やはりあーしの青春ラブコメはどうかしている。   作:Vierres

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第九話 NewGame 2

 

 

「では、相模さん。詳しいお話を聞きましょうか?」

あれ?雪ノ下さん目が怖いよ?

 

「先ずは・・・、そうね。あなたはいつ、比企谷君に助けて貰ったのかしら?」

 

 え?

そこ?

そこを聞いちゃう?

 いやまあ、あーしもそこが気に成ってたっていうか、ぶっちゃけて言うと相模がクラスでハブられようが無視されようがどうでも良いんだけど、過去に比企谷君に助けられていたってのはどういう事よ?

見ると、相模はしまったと言う顔をして比企谷君をチラチラ見ている。

比企谷君も気まずそうに皆と視線を合わさないようにしている。

 

 おい!

ちょっと!

なに二人の世界を作ってんのよ!

ソコは、あーしが居るべき世界だ。

相模、そこをドケよ。

 

「あ・・・、あの・・・、ウチが中二の時の話なんだけどさ・・・。」

へ?あーしが彼を知る一年前なの?

「ウチ中学の時にソフトテニス部だったんだけど、丁度三年生の先輩が引退する少し前のタイミングで部内でちょっと揉めちゃってさ、ホントはウチが部長になる予定だったんだけど成れなくてさ、部内で浮いちゃってたんだよね・・・。」

 

 相模は中学時代にあーしと同じ壁にぶち当たっていた。

違いはあーしは先輩とで、相模は同級生。

どちらが辛いとかではなく、どちらも辛い。

 でもそれをどうやって比企谷君が救ってくれたの?

どうやって知り合ったの?

 

「ウチさ、部内ではハブられててさ学校であんま練習が出来なくてさ美浜の練習場に通ってたんだよ。あそこって一人でテニスの練習できるマシンがあるからさ。」

あー、聞いたことある。

確か、この学校からも歩いていけたハズ。

「そこで・・・。」

相模はちらりと比企谷君の顔を見る。

「比企谷君が一人で練習してるのを見かけたの・・・。」

 

「で、比企谷君がどうやってあなたを助けたのかしら?」

「そ、それは・・・、えっと・・・。」

おい相模。チラチラと比企谷君の顔を伺うなよ?

ホント潰すよ?

「ゆーみーこー。そんな睨んでたら、南ちゃんも話ずらいってー!」

再び姫菜から制止が入る。

あー、やばい・・・。

どうも、自制心がね?

みんなも解るよね?

 

「おい、そんなに勿体ぶったら俺がまた変なことを吹き込んだと思われるだろうが。ハッキリと言っていいぞ。まあ、俺がお前に具体的に何をしたのか俺も解ってないんだけどよ。」

比企谷君は俯いたまま、キッパリとそう言った。

 

「あ、うん。」

 

 

 六月の梅雨入りしてすぐ。

ウチこと、相模南は壁にぶち当たって絶不調だった。

来る日も来る日もマシンを相手のボール打ち。

期末試験が終わったら夏の大会があるんだけど、肝心の練習相手がいない。

 スクールとかに通えば良いんだろうけど、費用も掛かるし親に相談はし辛かった。

たまーに、気にしてくれた後輩が内緒で練習相手にはなってくれるけど、正直レベルが低くて余り練習にはならなかった。

 弟も一応テニスは上手いんだけど、ウチと一緒にテニスをすることを極端に嫌がっていて、中々練習に付き合ってくれないし、ウチが浮いてしまっている事情も知っていたから『お前はいつも一言多い、いい機会だ。』と言って突き放してしまわれた。

 

 結局、練習場でマシンを相手にボールを打ち返すだけの日々。

ああ、なんでこんな事に成っちゃったかなぁ・・・。

ウチが余計なことを言ったからなんだけどさ?

