〇〇の(ポケモン)トレーナー   作:カナーさん

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LINE風を作ろうと思ってやめました。


一月三十日

-配信予定-

 

ライスはみんなを不幸にしてしまう。だからできるだけみんなの関わらないようにしてたんだけどそんなライスに関係ないよって話掛けてくれたのがうららちゃんで、お兄様はうららちゃんのトレーナーだった。

 

お兄様はライスがブルボンさんに勝利したときもうららちゃんと一緒に祝宴を開いてくれた。あまり豪勢でないとお兄様は申し訳なさそうにしていたけどライスはとても嬉しかった。

 

たくさん食べても嬉しそうにするからライスはうららちゃんのことが少しだけ羨ましくなった。ライスはいけないこだ。

 

でもその思いが大きくなったのはたぶんあの時。マックイーンさんが出走する天皇賞。過るのは菊花賞のこと。

 

ライスは走りたくなかった。ライスが勝利することでライス以上に喜んでくれるうららちゃんがいてもそれ以上に不快な人々が現れるのをライスはもう見たくなかった。

 

だからライスシャワーがどうして走りたくないのか、どういう思いで走っていたのかを知るお兄様のあの行動はありえなかった。

 

コトッと小さく箱が置かれる。

 

置かれた箱を手に取りパカッと開けて見ればそこには輝くリング。

 

えっ……て言葉を失ってそれでも視線は固まって脳内は暴れて。

 

動かないライスに痺れを切らしたのかお兄様は箱から指輪を取り出してそのままライスの指に通す。

 

唐突過ぎてえっやあっくらいしか言葉にできない。

 

すんなりと通った指輪のサイズはピッタリでお兄様はそれに満足したのか指から外す。

 

それに残念に思ったライスは自分の思いを嫌でも自覚しなきゃいけなかった。

 

ライスの指から離された指輪はライスの掌に載せられてお兄様はライスの手で包み込むように握り込ませた。

 

そしてそこからライスシャワーの名を賭けた脅迫が始まった。

 

 

彼は面白かった。私が渡す薬を躊躇いもなく飲み干す姿勢もそうだが一番注目するのはその体質だ。

 

カフェやその辺のウマ娘やトレーナーは私の薬を飲むと発光する。なのだか彼はほぼ発光しない。他の者達に試す薬より何倍も濃くしたものでないと発光せずまたすぐ治まるのだ。

 

なので彼には特別に濃度を高いものしか渡さなくなったしそもそも彼以外には試さなくなった。

 

必然の彼の摂取回数は増えるわけで、ある日かき氷のシロップのように味に種類がないのか聞かれた。

 

いつも飲料水の変わりにしてもらっている身であるのでその要望はすんなりと叶えた。彼の好みはイチゴ味だった。

 

そんなある日彼が膝をついた。

 

なんの冗談だと思った。手で口を塞いでなにかに堪えるような姿勢。

 

冗談だと一蹴した思考を戻す。

 

不安ではあった。あぁ不安だったとも。いつも自信満々に手渡している私がその実内心は不安がっているなんて君は思わないだろうさ。

 

私は自分がなにを作っているかちゃんと正しく認識している。自分が危険なものを作っている自覚があるから、だから試作なのだ。だから試験するのだ。

 

でもこの状況に、濃度を高く作っている、規定量から少し外れたこの感覚はいつか取り返しのつかないことになると私はわかっていたはずなのに。

 

 

……君が私の反応を調べていたと言ったときは私はとても不機嫌になった。

 

私はあそこで謝るべきだったんだ。まだ声が届くあの瞬間に。

 

もう病院の鳥籠の中で動けずゆったりと明日を待つ君を見るなら、私は感謝するべきだったんだ。今の私が言うんだから間違いない。

 

原因不明。これが私のせいであったらまだ良かった。でも君の症状は過去類がないと言われた。

 

……元々身寄りがないなんて知らなかった。家がないなんて知らなかった。国籍がないなんて知らなかった。なにも知らなかった。君の好みを知らなかった。君の交友を知らなかった。君の夢を知らなかった。なにもしらなかった。

 

君はどうして私と……?

 

停滞する私の違い君はゆったり確実に終わりに進む。

 

車に撥ねられても後日普通に私に顔を見せてくる君がこうなるなんて予想できるわけないだろう。

 

寝ている君を眺める。それは私の役目だ。私だけの特権なんだ。

 

眠りから起きて目を開けて映るウマ娘は私なんだ。

 

だからその日が来るとは思っていなかった。

 

……言葉を失う私をよそに君は私の夢をかなえるまで寝ていられるかと私を連れ出そうとする。

 

それを強引に止める。君はウマ娘程度の力でちょうどいい。

 

どういうことだと言葉にせず目線で伝えてくる。

 

私でも自分の行動に驚いているが抱いた思いは同意した。

 

だって君の口振りからして、私が夢を叶えなければ君は眠らないのだろう?

