やはりあーしの青春ラブコメはどうかしている。 作:Vierres
あの日、彼がこの部室に来なければ、今の私はこんなにも苦しむことは無かったのだろうか。
いや、もし彼がこのままココに来なければ、懺悔と後悔の念は日々私の中で大きくなってしまい、やがて自分自身を押しつぶしてしまっていたかもしれない。
国語教諭の平塚先生に命じられるままに奉仕部という部を作り、部活動という名で放課後を一人で黙々と過ごす日々を始めて数カ月。
彼は平塚先生に連れられてこの部室にやって来た。
「入るぞ!」
掛け声と同時に戸が開き、何時もの様に平塚先生はズカズカと部屋に入ってくる。
「・・先生。入るときはノックをとお願いしているのですが。」
「まあ、君はノックしても返事をした試しがないじゃないか。」
「それは平塚先生が返事をする前に戸を開けるからです。」
これはいつものやり取り。
もはや、様式美と言っても差し支えないかもしれないわね。
平塚先生は二人の生徒を引き連れてやってきた。
一人は三浦優美子さん。
一年の二学期頃から何故か良く見かける子。
キレイな顔立ちと、女性なら誰でも憧れるであろうスラリとしながらも出るべき処はちゃんと出ている誠にもって羨ましいスタイル。
唯一の欠点と言えば、その派手な金髪の髪形。
私が中学時代に留学してたイギリスでもこんな髪形をした子は見たことがない。それくらい派手なヘアースタイル。けれど、それが嫌味に見えないのは不思議だと思っていた。
まあ、その髪型の秘密を知った私は未だに『ななはちゃん』と同じ髪型にするか迷っているのだけれど・・・。
彼女は二年になってF組になり、葉山隼人と良く一緒に居るのを見かけるようになった。
恐らく彼女も葉山隼人の外観に魅入られた一人なのだろう。と初めは思っていたのだけれどね。
そしてもう一人は問題の彼。
比企谷八幡君。
私は彼と会わないよう細心の注意をしていたのだけれど、それがこのような形で崩れてしまうとは思ってもみなかった。
彼との本当の出会いはこの総武高校の入学式の日に遡る。
あの日、私は入学式で新入生の代表として入学式の席上での挨拶を行うにあたり、文面の最終確認の為に一時間以上早く自宅を出た。
自宅からは送迎のクルマに乗せられて学校に向かった。
私は普段通りに電車とバスを乗り継いで行くつもりだったのだけれど、朝が早いのと安全の為という事でクルマでの登校を母から命令された。
なので、私は少しの気恥ずかしさから運転手の都築さんに、学校近くでは目立たない道路を通って欲しいとお願いしてしまった。これがそもそもの間違いだった。
せめて大通りを堂々と走って貰えば後々都築さんにも迷惑をかけることは無かっただろうに・・・。
時間は普段であれば通勤、通学の随分前の時間帯のハズだった。
偶々道路に飛び出した子犬を助けるために自転車に乗った男の子が飛び出してきて、私の乗るクルマに撥ねられてしまった。
その時の私はどうすることも出来ず、ただ言われるがままにシートに座ったまま俯いてじっとしているだけだった。
幸い学校の直ぐ近くだったことも有り、男の子が救急車で運ばれ現場検証が始まるタイミングで私は徒歩で学校に向かうよう、母から連絡を受け学校に向かった。
男の子の顔は解らない。
窓からちらりと見た限りでは総武高校の制服を着ていたから入学式に参加予定の在校生か、朝早くに出発しすぎた気の早い新入生だろう。
彼には早々に謝罪に行かなければと思っていたが、両親からも顧問弁護士からも彼への接触は禁じられてしまっていた。県会議員である父の立場上、こちらが悪くない事故であってもスキャンダルの種にされかねないという大人の判断があったからだろう。
なので私は彼に対しての謝罪はおろか接触さえしてはならないと厳命された。
私の軽はずみな言動が招いた事故だったのにだ。
入学式の時もその後の始業式でのガイダンスの際も、入学式の時の事故は伏せられており生徒にも通学中の事故への注意喚起等は無かった。
だから、多くの生徒は入学式の時に事故があり式に出られなかった生徒が一人居る事など知らない状態だった。
入学式の挨拶の打合せの席では生徒会役員の上級生達が迎えてくれていたが、誰かが欠けているというそぶりは無く、事故に遭ったのは新入生なのだろうと直ぐに判ったのだけれど、同じ中学からは数名がここに入学してはいたが、普段の交流が無く接点も無い私にとって事故に遭った人物を探し出すことは簡単ではなかった。
何しろ学校側も事故を無かったことにしていたのだ。
入学早々に学校を休んでいる生徒など多くは居ないハズだけれど、どのクラスを覗いても不自然な様子は見受けられなかったし、実際に誰か休んでいる人は居ないかと各クラスを聞いて回ったけれど、見つからなかった。
もしかしたら、何かの用事あって入学式前に学校に来たかった上級生かもしれない。
そうなるとその人物を探すのは私では不可能だ。
私は自責の念に圧し潰されそうになりながらもギリギリ平穏なフリをして日々を過ごしていたのだけれど、二学期に入ったある日の放課後。
「おい、比企谷。お前いい加減に授業中に寝るのは止めろ。数学が解らななら補習とかもしてやる。もう少し真面目に授業を受けろよ。入学式の日に事故に遭って初めの三週間を休んでしまったとはいえ、もう二学期だ。この辺で後れを取り戻さないと、もう授業に付いて来られなくなるぞ?」
職員室で一人の生徒が数学の教師から注意を受けていた。
『入学式の日の事故で三週間学校を休んでいた?』
期せずして、私は事故の相手を見つけてしまった。
しかもその事故のせいで授業についていけなくなっている。
この時の私の心の中の衝撃は相当なモノだった。
それからの私はひっそりと彼を観察し続けていた。
謝罪することも許されず、接触することもままならない私は彼を観察する事しか出来なかった。
そして気が付いたことがある。
彼は事故で骨折した足を時々庇う様なしぐさをする。
普段の体育ではマラソンや短距離走もこなしているようなのだけれど、不思議と雨天や湿度の高い日に限って脚を庇うようだ。
もしかして後遺症があるのではないか?
