう。

 

「……まぁ、休憩やと思っとこ」

 

 陸地に戻りたい気持ちはあるが、どうにもしようがない。

 無駄に焦っても疲れるだけ。ここはなんとか気を落ち着けて休もう。

 

 

 

 

 

 水管を交換し、缶の整備も終了し、さぁ出航できるぞ、と言う頃。

 その時、既に私は完全に限界を迎えていた。

 

 全身の激しい打撲と内蔵にも入った衝撃、極めつけは吹っ飛んだ右腕。

 気合と根性があれば活動可能であるが、気合と根性が品切れになる頃には活動限界である。

 

 怪我は直後よりも、しばらく時間が経ってからの方がつらい。

 

 骨折なんかは直後が一番痛いのだが、こういった打撲や出血と言うダメージは後々になって響いてくる。

 半日以上海上で足止めを食った私は、そのいちばんつらい頃合いに突入していた。

 

 体の防衛反応かなにかなのか、高熱の出て来た体。

 強烈に響いてくる全身の痛み、もうない右手の指先が痛む感触。

 16時間ほどに渡って、口に入れたものはラムネのみ。

 

 体を動かす燃料は切れ、頭はぼーっとする。

 

 私の体脂肪率は4%あるかどうかで、かなりガリガリである。

 私はナチュラルウェイトで戦うボクサーであり、減量なんてしたことがない。

 まぁ、プロの世界に未だ入れない年齢なので、そこまで真剣に体重を考えたこともないが。

 

 では、なぜそんなに痩せているのかと言うと、チート能力の代償だ。

 

 チート能力を使うと自動的にカロリー消費量も5倍になる。

 1日チート能力を全開にしていると、日常生活だけで7000キロカロリーくらい浪費する。

 普段は細々としか使わないし、動体視力とか反射神経強化なら消費量も大して増えないのだが。

 

 子供の頃はそのあたりのことが分かっておらず、低血糖で医者に担ぎ込まれたこともある。

 代謝がマジヤバイ、と理解した医者に高カロリー医療用ドリンクを処方されて終わったが。意外とおいしかった。

 そんな感じで、体格相応に食べて、日常で時々チートを使って、とやっているだけで激やせするのだ。

 無理やり食べて体格維持をするほどのことでもないのであまり気にしていなかったが、これからはもっと食べよう。

 って言うか、医者のところいってプルモケアとかエンシュアとか処方してもらおうかな……。

 

「おおう……くらくらしよる……お腹空いたわ……」

 

「せんとうりょうしょくはつんでないのですー……」

 

「せやろなぁ……」

 

 しゃーないしゃーないと妖精さんの頭を撫でる。

 代わりにラムネなら、とか言われたが、もういらん。って言うか、だな。

 

「うち、おしっこしたいんやけど……!」

 

 半日も海上にいたのだ。もう漏れそうである。

 スカートならちょっとショーツを下げて海面に放尿とか出来たかもしれないが、ジーンズである。

 日常生活に運動が密着してたので大半ズボンだったが、これからはスカート主体で生きることにする。

 

 

 

 不断の努力で尿意を我慢しながら陸へと辿り着き、背に腹は代えられんとそこらで済ませる。

 持っててよかったポケットティッシュで始末をつけ、戦闘の気配の消えた町へと。

 体はもう限界である。町へ行けば、自衛隊あたりが救護所でも作っているのではないか。

 そんな予想の下、ぼろぼろの体を引き摺って移動する。なんでもいいから休みたい。

 

 

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