 

その言葉で君は理解してくれる。いつもその察し力は助かっている。

 

私の思いを理解して君は語ることを選んだ。

 

ここではない異世界の産まれ。そして女神によってこの世界に連れて来られ、適応した体を与えられた。

 

しかし体は適正でも身体は適切ではなかった。その影響が今表面に目に見える形で現れだけ。地球で育ったスーパーマンが母星の環境に苦しそうにしているのと変わらない。

そして私が夢を叶えなければおそらくそれは女神の意向の反る形になるためどちらにしろ君に残り時間はない。

だから、君はキスが出来そうなほど近づいて私に懇願する。

私の夢を叶えるため、自分のよりよい幕引きのため。

私にその先を走ってほしい。

あぁまったく初めての願いがそれとはとても卑怯だ。

最後に映るのが最高の私自身だなんてとんでもない要求だ。無論君の最後の景色は私のものだ。譲る気はない。

進む為に走るのではなく止める為に走るだなんて思いもしなかった。

あぁでも。この選択で明日死んでしまうとしても今日を生きるため君は走る人だった。

その破綻した思考を私は好いていたんだった。

そんな君だから一緒にいたかったんだ。

だから私は走った。

君と出会えたことに感謝して。

一度きり、もうこれより先はない。思いのまま走って。

新たな歴史を刻んだ。

君にも刻まれたかい?感想を聞くのでしっかり準備をしてくれたまえ。

 

 

あの日ことはいまでも忘れられない。

 

いつもあたしの言葉を意に介さないあなたが唯一目に見えて表情を崩したとき。

 

 

 

元々出逢った当初から口は悪かった。

 

でもそんなあたしを選んでくれたんだそれくらいは許容してほしい。

 

時折、あたしの言葉に一瞬、誰にも気づかれないほど気落ちするあんたをあたしはすぐに復帰するから大丈夫だと判断した。

 

どの基準であんたがダメージを受けていたのか愚かにもあたしは考えなかった。

 

 

 

あたしがあたしが舐められるのはあんたのせいだからと言い放ったときだ。

 

 

 

その表情を見て、わたしは今まで言い放ったどの言葉であんたが傷ついているかわかった。

 

あたしがあたし自身を貶したときだ。

 

そんなの、あたしが自分を鼓舞させるための、あたしがまだ自分に自信がないだけのあたしの問題なのに。

 

あんたの指導に不満はない。あたしなんかのために身を削っているのをあたしは知っている。他のトレーナーから嘲笑されているのも流せるのを知っている。自分を大切にしないことを知っている。

 

なのにあたしのことになるとその表情を隠そうとしない。けど放たれた言葉になにも返さない。

 

レースが全てを物語る。

 

相手が自主的に愚かさを自覚したほうが寄り"勝ち"というあんた方針はあたし好みだった。

 

そんなあんたがあたしが自分自身を蔑んだところでそれは自傷で、気にすることなんてないのに。

 

そんな言葉を自分の担当言わせたなんて絶対にあんたのせいじゃないのに。

 

 

 

微かに、気のせいかと流させるほど小さな、隠してきた歪んだ表情はあたしが言葉を失うほどだった。

 

そしていつも通りその表情をあたしの前だからまた隠して、無言で頷いてあたしから離れ行くあんたに手を伸ばせなかった。

 

後日、リギルのトレーナーから話があった。

 

 

 

ごめんなさいごめんなさい。

 

その言葉すらあたしは言えなくて

 

いやだいやだってあんたのところまでトレーナーを振り切ってあんたに抱き着いてそんな言葉しか吐き出せないあたしは酷いやつだ。

 

そんなあたしを受け止めてくれるあんたがあたしは……

 

張り裂けそうな心臓は鼓動は落ち着いてくれないけど、確かに感じる存在感にあたしは流される思考から無理矢理言葉を紡ぐ。

 

あんたのせいじゃないみんながあんたを非難してもそれは絶対にあんたのせいじゃない、あたしのせいなんだ。

 

あたしがあたしを傷つけてるのもあたしのせいなんだ。間違ってもあんたの、誰かのせいにしちゃいけない

 

