「できたぞ」
少しばかり集中モードになったハジメがブツブツと何かを呟いたと思っていたら、すぐに鈴に渡して来たので、龍太郎は勿論だが、光輝と雫も訝しんでいる。鈴も苦しそうな表情のまま、『え、終わり』みたいに見てる。所要時間が10秒ちょっとでは仕方がないだろうが。
「なんだおまえら、その眼は」
「いやだって、何かした今?手抜き?」
(((鈴ぅぅぅ久々ぁぁぁ!)))
3人共言いたいけど言えないでいた事をハッキリと言う鈴に、久々の戦慄をしていた。ハジメの額に怒りマークが浮かんでいる。
「まっ、君達がそう言いたくなる気持ちもわからなくもないですけどね。特に今のは」
「ですねぇ、ハジメさんが今の何してるのか、ちゃんとわかるの呪力が見える…だけじゃなくて、ある程度の知識のある呪術師じゃないとわかんないかもしれませんねぇ」
と七海とシアがフォローを入れてくる。そう聞いた光輝達はユエとティオ、香織の方を見ると、3人ともハジメが何をしたのかあまり理解できてないようだ。
「呪具の錬成は、これまでも何回か見て来た。でも今のは、魔力の反応もないから、正直なところ私も知識はあるけど何したのかは意味不明」
ユエの言う通り、そもそも呪具錬成は生成魔法で魔法やスキルを付与された物質を小分けにし、そこに呪力を注ぎ、さらに通常の錬成の際にも呪力を注ぐ事で呪具へ変換させるもの。故に錬成をしようするなら、呪力を見えない者であっても、錬成の際に発生する魔法で何かしらのアーティファクトか呪具を作っている事を把握できる。
だが今ハジメがしたことは、龍太郎からもらった呪具を握るだけで、錬成はせず別段何もしてないように見える。だが、呪力を見える者であるなら、ハジメが呪力を込めているのがわかる。ただ、それでも呪術的な知識がなくては、これもまた何をしてるかは理解できない。
「呪具錬成で1回呪具化したもんは、錬成や生成魔法を使わなくても、ある程度は機能の変換ができるんだよ。勿論呪具に付与されたものによるし、変換できるのは付与された魔法や技能じゃなくて、その性質だけどな」
「……ごめんなさい、もうちょっとわかりやすく説明してくれない?」
ハジメは雫の質問に面倒そうな顔をしているが、しかなさそうに答える。
「方法としては2つの事をしてる。まずは呪具に呪力を込めて、内蔵呪力をチャージさせる。次にこの際、呪力を込める行為をすると同時に製作者である俺が縛りを入れる。そして、付与された魔法もしくは技能に合う縛りの対価を入れ込む事で、呪具に付与された能力に広がりを与える。ようは、呪具に拡張術式を新たに付け加えてんだ。」
「「「「拡張術式?」」」」
光輝達が『なぁにそれ?』と言うような声で同じ言葉を言う。
「そういえば、それは説明してませんでしたね。拡張術式とは、自身の生得術式の解釈を広げて応用する事で、その術式のオリジナルの技として新たに生み出された物の事を指します。私が先程、ゾンビ達が向かって来るのを防ぐ為に使った技も、その拡張術式です。拡張術式の開発は、その術者自身の才能やセンスに大きく左右され、君達によりわかりやすく言うなればステータスプレートの技能や魔法にある派生のようなもんです」
「あと、他の奴が俺の呪具に呪力を入れても基本的にこれはできない。何故なら製作者が俺である以上、拡張させる前、製作の段階で事前に呪具にした縛りの関係で、呪術的な価値の判断の有無判断できないし、付与されている技能、魔法への干渉ができない」
「さっきブツブツと言っていたのは、縛りの内容ですね」
七海の問いにこくりとハジメは頷き、七海がそのまま説明を再開する。
「そして、呪具になった以上、呪術的なルールが発生している。それを逆手に取り、呪具に縛りという名の新たなルールを付け加える事で、能力の引き上げを行なっている。製作者は南雲君で、全ての呪具が彼の呪力を受けている。だから彼にしか呪具の拡張ができない」
「わかるような、わからんような」
