艦これの世界に転生したって早期に気付くのは無理 作:アズレン提督
2021/10/13 次話投稿に際して、複数更新に関する注意書きの削除並びに誤字修正
出撃
「展開早ない?」
「いきなりなに言ってんだ、黒潮」
変なもんを見るような眼で私を見る天ねー。
その服装は、艦これの天龍のアレそのものな服装である。
妖精さんが、ようやく全員分の装甲制服がロールアウトしました! と言って用意してくれたのだ。
この制服、装甲だったらしい。言われてみると変だよな、とは思ったのである。
右腕が砕けたのは艦娘になる前なので、さほど疑問ではない。
しかし、魚雷を握り込んで殴ったら右手が吹き飛ぶ。これちょっと変ではないか。
艦これだったらまず服がズタボロになるものなのではないか……そう言う疑問だ。
これはゲームじゃねぇ、現実だ。って言われたら全ておしまいではあるが。
その他にも、皮膚と肉体の強度が爆上がりしていたものの、機銃弾の直撃でかなり腕から血も流れていた。
体を貫通こそしなかったが、お腹にめり込んだ銃弾も幾つかあったのだ。気付いてなかったけど。
退院する時、記念に持って帰りますか、と医者が出して来た鉛玉にビックリした程度には気付いてなかった。
その疑問はこの制服にある。
これ着てると、肉体に損傷が発生するレベルの被害を受けた時、これがダメージを肩代わりして破損するんだってさ。
まぁ、あれだ。着る応急修理要員みたいな存在なのだ。これ無いと戦艦の砲撃直撃したら即座に轟沈通り越して、体が木っ端微塵になって即死だって。
……最初に話しておけよ、とも思ったけど、それ聞いてたら戦艦棲姫と戦う勇気が出なかったと思うのでよかったことにする。
ちなみに天ねーは、なんだよこのクソ短けぇスカートは!? とブチ切れていた。
そうだよね、艦娘のスカートって全般的に短すぎるよね。マイクロとまではいかないけど激ミニだもんね。
皐月もキレてた。私はスパッツがあったのでヨシとした。デフォで用意されていた。
ボクにも! 俺にも! と詰め寄られた妖精さんは、黒潮さんのぶんしかないです、と答えて吊るし挙げられていた。
なお、その後、制服さえ着てればいいので、別に普通のスパッツ履いてもいいと判明して妖精さんは許された。
天ねーもスパッツ愛用者なので私物のスパッツを持っていた。皐月はスパッツ愛用者ではなかったらしいが、私の私物を貸した。
正確にはスポーツレギンスなのでスパッツではないのだが、スパッツをレギンスともいうので両者は曖昧である。なのでOK。
まぁ、そのあたりはとりあえずはいい。
私の言う展開が速くないというのは、まぁ、周囲の状況と言うか。
ごおおー、と極めてやかましい物音。クソ寒い気温。
鉄とプラスチックで構成された周辺。私たちが背を預けている自衛官たち。
ちら、とこの作戦前に渡された高度計を見れば、高度1万メートルを超える数値を示している。
私たちは自衛隊の保有する輸送機、C-1輸送機に搭乗し、高度約1万2000メートルを航行して硫黄島へと向かっていた。
実は深海棲艦、高高度に対する対処方法が無い。
1万2000メートルに到達出来る航空機自体殆ど持っておらず、1万2000メートルに到達出来てもC-1の速度にまるで追い付けない。
って言うか、航空自衛隊の保有するF-2にもまるで対応できないらしいが、F-2もF-2で深海棲艦に対しどうにもこうにもできないらしい。
なんでかって、まぁ、小さすぎるんだよね、深海棲艦の艦載機。
人間の手の平大のものを撃ち落とせるほど高精度に機関砲射撃できないし、空対空ミサイルは小さすぎて当たらないとのこと。
じゃあ深海棲艦だけ狙えば? って話なのだが、こっちはこっちで、対応するミサイルが存在しないという。
空対艦ミサイルでは的が小さ過ぎてろくに当たらず、当たっても装甲が厚過ぎて殆ど効かないらしい。
機銃射撃はミサイルが通じない相手にどうしろって話だし、それ以外の殆どの武装が役に立たないらしい。
ただ、今回の作戦、艦載機に対しては誇りに賭けて対処する、とファントムライダーたちが同伴している。
ファントムライダーとは、F-4と言う戦闘機のパイロットを指す言葉だ。
自衛隊では現在F-4EJ改と言う機体を使っているベテランたちだ。
