ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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上がったテンションそのままにもう1話できました。でも次の話はしばらく時間おくかも


寒気凜冽

太陽の光を浴びてキラキラと光りながら、上空…雲よりも上、さながら海を渡る船のように、雲や時折雲の隙間から地上に影を落とし、この世界の何も知らない人が見れば魔物と勘違いしても仕方ないそれは、飛空艇フェルニル。本来ならシュネー雪原を通るのだが、その寒さはまさに超極寒。雪が降らない日は殆どない。ブリザードで視界は失われ、並大抵ものは大迷宮に着く前に凍死する。

 

そんな心配どころか、地球にあるそこら辺のホテルよりも豪勢な部屋と、温度管理で快適な旅ができるのも、この飛行艇があってこそである。

 

「ま、そんな優雅なのは今だけですけどね」

 

「モノローグにツッコミをいれなくてもいいんじゃね?」

 

フェルニルを操作しつつ、そんな事呟いた七海にハジメは言う。皆が下の景色に映る雲海を眺めている中、訓練所から戻って来た七海はいつも通り、仕事モードを崩れていない。

 

「香織はどうした?まだ谷口の治療中か?」

 

「ええ。治療というよりも、応急処置に近いですが」

 

現在、鈴は香織の〝廻聖〟で魔力をもらっていた。以前、鈴が目覚める前に、辻が同様に行った時に魔力が一時的に活発になるということを聞いた。

 

鈴は魔力を視認し、外部から来た魔力を使い、不安な魔力の通りを安定させる。鈴は〝魔力操作((いびつ))〟で魔力の操作は安定しているが、魔力を流す為の通り道が、修復不可能レベルに近いダメージを受けている。魔力が水だとすれば通り道はパイプ。そのパイプに、亀裂が入っている状況。それを〝廻聖〟を使い、壊れたパイプと違うパイプ、つまりは別の通り道を作ることで、蓄積している負荷をなくし、魂魄魔法で精神を安定させて肉体と精神を一時的に和らげて回復させている。治療師の腕と魂魄魔法を持つ香織にしかできない事だ。

 

だがこれは、七海の言う通り、応急処置。〝廻聖〟をやめれば通り道は戻るので、また負荷はかかるのは変わらない。再生魔法で治すにしても、時間が経ちすぎて、もう不可能だ。

 

「それでも、このあいだの縛りがあれば、無茶な魔法の使用は防げるだろ?」

 

七海が鈴にした縛りがあれば、確かに鈴は無茶な魔法の行使はしないとはいえ、彼女も死ねない理由がある。最低限の魔法の使用は必須だろうし、大迷宮を挑むなら尚更だ。それ故に、

 

「あの縛りは、文字通り彼女の命に関わる。そのせいで、彼女が本気を出す事ができない相手が来たら」

 

「それも加味して考えろって七海先生が言って、それをアイツは受け入れた。少なくとも、あの時の谷口は、考えなしで言ってなかったとは思うぞ」

 

七海が鈴した縛り。《人を殺さず傷つけない。自分を含めて》

この縛りにしたのは、彼女の決意を聞いたのもある。恵里と話すか、殺すかの答えで七海は決めるつもりであった。そして、あの時、明確に鈴は話したいと言っていたが、終始殺すという言葉は使わなかった。《自分を殺さず傷つけない》にしなかったのは、縛りの効果が薄くなる可能性と、衝動的な殺しを抑える為だ。そして、これにより、自分を傷付ける自傷行為、つまりは無茶な魔法の行使も控える事が可能だ。

 

「この先、魔人族と戦う時が来ても、あいつの拘束系の結界なら、どうとでもなるし。それに、前回の昇華魔法を習得したのもあって、これは単なる勘でしかないが、神代魔法級の何かを、生み出そうとしてるそんな気がする。これに関しては、先生もだろ?」

 