ハジメ、シア、七海の説明を受けても尚、龍太郎はだけは少し混乱しているが雫はスルーしてハジメに問う。
「でも、そういうのはなんで今までしなかったの?」
「いや、何度かしてた。無意識だったり意識したりとな。だが、大幅に拡張させなかったのはどうしてもその際にそれなりにデカい縛りなり、無理難題な縛りが必要になってくるからだ。今回も、その呪具に以降呪力を再チャージしない縛りと、使用者を谷口のみに限定する縛りを追加したからな」
「って、それじゃこの大迷宮を攻略する前に効果が切れたら大変じゃないか!あの声がいつまで続くか…もしかしたら攻略中ずっとかもしれないのに」
光輝の言うことはもっともだ。が、ハジメは「心配するな」と言う
「だからそいつには縛りの対価としてほんの僅かな呪力で機能する事と、魂魄防衛修復機能をつけた」
チョーカー型呪具、
「南雲君、先程説明の中であった、基本的にというのは?」
「世の中どんなことがあるかわからないからな。五条悟なら六眼で調べて出来っかもって話」
要するに一応の解釈である。聞いた七海も、さすがにそれは無理だと思っている。ただ
(本来、拡張術式とは術師や呪霊の術式をもつ生得術式の応用。呪具につけられている呪力と術式を何かしら応用する例はあるにはあるが、そこから拡張術式へと広げるなど、異例ですけどね)
ハジメの呪具の再評価をしていた。
「さて、話を大迷宮の話題に戻すか。ティオ、シアも声が聞こえて来たんだな?」
ハジメは先程のティオとシアにきた囁き声の確認をすると、2人は頷く。
「俺が呪具の調整をしてる時、他に聞こえてたやつはいたか?」
その質問にはユエ、香織、七海、光輝、龍太郎、そしてハジメ自身も手をあげた
「って、南雲もか⁉︎」
「おう。『どこに帰るつもりだ』ってな」
「そんなノイズが入った状態で、よく出来たな。マジで失敗してねーのか?」
光輝と龍太郎の心配に「フンッ」とハジメは一蹴する。
「この程度なら、俺には呼吸するのに等しい。そんなことよりだ、これで声が聞こえてこなかった奴はもういないみたいだし、確認だ。全員、聞こえた来た声には、聞き覚えがある。そして、その声は女性なら女性。男性なら男性…違うか?」
ハジメの確認には、何か確信があった。事実、その確認通り、全員聞き覚えのある声で且つ、聞こえてくる声はその対象の性別と同じであった
「何か気付いたんですね?」
「ああ。この声、自分の声だ」
聞いた七海は、ハジメがそれを1回で理解した事になるほどと納得する。だが、ユエ含めてそれが何故わかるかという疑問を視線で問う。
「おまえら、囁き声に聞き覚えがあるって言ってたろ?普段聞く自分の声と、録音して客観的に聞いた自分の声は、意外と異なるんだ。俺の場合は、親父の手伝いでゲーム制作をしてた時、ボイステストで何度も声を聞く機会があったからな。だからすぐにわかったんだ」
ちなみに七海はその現場を家庭訪問の時に見ていたので、ハジメが自分の声にすぐ気付くのにも納得ができた。
「でも、だとすると、この声が言ってることって…」
香織が渋い表情をして呟くが、もう全員が気付いている。
「おおかた、自分の抱えている問題に関するものでしょうね。自覚があるものかないものかはわかりませんが」
「じゃろうな。目を背けたい記憶と感情、仕舞っておきたい気持ち。そういうものを強制的に浮かび上がらせてくる」
全員の中で冷静に考察できる大人2人がそう考察する。そしてそれは的を射ていたのだろう誰も否定しない。
「大迷宮、やっぱり嫌らしい」
「ですねぇ、この人の記憶と心に土足で踏み荒らされる感じ、反吐が出るです」
「多少ですが、呪力操作に影響が出る可能性がありますね。そして呪力がそうなら、魔力でもまた起こり得る。感情由来のエネルギーの呪力と魔力は違いますが、感情の揺れ幅で、使用する魔力を見誤るのはありえます」
ユエ、シア、七海も平常心を保とうとしているが、不快感を隠しきれず、表情に苦悶が出ていた。