機関砲が当てられないのは腕前の問題だ! と深海棲艦の航空機を20機くらいブチのめしてるおじさんが言ってたので頼れるのは間違いなさそう。
C-1輸送機の周辺を守るように飛翔しているだろうF-4EJ改の姿を見ることはできないが、チートで強化した聴力でC-1とは異なるエンジン音が聞き取れる。
「しかしよ、なんで硫黄島なんだ? ヤバいのは沖縄なんじゃねーのか?」
「その沖縄を守ってるのが、硫黄島におる艦娘さんや。距離にして約1300キロやから、航空機は届くやろね」
零戦なら楽勝だ。あれ沖縄から北海道まで無補給で飛べるんだぞ。どう考えてもそんなに要らない。
まぁ、そんな感じで航続距離が頭のおかしい領域に達してるからな、零戦。
まぁ、実際には艦娘さんは米軍の太平洋艦隊の防空援護を受け、硫黄島から約200キロ離れたあたりから艦載機を発艦させてるらしいが。
なんでそんな中途半端な位置かと言うと、硫黄島にも深海棲艦の襲撃が行われてるからである。
硫黄島から200キロなら沖縄まで約1000キロ。深海棲艦はミッドウェー環礁と思われるあたりから来ているらしく、沖縄と硫黄島なら硫黄島の方が襲撃率が高い。
それでもどこから飛んできてるのかよく分からない深海棲艦の航空機が沖縄を爆撃することがあるらしく、その防空のために艦娘さんが必死の防空をする。
沖縄の自衛官も必死で応戦しているらしいが、有効な対処が出来ないため損耗するばかりで防空は既に空母艦娘に頼るも同然だとか。
そんな状況で硫黄島に押し寄せる深海棲艦とも戦っているというのだから、過労死不可避である。
あのお嬢ちゃんいつ見ても働いてる……と噂になるくらいで、米軍もすごく心配してるらしい。
「ちゅーか、艦載機どないしてるんやろ。壊れたら補充できひんと思うんやけど……」
そこで、ぴょこりと私の胸元から妖精さんが顔を出した。私の艤装の妖精さん、つまり私によく似た妖精さんだ。
寒いだろうから服の中に突っ込んだのだ。妖精さん自体は温かくも冷たくもないので私には特に恩恵は無かったりする。
「いおうとうきちは、もうかいしゅうずみなのです。といっても、こうくうきちとしては、ですが……」
「そうなん? つまり、艦載機の整備とか補充はできるんか」
「はい。でも、それもげんかいがちかいのです……ほじゅうできるといっても、げんどがあります。もう、200きいじょう、げきついされています」
「ヤバない???」
どの艦娘だか知らんが、軽く2回は全滅出来るし、艦載数が少ない艦娘なら5~6回全滅してるぞ。
「われわれようせいはげきついされてもかえれますが、やはりなれしたしんだきたいでないと、じつりょくははっきできず……れんどていかもしんこくです」
「え? んじゃ、最初は烈風とか震電とかやったん?」
「え、いえ、その……かんさいきは、てづくりなので……ひとつひとつ、せいのうが……きたいになれないとじつりょくがはっきできません」
「あ、そう……」
ひとつひとつかなり癖があると言うことだ。癖と言っていいレベルなのか疑問な程度には性能にバラつきがあるっぽいが。
手工業に近い生産だったもんね、そうだね。機体によって当たり外れがあるとか言う時代だったもんね、うん。そんなとこ再現しなくていいから。
「ねぇねぇ、黒潮ってそーゆーの詳しいの?」
「あんま詳しくは知らんなー。あと、皐月、インカム、パッシブオンリーなっとんで」
「え? あ、ほんとだぁ……え? なんでボクの声聞こえたの?」
「なんでやろなぁ……」
空挺降下をする都合上、ここは与圧もされていないし、空調もされていない。
そして、エンジンの稼働音も最低限のシールドしかされていないため、至近距離ですら声が聞こえない。
そのため、インカムでも使って通話をしないと会話自体ままならない。
使い方をレクチャーされて、全員装着済みだ。これでお喋りしてるわけだ。
「黒潮は耳いいんだよ。眼もいいしな」
「そうなんだ! すごいね! 視力いくつあるの?」
「さぁ……正確な数値測れたことないから……たぶん、3はあるけど」
一応、裸眼視力が1.5は確実にある。で、矯正視力が7.5……はあるはずだ。でもチートって矯正って言えるのかな……?
