艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理   作:アズレン提督

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明日への希望

 大講堂にはめっちゃたくさんの自衛官がいた。うおー、すげー、壮観。

 ざっと見積もって300人はいる。天ねーも、うおーすげー、と小学生みたいに驚いている。

 

「まぁ……あちらは陸自、あちらは海自……空自の方もいますね。それに、徽章をお持ちの方が多いですね。レンジャー、空挺、フリーフォール、航空管制……」

 

 鳳翔さんがなんか感心したように言っているが、よく分からない。

 鳳翔さん以外みんなそうらしく、何を言ってるんだろう、と言う感じの表情だ。

 

 その後、艦娘戦闘団の意義について、なんか偉い人っぽい自衛官の人が説明をしてくれた。

 艦娘の戦闘能力を最大限に引き出し、この国難を乗り越えるための組織、それが艦娘戦闘団。

 

 皐月は緊張したような表情をしている。私はと言うと、最初から分かっていたことなのでそこまでではない。

 この状況では艦娘に最大限に頼るしか活路が無い。そのために、艦娘を完璧にサポートするのがこの艦娘戦闘団の意義だろうとも。

 とは言え、これほどの人が私たちのために共に戦うと思うと、その責任の重さも感じさせられる気がする。

 

「では、最後に……艦娘戦闘団の実働部隊である艦娘の皆さんを代表し、黒川さんにお言葉を頂きたいと思います」

 

 ……えっ? 私!? なにも聞いてないんだが!?

 

 天ねーにはよいけや、と目線で促され、他の自衛官も私をじっと見ている。

 待ってくれよ、なんで私の顔が自衛官に割れてるんだ。あっ、そっかぁ……2日間の戦闘で散々自衛官に顔見られたもんね……。

 自衛官の人たち、胸のところになんかカメラつけてたもんね……録画されてたんだぁ……そっかぁ……。

 

 私は泣く泣く前の方に出て行く。

 

「えーと……あの……言葉て、なに言うたらいいんでしょ……?」

 

「素直な気持ちで構いません。自衛官に自己紹介をしてやる、くらいの気持ちで構いませんよ」

 

「はぁ……」

 

 名前と年齢と趣味くらいでいいだろうか……スリーサイズくらいはサービスすべきだろうか……。

 でも私、バスト以外のスリーサイズ知らないんだよな……バストはブラ買うのに要るけど、他のサイズは別になくても……。

 まぁ、そのバストサイズもスポブラしか使わないので頻繁に測ってるってこともないのだが。

 

「えーと……黒川潮、言いますー。駆逐艦の黒潮、やらせてもらってます。って、あー……自衛隊のお人やと、くろしお言うたら潜水艦でしたわ。あはは」

 

 ぽりぽりと後頭部を掻く。だ、誰も笑ってくれない……。

 やめてくれ。私は関西弁で喋っている。だが、それは母が京都出身だからだ。

 女の子っぽい喋り方を学ぶために母の喋り方を真似したから、そっくりそのまま京都弁になっただけなんだ。

 まぁ、京都出身だが大阪の道場で鍛えてたから、大阪弁もかなり混ざってると後で知ったが……。

 

 つまり、だ……私は関西人じゃないんだ! おもしろいこととかできないんだよ!

 

 ああ、ああ、だれか……助けてくれ……あれが……おぞましい、残酷な質問がやってくる……。

 ああっ、呪われた関西人への質問が……赦してくれ……赦して……くれ……。

 ふへ、ふへへへ、ふへははは、くっくっく……。

 

「あーっと、しょーもないこと言いました。すんまへん」

 

 とりあえず気を取り直して謝り、深呼吸をひとつ。

 そして、私はふと抱いた素直な疑問を投げかけた。

 

「あー……まぁ、なんや。皆さん、正直なところ聞きたいんですわ。怖い人、手ぇ上げたってください。ちなみにうちはめっさ怖いです」

 

 そう言って私は手を上げると、恐る恐ると言った調子で何人かが手をあげる。

 そして、それに続く人が幾人も出始め、やがてはほぼ全員が手をあげた。

 

「ですよね。うちも、言うた通り、怖いです。なんでうちが、とか、なんで日本が、とか、いろいろあるんです。とにかく怖いです」

 