(呪言と違い耳から脳にではなく、脳に直接送られてくるなら、防御はできない。仮に防御できても、大迷宮の制作に神代魔法が関わっているなら、今度は魂からくる可能性もある。地味に厄介ですね)
それ自体に殺傷性能が無いぶん、尚更だ。戦闘時にもこれが来るのはほぼ確実。頭に雑音が響く状態で、しかもその雑音が自分の心を抉る言葉を聞きながら、平常心で戦うのはかなり難しい。
呪具、魂合・改による魂の防御はできても、直接頭に入ってくるならこれでも防げない。仮に両方防げたとしても、それそれで大迷宮側からどう判断されるかも不明なぶん、完全に防ぐ行為にもリスクがある
「あの、南雲君達と、七海先生はあまり影響が無さそうなんですけどなにか対策でもあるんですか?」
「雫ちゃん、私はすごく影響受けてるよ?」
雫は香織の返答に、目が点になる。しかも香織はいい笑顔で言ってるから尚更だ。
「もうこう、なんていうか、嫉妬心がブワァって湧き上がる感じ。どこの吸血鬼とは言わないけど、1回くらいは思いっきり張っ倒したいなぁって思っちゃうよ。ほ〜んと、どこの吸血鬼と言わないけど」
「ふっふっふ、いい度胸だ香織、表に出ろ、相手になる」
香織もユエも「ウフフ」「アハハ」といい顔で笑ってるが、目が笑ってない。2人の背後には竜と般若が控えており、大迷宮とは別の寒さを感じる。
あまりにどストレートな感情の発露に、聞いた雫も光輝達も、戸惑っている。
「白崎さんは、この大迷宮と相性が良いかもしれませんね。己の不満、嫉妬、敵対心を思うがままに告げるれる人は、そうそういませんからね」
「まぁ、真っ向勝負じゃないと意味がないですから」
今も香織はオルクスでハジメを守れなかったことも、ユエというライバルにハジメの特別を独占されている事への嫉妬、落ち着けない実力差への不満が渦巻いている。が、そんなもの全て承知で香織はここに立っている。今更それを囁かれた所で、普段からそれを隠す事なく表にだす香織には、『だからどうした』としかならない。
「私も、嫌な気分にはなってますよ。でも、気にしてる場合じゃないですからね」
「この程度の囁きで揺らぐほど、甘い人生は送っておらんからな」
シアとティオも各々思う所はあるが、どれだけ考えた所で過去を変えることはできない。だったらこれからの未来の為にできることを考える方が有意義だからだ。そんな強靭なメンタルを持つ彼女達に、ハジメは自慢するように優しい笑みを浮かべる。
「じゃ、じゃあ、南雲はどうなんだ?」
光輝が聞くと、ハジメはあっけからんに「別に」と言い
「あんま気にしてないな」
「き、気にしてないって」
雫が言いたいことはわかる。ハジメに囁かれた内容、『どこに帰るつもりだ』。この言葉の内容は理解できる。
化け物と言われても納得できるような強さを得た人間に、居場所があるのか?人殺しが普通の生活ができるはずなどないだろう。そんな所だ。
「正直、耳の痛い言葉だとは思うさ。事実俺は、肉体精神共に普通の人間とは言い難い。日本人の…いや、下手すると地球の価値観からもかけ離れた。…だから、心の奥底では日本での元の生活に馴染めないんじゃないかって思っているのかもな」
ハジメの言う事は重い言葉であるはずなのに、口調が軽い為、どうにもそう感じない。気にしてないという言葉は強がりでもなんでもなく、ただ客観的に自己分析をした結果、気にしないという感情に行きついた。
「よくそれで済むな。なんで平然とできるんだ」
自分達と違う無表情なハジメに、光輝は本気で気になり、問い詰める。若干声が震えている。
「平然とっていうか、悩んでも仕方ないなって割り切ってるだけだ。実際に帰ってみないとどうなるか分からないから、とりあえず後回ししてる。問題の先送りには違いない。この考え方自体が、そもそも人間らしくないのかもしれないけど、それ含めても俺には今は『こうだ、こうする』って決めてる事がある」
それは、奈落に落ちてここまで来た、今のハジメの揺るぎない信念。
