〇〇の(ポケモン)トレーナー 作:カナーさん
君、脚大丈夫?
公園で荒れた息を整え、次のトレーニング予定を確認しているときに彼は話しかけてきた。
赤い帽子、青のジャケット、黒のカーゴパンツ。この時期の似合わない暑そうな服装の青年。
片手には見慣れない、何故か美味しそうに感じる水の容器。
帽子の影になっている瞳から心配そうな視線をのせてそう質問してきた。
けれどそこから、緑の山の描かれたラベルが巻かれたペットボトルから視線が逃げれない。
その様子に気付いたのか、無言で容器をこっちに投げられ
て
おもいっきり顔面に直撃した。
カロス地方を満喫し、シュールリッシュの一室で次の旅路を決めようと机の上に地図を広げる。
今回のカロス、故郷、そして候補達。
あなたは決めあぐねていた。
今回も結構な冒険があったがそれでもまだまだ遊び足りない。一度本格的に弾ける必要があった。羽の伸ばせる場所で遊び疲れて地面に寝転がりたかった。
シンオウ地方のちかつうろでかせきほりしたい!
イッシュ地方の遊園地で遊びたい!
シンオウでコンテストを応援したい!
イッシュでカミツレさんのファションショーを観に行きたい!!!
等々やりたいことが溢れにどちらに帰ろうかずーーと悩んでいるのた。
イッシュはライモンシティしかないのか、と思うかもしれないが単純にファンなので推し活したいだけなのだ…。
ちなみにサザナミタウンは目の保養なので今回は候補に挙がっていない。どんだけファンなんだ。
バッグを抱えて椅子を傾けさせながらたっぷり一時間。結論は出ず、昼食を摂ってから仕切り直そうと思考を緩めたところでバランスを崩して後ろに盛大に倒れた。
ゆりかご椅子じゃないのだから倒れるのも道理だ馬鹿。次からしないように。
さてここで問題が起こった。あなたの背後で悩む様子を覗ったいたずら好きなポケモンがリングを拡げていた。あなたが倒れると思って設置したのだ。そして予想は的中したわけだ。
気付けばあなたは見知らぬ土地で黄昏れていた。
倒れた先がコンクリートで更に青空が見えたのでそれはもうビックリした。
新天地を見据えていたがこうも劇的なものは気分じゃなかった。
とはいえあなたはベテラントレーナー。
テレポートだって経験済みで反転世界だって踏破したのだ。この程度慣れっこだった。
発散出来なかったのは残念だがこれもまた旅と割り切り新たなスタートを今歩みだす。
大変な事実が判明した。
この椅子…どうしよう。
あなたは真剣に悩んでいた。もちろん椅子のことも悩んでいたがそんなことよりも重大な事実に気付いて忘れていた椅子に拾って公園で座っていた。
初めは看板だった。
次は空で、道だった。
どこにもいない。
看板に必ずと言っていいほど映るポケットモンスターやそれのモチーフが一切ない。
空を見上げても目に映るポケットモンスターがいない。
道には車が通り、その中に。人の肩に、側に、ポケットモンスターが。モンスターボールすらなかった。
ここにはポケットモンスターがいなかった。
混乱した足取りのままテレビが放映されている場所まで流された。
この地域だけポケットモンスターと距離を離したい人々が集まる場所なのだと考え、世界を映すテレビの放送に希望を託し
そこに映る輝かしい少女達の姿はあなたを仕留めるのに十分だった。
…ウマ娘。聞き慣れない単語が届く。
…本屋に向かう途中に擦れちがう頭部に耳の生えた女性。本屋でコーナーがある。そして読んで大雑把に把握してポケットモンスターのコーナーがないか探して公園で椅子座っている今に至る。
あなたはうなだれていた。
もちろんポケットモンスターについて聞きまわった。
その上でうなだれていた。
あなたは過去、自分の常識外の出来事を体験した事は何度もある。だがその中心には必ずポケットモンスターが関わっていた。
ニュースで新聞で会話でポケットモンスターが触れられないことなど幾らあなたでも経験をしたことない。
その代わりだろうか。あなたの耳にはウマ娘達の話題が大半を占められていた。
そんなあなたを労る緑色の手。