そりゃー、ウチが悪いのは認めるし、あの場でもみんなにハッキリと謝った。

 けど、あの子らの傷ついたプライドはウチの言葉だけの謝罪では癒せるはずもなく、ウチは次期部長の座を退いた。

でもダメだった。

結局は部内でウチは孤立してしまい、部活の時に出来る練習なんて素振りしかなかった。

部活では誰も、相手をしてくれないからだ。

 

 ウチが通う美浜の練習場には二台の練習マシンがあり、ウチがここに来てる時は大抵もう一人、マシンで練習している男の子がいる。

ウチより少しだけ背の低い、アホ毛をなびかせている子。

見た限りではキレイなフォームで球を打ち返しているし、それなりに走り込んでも上体がブレていない。

もしかしてかなりの上級者なのかもしれない。

 目元がキツい印象で近寄り難い雰囲気だったけど、ウチは勇気を出して声を掛けてみた。

 

「ねえ、あんた中学生?」

「え、あ、そうだけど・・・。」

「何年?」

「二年。」

「ほー、じゃあ、タメだね。ウチは相模南。アンタの名前は?」

「比企谷八幡。」

「よく見かけるけどさ、テニス上手いね?ちょっとウチと練習試合やってくんないかな?」

「えー・・・、俺、テニスのルールあんま知らんけど・・・。」

「は?」

コイツなに言ってんの?

あんだけ上手いのにテニス知らないとか?

どういう事よ?

「テニスの王子様を読んで、やりたくなったけど相手が居ないから、入門書を読んで壁打ちをやってたんだ。でもちょっと飽きてきて、ここには練習用のマシンが有るから時々来てる・・・。試合とかの実際のルールは良く解らない・・・。」

え?コイツ漫画を読んでテニスを始めちゃったヤツ?

しかも入門書を読んで壁打ちしか経験がないの?

いや、ちょっと待って。

ソレでなんであんなに上手い訳?

これって、もしかして拾いモノをしたかも?

「じゃあさ、その辺のルールとか教えてあげるよ。ウチも一人で練習してて、ちょっと飽きてきたし、先ずは軽くラリーしてみない?」

 

 こうしてウチは比企谷君とテニスをするようになった。

実際にやって見て思うのは、上手い。

そして狡い。

 練習のラリーの時は正確にウチの打ち返しやすい処に球を返してくるのに、試合形式になると、不意を突いた場所に球を返してくる。

はじめは慣れていないから、狙ったところに返せないんじゃないかと思ったけど、そうじゃなかった。

 視線誘導と言うのだそうだ。

大抵の人は球を打ち返すときに、打ち返したい場所を見て打つ。

慣れた人は相手の視線を見れば大体ドコに打ち返してくるか解るんだけど、彼は視線とは違う場所に打ち返すことが出来る。

なので、彼が見ている方へ体を向けると違う方にボールが飛んで行く。

球筋を見てから体を動かしていてはボールのスピードに身体が反応出来ない。

 

 ウチは彼にテニスのルールや球のさばき方を教え、彼はウチに意表を突く心理戦の極意を教えてくれた。

彼と過ごしたのはホンの一カ月程だったけどウチは彼の極意を、そして彼はウチの技術を互いに吸収しあった。

 

 そのお陰も有り、夏の県大会ではなんと四位に成れた。

ウチの中学校では過去最大級の快挙だった。

 そのことがキッカケで、部内でのウチへの待遇はガラリと変わり。

再び皆と部活をすることが出来るようになり、翌年の県大会ではとうとう2位の栄光を掴んだ。

 

 けど、彼とは夏休みの大会以降逢う事は無くなった。

元々が漫画を読んで始めてみただけって言ってたから、ある程度上手くなって飽きてしまったのかもしれないし、本格的にやってみたくなり部活やスクールに通いだしたりしたのかもしれない。

 連絡先を交換しなかったのが悔やまれたけど、ウチは彼のおかげで立ち直ることが出来、もう一度部活の皆とテニスに打ち込むことが出来るようになったので、後悔とかの感情は湧かなかった。

 

 そう、彼と再会するまでは。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

「で、総武高校に入学して比企谷君と再会したのね?」

「う、うん。丁度一年の三学期の終わりの頃。たまたま用事で職員室に行ったらさ、『比企谷!』って数学の先生に怒鳴られていて・・・、比企谷って中々無い苗字でしょ?見たら、彼だった。結構、背も伸びてたからビックリしたけど。」

「で?再開を喜び合ったのかしら?」

「あー、いや・・・。その、声を掛けづらかったんで、そのままスルーしてたんだけど、二年で同じクラスになって・・・。声を掛けようと何度か思ったんだけど、いつも三浦さんに邪魔されて・・・。」

 

 はぁぁぁぁ?