だが、1.5はある、のであって、それが1.6なのか2.0なのかは不明である。
「3! すごいね!」
「皐月もすごいなぁ。うちは死にそうや」
「なんで!?」
すごいねとか褒められたら死ぬ。やめなさい、艦これの皐月と同じ声で、私個人を対象に褒めてはいけない。
あまり尊い誉め言葉を使うなよ。私が死ぬぞ。
「ええと、それで、なんやったっけ。ああ、皐月の声が尊い言う話やったな。うちは皐月に耳元で黒潮ちゃんかっこいいね、って言われたら即死するで」
「じゃ、じゃあ、絶対に言わないようにしなきゃ……」
「あ、うん、そうやな……」
素直に受け取ったらそうなるよね。うん。
皐月が純粋で私は嬉しいよ。そして少し残念だよ。
「ところでさ、硫黄島にいるって言う艦娘は、空母ってやつなんだろ? 誰なんだろうな?」
「そやなー。日本海軍の空母に限定すると、赤城、加賀、飛竜、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、葛城、雲竜、龍驤、龍鳳、祥鳳、瑞鳳、飛鷹、隼鷹……えーと、他になんやあったかいな」
「そうですね、天城、大鳳、千歳、千代田、春日丸、海鷹、神鷹……未完成の艦を含めるともう少しありますね」
「あれ、鳳翔さん、海軍詳しいん?」
「はい。ちょっと趣味で」
そう言って穏やかに微笑む鳳翔さん。ミリタリー趣味あったんだ……こんな穏やかそうなのに。
「鳳翔さん、ミリタリー好きやったんや。意外やね~」
「それ、おまえが一番言っちゃダメだからな。学校じゃ優しくて大人しい文学少女で通ってるじゃねーか」
「別に猫被っとるわけやないけどね……」
中身は一応大人なわけで、中学生相手に目くじら立てるのもみっともないというか。
あと、いざとなったら思いっ切りぶん殴れば相手は即死するという暗い優越感が精神的余裕を持たせるというか。
文学少女で通っているのは、大抵は図書室で本を読んでいるからだ。教室の自分の席でも読んでるけど。
図書室ってタダで本読めるし、学校の中にあるから5分足らずで行けるのだ。最高の場所だろう。
読んでる本は大抵文庫本だ。ラノベはこの時期に出てたのは前世で大概読み漁ったからなぁ……。
「でも、実はプロボクサーと互角以上に殴り合うボクサーだからな……」
「そやねぇ」
ちなみに殴り合ったプロボクサーが男子ボクシングのヘビー級元チャンプと言うのは秘密だ。うちのジムのトレーナーの幼馴染なんだって。
現チャンプのストレートより重いジャブとかギャグですか? とか言ってた。すまん、そんなもの20発以上も叩き込んで。
なので天ねーの言う、互角以上に殴り合う、ではなく、ヘビー級ボクサーを一方的に殴り倒すと言うのが正しい。
なんて考えていたら、とんとんと肩を叩かれる。
振りかえると、私を抱えている自衛官がインカムを指さす。
私はインカムの周波数を艦娘専用のチャンネルから、事前に登録されていた自衛官と共通のものに変更する。
「みんな聞こえているな? 艦娘のみんなも大丈夫?」
オッケー、とハンドサインを出す。事前にレクチャー済みのものだ。
私たち艦娘は聞こえてますのサインしか教えてもらっていない。それ以上教えられても覚えられないしね。
「硫黄島上空まであと10分程度だ。0705に時刻整合を行う。1分前」
言われ、腕時計を見やる。電波補正がついてるタイプの腕時計なので、手動調整が必要かを確認する。
ちなみにこれは支給品である。航空自衛隊のどっかの部隊に支給されてるものらしい。ちなみにカシオのG-SHOCKだ。
