ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ちょっとさぁ、虎杖強すぎじゃね?真人は弱いんじゃなくて、虎杖が強すぎなんですよ


寒気凜冽②

限界を超えた寒さとは、もはや寒いではなく痛いだ。周囲から吹きつけてくる吹雪はただの雪ではなく氷の礫。体内の水分が氷つきそうな気温とそれら自然の猛威は、ここに来た者を須く殺すだろう。その場所に挑むなら、緊張の1つもするだろう……本来なら。

 

「ほわぁー、ハジメさんハジメさん!外が凄いことに!」

 

飛行艇フェルニルが降下していく最中、生まれて初めて見る雪と氷の世界は、世界を見たいと願うシアにとっては興奮するのも無理はない。だが問題なのは、フェルニルの外の景色は、ファンタジーな生やさしいものではなく、氷と死の世界。しかも少しの油断がそのまま死に繋がる大迷宮への道。だが、それをシアがわかってないはずもない。つまり、ハジメを信頼しているのだ。この状況もどうにかしてくれると。

 

「シアさん、気持ちがまったくわからない事もないですし、あなたがわかってないとは思っていませんが、一応これから大迷宮へ行くことを頭に入れておいてください」

 

七海もシアと同じくハジメを信頼しているが、それはそれとして浮かれているシアにはしっかと注意はする。

 

「むぅ、そうですけど……それを言うなら、七海さんも妙に落ち着いてるじゃないですか」

 

もっと緊張しててもいいんじゃないかと暗にシアは告げる。

 

「緊張してどうにかなるならですが、そんなわけはないですし、こういう時こそ落ち着くべきだと思うので」

 

「やめておけシア。レスバで七海先生とやり合うなんて、それこそ10年以上早いってなもんだ。こればっかりは経験がダンチすぎる。それに…」

 

とそこまで言ってハジメは口を噤む。

 

「それに、なんですか?」

 

「別に」

 

七海が聞くと、ハジメはちょっと嬉しいそうに、恥ずかしそうに言う。『俺を信頼してくれてるんだ』的な事を口走りそうになり、ハジメはそれを抑えた。七海には気付かれていないが、ユエとティオに香織、それと雫も気付いているのか、クスリと笑う。

 

「アブチっ!な、何をするのじゃご主人様⁉︎いきなり妾にご褒美など!」

 

近くにいたティオにのみデコピンを食らわせて恥ずかしさを晴らすハジメだが、ティオにとってはご褒美であるから成り立つことである。そのいつもの光景を見つつ、七海はハジメに問う。

 

「それで、この気候の中を進む準備は、さすがにできてるんでしょう?グリューエン大火山の時と逆の状況下ですが、あれだけ苦労したのに何もしてないわけがないでしょう?」

 

「あっったりまえだ。…お前ら、俺が渡したアーティファクトは失くすなよ。それがあれば常に快適な大迷宮の旅が約束されるからな。七海先生は呪具だが、まぁあんたにも一応言っておく」

 

説明するハジメの言葉を聞きつつ、七海は腕につけた呪具を見る。これと言って特殊な装飾品がつけられているわけではない白銀のブレスレットだが、それからは呪力が溢れ、術式がつけられている

 

これも凱劃(がいかく)と同じく1日かけて作り上げたハジメの精製した呪具、 耐候(たいこう)。機能としては他の者達に与えているアーティファクトと同じである。これにも多めの呪力をもっていかれたが、凱劃(がいかく)程ではない。気候や環境など対するもので、防御性能と攻撃性能を取っ払ったことにようるものだろう。それでも、1つだけで相当な呪力を消費したのも事実だ。

 

「……ありがたくもらっておきます」

 

袖を戻しながら淡々と七海は言う。ユエ達も渡されたアーティファクトを胸元から取り出す。形はペンダントで雪の結晶をモチーフにした物だ。デザインは凝っており、それぞれ微妙に結晶の形が違う。惚れた男からもらった物且つ、

それぞれに違った装飾をしてるというのもあり、ウットリとしている。

 

ただ、ティオだけは違った。

 