 それは正直な気持ちだった。どうしてそうなったのか。どうしてこうなってしまったのか。

 そんな、答えの出ない気持ちが胸の中でぐるぐると渦巻いている。

 

「そやけど、まぁ、なんですかね。北海道と沖縄にいる艦娘はん。その2人のこと考えたら、もっと怖いんやろなって、思うんです」

 

 北海道からは青函トンネル経由で続々と避難民が脱出してきているそうだが、1か月経った今になっても避難は完了していない。

 北海道が広すぎること、そして、時期が悪過ぎたこと。冬の北海道は試される大地である。

 迂闊に移動すれば、それだけで死に至る。そう言った場所がザラに存在する。それが北海道、試される大地だ。

 現状のままなら半年間の持久は可能と言っても、現状は雪に閉ざされた今も含めたことだ。実際はそれ以下だろう。

 

 それでも、1人でも多くの人を助けるために、北海道の自衛隊員は孤軍奮闘を続けている。

 あの有名な士魂大隊は既に壊滅的被害を受け、部隊としての体裁を保つことすらできない有様になってもなお戦闘を継続しているという。

 北海道の部隊は、深海棲艦との戦闘開始以前と比較して、既に損耗率は200%を超えているという。

 これは初期定数の倍に値する人員が戦線離脱をしたことを意味する。それは無論、人員が補充されたことを意味しない。

 負傷で1度戦線離脱し、治療の後に戦線復帰。そして、再度戦線離脱をした、と言う意味である。負傷兵ですら休むことが出来ない。

 壊滅的と言う言葉ですら生温いほどの絶望的な戦闘が繰り広げられているのは明白だった。

 

 沖縄でもそれは変わらない。沖縄では在日米軍も交え、即席の日米連合軍が激戦を繰り広げている。

 沖縄ではないが、自衛隊基地のある硫黄島基地は地獄だ、と言う通信だけが辛うじて伝わったそこでは、空母の艦娘が大回転で戦闘を続けているらしい。

 最も地獄に近い島などと米兵の間では囁かれ出した硫黄島は、今や陥落寸前の有様だという。

 

「んでもって、戦うこともできない避難民の人は……もっともっと、怖いんやろなって……思うんです」

 

 怖い。チート能力があっても、怖い。もしかすれば、死ぬかもしれないと、そう思いながら戦うことが、あまりにも。

 どうして耐えられるのか、なぜ戦えるのか、自分でも分からない。

 でも、気付けば戦ってしまっている。これはもう、そう言うものなのだと折り合いをつけるしかないのだろう。

 

「ほんまに怖いんです。そやけど、怖いからって縮こまってたくもないんです。そやから、うちは戦います。皆さんも……そうなんやないかと思います」

 

 誰かを助けたいという想いで、私たちは戦う。

 それだけで戦えるのかと言えば、私も首を捻らざるを得ないが。

 だが、もうあんな理不尽なものを見たくないという気持ちがある。

 あの町で見た顔もこの中にはいる。あの地獄を見た人たちが、戦うためにここに来ている。

 もうあんな光景を見たくない。あんな光景を作らないために、私たちはここにいる。

 

「みなさんも、同じ気持ちなんかは、うちにはわかりません。でも、戦う理由があるからここにいる。そのことは信じてます」

 

 あんなに怖い思いをしたのに。

 艦娘である私たちより、ずっと怖かったはずなのに。

 なんにも出来ない無力感に苛まされたはずなのに。

 それでも、それでもここに立っている。

 それは、どんなものよりも尊い意思だ。

 

「うちには夢がありました。ボクシングのチャンピオンです。17になったらプロ試験受けて、世界チャンピオンになって、1ファイトで100万ドル稼ぐようなビッグな女になる言う夢がありました」

 

 そう言って、私は右腕を持ち上げた。そこには、動きに付随して揺れる袖だけがある。

 

「もう、叶わん夢です。そやけど、それでも、うちには夢がある」

 

 もう私の夢は叶わない。片腕のボクシングチャンピオンは存在し得るかもしれない。

 けれど、この世界情勢で、のんきにボクシングのチャンピオンを目指せるほど、私は薄情じゃない。

 

「今日もそうやし、明日もそうや。うちは信じられへんほどにどでかい困難いうやつにぶち当たる。そうだとしても、うちには夢がある」

 