「故郷に帰って、ユエ達と日常を過ごす。素敵なものを沢山見せて、家族にも紹介する。その為に命を懸ける。自分の悩んでもどうにもならない不安なんて、考える暇はないそんだけだ」
「無茶苦茶だ……羨ましいよ、ほんとに。俺には、そんなふうに割り切れない」
「…光輝」
己の闇を見せる光輝に、雫はどう言えばわからずにいると、七海が補足するように言う。
「天之河君、君は君です。南雲君のようになる必要はないですし、彼自身の言うように、現代日本の価値観とはズレた感覚になっている。それは彼の受けてきた事によるものです。それをわかって南雲君は今を優先しているだけです。君の今抱いてる感情と、感覚も間違ってないです。割り切る必要はどこにもない。君に囁かれた事と、南雲君のことは、別問題として分けてください」
「……………」
何も言えず、わかったのか、わからなかったのかも周囲の者達には判断できないまま、ただ光輝は頷く。
(己の不満を口に出せるようになったぶん、以前よりはマシですが、やはり心配にはなりますね)
あくまでも七海の主観だが、光輝は南雲グループ含めた現メンバーの中では、3番か2番目にこの大迷宮との相性が悪い。
(そして、1番は)
七海その人物、雫をチラリと見る。凛とした佇まいもなく、心ここに在らずというようにな表情だが、ハジメから視線を外さない。
(直接私が言うのは間違ってますし、言った所でどうにもならない。もどかしいですね)
そう七海が思うほど、周囲は微妙な空気感が漂っていると、「そういえば」とシアが意図して場の雰囲気を変える為か、そうでないかは不明だが、いつものように天真爛漫に聞く
「ユエさんと七海さんはどうして大丈夫なんですか?特にユエさんの内容は…」
既に囁かれた内容は全員に共有している。その中でもユエのは、彼女を300年も封印した者達への裏切りに対する内容。あまりにも長い年月、何も思う事がないわけがない。だからこそ、囁いてきたのだろう。
「正直、昔のことよりも、また裏切られるぞってことを言いたいんだと思う。ハジメやシアに、みたいな…正直昔の事は、切り捨てたと思ってたんだけど…実際はそうでもないのかも」
(そんなこと思ってたんですか)
しかし七海はユエの気持ちがわからないということはない。どんなに信頼して、尊敬している人でも、その人の心情も本心も常にわかるのは本人しかなく、他者から見たその人はまるで違うかもしれない。
ユエが信頼していた家臣や家族もそうだ。そして信じる想いが強いほど、裏切られた時の絶望も強い。そしてその絶望はトラウマとなり、残り続ける。
ハジメの出会いである程度はユエにも信頼する心を取り戻せてはいるが、あくまでもある程度だ。
シアは持ち前の裏表のない明るさとストレートな好意の感情をぶつけて、ティオはユエよりも長い時間を生きた者としてのゆとりを持ち、嫌われることを恐れず相手に踏み込む度胸があり、香織はシアとは違った、ストレートなライバル心を向けて、事実少しずつ追いついて来る存在として。
そして七海はどんな相手のどんな過去も現在も俯瞰的に観て、常にその心情に寄り添い、時に導くように、正しく諭すように接する。踏み込みすぎず、距離をおくこともせず、されども深入りせず、傍観もしない。適切な距離感を常にとる姿勢は、ユエとってもありがたく感じる。
このように、ユエが信頼を得る人物とはユエが嫌う事を恐れず踏み込むガッツを持つ者か、適切な距離で時間をかけて疑心の糸を解いていく者になってくる。だが後者の場合は、ユエの第一印象が終わっていればその時の印象が固定化されて、以降は無意味になる。そういう意味でいうなら、七海は運が良かったのかもしれない。
「まぁ、自覚は割とできる。奈落をでたばかりの頃は、ハジメ以外の全人類滅べって思ってた」
「あ、俺も俺も。おんなじこと少し思ってた。ユエさえいれば良いし、トータスの全人類滅ぼしてでも家に帰るぞ〜って」
ユエの衝撃発言に呼応するように続けてハジメが言い、光輝達だけでなく、ハジメグループの面々も驚愕の声を出していた。
