でもなぁ〜書いてる人が特級呪霊並みにエグいの書いてくるからなぁ〜(褒め言葉)
七海が提示した訓練開始から1ヶ月半。この日ついに全員が薪を100本切る事に成功した。
「やった、やったぞぉ‼︎」
雫に言われて己の魔力の使用感覚を、薪を斬る度に変え、あの時の感じを思い出しながら斬り、時間は掛かったが光輝は遂に辿り着いた。
「へっ、やっぱおまえならできると思ってたぜ親友‼︎」
それと少し遅れて龍太郎もクリアした。結局彼は魔力の視認も感知もできなかったが、勘でたどり着いた。勘とはいえ、意識はしているのが功を奏したのだろう。
「エリリンもおめでとう‼︎」
「ありがとう鈴。ごめんね、待たせちゃって」
恵里は始まった当初はいいペースだったが、光輝がスランプになったとほぼ同時期にスランプになり、記録が伸び悩んでいたが、ついに達成した。
これで全員が達成した。………してしまった。当初七海はそれなりの期間を必要とすると思っていた。だが彼らの成長スピードは予想以上に速い。
10人中8人が魔力感知を取得(最初から持っていた光輝は除く)。さらに10人中7人が〔+視認〕修得。更に内4人がそれに(上)というものが付けられている。
(心配な人が2人…いや3人。レベルも上がり実力も上がっている……さて、どうしましょうか)
七海的には諦めて欲しい方だが香織の思いも理解できる。複雑な気持ちであった。
「1回できたからよしと思わず、続けてください。それに、未だに私には勝てていないのですから」
ムッとした表情に光輝はなるが、もう言葉より実力で示そうと思い武器を構える。
「では始めましょう。今日からは5分としましょう」
2日前どうにかギリギリで3分をクリアできた。だが本当にギリギリだ。最終的に残っていたのは光輝のみ。その光輝も香織がやられる直前に魔力を回復してもらい、雫の指示で回避と防御に専念したからだが、あと10秒ほどあればやられていただろう。
「いつも通り、合図と共に始めます」
*
「ゼァ‼︎」
「はぁぁぁぁ‼︎」
光輝と雫が連携して斬りかかる。雫は基本的に陽動しつつ攻撃する。そこにできた隙を見つけて光輝が、もしくは直接雫が攻撃するが、できる隙はほんの一瞬でしかも罠の隙もあり攻め切れない。実際龍太郎はその罠の隙にやられ今回最初に脱落した。
「雫ちゃん、光輝くん下がって!」
「ここに焼撃を望む〝火球〟‼︎」
香織の指示で2人が下がった瞬間、魔法が放たれる。
「!」
驚きはしたがすぐに七海は回避した
恵里が放った魔法は弱いものではあるが牽制にはなり、七海を引かせる事に成功した。上位の魔法を使う事もできたがこの後のことも考え温存する作戦だ。
「光の恩寵よ、戒めをここに〝封縛〟!」
香織は光魔法による檻に七海を閉じ込めた。七海は彼女を含めて生徒達が魔法の詠唱の簡略化をしている事を評価していた。特に恵里、香織、鈴、辻はそれぞれ自分達に合った使用をしている。
「私が回復をするから」
「オッケー!防御は私がするから‼︎」
辻は治療師として香織に劣るので基本攻撃せず、回復のみに徹底している。その分守りが手薄になるのはわかるので、彼女は必死に回避力を身につけ、回避しながら安定して魔力を使えるように心掛けて、香織よりも早く〔+視認(上)〕を習得した。……まぁ、すぐに香織も手にしていたが。
防御を任すように告げた鈴は、詠唱を開始した。
「墓所を清め聖域なりて神敵を通さず!名付けて〝聖絶:縛〟!」
鈴の方は以前七海から結界の指導を受けた。
*
『谷口さん、結界の基本は足し引きです』
呪術と魔法の関係はかなり似ている。故に七海は結界の関係も同じと判断した。
『足し引き?』
『まず、〝聖絶〟について君はどう習いました?』
『えぇと1回だけならどんな攻撃でも防ぐもので、持続は1分。詠唱を短縮しても発動はできるけど、防御力は下がる…でしたっけ?』
『私からすれば、それは大きな間違いだと思います』