 叶えられない夢はもう捨てて、私は新たな夢を抱く。

 

「いま、うちは明日が欲しい。明日のために言うて、頑張れる今日が欲しい。頑張ったから大丈夫やって信じられる、昨日が欲しい」

 

 なんの変哲もない、何も変わらない、日常。

 でもそれは、私が気付いていなかっただけで。

 どんなものよりも大切な、宝石のように貴重な時間だった。

 

「みんなが無邪気に明日を信じられる時が来る言う夢が、うちにはある」

 

 ほんの一か月前まで、誰もが信じていた。昨日と変わらない明日が来ると。

 その仮初の真実は、深海棲艦によって、あまりにも呆気なく打ち砕かれてしまったけれど。

 海からやって来た戦争が、そうしてしまった。だから、私たちは海へ往く。

 

「昨日とおんなじ道を通って学校いって、毎回おんなじ説教しよるせんせの授業聞いて、相変わらずの友だちとまた明日言うて別れる。そんな日がまた来るって夢が……うちには、あります」

 

 それはきっと、易々とは叶わない夢なのだろうけど、それでも、その夢を抱いて私は戦う。

 夢と言う希望を抱いて、私たちは戦う。それが私たちにできることだから。

 

「うちの夢、しょーもな、さっさと諦めろや、って思う人、おりますか?」

 

 誰も手を挙げない。笑いもしない。

 

「うちの夢、叶ったら最高やって思う人、おりますか?」

 

 勢いよく、みんなが手を挙げた。

 

「あはは、みんな気持ちはおんなじなんや。うちもおんなじや。なら、することは決まっとる」

 

 戦おう。私たちの奪われた未来を、奪い返しに行こう。

 これが運命だというなら、覆してやろう。この胸に、夢を抱いて戦いに行こう。

 

「夢を胸に抱いて戦えば、きっと、うちらは絶望に満ちた戦場からでも、希望を拾い上げることができる」

 

 だって、私たちはもう、その希望を拾い上げているのだから。

 

「みんなもそうや。瓦礫の町の中からでも、うちらは勇気の火を灯すことができた」

 

 私たち艦娘と言う存在が、その勇気の火を灯したのだとしても。

 戦う限り、きっとみんながその勇気の火を見出す。

 

「同じ夢を抱く限り、うちらは共に戦い、共に願い、共に夢を見れる。そして、いつの日か、共に夢を掴むことができる」

 

 その信念こそが私たちを強くしてくれる。

 諦めない限り、きっと夢は叶うと、信じられる。

 

「だから……みなさんの命、うちら艦娘に預けてくれますか。うちらといっしょに、戦ってくれますか。いや、この言い方は卑怯やわ」

 

 私は首を振って、言い直す。

 

「うちら艦娘といっしょに、命懸けで戦ったってください! どうか、おねがいします!」

 

 私は頭を下げた。私に出来る誠意の表し方はこれくらいしかないからだ。

 

「うちはもう嫌なんや! 目の前でだれかが死ぬなんて、もう嫌なんや!」

 

 誰にも死んでほしくない。できることなら、全員だれもかれもを助けたい。

 でも、私にはこの小さな左手1本しか残されていないのだ。

 

「なんで人が殺されなあかんのや! なんでうちよりちっさい子が死ななあかんのや! そんなんおかしいやろ!」

 

 どうして理不尽に未来を奪われなくちゃいけない。なんで殺されなくちゃいけないんだ。

 ただ、明日を信じて生きていただけなのに。それが罪だというなら、私は絶対に認めない。

 

「人が死んどるんや! いっぱい、いっぱい人が死んどるんや! なんでこんな簡単に人が殺されなきゃあかんのや!」

 

 犠牲者がどれだけ出たのか、未だに分かっていない。それくらい、たくさんの人が死んだ。

 町一つが更地になるほどの、凄まじい被害が出た。それだけたくさんの人がいた。

 私の居た町も、百万都市と言われるくらいに規模の大きい町だった。

 

「命が、こんな簡単に奪われるなんてうちは知らんかったんや! どんなもんより貴重で、地球より重いって、そう信じてたんや!」

 

 でも、そうじゃなかった。命は地球より重くなどなかった。

 いいや、そんなものと比較するなんてこと自体が、間違っていた。

 