「のぅ、ご主人様よ。何故妾だけちっちゃな雪だるまなんじゃ?いやこれはこれで可愛いとは思うんじゃが……妾も、できれば同じようなアクセサリーが良かったのじゃが…」

 

もらった事は他の3人同様に嬉しいが、満足に喜べず、ティオは微妙な顔をしていた。そんなティオに対し、ハジメは真剣な表情をしていた。

 

「俺は知っている」

 

静かにそう言い、ハジメはビッとティオに指差す。

 

「お前の中に、スーパーティオさんが眠っていることを」

 

雷が落ちたかのような衝撃がブリッジ内を駆け抜ける。

 

「なんですかそれ?」

 

本当に知らないのか、七海は説明を求める。

 

「お、そういや七海先生には言ってなかったな」

 

と、ハジメは「シアと香織からの又聞きになるが」と前置きを言い、説明する。

 

樹海の大迷宮の魔法によって、精神反転をうけたティオが、気持ち悪すぎる位にお姉さんしてだの、ありえないくらいに格好良くて不気味だっただの、要約するとまともなティオ・クラルスが顕現したとのことだ。ハジメも都市伝説の類いだと思っていたが、シアと香織が大迷宮攻略後に散々恐ろしそうに語っていた事から、実在するのは間違いないと判断したそうだ。

 

「…それは、あの状況下だったからこそでしょうね。人格や性格は、その人の生まれ、生きて来た道筋、外部から受けてきた大小の刺激によるもので形成されていく物ですからね。まぁ、ティオさんの場合、元々あったが気付いてなかった部分に、その刺激を受けて覚醒してしまった所もありますが」

 

最後の方はゴミを見る目でティオを見つつ言う。当然だろう、刺激の部分で思い出してブルブルと嬉しそうにしてる人を見れば。

 

「だとしても、存在してることに変わらないだろ?まともなティオなんてものが」

 

「アレにそういう部分が再度現れると思いですか?」

 

「ご主人様に七海よ。真剣そうな顔で妾に失礼な事を言うでないぞ?結構普通にカチンときとるぞ?あとそこの2人も、の?」

 

とティオは頬を膨らませて不満げな顔でシアと香織を見ると、「うっ⁉︎」と2人とも動揺していた。

 

「だ、だってしょうがないじゃない!こっちは本当に怖かったんだもん!やたら格好良いセリフと女王様みたいな雰囲気で指示や激励したり、私達のこと守るとか…油断してたら変な気分になってたよ、あれは!」

 

「どこが怖いと言うのじゃ⁉︎何もおかしなことも言っておらんのじゃろう⁉︎」

 

香織の言葉に対してティオは文句を言うが、シアが続けて反論した。

 

「いやだから、それが1番怖いんですよ!だってティオさんですよ⁉︎泰然として揺るぎのない格好良いティオさんなんて、今思い出しても、正直吐き気が……ウプっ」

 

「なん、でじゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎なんでそんな吐きそうになっておるのじゃぁぁぁぁぁ⁉︎お主らいい加減にせんと、妾恥も外聞もなく泣き喚くぞ⁉︎」

 

「それはそれで鬱陶しいのでやめていただけると助かります」

 

「七海ぃぃぃぃ‼︎お主もお主であんまりにも辛辣じゃぞおおおおお!」

 

「じゃあ、そう言われて頬を染めるのをやめる所から始めてください」

 

「鈴よぉぉぉぉ‼︎お主もその毒舌をやめよ!一応コレでも妾はお主の師じゃぞ⁉︎」

 

冷淡な2人の方がティオ的に効いている。助け船を出したわけではないが、話が脱線しつつあるので、ハジメは「ともかく」と言って話しを戻す。

 

「俺は、信じてる。お前の中に存在する、スーパーティオさんを見てみたい!」

 

「ただの個人的な願望じゃないですか」

 

「黙れ先生。いいか、今回の氷雪洞窟の攻略でその実在を証明してくれ。そうしたら、頑張ったご褒美にお前が望むデザインのアクセサリーを贈ってやる」

 

「ただの無理ゲーじゃん」

 

「おいお前もだ谷口」

 