結界師である鈴には理解できない事を、『この人は理解できているのか?』と疑問が出るが、それも以前言っていた使う事と理解する事は違う、ということだろうと思えるようになった。
『魔力の流れを見て思ったのですが、一度発動した結界を発動した時点で手放している、もしくはただ発動しているだけで維持に力を入れていない。それどころか足し引きを理解できてない』
『うーん、よくわかりません』
足し引きの意味がわからない鈴は頭が混乱する。
『詠唱を短くすると素早く展開できる、ただし結界の防御が下がる。これも足し引きですよ』
鈴は七海にそう言われて「あぁ」と少し納得する。でもそうすると、
『それ以外で足し引きをする方法があるんでしょうか?』
『…防御を展開する際、相手側だけでなく自身側の耐性も同じ程度になっている。そうなると、術としての強度も維持も取りにくい。しかもそれでは強い相手にはすぐに破られる。…もちろんレベルが上がっていけば問題ないですが、強い敵と相手する際に問題が発生しやすくなる』
『つまり…防御するのは片方のみに集中するって事ですよね?』
『それもありますがあなたは結界師だ。守るだけが結界ではないということ、そこに先程言った足し引きを意識してください』
*
結果、七海の考えは当たり、それにより作られた彼女のオリジナル〝聖絶:縛〟は最強の防御を自分達に使うのでなく、相手を閉じ込めることに特化した結界になった。以前までの結界の割り振りが5:5なら今は9:1ほど。あえて10:0にしない事で1の部分から自身の魔力を流して供給し続けて維持する事ができる。
(まだ未完成だけど、これならそう簡単には抜けられない)
これプラス内部に魔法を発生させる案が鈴にあるが、まだそこまではできない。だが〔+視認〕のおかげで自身の魔力を見て結界への魔力供給ができ、さらに彼女のみに備わった新たな技能〔+魔力効率上昇〕でムダなロスが少なくて済んでいる。生徒の中で今1番魔力を安定的に使えるのは鈴だろう。
「フム…シッ」
だが、七海はあっさり香織の檻を破って、次に結界を殴った。数撃でヒビが入る。
「ウソん⁉︎みんなまだぁ⁉︎」
未完成とはいえ、あっさりと破られそうになって鈴は焦りだす。
いずれは動きながらできる方法も見つけるつもりだが、今の鈴では結界の維持の足し引きとしてその場から動けない。意識を集中させて結界を修復、維持をするのももう限界だ。とここで残りの後方組と光輝の詠唱が終わり、上位の魔法が一斉に発動した。
「やったか」
「あ、そのセリフ…」
光輝の言った言葉に鈴がツッコミを入れる前に、爆煙の中から七海が無傷で出てきた。「ひっ!」と鈴や辻は後退りしてしまう。だが近付いて来る七海に、恵里が再び詠唱した。
「のみ込め紅き母よ〝炎狼〟」
恵里の炎の津波が壁となる。攻撃と防御、そして牽制だ。この程度で七海は止まらない。大鉈で振り払い、突っ込んできたが、
「〝風槌〟!」
「⁉︎」
まさかの無詠唱に七海は流石に反応が出来きれず、風の魔法に飛ばされた。
恵里は本来自身ができるはずの降霊術ができない。故に役に立つよう徹底的に魔法の簡略化を目指した。そして今回それを見せる判断をした。
(無詠唱…彼女は最初弱い魔法も詠唱していたが、ブラフでしたか)
なかなか強かで狡猾だと恵里への評価を変えていると…七海はゾクリと悪寒を感じその場をバッと離れた。
「クソっ」
「良い動きですね遠藤君。しかし」
回避と同時に手を軸にしてグルンと回転蹴りで着地した遠藤を倒す。
「まだ、焦りがある。それと戸惑い…寸止めができるのかというね」
怪我をさせてしまったら、という遠藤の一瞬の戸惑いが彼の気配を露見させた。
「やるならちゃんとできるようになってからにしてくださ…」
瞬間、七海が香織の光魔法による拘束をされた。さらに彼女はそこに幾つもの捕縛系の魔法を加える。