〝魔力操作((いびつ))〟はマイナスな効果があるが、同時にプラスの効果がある。ここまで鈴が爆速成長しているのも、この技能あってこそだ。

 

「むしろ、あの縛りは魔物には影響しないだろうから、ハルツィナ樹海みたいな偽物を判明するのに役に立つだろう?」

 

「同じような試練があるとは思えないですし、不謹慎です。…話しを変えますが、次の大迷宮は、この地にある氷雪洞窟…だと言われますが、そこは大丈夫なんですよね?」

 

七海が「言われます」という曖昧な言葉を出すのは理由がある。氷雪洞窟はシュネー雪原の環境要因と洞窟に向かって戻った者がいない。それ故に、7つの大迷宮の1つであるとされているという、曖昧な表記をされている文献しかない。

 

「ああ。前にも言ったが、ミレディのやつから聞いてたのもあるが、今はコイツもあるからな」

 

ハジメが見せるのは樹海の大迷宮でリューティリス・ハルツィナから貰い受けた、望んだ場所を指し示すという概念魔法が込められた羅針盤だ

 

「どうやら、羅針盤はちゃんと機能しておるようじゃな」

 

ティオと、景色を見ていたシアとユエも話しに加わってくる

 

「ああ。しかも使ってみてわかったが、こいつは俺が今作れるアーティファクトや呪具でも再現できない。羅針盤の針が望んでいる場所に向くだけじゃない。どう行けばいいか、距離なんかが、感覚でわかるようになってる」

 

「まぁ、解放者達は7つの神代魔法を行使して、ようやく3つできた程度ですからね。君の成長速度を加味しても、流石に概念魔法は難しいでしょう」

 

「ああ。だが…」

 

ため息も、落胆もない。この羅針盤を使って地球の場所も把握できた。もちろんなんとなくだ。説明ができないどこかにある感覚らしい。その上、1度使っただけでハジメはほとんどの魔力を持っていかれた。これまでの七海の修行もあり、流石に魔力が枯渇するまではいかなかったが、逆に言うと、修行をしていない状態であったら、間違いなく枯渇してたなと、ハジメは確信していた。そしてもうひとつ

 

「それで、そのあとはどこを調べてたの?急に身体が震えたと思ったら、いきなりバタンって倒れたから、心配した」

 

「ですねぇ。キスで目覚めさせようかなーって一瞬考えて見てみたら、白目を剥いて泡を吹いてたんですもん」

 

魔力を回復した後、ハジメはもう一度羅針盤を使った。だが直後、ハジメの魔力は全てなくなり、電撃にあったかのように身体が震え、バタンと倒れたのだ。香織のおかげですぐに目覚めたが、醜態を晒したことにハジメは悔しがっていた。

 

「…七海先生のいた地球を探したんだ」

 

「!」

 

別に黙っておく事もできたが、ハジメはあえて答えた。どうせ七海ならなんとなく気付いていると思ったからだ。実際それは正解で、気付いていたが、七海も深くは気にしないでいた。

 

「別に、元の世界に未練があるわけではないんですがね」

 

「まぁ、そうだろうけど、これは俺の興味本位でもあったんだよ。ただ、わからなかった(・・・・・・・)けどな」

 

そう、わからなかったのだ。7つの神代魔法と解放者の叡智を詰め込んだ概念魔法でも、七海のいた世界を観測する事ができなかった。

 

「より正確に言うなら、途中まで道はあったのに、急に先の見えない断崖絶壁に出くわした感じだ。しかも、その先を見つめていたら、急に意識が飛ぶっていうか、その崖に翼も這い上がる手段も無いのに、なんの理由もなく、飛び込んだみたいな…ともかく、わからなかった」

 

「……何か、別の意思か力が働いているのかもしれない」

 

「考えられるとすれば十中八九、神…エヒトによる干渉じゃろうな」

 

