奏者と装者 作:我こそ光の殉教者
錬金術においてマクロコスモスとミクロコスモスの照応が基礎である。早い話、見立てだ。
大地を巡るレイラインの起点。それを空に存在する星図と合わせる方法も存在する。大地の、星のエネルギーと天に張り巡らされた空のエネルギーが存在する訳だ。
そして、一人の錬金術師が思いついた。
「星を宇宙に見立てられるのか………そうだ、人を星に見立てよう! そうすりゃ、出来るぜ
前世の記憶がある彼は、先史文明期の未知なる金属と錬金術の知識を全てたった一つ、完全なる生命でも真理の探求でもなく己の欲望のために使うことを決意。完成しても、その頃自分が死んでるかも、とは考えない。
再現できればそれで良いのだ。彼の友たる錬金術師は呆れながらも手伝ってくれた。『想い出』を消費せずエネルギーを手に出来るのなら、それは錬金術の幅を大きく広げるからだ。
「だけど、人体実験を行うのはなあ………」
「机上の空論は所詮紙に描いた理論に過ぎない。なあに、理論上可能なら現実でも可能だと局長の『黄金錬成』が証明してくれたろう」
「………そうかなあ」
「まあ成功率少ないほうが俺としては助かるが」
「ん?今なにか言ったかい?」
「………この技術をドイツあたりに売ろうかな、と」
「何故ドイツ」
「軍服が格好良くなるからな」
為に良くわからぬ理由で事を起こす男に男の親友は頭をかく。
「あ、お兄さん!」
「おお、キャロルちゃん。今日も可愛いね。今君のお父さんと仕事中だから後にしなさい。ほら、飴あげる」
「私も手伝う!」
「ははは。錬金術をもっと学んでから出直してきな」
男の言葉に親友の娘はぷくぅ、と頬を膨らませた。
「何よ!私だって、すぐにでも凄い錬金術師になるんだから!」
「その時は謝ってあげよう」
だが、その時は訪れなかった。
その前に、父が死に、風の噂で彼も殺されたと聞いたからだ。
彼の残した研究資料は全部で4つ。
一つは親友と共に書いていた資料。これはキャロルが手に入れた。
一つは彼が所属していた組織。
一つは彼が渡そうとしていた国。
そして、最後に彼の拠点に残されていた資料。これは後に英雄に憧れる変態の所属する組織の手に渡った。
ツヴァイウィング。
日本で大人気のペアユニット。風鳴翼と天羽奏という二人の美少女の歌と踊りを見るために集まった十万の人の群れ。そんな中に一人の青年が居た。
「はあ、訳わかんねえ。何でこんな人間だらけの場所で完全聖遺物の起動実験なんてやるのかね」
『フォニックゲインが必要だからよ。未だ起動叶わぬ完全聖遺物……起動さえすれば、ノイズに対する対抗策になる』
『とはいえノイズに対抗する力なんて持たれちゃアタシ等の雇い主様の困る訳だゼ。まあアルカ・ノイズに効くのか知らねえけど』
『頑張るでありますお兄ちゃん。ご飯作って待ってるのであります』
「はいはい、がんばりますよっと………」
青年はそう言うと狼を模した仮面を被る。足音が消え、気配が空気に溶けていく。
「さて、地下だったか………」
叶うなら起動前に破壊するのがベスト。ならばライブが始まる前に終わらせる。
「まあ、居るよなあ監視………」
コンコン床を蹴り、地下へと続く扉は見つけたが武装した人間が二人扉の前に立っている。隠してはいるが、彼には解る。
「仕方ねえ………すいませーん」
「ん?何者だ!?」
「いや〜、ちょっと迷子になっちゃいましてね。会場ってどっちに行けば良いんですか?」