ここまで走れたのはあんたのおかげなんだいまあんたがいなくなったらあたしはなにをささえにはしればいい。ゆめにはしることはでき?でもささえくれるのがあんたじゃなきやもうあたしははしいつっけれあいのい

 

 

 

言葉が思いを変換しきれなくなって自分でもなにを口走ってるいるのかわからなってそんなあたしをあんたはわかったわかったというようにポンポンとあたしを優しく叩く。

 

それでも擦り付けた顔を上げる気にはなれない。抱きしめた腕を解けれない。このまま離れられたらあたしは追い切れる自信がない。

 

あんたが離れないって教えてくれなきゃ。

 

そんなあたしの行動をあなたは喜色を含んだ声であたしに提案する。

 

レースで示して欲しい。このトレーナーだからこのトレーナーじゃなきゃいけなかったと二人が思えるような走りを。

 

そんなような提案を聞いてレースまでは離れないと理解して、あたしはようやく顔を見る。

 

あぁ、不安と期待、歓喜。いつもは不安なんて表情を見せなかったのにこの表情はあたしがさせたのか。

 

そう思って再度あなたに溺れる。ウマ娘の力でも悲鳴をあげないことをいいことに名一杯もしかしたら手離れになってしまうかとしれない感触を味わう。

 

顔隠しながらあたしは宣言する。

 

絶対に誰もがあたしから目を逸らせないようなレースを魅せると。

 

 

 

 

 -ヒカリさんから情報の共有があったのでこれを共有します。

 

ありがとうございます。

 -とりあえず、ヒカリさん曰く過去の時間に跳んでも先輩を止めるに至らなかったと。なんか別の力が働いているとかなんとな。

時間のズレもあるみたいで約二ヶ月程度のラグみたい。今日が一月三十日だからあっちは十一月三十日か三月三十日ってところかな。

他には別資料で送っくとねー大事な情報は今言ったとおり。リオルの助力を頼みたかったけど一緒に巻き込まれたみたいだしまだまだ難しいね。

 

……はい。共有ありがとうございます。

 -どういたしまして。

 

そういえば質問なんですけどなんでグループでの共有じゃなくて個人個人に共有したんですか?

 -あーそれね。一応気を使っているのもあるけどあそこのグループだと関係ない人達まで情報が言っちゃうからそれを阻止、というのもある。

 

ありがとうございます。

 -いいよ。

 -じゃあ三人だけで新しく作ればいいじゃんって話になるけどヒカリさん結構癖強いから私が緩和して翻訳と切り抜きの手間とその分量をグループに流すことを考えると履歴を見返すのも面倒だなーって。

 

なるほど。

 -ごめん私面倒くさい?

 

そんなことないですよ?

 -……オーケーわかった。そういえば最近アローラ地方の方で何やら色々起きてるみたいなんだよねなんか知ってる?

 

そうなんですか?知りませんでした。私今シンオウ地方にいるので。

 -えっ待ってどゆこと?

 

さっきヒカリ先輩も言ってたけど時間のズレがシンオウ地方から感じてそれでついでにあの人の家に行ってみようかなって

 -絶対後半の方が目的だ……ってそうじゃなくてあぁズレを感じる人だったのねセレナちゃんは……スゴイナァ

 

時間のズレかはともかくなんとなく違和感を感じて見に来たんです。

 -うん。それは信じてる。ヒカリ先輩や先輩を見てるから知ってる。そういう直感はあるって。ただ私はそういうのないからさ、ちょっと羨ましいな。

 

私はメイ先輩の方が凄いと思うし尊敬してます。お二人の映画は欠かさず観てますし、メイキングとNGシーンはとくに好きです。早く帰ってきて一緒にポケウッドでまた映画を作って欲しいです。

 -__ありがとうね。

 

でもバトルは私の方が上手いのでダブルバトルは私の席です。

 -うん。さっきの言葉は取り消すよ首洗って待ってて。

 

それはあの人家を借りろってことですか?

 -やっぱり私のこと嫌いだね?