(短期間で幾つもの魔法の詠唱を簡略、無詠唱化し、尚且つそれを同時に……前の模擬戦時にはここまでできてなかった、つまり先日の休みに自己研鑽をしたのでしょうが、ただ本を読んだり魔力を扱いをよくしようとするだけではこうはならない……これは、まさか彼女はまた)
七海の考えた通り、彼女は七海の目を盗んで勝手に城外の魔物と戦っていた。雫が助けに来ていなければ危ない面があり、以降はしないつもりだが、その時感じた危機を回避する為のイメージは今もある。そして彼女の魔力を使用する才能は他の人とは桁外れだ。鈴と違い〔+魔力効率上昇〕は持っていない。だが彼女は〔+視認(上)〕によって流れを読み解き、効率的な魔法の使用を心がける事ができる。その際、使う魔力を決めたら分割し、それに合った魔法の同時使用を可能にした。治癒師の彼女がここまでできるなどこの世界の常識を覆している。
「〝天翔剣〟‼︎」
光輝の詠唱を終えた一撃が七海に迫る。拘束し、動けない、これならいけると決めにかかる。だが、
「へ、っがぁ⁉︎」
七海は光輝が拘束しきれていなかった手で彼の腕を持ち、力技で投げ飛ばした。
「……今のは君のミスですね。万が一を考え近距離で、同時に聖剣での攻撃をしようとしたようですが」
とはいうが、実は今の攻撃を受けても、呪力で強化している今の七海にはあまりダメージは入る事はなかったが。
(残りは後衛組5人と前衛1人の計6人。内3人…辻さん、中村さん、野村君はもう限界、残り時間は1分と少しといったところでしょうね)
七海はバキリと力尽くで拘束を解いて状況を確認した。
言うまでもなく七海は手加減はしている。してはいるが、時間以内に勝負を決めるつもりでいる。戦況と位置関係、相対している生徒達の能力を瞬時に計算し、攻勢に動く。まず最初に最後の前衛である雫に狙いをつけた。
「‼︎」
雫は高い俊敏を駆使してどうにか攻撃を避けるが、それが罠だとすぐに気づく。雫が避けるようにわかりやすい攻撃をした七海は、動きを読んで思い切り振りかぶる。雫は無理に跳躍して避けたが、それでは次の攻撃は避けきれない。
「刹那の嵐よ見えざる盾よ荒れ狂え吹き抜けろ渦巻いて全てを阻め」
噛まないのかと言いたくなるほどの早口で詠唱をする鈴。瞬間、七海は気づくが振りかざした手はもう止まらない。目の前になにもないのに何かに触れた感触を感じ、それが爆ぜる。
〝爆嵐壁〟: 対象の目の前に巨大な空気の壁を展開させる。空気の壁の為認識するには魔力視認能力が必要だが、この術の真骨頂は攻撃された時に起こる。強い衝撃を受けると展開した空気の壁がたわみそれが限界に達すると爆発が巻き起こる。
これは鈴にとってもできるかどうかは賭けだった。まず魔力を使おうとすれば大抵七海に気づかれる。詠唱しようとすればなお警戒される。だから雫に意識が向いたときの瞬間を見て日々練習した詠唱の簡略化と早口で実行した。これならと思うが、
「今のは流石に驚きましたよ。成長していますね」
(あぁ、だよねー)
もうわかっているというか、諦めというか、そんな表情で鈴はほぼノーダメージの七海を見る。さすがに直撃はまずいと七海は感じ、空気の壁に攻撃した瞬間、その壁を軸にぐっと力を入れて、後方に下がった。爆風は受けたが、呪力による身体強化で最小限のダメージで済んだ。
「香織、あとどれくらいで準備できる?」
「もうちょっと。流石に無詠唱はむずかしいし、他人からだから尚更」
「なら、もう少し頑張るしかないか……残り時間的にもこれが最後ね」
七海はとんとんと軽くジャンプしている。そして脚に呪力を込めた。
「しまっ…⁉︎」
急に攻めてきた七海に対して、雫は咄嗟に防御の構えをしたが、七海はそれをスルーして後衛組の方へ向かい、瞬時に鈴をぽーんと押して線の外に飛ばして彼女を脱落させる。
(残り、およそ30秒)
それだけあればと思い、残りの後衛を倒そうとしたが、彼女達の前に結界が張られていた。鈴が自身の防御をせず、脱落の瞬間に展開したものだ。咄嗟に作ったので構成は雑且つ、強度も低いが、1度は防御ができる。
