艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
戦闘準備
艦娘戦闘団設立から1日。
私たち艦娘は、あの激戦の疲れを癒すように束の間の平和を……味わっていなかった!
「怖い怖い怖い! なんでこんなことするんだよ! 酷いだろ!」
びゃあびゃあ文句を言ってるのは天ねー。
なにやってるのかと言うと、空挺降下訓練。
正確に言うと、その前の段階のさらに前の段階の、落下の恐怖に慣れる訓練。
人間って、10メートルを超える高さから飛び降りるのには本能的な恐怖を感じる。
もちろん、それ以下でも恐怖を感じるのだけど、10メートルを超える高さはケタが違う。
だから、何回も飛び降りて恐怖に体を慣らす。今やってるのはその訓練。
高い塔から飛び降りる訓練だ。もちろん命綱をつけているので安心安全なのだが。
「天龍はなっさけないなぁ」
「なんだよ! 黒潮は怖くねーのかよ!?」
「怖ないけど」
「嘘つけ! じゃあやってみろや!」
「あいよー」
ひょい、と塔から飛び降りる。マジか! と天ねーが叫ぶ。
そして、自衛官がぎゃあああ! と悲鳴を上げた。
やっべ、命綱つけてなかった。
そのままスイーッと落下し、ドズンッ、と地面に足から着地。割と痛い!
私は再度塔に上り、天ねーと顔面蒼白の自衛官の前に立つ。
「よゆーやったわ」
「黒潮ちゃん大丈夫!? 怪我は!?」
「大丈夫やよ。って言うか、艦娘ならみんな平気やと思うけど」
チート能力ありで落下したけど、ナシでもなんら問題ないと思う。
艦娘の身体能力自体はそこまで高くはない……。
って言っても、私が100メートル10秒フラットで走れるようになってたので強化自体はされてる。
足が速めの女子中学生から、男子オリンピック選手クラスになってるんだから。
身体能力はそこまで高くはないのだけど、強度の方がえぐい。
純粋に体が鋼鉄で出来てるのと同レベルの状態になってる。
10メートルどころか30メートルでも問題なく落下できると思う。
「ちゅーわけで、天龍も大丈夫やから降りや」
「お、おう! よーし、いくぞ……いくぞ!」
なぜかこっちを見ながら宣告する天ねー。
「おー、いってきいや」
「ああ。行くぞ! ……行くぞ!」
「はよ行けや」
しつこいので後ろから尻を蹴っ飛ばして落とす。
「ああああああああぁぁぁぁぁ――――!」
悲鳴を上げながら落下していく天ねー。命綱はつけているので、ちょっと落下したところでプラプラしている。
「く、黒潮ちゃん、危ないから蹴り落とすのは……ね……」
「わかったわー」
涙目でひいひい言いながら登って来る天ねー。
「黒潮てめー!」
「わかったわかった」
「お、おい、黒潮?」
「ほうれー」
蹴ってはいけないらしいので、正面から持ち上げて外に投げ捨てた。
「うわぁああぁぁぁぁぁ――――!」
また悲鳴を上げて消えていく天ねー。
「これでええ?」
「いや蹴らなければOKってことじゃなくてね、落とすのをやめようねって言うね、うん」
「そんなこと言うてたら天龍の訓練終わらんよ……天龍、割とビビりやから……」
肝試しとかすると、おばけなんかいねーよ! 潮もそう思うよな!
とか言いながら私の両手をガッチリ掴んでくるタイプである。
ちなみに、天ねーは恐怖や怒りが限界に達すると、原因の排除に動く薩摩武士系の思考回路をしている。
そのため、肝試しをする際は天ねーから竹刀や木刀を取り上げておく必要があるぞ!
