「私は犯人じゃない」   作:アリスミラー

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突如部屋から消えたタマモクロスのプリン。
犯人は同室のオグリキャップと思われる。
だが当のオグリキャップは「私は犯人じゃない」と言うばかり。

一体なぜ彼女はそう言い張るのか?真犯人は誰なのか?真犯人の狙いは?
みたいなミステリです。



オグリキャップ「私は犯人じゃない」

 

1.

 夜練習を終えてタマモクロスが自室に戻る。彼女は心なしかうきうきして見える。

 彼女は練習前に買ったプリンを楽しみにしていた。しかもなんと食堂の1日1つ限定の特製デザートである。今週は胃にも優しい特製杏仁プリン。毎日抽選が行われるのだが、今日はタマモクロスが当てたのだった。それを部屋に持ち帰って大事にしまっておいた。

 勇んで冷蔵庫を開けると……

 

「……ない」

 

 プリンは跡形もなくなっていた。彼女は思う。犯人は一人しかいない。

 ベッドでくつろいでいる同居人に向かって叫ぶ。

 

「おい! オグリ! ウチのプリン食べたやろ!!」

 

 明らかに動揺するオグリキャップだったが、口から出た言葉は謝罪ではなかった。

 

()()()()()()()()()!!」

 

 一瞬あきれるタマモクロスだったが、すぐに怒りを取り戻す。

 

「ウチの部屋の冷蔵庫にあったプリンがなくなったんやで! 同室のアンタ以外に誰が食べたっちゅうねん!!」

 

 オグリキャップはなおも犯行を否定する。

 

「それでも、私は犯人じゃないんだ!!」

 

 結局その押し問答は長いこと続いたが平行線で終わったのだった。

 

 

2.

 

「……っていうことがあったんや! もうオグリとは絶交や! 絶交!」

「ははっ! まあプリン一つでそんなに怒ることねえだろう」

 

 タマモクロスは朝から愚痴を言っていた。相手はイナリワン。普段だったらここにオグリキャップやスーパークリークもいるのだが、今日は姿が見えない。

 

「ちゃうねん! プリンとられたことは腹立つけど、それ以上にいつまでもしらばっくれてごまかそうとする態度が気に食わないんや!」

 

 そう、タマモクロスが怒っているのはそこだった。いくら限定の特製プリンとは言え、正直に謝って他で埋め合わせをすれば済む話である。なのにオグリキャップは自分はやってないと言うばかり。初めは怒りはそこそこに、また面白い話ができたくらいに思ってオグリキャップに食って掛かったタマモクロスだったが、次第に本当に怒りを覚えてきたのである。

 

「まあ確かにオグリらしくはねえわな」

 

 イナリワンもまた、笑って聞いてはいたが、この話に違和感を感じていた。そもそもオグリキャップは食い意地が張っているウマ娘ではあるものの、人のものを盗むようなタイプではない。持ち前の天然のせいでタマモクロスの購入物を食べてしまったことはこれまでも何度かあったようだが、そういうケースでは誠意のこもった謝罪をしてきたそうだ。

 そして、もう一つタマモクロスの話で気になる部分があった。

 

「なあタマ。オグリはお前に問い詰められて、なんて言ってたんだ?」

「なんて言ったも何も、『()()()()()()()()』の一点張りや。参るでこれは」

 

 なるほど。

 これはオグリと直接話して確かめることがある。イナリワンはそう思った。

 

 

3.

