ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回で『寒気凜冽』のタイトルを終えるつもりでしたが、できませんでした。


寒気凜冽⑤

 

「氷壁の死体、でしょうね。相変わらず大迷宮の反吐がでる演出ですよ」

 

通路から次々と出てくるのは魔人族だけでなく、冒険者風の人間族の他に、亜人族らしき姿も見える。そのどれにも生命を感じない。

 

「生きていた…わけじゃないですよね。今も鼓動が聞こえませんし」

 

「おそらく、魂魄魔法と再生魔法の応用と言った所でしょうか。…他の神代魔法も関わっている可能性もありますが、だいたいそんな所でしょう」

 

シアのウサミミの脅威的な聴覚がそれを死者と確信し、現象の答えを七海が提示する。

 

「まるで、ゾンビみたいね」

 

ホラー映画で見たワンシーンを思い出して雫が呟く。蠢き、呻く死者が押し寄せるというのはまさしくゾンビ映画と同様だが、凍てついたゾンビ、フロスゾンビである点は、映画でも珍しい

 

(このゾンビ達…数が多い。特に後ろから来た個体…氷壁内にあんなにも数はいなかったはず……だとするなら)

 

七海はある考えに至り、それを実行する為にハジメに声をかけようとしたが

 

アァァァァァアアアァァァ!

 

絶叫と共にゾンビらしいノロノロとした動きをやめ、いきなり突貫の如くフロストゾンビは駆け出す。

 

不快を極めた呻き声が氷洞内に木霊し、反響する。大口を開けて歯を立てようと迫り来る。腐った肉体は凍ってる為に見えないが、その様は見る者全てを不快にさせ、ホラー映画嫌いには特に効果的だ

 

「あ」

 

それに最初に気付いたのは彼女の隣で手を繋いでいた鈴だった。鈴も当然ながらフロストゾンビには目を逸らしたくなるほど不快感があったが、隣の人物はそれ以上であった。ヤバいなと思ったので一瞬の隙をついて握ってた手を振り解き、彼女から若干距離をとる。

 

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎」

 

涙目になった香織がパニックになって凶暴化する。周囲を歪ませる程の膨大な銀色の魔力が香織の全身を包むと同時に、頭上に両手を突き出して銀の光を集束させる。そして、銀色の光は邪悪な存在を浄化するが如く、殺意を持って放たれた。

 

ノイントの使っていた分解の力。香織の頭上に集束していた光の球体が四方から来るフロストゾンビに放たれた。光は放出された瞬間は小さなものだったが、ハジメ達に被害がないような場所へ到達した瞬間、その幅が広がり、全方位を囲まれていたにも関わらず、全てを塵へ変えた。フロストゾンビは最初からいなかったとばかりにあっさりと。

 

「俺、今後絶対香織にホラー関係は見せないし話題にもしねー」

 

「ええ、賢明な判断よ龍太郎。それと地球に戻ってもお化け屋敷の類いだけは、死んでも入らないし、入らせないわ」

 

入ったら最後、お化けと纏めて強制成仏させられる。そんなお化け屋敷など、雫の言う通り、誰も入りたくなどないだろう。

 

(だいぶあの身体を使いこなせているようですね。魔力の集束からの発散。そこから一定の地点での拡散。並の特級呪霊レベルでも相手にならない)

 

七海は冷静に香織の現状を分析しつつ、評価する。が、それはそれとして、

 

「ふぇぇぇん雫ちゃぁん!怖かったよぉぉぉ!」

 

七海は怖いのは理解するが取り乱しすぎだと一言香織に言おうと思ったが、

 

ボコぉ

 

と何かが出てくるような音を聞いた。スーと下を見る。無数の手、手、手。フロストゾンビの顔、顔、顔。更に分解したゾンビ達が身体を再生させている。

 

「さ、再生してる!」

 

「壁からもきますよぉ⁉︎」

 

再びホラー映画のような演出に、香織は白目になっていた。

 