ほうようポケットモンスターのサーナイト
サーナイト。
未来を予知する力やトレーナーを守るためなら命懸けで、サイコパワーで小さなブラックホールを作り出したりと主人に対する愛が深い。
ただこのサーナイトはあなたがゲットしたわけではない。あなたの家族が心配して保護者として主から離れ、あなたに同伴する様に命を受けあなたと旅をしていた。最初のバッジをゲットするまであなたは気付いてすらいなかった。
一人前になったといえるであろうジム制覇をなした頃、サーナイトと離れる寂しさを覚えつつも別れを切り出したが、今日までサーナイトは自分の意志であなたの側にいる。あなたはそれに歯痒さも覚えながらも笑っていた。
ちなみに特性はトレース。
サーナイト含む、ラルトス、キルリアは人の感情に機敏である。
久しく見た予想外な疲弊した家族の姿に少し心配の色を映す。
異世界の地。友達の抹消。神話は妄想に。
今までの冒険とは比べようないほど環境が激変しているが。なに、あなたなら問題はない。
慣れた装備に自転車、ローラースケート。広大な容量を誇るバッグ。そこに収納された数多のどうぐ、かいふく、ボール、わざマシン、きのみ、メール、せんとうよう、たいせつなもの。
上位互換のいいキズぐすりがあるのにもかかわらずキズぐすりを
なによりあなたには心から信頼できる半身ともいえるパートナー達がいる。
なら。いつもとなにもかわらない。
あなたのそんな立ち直りを感じとったのかサーナイトの手が離れる。
そして胸ポケットから浮かび上がるバッジケース。
"どっちが かったか ねえ おぼえてる?"
とぼけたようなこえがきこえる。ヒカリ、ジュンに始まりシロナさん。メイちゃん。ハチク先輩。セッシー。アヤカ。そしてPWTの猛者達。
空気を変えてくれたサーナイトを撫でてボールに戻して、ようやくあなたは周りに目を向けた。
黄昏時。
あなたという不審者がいるのにも関わらず、公園には人が疎らにいた。遊具から降りる子供。通りを走る自転車。そして汗を拭うウマ娘に目を奪われる。
ひとがた りくじょう ようせい 体格ほぼ人間と一致 そこに耳と尻尾。近いのはミミロップだろう。
彼女達はサイホーンレースのようなじならしこそ起こさないが力強い走りで人々を虜にする。少し観察であなたにもその人気と白熱度合いは伝わる。
あなたにとってのパートナー達の人気がそのまま彼女達に変わったと考えれば理解はスムーズだ。
ならば、目の前にいるあの娘も未来のチャンピオンなのかもしれない。
今この瞬間、歴史の上に立っているかも知れないと思ったあなたはあつい視線を向けて。
違和感。
キラキラと眩しい瞳を静め、冷たい思考が胸を突く。
気の所為と割り切る事はしない。バトルにおいて異変に気付くキッカケは巧妙に隠されようとトレーナーであるなら自然と肌で感じるものだ。
その感覚が刹那、ここにいるウマ娘から。
…赤の他人である。
身分証明の類が一切ない危機的状況で、
それでもあなたは辿る。
一瞬過るのは進化したばかりのサザンドラと幼馴染のハヤシガメ。
共通点は肉体と精神の不一致。
肉体の変化に自身がついていけない。
…それは。
それは危険だ。
パートナーとの信頼も果てはそこにある繋がりも全てが切れてしまう危うさを孕んだ致命的な齟齬。
トレーナーの期待に応えたい。でも体の勝手が違う。
ポケモンに無理をしてほしくない。でも伝わらない。
バトルで進化したならそれはさらに溝を広げる。
交代させるのが最善だ。だがそれは今のお前には無理だと突きつけるようなもの。ただでさえ混乱しているのに。だが負けてもポケモンは傷つく。
_ジュンはどうしたっけ。
いや、おなじことをするか。
ねぇ君、足大丈夫?
これはただのお節介だ。しかも無知の一般人の野次馬と違いのない碌でもない行為だろう。
第三者が行うべきじゃない。
でもいつだって、憧れたチャンピオンは得意じゃなくても手を伸ばしてた。
それに倣いたい。それに支えられたから。
…その心意気はあるが、水着は自分で選んでほしいと思うあなただった。