仮面をとりヘラヘラした態度で男達に近付く青年。男達は警戒しながらも案内しようと片方の男が片手を上げる。
「反対だ。来た道を戻って……」
「はい、ご苦労さん」
後ろに利き手を回し銃を何時でも抜けるようにしていた方の首を掻っ切る。利き手を通路の奥を指すために使っていた手を慌てて戻そうとした男は心臓を一突き。首を切られながらも銃を抜こうとした男は再び首を切られ、ゴトリと頭蓋が落ちた。
そのまま鉄の扉を切り裂くと中に入る。監視カメラの位置を確認し、ため息を吐くと駆け出した。
「弦十郎君、侵入者よ」
「なんだと!?」
通路をかけながら足音の反響を聞き取りながらかける。道中武装した人間に出くわすが全て殺した。と……
「っ!」
キィン!と鉄と鉄がぶつかる音が響く。高速で青年に迫ってきた男が振るった小太刀と青年の持つナイフがぶつかり合った音だ。
「………緒川慎次か」
「何者ですか、貴方は……」
相対する襲撃者と戦士。奇しくも戦い方の似た速度に優れた短剣使い。故に一度の攻防で、互いの力もある程度見て取れる。
緒川慎次と呼ばれた男は己の名を知る男に最大限警戒する。ここに至るまで彼が殺した同僚。決して有象無象ではないものの、緒川はそんな彼等の中でも頭一つどころか体2つ3つは上を行く。彼等を皆殺しに出来るからと言って、緒川に勝てる者はそうはいない。
目の前の相手は、しかし気を抜けば此方が殺される。
「応えると思ってるのか?風鳴弦十郎が動くのはこちらとしても避けたいのでね……悪いが質問には答えられねえよ」
「それは嘘ですね」
男の狙いが
「しっ!」
「ちぃ!」
キン!カキン!キィン!と連続して金属音が響く。
最早常人の目に負えぬ攻防を、正確に記せる人間などおるまい。ただ2つの影が空間を揺らげたかと思えば空中で何度も火花が散る光景だけ見える。
「日本のマーシャールアーツって奴かあ?やだねぇ、忍者って。バッ○マンに滅ぼされたんじゃないのかよ」
「生憎と、僕の里は閉鎖的でして……ね!」
飛んでくる手裏剣を弾き、一歩の踏み込みで彼我の距離をゼロにし掌底を叩き込む。緒川の体が内側から弾けたかと思えば丸太に変わる。
「妙な技を使いますね」
「お互い様だろ。そりゃ………え、てかマジでどうなってんの?」
「それは秘密です」
「そうかよ」
再び響く金属音。と、何処からか歌も聞こえてきた。実験が始まったのだろう。早いとこケリをつけないとならない。
【創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌く流れ星】
「っ!?」
紡がれた謎の言語。否、言葉はわかる。しかし突如として紡がれた詠唱らしきものに緒川は警戒する。
歌、とは違う。しかし口より零れ出た言葉が力を与える技術があると、彼は知っていた。ならば、妨害するのが最善手!
だが、最早遅い。もとより人並み外れていた速度は跳ね上がり、緒川は防戦一方になる。
分身には流石に驚いていたが、放つ短剣や銃弾は影すら触れることが出来はしない。
気配が変わる。飢えた狼を前にしたかの様な威圧感。しかし直ぐに消えた。勘違い?断じて否だ。気配が消えた。目の前にいる事実さえ疑う程に。
「っ!!」
「うっわ……これも防ぐかよ。勘弁してほしいぜ」
防いだなどと、買いかぶりもいいところだ。
受け止めた小太刀は砕け、腕は痺れる。純粋な力とは異なる、かと言って技術とも違う未知。
「くっ!」
新たな武器を取り出し構える。だが、向こうの方が早い。掌が眼前に迫る。この速度、頭を壁に叩きつけ殺される!
