不惜懇願の後書きで言ったその代わりというのは2話だすこと?no
詳しくは後書きで
訓練が開始され、そこから先は確かに厳しいものだった。
「あっ、また折れた‼︎」
「記録は17ですね。ではもう一回」
谷口鈴:現最高記録17本。込めた魔力が多すぎて脆い器が砕けた。
「谷口さんの魔力の制御能力は誰よりも高い。後は分割と基礎体力ですかね」
「分割?」
「身体強化と武器の強化を分けること。今は武器の方が多い状態です。これも意識の問題ですね…大丈夫、成長できてますよ、何せ最初の一回目と違い、17回切っても息切れしてないんですから」
「あ…分かりました‼︎」
「ただ、親友の中村さんの方が記録はいいですが」
「ガーン‼︎ エリリンに裏切られたぁ〜」
「えぇ⁉︎なんでそうなるのぉ〜⁉︎」
中村恵里:現最高記録31本。
「中村さんの場合は魔力の使い方が上手い。やりくり上手というより合わせるのが上手い」
「合わせる…ですか?」
「えぇ。周りの人達を見て、その中で自分に合ったやり方を模倣し、時にアレンジして合わせていく。観察眼が鋭い証拠です」
「……あ、ありがとう、ございます」
「あー確かにエリリン人間観察が趣味だって言ってたしね〜」
「…いつそんな事言ったのよ〜」
「ともかく、2人は今を維持しつつ目標のため研鑽を」
仲睦まじい親友同士のやりとりを見つつ、七海は次の生徒達を見る。
「クソッ脆すぎだろこの大鉈‼︎」
坂上龍太郎:現最高記録9本。込める魔力が少ない事と力任せに振った事で大鉈はすぐ壊れる。ちなみに永山重吾も似たようなもので記録は10本である。
「俺の方が1回上だな!」
「んな⁉︎こんちくしょうが‼︎」
「ハイ、ストップ。2人はまずそれをやめましょう」
言い争いがヒートアップする前に、七海は止める。
「10だろうが9だろうが君たちの記録が最下位とブービーなのは変わりませんし、差もあまりないです。低い者同士で競うのは虚しいですよ」
龍太郎と永山は「「じゃあどうすんだよ」」と目線で語り、そして言葉にも出してきた。七海は2人を観察して答えた。
「まず、2人とも武器の扱いは正直厳しい。小難しい事より拳での格闘戦が似合ってます。しかし、今のそれはただ殴りあうだけのケンカです。プロボクサーや格闘家はそこに技術をつけてくる。永山君は柔道部なのですからわかるのでは?これ以上強くなるなら技術は絶対必須です」
「「…………」」
2人共黙る。事実だからしょうがない。
「見習うより、低い者同士で競うより、もっと大切な事は、今君たちがどうなりたいかです。他人と競うのはまず自分を超えてから…自分の内面に触れ、気持ちを落ち着けてください。そして意識をし、身体に乗せる感じで。……拳は何も考えないし感じません。結局感じ考えるのは、君たちの脳なんですから」
言われて2人はコクリと頷く。少しだけ薪の前で集中して再び斬りだす。スパッと先程よりよく切れていた。
*
「回復役の1番重要な事はなんだと思いますか?」
「えと、みんなの事を守れるようにしっかりと傷を治してあげる事ですか?」
「先生の言うような感じだと…魔力を温存しつつちゃんと回復に徹するでしょうか?」
白崎香織:現最高記録22本。辻綾子:現最高記録16本。回復担当の2人の元に来て七海は質問をし、それに香織と辻は答えたが「ハズレです」と七海は答えた。
「それは、君たちが死なない事です。君たちが死んだら誰が傷を治しますか?」
「「‼︎」」
わずかな怪我も長期戦になればどうなるかわからない。そんな時に回復できる者がいるだけで結果は大きく変わる。
「君たちが狙われても身を守るくらいの能力は必要です。そしてそれを行なっても回復ができる余裕がある事も大切です。記録が伸びないんですね?まだ始めたばかり、焦りは禁物です。2人共安定はしてますが時々その焦りのせいで魔力が上手く使えてない。…特に白崎さん、君が焦る理由は分かりますが、それは今は抑えて、今やるべき事に集中してください。そうすれば記録は伸びます。辻さんは白崎さんと自分の差にコンプレックスがあるようですね」