 

 

「うぅ…私負けましたー!」

 

 夜の幕引きが降ろされた時間、サイレンススズカは独り、髪の手入れをやめ、戻ってきた隣人を迎える。

 十月。菊花賞を終えたスペシャルウィークは満足のいかなかった結果を糧にするため八つ橋を口に放り込む。

 瞳を閉じてその慟哭を聞き入れたスズカは気持ちを理解した上で軽く忠告する。

 

「明日からまた猛特訓しますから、大丈夫です」

 

 一瞬喉をつまらせて、再び口を開く。

 それならとスズカはスペを眺める。

 時刻はもうすぐ次の日を指そうとしている。辺りが静寂の中、自分もその静寂に飲み込まれないのはテイオーからもらった土産の効果かしらと一つ考える。

 話は進み次のレースへ話題移る。

 

「秋の天皇賞、あっスズカさんの次の次のレースは……ジャパンC、私もスズカさんと走りたいなー」

 

 カレンダーに○を示された十一月一日と十一月二十九日。声色的にそうなれたらいいなという希望。溢されたような言葉にスズカは嬉しそうに返事をする。

 

「私も一度スペちゃんと走ってみたい。暫くはチャンスもなくなってしまうから」

「えっなんでですか?」

「私、もうすぐアメリカに行く予定だから」

 

 どこ吹く風と今まで出られなかった言葉か飛び出す。

 そこに小さな驚きを抱きそうになってスペの声に掻き消される。

 遅い時間だしあまり大きな声を出すものじゃないと諭しをし、声量は収まれど勢いは止まらない。まだ少し、夜は続くのだろう。

 


 

 校門の手前。葉緑豊かだった木の葉は紅に染まり冬の準備を整える頃、車に乗ったトレーナーとスピカのチームが集まっている。

 

「よおーしみんな揃ってるな、いいかゴールはそこだ」

「いや、ゴールもそうだけど」

 

 微妙な表情をしたゴールドシップが言いよどむ。

 彼女の手には陳腐な……手書きの等高線のような地図が渡させれたが彼女はトレーナーの後ろの座席に座る不機嫌なあなたの姿を捉えていた。

 

「そちらの……お兄さんは、いったい?」

 

 とても珍しくゴールドシップが柔らかに質問する。

 地図なんかよりあの状態のあなたの方が問題だと結論した彼女はウオッカの隣にいるもう一人のトウカイテイオーに瞳を向ける。

 

「あー理事長からの指示でな、サブトレ研修だとよ詳しくは俺も言えん」

 

「あはは……一応大丈夫だよ。今回はちょっといざこざがあってね、スピカのトレーナーにその矛先が向いてるわけじゃないから」

 

 あなたはスピカのトレーナーに結構やらかしているので嫌っていると思うかもしれないが意外にあなたはこのトレーナーを悪く思っていない。

 アグネスタキオンという例を見て、ある程度の指標は形成できた。なのでこの世界のトレーナーからかけ離れた存在ではないのだと認識した。

 スピカのトレーナー沖野もあなたのことを悪く思っていない。話は聞いてみればどれもウマ娘を心配しての行動だったのでそこに垣根は残っていない。むしろ時々テイオーやマックイーンを通して渡させる差入に感謝しているくらいである。

 そんなわけで二人はそこまで仲は悪くない。沖野もこの不機嫌の理由についてはあなたから話があったので理解している。

 

「(理事長と生徒会相手に揉め事は勘弁してもらいたいけどな……)坂の特訓、それに体力。これで秋のG1乗り切るぞ。誰だー菊花賞負けたの?」

「はっはい私です……」

 

 弱く申し訳無さそうにスペは手をあげる。

 

「そうお前だ。今は十五時、十八時までに旅館に着かないと夕食抜きだからな。じゃ頑張れよ」

 

 あなたも一同にエールを送る。b

 意識の切り替えは流石だ。

 最初はあなたも彼女達と一緒に走らされると思っていたのだが移動の時間で色々話したいこともあるようなのであなたも車に乗車している。

 ちなみにゾロアークも彼女達と同行させるが間に合わないとご飯抜きだ。

 

「ええっ!?」

 

 


 

「あの方達、本当にトレーナーですの?」

「いやー面白いよな」

 

 はぁと小さく溜息を吐いてちょうどボクと反対側の端にいるぞろあーくに話しかける。

 

「とりあえずよろしくねぞろあーく」

「うん。みんなもよろしく、ゴハンヌキ……」

 

 思いの外ダメージをもらっているようでいつも余裕たっぷりの笑みは鳴りを潜め、ほんのり表情に影が見える。いつもだったらからかうけどボクもダメージがあるので一時休戦。

 

「それにしても道なき道を走れって絶対に影響受けてるよ」

「いったいいつの間に仲良くなったんだろうねぇ……半分くらいボクのせいかも」

「どっちかとトレーニングじゃなくて修行だな」

「まったくだわ__あっちょっスズカ先輩ー!?」

 

 ボク達みんな心の中で同意しているとスカーレットがなにかに気付いて驚いたように声を出す。

 ぞろあーくの方を向いていた身体を門の方へ向ければ地図を持って門の外へ消えていくスズカ。

 えッなんで地図もって一人で走ってるの!?