「あ、そういえばティオさんに関しても、あの場でユエさんが止めなかったら、確実に殺してたでしょうね」
ティオと初めて話した時の事を思い出しつつ、七海は冷静に言う。
「いやあの時も、それなりに俺は丸くなってたって」
「「えー」」
シアとティオは『本当か』とでも言うような目をし、ハジメの額に青筋が入るが、仕方ないことである。
「てかちょっと待ってください。その考えで言うなら、私と初めて出会った時もお2人はそう思ってたってことですかぁ⁉︎」
シアの問いに、ハジメとユエは顔を見合わせて、一拍置いてから
「「うん」」
「ちょぉぉ⁉︎」
「出会った時はあんなウザかったのにな」
「ん。よくハジメも私も殺さなかったと思う」
ハジメとユエは慈愛の眼差しでシアを見て、声を揃えて言う。
「「シア、運がよかった[な]」」
「あぁぁ!もう!この似た者カップルめっ!ですぅ‼︎」
3人の掛け合い香織は苦笑し、七海は『やれやれ』と言わんばりに呆れている。
「あ、でも、ハジメはその時でも多分七海は除外してたと思う」
「っておいユエ⁉︎」
「そうなんですか?」
特に思うことはないが、七海は不思議そうに聞く。
「ん。ハジメ自身が気付いてたかは知らないけど、奈落に落ちてきて私に会うまでの過程を話す中で、名前は出してないけど間違いなく七海のことをよく話してたし、あの時のハジメでもまだ好印象があった。だから仮に私に会わなかったとしても、トータスの人類全て根絶やしにって考えは、持たなかったと思う」
「ちょ、だからユエ!」
「今更隠す必要あるの?シアもティオも香織も、もうわかってる」
ハジメは「うぐっ」と声を詰まらせる。当の七海は無表情。『ふーん』という感じだ。
「男が男に信頼置いて、それを言葉に出すとか、恥ずかしいだろ!」
「「なんかわかる」」
聞いていた光輝と龍太郎が腕組みをし、頷いて同意する。七海は少しだけ理解してるところがあるのか、なにも言わないが同意するようのも見える素振りをしている。
「てか、それよりも!仮にでも会わなかったらなんて言うなよ。寂しくなんだろ」
「ハジメ…うん、ごめんね。そんなことはありえない。ハジメが私を裏切るのと同じくらい。…でも、仮に裏切られても関係ない。ハジメの気持ちに関係なく、私がハジメを逃さないから」
チロっと唇から小さな舌を出して小悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。全員がその魅力に釘付けになるほどの妖艶な仕草と吐息、『逃さない』と視線、動作、言葉の全てに詰まっている。そんなユエに、ハジメの理性が耐えれるはずもないが、ここは皆がいる大迷宮。
「させませんですぅ!」
シアがハジメの箍が外れる前に、羽交締めし、ティオと香織がユエを求める野獣になろうとするハジメ止める。
(私が動く必要なかったですね)
さすがにこの場での不純異性交遊は止めようとしていたが、七海よりも早く動く彼女達を見ると、『色々と自分も慣れてきたな』と思わずにはいられない。
「で、それで、ですぅ!」
どうにか暴走前のハジメを止めたシアが、今度は間違いなく、意図して雰囲気を変える為に聞く。
「ユエさんの方はわかりました…色々とツッコミたいですけど、わかりました。で、七海さんの方はどうなんですか?まだ囁かれた内容の意味はわからないんですか?」
「いえ、わかりますよ。おおかた、現状の私のスタンスについてでしょうね。…ちょっとした進路相談のようで、それを今の私に言われるのは正直ウザいです」
この時、全員の想いが一致した『七海[先生][さん]でもウザいって言葉使うんだ』と
「んで、進路相談って?」
ハジメが聞くと、七海は「まぁいいでしょう」と一言だけ呟く。
「現状、私は呪術師であり、君達の教師ということでもありますが、その状態をいつまで続けるのかというものです」
「そんなことに悩んでんの?」
ハジメは心底つまらなそうにして言う
「悩んでいると言うべきなんでしょうか…実際の所、私の答えは決まってるんですけどね」