「そやけど、そやけど、命は……命は、紙切れ1枚より軽かった……簡単に、ゴミみたいに、あっさり奪われてまうもんやった」

 

 地球とは比較にならないほど、命は軽かった。

 風に吹かれれば飛んで行く紙切れのように、命はちっぽけだった。

 

「そやけど、そんなの貴重さとはなんの関係もないやろ!? 紙切れより軽いからって、どんなもんより貴重なんは変わらんやろ!」

 

 どれほどに軽くても、命はどんなものよりも貴重だって、私は信じている。

 それが、理想論でしかなくても、夢物語でしかないのだとしても、私は信じている。

 

「それをあんな、あんな簡単に、おもちゃみたいにもてあそばされて喪われていくのが、許されていいわけがない! そんな酷いことが許されるわけがない!」

 

 だから、戦うと決めた。私が弱かったから殺されてしまった、今となっては少年なのか少女すらも分からない子供のような存在を、もう2度と出さないために。

 物言わぬ屍となった母の傍に散らばる肉片となった子供なんて、そんな残酷なものを、もう2度と作らないために。

 安堵の涙を流す母と、泣きながら母に縋りつく幼子って言う、希望に満ちた、そんな優しい光景を見たいから。

 

「うちはその理不尽を認めへん! だから、戦う! 誰も理不尽に命を奪われない明日が欲しいから、うちは戦う!」

 

 だから、どうか、お願いします。

 

「そやから、そやから……うちの夢を、素敵やと思ってくれたなら……どうか、うちらといっしょに、戦ってください……うちらと、命を賭けてください……おねがいします!」

 

 しんとして、それからすぐに、戦うぞ、と男の人の声がした。

 思わずパッと顔を上げると、そこには気炎を上げる自衛隊員が居た。

 

「俺も許せない。俺は、市民を見殺しにするために自衛隊員になったんじゃない。女の子だけを戦場に送り出すために自衛隊員になったんじゃない! 俺はだれかを守るために自衛隊員になったんだ!」

 

 顔も知らない誰かのためにと、そう叫ぶ人が居た。

 

「自衛隊は親方日の丸だから入ったんだけどさ……僕も、嫌だ。だれかが理不尽に殺されるのが、嫌だ。僕も戦う」

 

 理不尽が許せないと、そう呟く人が居た。

 

「……あの被害で、家族はみんないなくなった。だから、捨て鉢だったんだ。けど、僕が戦ってだれかの未来を守れるなら、戦いたい。僕にも、戦わせてほしい」

 

 私の叫んだ、未来が欲しいという願いに呼応してくれる人が居た。

 

「ここで逃げたら、くそださいよな。大人だから……自衛隊員だから、カッコつけなきゃなんだ。その夢、俺にも一口噛ませてほしい」

 

 格好悪い自分になりたくないと、誇れる自分になろうとする人が居た。

 

「30年も自衛隊員やってた癖に、君のお蔭でようやく自衛隊員の自覚が持てた気がするよ。情けないおっさんで、ごめん。僕も戦う。おっさんだけどさ、役に立つよ、必ず」

 

 かつて喪った情熱を燃やす人が居た。

 

「おい、潮! 俺らのこと忘れてんじゃねーぞ! 俺らだって戦う! そうだろ! 俺だって、あんなのはもう2度とゴメンだ!」

 

「ボクもだよ! ボクも目の前でだれかが殺されるのはもうイヤなんだ! だから、戦おう!」

 

「とても素敵な夢ですね、黒潮さん。私も、昨日と同じ道を歩いて、毎日同じ学校にいって、明日を信じられる日が欲しいです……退屈な日々だと思っていましたが、今ならもう2度とそう思うことは無いでしょうから」

 

 私と同じ艦娘のみんなが、私の夢を共に抱き、共に希望の火を灯して居た。

 私の瞳から、涙が零れ落ちる。こんなにもたくさんの人が、同じ夢を抱き、戦う意思を宿してくれた。

 きっと、戦える。みんなといっしょになら、戦える。この胸に、同じ夢を抱いているから。

 

「ありがとぉ……ありがとぉなぁ……! うち、がんばるから……がんばるから!」

 

 私たちは胸に夢を抱き、戦いへの決意を打ち立てた。

 戦おう、果ての果てまで。

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