艦娘戦闘団向けに急遽支給がされ、私たち全員が持っている。セコいことに艦娘の分だけだが、まぁ、自衛官は自前のあるしね。
「30秒前」
時計の時刻は7時5分の30秒前、すなわち7時4分30秒。問題ないようだ。
「15秒前」
一応もう1度確認。うん、問題なし。
「5秒前。用意」
7時4分55秒、56秒、57秒、58秒、59秒……。
「じかーん。0705。時刻整合終わり」
問題なし。これで全員の腕時計の時間が合わさったことになる。
自衛隊でこれって本当にやってるんだなぁ。コレの呼び方が時刻整合って言うの初めて知ったかも。
天ねーはめんどくせー、と言う顔をしている。皐月は真剣。鳳翔さんは……なんだろう、なんか嬉しそうだね。ミリオタかな?
「時刻整合なんてお堅い言い方だけど、そんな難しいことじゃなかったろ? 君たちの時計は新品だから、合わせるまでもなかったろうしね」
あはは、なんて時刻整合の音頭を取っていた自衛官が笑う。
ちなみに、音頭を取っていた自衛官は誰も抱えていない。
彼が空挺降下をしてくれるメンバーのリーダー格だからなのだろうか。
それとも、艦娘と言う歳若い美少女を抱っこ出来る権利からハブられた悲しき敗北者なのだろうか。
「さて、出発前にブリーフィングは行ったけど、降下前に一応確認だ」
インカムのスイッチを切り替え、こちらの発言を通す状態にする。
「隊長さん、ちょい待ち。いま、下の方から爆発音が聞こえたんやけど。4、5……種類の違う爆発音。水中爆発音。これ、深海棲艦がなんかと戦闘しとる音や。応戦もしとる。この爆発音、たぶん艦載機が爆発しとる」
「なに!?」
隊長さんがインカムを操作し、機体のパイロット側へと通信を送っている。
その最中にも下の戦闘音が激化している。爆発音は数が増える一方で、微かに機銃射撃の音も聞こえる。
5倍強化したチート聴力と、5倍強化した音の選別能力でようやく聞き取れる音量だ。人間に聞こえる音量ではない。
「確認が取れた。海面付近で戦闘行動が行われている。機側でも確認が取れていないが、硫黄島側からの連絡で確認が取れた。艦娘、龍驤が戦闘中だ」
龍驤だったのか、艦娘。って言うか、なんで艦娘の名前伏せられてたんだろう。
「現在、硫黄島の南南西約82カイリ付近。龍驤もその近辺の海域で戦闘行動中だ」
「どうするん、隊長さん。うちはいつでもいける。そやけど、ここで降下しよったら隊長さんらを守り切れるかはうちにも分からん」
「君たちを龍驤の下に送り届けるのが俺たちの任務だ。そこが海上だろうと、硫黄島だろうと、関係はない。そこにいるならいくのが俺たちの任務だ」
「わかった」
「君たちもいいのか? 即実戦だ」
「嫌だったらここにおらんよ、隊長さん。みんなも、ええやろ」
言うと、全員が頷いた。みんな腹は決まっている。
ところで、私が艦娘側のリーダーみたいになってる空気なんなの。そんなの決めてないよね。
「では、いこう。払暁は7時17分頃。上空は日が見えるが、海面付近では夜明け前だ。視界は極めて悪い。気を付けるように」
OK、と思われるサインを自衛官たちが出し、リーダーが機側に後部ハッチ解放を指示。
機のハッチが開かれると、東側に見える日の出。高度1万2000メートルの高空だからこそ見える夜明けは、壮絶なまでに美しく思えた。
小柄な私と皐月は抱き抱えられ、体格のある天龍と鳳翔さんは互いの背に手を回し合って。
私たちはリーダーの号令と共に駆け出し、機外へと飛び出す。肌に突き刺さって来る冷たい風。
南下しているとはいえ、高度1万2000メートルに吹き荒ぶ寒風は酷く体に刺さる。