 

 そして昼休み。イナリワンはオグリキャップを見つけて話しかける。

 

「おお! オグリ! 聞いたぜ。昨日タマのプリン食っちまったんだろ。朝から愚痴聞かされて参っちまうぜ!」

 

 オグリキャップが目をそらす。

 

「イナリか……その話はもうやめてくれないか。私は本当に犯人じゃないんだ」

 

 そのばつの悪そうな態度は確かに犯人と符合する。だが……

 

「まあそう言うなよ。一つ聞かせてほしいことがあるんだ」

「……なんだ?」

 

 イナリワンが問う。

 

「……お前。今回の事件について()()()()()()()()

 

 オグリキャップがこれまでとは違う動揺を見せる。

 

「……! 私は犯人じゃない! 話はそれだけだ。私は教室に戻る!」

 

 そのままそそくさとその場を後にするオグリキャップ。

 それを見てイナリワンは確信する。オグリキャップは犯人じゃない。

 タマモクロスに伝えよう。真犯人を見つけるのだ。そして―

 

(教室戻ったら気まじいなあ……)

 

 イナリワンとオグリキャップは同じア行で席は前後である。後ろからの視線が、怖い。

 

 

4.

 

「なんやてイナリ!?」

 

 タマモクロスが大げさに驚く。

 

「西の高校生探偵みたいな反応するじゃねえか……」

 

 お約束の反応につっこんでから、イナリワンは説明する。

 

「おかしいと思ったんだ。人に盗みを疑われた時、普通なら『()()()()()()!』っていうはずなんだよ。『()()()()()()()()()』なんて言い方するやつはめったにいねえ」

 

 ふむふむとタマモクロスは相槌を打つ。

 

「なるほど。そこをオグリに直接確かめに行ったっちゅう訳やな。基本的にオグリは嘘はつけない。あいつの言っていることを総合すると、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』っちゅうことになるんやな」

 

 確かにそうだとタマモクロスは納得する。そして同時に新たな疑問がわいてくる。

 

「……だとするとオグリは共犯ってことにならへんか……?」

 

 そう、犯人じゃない者が事件を知っているというのは2つのケースが考えられる。目撃者か共犯者かである。目撃者である可能性は切っていい。もし本当にただの目撃者ならそれをタマモクロスに隠す必要がない。加えて言えば、トレセン学園に単純な身体能力でオグリキャップに勝てるウマ娘はいない。犯人が逃げ切れるはずがないのである。

 

「ああ、広い意味でオグリは確実に共犯だ」

 

 広い意味で、というのは共犯者になったタイミングとそのモチベーションの話である。犯行の発起のタイミングから関わっていて、犯人とともに犯行を行ったというのだけが共犯ではない。事件を目撃して犯人を捕まえた後、その事情を聴いて犯人を解放した、というケースも共犯と言えるし、脅されて仕方なく事件について黙秘を貫いている、というケースも共犯と言える。

 

「となると次の疑問は……」

「ああ……()()()()()()()()()()()()()、だ」

 

 タマモクロスが続ける。

 

「オグリは正義感が強い。そのオグリが犯人に協力、もしくは見逃したんだとしたら、オグリなりに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことや」

「そしてそれだけの理由があるのなら、あたしら、特にタマには事情を話してもいいんじゃないか?」

 

 彼女らはともにトゥインクルシリーズを戦ってきた戦友である。何年もの間、時に仲間として、時にライバルとして切磋琢磨してきた彼女らの絆は強い。そのオグリキャップがタマモクロスに不義理を働いてまで、かばおうとする人物がいるのだろうか。

 

「……クリークか……」

「ああ……それしか考えられねえ……」

 

 スーパークリーク。彼女もまたオグリキャップやタマモクロス、イナリワンとしのぎを削ってきた仲である。彼女ののっぴきならない事情ならオグリキャップは黙秘を貫くだろう。

 

「よし! 行くで! イナリ!! クリークのやつをとっちめて吐かせるんや!!」

 

 とタマモクロスが威勢良く言い放ったところで、

 

「私がどうかしたんですか~?」

 

 現れたのはスーパークリークだった。ふたりは飛び上がって驚いたが、なんとか平静を取り戻す。

 

「おいてめえクリーク! タマのプリン食っただろう!! 正直に言ったらどうなんだい!」

 

 イナリワンが問い詰めるが、スーパークリークは動じない。

 