ユエとティオが考察すると、七海も顎に手やり、考える素振りをする。エヒトのような傲慢且つ悪辣にして、子供の無邪気が混じった存在が単なる1つの世界に対してそこまでする理由

 

「史上最強の術師…両面宿儺か。なぁ、七海先生」

 

「なんですか」

 

「今の俺なら、五条悟に勝てるか?」

 

現代最強と、史上最強。七海から聞いたその2人の術師についての情報は、ハジメの中で大きな刺激となっていた。

 

ハジメは、五条悟を越えようとしている。多くの善悪問わずの呪術師が彼を知った瞬間に、戦うという感情なんてものを放棄し、自分と五条悟を比べるのをやめる。そんなハジメを見て、七海は貶すことも、諭すことも言わず、ただ淡々と告げる。

 

「瞬殺はされないでしょうし、君の結界術の精度や作る呪具とアーティファクトを加味すると、五条さんの無下限を突破できる可能性は充分にあります」

 

以前と違う評価だが、それで勝てるとは、ハジメは思わない。現代最強の呪術師……ハジメはあったことも見たこともない人物だが、

 

「ですが、それで五条さんに勝てるのかと問われたら、無理だとハッキリと言えます」

 

他者を過小評価も過大評価もしない。そんな大人がいう言葉には、妙な説得力があったから。

 

「彼の強さは、無下限と、それを完璧に使いこなす為の六眼だけではない。単純な呪力操作と身体強化による体術でも、彼は私を上回る。そして、その場のアドリブや、決断力、それを実現できる技量と技術、最強を名乗ってもなお、成長性を残しているであろう、他者を寄せ付けない圧倒的な才能。そして、戦いの中で得た経験値…特にこれが君にはまだない。君は私よりも強いが、あまりにも場数を踏んだ数が違いすぎる」

 

「そっか」

 

ハジメは、自分の強さに自信がある。だがそれは奢りとは違う。幾つもの乗り越えてきた絶望と試練、手にして来たもの。それらを使いこなす為の訓練と修行。手にした力に溺れないきっかけと努力。そうした様々な要因が、今のハジメを作り上げた。仮に、七海がいなくとも、それは変わらない。

 

だが、多くの者が自分を化け物ような強さと表現しても、目の前にいる人は、そうはしない。1人の人間として、生徒として見る。それが嫌なわけがない。むしろ感謝してる。だが、それとは別に、認めてほしいと思う自分がいる。

 

《最強》

 

その言葉を、自分が使うのを、認める七海の姿を思い浮かべる。化け物になりたいわけではない。だが、《最強》になりたいと感じる自分がいると、ハジメは常に思う。自分がこんな感情を持つことを、正直ハジメは考えもしなかった。目的の為、目標の為に強さを求め、結果的に強くなったのであって、そんなものを求めたわけではないのに。

 

(本来なら、前に虎杖君に言った時のように五条さんと自分を比べるなと言うところなんですが…まぁ、悪いことではないですけどね)

 

七海の方も、それを悪いとは思わない。むしろ推奨している。

 

ハジメに足りないものは、圧倒的な経験不足。強さを手にする為の前段階をスキップしたこと。勿論それで油断などしない事はわかるが、ハジメ自身が気付いているか七海はわからないが、子供特有の自尊心と手に入れた力による自信は、ハジメにとって毒となる可能性があった。

 

(それを無くす為にはいいでしょう。ありえないと思いたいですが、エヒトが五条さん以上だった事を想定するならこのような考えもいいかもしれませんね)

 

「なんだよ?」

 

見つめ過ぎていたようで、ハジメが声をかける。

 

「いえ、別に」

 

((((なんだか嬉しそう[じゃ]))))

 

うっすらとした笑み。これまでの旅でより多く七海を近くで見てきたからこそ、ハジメ達はすぐにそれに気付く。

 