 

「誰ですのスズカさんに地図を渡したのは」

 

 バッと見れば「あっ」と空白を掴んでいるゴールドシップが。

 

「まっ迷子になっちゃう〜!」

 

 その言葉に慌ててボク達はスズカを追いかける。逸れるのは不味い。

 

 道中は困難を極めた。主にぞろあーくのせいで。

 それはぞろあーくがとても遅かったからとか極度の方向音痴だからではない。

 

「おっちゃんこれ三つ」

「おばちゃんオススメどれー?」

「これをここの住所に__」

「おーなんだあれー後で行こう!」

 

 とても遅いんじゃない。とても速いのだ。興味の惹くものがあれば我先にと向かいそしてボク達の移動速度より速く戻って当たり前のように追い付いてくる。

 元気に動き回る子供みたいだけどスタミナも子供並みに底が知れない。最初は心配していたみんなも自分との戦いに専念し始めて余裕がなくなってきた。

 そしてそれは夕暮れを迎えて蒼色が空から塗り替えられてもぞろあーくは変わらなかった。他のみんなが荒い呼吸のなか無理ーと声を上げる頃でもぞろあーくはそんな声を出さずボク達の殿を務めていた。ちなみに先頭はボク。この中でぞろあーくの次に体力があったからだ。それでも苦しいけどね……。暗いしなか怖いし。

 

 そうしてボク達は灯りに向かって走った。

 目的地の旅館の前唯一の街灯。山奥だからかゴールだと目立つようにそこだけに待ちわびるように灯っていた。そしてその下に照らされるトレーナーとその隣に座るキミ。

 

 


 

「無事に着いたーぁぁ……」

「これほど明かりが嬉しいなんて」

 

 よっ、と沖野トレーナーするのを横目にあなたも丿と手をあげる。

 しかし、明かりが嬉しい気持ちはわかる。フラッシュのない状態で洞窟を抜けるなど今のあなたは普通にこなすがシンオウ地方で冒険をした新人の頃は明かりがどれほど助かったか。

 呼吸を整えている彼女達を見ているとあなたは新人だった頃を思い出してほっこりする。そういえばスタミナもそこまでなかったなーっとあなたはリオルの入ったボールを撫でる。掌の感覚的に同意を得られ、あなたは小さく笑む。

 

「おせーよお前ら」

 

 意外と辛辣な言葉にあなたは声を出して笑いそうになった。

 

「はいキミへ、土産とレポート」

 

 肩を上下させているウマ娘の間を抜けて普段通りのゾロアークがあなたに前まで進んで袋を渡す。あなたは待ってましたとばかりに素早く受け取り物品とレポートに軽く目を通す。

 ……b

 あなたは当初趣味の地図埋めを行う予定だったのだがトレーナーに呼ばれてしまったので断念せざる得なかった。

 そんなあなたの思考をゾロアークは読み取って代わりに行ってきたというわけだ。

 ちなみにこれは一切頼んでいない。ゾロアークの独断である。けれど現在のゾロアークはあなたから許しをもらいたいはずなのであなたはこれを予想していたわけだ。

 

「いやーごはん抜きはきついけど媚でも売っておこうかなってね。後土産で飢えを凌ぐ目的もある」

 

 あなたはちゃんと買い取るので安心してほしい。

 

「なら良かったよ……」

「てか、てめら何風呂入ってんだよ」

「いいからさっさ風呂入って汗流してこい」

 

 いい湯だった。

 

「感想は聞いてねぇよ」

「いわれなくてもいきますよ」

 

 あなたはあまり臭いは気にしない。ベトベトンやダストダスなど臭いのキツイポケモンに慣れてしまったからだ。

そういえば、と思い出したかのように今の時間帯は誰も入っていなかったのであなたはゾロアークを呼んで一緒に入るかと提案する。

 

「えっ」×八 

「うんいいよー」

 

 よしきた、とあなたは腕を捲って風呂へ直行しようとする。

 

「おい、待て!」

「ちょっとお待ちなさい!」

「ちょっと待って!!?」

「ちょっと待ちなさい!」

「ちょっと待てよ!」

「ちょっと待ってください!?」

「ちょっと待って」

「ちょっと待てー!」

 

 なにかの芸だろうか。あなたはお笑いにそこまで詳しくないのですまないが返しがわからない。

 

「ちげーよ、なに普通に担当と一緒に風呂入ろうとしてんだよ!?」

 

 それこそあなたの疑問なのだがむしろパートナーと一緒に風呂を入らないのか?