「プリン? 何のことですか?」

 

 その態度にタマモクロスが食って掛かる。

 

「昨日ウチのプリンが無くなったんや! オグリは犯人じゃないって言ってる! お前が犯人以外考えられんねん!! 弁償せえや! 弁償!」

 

 スーパークリークが困った顔をする。

 

「本当に知りませんよ。だって私……昨日はずっとタイシンちゃんたちと一緒にいたんですから。それに今日は限定プリンはお休みですよ~」

 

 タイシンちゃん、というのはスーパークリークと同室のナリタタイシンのことである。

 

「うそつけ! そんなんタイシンに確認すればすぐにわかることやで! プリンは当たるまで並ばんかい!」

「本当だよ」

 

 気が付くとナリタタイシンがそこにいた。

 

「うおっ!! お前ら似たような登場するんじゃねえぜ! ……というか本当なのか?」

 

 ナリタタイシンが面倒くさそうに答える。

 

「昨日は、ハヤヒデとチケットも一緒に夜練をして、シャワーを浴びた後、そのままうちの部屋に来てずっと今度のレースについて話してたよ。その間クリークもずっと一緒にいたはずだ」

「……何時から何時ごろまでだ?」

「夕飯を食べたのが18時半ごろ。そのまま一度部屋に戻ってから夜練をした。最終的に解散したのは23時ごろだ」

 

 タマモクロスが表情をゆがめる。彼女が食堂でプリンを手に入れて冷蔵庫に入れたのは19時ごろ。プリンが無くなったのが発覚したのが21時半ごろである。スーパークリークが犯人である線はなくなった。

 その後スーパークリークとナリタタイシンは自室に帰り、推理は白紙に戻った。

 

5.

 

 その夜タマモクロスはベッドの中で考える。もちろんオグリキャップとは口を利いていない。

 

(オグリは確実に犯人を知っていて、それをかばっている……それをウチに言えない理由はなんや? オグリの頼みならよほどのことでもない限り、聞いてやるさかいに……)

 

 そう、犯人を隠したいなら隠したいで、それを正直にタマモクロスに言えばいいのだ。犯人は知っているけど〇〇な理由があってどうしても言えない、すまん、タマ。こういう風に言ってくれれば、それ以上の詮索はしない。タマモクロスはそういうウマ娘だ。それはオグリキャップもよく知っていることだろう。ということは……

 

()()()()()()……っちゅう訳か……)

 

 たとえ相手が親友のタマモクロスでも絶対に言えないほどの事情。かつそれを共有できるほど深い関係値をオグリキャップと持つ人間。

 

(でも、クリークでもイナリでもない。だとすると、メモリーかチヨノオーか? いや、しっくり来ない。何か見落としがあるはずや……オグリと親しいやつ……)

 

 その時タマモクロスにひらめきが走る。

 

(……そうか! 犯人はあの人や! あの人が犯人ならオグリが誰にも言えないことにも説明がつく!)

 

 すべてを理解したタマモクロス。オグリキャップはすでに寝ているようだ。今日は自分ももう寝よう。

 そのままタマモクロスは深い眠りについた。

 

 

6.

 

 そして翌日。

 

「おう! オグリ! はよ起きんかい! 朝やで朝!!」

 

 タマモクロスがオグリキャップを起こす。

 

「……どうした、タマ?」

 

 オグリキャップが警戒しながら答える。無理もない。一昨日大ゲンカして昨日は一言も口を利かなかったのだから。

 

「どうもこうもないて! いい天気やで! 朝練、う゛ち゛と゛や゛ろ゛う゛や゛!」

「……そうだな」

 

 ふたりが朝練の準備を始める。そしておもむろにタマモクロスが話しかける。

 

「あとプリンのことやけどな! これ以上()()()()()()()()。ただ話したいことがある。後で呼んだら来てくれるか?」

 

 それを聞いたオグリキャップは一瞬驚いた表情を見せるが……

 

「わかった……」

 

 それだけ言ってまた朝練の準備に戻る。そしてふたりは汗を流しに出かけるのだった。

 

 

7.