「香織ぃ!寝たらダメ!寝たら死ぬわよ!」

 

「意味が違うような」

 

スパンスパンと雫にビンタされる香織にそんなツッコミをしている鈴達に、

 

「いい加減、動きなさい」

 

ゾンビを殴って壁に激突させながら、七海は3人に注意をする。

 

「八重樫さんと谷口さんはそのまま白崎さんについててください。あと、谷口さんは呪具を併用しつつ無理をしない程度に結界を展開」

 

的確に指示を出しつつ、周囲の状況を見る。光輝は光の斬撃をより細かくし、斬り刻む。龍太郎は衝撃波を放つ破拳で対応している。衝撃波は外部でなく、内部に的確に放ち、爆散する。ユエとティオが風の刃で斬り裂き、シアのドリュッケンから放たれる砲撃も、相手を破壊するには効果的だ。だが

 

「やっぱり再生してやがる。香織が分解した奴らも同様か」

 

ハジメが言うように、撒き散らされていた肉片が勝手に集まり、凄まじい速度で再生している。心なしかその速度がどんどんと早くもなっている。

 

「キリがないですね。……南雲君、1つ考えがありますがその前に、幾つか聞きます。このゾンビ達に核である魔石はありますか?」

 

「ないな。うっすらと魔力は纏ってるが、魔石にあたるもんはない」

 

「って、それメルジーネの時と同じじゃないですかぁ⁉︎」

 

悪食と呼ばれた巨大クリオネの魔物を思い出して、シアは嫌そうな顔をしていた。

 

「いや、あんなのがそう何匹もいるとは到底思えねぇ。何か仕掛けがあるはずだ」

 

ドンナーを片手で撃ち続けハジメは空いている手で羅針盤を取り出し、魔石の位置を確認する。ここにはないなら、魔眼石で探せない位置か、なんならかの方法で隠されていると考えたからだ

 

「見つけた…が、遠いな。どうすんだ先生?」

 

「まず、適当な短剣を2本錬成し、内1本を私に、もう1本は君が呪力を込めてください。残りの人は準備ができるまで時間稼ぎをお願いします」

 

七海の指示を受け全員フロストゾンビに対処しだす。

 

「早くせよ七海!周囲はともかく、地面から出るのは対処にも限界があるぞ!」

 

ティオが言うように、このままではいずれゾンビ共に飲み込まれる。急ぎ七海は指示と準備をする。まず、鈍大鉈を取り出してそれに崩壊する限界まで呪力を込めている

 

「南雲君、件の魔石がある場所はこの道の一直線でしたね?」

 

「あ、ああそうだ…なるほど、そういうことか。先生、あんたが呪力を込めたらちょっと待て」

 

理解したハジメは七海が呪力を込めている短剣を更に錬成し、呪具化する。短剣が少し大きくなる

 

「俺の呪力じゃなくて、七海先生の呪力をこのタンクに貯蔵して…よし、トランスフォーム!」

 

ガシャガシャと音を立てて短剣が変形する。それは、以前から使うドローン《オルニス》を呪具化させたものに近い。否、呪具というよりも

 

「完成だ。呪骸ってやつだったか?初めてにしちゃよくできたほうだな」

 

以前から構想はあったが、動く物…呪骸を作る機会がなかった。それを、七海から聞いていた情報で作りあげた。もちろん、七海と最初に会った時とは違い、錬成も呪力の使用方もレベルアップしてるからだが。

 

「行け!」

 

烏の形をした呪具はゾンビを貫いて進む。本来なら縦横無尽に飛ぶこともできるのだが、あえてせず、直線でしか動かさないと攻撃力を持たないという縛りをしたことで、貫通力と突貫力、速度を上げる。

 

「ふっ!」

 

ハジメは自身の呪力を込めた短剣を地面に突き刺し、羅針盤を使用しつつ、飛ばしている呪骸の位置を確認し、呪骸の視界を見る。周囲の戦闘音を無視して、それに集中する。これも1つの縛りだ。これにより、より鮮明に位置関係が把握できる。

