〇〇の(ポケモン)トレーナー 作:カナーさん
冗談が過ぎたと下に集まったウマ娘達を眺めながらトレセン学園の木の上でほとぼりが冷めるまで昨日の事を考えているあなたの姿があった。
○
軽めの冗談に真面目に怒られたあなたは懲りずに新たなネタがないか過去の会話を漁っていた。
反応を見るに本気で嫌がっているというわけでもないのでトウカイテイオーも戯れを楽しんでいるのだろう。とはいえ大人気ない。
実際に、あなたは今まで飲み食いされたものたちについては金銭を要求するつもりはない。これからもこのあとも。
心配をされたのでそこまで深刻ではないとあなたなりの主張だった。深刻ではないがお金がないのはやはり困るのでこれからはちゃんとフェアトレードの精神を大事に付き合っていきたい。それでも最大限からかっていく所存である。フェアとはいったい…。
欲を言うならおやつやデザートに目がないチョッピリ残念なお嬢様とか転がっていないだろうか。簀巻きされているとなお良い。
あなたの求める残念具合はともかく、実はちょっと先の未来にはそういう相手はいる。
食欲100倍オグリン!
田舎の王者ウィーク!
船乗り募集中シップ!
私の生き様見てて!スワー!
天っ才!化学者ネスオン!!
『出たな『ですわ』構文!』
わたくしだけ扱い酷くないですか!?
摩訶不思議な電波を受信した。未来からの
上記の食欲と船以外は顔を赤らめてポージングしている姿がありありと見えそうである。
そういう意味では仲良く馴れそうな人種は多いであろう。
けれど、とあなたは頭を傾げる。この電波をあなたの視点と仮定するならそこに彼女がいないのはおかしい。面白い奴は基本離れないし離さない人種のあなた。少なくとも今の交友関係が広がったと考えても最初の友がいない時点で興醒めである。
ソシャゲで最初のガチャで仲間になるレアキャラに強さを度外視で愛着を持つタイプのあなたは、これからも彼女を大事にするつもりだしこのあとも大事にする。
これが過去なら変えられないが未来の話だ。未来なら変えられることを知っているあなたはそれを今一度心に決める。
それはそれとして、様々な髪色と身長が同じ制服らしき物を着用してポージング取るのはやはり見栄えがいい。彼女がいれば完璧だったのだが未来のあなたはなにをしているのだろうか。もしくは彼女はその学校ではないか。
しかし彼女はトレセン学園の中等部に進学していたと言っていた。
レースを走るとも。
名前、顔。まるで型が合ってないようにスルスルと擦り抜け記憶から喪失していく。それは例え五年以上の付き合いのある幼馴染とて例外ではない。
セッシーがその最もたる例だ。この世界来る前にカロス地方で一年以上一緒旅をした彼女の名前をあなたがちゃんと覚えて呼べたのはカロス地方のチャンピオンに勝利した時ぐらいだ。
あなたは彼女を祝うためにとても頑張っていましたね。セッシーの四文字覚えれて、セレナの三文字を覚えるのにそんなに苦労するのはあなたぐらいのものです。
余談。あなたがトレーナーにつけたあだ名は以下の通り
ヒカリ→ピッカー
ジュン→ライバル!
シロナ→チャンピオン→ダメナさん…
メイ→ゾイ!