 

 独りで夕飯を食べていたタマモクロスにイナリワンが話しかける。

 

「おう! どうしたんだい! 急に仲直りしちまってよ! ……プリンの件はもう済んだのかい?」

 

 タマモクロスとオグリキャップは、朝こそ少しぎくしゃくしていたものの、昼休みを過ぎるころには元のふたりに戻っていた。イナリワンはタマモクロスに真相にたどり着いたなら教えてくれと言っているのだ。

 

「ああ……多分な」

 

 元より推理を共有していたイナリワンには、真相を話すつもりでいた。夕飯の後、人気のない校舎裏で落ち合うことにして、タマモクロスは食事に集中する。

 ああ、それにしても本当にうまいご飯だ。トレセン学園の食事は一般的にも有名なほど、おいしいと言われており、加えて食べ放題かつ栄養価もバッチリだ。これが毎日食べられるなんて夢のような話だ。

 

「おばちゃん! おかわり!」

 

 育ち盛りのウマ娘たちがどんどんお代わりを注文する。その中にはオグリキャップもいた。それを横目にタマモクロスはとってきた分を完食する。

 

「……ごちそうさん」

 

 そして食器を片付けてから、オグリキャップが食べ終わるのを待って、話しかける。

 

「……オグリ、今から校舎裏に来てくれ」

 

 

8.

 

 イナリワンが校舎裏に着くと、わずかに動揺を見せる。そこにはタマモクロスしかいないと思っていたが、実際はもう一人、オグリキャップがいた。

 

「……いいのかい? タマ……」

 

 タマモクロスがうなづく。

 

「ええんや。これは……けじめや」

 

 オグリキャップも覚悟を決めた表情で言う。

 

「プリンの件か。……だが、私は犯人じゃない」

 

 3人が人気のない校舎裏で向かい合う。月は雲で隠れていた。

 

 

9.

 

「……で、一体だれが犯人だったんだい?」

 

 イナリワンが、タマモクロスに問いかける。

 

「まあ待てや。順を追って説明するで。……オグリは黙って聞いとき」

 

 オグリキャップは表情を崩さない。タマモクロスは少し間をとってから、話始める。

 

「今回の事件のキモは、なぜオグリは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、や。限定特製とはいえ、たかがプリンやで?」

 

 そう、所詮はプリン。親友であるタマモクロスと大ゲンカしてまで、黙秘しようとすることではない。イナリワンもそこまではわかっている。

 

「そうだ。そんなにプリンが食べたいのなら、そもそもタマに頼めばいいし、オグリも隠す必要がない」

 

 タマモクロスが続ける。

 

「ということは、や。犯人の狙いはプリンを食べることやあらへん……()()()()()()()()()()()()()()()だったんや」

 

 プリンを食べるのが目的ではないのなら、プリンを食べさせないのが目的。考えてみれば当たり前のことだ。だがそれには疑問が付きまとう。

 

「そんなことをして犯人に何の得があるんだ? そもそもそんなことを望むやつがオグリの知り合いにいるのか?」

 

 タマモクロスがオグリキャップを見つめる。わずかに表情に焦りが浮かんでいる。

 

「それが……いるんや。ウチにどうしてもプリンを食べさせたくなくて、かつオグリとの関係値も深い。ウチやイナリよりも、いやおそらくこのトレセン学園で()()()()()()()()()()()()()()()

 

 イナリワンはまだピンと来ていない。対してオグリキャップは明らかに動揺を隠せずにいた。

 

「やめてくれ……タマ」

 

 オグリキャップが静止する。だが、タマモクロスは止まらない。

 

「そう……真犯人は……()()()()()()()()()()()()()

 

 

10.