ナニこいつ?

クラス替えの直後からなんか、やたらとあーしに突っかかって来ると思ったら、そう言う事なん?

 

「じゃ、じゃあ!テニスの時にあーし達に絡んだのって?」

「あー、んと・・・。久しぶりに比企谷君とテニスの試合がしたかった・・・。」

 

 おい!相模!

そこ、顔を真っ赤にして言うトコじゃないよね?

比企谷君もビックリしてるじゃん!

「え?さがみんって隼人君狙いじゃないの?」

結衣も驚いている。

「え?葉山君?ナイナイ。あんなチャライのなんて!」

相模も容赦ないな・・・。

 

 ってか、比企谷君!

あんたどんだけフラグ立ててんのよ!

 

「じゃ、じゃあ!チェーンメールの時に比企谷君に絡んだのは?」

あーしは思わず突っ込む。

「お話しするキッカケが欲しくて、つい・・・。」

相模の顔が乙女だった。

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁ・・・・。」」

あーしと雪ノ下さんは同時に深いため息を吐いた・・・。

 

 

 

 

「あー、あんたら?話が完全に横道に反れちゃってるんだけどさ?相模の依頼の件、どうすんの?」

一人冷静な沙希の声に・・・。

「却下ね。」

「却下だよね。」

あーしと雪ノ下さんは同時に即答した。

これ以上ライバルを増やすわけにはいかんでしょ?

相模には悪いけど、ここで潰れてもらおう。

 

「ちょ!優美子も!ゆきのんも!ノリで即答しちゃわないで!一緒に犯人を捜してあげようよ!」

 

あ、あれ?

あーしどうしてた?

結衣の叫びであーしの思考は正常に戻ったようだ。

 

「ゴメン、さっきのは冗談。あーしもあんな卑怯なメールは許せないしさ、相模の依頼はちゃんと受けるよ?ね?雪ノ下さん。」

「ええ、当然だわ?さっきのは冗談なのよ?相模さん、解っているでしょう?」

 

 

「では、仕切り直しましょう。現状では情報がまだまだ少ないわね・・・。犯人の本当の目的や動機が不明瞭だわ・・・。」

「あーしと結衣、姫菜はクラスの中で他に相模みたいな変なメールを受け取って居ないかを、それとなく探ってみるよ。」

「それと、相模さんへのヘイトの噂がクラス内で流れていないかも注意する必要も有るわ?その場合は内容を精査して速やかに対策を立てましょう。」

 

 翌日からあーし達はそれとなくクラスの中で情報を集め、放課後にその情報を持ち寄り打合せを重ねたけど、特に相模へのヘイトの噂は無く他には変なメールを受け取っている生徒もないようだ。

 チェーンメールの件についてはクラスの三割程の人間が面白がって拡散していたようで、その辺の事に触れられたくないという心情も有ったのかもしれないが、聞き込み調査の状況は芳しくなかった。

 

 

 結局、あーし達は何の成果もないままに、週末を迎えた。

 

 

 

 土曜日、午前7時、総武線幕張駅前。

あーしと比企谷君はココで待ち合わせをして映画を見に行くことになっていた。

 思えば雪ノ下さんの策略にハマり、比企谷君との貴重な映画デートの機会が一回潰れている。

 そんな訳で、今日のあーしはかなりの気合を入れた格好だし、何よりもお昼に一緒に食べる手作りのお弁当もあーしが今出来る最大の努力の結晶だ。

 駅には小町ちゃんも来てくれることになっているので、そのお弁当は小町ちゃんに預ける手はずになっている。

 最初、比企谷君は頑なに現地集合を主張したが、小町ちゃんがあーしにもしもの事が有ったら、どーすると言ってくれたのでこの駅に集合となり、あーしもココ迄は自転車で来た。