 

「ぞろあーくもなに普通に入ろうとしてるのよ!」

「えっいやいつも一緒に入ってるし」

 

 いつも……とスピカのメンバーは固まる。

 事情を知っている筈のメジロマックイーンとトウカイテイオーも固まっている。

 これはゾロアークの化けについて詳しく話していない故の勘違いである。

 ゾロアークの化けはメタモンのようなへんしんと同じく服も含めてゾロアークは化けているので服を脱ぐことはできないし、しない。トウカイテイオーの制服や体操服に着替えているのではなくその姿ごと化けているのだ。服も体の一部といえばわかりやすいか。

 なのでもちろん体の構造までは摸倣できない。そこはフィギュアみたいなものだ。

 一体化した物は脱げないし、あくまでイリュージョンによってそう見えるだけなのだから。

 まぁ裸を目視していればさもありなん。でもあなたは興味ない。ゾロアークも趣味じゃない。

 のでそこは私達含めて誰も心配していない。

 

「待って……ってことはほぼ毎日ボクと一緒に__」

 

 あなたは彼女のその発言でみんながなにを考えているか把握して呆れた。年齢制限を突破しないでほしい。

エロガキっと言葉を流すのを我慢する。メイちゃんでもそこまで酷くはなかった。

 あなたは気持ちがわからなくはないが真の意味で共感はできない。思春期とはこんなに面倒な生態だったかと困惑している。

 

「あぁ……なるほどみんな頭冷やそうか。いや今から暖めるんだけどさ。疲れて思考が変な方向に進んでるよ」

 

 しかしどうするかという問題点の解決にはなっていない。一番は一緒に綺麗になってもらうことなのだが……いいか。

 あなたはゾロアークにOKサインを出す。いつもどおり(・・・・・・)に過ごしてリラックスしておいでと背中を押す。

 

「えっいいの?」

 

 あなたはゾロアークをポケモンとして見てる。例え人に化けていたとしても化け先に迷惑がかからないならゾロアークの好きにさせている。なので人に化けたまま風呂に入れたことだってある。今回はイリュージョンを解除してもらって風呂に行くつもりだった。もちろん周りにバレないように。

 ここで突っぱねても異性と風呂に入ってる変態という認識はもう覆らないだろう。

 それに理事長とうーちゃん(ハルウララ)、カフェ、ネスオン(アグネスタキオン)は既に知ってしまっているのでアドバンテージが消失している。

 真の姿を知らないとはいえ、実はこいつはゾロアークなのではと疑えてしまうのだ。ゾロアークの存在を知らないのであれば今日はなんかいつもの雰囲気が違うなー程度ですむ。

 悪用したことはほぼないがこの世界では必要になるとあなたは考えていた。なのでできるだけ秘匿したかったのだが……。

まぁ過ぎてしまったことは仕方ない。切り札として機能しない以上隠す必要もまたなし。思う存分好きにするといいというのが今のあなたの考えだった。

 

「……うんわかったみんなと入ってくる」

「ったく後で話があるからな」

「えぇ……私達も話がありますがその前に」

 

 トレーナーの影になるように近付いたメジロマックイーン。その表情を見たトレーナーは思わず舐めていたアメをポロッと落とす。

 

「お礼はさせてもらいますわ」

 

 幽鬼のように立つメジロマックイーンはそのまま流れるようにトレーナーを〆る。こういう役回りはゴールドシップだと思っていたあなたはその姿に意外と違和感を覚えなかったことに疑問を抱きつつ助けることはせず見守っていた。

 

「グアアわっ悪かった許してくれ」

 


 

「私をジャパンCに出させてください!」

 

 意気揚々とご飯突いている最中スペシャルウィークは自身のトレーナーに進言する。風呂上がりの会話でより強い決心をして今ここで挑んでいる。なによりサイレンススズカがゾロアークとも走ってみたいという発言がスペシャルウィークを後押しする。

 その間にあなた達は次々と夕食を味わっていく。

 

「ちょっとおめら食いすぎだろなんだこの料理の数は」

「えっ食べ放題って聞いたけど?」

 

 なぬ!