ハチク→先輩
アヤカ→イヤー
さらなる余談だがあなたはメイちゃんにあだ名をつける説明を行ったときに腕を胸の下に添え、片腕の指を顎にかけ「ははぁ……なるほど」というポージングを取ったところ強い電波を受け、浮かべたのが名がメイパイ。
彼女はあなたよりも背が小さいのでその主張を驚きつつもなるほど、としかと受け止めた。
あなたは最低だ。
幸いにもそれは電波が送ってきた単語に疑問を浮かべ納得しただけだったのであなたが考えたわけではない。それをわかっているのであなたの保護者のサーナイトがペシッとかるくはたくだけで穏便に終わった。
可能性の話だが幼い彼女であれば無知故にそのあだ名を受け入れることは想像に容易い。
強い電波を受け取ったあなたの話はそれだけでは終わらなかった。彼女は人気女優で映画一本の興行収入は更新中。チャンピオンを倒した実績もありファンがいるのも当然の知名度を誇り、非公式ファンクラブの間で呼ばれる彼女の名前はメイッパイ。
もちろんあなたが最初に言い出した。あなたはこれを彼女の口癖であるメイッぱいから持ってきたと辛抱強く広めた。
あなたはなにをしているのだろうか。
ブラボーよくやった!
話を戻そう。先に述べたメイ、セレナは偶然初めてのポケモンを受け取る瞬間と初めてのバトルにあなたは立ち会ったので祝いにボール20個、きずぐすり10個をプレゼントしてその後あなたの奢りでご飯にいった。食べ盛りの子供達なので金額は嵩むが、大食いのポケモンで慣れているあなたの懐は全く痛まなかった。
祝福を彼女達に贈ったが…彼女、トウカイテイオーにあなたはなにも渡せていない。
思ったが行動。
翌朝に彼女の会おうと決意してどうせなら近くでみたいと欲を出して
○
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通所トレセン学園。目下には体操着姿のウマ娘が多数、その中に目当ての人物を探し出せホッと一息を吐き出す。
自分達のルールでは軽く注意されるだけでそれほどお咎めはないのだがここは異世界。
ウマ娘は人間と共存するものと自然の中生きるものと別れているのではなく人間と共存する生き物だった。そこから考えれば生態からそれを取り巻く法も違うのは理だろう。
けれどそれを調べる時間はなかった。なんせ思いついたのが昨日今日だ。
だからトレセン学園に不法侵入して木の上に隠れたあなたの姿がそこにある。
侵入はそれほど難しいものではなかったがトウカイテイオーを探し出すのが難しい。前髪が白いという特徴なのですぐに見つかると思えばウマ娘的にはそれほど珍しい個性でもないようで多数羅列している。
髪色と髪型にとくに感想を抱かない。アデクやゲーチス、フラダリのような人達が普通にいるくらいだ。せいぜいおとなしいなくらいにしか思わない。
そうして見つけた。天真爛漫、周りの明度を明るくするような雰囲気の彼女が友人だろうか無数のウマ娘達と喋っている。
それを瞳に収め、なにもしない。見ることは叶った。なら後はトウカイテイオーが走り抜けるだけだ。バトルのような初めての臨場感や高揚感があるのかはわからない。日頃から走れる環境にあるならその行動自体はポケモンバトルほど新鮮味はない。
けれども
それを取り除くのは簡単なのだけどそのキッカケを奪うことはやはりしない。
期待通りトウカイテイオーはゲートに自分の足で進む。
やはり。
そこはトレーナーと相棒達と
ゲートが開く。
躊躇なくトウカイテイオーは走り出し、走り抜けた。
お忍びで来ているので言葉もものもトウカイテイオーには渡す事はできない。だから今できる自分なりの祝福を送る。
周囲にある葉っぱの一枚を千切り、口に当て調子を確かめる。
サーと風を流れる。この調子ならトウカイテイオーへ届けることができるだろう。
あなたが一目惚れした一押しの曲。
オラシオン。大いなる怒りを鎮めるための曲。
○
レースでの勝利の喜び、負けた悔しさ、挑戦の炎、荒んだ心、寂寥。