 

「見えた」

 

そう呟くと同時に、道の先にある目的地に鳥を剣の形にし、地面に突き刺すように落下させた

 

「どうだ、先生!この先にあるあんたの呪力は見えるか?」

 

「ええ。既に線は完成しました。あとは点に攻撃すれば、問題ないです」

 

「よし!お前ら待たせたな!ここからは強行突破だ!香織もう1度さっきのを正面に集中して…ダメだなこりゃ」

 

「ウフフ、ブンカイブンカイ!コワーイモノハ、ゼーンブブンカーイ!」

 

目には光がなく、分解砲を乱射してる。これでは先程のように繊細な攻撃はもう無理だろう。

 

フロストゾンビにSAN値を持って行かれた今の香織は役に立たない。

 

「仕方ねぇ俺がやる。黒帝、白王、起動」

 

黒と白のガントレットを装備した。時間がない為まだ完全呪具化は呪界到覇の部分のみだが、それでも充分だ

 

「白王、魔力装填完了。空間魔法機動。〝呪界到覇〟、内臓予備呪力に付与」

 

ハジメは以前同様に正方形の小さな空間を作り出し、あらかじめ白王内部にある魔力と共に呪力を空間に流し込む

 

「最大出力でもない限り、そして内臓してる魔力と呪力を使えば、消費する魔力と呪力を最小限にできる」

 

エネルギーを保ったまま空間を圧縮し、エネルギーの密度を上げる。その名を

 

「くらえ名付けて、黎明撃」

 

ハジメは圧縮したエネルギーの出口を作る。空間の一部、発射方向にのみにあえて穴を作り残りの面を強化。結界の足し引きを考えても、充分に成り立つ。

 

ノイント戦で見せたものと同じか、それ以上の威力で正面のフロストゾンビを一掃した。以前はまだ未熟であり〝覇堕の聖歌〟で弱体化していたが、これが本来の使い方である。

 

「よし、行くぞ!一気に前進だ!」

 

ハジメが号令を出して一気に駆け抜けて行く。先程のハジメの攻撃でもやはり再生するのを移動しながらユエ達が追撃する。だがそれでも再生し、後方からは呻き声と共に迫ってくる

 

「香織!私あなたと手を繋いでたら走りにくい!今くらいはいいから離して!あと、魔法の威力抑えて!ゾンビの肉片をコッチに飛ばすな!」

 

「そんなのむぅりぃーー‼︎手繋いでないと恐怖でもうパニックになるよー!」

 

「ばかおり、うるさい」

 

「ユエにはわかんないんだよ!このゾワってくる感じ!あ!そういえば吸血鬼って不死って点ではちゃっかりホラー側だから、仲間意識とかあるんだね!」

 

「いい度胸だ香織。その身に吸血鬼の真の恐ろしさを叩き込む」

 

「仲がいいのは良いですが、時と場合を考えてください」

 

「「仲良くない!」」

 

注意をしたつもりだが、余計にカオスな会話になってしまい、七海は走りながら少し反省していた。

 

「やれやれ、若いのぅ。ただの魔物にあそこまで騒げるとは」

 

「ティオさん、ちょっとババくさいです」

 

「ぐふぅ⁉︎」

 

ティオはシアの言った事に結構なダメージを受けていた。

 

「まぁ、実際、妾が年上じゃからな」

 

「そうならそうで、普段からちゃんとして下さい」

 

「七海よ!妾だけなんか当たりが強いのではないか⁉︎ユエはどうなんじゃ!ユエは⁉︎」

 

「ユエさんは精神年齢が大迷宮で幽閉されてたぶんちょっと幼いので、許容範囲です」

 

「それはフォローしてるの?それとも貶してるの?」

 

七海はユエ睨まれても知らん顔をしていたが、急に何かに気付いて立ち止まる。

 