 

「食べ放題じゃねぇよ」

 

 なんだ。

 取り敢えずメニューの商品を全部五人分追加注文する。それとは別ににんじん、寿司は更に追加五人分。女将さんには悪いと思うがこの人数で更にウマ娘もいるので違和感はないだろう。

 なっなっと絶句した様子のトレーナーを無視してゴールドシップ、ダイワスカーレットとあなたは注文していく。

 

 あなたとゾロアークが起こした勘違いはゾロアークが過去に怪我をしたことが原因であなたが心配性になっていること。一緒に入ると言ってもちゃんと隠しているからあなたは変態でもなんでもないしあなたとゾロアークはそんな関係ではないと説明した。

 この話はすんなりと信用され、あなたは変態のレッテルを免れた。

 よかったね。

 

 お前ら……とほんのり絶望するトレーナーにスペシャルウィークは自分の思いをぶつける。

 

「ようするにスズカと走りたいんだろ?んーチーム的にはどちらかが負けるから本当は避けたいところだが__」

「お願いします」

 

 頭を下げるスペシャルウィーク。彼女にとってサイレンススズカはとても大切な存在だ。憧れ。目標。彼女の中サイレンススズカを占める割合はとても大きい。

トレーナーもスペシャルウィークの思いはわかる。最初からスズカのことばっかりだったのだ。そのスズカと走れる最後のチャンス。厳密には最後ではないがスペシャルウィークにとっては大切なチャンスだ。

わかったよと告げるトレーナー。それに嬉しそうに顔を上げるスペシャルウィークにトレーナーは続ける。

 

「ただ今度の天皇賞でスズカが負けたらジャパンカップはわからないぞ。スズカは去年六着だからな」

 

 担当に今度負けるかもしれないという話はあなたは非難しない。だって事実なのだ。努力と戦略、相性が噛み合えば例えLV100vsLV50でも格上狩りは起こる。あなたもやるしやられる。

 

「今のスズカが負けるわけないじゃん」

 

 それに彼女は不思議そう当然だと意見を述べる。それに便乗して他のウマ娘も続く。

 

「そうそうそれでもトレーナー?」

 

 自分の担当が負けると思って育てることはありえない。

 なのでその発言も間違ってはいない。

 

「あーあ、いいなスペ。私もスズカと走りたかったなあ」

 

 思ったより対戦相手は控えているようでゴールドシップ、メジロマックイーン、ウオッカも羨む。

 それにスズカも楽しみにしているとゾロアークの方に視線を向けながら答える。

 ゾロアークの方は追加であなたと同じ注文をしているところだった。

 

 そしてそのまま大勢で食べる席らしくわちゃわちゃと言葉が飛び交っていく。

 あなたとゾロアークはそれを眺めながら皿を積み上げていく。サイレンススズカはその空気を楽しみ、トレーナーは自分の財布の中身を見ながら首を落としていた。

 

 

 トレーナーはウマ娘達を乗せて車を走らせる。

 その口からは次々と愚痴が流れていく。

 

「ったく四ヶ月分の給料がパーだ」

 

 それにクスッと笑いながらトレーナーが眠らぬようスズカも言葉を流す。

 

「スピカいいチームですね」

 

 がさつなやつが多いけどな、と聞きながらスズカは後ろに顔を向ける。ぐっすりと眠ってもう食べられないと同じ寝言を言うみんなに再度クスッとしながら今回のトレーニングについて話す。

 

「機会を作ってくださったんですよね、みんなにアメリカに行く報告をする」

「まあそれもあるが、なんだ、こいつらの戦意も高まるからな。特にゾロアークの存在は思ってたより大きかったな。あいつらのためでもある。おハナさんに一泡吹かせそうだ」

 

 それに照れくさそうにしながら誤魔化すトレーナー。

 

「私をチームに誘ってくれてありがとうございます」

「ん?なんだよ急に__なんだ寝たのか」

 

 ささやくようなスズカの声。

 それに違和感を覚えてチラッと一瞬視線を向けてその姿を確認する。

 そしてなんとなしにもう一度目を向ければスズカと視線が重なった。

 二人に沈黙が訪れる。サッと視線戻して運転に戻るトレーナー。再度目を瞑って寝たフリをするスズカ。

 二人の好感度はまだ足りなかったようだ。

 


 

 ちなみにあなた達は二人で一足早く帰路についていた。あの車だと本来ならちょうど良かったのだが急にあなた達二人が加わり店員オーバー。

 食費はあなたが全額負担。元からそのつもりで着いて行ったのだ。その金額に流石に頼むと言っていたが量だけでいえばあなた達二人でおおよそウマ娘七人分を食らっているので払うのは正当なのだ。

 

 食いすぎではあるが今回はやけ食いに近かった。

 生徒会との話はまた今度あなたは垂れ流すだろう。

 