だがそうは言ってるハジメを含めて、『それは無理だろ』と声にない声が聞こえてくるような表情をしている。

 

「だいたい、ティオさんはいいじゃないですか。私達なんてコレですよ」

 

と鈴が見せるのはユエ達に渡したアーティファクトと同じ効果を持つアーティファクトなのだが、加工が何もされておらず、その辺に落ちてた石ですと言われても納得されかねない適当な作りだ。勿論機能面は変わりはない。

 

「いいアクセサリーにされてる分、ありがたいと思うべきです」

 

「鈴、それ以上はいいから。扱いの差に悲しくなるから」

 

「別に効果があれば、特に問題なくねぇ?」

 

「龍太郎、デリカシーがないぞそれは」

 

光輝が言うと珍しく鈴は強めに頷いた。そこで失言だったと気付いた龍太郎は小さく「ヤベッ」と呟く。何か言おうとしたが、既に鈴にはどうでもいいのか、別の方を見ていたので、もどかしそうに黙るしかなかった

 

そんなことがありつつ高度を下げたフェルニルは雪と氷の峡谷を飛ぶ。このどこかに大迷宮の入り口がある。

 

「この峡谷も大迷宮の一環だと考えるなら、メルジーネでの海底洞窟までの航路と同じく、この飛行艇がなければたどり着く前に大半が脱落する環境という所でしょうかね」

 

「直接的な攻略には同じく関係ないだろうな。本当に、大迷宮を探すのも大変とか、ふざけんなって話しだ…っと峡谷の終わりか?」

 

ハジメはまだ羅針盤が先を示しているのを確認いると、ユエがブリッジ内にある外部を映す水晶ディスプレイに指をさす。ハジメはそこを拡大するとトンネルのような道が峡谷の谷底にあった。

 

「随分と狭い峡谷ですね。雪で埋もれたんでしょうね」

 

「そうなると、フェルニルではここまでか。洞窟までは、ざっと1キロ程度…なら、問題ないな。行くぞ」

 

ハジメが言うと全メンバーが動くのだが、シアだけは1度七海から注意を受けているにもかかわらず、わくわくを表情に隠しきれていない。目はキラキラと輝き扉が開いた瞬間に猛ダッシュで飛び出しそうである。

 

「シアさん、これだけ積もっている雪では、どこからどこまでが地面かわかりません。飛び込んだ瞬間に足場が無くて真っ逆様に落ちるなんて事がないように、気をつけてください」

 

「わ、わかってますよぅ」

 

そんなシアを落ち着かせる七海は、先生は先生でも、横断歩道を渡る小学生低学年に言うかのようである。言われたシアはちょっと顔を「ブゥ」と膨らませている。そんなシアを

 

(抱きしめてぇ)

 

とハジメは思いつつ、それを必死に我慢していた。ユエはそれに気付いているのか、含み笑いをしている。

 

「…谷底に着陸は…さすがに無理だな、狭すぎる。崖の上に降りるぞ。シア、七海先生の言う通り、真っ逆様に落ちるなんてヘマすんなよ。まっ、その程度でお前が死ぬはずもないけど」

 

まずそれで死なない事が異常なのだが、もはやその事をツッコめる人はここにいなかった。フェルニルを着陸させたハジメは下部ハッチを開けた瞬間、刺すような冷気が内部に入り込む。

 

どの程度の寒さか体感しておこうとしていた雫と鈴は一瞬で全身の鳥肌が立ち、身震いしながら慌ててアーティファクトを起動した。

 

「一定の範囲内の温度を保つだけで、防御機能みたいな障壁はないですから、各自コートを」

「ひゃっっほーーい!」

 

七海が光輝グループの面々に指示をしていると、早速とばかりにシアが飛び出した。吹雪をその身感じ、ぴょんぴょんと飛んでいる。かと思えばいきなりばたりと仰向けに倒れそして何がおかしいのか、「あはは、あはははは」と大喜びしている。

 

「雪が積もって燥ぐ子供ですね」

 

「そう言ってやんなよ七海先生。俺だって初めて雪景色を見たらこうなると思う」

 