「ど、どうしてそれを⁉︎」
「白崎さんの記録が大きくなるたびにそちらを見ていたのと、そのたびに表情が暗くなってましたからね。あなたも大切な回復担当なんです。誰かと比べてしまうのは分かりますが、自分の役割を忘れずに自分に集中してください」
「…はい」
「うぅ、なんかごめんなさい」
「あ、謝らないで。白崎さんに及ばなくなても、私には私の役目がある…そうですよね、七海先生!」
七海が頷くと辻は「よしっ」と気合を入れて再開し、それに触発されて香織も再開した。
他の者達にも悩みを聞きつつアドバイスをしていく。そして最後にアドバイスをする人物達は、
「41‼︎…42…っクソ」
天之河光輝:現最高記録42本。魔力はある程度使っても彼の場合は高速で魔力を回復する技能を持っている。だから他の者と比べると多少の失敗はあったとしてもドンドン次に進める。数をこなして記録を伸ばしてきた。だが、それもそこまでだ。42を超える事はできない。
(技能のおかげでどうにかなっていますが、これ以上は限界ですね。それと…)
チラリと少し離れた位置にいる少女、雫を見ると薪を勢いよく斬っている。額に汗があるがまだ余裕だ。そんな彼女の記録は、
「っ⁉︎どうして」
八重樫雫:現最高記録13本。全員の中で3番目に低い記録だ。
「八重樫さん、天之河君、1回止めてください」
止められた2人は「「まだいけます」」と意地を張るが、有無を言わせない表情で「止めてください」と言う七海を見て止める。
「まず、天之河君ですが技量は問題なし。数をこなして記録を伸ばしていますが……どうしましたか?」
説明をしようとしていたが、光輝が何か言いたげな表情をしていたのを見て七海は聞く。
「先生、こんな事、本当に意味あるんですか⁉︎俺は、これ以上強くなるならもっとちゃんとした訓練をするべきで、迷宮に行って実戦もするべきだと思います‼︎その方がよっぽど強くなれる‼︎」
その叫びに皆手を止める。すると七海は頭を抱える。
「なるほど、それが君の伸びない原因ですね」
「なにを…」
「伸びないのを他人のせいにしている。そして目の前の事に集中できてない。トライ数で記録を増やして来ても、それがあるせいで先に進めてない」
「だから、意味はあるかって俺は聞いて……」
「いま、君が必要なのは見ることです。目を背けてはいけない。そして強くなっている自分に気付く事です」
言われた事を光輝は理解できない。目を背けるなもそうだが、強くなっている自分というところにもだ。
「君は、他の方々よりも経験を積む事ができる。だから記録が伸びた。それは君の実力が上がっている証拠です。最初から君は42本も斬れていましたか?」
「…それは」
何度もやってその都度自分の中でこうじゃないかと考え、斬った。それは間違いなく意識して魔力を使った証拠だ。
「必然的に君は最前線で戦う事になる。しかし、強くなる事に固執しすぎです。そのせいで現状の自分もわかってない」
「そんな事はない‼︎俺は、皆を守る勇者として…」
「勇者じゃなければ、誰も守らないという事ですか?」
「違います‼︎どうして揚げ足を取るんですか⁉︎」
「揚げ足を取っているわけではないんですがね」
七海はもし光輝が勇者でなかったらどうしただろうかという疑問はあるにはあった。だがそれでも同様な行動をするであろう事は、ここまで関わって来た七海もわかる。だからこそ気づくように指示する。
「誰かを守るなら、言い訳をやめなさい」
「俺は、言い訳なんて…」
なおも認めない光輝に七海は少し困るが、それはすぐに終わる。わからないなら、彼が望むものを与え己が成長していると知ってもらうだけだ。
「まぁ、今は続けてください。そのうちわかりますし、君の望むような訓練にもなりますよ」
「…………わかり、ました」
光輝は戻り、鬱憤を薪に当たろうとしたが、その前に七海は告げる。