(最後の瞬間に弱いが結界を……しかしこの程度)
瞬時に破ったが次は地面が爆ぜ、土埃が起こり視界が遮られる。
(これは、野村君の…だが、彼の魔力はほぼ限界なのに、何故これほどの魔力が)
土術師の彼は土系の魔法に高い適性があり、今のように地面を爆ぜさせたり、土埃を操作してカーテンのように視界を遮ったりする事もできる。〔+視認〕は持っていなかったが取得寸前の為か、集中すればきちんと見ることができていた。
だが彼は男だ。しかも好意のある女性の辻が後ろにいる。やる気と守りたい思いが彼を覚醒させ〔+視認〕を習得させる事に成功し、彼はあえて土埃に多大な魔力を込めた。これにより視覚だけでなく〔+視認〕を騙くらかすつもりだ。だが、七海のそれは(極)、極めている。すぐに見破るが既に香織の詠唱も他の者達の詠唱も終わり、準備万端だった。
「〝廻聖〟‼︎ 〝譲天〟‼︎」
〝廻聖〟は一定範囲内にいる者の魔力を他の者に譲渡する事が出来る。さらに自分が譲渡するだけでなく、他の者から強制的に 魔力を抜いて譲渡する事も可能。しかしその場合は詠唱に時間がかかり、抜き取る魔力の量もあまり多くは出来ない……本来なら。だが彼女は〔+視認(上)〕を得て自信の魔力の流れ、さらには相手の流れを読みとることができ、理解した。対象が魔力の譲渡を承諾した際なら、手を繋ぐなど身体に触れる事で擬似的な流れの道を作り出すことが可能だと。そうする事で多くの魔力を抜く事もできる。
(けど、やっぱり無理がある)
だがこれにはまず譲り受ける対象にも〔視認(上)〕が必要である。結局は他人の体に流れる魔力なのだから協力して魔力の流れを1から作らなければならない。しかも時間がかかるのは変わらない。いうなればこれは自分でない誰かに託す最後の手段。時間稼ぎとして残った魔力の一部を野村に送り、彼も意図を理解して時間稼ぎの為残り魔力全てを使った。そして皆が時間稼ぎをするその隙に〔+視認(上)〕を持つ香織、辻、恵里の3人で魔力の流れを作り、残る全魔力を香織が受け取り、〝譲天〟で対象の魔力を回復させる。その対象はもちろん、この場で唯一七海と接近戦のできる雫だ。
「あと、お願い、雫ちゃん」
残り10秒。雫はコクリと頷き構える。受け取った魔力を使い最後の攻撃をするつもりだ。
(後の皆さんは魔力的に戦闘不能。残り時間を考えてこれが最後ですね)
残り8秒。七海が雫を無視して鈴に向かったのは、実は彼女も計算してはいたが上手くいってよかったと思う。援護に入ろうと思えば入れたが彼女は皆を信じる選択をした。その時間全てを集中に使い、今解き放つ。
(居合ですね)
残り5秒。何をするのかなど読まれているのを前提で、溜め込んだ力と魔力による身体強化をし、更に高い敏捷を活かし、地を蹴る。
「!」
残り4秒。七海がここでとるのは防御、回避、カウンターのいずれかだ。そして選んだのは、
「シッ」
攻撃…と見せかけた防御。ガキンと金属音が聞こえた。七海の防御を破り、大鉈を持った手が上がり、胴ががら空きになる。そこに追撃をする……前に時計の音が響く。だが振った攻撃は止まる事はない。それどころか寸止めをするつもりだったが音でその意識が一瞬消えてしまう。
(マズ…え)
だが打ち上げた腕とは逆の手で掴まれブンと投げられた。
「つつぅ」
雫はゴロンと転がり衝撃を殺したが、ダメージはあった。鳴り響く時計の音を止めて、七海は言う
「5分…ギリギリクリアですね」
(さっきの隙、それにこの感じ)
雫は気付いた。それはあまりにも衝撃的なものだが。
*
「今回、今までで1番いい感じだったね」
「俺は不満だなぁ、最初にやられたし」
「あれは龍太郎君が見え見えの罠に引っかかってんのが悪い」
鈴の言葉に文句が言えず龍太郎は「ぐぬぅ」と声をもらす。
「最後のうまくいってよかったね」