七海は『もう良いか』とばかりに告げる
「皆さんにも言っておきますが、この先私はどのような事になって、君達の世界に戻る事になっても、教師をやめるつもりです」
七海にとってそれは、さしてどうでも良いことだった。ハジメを除いた地球組達とはともかく、ハジメもユエ達も「へー」とでも言うだろうと思ってたこと
「は?」
ハジメには驚愕が強かった。
「この世界、トータスに来る前は僅かに思う程度でしたが、この世界に来て畑山先生と彼女を慕う生徒達を見て、確信しました。私は、教師に向いてない」
七海は『教職もクソかもしれない』と思っていた。だが、完全にそう思うことはなかったし、やり甲斐を感じる瞬間があったのも事実だ。だが、それでもハジメ達の地球にいた時から感じていた。
それは、七海の心に空いた、ほんの小さな穴。無視しているつもりだった…否、ずっと無視できてなかった。だがきっとトータスに来なければ、いずれ別の何かが時間をかけて埋めていく筈だったかもしれない穴。それが、この世界の来て、浮き彫りになった。
「結局、私はどこまでいっても呪術師なのだと、理解したんです。……この先、善悪問わず呪術師がこのトータスで現れる。呪術師が現れるなら、当然ながら呪霊も。それはおそらく君達の世界でもでしょう。速さで言うなら、トータスの方でしょうけど。ともかく、その対処もしなければなりませんし、南雲君との縛りもあるので、色々と君達の世界でやる事も多いでしょうし、総合的に見ても、後続の呪術師の指導員くらいはしても、教師はもう無理です」
ツラツラと語る七海の言葉は、その通りとしか言えないものだった。ユエ達も光輝達も驚き、どこか悲しげな表情をするも、納得せざるを得ない言葉だった。
「………んだよ、それ」
「南雲君、わかってほしいとは言いませんが」
「先生、命令だ。今すぐその言葉を」
「ダメ」
ハジメが言いきる前に、ユエが止める。
「ハジメ、今なにを言おうとしたの?」
「!」
「気持ちはわかるけど、それはダメ」
ユエに諭され、ハジメは七海に謝罪した。
「いえ、そこまで想ってもらえてるとは、考えてませんでした」
「随分前から思ってましたけど、七海さんって、実は自己評価が低いんですか?」
「そういうわけでは無いです。言ったでしょう?事実に基づき、己を律する。それが私だと。それに、教師を辞めても、君達と2度と会えなくなるわけでも無いので、少々軽く考えてた部分もあります。ただ、その事を突き付けてくるということは、私がわかってないだけで、心の奥底ではまだ悩んでいる部分があるのでしょう。それも含めて、ウザったいですよ、まったく」
聞いたシアはばつが悪いような表情になる。
「1つ聞いていい?愛子にその事は伝えている?」
「まさか。そんなことを今の彼女に言えば、自分のせいで私が教師を辞めると思うでしょう。たとえ私がそれが違うと言っても、ね」
「ん。そうだと思った」
ユエはユエで、この場にいない愛子の心配をしたが、杞憂だった。
そして、今七海が言ったことは真実だ。ただ、全てを話してないだけ。
自身の心の小さな穴。今は
【嬉しかったんでしょう?】
【もう、気付いてるんでしょう?】
【自分の存在と、存在意義を、なぜ否定するんです?】
ちなみに
呪術廻戦の呪具の製作やそこに縛りをつけるなどについては原作で言うほど触れてない。(強いて言うなら浴で呪具化するのと死後呪具化した七海の大鉈くらい)なので、ハジメの呪具製作の際の呪具の途中改造と縛りをつけての呪具の拡張化方はハジメにしかできないということにしました。
ちなみに2
七海の今後を語る所でハジメはああ言うかなぁと悩みました。「光輝のほうがよかったか?でもそれだとなぁ」てな感じです。最終的に、原作のハジメと違い、性格面は(多少)良くなっていると判断し、ああしました。
ここでちょいとネタバレ。
呪術師への試練は2回あります。1回目2回目共に無理ゲーです…2回目の方が楽……かな?