「そういえば、また話は変わりますが、数日前、フェアベルゲンで夜に私が晩酌をしてた時、ユエさんの〝雷龍〟を見たのですが、訓練するのはいいですが、あまり派手な技はやめてください。森の中なんですから」

 

七海が注意をした瞬間、4人がビクッと震える。内2人、ハジメとシアの顔が赤い。そこで七海は察した。シアとハジメがそういう関係になり、覗こうとした数名をユエが撃退したのだと。

 

「…………なるほど、理解しました。教師としては色々と言っておくべきなのでしょうが、もうそれに関しては何も言うつもりはないです。が、せめて最低限の自重はお願いします」

 

実の事を言うと、ティオやユエ、シア、この場にいない香織も、その夜にあったことを聞き、言いたいが、七海がいる前で言うの確実に藪蛇なのでしていなかったのである。

 

「あと、シアさん、さっきから南雲君の隣に行きたいのに、我慢しているでしょう?」

 

「ふぇぇ⁉︎」

 

なんでわかるのとでも言いたいのか、シアの顔が赤くなる。

 

「いや、七海先生だけじゃないからな。俺らにもバレバレだからな」

 

ハジメが呆れつつ言うと、シアの顔が更に真っ赤になる

 

「ん。むしろなんでそんなによそよそしいの?それはそれで可愛いけど!」

 

「うむ。あざと可愛いというやつじゃな!…そ、れ、で、じゃ。シア、そろそろ聞いてもよいか?」

 

ユエがサムズアップをして言い、続くかたちでティオがニヤニヤしながなら問う。

 

「え、な、なにをですか?」

 

「とぼけるでない。ご主人様との初夜のことじゃ。妾、ずっと空気を呼んで待っておったんじゃぞ。さぁ、はよ、早よぅ教えるのじゃ」

 

「い、言うわけないでしょう!こんな所で!七海さんもいるのに⁉︎」

 

「別にいいですよ。私はあなた方の会話を左耳から右耳の外に流すので」

 

(教師としてそれはいいのか?)

 

そんなツッコミをハジメが心の中でしていると、光輝達と鈴、そして香織が戻って来た。来る途中で偶然会ったので、そのまま共に来たという所だろう

 

「あー!やっぱり思った通りだった!私も混ぜてよ!」

 

ハジメの側に行っているユエ達を見て、「私もー」と近付く香織と、厄介そうな瞳になるユエと、少々困った顔になりつつも拒絶しないハジメ。そんな見慣れたハーレムの後継を光輝と龍太郎、鈴はもはやなにも反応しない。が、1人だけ、妙に不満そうな表情になっているのを、七海は見逃さなかった。

 

(とはいえ、私がでしゃばるのも違いますしね)

 

と何も言わないでおくこととして、香織に声をかける。

 

「白崎さん、それで、谷口さんの方はどうなんですか?」

 

真剣な質問に、香織は少し名残惜しいが離れて報告した。

 

「〝廻聖〟で私の魔力を通す時に、再生魔法を付与したことで、魔力の通り道はよくなりますけど、鈴が魔法を使うたびにまた戻るのは間違いないです。それに、鈴の技能でどんな魔法でどれだけ負担がかかるのかも、未知数なので、正直なんとも」

 

同じ魔法と魔力でも、かかる負荷はバラバラ。香織が側にいない際にどうなるかがまるでわからない。そして命に関わる状況が続く事も変わってない。

 

「それを補う為にわざわざ新しいアーティファクト、それに呪具を精製したんだ。ちゃんと使いこなせるのか?」

 

ハジメに言われて身につけている新たなアーティファクトである扇子を取り出す。付与されている魔法は、空間魔法を含めた複合魔法。身体の事を考えて1度だけ使用しただけだが

 

「ありがとう、南雲君。これがあれば今までできなかったことが、全部できるどころか、それ以上の事もできる気がする」

 

特に空間魔法との相性は最高と言えるレベルであった。今まで草案があるが、お蔵入りしていた魔法ができると確信ができるほど。

 