「2人のおかげだよ。辻さんありがとう。私の代わりに回復役をしてくれたおかげで、攻撃と防御に集中できたよ」
「あ…ありがとう。私は白崎さんより回復が劣るからそれだけを集中して訓練してたから逆に防御とかできなくて…」
「そのおかげでだいぶ回復魔法に磨きがかかって回復速度が上がってるんだから」
辻はいまだに香織との差にコンプレックスはあるが、戦闘時はそれを感じないようにはなってきていた。
「やっぱり!俺も〔+視認〕ゲットだ‼︎」
「あーいいなぁ。私今回七海先生に最初に狙われたから、あんま活躍できなかったし」
「坂上が守った間にすぐに皆に色々付与してくれたじゃん。あれ助かったぜ」
「そ、そう?」
実際彼女、吉野真央が付与魔法で皆を強化してなければもっと早く負けていた。彼女も七海の指示で詠唱の簡略化と早口、さらに〔+視認〕で己の魔力の流れを見てどうすれば付与を効率よくできるか考え、訓練時以外で実験で自身に何度か行い、効果的な付与魔法を使うのを心掛けてきた。皆の縁の下の力持ち的なポジションだ。
「おーい、遠藤大丈夫か?」
「大丈夫。それより放置しないでくれてありがとう」
数日前なら気付かず放置なんてことが度々あり、その都度七海が声をかけて気付く感じだったが〔+視認(上)〕のおかげで集中すればどうにか見えるようになった。…そう、どうにか。(上)でもかなりの集中がいる。今回気付けたのも、雫が終わってからまだ集中状態が残っていた時に見つけて、永山に指示をしたからだ。
「今日の訓練はこれで終了です。怪我をした方は回復魔法または治療を受けてから休んでください」
それではと七海が踵を返そうとすると、光輝が呼び止める。
「七海先生‼︎もういいでしょう‼︎そろそろ迷宮へ行っても‼︎」
「理由をお聞きしてもいいですか?」
「薪割り訓練は第2段階として100本できた人は制限時間まで続けるものに変わり、それで魔力を消費した状態で七海先生と訓練してここまで戦えるようになった。全開の状態なら勝ってた……もう充分でしょ‼︎」
「…確かに、君達は強くなった。正直言いますが私の考えよりも早く。これなら最低30…いや40階層までは余裕だと思っています」
「なら」
「そのうえで君を含めて全員にお聞きします。白崎さんと八重樫さんには言いましたがこの先、本来なら訓練の慣らしの為に20階層まで行くつもりでしたが、それより先に行くかどうか、皆さんで決めます。行くなら手を挙げてください」
瞬間、ビッと11人中10人が挙げた。そう10人。雫を除いて。
「雫どうして⁉︎」
「雫ちゃん?」
光輝はまた手を挙げない彼女に驚き、声を上げる。香織は彼女がなにか考えがあり、そうしているのがわかり彼女に問う。
雫はその問いに答えず、七海に聞く。
「……先生、正直に言ってください。今まで、この訓練の時も含めて、一度でも本気になった事はありますか?」
「訓練ですから手は抜きますよ」
「「「「「え⁉︎」」」」」
数名が驚く。正直先程の訓練は本気でかかってきていると思っていた者もいたようだ。
「なら、どれくらいの割合の力をだしてました?」
「……だいたい2から3割というところですね」
「「「「「「「「「⁉︎」」」」」」」」」
雫以外全員が驚く。手加減されていると思っていた者も、まさかそこまでとは思っていなかったのだ。
「一応ベヒモスの時は一瞬本気になっていましたが、あれは皆さんを早く助ける為でもあったので、本来なら別に本気を出さずとも勝てていたでしょうね」
自分達がどうにもならなかった相手すら、この人にとっては本気になる必要もない。それがどれほど凄まじいのかなど考えるまでもない。ちなみに皆は知らない事だが七海の言う2から3割というのは抑えている呪力量と出している力量を踏まえてのものだ。この世界に来て呪力と膂力が上がった七海は、以前なら2割から1割抑えていた呪力を現在は5割ほど落としている。それでも充分、以前の時間外労働前と同等の出力が出せる。