 

「おはようございます。優美子さん!今日は愚兄の事をよろしくお願いします。」

小町ちゃんは今、中学三年生。

総武高校を目指してそろそろ受験勉強にも力を入れないといけない時期だ。

「ごめんね?小町ちゃん。あとで勉強を見てあげるからコレお願いね?」

あーしはそう言うと、お弁当の入ったトートバックを預ける。

「はい、家についたらすぐに冷蔵庫に入れておきます!」

「うん!大したものじゃないんだけどさ、まだ梅雨の時期だからさ。お願いね?」

「はい、かしこま!」

 

 こうして、あーしと比企谷君は南船橋のららぽに向かった。

西船橋の駅で乗り換えをしようと構内を歩いていた時。

「あれ?あの集団・・・。ウチのバスケ部?」

「ん?そうなのか?ちょっと見られたくないからやり過ごしたいんだけど?」

比企谷君は中学時代の色々な苦い思い出が邪魔するのか、格とか釣り合いとかを非常に気にするようにっている。

 確かに彼の見た目は、その特徴的な目のおかげで近寄り難い雰囲気がある。

けれど、彼の内面はあーしには輝いて見える。

 それは、あーしがあの事故の時に彼に助けられ一目ぼれしたせいなんだろうけど、恋とかの感情ってそんなもんじゃないのかなって、あーしは思っている。

けど、彼の気持ちも大切にしたい。

なのであーしはバスケ部員たちに見つかる前に距離を取り、時間をずらして南船橋行の電車に乗り換えをした。

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

「アンジュちゃーーーん!」

またしてもあーしは号泣してしまった。

 もうね?映画の後半になると次のシーンが浮かび上がって来て涙が止まらない。

映画のエンドロールが流れ終わった後も、席を立てない人は少なくない。

あーしと比企谷君もその中に居る。

 

 

 ホントは映画の後は前回の雪ノ下さんを見習い、腕を組んでウインドショッピングをしたかったんだけど、今はまだ彼が嫌がるだろうし午後には小町ちゃんの勉強を見てあげる約束もしている。

 その為に皆で食べられるお弁当も作ったのだ。

因みにご両親が今日はお休みで家に居ることは小町ちゃんを通じて確認済みだ。

 

 映画館を出て直ぐ、一人の綺麗なお姉さんに声を掛けられた。

「あっれー、比企谷君じゃーん?むむー?浮気は感心しませんなー。」

めっちゃ美人さんだけど誰?

「いや、浮気も本気もないです。俺は誰とも付き合ってませんし。」

「えー、じゃあこの前、雪乃ちゃんと腕組んで歩いてたじゃん?アレは遊びなの?おねーちゃんそっちの方が許せないなー。」

「それも前回説明しましたよね?買い物するのに不便だからフリをしていたって。」

「えー、でもあの子がフリで男の子と腕なんか組まないよ?」

 

 ん?

会話からして、もしかしたら雪ノ下さんのお姉さん?

でも、だとしたら・・・。なんだ?この距離感。

あーしと比企谷君の間に文字通り割り込んで来て、比企谷君にべったり引っ付いてはほっぺとかつついてるし。胸とかも押し当ててるよね?

「あ、あの!あーし、比企谷君のクラスメイトで同じ部活の三浦優美子って言います。お姉さん、もしかして雪ノ下さんのお姉さんですか?比企谷君が嫌がってますんで少し離れていただけませんか?」

「んー?優美子ちゃんだっけ?結構ハッキリと言う子だね?比企谷君とはどういう関係なのかしらー?」

「え・・・、それは・・・。」

「只の部活仲間ですよ。雪ノ下と同じです。」

え、ちょっと!

あーし結構押してるよね?

 解んない?

それとも興味の対象外?

 

「ふーん、ま、いっか・・・。じゃあさ、比企谷君?雪乃ちゃんと付き合ったら、お姉ちゃんとお茶しようねー。」

雪ノ下さんのお姉さんはそう言うと、あーしには名乗ることなくどこかへ行ってしまった。

 けれど残念ながら、その機会は絶対に訪れさせないから!