「それが安全が確保されたスキー場とかなら私もとやかくは言いませんよ。しかしさっきも言ったように、どこからどこまでが足場のある雪かわからない上に、ここは崖の上です。油断してたら」

「今日から私は雪ウサギぃあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 

情けないウサギの悲鳴が木霊した。雪に向かい思い切りダイブしたが、どうやら雪が積もっていただけで、クレバスの直上だったらしい。

 

「言わんこっちゃない」

 

「その後、愚かなウサギを見たものはいない」

 

「テレレレレッテッテッ」

 

七海が呆れて言い、ハジメはフェルニルを宝物庫に回収しつつジト目で、鈴は冷淡だが呑気そうに某ゲームの赤い人がやられた時の効果音を言う。

 

「南雲君も、七海先生もなんで落ち着いてるんですか⁉︎」

 

「あと鈴、不謹慎すぎだぞ⁉︎」

 

雫と龍太郎は突然の事態でパニックになっていた。

 

「南雲、下に降りるのにあの縦穴を使うのはいいとして、一応下の様子を見た方がいいんじゃないか?」

 

「「なんでそんな冷静なの光輝⁉︎」」

 

「え?いや、万が一魔物が待ち伏せしてたらまずいだろ?」

 

「「そういう問題じゃない⁉︎」」

 

光輝は光輝で怖いくらいに冷静である。

 

「そもそもあれで死ぬんだったら、オルクスで俺達の救助に来た際に、上の階層から飛び降りて来た時点で死んでるだろ?」

 

「いやでも、今のは頭から行ってたぞ⁉︎」

 

「まぁ、プールに顔面を打ち付けられたくらいには痛いだろうけど、多分そのくらいだろ?南雲?」

 

「まぁ、そのくらいはあるかもだが、痛みの考察と表現が的確すぎて怖いんだが」

 

冷静に言う光輝の言う通りなのだろうが、これまでとまるで違う光輝に未だハジメは慣れないでいた。

 

「ともかく、早く行きましょう。シアさんが落ちて特に音が聞こえないのを見るに、少なくともこの下には、魔物はいないようです」

 

「そういうわけで、様子を見る必要なし。行くぞ」

 

七海とハジメが言うと2人は躊躇なく、気軽すぎるくらいに飛び降りた。「「うぇ⁉︎」」と再び龍太郎と雫が驚く中、続けてユエがあっさりと飛び降り、置いてかれたとばかりに香織も飛び降りた。〝空力〟を付与したブーツを各自ハジメから支給され、訓練もしたので使用に問題はない。それがあれば落下速度は落とせる。

 

「じゃ、俺達も行くか」

 

「そうだね」

 

続けて光輝と鈴が飛ぶ。光輝はわりとあっさり。鈴はほんの僅かに躊躇したようにしたが、すぐに飛ぶ。

 

「ああクソっ!アイツらは!本当にクソがぁ!」

 

ちょっと性格がバトルモードになりつつある龍太郎がヤケクソ気味に飛び降りた。

 

「で、お主はどうすのじゃ雫?」

 

残った2人の内ティオが意地悪そうな笑みで言う。それを見た雫は、このままではポイ捨てのごとく投げれると感じ、

 

「い、行きますよ!行きますから!」

 

と逃げるように飛び込んだ。

 

「うむうむ。元気で何よりじゃ」

 

頷きながらティオもひょいっと飛んだ。

 

 

 

「へぶぅ⁉︎」

 

峡谷に降りてすぐにシアと合流したのだが、すぐさまハジメの脳天直撃チョップが炸裂した。またも間抜けな声を出してシアは頭を涙目で押さえる。

 

「たく、七海先生に言われてたのに1分も経たない内に油断すんな。俺からも言わせてもらうが、ここは危険地帯なんだ」

 

「あうぅ、すいません。ちょっと調子に乗りましたぁ」

 

シアはしょんぼりと肩を落とし、ウサミミも垂れている。それを見たハジメが頭を掻き、軽く咳払いをして、今度はシアの頭に手を軽く置き、ウサミミと髪を一緒に、髪をくしゃくしゃにさせないように、優しく撫でる。