「もう一度言いますが、君の能力は他の人より高く、そして強い。あとは本当の意味でそれを自覚し、更なる開花をさせるだけです」
「………」
褒められるのは光輝にとってはいつものことであり、当然の事だ。だが、七海の言い方は褒めている気はしないのがわかる。もちろん七海は誉めてないが成長は期待している。その為に必要なのは挫折だとも。
(彼はおおよそ、成長の過程にあるあきらめやその苦しみを味わってこなかったのでしょうね)
ならそれをあえて与えるのが自分の仕事だと七海は思いつつ、今度は雫のアドバイスに入る。
「次に八重樫さん、あなたについてですが」
「はい」
全員の中で下から3番目。永山と龍太郎は両者とも性格面が下位の原因だが彼女は違う。それは誰が言わなくてもわかる。だからそれが知りたい。雫はそう思い七海の言葉を待つ。
「やめておきなさい」
だからこの全否定は予想もしていなかった。
「そ、それって成長できないって事ですか?」
先に光輝にアドバイスをしたのは幸運だったろう。今彼が近くで聞いていたら、最悪飛びかかる勢いで七海にキレていた。
「ん、あぁ言葉足らずでしたね。さっきからしているやり方をやめなさいと言っています」
「それは、他の鍛錬にするって事ですか?」
「いえ違います。あなた、さっきから斬る時に剣術の応用を使っているでしょう?」
「!」
七海の言う通りだった。彼女は集中するのにも良いと考え、自身の剣術を取り入れて斬っていた。実際にその方が楽に斬れてもいた……途中までは。ある程度斬っていると大鉈が壊れる、もしくは斬りきれなくなる。
「なかなか皆さんの面談ができる状況が作れないなか、最初に行った場所なのでよく覚えてますよ。素晴らしく、良い剣術だと思います。しかし、今それをする場面ですか?」
「え?」
「君が今しているのは訓練ですが薪割りには変わりません。そこに力を入れすぎている。ようは本気になりすぎという事です」
剣術を使う際の集中力はなんであれ高い。だがそれを続けると消耗も激しい。
「剣術を使用しているという事は、魔力の安定した使用の意識の低下にもつながる。もっと軽く考えてください。それこそ素振りの練習くらいに。あとは魔力を使用している意識です。これも軽く考えた方が君には合ってる」
「軽く、考える」
「ええ。剣術を戦いに加えるのは、ちゃんとした魔力の使用ができてからでいいです」
「……………」
もう心配ないなと思い、七海は次の訓練の準備の為、近くにいた騎士に声をかけた。勢いがあるが軽い音が響いていた。
*
「つ、疲れたぁ」
大の字で地面に寝転び、息を切らせ鈴は言う。
「でも、なんかコツ…みたいなのはわかってきたぜ」
「…龍太郎はこの訓練に納得してるのか?」
胡座をかいて鈴に言っていた龍太郎に、光輝は不満を隠すこともせずに顔に出して聞く。
「……まぁ、ほんとに強くなれんのかって疑問は正直ある。けど、七海先生の指示のおかげで記録も伸びてきたし」
「それは、薪の切り方だろ?」
「俺からしたら、未だ1位なのにそう言うのはちょっと嫌味に聞こえるんだが」
「あ、いや、そんなつもりじゃ」
「冗談だ」と龍太郎は笑って言う。
「けど、強くなりてぇって思いの香織の言葉を蔑ろにするような人なら、こんなにも丁寧に教えないと思うぜ」
「それはって…その香織は?」
光輝はキョロキョロと探してみると、彼女は薪の前でじっと佇んでいた。
「香織?」
「…………えた」
「え?」
「見えたの。一瞬だけど、見えた‼︎私も魔力の流れが‼︎」
それに皆驚く。
「ほ、本当に⁉︎」
「気のせいとかじゃないのか⁉︎」
「ね、カオリン、どうだったの⁉︎どうやって見えたの⁉︎」
「私も知りたい‼︎」
一斉に詰め寄られて香織はパニック状態だ。それを静かにさせたのは七海のパンと手を叩いた音だった。
「一斉に詰め寄ると迷惑でしょう。落ち着いてください。………白崎さん、確かなんですね?」