燃ゆる立つ払暁の空に小さな点を穿ち、私たちは魂すらも飲み込みそうな暗い海へと飛び立った。
高度1万2000メートルの上空。酸素マスクから供給される酸素で命を繋ぐ空。
落下速度は瞬く間に時速300キロメートルに到達し、人類が単身で到達し得る最高速度へと。
私たち艦娘は自衛官の手によって眼を塞がれている。手を放しても目は瞑っているようにと指示が出されている。
高高度から飛び降りるというのは、怖い。
彼ら空挺降下を行うメンバーは、それに感覚を慣らすための訓練を行った末に空挺降下を幾度となく行っている。
高高度降下低高度開傘を行う者は、毎月1回と言うほどの頻度で空挺降下を行っている熟練者にだけ許された特別な任務だ。
私たちにそんなことができる時間はなく、最低限の訓練で恐怖に慣らし、自衛官に抱き抱えられ、あまつさえ目を塞ぐという無茶をして実行している。
とにかく上空で暴れ出したりしなければそれでいい、と言うだけの訓練しか受けていないのだ。
この任務は始めから無茶無謀なのだ。
私たちの任務は、硫黄島に攻め寄せる深海棲艦の撃滅。
そのために硫黄島防衛を行っている艦娘と合流し、返す刀で深海棲艦を撃滅する。
そう言う無茶な作戦行動が立案され、それが是認された。
それ以外に取りうる道が無いからだ。海上から悠長に硫黄島に出向く方法を探っていては、間に合わない。
1か月間、海上交通網が寸断された硫黄島の食料備蓄は既にデッドラインに到達している。
空中投下で辛うじて補給線は繋がっているが、既に食糧不足は深刻化している。
これ以上の時間を浪費すれば、硫黄島は内部から崩壊する。そう言った判断だった。
「高度2000! ……1500! 1000を切った! 300で開傘するぞ! 艦娘のみんなは意識をしっかり保ってくれよ!」
そして、高度300メートルを切ると同時、急激に減速。
それを感じながら眼を開くと、真っ暗な海へと降下していく私たち。
事前に取り決めていた合図を同行する自衛官へと送る。自衛官が私の手を叩く。了解の意だ。
今まで私を抱えていた自衛官を、逆に私が抱える。
もしも海上でやむを得ず降下する羽目になった。あるいは、機が撃墜された場合。
水上航行が可能な私たち艦娘が自衛官を抱き抱え、陸地まで連れていく手筈となっていた。
海面へと到達すると、水面に着地。私に両手両足でしがみ付いてくる自衛官。
それを真っ暗な中で感じながら、私と天ねーが持っていた救命ボートを海面へと放り投げる。
アタッシュケースタイプの収納がされたゴムボートは海面に着水すると、内部のボンベが自動でゴムボートを膨らませる。
一瞬でゴムボートが展開され、そこへと自衛官を放り投げる。
「塩田はん! 大事ないかー!」
「大丈夫だ! ありがとう!」
私を抱えていた自衛官、塩田さんがサムズアップ……らしきことをする。
夜間視力も5倍にしているのだが、微かな星明りだけではそれを見るのが精いっぱいだった。
そして、皐月もボートの中に自衛官を放り込み、私は海上で漂っているリーダーさんを回収。やはり同様にゴムボートへと放り込む。
「よし! 事前の作戦通り、皐月がゴムボートを曳航して硫黄島に! 戦闘が予測される状況になった場合、戦闘は極力回避。皐月っちゃんが生き残るんが最優先や、ええな?」
「……うん。わかった! ボクに任せといてよ!」
皐月が生き残るためならば、自衛官は見捨てろと、その残酷な選択を口にすることはしなかった。
皐月も分かっているからだ。その選択を私は選ばないと。そして、皐月も選ぶことはないと。
どんなことがあろうと、私たちが助ける。助けて見せる。それが、どれほど無謀な願いだとしても、だ。