 

 秋の夜、涼しい風が三人の間を通り抜ける。わずかの沈黙の後、イナリワンが口を開く。

 

「……確かに食堂のおばちゃんとオグリは仲がいいぜ。トレセン学園のウマ娘の中でも一番おばちゃんと仲がいいのはオグリだ。だがなんでそれがタマにプリンを食わせねえことにつながるんだ? しかも一日一個限定の食堂特製プリンだぜ?」

「……ここからは推測や。確証はあらへん。でもウチはほぼ間違いないと思ってる」

 

 イナリワンが黙って続きを待つ。オグリキャップも黙っている。

 

「食堂の限定デザートは週替わりや。だから週ごとに仕入れも変わる。それもあのメニューだけは特別で毎週交代で一人で、仕入れから料理までやっとる。そして今週のはじめ、月曜に抽選に当たったのはウチ。で、翌日と翌々日は限定メニュー自体が中止になった。これを聞いて思うことはないか?」

 

 イナリワンが答える。

 

「なんらかの理由であたしら生徒に()()()()()()()()()()()()()()ってことか……だが、いったいなぜ?」

 

 タマモクロスがゆっくりと話し出す。

 

「うちらウマ娘はアスリートや……そのウチらにどうしても食べさせたくない食べ物……おそらく」

 

 タマモクロスが深呼吸をする。これを言ってしまってはもう後戻りはできない。オグリキャップのほうを見る。彼女もまたタマモクロスを見つめている。逃げることは許されない。

 

「……()()()()()()()()()()()や」

 

 

11.

 

 ドーピング規定。ウマ娘に対しては特に厳しく検査される。その上その基準は日々変わり続けており、「うっかりドーピング」をさけるためにトレセン学園では厳しく薬やサプリ、当然食材にも気を使っている。しかし、「週替わりの限定デザート」だけは話が別である。これは担当となった調理師が責任をもって仕入れから調理までを行う。そこだけは学園の管轄の外である。しかし……

 

「待てよタマ」

 

 イナリワンが制する。

 

「ドーピング禁止物質なんてそう簡単に混入しねえぜ。あれは基本的に薬やサプリに入ってるもんだ。食事、ましてデザートになんて入らねえはずだぜ」

「その通りやイナリ。でもな今週のメニューは杏仁プリンだったんや。思い当たることあるやろ」

 

 オグリキャップがわずかに表情をゆがめる。イナリワンはそれを横目に質問に答える。

 

「……()()()()……」

 

 漢方薬は、薬膳料理には普通に入っている。今回のデザートである杏仁プリンにも漢方薬が入っていた。そして漢方薬の中には一部ドーピング検査に引っ掛かる成分が含まれている。

 

「そうや。もちろんその成分が一発で規定値を超えるとは限らへん。ただ裏を返すと規定値を超えれば即アウトや。だから絶対にウチからプリンを回収する必要があった。だが……」

「……一度出してしまったプリンを回収するためにはミスの説明をしなければならない」

 

 そう、そしてそれは間違いなく公になる。トレセン学園のウマ娘はドーピング集団、そんなそしりを受けるだろう。そうなればトレセン学園の食堂の、ひいてはトレセン学園自体の評判が地に落ちる。

 

「それが発覚した時、食堂内は騒然となったはずや……そしてそれに気づいたのが、普段から料理長と仲の良いオグリだったんや」

 

 タマモクロスがオグリキャップのほうを見る。オグリキャップは無言である。それは肯定の証だった。

 

「オグリ、お前は人が困ってるとなったら一歩も引かん。根負けした料理長はあんたにしゃべったんや。プリンに禁止薬物が入ってる可能性があること、そしてプリンを回収しなければならなかったこと。そして、あんたはプリンの回収を手伝うことにしたんや。……違うか? オグリ」

 

 オグリキャップが空を見上げる。月はまだ隠れていた。

 

「かなわないな。タマには」

 