「あ、はい。最後に切った時、魔力を流しすぎて鉈が壊れた時に。最初は破片かと思ったんですけどなんか違って、光ってると言うか破片の周りに漂ってるような…そんな感じに見えて」
「見え出してきているようですね。確かあなたが魔力の込めすぎで壊れたのはこれが初ですね」
「はい。最後に1発‼︎って勢いでやっちゃって」
今まで1番の強い魔力を瞬間的に送った事で研ぎ澄まされたのだろう。
「偶然ですがその時に覚醒したんでしょうね。ではその感覚を思い出して、あの木人形を見てください」
香織はジッと見る。そして、
「見えます。ちょっと薄いけど靄みたいのがあれから」
香織が指を向けた木人形は、七海と同じく、正解だった。
「薄いのは時間が経っているからと、まだ使いこなせていないでからしょう。………おめでとうございます」
それは、初めて聞いた七海の称賛。そして1歩前に進んだ喜びが香織にあった。だが、
「では忘れないうちに次の訓練に行きましょう」
「「「「はい?」」」」
正直皆バテている。だからこれで終了と思っていた者もいた。騎士の人達が武器を持って来た。それを全員に渡し、次に円を描くが先程七海が描いたものより遥かに広い。
「ではこれより、皆さん全員で私と戦ってもらいます。ルールは特定の時間…今回は3分としましょう。その時間、円内から出ない。尻餅、背をついたら失格です」
「ま、まってくださいせ…」
何か言おうとする光輝に七海の攻撃が繰り出された。どうにか聖剣でその拳を防ぐが膝をつく。
「ふむ、膝をついてもアウトにすればよかったでしょうか?」
「そうじゃなくて‼︎皆疲れているのにいきなりこれはないでしょう⁉︎」
七海は時計に触れてタイマーを一旦止める。
「何を言ってるんですか?敵が万全の状態の自分達といつでも戦ってくれると思ってるんですか?…そもそもこういった訓練を望んでいたのは、君のはずですが?」
「だからって」
「この訓練は内容4の戦闘能力向上にあたります。いかに落ちた戦闘力の中で強敵と相対した時、残った魔力と体力を駆使して生き残るかの訓練です。安心してください。手加減はしますし、時間以内に全員脱落しなければいいだけです」
そこから先は有無を言わせず攻めてきた。善戦したのは先程の防御をできた光輝と、この訓練中魔力が見えるようになった香織、そして奇襲をしながら攻撃しヒット&アウェイで攻めた遠藤。だが残りの者は疲れと七海の勢いに負け、時間以内にやられた。そして善戦したと言っても香織は回復に徹した。残った魔力を効率よく使い最低限の動きができるようにだ。だから狙われた瞬間に脱落した。
「2分5秒……まぁ、最初にしては上出来ですよ。失敗でもね。今後成長を見てこの時間も伸ばしていきます。今日の訓練は終了です」
皆、ようやく終わりを迎えてほっとしたが、これが毎回来るのかと戦々恐々とする。ちゃんと魔力を使うことができなければ七海と戦う時にはヘトヘト。かと言って本気を出さないで薪割りをしていればそれは魔力の流れが見える七海にすぐバレる。今日しっかりと皆にアドバイスをしながら見ていた七海にはウソはつけない。
「さて、今日1日の訓練をして嫌だと思ったら来なくても構いません。当然迷宮へはいけませんが」
七海としては脱落してほしい気持ちの方が大きい。だが、
「……先生、さっきの意味はあるかって言葉は撤回します」
光輝はどうにか立ち上がり七海に言う。
「癪ですけど、確かにこの訓練で香織が魔力の視認ができるようになった。ステータスプレートにも魔力感知が追加されてましたしね」
香織のステータスプレートに確かに新たに追加されていた。それは少なくとも訓練に意味はあった証拠だ。
「でも、これで強くなれるかどうかを俺はまだ認めてない」
「では、やめますか?」
「違います。あなたを倒して、認めさせる。その為に続けます」
もしこれがベヒモスのように強い魔物と戦っていたら、万全の状態でない時に強敵と戦う事になったら、そしてその時逃げれなければ、戦うしかないなら、限界を越えるしかない。そうすればこの分からず屋も認めると光輝は考えて続ける事にした。