しかし、そうはならなかった──
「ぐあ!?」
ふっ飛ばされ、地面を転がる。横合いから放たれた空気の砲弾。振り向けば拳を振り抜いた姿の益荒男。おい待て巫山戯んな。
「どんな力、してやがる」
振るった拳は空気を動かす。当たり前の道理だ。だが、こんな離れた距離で人を吹き飛ばすほどの威力を残すなど………これでただの人間なのだから自分の立つ瀬がまるでない。
「司令……!」
「無事か、緒川……」
「ええ……危ないところでしたか」
風鳴弦十郎。知っている。
日本のマーシャールアーツを極めた一族、日の本の影の支配者風鳴家の中でも戦闘に秀でた
曰く、拳一つで戦車を破壊した。
曰く、その身一つで大隊を圧倒した。
曰く、一度刀を握ればその力、鬼神の如く。
そんな噂の耐えない風鳴訃堂とほぼ同等、或いは老いた彼よりも純粋な戦闘力では上回るとされている現代を生きる伝説。
「随分と部下をやってくれた。悪いが、加減はできぬかもしれん」
ズン!と地下が揺れる程の踏み込み。化物じみた脚力はその巨体を砲弾と化す。
防ぐ?不可能。かわす?狭くて無理。従って、普通に食らう。いくら強化措置を受けてようと、己は凡俗。
「があ!!」
防御は意味をなさず吹き飛ばされる。寧ろ少し及び腰になっていたのが幸いした。1秒でも踏ん張ろうとしてしまっていたら、粉々に吹き飛んでいた。
「か、は………!」
肺の中の空気を全て吐き出させられ、飛びそうになる意識を無理やり繋ぎ止める。全く持って理不尽だ。生まれながらの絶対強者。小賢しく、文字通り命がけの改造を施してなお並び立てぬ存在がここに居る。
鍛錬だけで、人を外れた者の強さに迫るどころか追い越す人の可能性。相対するのが嫌になる。己の凡俗さと無能さを嫌でも叩きつけられる。
続く二撃目をいなす。突進よりも寧ろ蹴りや拳の方が面積が少なくかわしやすい。逆に言えば、逃げることは不可能。距離を取ろうものなら二度目の突進。吹けば飛ぶような凡夫にあの破壊の一撃を何度も防げる道理などは存在しない。
よし、逃げるか。
冗談じゃねえ、やってられっか。変な組織に誘拐されて?6年前の事件でそっから逃げてもまた妙な組織に捕まって、懐かれた三人娘と脱走しても今もこうして裏に関わる。辞めてえわ、こんな仕事。
また逃げるか。今度はもっと人道的な組織を探そう。
そうと決まれば後は隙を伺う。と………
「っ!?」
常人より優れた聴覚が、破壊音を捉える。衝撃が来るまで、後……
「ぬっ!?逃さぬ!」
背を見せる男に追撃しようとした弦十郎。だが、その前に通路が大きく揺れひび割れ、崩れ落ちた。
「
そう、それだけ。あんな化物と戦って、生き残れた理由はたったそれだけ。強い?馬鹿言うな。だったら勝ってるはずだろう。弱いから逃げる羽目になって、弱いから偶然爆発でも起きなきゃ逃げられなかった。
「…………んん?」
だが、不運はまだ続いているらしい。
地上に出た男を待ち構えていたのは無数の異形達。辺りには灰が待っている。
「おいおいこのタイミングでノイズかよ……」
随分と、都合の良い。いや、悪いのか?
まあ、ただのノイズなら切り抜けるのに問題はない。ナイフを振るい、切り刻む。本来、触れる事すら叶わぬ次元を隔て存在する殺戮兵器。だが、
「何者だ!?」
「あ?ああ……シンフォギア装者か………」
人を触れただけで殺す天災がウジャウジャと発生している地獄のような光景の中、響く女の声。何故こんな場所にと思えば資料で見たノイズに対抗する手段を得た少女の片割れ。
男と違い、適合すれば死ぬ可能性のある手術なんてしなくていいお手軽でいて、自分達と匹敵する戦闘力を得る古代の秘術。
羨ましいったらありゃしない。選ばれた人間ってのは、ああ言うのを言うのだろう。もう片方は死の危険すらある薬害の過剰投与に意思の強さで打ち勝ったとか……。
その片割れはボロボロで、死にかけの少女に呼びかけている。
「うわ!」
と、ノイズが襲ってくる。空気の読めない怪物達だ。
「誰でも良い。手伝ってください!」
「いや、俺は………って、言ってられねえか」
大型のノイズが吐き散らす粘液がノイズに変わる。このまま放っておいても自壊に時間がかかる。見たところ数も多く、せめて大型を倒さなくては余計時間がかかりそうだ。もとより彼は短期決戦こそを主軸にする。時間をかける前に、手早く終わらせる。
迫りくる飛行型のノイズ。ドリルのように身をひねり突っ込んでくるそれらは、シンフォギア装者なら吹き飛ばされる程度で住むのだろうが凡人たる自分では貫かれて死ぬ。
故に当たらぬよう必死に回避し2体の芋虫のような四足の大型の片割れに触れる。
「──
大型ノイズが狂ったように震え全身からノイズを生む粘液を放つ。しかしそれらはノイズに変わることなく、やがて大型ノイズは爆ぜて、その肉片が周囲のノイズを吹き飛ばす。
「……ぐ、ぶ!」
限界が近い。男は此方を驚愕した目で見てくる少女達を後に、その場から立ち去った。