と言っても竹刀だの木刀だの持ち歩くような人ではないのだが。
「そうなんだ……うん、でも、無理やり落とすのはやめようね」
「うーん、そんなら、言葉巧みに落とせばええん?」
「え、うん、まぁ、それなら……」
無理やり落とさなければOKらしい。
私はまた登って来てキレ散らかす天ねーを無視しつつ、横にいる皐月と鳳翔さんを見やる。
「皐月っちゃん」
「え? ボク? どうしたの?」
「いけそう?」
「ちょ、ちょっと怖いかなぁ、って」
「そか。ここが根性の見せどころや! がんばろな!」
「うん! ボクがんばるよ! いくぞー! ふぁいとー!」
って言いながら飛び降りる皐月。
皐月ちゃんいちばん根性キマってる節があるので、応援すると頑張れる子である。
「鳳翔さん」
「はい」
「ほな、いってらっさい」
「はい、行ってきますね」
空挺降下訓練を楽しみにしてて、楽しみで眠れませんでしたとか言ってた鳳翔さん。
私が行けと言うと、笑顔で飛び出していった。残るのは私と天ねー。
「んで……」
「な、なんだよ」
「みんな降りとるけど? あんた降りひんの?」
「あああああ! いくよ! いけばいいんだろ! くそぉぉぉお!」
ヤケクソ気味に天ねーが飛び出していき、全員が降下成功である。
「じゃ、最後はうちやね」
「うん、じゃあ安全帯をぉぉぉおおお!!!」
つける前に飛び降り、また地面に落着。
わざとじゃなくて本気でうっかりやらかした。
学習しないな、私……。
格闘訓練。艦娘でも格闘は出来た方がいいよね、と言う理由で自衛隊のみなさんがレクチャー。
ボクシングと自衛隊の格闘は別物なので、私も教えは乞うている。
右腕がない私と、左目がない天ねーは無理しないようにと強く言い含められている。
「なんや、こんなもんか」
左手一本で格闘徽章なるものを持っている自衛官を捻り潰して終了である。
腕力に頼った戦いでは、自分以上の腕力を持った相手に負けるから技が重要だ! みたいなこと言われたが……。
相手が突き出してくる腕を片っ端から左手で逸らし、イケると思った都度にデコピンしてやる。
私が本気でデコピンすると爪が割れるので程々に手加減はしているが、結構痛いゾ。
べっこんぼっこんにされた自衛官の人は落ち込んでいた。
ごめん……でもイケると思ったから……(明白な理由なし)
天ねーは多少苦戦していたが、途中からコツを掴んだのが理不尽なほどの強さを発揮しだした。
いや、ほんとに理不尽だな。素手でやり合ってるのにチート全開の私と互角にやり合うとかどういうこと?
「深海棲艦との戦いで気づいたんだ。クソ重ぇ攻撃してくるやつ、クソ速ぇ攻撃してくるやつはいっぱいいる。それより重い攻撃、それより速い攻撃で対処ってのは、まぁ、無理だ」
そりゃそうだ。相手とは基礎的なスペックが違い過ぎる。
だからと言って、なんかよく分からない術理で理不尽に対応しないで欲しい。
「なら、それより軽い攻撃、それより遅い攻撃で対応するしかねぇ。それが分かりゃ、あとは実践するだけだ」
「え? それだけ?」
「それだけだ。釣り上げて、捌き切る。攻撃の出を見極めりゃ、いずれは予兆までも読めるようになる。後はもう対応するだけだ。楽勝だろ」
「なにいってんのこいつ」
意味分からん。これから天ねーのこと処女姉様って呼ぶわ。
パンツを脱がない流派をぜひとも創始して欲しいものである。
待てよ。その場合、強姦された挙句に死ぬより辛いとか言う魂の分割をされるのは私ではないか……?