「ここですね」

 

七海は鈍の大鉈を出し、崩壊するギリギリまで呪力込めて、地面に突き刺し、再び走る。

 

「な、何をするんですか?先生?」

 

息を切らしながら走り続ける光輝は質問する。それに合わせた訳ではないが、七海は光輝達に術式を開示をする

 

「天之河君含めた勇者グループの人は、走りながら聞いて下さい」

 

それが始まり、ハジメ達は『やる気か』と確信し、光輝達は『何だ』と考えつつ、自分達の教師の言葉に聞き耳を立てる。

 

「私の術式は、7:3の比率の点を、強制的に弱点にする術式です。それは生物、非生物問わずです。そして、条件さえ整っていれば、比率となる線と弱点となる点は、どちらからからでも作れます」

 

((((術式の、開示!))))

 

以前、光輝は七海とシアの術式について聞いたが、断られた。その理由、術式の開示の出力アップを、ここで使うという事と、説明から考えられる結論

 

「全員、速度上げろ!」

 

「問題ありません。君達の安全が最優です」

 

光輝が指示したが、すぐに七海が安全を選ぶと言う。事実、大鉈を刺してからは七海が殿をしている。それは術式発動のタイミングを見るためと、他を後ろに回した事で被害を出す可能性を無くす為だ。

 

だがそれは、光輝にとっては

「いちいち考える暇はねぇ!あと少しだ走れ!」

 

余計な事を考えそうだったが、ハジメの声にすぐに思考を立て直し、走る事に集中する。

 

そうして数分走り、遂にゴールである大きな空間に出る。巨大な闘技場を思わせるその場所には、不思議な事にそれまで吹いていた吹雪がない。見えない壁に遮られ、通路の出口に逆流している。そしてそこには先程ハジメが飛ばし、ナイフに変形した七海の呪力を乗せた呪骸が刺さっている。

 

「行きます」

 

その地点に七海が立つと理解できる。今なら発動できると。ここに来る途中で刺した七海の鈍大鉈は、今にも込めた呪力で崩壊しそうである。

 

(出力最大)

 

狙うは迫り来るフロストゾンビではない。通路…即ち大迷宮そのもの

 

(十劃呪法…牽牽(グラグラ)・載!)

 

術式が発動する。巨大な地震を思わせる振動に何をするかわかっていたハジメ達を除いた者は、その揺れに膝をつきそうになる。だが、被害あるのは、七海の術式で作った弱点部分から線状の場所。地割れが起き、来た道が崩落する。フロストゾンビは地割れから出た呪力で粉砕されるか、地割れになす術もなく落ちて行く。入ってきた場所は崩れて落ちれきた氷壁で完全に塞がった。

 

「大迷宮は、おそらくどこも再生魔法が付与されている。前半とはいえオルクス大迷宮も、破壊された場所が修復されてましたしね。大規模な破壊をすれば、大迷宮は修復に力を注ぐ。少なくとも、しばらくはこれでゾンビ共はここに来れません。この部屋の敵に集中してくだ…さい!」

 

七海は翼を広げて迫って来た氷でできた大鷲の魔物を殴って粉砕する。だが、当然、これ1体ではない。周囲の氷壁から次々と生み出されて、群れになって襲いかかる。

 

「新手ってわけか」

 

ハジメがドンナーとシュラーゲンを使う。ドンナーから出された弾丸が1体の氷の大鷲、フロストイーグルに命中した瞬間、紅い波紋が爆発と同時に出て、衝撃波で周囲のフロストイーグルを巻き込む。昇華魔法による力で〝衝撃変換〟が更にその力を上げた、炸裂弾だ。そして、続いて呪具のシュラーゲン。こちらには重力魔法を呪具化した弾丸を使う。呪力の紫電を纏う弾丸が命中した瞬間、その周囲のフロストイーグルが強力な引き寄せる力を受けて、密集し、そのまま圧縮される。しかもそれは持続しているのか、弾丸が命中した付近に黒い球体ができ、その周囲にフロストイーグルが回転するからように密集して圧縮し崩壊する。これを繰り返し、まるで土星のリングのようになる