あーし、全力で阻止するし!

「ほんと、困った人だよな・・・。」

「かなり親しそうだけど?前からの知り合いなん?」

「いや、先週の土曜日に一回会ったっきりだぞ?ほら、雪ノ下の買い物に付き合ってた時だ。」

「名前は何ていうの?アノ人。」

「確か、陽乃さんだったかな?」

「ふーん。なーんか、世の中の男の理想って感じだよねー。」

「そうか?俺には強化外骨格つうかチョバムアーマーつうか?迂闊に触れたら爆発して殺されそうなんだが?」

「チョバムアーマーって!あの人はアレックスか・・・。」

「三浦・・・、お前からそういう突っ込みがくるとは・・・、なんかすっげー新鮮だな・・・。」

 

 これ以上この場でモタモタしていて他にも知り合いに見つかったら困るので、あーし達はそのまま帰宅する事にした。

 

 

 

「じゃあ帰ろうかとは言ったが、なぜお前がウチの玄関先に居るんだ?ってか何で付いて来た?」

「は?だって、朝には駅で小町ちゃんにはあーしのトートバックを預かってもらったよね?その中にお弁当があったんだよ。一緒に食べようと思ってさ?」

「え?」

「それに、午後には小町ちゃんの勉強を見る約束もしてるんだよねー。誰かさんは未だ数学が心許ないしねー。数学、教えてあげられないっしょ?小町ちゃんが高校浪人しちゃってもいいのかな?」

「うぐぐぐ・・・。そういう事なら・・・。」

 

 そんなやり取りをしていると玄関の扉が開き、

「優美子さん!お待ちしておりました!どうぞ中へ!」

小町ちゃんが元気に家の中に招き入れてくれた。

 

 

「初めまして、あー、私、比企谷君と同じ部活でクラスメイトの三浦優美子です。本当はもっと早くご挨拶に来ないといけなかったんですけど、遅くなってしまって申し訳ありませんでした。比企谷君には二年前にクルマに轢かれそうになったのを助けて頂きました。ウチの両親共々すぐにでもご挨拶に来たかったんですけど、連絡先を聞くのを忘れてしまっていました、申し訳ありません。」

リビングのソファーに座らせてもらった、あーしは比企谷君のご両親に先ず謝罪と感謝のご挨拶をした。

 

「ええ?って・・・、お前・・・アノ時のヤツ?え・・・?そう言えばあの時はかなり日焼けしてた・・・けど・・・。」

比企谷君!

気が付いてなかったん?

「私、あの日携帯の連絡先も渡したし、名前も名乗ったよね?連絡をくれるの待ってたんだよ?」

「あー、すまん。あの後、帰り道で落としたみたいで・・・。」

 

 ちょ!

 

 ホントにあーしの事忘れてたのか!

酷い!

本当に酷い!

相模の事は覚えていたくせに!

相模とは楽しくテニスとかしてたクセに!

なにが『テニスを教えてくれる人が居なかった。』だよ?しっかりと相模に教わってたんじゃん!

なんで、あーしの処に『教えて』って来なかったのよ!

 

 あ、それは無理か・・・。

とにかく、相模との事は許せない。

 

「あー、あの自転車が壊れた時のね?アレって本当だったんだー。八幡、疑ってゴメンねー。あの頃のアンタ時々妙な格好をして変なことを呟いてるから、あの話もどうせ半分くらいは作り話だろうって思ってたよー!はっははは・・・。」

お、お母さん!酷い・・・。

 

「い、いえ!比企谷君は本当にすごいんです。私のヒーローなんです。」

「あら、そうなの?で優美子ちゃん?は、その時怪我は無かったの?」

「はい、私も友達も掠り傷一つなく。でも比企谷君があの時に膝を怪我していたようですけど・・・。」

「まー、男の子なんだし多少の怪我は良いんじゃない?それよりも、あなたに怪我がなくってよかったわ。でも、優美子ちゃんって・・・、なんだか見覚えのある顔なんだけど・・・?以前に何処かで会っていたかしらね?その髪型、よく見てる気がするんだけど?」

 

 え?