「私も、続けます。せっかく見えるんですから、七海先生くらいは見えるようにしたいです。意味がわかったならなおさら」
香織は魔力感知は得たが、まだ極めていない為かいつでも見れない。だが使いこなせれば、あの奈落でもしハジメが生きているなら、錬成を使わないはずがない。その残穢を追えば会えるかもしれない。そう思って続ける事を決める。
「俺も、やるぜ先生。ようやく修行っぽくなって来たんだからよ」
龍太郎は越えるべきものがわかり、隣で仰向けに倒れていた永山も同意して手を高く上げる。
「私は、先生の事を信頼してるので」
雫は自分の力不足を指摘してくれた事と、親友の思いを汲んでくれた事で七海に信頼を向けていた。だから、この人の教えを聞いていればもう何も失わないようにしながら、大切な人を助けられると考えた。
他の者も同様だった。だが、もし今日香織が魔力感知を得なければ拒否していたものもいただろう。その点を喜ぶことができない七海だった。
*
新たな訓練開始から2週間が経った。週1日休みを与えられ、その間鍛錬はしない約束をしたので、その時間を自己学習に充てた者がさらに力を伸ばしていく。
「おっしゃあ‼︎50‼︎大台に乗ったぜ‼︎」
「ふふん、私は69だけどねー」
坂本龍太郎:現最高記録50本。谷口鈴:現最高記録69本。
「あなた達、先生に言われた事忘れたの?他人の記録より自分に集中‼︎」
八重樫雫:現最高記録94本。
「だって、前まで下から3番のシズシズが今じゃ上から2番目だよ。おまけに魔力感知〔+視認〕も速攻で得たし、意識しない方がおかしいでしょ」
「それを言うなら香織はどうなるのよ」
「え、なに?」
ズパンと薪を切った。その様子を全員が呆然と見る。白崎香織:現最高記録109本、訓練クリア済み。
「確かに、ものすごい勢いで記録伸ばしてたからね」
恵里が苦笑して言う。3日目で倍にし、4日目休みと言われていたが無断で訓練して七海に怒られていたが70本をその時点で超えていた。七海曰く「なにが彼女をああまでさせるのか」だそうだ。そして6日目で100を更新した。が、彼女はそれに不満があった。100本いける喜びで魔力制御が狂い100本目を切った直後に大鉈が砕けたのだ。しかも翌日もう一度やってもできず、いつでも100本いけるわけでもなかったので以降も続け、そして今に至る。
「これが愛の成せる技ってやつかな……南雲君め。死んでたらエリリン、降霊術よろしく‼︎」
「鈴、デリカシーがないよ!それに私は降霊術は…」
天職が降霊術士にもかかわらず中村恵里はいまだにそれができないでいた。七海にも相談したが気持ちの問題ではないかと言われる。曰く、本人が力を否定しているからだとの事だ。
「…ごめんエリリン」
「あ、私もできなくて…」
「気にする必要はないわ。先生との模擬戦では的確な魔法をしてくれてるし、記録も今だいぶ伸びたし」
中村恵里:現最高記録89本。
「うんそうだけど、記録は伸びて嬉しいけど」
「けど、なに?」
「七海先生、魔耐0なんだよね?」
「「「あぁ〜」」」
先日見たときも確かに0だった。最初は人に魔法を撃つのを躊躇っていたが「どうせ今の君達程度の攻撃なら対処できるので」と七海が言って、それを受けて光輝が牽制のつもりで魔法を放ったが、それを大鉈で斬って防いだ。以降皆攻撃したり炎の壁にして進行を防ごうとしても、かわしたり、防いだり、ひどい時はなにそれ関係ないと言わんばかりに七海は突っ込んでくる。その姿はもはや恐怖である。
「体力と耐性が高すぎるから並大抵の魔法は効かないってメルド団長は言ってたけど…」
「相当だよね。実はエリリンの降霊術で復活してるから痛み感じませんって言われても納得できるよ」
「だからなんでそこで私を出すの、って言いたいけど、気持ちはわかるなぁ」
「光輝くんも、流石にあれには呆然としちゃって2日目はすぐに倒されてたからね」