だとしたらソレは私の責任だ。
私は加害者なのだ。
私が人生をかけて償わなければならない問題なのに、両親はもう示談が終わったから話を蒸し返してはいけないと私に言い放った。
そして運命の日。
私は彼と対峙する事になった。
私はなんとか彼の入部を止めようとしたのだけれど、平塚先生は言葉巧みに私を言い包め様としたし、何故か同席していた三浦さんを焚きつけて私から入部の許可を取り付けてしまった。
私は彼が部室に来たくなくなるようにと会話の端々に罵倒の言葉を混ぜてみたが、彼はそれに屈する事なく、言葉で返してくる。
始めは嫌々の会話だったのが何時の頃からか彼との会話が楽しくなっていた。
途中に三浦さんが割って入る事で会話が妙に弾むのも新鮮で心地よい時間だった。
けれど楽しい時間は直ぐに終わるだろう。
感のイイ彼の事だ、事故の相手が私だと知れば彼は私を簡単に許しはしないだろう。
これまでの心地良い時間は永遠に失われてしまうのだ。
意を決した私は賭けに出た。
私は彼が部室に忘れた携帯電話を届ける為と偽って、平塚先生に彼の自宅の住所を聞き出し、彼の自宅を訪問した。
「え?雪ノ下?どうしたんだ?こんな時間に・・・。」
「まだ七時前なのだけれど?そんなに遅い時間ではないと思うのだけれど。」
「なんか部活の連絡か?あれ?俺お前に家の住所教えたっけ?」
「何を言っているの?私は部長なのよ?部員の住所位は把握しているわ?」
「お、おお・・・、そうか・・・。」
「ところで、ご家族の方は?」
「あー、両親は共働きで帰宅は毎日九時過ぎだな。妹がいるけど今日は塾なんで帰って来るのは九時前だな。」
「では今はあなた一人なのね?都合がいいわ。少し上がらせてもらってもいいかしら?お話ししたいことがあるの。」
私は彼の自宅に上がり、これまでの事を説明して謝罪をした。
そんな私に彼は。
「別にお前が運転したわけじゃねーだろ。第一道路に飛び出したのはコッチだ。道交法じゃ車両同士の事故って事で、事故の責任割合はコッチが高いんだそうだ。それに怪我だってある意味自己責任だろ。だから、もう謝るな。お前が責任を感じる必要はナニもない。」
そう言ってくれた。
そして、その瞬間だ。
私の心が軽くなったのは。
とはいえ、私自身は他人との接し方が良く解らない。
特に彼には以前から罵倒の言葉を投げてしまっていたのだから、簡単に態度を変える事はダメだと判っていても出来なかった。
そんな私に彼はちゃんと言葉で返してくれる。
初めからずっと変わらずそうやって接してくれている。
そして私が知らない世界を私に見せてくれる。導いてくれる。
だからだろう。
私が彼に恋心を覚えたのは。
けれども彼に魅かれているのは私だけではない。
三浦さん、由比ヶ浜さん、川崎さん、相模さん。
私はこの四人の誰にも敵わない。
彼女達はそれぞれ魅力的で女性としての人気が高い。
外ズラだけで中身のない私では逆立ちしても勝てないのは解っている。
だからこそ、何としても彼女たちには勝ちたいと願う。
八月七日。
私は有る決意をもって実家に戻る。
両親に私の気持ちを伝えるために。
比企谷君との今後の為に・・・。