 タマモクロスのほうを見て微笑んだ。イナリワンは黙っている。オグリキャップが話し始める。

 

「全部タマの言う通りだよ。私はあの日いつも通り、食堂が閉まるギリギリまで夕飯をお代わりしていた。その時、急に食堂の雰囲気が変わったんだ。それで何があったか聞いても教えてくれない。それでも食い下がったら、全部教えてくれたんだ。そして私たちにとって2つ運がいいことがあることが分かったんだ」

 

 タマモクロスがその先を受ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()、やな」

 

 オグリキャップがうなづく。

 

「これなら簡単にプリンを回収できると思ったんだ。それで、実際にうまくいった。いやばれたってことは失敗だったのか」

 

 オグリキャップがタマモクロスのほうを向く。そして頭を下げた。

 

「頼む! タマ。許されていいことじゃないのはわかってる。でもおばちゃんは本当にいい人なんだ! 地方から来た私に本当に良くしてくれた! 大体今回のプリンはおばちゃんが作ったわけじゃない。他のスタッフが作ったんだ。それにまだ誰も傷ついてないじゃないか! お願いだ。このことは誰にも言わないでくれ!」

 

 深くお辞儀をするオグリキャップ。だが、タマモクロスは

 

「すまん。オグリ。気持ちはわかるが、それは通らん。きっちりと報告させてもらう」

 

 冷酷にもそれを拒んだ。オグリキャップは顔を挙げる。彼女は力なく笑った。

 

「そう……だよな。被害者の君が言うんだ。しかたない。こんなことを頼んですまなかった。……じゃあ私はもう部屋へ戻るよ。おやすみ。タマ、イナリ」

 

 そう言ってその場を離れるオグリキャップ。それを黙って見つめるタマモクロスとイナリワン。しかしふたりはその場を動こうとはしなかった。

 

 

12.

 

 長い沈黙を裂いて、イナリワンが切り出した。

 

「……おいタマ()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 タマモクロスが答える。

 

「……さすがイナリやな。今ので説明は半分。だが、ここから先はオグリには聞かせるわけにはいかん。……イナリ、とりあえず気になってるところ言ってみ?」

 

 イナリワンが受ける。

 

「……オグリは()()()()()()。これは最初から言ってることだ。つまり、実際にタマのプリンを盗んだのはオグリじゃなくて、おばちゃんだったってことになる。おそらくオグリは鍵を開けておいて普通に夜練に行ったんだ」

 

 タマモクロスがうなづく。続きを促しているようだ。

 

()()()()()()()()()()()()()() ()おばちゃんがウマ娘の部屋に入っていくのがばれた時点でアウトじゃねえか。オグリが自分の部屋に入っていってプリンを処分する方が自然だ」

 

 イナリワンが続ける。

 

「まだあるぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? そもそも今回の事件がお前によって解かれたのは、オグリが自分は犯人じゃないと言い張ったからだ。もしオグリが最初に、『自分が食べた。ごめんなさい』って言ってれば、それ以上追及されることはなかった。いったいなぜなんだ?」

 

 タマモクロスがゆっくりと息を吐く。これが最後の謎解きだ。

 

「イナリ、お前の疑問はもっともや。だがオグリは気づいてない。おそらく一つ目の疑問に対しては『夜練に行かないと怪しまれる』。2つ目の疑問に対しては『お前は嘘が下手だ。犯行はこっちでやるから、お前は犯人じゃないとだけ言い続けろ』とまあこんな感じでごまかしたんやろな」

 

 だがイナリワンは納得していない。それを見てタマモクロスが続ける。

 

「簡単な話なんや。この()()()()()()1()()()()()()()()()()()

「……1つ?」

 

 そう、これが最後の謎。食堂のおばちゃんこと料理長の今後をタマモクロスは知っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

13.