「あぁ、だからあんなに躍起になってるのね」
彼女達が見ると、光輝はマジ顔で大鉈を振るう。が、すぐに壊れる。天之河光輝:現最高記録46本。現在最下位でしかも今日はまだ14本ほどしか切っていない。
「見てられないわね」
これ以上やっても記録は伸びない。だから雫は落ち着くように何度も声をかけていた。本来なら七海の役目だが今日は来ていない。
「雫は気にならないのか!七海先生がまだ来てないんだぞ!あれだけ俺たちに文句を言っておきながら遅刻なんて…」
「七海先生にも事情があるのよ」
「事情って…」
なんだと言う前にメルドが近づいて静止した。その顔は困惑している。
「おい、まさかあいつなにも告げてないのか?本当に?」
皆首を傾げる。メルドは「俺に伝達したのは俺が伝えろってことか」とボヤいている。
「あいつは今日王国の魔法師達に講義をしている」
「講義?」
「あいつの言う魔力の視認で流れや今までわかってなかった魔力での身体強化理由などがわかったんだ。それを知れば軍の強化につながる可能性もあるからな」
「そういうことなら言ってくれたら…」
「お前達を守る為だろう」
光輝の不満にメルドは語りかける。
「正直、最初はその講義は勇者にさせるべきって意見があった。もちろんちゃんと成長してからな。だがあいつは生徒が政治利用されることを拒んだ。そしてお前達に言えば確実に誰かを使っていただろう」
「…そんなことしなくても、俺は勇者なんですから、そのくらい」
「あいつの事が気に入らないのかもしれないが、あいつはあいつでお前達を大切にしている。それはわかってやれ」
過ごして来た期間は短いが、メルドは七海のことをある程度理解できていた。
「さぁ、続けてくれ。今日の模擬戦は俺含めた騎士達だ」
「メルドさんがですか?」
「ステータスはすでに上だが舐めてかかるなよ」
その言葉はこの後理解した。確かに七海より楽ではあるが、疲労しているのは事実。歴戦の騎士が相手になるので、倒すのに時間が掛かった。
「ふぅ、随分強くなったな!これも建人殿の教えのおかげか!」
「こちらの動きと魔法の使用の瞬間を読まれるのは厄介ですね」
騎士達の評価を聞いて、確実に強くなった自分達に少し自信が付き出していた。ひとりを除いて。
「………どうして」
天之河光輝:現最高記録49本。最下位にして現状100本に到達できてない3人の内のひとり。だが残りの2人はあと少しだ。全員が魔力感知を手にしたわけでもない。それでも感覚ができて記録を伸ばしてきている。それなのに魔力感知をもって〔+視認〕の習得も、50本の大台にもたどり着くこともできていない。それはプライドの高い光輝にとって許せない事だ。
「すいません、今日は」
「構わん。おまえも大変だな」
講義を終えた七海が様子を見に来たのを見て、光輝は七海に提案を出した。
「七海先生、俺は迷宮での訓練をさせてください」
「ちょっと光輝、それは」
「雫は黙ってくれ。先生、確かに皆の能力向上はできた。それは認めます。けど俺がこれ以上伸びないのはこの訓練が俺に合っていないからだ。だから、俺には俺に合った訓練をさせてください‼︎」
「ダメです」
即答されギリっと腕に力が入る。だが七海は続きは言わせず、さらに告げた。
「……できないのを他人のせいにしている状態ではできない。それに、君はまだ気付いてない。これ以上を求めるならどうすればいいかなど、答えが近くにあるのにしようとしていない。あなたのプライドがそれをさせてない」
「なにを、言って‼︎」
「これ以上は無駄ですよ。そのくらいは、君が気づくべきです」
そうして七海は去った。
*
「俺に、なにが足りないっていうんだ」
訓練所に内緒で来た光輝は七海に言われた事を思い返す。
皆の事を見ていない、自分しか見ていない。否定したいが七海はその言葉を聞く気がない。だからもう自分でどうにかする。光輝は己のプライドの高さ故にある事に気づいてない。
荷物を用意して『こうなれば』と移動をする事にした。だが、