 

「ただ、久しぶりの残念ウサギって感じで、ちょっと和んだけどな」

 

そんな事をハジメが呟くと、ユエもそれに同意して

 

「最近のシアは残念さが足りなくて、少し寂しかった」

 

同じくなでて、モフモフとする。

 

「えへ、えへへ」

 

シアは気恥ずかしさと嬉しさが同時に出て、プルプルと身悶えて、まさしく『幸せ』という言葉が聞こえてきそうだ。

 

「先生、さっき他の大迷宮について話してましたけど、たどり着くまでの道筋は、試練には含まれないんでしたよね?」

 

「ええ。おそらくオルクス大迷宮の前半も、その部分入るでしょうね」

 

(あの雪も溶かしそうな熱熱ぶりをフル無視してる七海先生もだけど、それに興味がなさそうな光輝も光輝ね)

 

すぐ近くでイチャイチャするハジメグループに関しては、もはやいつもの事だからスルーするようにしている七海とは別に、光輝はというと、既に大迷宮をどう進むかを考えているようだ。ただ幼馴染である雫は違和感を感じる。

 

(なんなのかしら、この感覚…本心ではあるんだろうけど、何か)

 

雫にしても、光輝が色々と変化していることを確信している。だが、現状の光輝を見た時に違和感があった。

 

変わったことによる以前の光輝と比べた時の齟齬によるものではない、別の違和感。

 

「道は、こっちみたいだな。お前らそろそろ行くぞ、遊んでる暇はないぞ」

 

「他の人も、あなたには言われたくないと思いますよ」

 

だがそんな違和感もハジメ言葉に対する七海のツッコミでなくなる。

 

「でも、南雲の言う通りだ。呆けている場合じゃない。龍太郎、雫、鈴、行こう」

 

「お、おう」

 

龍太郎も雫と同じかどうかはわからないが、何か違和感感じていたのか、反応に遅れが見られた。鈴はそうでもないのか、どうでもいいのか、はたまた自分のことで手一杯なのか、静かに頷くだけで進む。

 

「鈴、あなた香織と行動して」

 

「わかってるよ」

 

注意ではなく、意見として雫は言った。この先鈴の力が必要になる瞬間や、鈴のみで戦う場面もあるだろうが、それまでは香織側でいる方が、魔力の安定化をし、精神回復もできるからだ。

 

鈴はそんな言葉に対してやや怒ったように肯定の言葉をだして香織の隣につく。ハジメも了承してるのか、特にないも言うことなく進む

 

「……南雲君、七海先生、ちょっといい?」

 

「あ?なんだ」

 

鈴が声をかけると、どうでもよさそうな雰囲気でハジメは聞く。七海も鈴の方を向いて話を聞く。

 

「この吹雪、私が防いでもいい?」

 

現状、進んでいるトンネルには痛みに感じる冷気を伴った風が吹いている。冷気が下に降りてるのもあり、体感温度は氷点下 40度以下だろう。今ここにいる者達が無事なのは、ハジメの精製したアーティファクト、七海は呪具による恩恵だ。これがなければ、一緒で凍るか、凍傷は免れないだろう。それでも寒さは容赦なく来る。鈴ならそれを防ぎつつ進行できるような結界もできるだろう

 

「今の私なら、できるし、風の影響がなくなれば進行スピードも」

 

「ダメです。君はなるべく力を温存してください」

 

「俺は別にいいぜ」

 

速攻で七海は断るが、ハジメは了承した。その瞬間七海はハジメを睨む

 

「無茶な魔法の使い方はしないならいいだろう?それに自分の命を蔑ろにする行為は、こいつにはもうできない。それを1番わかっているのは、あんたのはずだ、七海先生。それに近くに香織がいるなら問題はないだろうし、谷口に渡したアーティファクトと呪具があるなら、なんとでもなる」

 

「………分かりました」

 

「やけにあっさり引き下がったな」

 

「君の方が正しいです。こんな場所では、他人を気遣いすぎれば、自分の足を掬われる。それに、信用しなさすぎもいけません」

 