 

「なかなかというところか。1日に使える弾丸の数は限られるし、威力アップには縛りが必要だが、充分だな」

 

「ご主人様よ、この部屋に来た時から気付いておるじゃろうが、……オアシスにおったバチュラムと同類のようじゃぞ。あれは壁ではない」

 

「ああ、わかる。それは俺以外もだ。七海先生に感謝だな。既に全員が戦闘態勢になってるのも含めてな」

 

多少の擬態では、魔力を視認できる者ならすぐにわかる。

 

「チャージ解放、〝天爪爆光〟」

 

以前の樹海の大迷宮で光輝が使ったのと同じだが、その時と違って今回はチャージを最大にした物、つまりは最大出力だ。あの時は半人型のゴキブリは倒せなかったが、今回はそれと同等はあるであろうフロストイーグルが光の針に刺さった瞬間、内部爆発する。今回はコントロールはしない。だが、

 

「〝絶界〟」

 

既にユエが結界を展開している。空間魔法による、空間遮断型の防御結界だ。〝聖絶〟が霞むほどの鉄壁の結界。それが光輝の出した光の針を防ぐ。

 

「………すご」

 

思わず鈴がつぶやく。彼女もアーティファクトを使えばできるだろうが、安定して展開できる自身はない。しかも味方の攻撃を通し、外部の攻撃を防ぐ高度な物となると尚更難しい。

 

と、羨むような目で見ていた時、異変が生じた。ビキビキと氷が割れるような音が聞こえる。部屋に入って来た時から視界にあった魔石があった氷壁、その部分で音が響いていた。周囲の氷と魔石を取り込むように動き、体積を増やし、形を形成していき、やがて

 

「グワアァァァァァアアアァァァン!」

 

形状が出来上がる前に咆哮をあげた。ただの咆哮だというのに、それに衝撃を伴っていた。ユエが事前に〝絶界〟をしていなければ、危なかっただろう。衝撃波の咆哮が到達した瞬間、空間が波打ったように揺らめいたのだから。

 

衝撃で発生した氷の煙が晴れた時、それはそこにいた。魔石を体内抱え、魔物の姿になった姿。怪獣のような氷の巨体。姿は亀を思わせる形をしているが、足は6本ある、魔人族が使役していたアブソドという魔物を彷彿させる。或いは、フリードはこの大迷宮を攻略している。だからこの魔物をモデルにしたのかもしれない。

 

「どうやら、野郎の装甲をぶち抜いて、魔石を破壊するのが先か、魔物の群れに呑まれるのが先かっていう試練のようだな」

 

ハジメはそう分析する

 

「今なら七海先生のおかげで、フロストゾンビは来ない分、後ろを気にしなくていい。だが、」

 

ズドンとドンナーを撃つ。近付く氷の二足歩行の狼、フロストワーウルフを撃ち抜いた。それがゾロゾロと出てくる。当然、フロストイーグルもだ

 

「雑魚はそれでも多いな。…そいつらは俺が引き受ける。いってこい」

 

ハジメは声を張り上げて光輝達に言う。一瞬誰に言ったか分からなかった光輝達は呆けていたが、自分達に巨大な氷の亀…フロストタートルを任せると言ったのだと理解した。それと同じ時、

 

「……丁度いいですね。あの氷の亀は天之河君、君がやりなさい。他の方々は、彼に近付く雑魚をお願いします。私も手伝いましょう。今の君なら、アレに勝てるだけの実力はあるとは思いますが、危なくなったら言うように」

 

「っ!はい!」

 

余計な事は言わず、光輝は目の前相手に集中する。

 

聖剣を出し、魔力が湧き出る。

 

「よそ見をするなよ」

 