「それにこの呪具も。これがあれば、私の負担はゼロになる」

 

鈴がアーティファクトを身につけていた方とは反対側の腰に身につけている呪具をポンっと押すと、リンっと鈴の音がした

 

「それは七海先生用に作り直した呪具じゃないから、使用制限がある。そこは気をつけておけ」

 

「わかってる。私なりにベストと支援はするよ」

 

「でも、鈴」

 

「わかってるよ、雫。縛りもあるから、自分から傷付きに行くことはしないよ」

 

静かな声でそう言う鈴。だが、それに安心感はない

 

(まだ、雫って呼ぶのね)

 

いつぞやのようにシズジスやかおりんという愛称は言わない。それに雫は寂しさを感じる。いつかあの時の鈴が戻ってくるのかわからない。そうなってほしいという願いを、口に出せない。

 

「そうだ、マスt…南雲!このアーティファクトもすごいぞ!空を蹴るって感覚に慣れるのにちょいと時間が掛かったが、実戦で使うのが楽しみであります!」

 

「龍太郎、口調、もどせてないから。まぁそれはいいとして、私の黒刀は、正直言って魔改造もいい所だわ。やれる事がもう、多すぎて、戦闘時の取捨選択に迷いそうよ」

 

「そこは何度か使って経験を積むしかないでしょう」

 

七海のもっとな意見に、雫は「ですよね」と言うしかない。すると光輝が手をスッと挙げる

 

「南雲、ちょっといいか?聖剣に何をしたんだ?正直、使いやすさが、段違いなのは分かるんだが、それ以外のものがあまり変わってない気がするんだが?」

 

光輝はハジメのことだからこの聖剣も魔改造をしてくると踏んでいたが、機能面以外は変わってないので、正直拍子抜けであった。

 

「ああ、その事か。聖剣なんだがな、正直納得しがたいことなんだがな」

 

「お、おい、なんだその合間な解答は⁉︎まさか、変に改造しすぎて、テヘゴメンちゃい。って言うんじゃないだろうな!」

 

ハジメなら言いかねない、やりかねない事なので、警戒していたが当の本人は苦笑して言う。

 

「ちげぇって。その聖剣、完成されているんだよ、改造の余地なくな。余計な改良をしようとしたら、間違いなく改悪になってしまうくらいにはな。だから、整備と外付けのオプションを加えただけだ……むしろ、だ、それよりも、だ」

 

「?」

 

光輝は急にワナワナと震えるハジメが何を言うのかと思ったが、

 

「あんただよ!七海先生!」

 

「はい?」

 

ビッと指差したのは七海だ。正確にいうなら、七海が身につけている3つの武器のひとつにだ。背中につけた呪具凱劃(がいかく)?否、これは更なる改良をしてる。左の腰につけたメルドの剣?これも違う。その反対につけた

 

「その鈍大鉈!俺が未熟だった頃のだろ!なんでまだあるんだ!そしてなんだってそんなもん身につけてんだ⁉︎」

 

「なんでまだあるという質問に関しては、君が大量に作ったのですから当然でしょう?まだあったので、私の術式を使用する際に使えると思い、1つ持って来たんです。そもそもフェアベルゲンに行く時から持ってたのに、今更ですか?」

 

「ぬっ、いや、そうだよ!ずっっと言いたかったんだよ!あえて無視してたんだが、別に捨てていだろう⁉︎そんなもん!正直、昔の自分の不甲斐なさを思い出すから捨ててほしいんだが!」

 

「道具は使ってこそです。それに、逆に君にはいいんじゃないですか?自分への戒め的な意味で」

 

「あのなぁ…ってなんだ香織、その遠くを見るような目は…ってお前らも」

 

香織と光輝含めた勇者グループが全員、『ああ、あんな事あったなぁ』的な遠い目をしている。少し前の七海の修行を思い出していた。

 