学園で討論していた者も、難題に眉を寄せていた者ありとあらゆる者達が等しくその音色に吸い込まれ動きを止める。
学園から喧騒が消える。
まるで時が停まったかのように皆、瞳を閉じ、懐かしむ様に旋律に耳を傾ける。
セミの声のように、故郷の薫りのように、遠い昔、確かに通り過ぎた過去を今一度脚を緩め、振り返る。走り抜けたそれを縋るのは違うだろうけれどそれを大切に思うのはきっと間違いじゃない。
そんな祝詞が演奏者の思いが届く。
…未来。大きな挫折があったとしても自分がどこに走りたいのか見失った時、思い出してほしい。
約二分。鳥肌が立つような美しい音色は自然に溶けていくように消えた。
学園は一時パニックに陥った。
泣き出すもの、音色を探すもの。感謝を伝えるもの。懐かしむもの。様々だったがそこに負の感情はなく、言いようのない感情が胸に座っていた。
○
懐かしい音色に間近に聞いていたあなたも涼むように聞き入っていた。
もう少し浸りたい気持ちを抑え、頭を切り替える。
ウマ娘達の身体能力をなめていたわけではないがあなたの想定より疾く、多く集まっていた。
ピンポイントで把握しているわけでもないようで広範囲に広がっているので擦り抜けるのは容易い。
容易いが追いつかれるのは確定。地力の差が歴然過ぎる。
それでもあなたに焦りの感情はない。
大丈夫かと、あなたの隣に視線を向ければ「ニシシッ」と笑うトウカイテイオーの姿があった。
バッと飛び出して華麗に地面に着地するとそのまま脇目も振らず彼女は走り出す。
しかし誰も追いつけない。距離は離れるばかりでこのままでは見失うというところで彼女は校門の前で追いかけてきたウマ娘達を待つように待機していた。息は正常で汗一つない。
白い筈の赤い前髪の毛先を靡かせ、走っているウマ娘達が自分を見ているとわかると彼女達の前で校門を飛び越えてそのまま走り去って行った。
流石に助走もなしに校門ほどの高さは超えられないのかと疑問に思いながらあなたもその後に続く。
彼女、もといゾロアークが視線を集めてくれたおかげで安心してテレポートできる。
この世界に来て驚いたことの一つ、木が脆い。
ゾロアーク、サーナイト、あなた。それだけでメキメキと枝が軋むのだ。きのみの枝なのかと一瞬疑うほどだった。
この程度ならいあいぎりを使う必要がないと喜んでいいのかわからないメリットを考えつつ、あなたはそのままそこで、ヒウンアイスを味わいながら足を止めていた。
ちなみにこの日、トウカイテイオーは生徒会室に呼び出され色々問い詰められることになる。
トボトボとレースで勝った嬉しさよりも先輩の視線に疲れたトウカイテイオーは一緒に帰る、靡く葦毛を揺らしながら歩くマックイーン。メジロマックイーンに思い掛けずに愚痴を流していた。
「言うだよ。あのウマ娘に本当に心当たりがないのかって。何度も言ったんだよ!知らないって、だってあの綺麗な曲が聞こえた時にはみんなと一緒にいたんだって!…確かに映像見てみたけどボクだったよ。でも…悔しいけどボク、あんなに早くない。エアグルーヴが追いつけないレベルでボクは走れないよ」
「…こってりしぼられましたのね…」
彼女達もテイオーが同一人物であるとは微塵も考えていない。とはいえ体裁もある。なによりあまりに似ていたのだ。よく会うエアグルーヴが毛先の色が違わなければ見分けがつかないほどに。
「あー!!こんな日はハチミーだけどそれだけじゃ駄目だ!みつヒウンアイスとアメをもらわないと…でもちょっと遠いんだよねー」
嘆きながら髪の毛をワシャワシャと掻きむしる。よほど精神的に来たようだ。
チリーン
しなだれていた尻尾その音にピンと逆立つ。
急に立ち止まったテイオーを不審に思い立ち止まり振り返れば視界端からテイオーに向かって小さい球体が投げ込まれる。
そこにいつの間にか眼前に両手をセットしたテイオーがキャッチ。どういうことだと視線を送ればテイオーもまた驚きに目を開いていた。
なにをそんなに驚いているのかとあなたは苦笑しながら二人のウマ娘を見ていた。