光の斬撃がフロストタートルの眼を斬り裂く。

 

「南雲が強いのは認めるが、目の前にいる敵を見ないなんて、舐めるのも大概にしろよ」

 

フロストタートルはこの場で最も危惧すべき相手をハジメと認識し、その双眸を彼に向けていた。それに対する静かな怒りが、光輝を熱くさせる。

 

フロストタートルは片目を頭部ごと斬り落とされた事で、ターゲットを光輝に変える。

 

「鈴!結界で俺とこの魔物が戦う場所を作れるか?」

 

「って、本当に1対1で戦うつもりなの⁉︎」

 

光輝の作戦に雫は驚いたような声を出す。七海が言うように、1人で倒せるのだとしても、援護ができる態勢にはしておきたいと考えていた彼女は、否定するように光輝に言う。

 

結界は足し引きだ。光輝の言うような結界を展開する場合、外部からの侵入を阻むタイプ。そうなるなら、援護に向かうのはもちろん、遠距離からの援護攻撃もできない。

 

加えて、フロストタートルの強さは雫の予測ではあるが、前回の大迷宮でいた人型ゴキブリよりは劣るが、それでもトレントもどきより強い。

 

「大丈夫だ。コイツくらい倒せないなら、どの道大迷宮は攻略なんて夢のまた夢だ。何より、デカい相手の戦い方は、散々習ってきた」

 

自分の後ろで観察しているであろう、七海にも言うように、光輝は告げた。

 

「〝聖絶〟〝形状変化〟」

 

鉄扇華(てっせんか)を使い、鈴はバトルフィールドとなる〝聖絶〟を複数展開。更に〝形状変化〟によって、展開した3つの結界を重ねて、3層の結界にする。それぞれを外部からの侵入を防ぐ通常の〝聖絶〟。内部からの脱出を妨げ、且つ内部での戦闘に耐える為の〝聖絶:縛〟その2つを合わせる為の言ってしまえば繋ぎの為の2つの結界の真ん中に展開した〝聖絶〟

 

これら、複数の別々の機能を持つ結界を合わせた事で起こるバグを空間魔法による結界の〝形状変化〟で安定、実現する

 

「〝聖絶:闘場〟」

 

トレイシーの領域からヒントを得た、結界による戦闘フィールドの形成である。

 

(ここで示せ。己の成長を)

 

元来なら、特級にも近いこの魔物相手に、光輝1人で戦うのは無茶振りに等しい。だが、周囲から出る他の魔物を雫や龍太郎が相手をし、万が一のハジメバックアップ。来た道を七海が塞いだことでフロストゾンビの介入を防いだことで、気持ちに落ち着きがある。そしてそれ以上に、光輝は思い、考える。『どうなりたい?』と

 

(できないなら、俺は)

 

地響きを鳴らし、フロストタートルは氷の息吹をたてる。妙に落ち着いたように、光輝は白い息をだす。

 

まだ誰も、七海ですら見抜けていない。

 

(できないなら、ここで死ね)

 

天之河光輝の、危うい変化を。

 




ちなみに。
ハジメの呪骸は性能はかなり良いですが、夜蛾程の物は作れません。教えて貰えばできるかも。メカ丸とは良い勝負かな?あと、意外とメカ丸とは仲良くなれそう。また、現在ハジメは呪骸の制作に意欲はありますが、納得出来るものができるまでお披露目はしないでいる。今回は七海の作戦がわかったので例外です

ちなみに2
黎明撃: 空間魔法によって作り上げた、小さな空間の内部に、限界突破で出力の上がった魔力、呪界到覇で出力の上がった呪力を流し込み、膨大なエネルギーをギリギリまでとどめ、いっきに解放させる。最大威力は石流よりも高いですが、チャージに少し時間をかける

名前の発案者はもちろんハジメ。…呪具の名を全てを漢字にしてるのはハジメ曰く、「呪いらしく感じる」とのこと
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