そんな具合で私と天ねーは、教えることナシ! 隅っこで自主練してろ! と放置。
皐月と鳳翔さんが一生懸命格闘訓練を受けるのを見守るだけになる。
ヒマなので天ねーと試合。
私の拳を捌けて調子に乗り出す天ねー。
イラッと来て本気を出し始める私。
捌き切れなくなってきて、艤装付属の剣を持ち出す天ねー。
モノホン出す言うことはガチやな? とチートを全開にし出す私。
それすらも辛うじて対応し切る天ねー。
キレてマジの本気を出す私。
今までにないくらい対応出来てテンション上がりまくってガチの本気になる天ねー。
結局、決着がつくことはなかった。
「私、弓道部だったんですよ」
「ほえ~、そうやったん?」
「ええ。結構上手だったんですよ」
鳳翔さん弓道部とのこと。なので艤装の取り扱いにはあんまり困らなかったらしい。
ただ、最初に使った時、具合が分からなくて妖精さんを特攻させてしまったらしい。
まぁ、弓あったら敵に向けて直接撃つよね、そりゃ。
「うち弓道ってやったことないんやけど、むずかしいん?」
「そうですね。ただ当てるだけならそれほど……もちろん練習は要りますが。弓道は所作や作法を正しく守ることも競技のうちなので、中てられるだけでは二流なんですよ」
「ほえ~、まぁ、剣道もそうやしね」
剣道も相手をめくらめっぽう叩きのめせば勝ちなんてことはない。
ルールに則り、面、胴、籠手に有効打を叩き込んで勝ちなのだ。
弓道もそれと同じで、正しいルールと手順があるということらしい。
「にしても、鳳翔さんも武道やっとったんやなぁ。やっぱ、おうちがそう言う家なん?」
「あ、いえ、その……こ、高校に弓道部があって、胴着姿が素敵な先輩が居たので、私もああなりたいと……」
ぽっ、と頬を赤らめる鳳翔さん。つまり、カッコいい先輩の真似したくてやり出したらしい。
なんだよもう可愛いな。鳳翔さん身長150半ばくらいで小柄なせいで、余計に可愛い。
「く、黒潮さんは、おうちがそのような家なのでしょうか?」
「そやねー。うちのおかんは空手、おとんはボクシングやっとったよ」
「そうだったんですね。お父さんにボクシングを習ったんですか?」
「そやよー。言うて、うちのおとん弱いから、ほんまに習っただけやけどね」
6歳の時にはもうノックアウトしてたので……。
悲しいことに、チート無しでだ。チート無しで6歳児に負ける程度に弱いのだ、父は。
まぁ、引退して長いのもあるけど……あれは普通に弱いんだと思う。
「まぁ、機会あったら、ボクシングの基本くらい教えるで」
「まぁ、ありがとうございます。その時は私も弓の引き方を教えますね」
「うん、ありがとうなぁ。機会があったらお願いするわぁ」
まぁ、その機会は、生憎と永遠にないのだろうけど。
私はそっと、風に揺れる袖を隠すように、右腕を背中へと回すのだった。
「皐月っちゃ~ん」
「あ、黒潮ー。どうしたの? ボクに用事?」
「はぁ~、寿命伸びるわぁ~」
「なんで!?」
「尊いからやね。ありがたやありがたや」
「んもー! なんで拝むのさ!」
ぷんすこする皐月。余計に尊い。
「と言うか、ちょっと気になってたんだけどさ」
「んー? どないしたん?」
「えっと、黒潮って関西弁だよね」
「そやねぇ~」
「でも、鳳翔さんのこと、鳳翔さんって呼ぶよね?」
「そやねぇ。年上やし、なんや、鳳翔さんはさん付けせなあかん感じするわ」
「うん、それは分かる。でも、関西の人って、さんじゃなくて、はんって言うんじゃないの?」
「ああ~」
たしかに、関西弁では誰かを呼ぶときになんたらはんと呼ぶことはある。
でも、いまどきそこまで強烈に訛ってる人いないぞ。芸子やってる人くらいじゃないか。
もしくは、観光客向けに口調の指導されてる旅館の人とか。それに、そもそも。
「うちははんってあんまり使わへんけど……そもそも、あれって使わん条件もあるんよ。鳳翔さんはそれに当てはまっとるから、コテコテに訛ってる人でも鳳翔さんちゃうかな?」
「そうなの? そんな決まりあるんだ……」
「そやよー。あれな、母音がイとウで終わるお人には使わへんのよ。ほうしょうさんやから、元々使わへんお名前の人なんやね」
「そうだったんだ! あ、じゃあ、ボクも皐月で、母音がイだからそうなるんだ?」
「そやね。まぁ、そうでなくとも皐月っちゃんは皐月っちゃんやし」
「んもー、なんだよぉー。頭撫でないでよぉ」