「ともかくだ、もう今の俺には完全な呪具を… 呪力を多く使うが、神代魔法を除けば、完全な呪具にすることは可能なんだ。凱劃(がいかく)も、それで今は独立した呪具になってるだろ!」

 

ハジメの言う通り、本来なら七海の世界の呪具には、もちろん呪具のグレードではあるが、呪力切れというものが基本ない。だがハジメの作る呪具は、他のアーティファクトと同様に、魔力を込める要領で呪力を込める必要性があった。内蔵する呪力タンクによってはその必要はないが、切れたらただの武器に成り下がる使用であったが、神代魔法の1つ、昇華魔法は〝呪具錬成〟にも恩恵を与えていた。

 

大量の呪力を消費する代わりに、確実に、これまでとは違う、完全呪具を精製するのに成功した。だが、1つ製作するのに呪力を使いすぎる。七海の教えで呪力の消費コントロールはできているはずなのにだ。その量は、領域展開をする際の呪力消費にも匹敵する。

 

「そこまで呪力を消費するのに、いちいち作ってもらうわけにもいきませんし、それにこの鈍は使い捨て用ですよ。文字通りね」

 

「さっき言ってた、七海先生の術式に関わる事なんですよね?縛りの関係を考えると、あえて鈍な武器を使うことで、術式効果を底上げする…みたいな感じですか?」

 

「そうです。勤勉ですね、八重樫さん」

 

さらりと七海が褒めると雫は「ど、どうも」と少し恥ずかしそうに、されども嬉しそうに言う

 

「八重樫さんの言う通り、縛りは自分にとって不利、不利益になる条件をつけることで、術式や呪力出力を上げます。私の術式はその性質上、近接攻撃、特に打撃をメインにします。…黒閃についても、説明しましたね?」

 

七海が確認をすると光輝達は頷く。

 

「この鈍や南雲君の作った呪具も、本来は対象を斬るものですが、この布で覆った鈍であれば切断能力が無くなったことで打撃とみなされ、私の術式とのコンボで本来なら打撃でしか反応しない黒閃で斬撃を放つことも可能になります。このように、縛りはその対象者に合う形で、且つ不利になる事をあえてすることで発揮されますが、この鈍はそれだけの為ではありません」

 

肯定と否定が混じる答えに、光輝達に疑問符が浮かぶ。

 

「申し訳ないですが、これ以上は私の術式の根幹にも関わるので、教えられません。が、先程私が言ったように、この鈍は使い捨て用の武器です。その意味も含めて、今回の大迷宮で見せる時が、おそらくあるでしょう」

 

ハジメが羅針盤に視線を落としたのを見た七海は丁度いいタイミングだと話しを区切ると、ハジメも丁度いいとばかりに口にする

 

「氷の峡谷に着いたぞ。これから降下する」




ちなみに
前の話で出たアルテナの術式は実は最初は竜胆サキと同じく《災禍転呪》でした。同じ術式でも時代や生まれで変わるので。でもできる事が違うのと、サポートタイプなこと、発動中興奮するなど考えたら、もう違うなとなりました。
感想にも書きましたが、《自身がその日に受けた痛みとダメージを呪力に変換する術式》なんて書いたけど、これはそのサポート…補助をしてないことによる恩恵、すなわち縛りに近い事をしてるからです。

ちなみに2
前話で出たトレイシーと行動を共にしている彼の術式。自分はまぁまぁ強いと思います。また、しばらく2人はミレディの温情(トレイシーの半分脅し)でライセンに残るので次会うのはシアが……あ(察し)

ちなみに3
南雲君は現状、神代魔法以外は完全な呪具にできますが、できるのは戦闘に使う武器なら1日1個。そうでないものでも2つが限界です。単純に呪力を多く使用してしまい、消耗して戦闘できる状態じゃなくなる。
ハジメ「次の日も正直ダルい」
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