「さぁ、艦娘戦闘団、抜錨や!」
「おうさ!」
「参りましょう! 黒潮さん、作戦目標は?」
「簡単や。見つけ次第、ぶっ殺せ、や! サーチ&デストロイ! 動く奴はみんなぶっ殺したれ!」
「龍驤も殺すのか?」
「うち天龍嫌いや」
揚げ足を取って来た天龍に嫌いだと言って、私は主機を回す。
からからと笑う天龍を引き離すように、私は前へと進む。
前衛は私と天ねーが張る。これは事前の取り決めでそうなっている。
天ねーは辛うじて軽巡なので装甲がある。私はチートのお蔭で格段に回避能力が高い。
単なる駆逐艦である皐月よりも戦闘力は優れているし、防御力は高いわけだ。
皐月は元々は鳳翔さんの護衛に回る役目である。今回は硫黄島に自衛官らの乗った救命ボートを曳航しているわけだが。
戻って来るまで最大戦速で移動したとしても3時間近くかかるだろう。痛い戦線離脱だ。
とは言え、自衛官の命を助けるためだけに硫黄島に皐月を行かせたわけではない。
いやほら、逆方向から侵攻されてて、ここの敵をぶちのめして硫黄島に戻ったら敵に占領されてたとかなったら……うん。
本来の作戦予定では、硫黄島に降下、硫黄島の艦娘と合流。
鳳翔さんを防衛戦力として硫黄島に残す。私たちは合流した龍驤と出撃、と言う予定だった。
そして、途中やむを得ない事情で降下した場合、最も脚の速い皐月が島の防御および連絡に急行。私たちはそのまま出撃する、と言う予定だった。
やむを得ない事情で降下するなら敵の攻撃で、そうなったらここに居る艦娘も出撃してるだろうから、そのまま合流と言うわけだ。
どちらにせよ戦力分散の愚策と言えばそうなのだが、艦娘持ってかれた硫黄島の部隊がどういう反応するか分からないというのも……うん。
そんなわけで、本来の予定からして4人での作戦行動になる。
今のところ、その4人目の龍驤は絶体絶命の危機なわけだが。
「艦載機、発艦はじめ!」
鳳翔さんが矢を番え、空へと放つ。
私は時計を見やる。時刻は7時14分。夜明けまで間もなく。
この時間に発艦しても、戻って来る時には問題なく着艦できる程度には夜が明けている。
夜間攻撃の難しさは敵発見、攻撃の仕掛けが難しいのもあるが、帰還困難であることも要因のひとつ。
それゆえ、払暁まで間もなくの今は問題なく発艦、攻撃を仕掛けることが可能だ。問題ない。
飛翔する矢が艦載機へと変化し、空を舞う。中々無茶なものを見た。
鳳翔さんは次々と矢を放ち、艦載機を全て発艦させ終える。
空を乱舞する艦載機らは編隊を組むと、颯爽と航空戦へと参加していった。
「これで、私の空母としての役目は終わりですね……」
「うちらが守る。安心してくれてええよ」
「ふふっ、頼りにしております」
今回、鳳翔さんの艦載機は全て戦闘機にしてある。
と言うか、前回の戦闘……つまり、初の戦闘で、艦爆も艦攻も品切れだそうだ。
辛うじて補充の間に合った戦闘機を持ってきただけである。
ゲームだとどれも開発の手間は変わんなかったけど、
うん、まあ、戦闘機の方が小さいから楽に作れるよね。
そう言うわけなので、鳳翔さんは戦闘機ガン積みである。
ただ、全て発艦させた割に鳳翔さんの矢筒の中には矢が入っている。
しかし、艦載機ではない。市販の普通の矢、だそうだ。
殴る蹴るよりもこっちの方がまだしも効くだろうからと持ってきたそうだ。
どこまで有効かは不明だが、なにかしら役には立つだろう。
「空は大騒ぎやな! 油断しとるやろし、突っ込むでぇ!」
「おうよ!」
天ねーと共に、私は突撃していく。
龍驤を助けるために。