 

 十一月一日。

 あなたは最後に現れたサイレンススズカを見て戦慄した。

 登場と共に盛り上がる割れんばかり歓声と裏腹にあなたの脳内は高速でバトルと同じような形相に早変わりする。

 スペシャルウィークがスズカを呼びスズカはチームスピカの元に近付く。

 

「大舞台での活躍拝見させていただきますわ」

「あっこれ持っていってください。ご利益あるかなって」

「えっ?これってダービーのときの……うん。みんな期待してて」

 

 今度はトレーナーがスズカを呼び止め手をかざして二人はハイタッチする。

 普段のあなたなら激写不可避だがあなたにそんな余裕はない。

 

「楽しんできます」

 

 その表情を観察しつつ原因を探る。

 

「今のあいつの強さの秘密はレースを楽しむ力なんだろうな」

 

 その言葉を聞いてあなたはカチッと記録と噛み合った。

 

「私のレースの前もいつも言ってくれました。"楽しんでね"って」

 

 あなたは噛み合った考えを纏めるため過去のレポートを脳内から引きずり出す。それに巻き込まれいくつかの思い出が破損するがあなたは気にしないようにする。

 あなたは自分が組み上げたそれを口には出来なかった。

 もしそうなら、全てを呑み込んだ上でサイレンススズカはあのレースに(のぞ)むのならあなたは止められない。ウマ娘という生き物ならターフの上で死ぬのは本望だろうから。

 

 ゲートが開く。サイレンススズカの動きは前見た時と変わらない。気負いもなにも感じられない。

千メートルを五十五秒四で通過と聞いてもあなたは周りの反応から凄いんだなとしか感じられない。

 あなたの脳内は今、もしかしてなにも知らないで走っているのかという疑念で埋まっている。

 

会場の盛り上がりは最高潮に達しているなかあなたは冷めきっていた。後はあなたの予想が外れることを祈るばかりだ。だがいったい誰に祈ればいいのだろうか。

気力も体力も最高、まだまだ走れる。

ああ素晴らしい。

加速をする。

素晴らしい。

加速を繰り返す。

……。

 

 あなたは過去に疑問に思ったことがある。積みワザ、ビルドアップなどはどこまで積めるのか。おおよそ六段階まで行えることは既に試した。そこであなたは外部からの後押しはどうなるか試した。

具体的にはこうそくいどうを最大まで積んだゼブライカにおいかぜ、おさきにどうぞなどポケモンの速さをアシストするワザ付与するとどうなるか。

結果は更に加速出来た。素晴らしい発見だった。二つのワザの違いはその範囲と思われていたからだ。

そこにあなたは追加で特性でんきエンジンを発動するとどうなるか試した。速度は目に見えた変化はなかったがゼブライカの気分のボルテージが振り切って、ゼブライカは怪我をした。

状態としてはあばれるに近く、完治も早かった。身の丈に合わない速度は身を滅ぼすとあなたはそこで学びを得たのだ。

 

 あの時と同じその兆しがサイレンススズカに重なる。

 違う点はあの時はあなた達も直ぐに対応できるように備えていたこと。そしてサイレンススズカはゼブライカほど頑丈な肉体ではない。

 

 加速をしてさらなる高みのため踏み込む。

 高速の景色。

 あなたはしっかりとサイレンススズカの表情が追えていた。

 そこに痛みや堪える色はない。

 ……予想が外れたかとあなたは下がりきったテンションを上げようとして再三の加速の踏み込みの瞬間を目撃した。

 

 あなたは破棄しようとした考えを纏める。

 原因は加速に肉体が耐えきれなかった。

 負荷ということなら骨、だろう。ここでは鍛えれない要素だ。

 場所は左、踏み込みの足。膝下、足首。

 対応は足を地面に着けず、処置。念の為すごいやつでいこう。

 

 あなたが隣にいるゾロアークに目を向ければ既に踏み込む体勢だ。

 あなたはサイレンススズカの表情を見る。勝利への色は既にない。諦めずゴールに目指すという気がしない。激痛でそれどころではない……のか。

 とにかくあなたはゾロアークにいいと許可する。

 このレースをめちゃくちゃにしよう。

 




先頭のテイオー、スズカのタイム
きのみ

おやアローラ地方の様子が?
もちろんポケモン世界の時間も進む。

ポケモンと一緒に風呂
珍しくもない。ウマ娘世界でもペットを風呂に入れることだってあるのだから。あなたは興奮しないがする人間も一定層いる。
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