とか言いつつ嬉しそうな皐月ちゃん。
はぁ、可愛い。生きる糧だわ、こんなの。
「妖精さ~ん、用事ってなんやの~」
艦娘戦闘団の所属基地にある工廠。
元々は資材置き場だったところを改装して作られた場所だ。
妖精さんに工廠に呼び出されたので来てみれば、忙しなく働く妖精さんたちの姿。
「はえ~……なんや心和むわぁ」
ちみっこい妖精さんがどたばた働いてる姿はかわいい。
思わず心和ませてそれを眺めていると、いつの間にか肩の上に妖精さんが。
私の艤装についている、黒潮によく似た妖精さんだ。
「黒潮さん、黒潮さん」
「黒潮さんやよー」
「黒潮さんせんようそうびをかいはつしました!」
「おー? そやったら赤く塗ってもらおかな。3倍のパワー出せそうや」
「あかくぬるのですか?」
「そや。貴様、塗りたいのかって凄まれて止めるんもありやけどね」
なんて言いつつ、工廠の奥まったところに案内されて専用装備を拝見させていただくことに。
行きついた先で私を待っていたのは、台座の上にちんまりと鎮座する……腕。
「うわぁ、なんやグロいな」
金属で造られていることがありありと分かるのでそこまでではないけど、普通にキモい。
「黒潮さんせんようのぎしゅです!」
「ほえ~」
妖精さんがちみちみと湧いて出てきて、私の右腕に義手を取り付けてくれた。
当たり前だが触覚はない。って言うか、重い。なにこれ、クソ重い。
絶対これ肩凝る。って言うか体のバランス崩れるわ。使わない時は外してた方が絶対にいいな。
「きょうどゆうせんでつくってあります。きじゅうだんくらいならはじけます!」
「うち別に生身で弾けるけど」
「それは黒潮さんがおかしいだけです」
「なんやとこのぉ」
うりうりと妖精さんの額をつんつく突っついてやる。
「やーん、ぱわはらですぱわはら!」
「ふはは、うちは黒潮さまやぞぅ。んで、この腕はなんなん?」
「でんじしゃくをしこんであるので、ものをにぎるくらいならできます。しゅほうをかまえるときにはやくだつはずです」
「左手一本でなんとでもなるけど」
「それは黒潮さんがおかしいだけです」
「なんやとこのぉ」
またもうりうりと妖精さんの額をつんつく突っつく。
たしかに5倍チートの腕力で無理やり振り回してはいるのだが。
片手でピッタリと構えるのは結構厳しい重量だと思う。
「やーん、やーんもう。やめてくださぃー」
「ふふん、これで上下関係が分かったやろう。まぁ、でも、右手があるだけでだいぶ違うやろし、助かったわぁ」
電磁石のスイッチは妖精さんが入れてくれるらしい。まぁ、戦闘中は握りっぱなしだろうが。
主砲は左手でどうにでもなるので、右手でぶん殴ればいいだろう。金属製だから生身よりダメージ出るはずだ。
「せっかくですから、てんりゅーさんとおなじけんもつかいますか?」
「え? あるの?」
「あります! こぶしよりリーチがのびてらくですよ!」
「おー、そんなら使わせてもらおかな」
と言うわけで、天ねーの艤装の予備とか言う剣を用意してもらう。
右手の電磁石で拳を握り込んでみると、ガッチリ固定されてかなりのハイパワー感だ。
「てつわんゲッツみたいですね」
「強盗騎士はやめろや。もっとこう……ええと……うーん……ガッツは……ガッツは、うーん……!」
ガッツみたいと言われると、こう、乙女心的に複雑なので。
さすがにあのゴリラといっしょにされるのはちょっと。
とりあえず義手と剣の使い心地を試すということで運動場へ。
肘は残っているので腕を曲げるのに融通は利くものの、手首は動かない。
元々動かすことを想定していないのか、ガッチリ固定された状態だ。
ちょっと違和感はあるものの、剣を振り回すことに関してそれほど問題はなさそうだ。
ただ、手加減はまるで利かないので、これで試合とかは出来なさそうだ。
意外となんとかなりそうだなと思いつつ、義手で剣を振り回していたら天ねーに目撃された。
「義手で剣振り回すとか、ネロみてーだな。いや、あいつは義手じゃねーけど」
「ネロ潮てか? やかましいわ」
天ねーの好きなゲームシリーズの主人公みたいと言われてしまった。
だいたい、私がネロなら天ねーはキリエか? 囚われのヒロインやるほど大人しくないでしょ、あーたは。
まだ2013年なので、天ねーの言うネロはDMC4のネロだろうな。DMC5だったら完全にネロ扱いだった、危ないところだった。