そもそも最終的な判断はハジメには逆らえないというのもあるが、今の鈴に対して過保護すぎるなとも、今のハジメとの会話で七海は思った。

 

「香織、私が魔法を使った後で…」

 

「大丈夫!絶対鈴を死なせないから…その代わり」

 

とニンマリと香織は笑う。

 

「また、前みたいに、私のこと呼んでよ」

 

「前?」

 

「ほら、あだ名あだ名」

 

以前の鈴は香織や雫、そして恵里といった仲の良い女子などはあだ名で呼んでいた。それのことだ。

 

「……無理」

 

「…そっか。でも、いつでも呼んでいいからね」

 

無理強いをする事もできなくはないが、それはせず、鈴の意思を尊重した。

 

「それじゃ、呪具と併用して…」

 

「まってください。何かいます」

 

シアのウサミミがピンと立つ。通路に突き刺さるように並ぶ氷柱から、何かが出てくる。

 

「わぁ!かわいい!」

 

と真っ先に反応したのは雫だ。可愛いもの好きの彼女はそう言うのも仕方ない。出てきたのは小さな子うさぎサイズの生物だ。ユエ達もその愛らしい姿に少し頬を染める

 

だが体毛の色が白銀と明らかに普通のウサギではない。そのウサギはハジメに近付いて

「いいからさっさと仕留めなさい」

 

ボン!と音がした時には既にウサギはサッカーボールのように遠くに飛んで、壁に命中してグシャリとつぶれた。

 

「「へ?」」

 

最初に間の抜けた声を出したのはシアと雫だった。

 

「ナイスシュート!七海先生!」

 

「いいから、君も気づいてるならさっさと迎撃し……っ」

 

上から数匹が降ってくる。それを、今度はハジメが容赦なく撃ち殺す。肉片が飛び散り、ボトリと落ちていく

 

「どうした先生。一瞬動きが鈍ってたが?」

 

「南雲君、あの魔物に触れてはいけません。そういうタイプです」

 

ハジメの問いに七海はそう答えると、「なるほどな」とハジメは呟いた

 

「な、七海先生、南雲⁉︎な、な、なにを」

 

香織が震えて聞く。それに対しての答えを言うかのように七海は告げる

 

「全員警戒!あれは、魔物です!おそらく固有魔法は熱の吸収!僅かに触れても危険な可能性もあります!」

 

先程七海が魔物を蹴った足が僅かに震えていた。急激に体温を奪われてシバリングして体温をあげている。僅かしか触れてないにも関わらずこれであれば、もし愛らしさに絆されて抱きしめでもしたら、たとえハジメのアーティファクトを持っていても、あっという間に凍死する可能性がある。

 

魔物であることとその固有魔法の事を七海が告げると、ほぼ全員が戦闘体制に入る。可愛い小動物が惨殺されたことにまだショックな雫と、同族ではないがウサギがハジメに躊躇いなく殺されたことによるショックのシアはまだ呆然としてる

 

「来ます!」

 

それに構う暇はない。七海が言うように、新手だ。同じ魔物がうじゃうじゃと子うさぎが現れる

 

「南雲君、七海先生、私がやります。大丈夫です」

 

そう言い鈴は腰のホルスターにしまっていた物を出す。1つはアーティファクト。結界術特化の扇子型アーティファクト、名を〝鉄扇華(てっせんか)

 

そして、まだ彼女には武器がある。

 

シャン

 

と複数の鈴が同時に鳴ることで静かに奏でられるそれは、邪気を祓う浄化の音にも聞こえる。

 

「さっそく使わせてもらうよ、私の(・・)新たな力」

 

その名は

 

「呪具、《仙域鈴(せんいきりん)》」

 

昇華魔法の習得後、進化したハジメ製の呪具にして、初の共同製作呪具(・・・・・・)




ちなみに
前回出し忘れたので
寒気凜冽:極めて寒いこと
今回の大迷宮編は何回かタイトル変わると思います

原作では2振りの扇子ですが、それを1つにしたので名前変更しました。呪具のお披露目は次回に。そして今回の章も長くなりそう
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