 

 ふたりを再び風が包む。タマモクロスはさっきまで涼しいと思っていた風を今度は冷たく感じていた。

 イナリワンが質問を投げかける。

 

「どういうことだ? そもそも今回の犯行は、すべてが公になるのを避けるために行われたことだ。自首なんかしたら、意味がねえじゃねえか」

「いや、そうでもない。おばちゃんはプリンの回収に成功した。つまりウチや他のウマ娘にその事情を説明する必要がなくなったんや。だから今なら自首しても内内で処理できる問題になった」

 

 そう、自首しても食堂や学園に迷惑は掛からない。しかし……

 

「罪をすべて背負ってと言うが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 タマモクロスが答える。

 

「……そう、()()()や」

 

 オグリキャップ。彼女は確かに料理長の共犯者だ。料理長が自白することはオグリキャップの自白も意味する。

 しかし、それこそが先ほどの2つの疑問の答えにつながってくる。

 

「なあ、イナリ。じゃあ聞くが、オグリは何の罪に問われるんや?」

「何って……そりゃあ……」

 

 イナリワンは考えるが

 

「……()()()()

 

 何もなかった。

 

「……そうか。あいつがやったことは()()()()()()()()()()。加えてあいつは今回の追及に対して()()()()()()()……!」

 

 タマモクロスはうなづく。

 

「そうや。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり()()()()()()()()()っちゅうことや」

 

 料理長は今回の犯行が成功しても自首するつもりだった。そして失敗してもオグリキャップに罪が行かないようにしていた。

 

 イナリワンは一連の出来事を思い出しながら、かみしめるようにつぶやく。

 

「オグリは大好きな料理長を守ろうとした……そして料理長もまた、オグリを守ろうとしてたってことか……」

 

 

14.

 

 さっきまで雲に隠れていた月がふたりを照らす。

 

「なあ……タマじゃあさっきのオグリに言ってたやつは……」

 

 タマモクロスは料理長をしかるべきところに報告する、といった。だが、

 

「あれは嘘や。だがオグリにとって結果は同じ。もし、ウチが今の推理をオグリに言えば、オグリはすぐ自首しに行くやろ。でももう少し経っておばちゃんの処分が決まれば、もう後からオグリが自首したところでまったく取り合われないはずや」

 

 タマモクロスが月を見上げる。きれいな満月だった。

 

「オグリがやったことは褒められることではない。でも、おばちゃんはリスクを背負ってオグリを守ったんや。なら、その思いに応えたい」

 

 イナリワンもまた月を見上げていた。

 

「なぜそこまでおばちゃんのことを? ……ってこれは聞くまでもねえな」

「ああ」

 

 タマモクロスが微笑む。

 

「うちもおばちゃんの料理、大好きやってん」

 

 

 

 ~エピローグ~

 後日、食堂のおばちゃんこと料理長は解任となった。その理由は不明とされていて、このことが公になることもなかった。ウチはたづなさんに呼ばれてプリンは食べたか? と聞かれたけど、一口も食べてませんと言ったら解放された。

 突然の解任にウマ娘たちは騒然となり、その味を惜しんだ。また食堂の限定デザートはしばらく休止となった。

 料理は意外にも前と同じくらいおいしいとウチは思うけど、オグリは普段より食欲がないように見える。

 

 そんなある日、オグリが話しかけてきた。心なしかうれしそうだ。

「タマ! 今度の日曜一緒にスイーツを食べに行かないか?」

 どうやら、昔からこのあたりにある店らしいけど、最近凄腕のシェフが入ってきたそうだ。

 ちょっと迷ったふりをしてから、答える。

「プリン、おごってくれるなら考えるで!」

 オグリが自分のことのように胸を張った。

 

「ああ、きっと世界で一番おいしいプリンだ!」

 

 

 

 

 

 

 




スーパークリークの出番が少ないのは、もともと真犯人だったからです。

当初はほっこり恋愛オチにしようと思っていたのですが、オグリキャップのおばちゃんへの愛が勝りました。

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