「なにしてるのよ」
雫がいつの間にか立っていた。
「当ててあげましょうか?七海先生の言いつけを破って迷宮に行く気でしょ?教会の人達に相談すれば多分うまくいくだろうし」
「わかってるならどいて…」
雫のアーティファクトを向けられる。
「いい加減にしなさい‼︎あんたいつまで自分しか見ないの‼︎七海先生が何度も答えを言ってるのに‼︎」
「なっ、君までそんな…」
「いい、今のあんたは私から見たらただ意地を張ってる子供よ!どうにかしようと自分で勝手にして、相談もしない。これが周りを見てないって事‼︎」
「だからどういう」
「ちゃんと言えばいいだけよ!できている人にコツを教えてくれって!みんなできた人にそうして聞いてきた。なのにあんたはどうなの‼︎」
そう、七海の予想以上に伸びが早いのは彼らの才能だが、それができたのはお互いを補う努力と見聞を広めた結果だ。だが光輝は自分は勇者だからという根拠のない自信とプライドがそれをさせなかった。
「今ならあんたを簡単に倒せるわ。知ってるでしょう?魔力感知〔+視認(上)〕…七海先生ほどではないけど今のあんたくらいなら、魔力で強化した身体がどう動くくらいはわかるわ」
雫に備わった新たな技能はまだ七海に及ばないが、それでも光輝を相手取るには充分なレベルになっている。
「し、雫」
「今回あんたにこれを言いにきたのはもう見てられないからよ。そんなんでも勇者なんだから、そんなあなたがその調子じゃ、皆もその内不安になるのよ」
光輝は黙っていた。なにも言えなかった。幼馴染にここまで罵倒されるとは思わなかったのだろう。
「本当は訓練時以外で訓練する事は先生が禁じてるけど、これ以上はもう我慢できないからコツだけ教えるわ。来なさい」
戸惑っている光輝に一閃が掛かった。光輝はどうにか避ける。
「よく見て、魔力は常に流れてる。それをどこに効率的に廻してるか!」
ギリギリの所を避け「やめろ」と静止を呼びかけても、それでも攻撃をやめない。そしてついに追い詰められた。斬撃の動きがスローのようになる。刃は峰でない。
死。それが光輝を覚醒させる。
「⁉︎」
ガキンと金属音が鳴る。気付いた雫は後ろに飛んで下がる。
「雫、もう…」
「やめね」
いきなり刃を下ろして雫は言う。
「できたじゃない」
無我夢中だった。だが死が迫って来た瞬間、着ていた防具に魔力を込め、さらに剣撃を止める為身体強化を目に集中させた。
「雫、最初から」
「言っとくけど、その癖は早く直しなさい」
雫は気付いている。光輝の根本的な部分が直ってないと。だからそう告げるが、今の光輝は幼馴染が自分の為に頑張ってくれた事への感謝で染まっていた。
「わかってる。せっかく雫がここまでしてくれたんだ、無駄にはしない。明日必ず100本に到達する」
「はぁ、いいから早く戻るわよ。こんな所を七海先生に見られたら」
「どうするつもりですか」
「「あ」」
1時間ほど説教を受けた。
ちなみに
書きませんでしたが生徒たちはメルドの通常の基礎訓練もしておりその後で七海の修行をしてます
そんなフラフラで疲弊したところにくる
超手加減してるとはいえエグい
ちなみに2
魔力感知:自身他人ともに魔力視認は不可。残穢、超集中すれば見える
〔+視認〕:自身の魔力の流れは見える他人はかなり集中が必要。残穢、見えるが誰のか特定不可
〔+視認(上)〕:自身他者の魔力の流れが見える。残穢は誰のか特定不可
そして(極):自身他者の魔力の流れをはっきり確認可能。残穢は個人特定可能
ちなみに3
呪術廻戦のファンブックにて、芥見先生は修行をガッツリやらない選択肢を取ったと言っていましたが、自分は物語の時系列を考えてもどうしても長くなるなと思いました。だからこの研鉈眼光は③までありますが一気に出そうと思ってましたが、やっぱり無理ゲーでした。③はまだ1割くらいです
次回は4月4日に出せたら出します。理由?日車が表紙の新巻が出てテンションが上がるかもしれないから‼︎
七海「………」