「先生、今の私や光輝、龍太郎にベヒモスは倒せますか?」
「………正直言って難しいですね。できない事はないかもしれませんが」
七海的に前衛の3人の等級は光輝が準1級弱、雫と龍太郎は2級強と言ったところ。もちろん等級は呪霊と呪術師の強さの割り振りと同じく4級は4級の魔物に勝てて当たり前で、2級は1級の魔物に近い実力として割り振っている。だが、それでも2級と準1級では力の差はある。さらに光輝は準1級に当てているが戦闘時におけるツメの甘さ、戦闘経験の浅さ、攻撃が真っ直ぐすぎる、いまだ対人との戦闘の際に見える、踏み出せてない部分と戦争を理解しきれていない部分。これらを考えると光輝は対人戦では2級程と七海は考えている。そして、雫が言わなければ七海は自分から今まで出してきた自分の実力を言うつもりであった。
「さて、再び聞きましょう。…20階層より先に行くかどうか」
そして手を挙げたのは4人。光輝、龍太郎、永山、そして香織だ。
光輝は正直どうしてこんな事をするのかと怒りがあるが、他の3人はだろうなという思いだ。今の七海の言葉を聞くとなおのこと。悔しい思いは当然あるが。
「多数決で決めるなら拒否ですが、皆さんは行きたくないというより悩んでいると言ったところですね。……もうぶっちゃけると、私は皆さんが諦めてくれたらいいと思ってます」
「なっ⁉︎つまり、元から俺たちを強くする気はなかったんですね‼︎」
「それは違いますよ。というか、今君は強くなってないと思ってるんですか?」
「それは結果論でしょ‼︎」
はぁ、とついに七海はため息が出た。
「さっきの続きですが、君達には強くなってほしい気持ちはあります。私がいなくなっても生きるだけの実力はね。だからその時までわざわざ危険をおかす必要はない。しかし、君達は白崎さんの言葉を聞きここにいるのも事実です。先ほど言いましたが40階層は余裕でしょう。それぞれの気持ちに正直にし、命を考え行動してください」
そうして七海は立ち去ろうとするが、
「わ、私は行きます‼︎」
恵里が大きな声で言い、止まる。
「ここで止まってたら先に進めませんし、残った意味もなくなります。だから、私は行きます‼︎」
今までも彼女は物静かだがここぞという時はハッキリ自分の意志を言う方だ。それに勇気をもらった者も多い。
「エリリンと同じく私もです。私は皆で笑顔でいてほしい。守るために、私の力はある。何もしないで守る事なんてできない。だから、行かせてください‼︎」
鈴もハッキリとした声で己の覚悟を示す。そうして手を挙げていない者もそれぞれの思いを胸に行きたいと語る。
「……八重樫さん、あなたはどうなんですか」
雫はそれでも挙げていない。光輝が何か言おうとするが香織が止める。
「雫ちゃん、私のわがままに付き合ってくれなくてもいいんだよ。雫ちゃんの言う事は正しい。けど、私は…早く行きたい。時間がかかるほど思っちゃうから…もうだめだって。だから…」
香織がその先を言う前に雫は手を握る。そしてもう片方の手を挙げる。
「大丈夫よ。無理はしてないし、これは私の意志よ」
安心させる為に香織に言うが、本心でもあると、香織も長年の付き合い故にわかる。
「これで全員ですよ七海先生‼︎」
鬼の首を取ったように光輝は告げる。七海はため息をまた出して、
「いいでしょう。ただし、今日は休んでください。出立は明後日とします。決して無理をしない事、いいですね」
光輝はついに認めたと心の底から喜ぶ。当然、七海は認めてないし、心境としては複雑だが。
ちなみに
『七海がいることで原作以上に苦労or酷い目に遭う人リストfile1:谷口鈴』
もう気付いた人がいると思いますが七海の修業で1番成長したのは鈴。彼女は独学で未完成ながらいくつもの防御、結界魔法を作りました。でも訓練のたびに七海に突破されます。そしてそのせいでかなり後々すげー苦労することに
鈴「え?」