比企谷君の家の周りをウロウロしている時に見られてた?

 で、でも!

そんなの50~60回位しかしてないはず!

大丈夫だよね?

そのくらいだったら普通だよね?大丈夫だよね?

 

「ま、気が向いたらコレからもウチに遊びに来てね?私達も楽しみだわ。」

比企谷君のお母さんからは好印象?

ちょっと、髪型とか色とかで心配はしてたんだけど・・・。

 

 あと、お父さんのハニートラップじゃないのか?って小声で言ってたの聞こえてましたからね?

ちょっと、酷くないですか?

 

 

 

「うわ、これ豪華!」

小町ちゃんが感嘆の声を上げてくれた。

 あーしがお弁当に作って来たのは、サンドウィッチだ。

残念ながら、あーしには沙希のような家事スキルは無い。

ママと沙希に少しづつ教えてもらってはいるんだけど、やっぱ見栄えが良くない。

で、ママに相談して作ったのがこのサンドウィッチだ。

 調理で面倒なのは中に挟む薄焼き卵位で、ポテトサラダや葉物野菜、ハムなどを彩りよく挟みこめば殆ど失敗の余地はないハズ。

「小町ちゃん、ごめんねー。私まだ調理が上手くなくてさ?それに今の時期って食中毒とかあるから、こういうのしか作れなくてさー。」

「いえいえ、お兄ちゃんに女の子が手作りのお弁当を作って来てくれるなんて一生無いって思ってましたからねー。それにウチの家族分なんて想像出来なさ過ぎて、それだけで感動です!」

 

 幸い、作って来たサンドウィッチは全員に高評価だった。

食後には約束通り、小町ちゃんの家庭教師を3時間みっちりとやり、ぜひまた来て欲しいとお願いされたし、小町ちゃんからはコッソリと家の合鍵まで渡された。なんとお母さまの許可済みなんだそうだ。

 

 ふっふっふっふ・・・。

優美子ちゃん、大勝利!

 

 

 夕食にも誘われたんだけど、雨が降りそうな雲行きになって来たし自転車だったのであーしは比企谷家を後にした。

 

 

「三浦、色々と気を使わせてしまってすまん。でもそんなに大したことをしたわけじゃない。これ以上お前が俺に何かしようとするのは止めてくれ、ソレはお前の為にも成らないと思う。幸い俺も両親に顔が立った。もうコレを最後にしてくれ。」

 

 あー、やっぱりそう来たか。

 

 ご両親があーしを自宅まで送って行けと比企谷君を半ば叩き出すようにしてから、彼がソワソワしだしあーしもこの言葉が出てくる事を予想した。

何しろ、以前に結衣にも同じようなことを言っていたからだ。

 けれど今のあーしは立ち止まる事は許されない。

立ち止まる事は敗北に繋がると最近はヒシヒシと感じている。

だから、あーしは前に進む。

 

「は?あーしなんにも気なんて使ってないんだけど?あーしは比企谷君が好きなだけだよ?あの事故の時、三浦優美子は比企谷八幡に一目惚れしました。勝手にあーしの気持ちを語らないで?」

「え、あ?え?それ・・・・」

「うん。三浦優美子は比企谷八幡が好きです。この気持ちに嘘はないです。けど、あなたが他に好きな人が居るならそれはそれで構わない。でも、あーしの気持ちはあーしのモノ。勝手に間違いとか言わないで?」

「でも、俺は・・・。」

「だから今返事が欲しいわけじゃないの。あーしがあなたにしているのは只の好意じゃなく、愛情なの。それだけ解ってくれればそれで良いよ。今は。」

 

 花見川を渡った処で雨が降り始めたので、あーしは立ちすくむ比企谷君を残し、一目散に家まで自転車を全力で漕いだ。

 

 やってしまった。

とうとうあーしは自分の気持ちを打ち明けてしまった。

でも後悔は無い。

 

 来週からは今まで以上に彼にアプローチを掛けるんだ。

他の子には絶対に負けないから!

 

 あーしはベットの上で布団に包まり、早鐘の様に鳴り響く自分の心臓の音をいつ迄もずっと聞いていた。

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